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幼女、凡人を救出する

 飯時になると、サユリ達は何事も無かったかの様に戻ってきた。

 怪しい、怪しいが何も言わないでおいてやろう。


「飯は何?」

「まだ準備中よ。大人しく待ってなさい」

「暇なのよ。ナキサワメの祠は行っちゃったし、何か他に見所ないの?」

「見所って言われてもねぇ……小国に何を期待してるのよ」


 ないんかい。


 それはともかく、今のサユリは至って普通だ。

 だからこそ、さっきまでの妙な雰囲気が怪しい。のだが、何も言わないと決めた以上言わない。


 ひょっとしたら単に気分が悪かったという場合もあるな。

 まあ回復するのが早すぎるから何かしら悩みがあったが解決できる手段が見つかったから元気になったってのが一番無難な考えじゃなかろうか。


 ふーむ、私に関する悩みとはなんぞや……


「見所とは違いますが、もう夏ですからね……そろそろ妖怪おてもやんが現れる時期になります」

「その弱そうな妖怪は何?」

「性質の悪い奴よ。夏になると夜中に女性の寝込みを襲って強姦する犯罪者ね。未だに捕まえられてないのが悔しいわ」

「犯罪者が見所とな」

「襲われる女性ってのがヒノモトで評判の悪い奴でね……残念ながら一部の民達の間ではヒーロー扱いになってるわ」

「特に襲われた女性からキツイ当たりをされた方なんて感謝する始末です」


 へー、そんなのが現れると分かってて評判悪い振る舞いをする女ってのもどうかと思うが、住民を味方につけるとは犯罪者のくせにやりおる。

 しかし評判悪い女性に絞ったら自分の好みの女じゃなかったり、悪けりゃババアを襲う羽目になると思うのだが……美人を狙う訳じゃないなら快楽目的ではないのかもしれない。


「妖怪おてもやんですか……私がヒノモトで修行してた頃は聞かなかった名です」

「リーダー、ちょっと10ポッケ硬貨でコイントスするわ。裏出すから見てて…………はい、裏!」

「表やん」

「失敗!じゃあ今度は表!」

「裏やん」

「……あんたらいつもこんなしょーもない会話してるの?」

「いつもではありませんが、大体毎日こんな感じです」

「それをいつもと言うのよ」


 しょーもない話は置いといて、その妖怪は評判の悪い女を犯す事で得られる何かがあるのだろう。

 まあそんなに長い間ヒノモトに居るつもりはないので深く考える必要は無いか。


 ただでさえイベントが目白押しなのにそんな妖怪に構ってられん。


「そういやカオルが戻って来ないわね。まだ戦ってんの?」

「当たり前でしょ……そんな早く戦が終わったら苦労しないわ。今は西門か東門で敵を撃退してるでしょうよ、多分」

「覗きの水晶で見りゃいいじゃない」

「覗き言うな……仕方ないわね。頼んだわヒミコ」

「はいはい」


 というか自分の国の連中が戦ってるってのに何故にこんなに無関心なのか。

 よほどカオルを信頼してるとかそういう理由かね。


 ヒミコがいそいそと用意した水晶を囲んで映るのを待つ。

 少し待つと、どっかの門であろう場所が浮かび上がってきた。


「東門には居ないわね、なら西門か」

「東門はすでに防衛しきったみたいね、やりおる」

「……あ、居た」


 確かに居た。

 門の真正面に立ち指揮をしているらしい。

 本当なら自分から特攻したいのだろうが、どうも西門はヒノモト兵が多く配置されてるらしく、カオルは指揮に専念せざるを得ないようだ。


 やっぱ少数精鋭最高だな。


「てか声が聞こえん」

「見えるだけで十分でしょ」

「音声大事。という事でメルフィ何とかして」

「ん。風の精霊、盗聴よろしく」


 カッコいい呪文唱えろよと言いたいが、精霊は馬鹿なのでこんくらい簡単な指示の方が分かりやすいか。

 メルフィの指示で精霊が声を運んでくれたのであろう、徐々にカオル達のものであろう声が聞こえてきた。


「何て言うか、何でも有りじゃない……精霊魔法って」

「私達の水晶が無くても戦場を把握出来たのでは?」

「どうでもいいじゃない。戦況を気にしましょうよ」


 と言ってもハン国の方は烏合の衆みたいだが……完全に寄せ集めの冒険者が主体のようだ。

 という事はヒノモト側が油断する可能性が出てくる場面でもある。


 カオルが居るから大丈夫、と言いたい所だがまあキキョウ母が何かしら仕掛けてくるなら罠に陥るかもしれない。というかしそう。


 カオルは優秀だが凡人だ。

 何でもそつなくこなせる人材ではあるが、何かに特に秀でている訳でもない。

 要するに器用貧乏だ。


 まあ何かに突出してる輩よりカオルみたいにオールマイティに何でも任せられる人材の方が良いけど。

 何にせよ、カオルは何か仕掛けられていたらまずやられる。


「おや、何か様子が変ではないですか?」

「え、変って……ああっ、一番隊の副隊長が仲間を攻撃しだしてるっ!?」

「姉さんが連れてきた副隊長と同じ症状でしょうね」

「つまり記憶の書き換えか。護衛で外に出た奴等はもう怪しい気がしてきたわ」


 しかしまた中途半端な時に裏切らせたな。

 まあ狙いはカオルなんだろうが、にしては離れた位置で暴れている。


「懲りずにまたカオルさんを狙っているのでしょうね」

「だろうけど、ヒノモトには私達というカオル以上にヤバイ奴等が居るってのに何でカオルを狙うのかね」


 今更カオルを討ち取った所でヒノモトの兵は混乱するだろうが、私達が出向けばハン国滅亡のお知らせになるというのに。

 もしかしたらハン国の奴等にはカオルを殺さなきゃならない理由でもあるのか。

 何か、ヒノモトで重要なポジションというか役割があるのかもしれない。


「サユリ。カオルってば初めて会った時は赤い袴の巫女服だったんだけど、何か意味ある?」

「意味?……意味って何よ」

「こっちが聞いてんのよ。ヒミコ達と違って神に仕える身としてあの服着てるとは思えないのよねぇ……カオルには何か別に役割とか、使命とかあるんじゃないの?」

「……」


 そう言うと二人して神妙な面持ちになった。

 これは何かあるに違いない。そしてそれこそがハン国がカオルを執拗に狙う理由、だったら話が早いのになぁ。


「……そ、そうなの?ヒミコ」

「さあ……カオルの一族の書物でも見れば分かるかもしれませんが、私はカオルが赤い袴を穿いていたのはてっきり趣味かと」

「知らんのかい」


 おうおう、これじゃ私が壮大な勘違いして恥ずかしい奴みたいじゃねぇか。

 ふざけんな、さっさとカオル一族について調べるんだよ。


「はっ!……まさかサヨさんが巫女服を着ている事にも秘密が!?」

「趣味です」

「趣味かよ」


 こっちは趣味だった。


 しかしヒミコ達みたいなお偉いさん方が知らないって事は重大な理由がある訳ではないのかもしれない。

 ふむぅ、ハン国がカオルを狙うのは復讐とかそう言った線かも。


「そんな事より戦況を見守りましょう」

「裏切った副隊長はそこそこの実力者らしいので梃子摺ってるみたいですよ」

「まあカオルなら大丈夫でしょ」

「甘いなサユリ、敵が本当にカオルを狙っているなら……副隊長は囮、本命はカオルに近付く伝令とかそんな奴よ」


 でなきゃ離れた位置にいる副隊長をけしかける意味がない。

 恐らくカオルの元へ向かう敵対心を与えないような雑兵が居る筈だ。


 てか居た。


『カオル隊長!』

『止まりなさい。事態は把握出来ています。なぜわざわざ報告に来たのですか』

『指示を仰ぎに来ました!副隊長はどう対処すれば宜しいですか!』

『裏切り者の対処方法はすでに伝えてます。殺しなさい』


 ヒュー、このあっさり味方を切り捨てる非情さは好き。

 ついでにこの怪しい奴も殺せば完璧だ。


 そう思ってたら動きがあった。

 ヒノモトの兵達をふっ飛ばしながら副隊長とやらがカオルに迫っていたのだ。


 カオルなら副隊長とやらの攻撃なんざ難なく凌げるだろうが、怪しい伝令の野郎がカオルを庇う様に立ち斬りつけられた。

 肩から腰にかけてバッサリ斬られたソイツは長くは持たないだろう。


 カオルは斬られた伝令になぞ目もくれず副隊長の首を刎ねる。

 一撃でやるとかやっぱ庇う必要はない。その強さを知らない筈もない。やっぱアイツ敵だわ。


『……大丈夫、じゃないですね』

『カオル、様……お怪我は』

『ありません。貴女のお陰です』


 有ろう事か、カオルは部下と思われる女を介抱する為に近付いた。

 ……やっぱ凡人だな。


「愚かなりカオル」

「何言い出してんのガキんちょ」

「あの女は高確率で敵よ。さよなら、カオルフォーエバー」


 見ろ、カオルに悟られない様に懐から何か取り出そうとしている。

 刃物か?

 違った。どうやら紙……という事は符術か。良い判断だ、ナイフなんぞでカオルをやれるとは思えん。

 恐らく符術には高威力の魔法が込められているのだろう。


『っ、それは、符術。携帯は許してないでしょう』

『さよならカオル様』


 袖をぐっと握られてカオルは逃げられない。

 そして敵は符術を発動する。


 水晶からまばゆい光が放たれた。

 カオルをアップで映していたので魔法の閃光をモロに見てしまった。


「カオルっ!?」

「すぐに救出を!」


 なかなか派手な魔法だったっぽいからもう死んでるんじゃね?

 惜しい巫女を亡くした。

 本当ならカオルと共に赤い桜の事を解決する筈だったのになぁ……


「そうだ。赤い桜じゃん」

「どうしました貴き方」

「サユリに貰ったこの勾玉、あの口ぶりからして恐らくカオルが使い方を知っている。もしくは……カオルにしか使えない」

「ほほぅ……お姉様の言いたい事はハン国は赤い桜の事を調べられたくないからカオルさんを殺したと?」

「そうね、調べられたくないか……はたまた私達には来て欲しくないか」


 まあ別にカオルが死んだとしても奇跡ぱわーで問題は解決するのだが。


 この勾玉の禍々しさを考えるにそれ相応に禍々しい奴が封印されていると考えられる。

 そして私達が封印されてる場所を向かうのを嫌がっていると仮定したら……ソイツは私達の事を封印されながら観察していたと言う事になる。


 うむ、災厄を飼いならす様な私だ。来て欲しくないのも分かる。

 よし雑魚だ。恨みはないが見つけ次第ボコボコにしてやるとしよう。


 とりあえずカオルはどうなったのかね?



★★★★★★★★★★



「……っ、く」


 不覚でした。

 あれほど警戒していたのに、たかがこの身を庇われたというだけで気を許すとは……アルカディア女王が見てたら鼻で笑われる所です。


 ……実際、笑われてそうですけど。


 幸いな事に即死は免れましたが、もはや身体はボロボロ、まともに動くことすら出来ません。

 あれだけ大規模な爆発だったのです。付近に居た仲間達もやられてしまった事でしょう。我ながら不甲斐ない結果です。


「おいおい、やったぜ。まだ生きてる戦利品がいるぜ」

「瀕死じゃねーか」

「生きてりゃいいさ。死ぬ前に楽しませてもらおうか」

「ここでか?」

「当然だ。何しても言いってお偉いさんが言ってたろ。その場でもなぁ!連れ帰っていざ本番って時に邪魔されたりする方が馬鹿らしい」


 頭上からゲスい会話が聞こえてきます。

 戦利品というのはまあ間違いなく私の事でしょうね……さてどうしましょうか。


 もう身体に全く力が入りませんからね……大人しくしておきましょうか。

 いえ、無理に動かされるのも痛そうで嫌です。


「ほーれご開帳っと……うひょー、いい乳してるじゃねぇか」

「へー、あの服って着痩せするんだ」

「それよりも下着がねぇのに戦慄するわ。やる気満々だなコイツ」


 満々じゃありません。

 戦巫女装束は頑丈ですが、下に着ていた物はボロボロになってるだけです。

 内部にまで影響がある程強力な魔法だったのでしょう……


「つーか肌が火傷で爛れてますぜ?」

「一向に構わん」

「ヒュー、特殊性癖」


 ああ、やはり身体の内部だけでなく外部もボロボロでしたか。

 よく生きてますね私。


 動けないのであれこれ他人事の様に考えてましたら、新手なのか足音が聞こえました。

 どうやら複数の足音っぽいですね。


 ここまでくると悲観すべき状況なんでしょうけど、私は全くしてません。


「人に雑魚の始末を任せといて何してるんですかお姉様は。マリアさんまで混じって嘆かわしい」

「リーダー」

「任せろ。これには浅い訳がある……カオルの状態を確かめる為にはおっぱいを見るしかなかった。つまりそういう事よ」

「ユニクスの血を飲ませりゃ完治するんですから確かめる必要はないでしょうが」

「魔が差した」

「素直で宜しいですが、謝るならカオルさんにどうぞ」


 という事です。

 悪人風を装って何か言ってましたが、声が完全に幼女と女性のそれ。

 しかも聞いた事ある声でしたので全く悲観する必要はありませんでした。


 話が終わると私は何やら液体を飲まされます。

 そしてみるみる身体の痛みが引き、すぐにでも起き上がれる状態になりました。


 ここまで早く怪我が治る代物となると、先程話しにあったユニクスの血なのでしょうね……確かとんでもない高値の品でしたっけ。


「ありがとうございます。情けない姿を見せてしまいましたね」

「気にしなくていいわ。凡人なんてそんなもんでしょ」

「凡人……そうですね。確かに私は優秀ではないでしょう」

「いえ、カオルは優秀でしょ?……秀でた能力が無いってだけ。何でもこなせる人材とかウチに欲しいわ、便利屋として」


 秀でた能力が無い、ですか。確かにそうですね……一つの事に集中し努力をしても、天才には敵わない。

 ならば全てにおいて二流クラスまで習得し、それを駆使して戦う。それが私のスタイルです。


 器用貧乏は煙たがられる存在ですが、敢えてそれを目指しました。

 その結果零番隊の隊長になってるのですから無駄では無かったと思いたいものです。


「さてカオル。私がこうして貴女を助けたのには訳がある。サユリに貰ったこの勾玉、あと赤い桜と貴女の関係、それを教えてもらいましょうか」


 ……そんな事を聞きたいが為に私を?

 別にサユリ様やヒミコ様に聞いても良かったのでは?


 ああ、そうですか。

 この方は無償の慈悲など持ち合わせていない。

 他人を助けるには何かと理由を付けないと助ける事が出来ない。きっとそういう方なのでしょう。


 殺す事には理由がある。

 生かす事にも理由がある。


 面倒な性格をしていらっしゃる。


「分かりました。勾玉に関してはサユリ様が褒美として詳しく説明して頂けると思いますので、私は赤い桜の因縁についてお教えする事にします」

「こんな所では何ですので、城に戻ってからにしましょう」

「サービスとして残る門は私と愚妹で迎撃してあげますよ」

「……ありがとうございます」


 多くの部下を失った筈です。

 援軍として向かえるのはほんの僅かしか残ってないでしょうからこの申し出は助かります。


 ただ、戻る前に死した者達とまだ生き残ってる者達の回収だけは許してもらいましょう。

 愚かで不甲斐ないとは言え、私は隊長ですからね……まあ、今回の失態で解任されても不思議ではありませんが。


 もし、私が隊長ではなくただのヒノモトの戦巫女の一人になってしまったその時は……

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