幼女、急展開に困惑す
アグラダは屋敷へと走って行った…つまり村人より息子を選んだという事だ。まあそうだろうなぁ…
「えっと…どうなったんです?」
「別に…アグラダは親として息子を選んだ、それだけの事よ」
今のやりとりで領主としての信頼は地に落ちたな…止めをさしたのは私な気もするが、元々暴動が起こる寸前だったし
騒ぎの元凶となった子供を見る。憎々しげにアグラダが去った屋敷を見ていた。他の村人達も同様、何だか今にも屋敷に攻め込まんばかりに気が立っている…
「実に軽率な行動をしたわね、ガキ」
「なんだよ…お前だってガキだろ!それにあいつの手下のくせにっ!」
「もっと先の先を考えて行動する事ね、今回の件は結局迷惑がかかるのはお前の父親よ」
「悪いのはあいつだ!」
あーめんどくさい…感情にすぐ流される子供の相手は面倒すぎる。マオぐらい可愛げがあればなぁ
「ま、どうでもいいか…これだけは言っておくわ。貴族ってのはお前が考えてる以上に面倒な存在よ…石をぶつけただけで死罪を言い渡されてもおかしくないわ、お前はもちろん一族全て」
顔に恐怖の色が見えだしたガキ、後になって怖くなってももう遅い
実際の所は石をぶつけられた程度で死罪にする様な貴族はこの国には居ないかもしれないが、当然何らかの罰は受ける。
評判の悪いサード帝国ならば恐らく虫けらを殺す程度の気持ちで死罪を告げるゲスな貴族が未だに存在してるだろう。
「この件のせいでお前達一家が死罪になった場合、家族を死に追いやったのはお前って事ね」
「な、なんで…なんで死ななきゃいけないんだよっ…!」
「今回は石をぶつけたのみならず、高額な薬まで台無しにしてしまった…殺されても仕方ないじゃない」
「…だよっ!なんで俺達が…」
「それが身分の差よ、権力をはね除ける力も無いのなら、こんな事になる前に過去に村を出た民同様に大人しく逃げるべきだった」
なぜこのガキの父親が倒れるまで村に残り働いたか知らないが、こんな事になる前に、このガキにもう少し立場について教えておいて欲しい
「そろそろ後悔した?もう遅いけど…この先後悔し続けて絶望した後に死になさい」
「お姉ちゃんっ!」
やれやれ…脅しすぎたせいか、マオが止めに入った。
私は自分の次に家族を大切にする。一時の感情で肉親を危機にさらしたこのガキに少し腹が立ったのだ。
「…ふん、恐らくお咎めは無しでしょ。ああ見えてアグラダは子供に甘いしね」
「…嬢ちゃんよ、なに不自由なく暮らしたお前にゃ俺達の気持ちなんざ分かんねぇだろ?」
「そうだぜ、仮にお前は、俺達のような仕打ちを受けてもムカつかないのかよ…」
「そもそもあなたの方が貴族に対する態度としてどうかと思うけど…呼び捨てだし」
みかねた村人達が私を責めだした。今まで領主に逆らえなかったくせに余所者の小娘にはこの言い様。我慢するばかりで怒りをぶつける相手がいなかったからか…?
違うか、散々好き勝手に言ったし
「…お前の親が貴族のせいで倒れたりしたらどうすんだよ?泣き寝入りすんだろ?その言い様じゃ…」
「私は権力をはね除ける力を持ってる、あなた達と違って。家族に害を及ぼす存在なら消す。遺族が復讐に来るなら一家ごと消滅させる。それで国が敵に回るなら国を滅ぼす。これでいい?」
ガキを含め、村人達は絶句して私を見る。もし、本当にそうなったなら奇跡ぱわーは汚れた力になるだろうが…
「…ペドちゃんの家族愛は分かったけど…人質に出された身としては大事にされてるか疑問よね?」
「はぅ…」
「ちゃんと危害は無かったでしょ?念のためマイちゃんだって付けたのだし」
危害があるなら最初から話なんて聞いてない。あの日宿に来た時点で断ったか、吹っ飛ばしたはずだ。
微妙な表情で私を見てくる村人達をよそに、私はユキから最後であるユニクスの血が入った瓶を渡してもらう。
…何かユキが厳しい表情で私を見ていたのが気になったが…
「あげるわ、最後の一つよ」
「…え?」
「それを飲ませればお前の父親は元気になるでしょう」
唖然としたガキを無視して立ち去る。もう用はない。さっさと旅の続きを再開したい…その前に
「…あなた達に一つ忠告しておくわ、もし…暴動何て起こそうと思ってもやめておきなさい。得る物なんて何もないわ…それに、領主の息子さえ元気になれば昔の様に善政を行うでしょう…多分」
「…領主が変わらなければ?」
「好きにしなさい、ここはあなた達の村なんだし」
我ながら勝手な事を言って勝手に去って行くなぁ…とは思うが、好きなようにするのが私なんだし仕方ない。
何かまだ言いたげな村人達を無視して馬車まで戻ろうとした時
「お待ち下さい」
と、これまで無言で見ていたユキが話しかけてきた。何だろうか?
「なに?」
「何処に行かれるのですか?」
「…馬車だけど?何かあるの?」
やり残した事でもあったっけ?マオ達も不思議そうに見ている
「…歩いてお戻りになるのですか?」
「歩いて?」
地面を見る。確かに、私は現在自分の足で立っている…別に全く自分で歩かない訳ではないのだが、興味の向くものが何もない場合は……
「どういう事?」
「……あなたは本当にご主人様ですか?」
それこそどういう事だろう…私は私だ。好き勝手に生きる今までの私だ、何ら変わりはない
「少し、質問して宜しいですか?」
「…?」
「なぜ、村の子供にあの様な事を言ったのです?」
「そうね、私は家族を自分の次に大切にするのよ…だから家族の不利になる事をしたガキに腹が立ったからかな?」
「他人の家族にでしょうか?」
「ごめん、簡潔にお願い」
さっさと結論を言って欲しい…何というか、もどかしいなぁ
「以前のご主人様でしたら、他人の家族がどうなろうと見殺しにしていたはずです。そもそも無関心ですので腹が立つ事もあり得ません。それに、瀕死だろうと興味のない存在に高価なユニクスの血を無償で渡す事は無かったでしょう」
…間違いない
「…教育を間違えたわ」
「確かに前に町で子供を見捨てたです。…それに倒れてた私よりも茸を優先されたです…」
外野の評判もすこぶる悪い…別にいいじゃないか
「何より国を滅ぼすなどという面倒な事をする前に楽な解決方法を考えるはずです…。今のご主人様は何か…似て非なる存在に影響されてませんか?限りなくご主人様に近い、別の存在になりかけてる様に思えます」
「私に似てる存在…」
先祖だな。それ以外考えられない。
「つまり、私は御先祖様という存在になりかけていると」
「おそらくは…」
ふーむ…確かに言われてみればと思う…アグラダにやった二本目はともかく…最後の一つをガキに渡した理由が不明だ。
良く考えてみれば、ガキがどうなろうと知った事じゃないし、あっちが絡んできたならともかく、私からは関わり合おうともしなかったはずだ。めんどくさいから
「普段の私を一番知ってるユキがそういうなら、そうなのかもしれないわね」
「…では、やはり今のご主人様は」
「それでも私は私よ」
意識だってしっかりしているし、いかに先祖だろうと私をどうにか出来る訳がない!
「私は他の何者でもない…!
ミラクル少女!フィーリアちゃんよっ!」
「マオさん!マイさん!間違いなくこの方は別人です!」
「ですっ!!」
パタパタッ!
「確保ですっ!」
鞭を伸ばして私を捕縛するユキ
「何すんのよ!離しなさいっ!ぬうぅぅっ…!後で覚えときなさいよおぉぉぉぉっ!!」
☆☆☆☆☆☆
捕縛されて尋問を受ける私。村人達からも奇異の視線を浴びる
「…もういい加減離してくれない?」
「ダメです」
これだもんなぁ…仕方ないから真面目に考えてみるか…
「本当に私が御先祖様になりかかっているとしたら…原因があるのよね」
「心当たりはございますか?」
有るには有る…過去に接触した事もそうだし、神域で会ったユニクス達も関係してるかもしれない。
「まあ、御先祖様になりかけてるなら原因は過去に会った事かな」
「…過去に会った際に何かされなかったですか?」
特に記憶にはないが、私の先祖だから…私に気付かれない様に力を使っていても不思議ではない
というか考えるまでもないか、犯人何てすでに決まっている。それはもちろんフィーリア家の『御先祖様』
ではなく
「奇跡すてっきね」
「奇跡すてっき…ですか?」
間違いない、勝手に私を過去に飛ばして先祖に会わせたのは奇跡すてっきだ。
不気味な存在と思っていたが、まさか私を先祖もどきにしようとしてたとは…
「離しなさいユキ、私はもう平気よ」
「…わかりました」
捕縛から解放された私は一伸びしてから奇跡すてっきを呼ぶ。そして眼前に構えて語りかけた
「いい?私は御先祖様とは違うの、あなたの知るフィーリアは死んだのよ。私を御先祖様に仕立てあげるのはやめてちょうだい」
完全に玩具に語りかける少女の図だが、私は亡き先祖を忘れられないでいる奇跡すてっきに真剣に向き合っている
そして奇跡すてっきに額をつけ…目を瞑り、想いを伝えた。すると急に意識が朦朧としてきた。…今度は何だ?
そして私はあっさり気絶した──
★★★★★★★★★★
「…で?また来たの?」
「その通りよ」
現在…過去か?とにかく今、私は先祖と再び会っている。奇跡すてっきは再び私と先祖を再会させたようだ
今回は小さな部屋の中に居る…宿屋の中かも
「この子に言ってあげてちょうだい、貴女は死んだって」
「まだ生きてる私に言う事じゃないわね」
私が差し出した奇跡すてっきをマジマジと見る先祖。
「…ずっと先の未来まで私の事を考えてくれてたのは有難いけど…あなたの使い手は変わったんでしょ?だったらその子を支えて頂戴」
「大の大人が玩具に語りかけてる…」
「殴るわよ?」
これで奇跡すてっきが諦めてくれればいいけど…
「…よし」
「何する気?」
先祖が自分の奇跡すてっきを取り出して私の奇跡すてっきに向けた。
…同じ存在が同時に存在してるとか凄いなぁ
「この子の意思を聞いてみようかな?ってね…いくわよ……らぶりぃぱわー!」
「ダサッ!ちょーダサッ!」
殴られた。あまりにも恥ずかしい事を言うもんだからつい言葉に出ただけなのに…
私の奇跡すてっきが光に包まれたかと思ったら、テーブルの上にちっちゃい人型の何かが私に向かって土下座していた。
全身ピンクなこの人物は間違いなく奇跡すてっきだろう
「すでに謝罪態度とは良い心がけね」
「この度は本当に申し訳ありませんでした」
「いいけど、今後はちゃんと私専用の武器でお願いね」
「もちろんです」
わかってくれればいい。しかし、危なかった…ユキが気付かなければ恥ずかしい先祖の様になっていたかもしれないのだ。
聞けばこの奇跡すてっき、フィーリア先祖が忘れられずに居て、同じ素質を持った私に使われた瞬間から何とか先祖の再臨が出来ないか考えていたらしい。
そして私が奇跡すてっきを枕にした時、核となる水晶が私に密着する事によって奇跡すてっきが独自に力を行使出来る事が分かり、勝手に私の力を使って晴れて先祖に再会し…あわよくば第二のフィーリアに仕立てあげようとした。こんな感じか
「今の主様を違和感のない様にじわじわと意識を改変し、私の覚えているフィーリア様と同一思考の存在にする予定でした」
「…恐ろしい子!」
ミラクル少女とか名乗る存在になるなんて御免だ!らぶりぃだぞ?らぶりぃ…プッ
「何か私が笑われてる気がするわ」
「…何で気絶してないの?」
「何で気絶しなきゃいけないの?」
何だと…?気絶せずに使い放題なのか…?この先祖は…何というか、最強の存在じゃなかろうか
私が力を使うと気絶するという事を先祖に伝えると
「ちゃんと力を使えてないんじゃない?」
…だと。私は今は顔を上げて私と先祖の会話を聞いていた奇跡すてっきに目で訴えてみる…前回同様に白いモヤモヤだから分からないかもしれないが
「一応フィーリア様にも代償はあります。が、理不尽なくらいフィーリア様は規格外です」
と、言ってくれた。先祖越え何かしちゃいなかったんだ…天狗になってすいませんでした
その後しばらく先祖に力の使い方を教えてもらったが、恥ずかしくて使えそうにない。…何というか、思考が少女なのだ…大人のはずのこの先祖は
「あんまりホイホイ過去に来ちゃ駄目なのよ?ほら、用が済んだら帰りなさい」
「はいはい、じゃあ元の世界に戻してちょうだい」
「私が?めんどくさいわね……あなたも…私の子孫を宜しくね」
「…はいっ!再びお会い出来て嬉しかったです、フィーリア様」
…私だけ先に帰って、しばらく二人にしてあげた方がいいのかな?空気が読める女として…そうしよう。あと、奇跡すてっきが喋れる内に聞いておこう
「ねぇ…もしかして、御先祖様が言っていた…らぶりぃぱわーってのが正しい呪文だったりする?」
私も本来ならそんな恥ずかしいセリフを言わなきゃいけないのか気になったので尋ねる。
小さな少女の姿をした奇跡すてっきはニッコリ笑って答えた。
「いいえ、奇跡ぱわーです」
この言葉を聞いた瞬間、初めて力を使った時に聞こえた声がこの子の声だったと気付いた。
空耳じゃなかったんだ……




