幼女と奇跡ぱわー
見た目幼女なのに一人で出稼ぎに行ってこいという母の鬼畜発言を聞いた私はとりあえず昼食をとり、食後特有のほどよい眠気に誘われて優雅な昼寝タイムを満喫する事にした。
「はよ行けよ。ホントめんどくさい娘ね貴女は。うぜー」
いよいよ口調が荒くなってきた。可愛い娘にうぜーとか言うな
「冒険者って魔物狩ったり商人の護衛したりして金稼ぐんでしょ?か弱い私が一人でそんな仕事出来ると思ったら大間違いよ」
「ペドちゃんはよく分からない変な力持ってるからきっと何とかなるわよ」
変な力言うな、奇跡ぱわーと呼べ。正体不明な力のため私にも詳しくは分からないが、一応ざっくり説明しよう。
これは恐らく生まれた時から持ってたのであろう謎の力だ。
何が出来るかと言えば何でも出来る…気がする。と、何でも出来るとか聞くだけならちょー便利に聞こえるが、実は全く使えない力なのだ。よほど燃費が悪いのか力を使うとすぐぶっ倒れる。
この世界には魔法が存在している。飲料水作ったり、薪に火をつけたりとかなり役立つ生活用の魔法から冒険者が魔物を狩る時や、たまに町に入り込む魔物を討伐する時に使用する威力の高い魔法とこの魔物溢れる世界には欠かせない存在だ。使える者は限られるが。
その限られた人達というのは貴族など、特別な血筋をもつ人や魔法使いのエリート種族であるエルフなどである。平民にも魔法を使える者はわずかだが居る
というか魔力自体は全ての生物が持っている。ほとんどの平民が魔法を使えないのは魔法を行使する程の魔力が無いからだ
魔法を行使出来る選ばれしエリート達は生まれ持った高い魔力を使って魔法を使う、魔力が高ければ高いほどより強力な魔法を使う事が出来る。この世界の常識だ
もちろん私は魔法なんて使えません。
いや魔力は有るけどね、貴族の赤ちゃんくらい…いや、胎児くらいは…平民なんてそんなもんです
もちろん魔力が低すぎて簡単な魔法すら発動しない。魔法は貴族の武器、剣や槍や弓が平民の武器というのが普通の認識だ
しかし私には魔法の代わりに奇跡ぱわーという固有の力を持っていた。気付いたのは6歳くらいの時。
当時ペットとして飼っていた芋虫のマイちゃんが弱っていた時の事。小さい掌の上でぐったりしているマイちゃんをどうにかして助けられないか、もしくは安楽死させるべきか考えていた時、身体から妙な力が湧き上がってくるのを感じた
これは…私に封印されていた魔力が解放されて覚醒したに違いないと悦に入ってたら
"いいえ、奇跡ぱわーです"
と、何か頭の中に直接意味不明な声が聞こえた。
こいつ…喋るぞ…!?
まあ、あの日以降声を聞いた事は無いのできっと空耳だったのだろう、うん
しかし奇跡と称するぐらいだから凄い力なんだろうと思い、黄泉路へ旅立つ寸前のマイちゃんを助けるため迷う事なく力を使った
「マイちゃん元気になれっ!奇跡ぱわーっ!」
叫び、奇跡ぱわーが発動したのを感じた瞬間、目の前が真っ暗になり私はぶっ倒れた
目を覚ましたのは2日後だった。両親のどちらかが運んでくれたのかちゃんとベッドに寝かされていた。
マイちゃんはちゃんと元気になっていた
起きた私はとりあえず奇跡ぱわーとやらが本当に夢じゃなかったか確認する為小さい火を出してみた
ぶっ倒れた。今度は一時間で起きれた
一番最初に習う初級魔法程度でぶっ倒れるとか使えないにも程がある
魔力は限界まで使えば使う程に回復した後増加する、らしい。
同様に奇跡ぱわーも使えば使う程気絶時間が短くなるのではないかと思い特訓してみる事にした
どうせぶっ倒れるのでベッドの上で寝る体制で特訓する。流石私、頭いい
その後、毎日の特訓の成果が出たのか学園に入って中等部に上がった頃には小さい火を出す程度では気絶する事はなくなった
嘘です。未だにぶっ倒れます。まるで成長していないっ!?
と、見せかけて実はちゃんと特訓の成果はでている
気絶時間が10分に短縮されたのだ!
結局気絶は免れなかった…ちくしょー
中等部から本格的に魔法の授業が始まった。魔法を使えない私が授業を受ける意味とか無いのだが、この国では15歳までは義務教育とか何とかで中等部までは強制的に学園に行かされる
何でも過去の異世界人が決めたらしい。ロクな事しないな…異世界人め
魔法の実技の授業では奇跡ぱわーを使って魔法を使ってます風を装った。 ほとんどの平民は魔法使えなくて当たり前だから使わなくても良かったのだが、魔法使うと尊敬の目で見られるのが満更でもないので張り切った
毎回毎回奇跡ぱわーを使った後はぶっ倒れるという不様な姿を晒す私には尊敬の目が次第に向けられなくなった。ちくしょー
「ペドちゃんが魔法を使うと必ずぶっ倒れる」
というのが常識になった頃、魔法実技担当の美人教師であるアイラ先生は倒れた私を持ち上げて運ぶのが面倒になったのか、私が魔法を使う番になると抱っこするようになった。
幼女体型なので数分ぐらい抱っこしても疲れはしないだろうが、される方は何か屈辱だ
そんな格好を授業する度にしてればからかってくる奴も当然いる。子供とはそういうものだ…中等部って子供のカテゴリーに入るのだろうか。13歳だぞ
で、いつの間にやら私についた渾名が『抱っこちゃん』だ
中等部とは思えない実に安直なネーミングだ。きっと頭の悪い奴が命名したに違いない
それから授業で私が魔法を使う番になると、クラスに高確率で存在するボスのポジションの男子に必ず馬鹿にされる様になった。
ずっと我慢してたが14歳になってグレた後にいい加減ムカついたので、一年以上抱っこし続けてくれている美人で人気のあるアイラ先生にこれ見よがしに密着してやった
具体的には先生の胸を私の身体で目一杯押し潰すくらい。頬と頬が引っ付くぐらいまで密着したあと勝ち誇った顔を相手に向けるのを忘れない
彼はとても悔しそうだった
きっとアイラ先生に気があったんだろう。ざまぁ
それから卒業するまで私がからかう立場になった。途中でユキと出会い抱っこ担当がチェンジした。アイラ先生が妙に悔しそうにしてた
何だかんだで楽しい学園生活だった気がする
…はて?いつの間に奇跡ぱわーの話から学園の思い出話に変わったのだろうか。まぁいい
私は窓から見えるすっかり朱に染まった町並みを見て呟いた
「思い出に浸ってたら夕方になってた、びっくり。出発は明日以降にする」
母は呆れた顔をして無言で台所に消えた
とりあえず私は昼寝不足なのでユキに頼んでベッドに運んでもらって寝る事にした