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幼女、人質をだす

 馬車から降りて、アグラダの屋敷を見れば、そこまで大きいという訳ではない。まあ男爵だし…2階建てだが、この村からすれば十分大きいか……


 屋敷に入って客間まで案内される。調度品はほとんど無い。恐らく息子の薬代に使っているため買う余裕が無いのだろう


 客間にあったソファーに指示され座る。私とマオは座ったが、ユキは私の側に立って待機した。マイちゃんはユキの肩に止まっている。人前ではあまり動かないから変な飾りと思われてそうだなマイちゃん……


「早速だが、聞かせて欲しい…どんな難病にも効く薬草とか知らないか?」

「そんなものはございません」

「そうか…やはりそんな都合の良い薬草などないか…」


 私は分からないのでユキに会話は任せる。そんな存在しなさそうな薬より魔法で何とかならないのか?


「魔法じゃ治らないわけ?」

「ああ…高位の回復魔法も効かなかった」


 まあ…魔法は主に怪我を治すものだしなぁ…毒は浄化出来るが病気は難しいらしい。風邪とかなら大丈夫そうだが…


「…何でも治す薬草はありませんが、高い治癒効果がある物は存在します。それを飲ませればもしかしたら…」

「本当かっ!?」

「そんなもの有るの?」

「はい、神獣…ユニクスの血がそれにあたります」


 ユニクス?名前的にユニコーンみたいな奴か?というか、神獣とか荷が重いんですけどぉ?


「神獣…か……ユニクスなど実在するかも分からないのだが……」

「実在はします。会った事はあるので、場所も大体分かってます」

「そうなのか?!」


 会ったのか……神獣に会ったのかウチのメイドは…何という非常識…


「お前は腕も立つとは分かっている…神獣の血の入手…出来るか?」

「可能でしょう。ですが、相手は神獣…流石に厳しい依頼になります。報酬はそれ相応の物を頂きます」

「…分かっている。だが、見ての通り我が屋敷には財産などほとんど無い。ユニクスの血となるとどれほどの価値になるか…」

「ご安心を、私達が欲しいものはお金ではありません。そして貴方はその欲しいものをお持ちになってます」


 ここで馬車を譲ってもらう交渉をするのか…なるほど、高額な物を提示して、対価にはユニクスの血に比べれば安いであろう馬車を頂く…交渉はまず成功するだろう。

 神獣に会って生きて帰っているという事は、強すぎる神獣という訳ではないのだろう


「…何が望みだ?」

「馬車です」

「馬車だと?…それこそユニクスの血を売れば数台は買えそうだが」

「そんな高額な物、買う者をさがすのに一苦労します」


 馬車数台って…数千万ポッケですか?おぉう…急にレベル高い話になってしまった…マオ何かすでに内容が分からず寝そうになっている。


「…分かった。ユニクスの血が手に入った暁には馬車を譲る事にしよう」

「ありがとうございます…では」

「その前に息子を見せてもらえない?」

「…よかろう。お前達は優秀らしいし、ひょっとしたら原因が分かるかも知れぬ」

「ありがと」


 息子を見ても何の病気かなんて分かるわけないのだが…どんな状態かは見ておきたい。

 まあ奇跡ぱわーなら難病でも余裕だろうが、助ける手段があるのならわざわざ他人に使うまでもない。神獣とやらも見たいし



☆☆☆☆☆☆



 息子の部屋は二階だった。途中で名前を聞いておいた。「アラン」というらしい。何か強そうな名前だが病弱と…

 部屋の前まで来た。そういえば使用人をまだ一人も見てないな…余裕なさそうだし、仕方ないか


「アランは昼間はほとんど寝ている。夜は起きてはいるが、ほんの少しの間だけだ…動くのもままならないらしい」

「そう…」


 部屋に入った。貴族の部屋にしては何もない、病気で何も出来ないから必要な物以外ないのかも。

 何もせずに1日中寝たきりとか辛いだろう…



……



「なぜかな…私も一年ほど寝たきりだった気がするわ」

「夜に起きてもおられましたね、少しではなく徹夜でしたが」

「追い討ちはいらないわ」


 病人と一緒にしないで欲しい…悲しくなるから。今は自分のダメさより息子の容態を確認しないと…


「…これは辛そうね」

「そうですね」

「苦しそうです…」


 アランとやらはアグラダと違って痩せ細っており、顔色は真っ青だ。静かに息をしているが、死んでるようにも見える。


「これは急がないといけないかもしれません」

「そ、そうなのかっ!?」

「あなた…随分余裕ある話し方してたけど気付かなかったの?」

「あ…ああ……ずっと長い事こんな状態だったから…まさか……た、頼むっ!アランを!ユニクスの血を持ってきてくれ!」


 あー…病気ではあるが、長い事無事だったからまだ大丈夫と思ったか……まあ言われなくても持ってくるけど

 ユキの診断によれば、今日明日が峠という事は無いが、来年を迎えるのは難しいとのこと。


「では、先ほど言いかけた事ですが、神獣の居る地は遠いので、馬車を先払いで譲って頂きたいです」

「…そんなに?」

「はい、国外になりますので」

「うそー…」


 国外とか遠いなぁ…


「…わかっ…いや、まさか馬車を持ち逃げする気ではあるまいなっ?!」

「しないわよ。そう思われても仕方ないけど」

「馬車を使わなければ間に合わないかもしれません」


 本当は馬車より走った方が余裕と思うのだが…高速移動は嫌なので黙っておく。いや、まてよ…


「…そんなに心配なら、マオでも人質に置いて」

「やです」


 私の話を遮るほど嫌か…私は論外だし、ユキが行かなきゃどうしようもない…む




「良い人材がいたわ」




★★★★★★★★★★



 今は良い人材を連れてくる為、場所で五丁目に帰っている最中だ。

 御者は怒鳴らない方の護衛のキールだ。カールとやらの兄だとか。


「ご主人様…本当に宜しいのですか?」

「どうせ暇してるだろうし大丈夫よ」

「そうではなくて…セティ様はあれでも容姿はかなり優れている御方なので、万が一という事も」

「優れている?お母さんが?」


 聞いて分かる通り人質候補として母を連れてくる事にした。親を人質に出すとか娘として終わってる…が、あの母ならいいや


 ちなみにアグラダの妻は別れて実家に帰ったらしい。貴族が離婚とかどうなんだって思う。この事がユキを心配にさせているようだ。


「ご主人様のお母様ですし、ご主人様が大きくなってたらセティ様の様になっていたのでは?」

「そう言われたら優れていると言わざるを得ないわ」

「ですから心配なのです」

「アグラダがお母さんを寝取るのではと?おばさんよ?おばさん」

「セティ様はまだ34歳なので若い方です。見た目も若いですし」

「高級な化粧品での若作りでしょ」


 化粧を落とせばびっくりするかも。いや…確かに風呂上がりのすっぴんも若く見えた気もするが……


「でもまぁ大丈夫よ、きっと」

「はぁ……」


 心配性だなぁ…ユキも。母に何かあったら私が悲しむのでは?って考えての事だろうから少しは悪いと思うが…


「お、お姉ちゃんのお母様……きき緊張します…」

「なんでよ…」


 マオは結婚の挨拶でもしに行くかの様な緊張ぶりだ。変な挨拶はしないでと願う




「…君達の心配はわかるけど…アグラダ様はそんな事しないさ」


 御者のキールが話かけてきた。


「そうなの?」

「ああ…アグラダ様は、アラン様がご病気になる前はとても素晴らしい統治をされていたんだ」


 ほう…つまり極悪貴族には見えないという私の勘は当たっていたか…


「アラン様の病気を治す為に高価な薬や治癒士を雇っていたら財政が苦しくなってね…それで重税さ。村民達には悪いんだけど…僕達兄弟を拾ってくれたアグラダ様に苦言を言うことは出来なかった…」

「ふーん…」

「がっしりした体格だったけど、息子を治せないストレスで暴飲暴食した結果が今のアグラダ様の姿だ…途中で奥様と別れた事も起因しているかもしれないけど」


 拾われた立場なら確かに言いづらいだろうが、ちゃんと忠告すべきだった…もう民の不満は爆発間近であると思う。

 息子が回復したとしても、果たして村民が次期領主と認められるか…


「考えても仕方ないわ。彼が選んだ道だし、ツケを払うのは彼。…貴族ってのも面倒ね、平民で良かったわ」


 それ以降は無言で五丁目へと向かった



★★★★★★★★★★



 数日ぶりの五丁目だ。だが母に会うのは結構久しぶりな気がする。

 キールには馬車と一緒に門の外に待っていてもらった。


 家に帰るまでに遠巻きだが割と声をかけられた。五丁目名物として手を振っておいた。…名物キャラの地位を案外受け入れている自分がいた


 しばらく歩いて久しぶりの我が家に着いた。


「質屋に駆け込む生活とやらを見せてもらいましょうか」

「今までと変わらないかと」


 私もそう思う。自分の家なんだがコンコンとノックした。家の中からパタパタ小走りする音が聞こえ、ガチャリとドアが開いた。


「はーい…って去り際に私を辱しめたペドちゃんとユキちゃんじゃない」

「まだ根にもっていたのね」

「当たり前よ…で、なにしに帰ってきたの?ひょっとしてお母さんが恋しくなって帰って来ちゃったの?ペドちゃんかーわーいーいーっ!」


「お母さんに貴族の慰み者になって欲しいの」

「あなたなんか私の娘じゃないわ」


バタンッ…ガチャ


 何だか母娘がいがみ合う内容の演劇で使われそうなセリフと共にドアが閉められた。


「冗談よ、お母さんには貴族の人質になって欲しいだけよ」

「似たようなものでしょ!ペドちゃんのあほっ!親不孝者っ!」

「家庭崩壊起こしかねないあなたに言われたくない」


 やはり交渉は難しいようだ。今の所全く交渉になってないけど


「人質というのは名ばかりよ…お母さんには私達が薬を取りにいく間、その子の看病をお願いしたいだけ。その子はお母さんも居ないし可哀想でしょ?」

「何で見ず知らずの子を看病しなきゃいけないの?嫌よ面倒くさい…ユキちゃんに取ってきてもらって、ペドちゃんが看病すればいいじゃない」

「嫌よめんどくさい」

「…確かにお姉ちゃんのお母様です…そっくりなのです」


 嫌な納得の仕方された…母の中には見ず知らずの子を看病する優しさなんざ無いのだろう、私も無い。


 とりあえずドアを開けてもらって引きずり出そう、我が母ながら面倒な生き物だ…


 その場で作戦会議して、あっさり金品で釣るという結論に至った。何だかなー…と思いながら再び自分の家の戸を叩いた。

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