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幼女、国落としを決意する

「では定例会議という名のただの論議を始めます。司会はいつも通りこのキキョウが。今回の参加者はアン様、フルート様、奴隷代表のアカネ様です」

「奴隷代表って微妙な響きよね」

「それで、いつもの様に重要な案件から申していけばよいのでしょうか?」

「その通りですフルート様」


 まあ重要な案件とかこの国にはあって無い様なものですけど。

 せいぜい我が君に関連した事ぐらいです。


「では一つ目がこちら。一つ目ちゃん働きすぎ問題です」

「それは重大な問題ですね」

「確かに、一つ目様は毎日のサボりタイムをサボってでも農業に勤しむ農家の鑑の様な方ですからね」

「サボりタイムをサボるって何ですか」


 アルカディア国内で働く者には毎日一定時間サボって言いと言う意味不明な制度があります。

 普通に休憩時間と称してくれればいいのですが、我が君的にはサボるという言葉が心に響いてくるのでしょう。


 どんな国だ。


「それはともかく一つ目ちゃんの話です。今は我が国に食料を集りに来たクズ共に手伝わせてはいますが、ずっとこのままと言う訳にもいきません」

「奴隷兵達に手伝わせては?」

「彼女達には冒険者として戦闘の経験を積んで貰う方を優先させたいのです。少しの間なら構いませんがずっとと言う訳にはいきません」

「なら、普通に誰かを雇うか奴隷でも買えば?」

「今なら奴隷もまだ値下がりしてるでしょうし」

「まあそうなりますね。これは次の議題にも関係した話になりますので早急に手を打つとしましょう」

「次の議題?」


 一つ目ちゃん問題はまあ財力に任せれば解決は可能です。

 ただフィーリア様達が戻って来なければ奴隷を買う事も出来ないので当面は交代で奴隷兵達に手伝わせるという結論に至りました。


「という訳で次の案件です。そろそろ集りに来たクズ共を追い出そうと思います」

「まあ、あともう少し経てば食料問題も解決しそうですし構わないかと」


 金も落とさず、ちょっと手伝って食料を集る奴等なんざ客じゃねぇ、という事でこちらはあっさり可決されそうです。

 ただ、フルート様はどこか思案顔になってますね。


「少し良いでしょうか?あの者達を追い払うのは構いませんが、単に追い出すだけでは彼等によって我が国の悪評などが流されると思うのですが」

「つまり口封じの為に皆殺しにしろと」

「フィーリア陛下ならそうするかもしれませんが、そんな事はしません」


 まあフルート様の懸念はご尤も。

 何せ我が君が直々に拷問という名の処刑をやっちらかしてますし……


 奴等は様々な国からアルカディアへやってきてます。

 きっと各国の間でアルカディアではなくヘルヴィレッジとして名が響く事でしょう。


「我が君は先の先を見る御方です。悪評を広まらせる事も何かしらの思惑があるのでしょう」

「そうかな?」

「アン様、無駄な反論せず肯定なさい」

「そうだよ」


 よろしい。


 まあぶっちゃけ我が君の暇つぶしとして処刑を行った感が半端ないですけど。

 一応私なりに我が君の思惑を考察してはある。


「我が君の思惑としては、恐らく身分、老若男女問わず処刑する事で今後アルカディアを訪れる者は敵対する意思が無い者が主流になる、とお考えなのでしょう」

「ふむ、全ての者が大人しくしてくれるかは不明ですが、少なくとも威張り散らす馬鹿がやって来る事は減るでしょうね」

「でもさぁ……悪評が流れてナイン皇国を筆頭に正義を振りかざしたアホが攻め込んでくる可能性もあるんじゃない?」

「それはフィーリア陛下が喜ぶ案件です」


 全くです。それも我が君の思惑の一つかもしれません。


 しかし、妖精の宴によってサード帝国と懇意であると知らしめてしまいましたし、何より天使相手に無双したというのですから攻める度胸のある馬鹿は居ないでしょう。


 幼女が怖くて手が出せない。何と言う恐怖政治。政治かこれ?


「さて、では最後の案件ですが……」

「なにそのしかめっ面」

「いえ、今まで忘れてたと言いますか、気にしなかったと言いますか……ともかく何とも言えない案件がありまして」

「何でしょうか?」


 フルート様は知らないかもしれませんね。

 いえ、ここに居る方達は私以外は存じないかもしれません。


「かつて我が君のお仲間だったアリス様。いつの間にか消えてしまわれましたが、何処へ行かれたのでしょうか」



★★★★★★★★★★



「びゃええわああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 城に戻ると、そこは幼女の突進だった。


「効かぬわ」

「ぐゎえっ」

「うわ、幼女のラリアットがもろに首に」


 ふ、ニボシと違って雑魚だなコイツ。悔しかったらニボシの弟子になってデスタックルを覚えて出直す事だ。

 良い所に入ってしまったのか転がりながら悶絶する泣き幼女は放っておいてサユリ達の元へ近付く。


「おっぱい拾ってきた」

「すげぇもん拾うわねアンタ」

「情けなくもこうして生きて戻りました」

「生きててなによりじゃない」


 おっぱいことカオルは帰還した報告とむざむざと部下を多数失った件についてサユリに報告している。

 ヒミコに報告すべきなんじゃないかと思うが……やはりお飾りトップか。


 なので暇そうなヒミコに頼んで暴れてるであろうユキとサヨを水晶で見る様に頼んだ。




 水晶に映るは雑魚を相手に当然の如く無双するユキとサヨの姿。

 雑魚なだけあって2人とも化物だと悟ると無様に逃げ出している。が、私の生き様を間近で見てきただけあって容赦なく追撃して殺しまわっている。


 どっちも遠距離から攻撃出来ると分かっただろうに……逃げずに戦えばいいのに。

 ヤベーと思ったのかバラバラに散って逃げ出してはいるが、サヨの符術による攻撃は追撃するんだよなぁ。


 雑魚の中でも見所のある奴は果敢にも2人に向かって行っているが、結果は何も出来ず無残な死あるのみ。

 と、思っていたらユキに近付く一匹の雑魚を確認した途端にまた水晶から眩しい光が溢れた。


「まだ自爆する奴が居るのか」

「いやいやいや!お仲間のお二人様は大丈夫なのでしょうか!?」

「ふ、ウチの連中はカオルとは違うのよ」


 多分だけど。


 まあ魔法一発食らった程度で死にはしまい。

 水晶に映る風景は砂塵に阻まれて何も見えないが、メルフィのお陰で声は聞こえてくる。


『姉さん。近付いて来た敵を殺したら爆発しました。びっくりです』

『決死の自爆をしてきたんですから怪我の一つくらいしてみせなさい、変態ボディ』

『ふ、私の防御力は日に日に増しているのです』


 死ぬどころか無傷だった。

 流石は装備なんて要りません勢。実に変態である。


「今のってカオルがやられたヤツと一緒?」

「恐らく……」

「会話から察するに何ともないみたいね。大したもんだわ、カオルもあのくらい目指しなさい」

「無理です」


 カオルに変態になれとは酷な事を言う。


 しかし自爆するヤツが増えてきたな。ハン国もいよいよ本格的に殲滅に動き出したのかね。


「ヒミコ様、カオル様。私は今からハン国内に攻め込むべきだと思います」

「部隊が壊滅に近いくせに何を言ってるの」

「私に対して自爆してきたあの伝令……あの者は国外に出てはいません。つまり敵はヒノモトに潜入してあの者の記憶を改竄したという事になります」

「つまり、兵どころか民の中にも急な裏切りをする奴が居かねないって事か」

「狙ったかの様に行動を起こす事から改竄された者が自発的に行動したとは考えにくいです。恐らく敵から何かしらの合図があるのでしょう」


 つまりハン国側が何か操作をして始めて記憶が改竄されるという事か。


 個人的にはそれはねーだろって思う。

 引き金になったのは戦争なのだろう。戦になれば兵は敵を殺す。記憶を書き換えられた事を知らない奴等はカオル達隊長の命令通り敵を殺す、ただしそれはヒノモトの兵だがな。


 カオルの凡人脳による考察はともかく、ハン国に攻め込むってのは賛成だ。


 カオルの言った通り敵から何かしら操作があって味方が裏切るってのは無いだろうが、あの妖精モドキがヒノモトに潜入して色んなヤツの記憶を書き換えたって線はあると思う。


 同時に仕掛けられるくらいなら片方を潰してから残る方をじっくり潰せばいい。

 となると話が早いのはハン国を潰す方。ヒノモトの住民を一人一人尋問するとかすぐには無理だろ。


「よろしい。カオルにはまだ死なれたら困るからハン国潰しを手伝ってあげましょう」

「仕方ない……カオル、ピコの首は貴女が取るのよ!アルカディアばっかに手柄を譲っちゃダメだからね!」

「クソな上司みたいな事を言いおる」

「びゃ、びゃぅ?」


 何かバンシーに袖を引っ張られた。何言いたいか分からんのだから黙っとけ。


 だがどうにも様子がおかしい……嗚咽で五月蝿かったのが徐々に静かになっていく。

 ついでに目から光も失われていった。


 む、これが噂の病んでる戦闘モードのバンシーか。


 周りの連中も何だろうかと暢気に見ているが、コイツから結構な殺る気を感じるんだけど?

 その殺気を向ける相手は……私じゃねーか!おうおう、やろうってのか!


「……!」

「おやめなさい。貴女では相手になりません」


 ついに飛び掛ってきた幼女の首根っこを掴んだのはみみみだった。


 有ろう事かみみみまで私に対して敵意を見せる始末。


 いや、違う――――


「影に居るわね。誰よ」

『私よ私、すぐ出るから待ってなさい』


 待てと言われて待つ馬鹿はおらん。

 のだが私の影からうぞぞぞと出てくるソイツには敵意は無い。

 という事ですぐにでも攻撃してきそうなみみみとバンシーを止めるとしよう。


「待ちなさい。敵じゃないわ」

「そうは言いますが、ソレからは災厄の気配が感じられます」

「……災厄?」


 サユリが何か呟いたが、まあいい。


 今尚うぞぞぞと影から這い出てくる物体の方が重要だ。口ぶりからして知り合いっぽいが……黒すぎて分からん。

 この姿はみみみが災厄だった頃の分体に似てるので災厄というのも間違っちゃいなさそう。


『ふー、やれやれ、やっと出て来れたわ』

「む、その身長から察するに私の偽者か」

『判別する場所そこかよ。というか偽者とは何よ、恩人に対して失礼ね』


 ……おお、もしやコイツ。負の感情を司る災厄によって消えかけた私を救った他所のペドちゃんか。


「消えたくせに何復活しとんじゃワレ」

『うっせバーカバーカ!妹の為なら2度の死を乗り越えて復活するわ』


 この幼稚な反論。間違いなく私。

 だがこのペドちゃんは確かオバハンの筈だ。まるで成長していない。


 そのオバフィーリアだが、シルエットはかろうじて私なのだが、何とも黒い。髪なんてヘドロみたいにデロデロじゃん。


「何でそんな格好なのよ。もっと容姿に気を使いなさい」

『母親か。仕方ないでしょ、肉体なんて無いし前みたいな仮の身体すら無い。使えそうだったのは貴女の心の奥底に隠れていたソイツだけ……災厄だろうが使えるもんは使うわ』

「私に災厄が宿っていると申したか」

『んー……宿ってはないわ。隠れてコソコソ見守ってるだけと言うか何と言うか。心当たりあるでしょ?何か訳分からん内に強化されたとか。あの身体を借りた耳削ぎちゃんの時から誰の仕業だったのか疑問だったのよねぇ』

「ある様な……どうよマオ?」

「耳削ぎ化の事だと思いますっ」


 だから耳削ぎって何だよ。


 だが少なくとも訳分からん強化の経験はあるらしい。

 その強化は災厄が手を貸してくれていたと……


『過保護なのよ、ソイツ。逢う事があれば分かるわ。貴女が堕ちない限り逢う事はないでしょうけど』

「貴女の姿の事は分かった。で、何しに出てきたの?」

『すでに察してるくせによく言う……アリスの為に決まってるでしょ。どっかの馬鹿が甦らせやがった様だからね』

「……私の偽者を創った奴の仕業か」


 先に殺しておくべきだったか……と言うのも今更だ。

 だが世界から存在を抹消されてるアリスの偽者を創るとは思わなかった。


「アリスは何処に?」

『だから分かってて聞くな。狙いは貴女、つまり貴女が出向く場所……何ちゃらとか言う国よ』

「ハン国か……ふん、丁度潰しに行こうと思ってた所よ」

『残念だけど、貴女の出番は無いわ。やるのは私……あの子の姉は私だから』


 そう言われては仕方ない……私だって実の妹のアリスを始末しなきゃならなくなれば、自分の手でケリをつけるだろう。


『さて、時間をかけたくないから私は行くわ』

「邪魔はしないから安心なさい」

『貴女が邪魔しない事くらい分かってるわ。何せ私だもの』


 そう言って城の窓の方へ向かう。


 それを見たヒミコが慌てて窓を開けた。

 絶対に窓をぶち壊されると思ったのだろう。正解だ。


 開け放たれた窓へ災厄と化したオバフィーリアが進むが、ふと立ち止まった。


『ペド・フィーリア』

「ん?」

『後始末は任せたわ』

「ったくしょーがねーなー」

「それはナイン皇国の勇者の台詞よリーダー!」


 こちらのボケとツッコミには目もくれず、窓から飛び立って行った。


 と思ったが窓からジャンプしたらそのままドンと落ちて飛び立ってなかった。

 あまりのダサさに思わず窓に駆け寄り声をかける。


「死んだか!?」

『死ぬかっ!』

「あんだけシリアスだったんだからもっと颯爽と飛び立てよ」

『うっせバーカ!災厄になれば飛べると思ったら大間違いよクソアホ!』

「うむ、貴女はやはり私よ」


 どうやらダメージは無い様だ。流石は災厄ボディ、物理無効はお手の物か。

 飛べはしなくともスピードは出せる様であっと言う間に見えなくなる程の速さで去っていった。


「いいんですかお姉ちゃん……アリスさんを見殺しにして」

「…………ああ、記憶が戻ったのね。残念ながら私達の仲間だったアリスじゃないわ、あの子は消えたもの。ハン国に居るのはアリスの形をした偽者よ」

「え、アリスさんって成仏してたんですか!?」

「そう言う事。さて、私達も行くわよ」

「邪魔しないんじゃなかったの?」


 何を馬鹿な。

 邪魔なんてする訳がない。災厄のオバフィーリアの登場で忘れてるのかもしれないが、さっきまで別の話をしてただろうが。


「ハン国を滅ぼしに行くに決まってんでしょ。準備は要らないわよねカオル」

「すぐにでも」

「宜しい。サユリ、飯の用意はしときなさいよ。ユキとサヨが戻ったらハン国に向かったと知らせてちょーだい」

「はいはい分かったわ」

「おや、憑き物が落ちた様な顔をしてるわ」

「そうね、占いで知り合いが死ぬって出て心配してたら死んだのが隣の奴でホッとしたって感じよ」

「サユリ、例えが酷いです」


 アイツが居なくなって再び泣き出したバンシーはここに放置していくとして、頑張らないフィーリア一家総出で国落としに出発といこうか。


 ……そう言えばハゲテラスの姿が見えない。

 あの股間ハゲ、余計な事をしなければいいが。

長らくお待たせしました。投稿間隔は不明ですが更新再開です。

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おもろかった ありがとう抱っこちゃん!
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