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幼女と温泉

 進行を邪魔する魔物達が瞬時に惨殺される姿を見るのも慣れてきた。

 今のは中々綺麗に血が飛び散ったなー…と、血飛沫を楽しむ余裕を出す始末、歪んだ性格をしている私には造作もない事だ。


「ぺけぴー速いわねぇ、人工とはいえ神獣って事ね」

「援護してくれるのも助かります」


 このぺけぴー、どうやってるのか謎だが前方に見えない何かを飛ばし、魔物をスパスパ切り裂いている。かまいたちとか言う奴だろうか?


「頼もしくて何よりね」

『くるっくー』


 魔法なのかサッパリ分からないが、私の先祖が創ったぐらいだし何だか分からない力を持っているんだろう。


「御先祖様と言えば、夢で会った時に確か奇跡すてっきを枕にしてたっけ?」

「夢、ですか?…そういえばユニクス達が言ってましたね、創造主が未来から来た同じ力を持った子に会ったと」

「そう、多分私の事ね。確かに私は夢の中で御先祖様と会ったわ、あれは現実だったかもね」


 もしかしたらこの奇跡すてっきは先祖が所持していた物と同じかもしれない。

 常に先祖と共にいた奇跡すてっきには想いが宿っているのでは?…何だっけ?長年大事にされた物に魂が宿っちゃうとかそんなの…忘れた、まあいいか。


 その想いが宿った奇跡すてっきが勝手に私を過去に飛ばしたのだとしたら、先祖と私を会わせて何をさせたかったのだろうか…


「やーめた、考えたって仕方ないわ」


 先祖が残した奇跡すてっきの思惑だとしたら、きっとロクな事じゃない。何故なら先祖が私と同じ歪んだ性格の持ち主だからだ。


 何か急に不気味な存在に見えてきたので、ユキの空間に仕舞ってもらった。


「ご主人様の御先祖様は、きっと偉大な方だったのですね」

「偉大?ないない」


 あの無害そうな一般人…信者かもしれない人々をブチ切れて殴り倒す人物が偉大なわけない


「そもそもフィーリア何て言う人物はどの書物にも出てこないわ」

「…そういえば、ユニクスに関する事項にも人に創られたとは書かれてませんね」

「御先祖様も私と同様に好き勝手に生きたのよ、きっと…力は自分の為に使い、面白そうな事にだけ興味を持ち、面倒事は避ける…こんな物語の主人公になれる力を持ちながら脇役人生を謳歌したのね」


 ユニクス達が産まれたのは数百年前と言ってたか…先祖が生きていた頃は今より平和だったとは思えない


 町の防備も今の世よりお粗末なものだったと考えられる、ならば魔物の被害も大きかったはず。魔物に侵攻される町に先祖がたまたま居たとしても手助けはしまい、何故なら



「『めんどくさいもの』」


 …妙にしっくりきた



★★★★★★★★★★



 中継都市まで戻ってきた。今は6日目の夕方…流石に温泉に入るぐらいの時間しかないか…


「ぺけぴーを預けたら、行きに走ってもらった馬を売りましょう」

「わかりました」

「人前で喋っちゃダメよ」

『くるっくー』


 だから喋…鳴くなと。ただでさえ大きい白馬で目立つんだから…


「ただの馬と誤魔化せそうなだけマシかな」

「そうですね」


 ぺけぴーを預けて、宿舎に居た店番に馬を売れる場所を聞く。良馬だけど売るのかと聞かれたが、私達の旅に着いてこれる馬とは思えないので容赦なく売る


「新しい主が私の様な外道じゃないと良いわね」

「ブルル…」


 案外なついてたのか、何だか物悲しそうな目で見られた。残念ながら情に流される私ではない


「あなたを売ったお金で…私は温泉に入るっ!」


 馬が涙を流し始めた。そんなに私と別れるのが辛いか…素晴らしい主を失うのだからしょうがない


「…まさに馬車馬として働かされた上にあっさり売られる。言葉の壁を越えて動物に気持ちが伝わった瞬間ですね、どんな気持ちかは言いませんが」


 ユキは余計な事を言うようになったな…変な方向に成長してる様だ、別にいいけど



☆☆☆☆☆☆



 部屋に温泉がついている宿を選んで一泊する事にした。その分料金が高くついたが問題ない


 温泉はなんと岩風呂らしく、なかなか趣があり満足した。肌がツルツルになると良く聞くが、ツルツルというよりヌルヌルしている気がする。


 ユキも温泉から上がったらしい、だがその手にユニクスの血を容れた瓶より数倍大きい瓶が握られている。温泉でもいれたのか?


「温泉でも汲んできたの?」

「はい。温泉は湯に浸かる以外にも、飲む事も健康に良いと言われてますので…この瓶はご主人様の入浴中に厨房から頂いてきました。もちろん私が不在の間は結界を張ってましたのでご安心を」

「へー…」


 飲むわけじゃなくて、料理に水代わりとして使うのかな…あんなヌルヌルそのまま飲みたくないし。


「ちゃんとご主人様の入浴後の残り湯を汲んできました」

「捨てなさい」

「…では、これは私用として空間に仕舞っておきます。別の瓶をもらって新しい湯を容れる事にしましょう」

「何に使う気よ!…もう好きにしなさいな」


 二人きりでも何も問題ないと思ってたが、そうでも無かった。まあ給料無しだし、褒美になるならいいか…気分は悪いが実害はないから我慢できる




「…夜だってのに、騒々しい町だこと」


 窓から外を見れば、未だに多くの人が道を行き来しているのが見える。


「ほとんど冒険者の為の都市ですから、彼らには夜が本番なのでしょう」


 他国へ依頼の途中か、依頼帰りによった冒険者達が利用する都市って事か。他国へ向かう使者が利用するとかそうそう無いだろうし



 カーン、カーン、カーン



 寛いでいたら鐘の音が三度聞こえた。魔物でもやって来たのか?


「魔物?」

「その通りです。中立地帯にある中継都市には良くある事です」


 やはり国内よりは危険らしい。これが冒険者の義務である緊急依頼の一つと思うが、初級者の私達には関係ない。


「冒険者はいっぱい居るみたいだし、私達の安全の為に精々頑張ってもらいましょう」

「これだけ冒険者がいれば大丈夫でしょう」


 私達はのんびりお茶を飲みながら中継都市を襲って来た魔物を冒険者達に丸投げした。ふむ…お茶とやらも悪くない



☆☆☆☆☆☆



 夜が明けて、四番地に向けて出発をする。昨夜の魔物騒動は無事鎮圧したみたいだ。

 帰りは止まらずに直帰すると言っていたが、ぺけぴーは休み無しで本当に大丈夫だろうか?


「ぺけぴーは本当に3日も休まずに走れるの?」

『くるっくー!』


 大丈夫っぽい。だが、それでこそ私の馬だ。帰りついたら豪勢なご飯を食べさせてあげよう。…何を食べるか知らないけど…


「ぺけぴーは何を食べるの?」

「食事は必要ないですね、しかし神域を離れましたので定期的に魔力を与える必要があるかと」

「魔力で生きてるの?」

「魔力を吸収したら体内で…詳しくはわかりませんが、別の力に変換するみたいです」


 何だか分からないが、餌代がいらないとか最高。魔力はユキが提供すればいいだろう


「じゃ、出発しましょう」

「はい」

『くるっくー』


 白馬の馬車とか何か豪華な格好だと思う。



☆☆☆☆☆☆



 ぺけぴーは普通の馬と違ってやはり速い。馬車が壊れない様に小走り程度で、森の中を駆けた時よりは大分遅くはある。

 だがそれでも十分速い。速度が上がれば揺れが酷くなり、結果気持ち悪い…普通歩くだろ、何で小走りで行くかなぁ…


「おのれぺけぴー…謀ったな…」

「大丈夫ですか?」


 ユキはこの揺れでも全く問題ないと言わんばかりの涼しい表情…恨めしい


「…平気そうね」

「この程度なら」


 ぐぬぬ……3日もこの調子とか無理。2日ぐらい予定より遅くなっていいからゆっくりお願いします…


「…そこまで気分が優れないようでしたら、私が抱えて行きましょうか?」

「…そうしてちょうだい」


 提案を採用して抱っこちゃん状態になったら極端に揺れが無くなった。まさか、魔法か何かで衝撃を和らげていたのか?汚い…


「でもまぁ…これなら3日もつかな」


 今回は仕方ないが、次からは絶対ぺけぴーには歩いてもらう。この調子じゃ風景を楽しむ事も出来ない




「…家に居た頃はあんまり抱っこ状態にならなかったけど、外の世界に出たら大体この格好だからね…大分慣れたわ」

「学園時代は実技の時だけでしたしね」


 あの頃はまだ人目を気にして歩いて登下校していたからなぁ…からかってくるクラスメートがウザいのもあるが


「…私は寝てるわ、寝れば少しは気分良くなるでしょうし」

「ちゃんと抱えてますので安心してお休みください」


 そういえば3日の間走り続けるなら、まさかユキは不眠不休で行く気じゃないだろうか…?ユキならいけそうだが、流石に辛いだろう…ぺけぴーもだが、前に3日ぐらい走れるとは言ってたっけ?


「ぺけぴーは睡眠要らないの?」

「いえ、睡眠は必要ですが、神獣だけあって10日は休み無しで走れる体力は有るはずです」


 半日以上は寝て過ごしたいと思う私と大違いだな…申し訳ないが、私はか弱い少女なので寝る


「ユキも無理はしないように……いつもご苦労様」

「……はい」


 照れるなよ…何だかこっちまで照れるので、誤魔化す為にさっさと寝る事にした。



★★★★★★★★★★



 約束の10日になった。四番地はすぐ目の前となっている。いよいよ面倒事が終わるのだ


「10日って長そうで短かったわね」


「ほとんどが移動時間でしたから」


 私は移動時間はほとんど寝てた。そりゃあっという間に10日過ぎるか



 まだ昼を過ぎた頃だが、この時間に着いたという事はぺけぴーが頑張ってくれたのだろう


「お出迎えよ」

「そうですね」


 村の入り口の少し先にはアグラダと10日ぶりに見る私の家族達…いつ帰るか分からない私達をずっと待っていたのか?


 そばに寄るまで待ちきれなかったマオがこちらに走り寄るのを眺めながら私達は村の入り口を潜った



☆☆☆☆☆☆



「はい、お土産」

「…温泉まんじゅう?」


 馬車を適当に空いてた所に停めて、久々の再会に盛り上がってる最中である。

 私が渡した温泉饅頭をみて、マオが疑問を浮かべている。そりゃユニクスの血を取りに行ったのにお土産の温泉饅頭を渡されたら困惑するか


「待ちなさい、まさかペドちゃん…人質を放って温泉に入ってたんじゃないでしょうね?」

「その通りよ」

「ずるいわよ!こっちは病人の看病をしてたってのにっ!」

「そうですっ!ずるいです!」


 久々にマイちゃんと戯れている私に喚く二人…煩いなぁ…まともに看病してたとは思えないのだが


「看病って何をしたのよ?」

「ご飯を運んだわ」

「…それだけ?片付けは?」

「それは護衛に任せたわ」


 それのどこが看病なのだ…人が増えた分、護衛の負担が増えただけじゃないか


「それは看病とは言わない」

「だってあの子、昼間は寝てるじゃない…看病する事ないもの」

「…夜は起きてるでしょ」

「夜に男の部屋にずっと居るわけないでしょ?はしたないわ」


 素直に面倒だと言えばいいのに…



「再会を喜んでいる所悪いが…その、ユニクスの血を…」

「わかってるわ」


 ユキにユニクスの血が入った瓶を一つ出してもらいアグラダに渡した。

 ユキから受け取る際にコッソリと何味か聞いたら「酢」と答えられた。酸っぱいユニクスの血か…


「…感謝する」

「気にしないで、馬車の為よ」


 アグラダは私達に礼を言うと急ぎ足で屋敷へと向かった。やっとこさ息子が完治するかもしれない手段が見つかったので早く飲ませてやりたいのだろう


「じゃ、私達はお母さんを家に届けたら王都にでも行きましょう」

「えー…お母さんも行きたいなぁ…」

「邪魔よ」


 着いてきたそうな母をバッサリ切る。連れて行ったらどんな散財をするやら…




ガシャン




 と、音がした。音がした方を見れば、アグラダが持っていた瓶が割れているのが見えた。

 アグラダは割れた瓶を呆然と見つめていた。



「おまえのせいでっ!お父さんが倒れたんだっ!」



 叫んでいるのは村に住んでいると思われる子供…この子供がアグラダに石でも投げたのだろう

 周りに集まっていた大人達も特に子供を咎めようとしない…むしろ子供を庇っている…


 どうやら最悪な時に村人が倒れ、その子供の怒りが元凶であるアグラダに向けられたらしい…


「…さんざん民を蔑ろにしてきたツケが、運悪く今回ってきたのね…哀れな」


 だが、自分で蒔いた種だ。同情する余地はない。

 見れば何事かと護衛達が未だに呆然としているアグラダに走り寄っていた。


「…どうするんですか?お姉ちゃん」

「別に、面倒な事に巻き込まれる前に村から出たい所ね」


 マオが微妙な顔をした。やれやれ…アランに奇跡を願って待ってろって言っちゃったしなぁ…言わなきゃ良かった。


「ユキ、もう一つ瓶を出してちょうだい」

「わかりました」


 ユキから降りて瓶を貰い、項垂れるアグラダの元へ向かう。護衛達は石を投げた子供を捕まえるべく、子供を守る村人達と揉み合いになっている。


「ここにもう一つユニクスの血があるわ」

「…!ほ、本当かっ!?」


 期待に目を輝かせたアグラダに手に持っていた瓶を見せる。ちなみに醤油風味だ


「た、助かった!これで…」

「…あの子供の父親が倒れたらしいわね。きっとまともに食事も出来ずに働いたからでしょうね…あなたが課した重税のせいで」

「…何が言いたい?」

「別に?ただ聞きたいだけ、このユニクスの血なら倒れた子供の父親もすぐ治るでしょうね。これを受け取ったあなたが息子を選ぶか、それとも重税を課されようが今まで尽くし、そして倒れた村人に使うか興味があるだけ」

「……」


 何とも言えない表情になったアグラダ。護衛と村人達にも聞こえる様に言ったため、この場に居るものは全てアグラダと私に注目している。


 こんな事を聞かなければ真っ先に息子の元へと向かっただろう…ユニクスの血を使う相手に領民が追加されたら、果たしてこの貴族はどちらを選ぶか…


 倒れた理由が過労なら薬草でもどうにかなるし、ユニクスの血を使う必要はないと気付くが、村人に睨まれたアグラダは焦って気付いてない様子…


 どちらを選ぶか面白そうに待つ私はやはり歪んだ性格をしていると思う

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