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幼女、大巫女の側近を怪しむ

 アルカディア女王が参戦、というかただ単にヒノモトから外へ出てきただけで元将軍も実力のあった冒険者も死亡。ついでに軍も精神的に壊滅。

 これ幸いと出陣してきた戦巫女達によってもたらされた被害は2割に満たない程に少ないのでしょうが、見逃された者達が雑魚ばかりという酷い有様。


「で、ヒノモト側に被害はほぼ無くこちらは大損害ですが?」

「大体計画通り」

「嘘おっしゃいな」


 ミュノスは適当な性格してそうで本当に適当ですからね。

 味方に酷い犠牲が出ようがまあいっかで済ますのでしょう。


「んー……まあいいや」

「何がです?」


 私が聞いても何も答えず、ミュノスは部屋の中に居た精霊達を動かし外へ追い出し始めました。

 何をするつもりでしょうか。


「よし、ピコはおねんねしよーねー」

「えぇー」

「すりーぷ」

「ぐはっ!?」


 スリープとは名ばかりのミュノスの持つ杖で頭をどつかれたピコは意識を失いました。

 本当にミュノスはピコに仕えてるのか疑う光景です。


 しかし、意識を強制的に失った筈のピコはすぐさま起き上がり何事も無かったかの様に椅子に座りました。

 いや……よく見ると目の色が違いますね。アルカディア女王の綺麗な真紅の瞳と違い、どこか濁った赤い目をしています。


「我を起こしたという事は、何か進展でもあったか?」

「上質な餌は増えた」

「それはそれは……ところでそこの狐とこうして面を合わせるのは初めてだな」

「何者ですか……」


 アホなピコとは間違いなく違うと判断出来ます。

 まさかとりあえず仕えていた主に怪しい奴が取りついてるとは思いもしませんでした。


「我は魔王ぞ、平伏すが良い」

「そう、この中の人は一番新しい魔王になる」

「一番新しい?」

「うむ。我が魔王と認定されたのはヒノモトとやらが建国されるすぐ前でな。まあ400年前になるか」

「となると、ヒノモトを建国した王に討伐されたという魔王ですか」

「馬鹿者、それは酷い誤解だ。我が異世界人とは言え人間風情にやられるか。引き篭もりライフを送る為にわざと地下に封印されたに過ぎんわ」


 引き篭もりたいなら別に封印されずとも誰も居ない地で勝手に過ごせばいいのでは?

 そもそも魔王とかぬかす割に全く脅威を感じない。


 これならアルカディア女王の方がよっぽど恐ろしい。


「その引き篭もりが何で今更世に出てきたのですか?」

「まるで敬意を感じない。何だこの狐は」

「あなたに威厳が無いのはいつものこと。もはや私一人じゃ厳しい状況だからカエデに詳しい説明すれば?」

「400年の間に我の恐怖はこうも薄れておったか……」


 どうでもいいからさっさとその詳しい説明とやらをしてくれませんかねぇ……どのようにして無駄な命を散らす事になったのかって事を。

 そもそもピコの身体で喋ってるので恐怖もへったくれもありません。


「まあよい。よく聞け狐よ、我の目的はヒノモトへの侵略にあらず。まあ滅ぼす事が出来ればそれはそれでよいのだが……ともかくだ、我の目的はヒノモトにある道具だ」

「道具?」

「恐らく国宝として飾ってあるだろう勾玉だ。それは我を封印から解放する為の道具である」

「なるほど、無駄に全軍突撃させるのは城内を手薄にしてその国宝とやらを奪う為ですか」


 ヒノモトを水攻めしたおかげで街中の警戒も強まった事でしょう。

 これでより城を守る兵も減る、思わぬ所で魔王の手助けをしてしまったようです。


「つまり、あなたの目的は封印を解き外に出る事という訳ですね」

「何を言っておるのだこの狐は……逆だ馬鹿者。封印を解かせない為に国宝を奪うのだ」

「は?」

「よいか、お前等の言うアルカディア女王ことペド・フィーリアという邪神が我を狙っておる。引き篭もりとは言え我は外に詳しいんだ。どうにも我が設置した桜を調べておるようでな……このままではあの化け物が我の住処に来てしまう。それは何としてでも阻止したい、つまり我はまだ死にたくない!」


 おっと、意外と小物みたいです。

 まあ災厄をどうこうしてしまう方ですからね、ここまでビビるのも無理はないでしょう。


「とまあそう言う訳だ。我はネクロマンサーの魔王だからな、ついでに糧となる大量の魂も入手するように無謀な突撃を促したのだ。ヒノモトの連中も道連れにしたがったが……まあよい。最優先はヒノモトの国宝だ、何としてでも手に入れるのだ」


 言うだけ言うとピコの身体がゴスっとテーブルの上に突っ伏しました。

 あれではピコが無駄にダメージ食らうだけでしょうに配慮の無い魔王です。


「カエデ、やるべき事は分かった?」

「まあ」

「そう、私達がやるべき事は……すでにアルカディア女王に国宝が渡っている事を黙っておくこと」


 忠誠のへったくれも無いですねミュノスは。

 というか私と同じく魔王がどうなろうが知ったこっちゃないって事でしょうけど。


「でも、やられっぱなしは癪」


 そう言うミュノスの表情はペド・フィーリアに対する怒りか、いつものダルそうな顔と違い不穏に満ちています。

 大人しく逃げた方がいいと思うんですけどねぇ……私はどうしましょうか。 



★★★★★★★★★★



 バンシーを引き連れてヒノモトの城に戻ってきた。

 私の状態をジロジロと観察してきたサユリは汚物を見る様な目を向けてくる。


「頭にデカい蝶、右肩に人形、左肩には青い鳥!そんでもって左腕には泣きじゃくる幼女ときたか、もはやメルヘンを通り越してただのヘンね」

「お言葉ですがサユリさん、お母さんの装備はこう見えて最強クラスなんですよ」

「装備なのかよ」


 しかも自立して動く装備ときたもんだ。

 更には鳥はともかくマイちゃんとリンは結構な強さも持ってるのだから最強クラスの装備と言うのも間違いではない。


「星獣が大した事無いのが残念よね」

「あの貴き方……私、星獣の強さはお察しと言いませんでしたか?」

「言ったわね。強い方に察したわよ紛らわしい」

「はあ、それは誤解を与えてしまい申し訳ありません。この星はともかく、他の星なんて動く事無くただ浮かんでるだけですので転生しようが強い筈がありません」


 そう言われると納得してしまう。

 コイツの場合は大きくなって乗れるだけマシなのかもしれない。


「そう言えばお姉ちゃん、その子の名前ってなんなんです?」

「ヒヨコ」

「くっ、分かりやすい……!」

「鳴かなきゃ分からんじゃないですか」


 バンシーはどうしようか。まあまだ長い付き合いすると確定した訳じゃないしこのままバンシー呼びでいいか。

 さて、この場にはカオルは不在って事はまだ出撃してる最中なのだろう。

 もうすぐ夜になるってのに何時まで戦うつもりなんだ。


「で、その泣きじゃくる幼女は何なのよ」

「バンシーよ。ナキサワメの祠に閉じ込められてた哀れな精霊よ」

「へー、ナキサワメの正体ってバンシーだったの。バチ当たりな奴も居たもんね」

「うぅぅ」


 まあバンシーは他の精霊や妖精と違って敬われるような存在じゃないからな。


 サユリはバンシーが気になるのか、遠慮なく近付きジロジロと見ている。

 当のバンシーはサユリの目線が嫌なのか私の周りをぐるぐる回りながら逃げている。


「あら、あんたの年季の入ったリュックだけど一部ほつれてるわよ」

「ふ、長年連れ添った相棒にとって傷は勲章なのよ」

「傷じゃないって……ふーん。どう見ても手作りよね、多分だけど子供が作ったものね。店に並べられる程出来が良い訳じゃないけど、想われてるわ。お互いね、大事になさい」

「サユリのそう言うトコ好き」

「うっさいわ。どれ、この私が直してあげようか」


 ほほう、サユリが直してくれるとは有り難い。何だかんだ言いつつ保母さんだなぁ。

 直してくれるのなら頼まない手はない。リュックを背中から降ろしサユリに渡す、


 ……おや、私のリュックを持ち上げたまではいいが動かなくなったな。

 というか心ここにあらず、と言った感じで放心状態になっている。


「サユリ?」

「……ん、ああヒミコか。ぼーっとしてたわ」

「気分が優れないのでしたらお母さんのリュックは私が直しますが?」

「そうね、そうしてちょうだい」


 サユリはリュックをユキに渡すとスタスタと部屋を出て行った。

 自室で休むのだろうか。

 しかし何で急にあんな状態になったのか。


 何やら神妙な面持ちで出て行ったサユリを追いかけていったヒミコなら知っているかもしれない。


 怪しい……実に怪しい。

 私に関する何か嫌な出来事でも判明したのかもしれない。



★★★★★★★★★★



「うぎっ、かはっ!」


 あの場は何とか気分が悪い風に誤魔化して退出したけど、結局部屋に辿り着く前に我慢出来ずに膝をつくはめになった。

 くそ、ダメだ。一度倒れてしまうと起き上がるのが難しい。


「サユリ!」


 ヒミコの声がした。付き合いが長いだけあって私の状態を察したみたい。

 私を立たせて肩を貸してくれた。このまま自室まで連れていってくれるのだろう。


「……視たのですね」

「えぇ、過去最高におぞましいものが視れたわよ」


 サトリの能力の他に持っていたもう一つの力。

 過去か未来か、大体が未来の映像だがそれがふと視えてしまう。

 任意で発動は出来ず、たまに発動する難が有りまくる力だ。いっそ発動しない方が嬉しい。


 発動する時は誰かに触れたとき、または何かしら物体に触れた時だ。

 今回はあのガキんちょのリュックを持った時だ。つまり、あのリュックに纏わる何かが視えたのだろう。


 あれには、かなりの想いが込められていた様に思えた。

 それは作った者があのガキんちょに対する愛。


 なのに、私が視たのは闇よりも黒いナニか。

 あの蠢くナニかは一体何だったのか……どう考えても善の存在じゃない。


「うぷ」

「辛いなら思い出す事はありませんよ」

「大丈夫よ……そこまで深くは視てないから」

「そうですか。ならば聞きますが、視たモノとは何だったのですか?」


 あれが何なのかこっちが聞きたい。

 ただ、あれが纏っていた気配には心当たりがある。というかつい最近感じた気配だ。


「あのガキんちょが妙なマントを羽織ったら禍々しいしたじゃない?私が視たモノはあれと同じ感じがしたわ」

「あれと同じって……災厄並じゃないですか」

「災厄ね。もしかしたら本当に災厄かもしれないわね」

「笑えませんよ。アルカディア女王陛下は災厄になるとでも言うのですか」


 どうだろうね、確定されてないとは言え未来の映像だ。

 アイツが災厄に身を委ねてもおかしくはない。


「サユリ、貴女が視た事をアルカディア女王に伝えるつもりですか」

「さあ、ね」

「……出来れば、ハン国との戦が終わってからにして欲しいです」

「アイツの力がまだ必要かもしれないからでしょ……分かってるわよ」


 今話せばアイツの事だからすぐさま飛び出して行くだろう。

 それ程に大事な者なんだ、あのリュックを贈った奴は。


 ヒミコには言ってない事がある。

 私が視た映像は、不気味な黒い人影だけじゃない。


 金髪の不思議の国の格好をした少女。

 名前はアリス、だったか……分かりやすい奴だ。

 恐らくアリスという少女があのリュックの贈り主……アイツにとって大事な存在。


 だが、本来ならすでにこの世界には居ない筈の人物……らしい。

 そんな奴が何故いるのか。

 実は過去の映像って線も考えたが、アイツが災厄になったなんて事実は無い。


 ならば、アリスという人物はこの世界にまだ居る。

 アイツにとって愛すべき人物はまだ……


 だけど、その大事な存在を、アイツは殺してた。


 二人に何があったのかは分からない。

 ただ、とても想いあっていたのに殺し合うなんて悲しい事だ。


 ぐだぐだと考えていたらいつの間にか自室の前に居た。


「ヒミコ、私はちょっと休ませてもらうわ」

「分かりました。無理はしないように」


 部屋に入ると着替えもせずにベッドにばふっと倒れ伏す。


「ち、借りがなきゃアイツがどうなろうが知ったこっちゃなかったってのに」


 嘘だ。

 なんだかんだ私はアイツを気に入っている。


 だから、アイツが災厄に堕ちる程に悲しむのが許せない。

 分かってる。今は自分の国の事に集中すべきだって事は……


「ふん、簡単な話よ。アイツが災厄となる元凶がそのアリスって娘ならば……アイツに会う前に消せばいい」

「ほほう、それは興味深い話です。私も協力してあげましょうか?」


 いきなり聞こえた声に驚きふりむく。

 よりによって一番聞かれてはならない台詞を聞かれた自分を馬鹿だと思うが、何で私の部屋に誰かが居るんだとそっちの方が重要だ。


「あんた、いえ貴女は確かアマテラス、様」

「別に敬ってない神に敬称など不要ですよサユリさん。あなたの様子がおかしかったのでちょっと覗き見させて頂きました。いやはや、想像以上に深刻なモノを視てしまわれたのですね」

「で、協力してくれるってのは?」

「おっと、予想以上に神に対する敬意がありませんよこの娘。まあいいです、協力というのはそのアリスという娘の始末、私がしてあげましょうって事です」


 ……どういう事だ?

 アイツの関係者ならば逆にアリスって娘を守ろうとすると思ったが。


「私は、その居ない筈のアリスという娘が存在している。そんなおかしな事が起こる原因に心当たりがあります……以前、我が召喚主の偽者が現れました。まず間違いなく召喚主を狙ってる者の仕業でしょう……動機は知りませんけど」

「アイツの偽者……アイツが分裂したと思うと凄く嫌ね」

「ええ、実際厄介でしたよ。上位の神である私がやられてしまいましたからね」


 偽者でも神を倒せるとかホント何者なのよあの幼女は。

 いや、この際アイツが何なのかとかどうでもいい。初めて会った時から意味不明の塊だったし。


「協力してくれるのは正直ありがたいわ」

「そうでしょう。でも、協力と言いましたが貴女は何もしなくていいです」

「何でよ」

「私は何となくアリスという少女が何者かと言う事を察してます。我が召喚主は……とても家族想いの方です。貴女がアリスという少女に手をくだしたと知られれば、貴女は召喚主に殺される事になるでしょう。私ならまあ、バレずにやれるので」

「私だって顔に出すなんて真似は」

「残念、貴女がヒノモトを出て何かをしに行った、と召喚主が知っただけで疑いますよ」


 く、確かにアイツの勘の良さというか察しの良さはそれこそ化け物クラスだ。

 怪しい行動をしようものなら確かにすぐに疑われるだろう。


 というかすでに急にあの場を去った事で怪しまれてる気がする。


「分かったわ。アリスという娘の件は貴女に任せる事にする」

「それでいいのです人の子よ。我が召喚主に対する冒涜は神である私に対する冒涜でもあります……ちょっと許せませんよねぇ」


 ああ、なんだ。この神もアイツを慕ってるだけか。

 上位の神すら慕わせるとか益々何者だって話だ。


「では人の子よ、貴女がすべき事は分かりましたね。貴女はこの国の事だけ考えて動けばいいのです」

「ええ、私は生まれ育ったこの国の事だけを考えて動く」

「はい、そして私は召喚主の事を考えて動く、いやはや簡単な話です」


 全く、簡単な話だ。

 さっさとこの馬鹿げた戦を終わらせて……アイツ等が去った後から動けばいい。

 それだけの話だ。


 恐らくアイツ等は過去に封印された魔王を目指して進むはず。

 その間にケリをつければいい。


 残念だがアマテラス様、私は借りっぱなしが嫌いな性分なんだ。

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