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幼女と貴族

「お前がユキか?」


 この部屋で唯一メイド服を着てるのはユキなので、貴族はすぐに分かったようだ。


「この娘の主人は私。だから話なら私が聞くし答えるわ」

「…無礼なっ!この方は…」

「よせ…私は四番地の村の領主をしているアグラダ=サラス…貴族階級は男爵だ」

「私は…フィーリア、ただの平民よ」


 男爵というと…貴族階級では一番下だっけか…


「平民風情がアグラダ様に何という言葉遣いを!」

「黙っておれ、カール。しかし、確かに貴族相手というのに物怖じしない娘であるな…少しは常識を身に付けねば痛い目を見るぞ?」

「心配無用よ。普通の貴族にはそれなりに礼儀正しく接するわよ」

「つまり…私は礼儀を尽くす必要のない相手、という事か…」


 ああ…そういう事になるか。だがハズレだ。礼儀を尽くす必要は無いのは当たりだが


「ハズレ。貴方は言葉遣い程度で怒る人物とは思えないからよ。だったら慣れない言葉遣いする必要無い」

「ほう…私がお前を罰する事はない、と?」

「私は人を見る目はあるの」


 アグラダは面食らった様子を見せた後、実に愉快そうに顔を歪める。

 外見は完全に悪い貴族みたいなので笑うと邪悪に見えるな…


「中々面白い小娘だ…では、主人であるお前に話すとしよう」

「明日にしてくれない?夜に女性の部屋にノックも無しに入ってきた常識ない貴族さん?」

「こっ……!」


 護衛…カールだっけ、がまた怒鳴りかけるがアグラダがまたもや制した。


「分かった。だが、こちらも急いでいるのでな、明日の朝…一緒に四番地まで来て欲しい。訳は道中に話す」

「分かったわ」

「…夜分に失礼した」


 と言ってアグラダは部屋から出ていった。こっちの要求をすんなり飲んだな…他の極悪貴族なら問答無用でユキを連れていこうとするだろうが


「お姉ちゃんすごいです…」

「はいはい…ユキ、下の食堂でアグラダって奴がどんな奴か聞いてきて」

「かしこまりました」


 返事をして直ぐ様行動してくれた。前はともかく、今はマオもマイちゃんも居るから少しくらいは私から離れてもいいと判断したのだろう。


☆☆☆☆☆☆



「ただいま戻りました」

「ご苦労様」


 聞き込みを終えたユキから早速アグラダの人物像を話してもらう。


「まず、評判が良いか悪いかと言いますと、だいぶ悪いみたいですね」

「へー…まあ、見た目がオークじゃねぇ…」

「いえ、彼の領地である四番地の村なのですが、かなりの重税をかけられていて、民の生活が厳しい様です。村から逃げ出す者もいるようですね」

「村民が減れば収入も減る。減った分を補うために残った村民に更なる課税をした…とか?」

「仰る通りです」


 まさか平和そうなこの国でそんな事になってる村があるとは…五丁目の平和っぷりを考えたら恵まれた町に生まれたもんだと思う。


「というか、領主なんてものが存在してる事すら知らなかったわ。五丁目にも居るわけ?」

「もちろんです。五丁目の領主は変わった方なので、平民となんら変わらない生活をしている様ですから気付かないのも無理ないですが…」

「不必要な贅沢はしない、と。ウチの母親に是非とも見習って欲しいわ」


 全く気付かなかった…もしかしたら町ですれ違っているかもしれない。

 誰だか知らないが、五丁目の領主はいい人って事で納得しとこう。


「ちなみに五丁目の各門に居る門番は領主の私兵です」

「騎士では無かったのね」


 騎士が門番なんかする訳ないか…城ならともかく


「話を戻すけど、アグラダが評判通りならあの対応は不味かったかも」

「実際気分を害した様子は無かったので大丈夫と思われます」


 それならいいが…初めて町でみかけた時はパッと見は極悪人だが、外見ほど悪い貴族とは思えなかった。

 だがやってる事は極悪貴族だし、評判も悪い。


「勘が鈍ったかな?典型的な極悪貴族に反応するとは私の面白センサーも落ちたものね」

「それは明日話して見ればわかるかと」


 それもそうだ…明日話してどんな人物かより詳しく調べてみよう。だが、私の興味とは関係なしにやらねばならぬ事がある


「アグラダから馬車を頂戴しましょう」

「…上手く貰えるかはわかりませんよ?」

「アグラダの目的は何となく分かる。大丈夫でしょ」

「ご主人様がそう仰るのなら大丈夫ですね」


 ユキにはそう言うが、ホントの所、上手い事話が進むかは難しい。しかし、予想が違っていても何とかなるだろう。

 無理だったら無理だったで予定通り一丁目に行って別の手段を考えればいい。


「わたし…いらない子になってます……」


 会話に全く参加出来なかったマオがいじけてた。意外と扱いがめんどくさい娘だ……


「今日は早めに寝ましょう…あの様子じゃかなり早くに迎えに来そうだし」


 言ってベッドにダイブした。固めの布団だったので割と衝撃が酷い…


「お風呂は宜しいのですか?」


……


 忘れてた。着替えすらしてないので、危うくゴスロリのまま寝る所だった。


「服がしわくちゃになる所だったわ…そうだ、マオの着替え無いじゃない」

「私のをお貸し致します」

「ありがとうございますっ」


 アグラダの話次第ではしばらく買い物出来そうにないし、ユキの衣服で我慢して貰うか


「でも下着まで借りるのは何か嫌じゃない?」

「1日くらい着けなくても大丈夫ですっ」

「やっぱり淫魔ね、この痴女」

「ち、ちがいますっ」

「洗濯したらすぐに乾かしますから大丈夫です」


 それがいい。服を脱いだらノーブラノーパンの痴女と一緒に旅とかしたくない。寝る時は全裸とかいう人も居るらしいが、災害が起きて家から逃げ出す時に素っ裸で出るのだろうか?


 アホな事考えても仕方ないので、さっさと風呂に入って寝る事にした。


★★★★★★★★★★



 日の出と共に起こされた。何もこんな早くに起こさずとも良い気がする。


「…いくら何でも早すぎよ」

「時間は聞いてませんでしたし、早めに用意して損はないですよ」

「日の出と共に来るバカいると思うの?」

「女性のあられもない寝姿を眼に焼き付けるゲス野郎かもしれませんので」


 別に寝相は悪くない…いや、悪いというか酷いのが隣にいた。誰かと言えばもちろんマオ。

 うつ伏せに寝て何故か寝間着のズボンがずり落ちて尻が露出している。下着は着ているが…何で尻が出たのか経緯が不明だ。何だ?私の身内は尻にこだわりでもあるのか?


「…きゃー、オークがお尻丸出しのマオちゃんを鼻息荒くみてるー」

「わっひゃあああああああああっ!!!」


バタバタッ!ドスッ!


 私の棒読みなセリフを聞いて慌てて布団を被ろうとしたが、布団ごと床に落ちた。


「目覚めはバッチリね」

「いたい…ひどいです……」

「貴女の寝相の方がひどい」


 朝起きてすぐにマオの尻を見る…実に清々しくない。むしろ私が被害者だ。ベッドから転げ落ちるくらいの罰は受けて欲しい


「起きたなら着替えなさい」

「うー…」


 その後は皆着替えて部屋で待機。マオの着物は一人では無理じゃないかと思ったが、別室で普通に一人で着た。まあ昔から一人で着てただろうし、慣れているのかも…


 朝食は部屋でとる事にしたのでユキに食堂から持ってきて貰った。というか朝食とか久しぶりすぎる


「どうしましょ?誰かさんの尻が頭に浮かんで食欲なくすわ」

「もうっ!忘れてくださいっ!」

「もうお尻見せないで下さい」

「うううううぅぅぅっ!」


 ああ…久しぶりの朝食後の紅茶の美味しいこと…ちなみに朝食のメニューはパンとサラダとコーンスープという軽めと言える朝食だ。

 私は普段食べないからこれでも十分だった。



コンッコンッコンッ



 と、ノックが聞こえた。今回はちゃんとノックがあったか…どうやら学習したようだ。「どうぞ」と声をかければ、やはり昨夜の貴族達が入ってきた。


「おはよう。早いわね、急いでるとは聞いたけど…」

「そうだ、移動用の馬車は用意した。悪いが早速出発するから来てくれ」


 せっかちな事だ…だが馬車と聞いて内心ほくそ笑む。やはり男爵とはいえ貴族…馬車は所持していた。


「行きましょう」

「わかりました」

「はいっ!」

パタパタ



★★★★★★★★★★



 馬車は荷物を無くしても6人程度しか乗れなさそうな感じだ。私達が使う分には問題ないだろうが…

 しかし、尻が痛くなるとは聞いたが、ここまで揺れればそりゃ痛くなるか…何か柔らかい物を敷かないとなー…


「例えばマオとか」

「はい?」

「何でもないわ。それよりお尻は大丈夫そう?」

「長時間だと痛くなりそうですねー」


 丈夫なマオでも長時間は厳しいらしい。私はもちろんマオの上に着席済みだ。椅子係とか決めといて良かった…


「じゃあ道中話す約束だった訳とやらを聞かせてちょうだい」

「うむ…実はな、私の息子が病気なのだが……どうも難病みたいでな…もう数年という長年にわたる闘病生活を強いられてる状態なのだ」


 予想通り身内の病気か…初めて見た時に転がった瓶を護衛に任さず、わざわざ自分で必死に集めてたからあの瓶の中身は大事な…高価な薬か何かじゃないか、と思ってた。


「子供とぶつかって落とした薬は効かなかった様ね」

「…何だ、見てたか…その通りだ、どんな高価な薬を使おうとも息子の病気は治らなかった」


 つまり、普通では入手出来ない様な薬草を採ってきて欲しい…といった所か…?うわぁ…めんどくさ……


 何となく外を見てたらモブオが進行方向から歩いてきた。


「すぐ済むから馬車を止めて」

「…少しだけだ」


 急いでいるが、案外すんなりと要望を受け入れてくれた。やはり悪い奴ではないのかも…


「しけた顔してる所を見ると、依頼は失敗したようね」

「うおっ!?なんだ…貴族に声をかけられたかと思ったらペドちゃんか」

「えぇ、あなたは今まで依頼やってたわけ?珍しい…」

「ああ…依頼料が高いから気合い入れたんだけどなぁ…」


 依頼料が高いという事はそれなりに危険な依頼ではないのか?


「生きて帰れただけマシね」

「いや、危険度はCなんだけど…実は魔物は大した事ないってノエルちゃんが言ってたからさ…結局見つからないし…諦めて帰る所だよ」


 隠れるのが上手い魔物か…なるほど、それは一人では難しい。というか一人でやる依頼じゃないだろ…どこに居るか分からない魔物を見つけるとか…


「それってどんな魔物?夜に出るとか言ってたけど」

「パラダイスゴースト…だったかな?まあゴーストだよ」

「おめでたい魔物が居たものね」

「違ったっけ?…まぁいいか。んじゃ、俺はギルドに戻って依頼失敗を伝えなきゃいけないから」

「えぇ、ご苦労さま」


 モブオは依頼失敗に慣れていると見える。流石は五丁目筆頭の穀潰し。だが、潔く諦めるのはいいことかもしれない。




 その後は止まる事なく村まで進んだ。時間にしておよそ2時間か…結構離れた所にある…

 馬車を用意したと言ってたが、多分町まで馬車で来てたに違いない。


 村に入って見渡してみると、まるで活気がない。家もボロけりゃ時折すれ違う村人の着てる服もボロい。

 大人も子供もかなり痩せている…馬車が通る度に睨まれる始末だ…

 これはかなり嫌われてるなぁ…重税を課しているというのは本当みたいだ。


「着いたぞ」


 どうやらアグラダの屋敷に着いたみたいだ。さてさて、この馬車を入手するために頑張りますか

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