幼女、おやつを買いまくる
すでに出発準備は万端だ。御者はユキにしてもらう。マオが不在なので毛布を敷きまくって衝撃を和らげる事にした。
「じゃ、行ってくるわ」
「早く帰りなさいよー」
「がんばって下さいっ!」
パタパタッ!
我が家族達は三者三様で見送ってくれる。
「くれぐれも頼んだぞ…」
「あなたこそ、私の家族を宜しくね」
アグラダにも挨拶をし、今度こそ出発する。馬車には貴族階級を表す星形のマークが付いていたが、私達は貴族でもないので取り外した。
ちなみに階級が上がる事に星の数が増えるらしい。アグラダは男爵なので星一つとなっていた。
「行きましょう、ユキ」
「かしこまりました」
馬車が走り出した。一応馬も貰ったが、帰りにはユニクスが引く予定なので途中の町で売る予定だ。
「まずは何処に行くわけ?やっぱり国境?」
「その前にどこかで食料などを買いましょう、何度も補給すると時間が勿体無いので、一度で大量に購入します」
「なるほど…ユキの空間に保存しとくのね」
「はい、それなら腐りませんので」
ユキが組んだ予定ならきっちり10日で達成出来るだろう。だったら私はのんびり構えておけばいい。
普通の冒険者ならこの空いた時間に来るべき神獣戦に備えて装備品でもチェックする所だろうが…
奇跡すてっきを呼ぶ。私の準備と言えばこれだけ…うーむ…する事がない。こんな揺れる馬車でも寝れるだろうか?
だが、まだ出発してすぐだし、いきなり寝るというのも…でも本当にする事ないし…いやいや……
……
…
…する事ないわ。寝よ
結局寝る以外に私が出来る事はなさそうなので、数分だけ悩んであっさり寝るという結論に至った。
「寝てるから食料とか買う町についたら起こして」
「わかりました、お休みなさいませ」
腰掛ける部分だと落ちるかもしれないので、床に毛布を敷いて寝る。奇跡すてっきにタオルを巻いて枕代わりにした。
☆☆☆☆☆☆
何か意識が目覚めた。だが、馬車の中とはとても思えない。
周りは大理石で出来た…神殿だろうか?何だか良く分からない所だ。間違いなく夢だな
眼前を見れば、赤く長い髪を靡かせた紅い瞳の女性…20歳くらいの人か、神官が着る法衣みたいなのを着ている。手には場違いな程ちゃちな作りの奇跡すてっき……
これ成長した私じゃね?
私らしき女性は目の前に跪いている多くの人を優しげに見つめていた。
『……お』
女性が何か言いかけた、何か妙に偉い立場にいそうだな
『お前ら奇跡奇跡うるさいんじゃボケェッ!』
えー…良いこと言いそうな雰囲気だったのに出たのは罵倒…
『ああっ!フィーリア様がご乱心に』
『またですか!?』
『うるせー!もうこんな所居られるかっ!私は出る!国を出るぞおおぉぉぉっ!!!』
…ああ、これ…御先祖様っぽい…ある意味私の御先祖様として納得できる…
御先祖様らしき女性は現在奇跡すてっきで止めようとする人々を殴り倒してる最中だ…
奇跡すてっきは案外打撃用の武器になるくさい。私は彼女の様に力は無いから武器として使えないけど
『お前で最後だっ!』
『ぶふぅっ?!』
最後の一人を吹っ飛ばし終えたようだ。やたらスッキリした顔をしている。
『ん?』
ふと、彼女がこちらを見た。…まさか、私が見えてる?夢じゃないのか?
女性はスタスタ私の所に来て、私に目線を合わせた。
『何か面白いのが居るわね』
「私の事?」
『うぉっ!?喋った!』
失礼な、いや待て…夢の中の私はどんな格好してるのやら…手を見てみると白いモヤモヤ。どうやら今の私はモヤモヤになってるらしい
『もしもーし?あなた何者?』
「あなたこそ何者よ」
『私?私はフィーリアよ』
「そう…私は、ペド・フィーリアよ」
『…へー』
まじまじと私を見る女性…奇跡すてっきを見せてみるか?同じもの持ってたら何か反応するだろう
『…はぁ?何で君がそれ持ってるかな?』
「さあ?物心ついた時から持ってるわ」
『…何か不思議な力を使える?』
「ええ」
『おー…私と同じ存在がいるとは思わなかったわ』
「あなたは人間なの?」
『もちろん、人には過ぎたる力を持ってるけど…正真正銘の人間よ』
という事は私も人間か…何となく安心した。夢だから都合の良い様にしてるだけかもしれないが…
「貴女の容姿と奇跡すてっきで判断する限り、私は貴女の子孫だと思うの」
『あなたが私の?そうだとしたら私は結婚出来るって事ね!ひゃっほぅ!』
馬鹿だなこの人…モヤモヤが子孫ですと言ってあっさり信じるか普通…
『むむっ!不快な気配が…あっさり信じるとか馬鹿だって思ってるでしょうけど、私と同じ力を持ってるならそれだけで信じるには十分、意識だけみたいだけど…過去に来れるとは流石私の子孫』
奇跡ぱわーさん過去にも行けるのか…意識しか無理なら仲間全員を過去に飛ばすのは無理そうだけど
『っと、ごめんね!私は今から急いで国から逃げるから!』
「逃げるならワンス王国がオススメよ」
『…そんな国あったっけ?海の向こうかな?とりあえず参考にするわ!じゃあね!』
「はいはい」
『ああっと!そうそう!』
急いで走って行ったが、何か思い出したのか急に立ち止まってこちらを向いた
『知ってる?嘘か真か分からないけど、フィーリアって「愛」って意味らしいわよ!素敵な名前でしょ?あなたには余計な名前が付いてるけどっ!』
本当に余計な名前が付いてると思う…その後は振り返る事なく女性は走り去った。
奇跡ぱわーについて色々聞きたかったが仕方ない…そもそも夢だしなぁ
★★★★★★★★★★
「…凄く変な夢を見た気がする」
「起きられましたか?少し先に二番地の村がありますので、そこで買い物を済ませましょう」
「わかったわ」
何だか大事な様でどうでもいい夢を見た気がする。奇跡すてっきを枕にしたせいか頭が痛い…やはり枕には向いてないな…二番地に着いたら枕も買おう
「何も出ないわね」
魔物がさっぱり出ない。やっぱり森や山が主な生息地らしい
「国外に出れば嫌と言うほど魔物に会えますよ」
「国外ってそんなに危険なのね」
「そうですね…一つお教えしましょう。国内がこの様に魔物の被害が少ないのは、比較的に平和な地に国を建てたからです。わざわざ危険な魔物の棲み処を国内に入れる必要ありませんので」
「そういう事…」
「危険なのはどの国にも属さない中立地帯です。冒険者が討伐するとはいえ、国内に比べれば遥かに多くの魔物が居ます。こうして道を走っていようと襲われますね」
それってマズイんじゃないか?いくらユキでも一人で馬車を守るのは厳しいだろう
「二人じゃきつくない?」
「ご安心下さい、結界は張ってますので」
そういえば結界があったか、じゃあ大丈夫か、結界の中から魔物観察でもしておこう。ちなみに結界はユキを中心に展開しているらしく、馬車がどれだけ動こうともユキから離れなければ大丈夫らしい。
王都に近付いている為か、すれ違う人が多くなってきた。大体が冒険者風の格好をしている。馬車は目立つので、視線を良く感じる…御者のユキのせいかもしれないが
「…退屈ね」
「移動中はこの様なものですよ」
思わずぼやく、神獣とやらも近くに棲んでおけばいいのだ。時間制限ある旅はやはりつまらない。
目的地一直線の何が楽しいのだろう…
☆☆☆☆☆☆
少し先と言っておきながら一時間以上もかかって二番地の村に着いた。
村にしては発展しており、町の様にレンガ造りの家が多く見える。
「村のくせに生意気ね」
「住民に聞こえますよ…まずは馬車を預けられる宿舎を探します」
「わかった」
馬と馬車を預けたらいよいよ買い物。食料以外にも何かいるのか?
「何を買えばいい?」
「水は魔法で出します、なので食料以外ですと…水を容れる桶と、身体を拭く為のタオルを数枚…石鹸も買っておきますか」
「一応替えの下着類も買いましょう、洗濯なんかしてる余裕ないわ」
「わかりました」
うさぎリュックじゃ小さくて入りきらなそうだが、ユキの空間魔法に突っ込んでおけばいい。
「後は思い付いたら買いましょうか」
「はい」
予定通りの物だけ買う、ランプぐらい有った方がいいかもしれないので買った。もちろん枕も購入。
食料は野菜だろうが肉だろうが腐らないので何でも買う。おやつは300ポッケまでとか意味不明な事を言われたが、一日300ポッケと解釈して3000ポッケ分買った。
「…いえ、宜しいのですよ?…えぇ、食べ過ぎてはいけませんが」
「分かってる。少しひねくれてみただけ、悪かったわ」
主に対してあんまり強くは言えないのか、ユキは微妙な表情でやんわりと私に忠告してきた
何か申し訳なかったので謝っておく
しかし、こう出費ばかり続くと今後の資金もそう遠くない内に尽きるかもしれない。
やっぱり売れそうな薬草とかがあるなら採っておくか
「とりあえずこのくらい?」
「はい、強行しますので最低限の荷物で十分です」
じゃあ出発しようかな…今日の内にどこまで行く予定か分からないが、行ける所までは行こう。
「今日は何処まで行く気?」
「明後日には国の外に出たいので、一丁目近辺までは進みたいですね」
空を見れば、もう夕方までまだ少し時間はあるが…明るい内に一丁目付近に着くのは難しいだろう。という事は日が落ちても進むつもりだと思う。
10日で終わらせるとか言ったけど、やっぱり普通は厳しかったか…そりゃ3倍のスピードで進むならなぁ…
☆☆☆☆☆☆
馬車が走り続けて早数時間、そろそろ馬も休ませないといけないので小休止する。
すでに辺りは真っ暗だ。丁度良いので馬の休憩と私達の夕飯を一緒に済ませる。メニューは肉と野菜を炒めただけの簡単なもの。
「馬もだけど、貴女も休んでおきなさいよ」
「…そうですね、では一時間ほど仮眠致します」
「そうしなさい」
ユキは馬車に入り、壁の所に寄り掛かって眠り始めた。…床に横になって寝ればいいと思うが、何かあればすぐに起きれる様にしているんだろうなと思う。
自分の結界をもう少し信用しても良いと思うが…
「…やれやれ」
まだ外に居ると夜風が肌寒く感じる。私は自分の事には割と無頓着なメイドに毛布でもかけてやる事にした。
「あなたもご苦労さま」
これまで馬車を引いてくれた馬にも感謝を伝えておく。どうせ理解出来ないだろうが、この先も走ってもらうし労いはしてもいいと思う。
しかし、一人で起きててもする事ない…話し相手も居ない事だし、私もまた寝とこうかな…丁度いい枕もそこにあるし。
足を伸ばして寝ればいいのにユキは正座を崩した様な座り方をしている。スカートで見えないけど、多分そんな感じ…私はユキの足に頭を乗せ、いわゆる膝枕という格好で横向きに丸まって寝る
「……ふふ」
……何か聞こえたが無視無視
☆☆☆☆☆☆
そして夜だってのにまた馬車を走らせている所である。もう何か眠気を無くすくらい寝た。
外を見れば、馬でも狙ってるのか結界にバシバシぶつかる魔物のものと思われる音がする…夜は魔物出るんだなー
「何がぶつかってるわけ?」
「クランチバットと呼ばれるコウモリ型の魔物です。注意すべき点は噛む力が強い事です」
そりゃ痛そうだ、コウモリって事は夜に活動する魔物か、確かに夜は危険かもしれない。暗くて視認するのも難しいし…そうそう、夜と言えば
「…今ならアランは起きてる頃ね、皆上手くやってると思う?」
「…大丈夫でしょう」
即答しなかったな、ぶっちゃけ私も不安ではある。アランが悲惨な目に遭ってなきゃいいが…
だがまぁ、家族を信じて私達は先に進もう、きっと大丈夫…命までは奪いまい…
★★★★★★★★★★
何だろう…何か凄い人達が来る気がする
「はい夕食ー。勝手に食べてね。食べ終えたら食器は…護衛さんに渡してねー」
「…食べさせなくていいのです?」
「男なんだから病人だろうと自分の事は自分でやるっ!」
と言ってる人達が臨時の使用人という事らしい…あの娘の言ってた母親というのが赤い髪の人だろう…
「それともマオちゃんが食べさせる?アーンって…」
「やです。男の子なんだから自分で食べるべきです」
…何だか紫の髪した娘にまで嫌がられてる気がする。二人とも容姿が良いだけに結構心にくる…
というかあの娘の話と違うなぁ…甘えさせてくれる気配は微塵もない。嫌々やってる感がひしひしと伝わってくる…
こんな状態なのも父上のせいだ、きっとそうだ。僕は何もしちゃいない…
ああ…この人達に世話されてたら何だか悲しくなるから早く帰って来て下さい冒険者さん…




