幼女と召喚
「ようこそミラ、私は何もしてないのに建国されたアルカディアへ。友人の来訪歓迎するわ」
「いや、うん。流石にあの衝撃を無かった事にするのは無理だと思うよ」
やはり無かった事にするには無理があった。
まあ面倒な紹介を再びする必要はなくなったからいいや。
あの訳の分からなさもアルカディアならではだ。
「さあさあ、どうせ何もない国なんだからさっさとリビング行ってくっちゃべりましょう」
「えぇ……」
「色々な意味でお疲れでしょうからよろしいかと」
残念ながら他所の国と違って観光名所も無ければ店すら一軒しかないのが現状だ。
今のアルカディアの見所など食べ物と拷問くらいしかない。
「ミラが見たいならアルカディア流処刑術を見せるけど?」
「見たくないよ!」
「そう。なら茶菓子でも食べながら駄弁りましょうか」
「まるで一般家庭に招かれたような安心感だね」
「元々私は一般家庭で育ってたんだけど」
大人数で騒げる広さはあるリビングに着いた。
何か知らんがフィーリア一家の面々も着いてきている。コイツ等も友達同士のお話に混ざるつもりか。
「飲み物が欲しけりゃそこに居るルリの分体に注文するといいわ」
「ミラ殿には一度たりともお願いされた事はないのじゃ」
「なにそれ勿体無い」
「いやいや、大精霊様にそんなしょーもないお願い出来ないって!」
「ルリ、紅茶」
「うむ!」
「目の前でやらせちゃってるよ!」
むしろ仕事を頼んだ方が喜ぶぞ?
分体とはいえ、ドリンクバーの役割はちゃんと出来てて結構。
本体の方は未だに戻ってきてないが、一体何をやっているのか。
「大精霊の宴ってどんな感じだったのですか?お姉様は殺戮して美味しいもの食べて帰ってきただけですけど」
「そうね、私が帰った後とかどうなったか知りたいわ」
「ドンちゃんが帰った後は色々と大変だってよ……ドンちゃんが刺した勇者とか言う人は勇者やめちゃったし」
「ほう、気になるわね。詳しく」
という事でミラに聞いた話としては、目が覚めた勇者は何が何やら分かってなかった様なのでタメゴロウが事細かく説明したらしい。
どうやら私の事は悪者ではないと証明された様で鬱陶しい奴から解放されて一安心だ。
で、カネシロというあの女が消滅した事を聞いて酷く落ち込んだのだとか。
「それで、急に喋ったかと思ったら勇者やめるって」
「何と言う急展開」
「何かね、そのカネシロって人が居たから一緒に勇者やってただけなんだって」
「単に好きな人と一緒に居たかっただけって事でしょうか」
「でも聖剣なんて大層なもん持ってるのに簡単に辞めるとか無理でしょ」
「ナイン皇国の人に同じこと言われてたけど、あっさり返却したよ?」
モテる為に勇者やってた割に潔いな。
いや、勇者やってるせいでナンパすら出来なかったんだからお目当ての女が消えたとなれば普通辞めるか。
また一人、下半身種族が世に放たれたという事だ。
「返却と言っても、そう簡単には無理な気もしますが……ナイン皇国の奴等は説得しなかったのですか?」
「してました。けど、いくら女性型とはいえ剣とはエッチな事出来ないから要らない、これからは股間の性剣で生きるって言って聞く耳持たない様子でしたね」
おっと、お姫様の口からは言ってはいけない様な単語が出てきてるぞ。
あの勇者が言ってた事をそのまま伝えて貰ってるから仕方ないとはいえ、もっとぼかして言った方がいいんじゃないだろうか。
「これは下半身種族ですわ。というかミラさん、私達にもタメ口で結構です」
「え、うん、分かったよ。それでね、その後が更に大変だったんだ。勇者に捨てられたのがショックだったのか聖剣がどっかに飛んでっちゃった」
最近の剣は空飛ぶのか。
というか女性型とはどういう事か。あの聖剣には人格が宿っているのか?
その辺をミラに尋ねてみた。
「そうみたいだよ。私達も剣が喋ったの聞いたし」
「へー、それはちょっと見たかった。何て言ったっけそういう類の武器。確かインテリクソヤロー」
「インテリジェンスです。とりあえずお姉様がインテリ嫌いなのは分かりました」
ふむ、つまりあの勇者が持ってた口説き落としという力で聖剣を口説いてモノにしたって訳か。
そうじゃなければあんな小物が聖剣の使い手などという大層なもんになれると思わない。
「で、勇者辞めてどうするって?」
「冒険者になるって。第二のダイゴロウさんを目指すみたい」
カネシロとやらの死を嘆く以上にハーレム築きたいらしい。
てかナイン皇国の奴等はそれで納得しているのだろうか。手駒が減ったからってまた異世界人を拉致ってくるつもりじゃないだろうな。
「ダイゴロウさんがドンちゃんに注意する様に言ってたよ。最後に残った勇者の人がドンちゃんのせいで仲間を失ったって逆恨みされるかもって」
「ああ、タクショーか」
「何か、あの場では大人しかったけど、本来は急に強くなって威張り散らしてる性格悪い人達らしいよ?」
「そういえば前にそんな情報聞いた気もするわね。て事はあの股間の性剣勇者もクズなの?」
「うぅん、あの人は周りに合わせた振る舞いしてたみたい。どうしようもないのはカネシロって人とそのタクショーって人」
威張り散らしてるってどんな事をやってんだろ。
食い物を要求したり女を用意させたりしてたのかね。山賊系勇者とはまた新しいな。
さてさて、勇者共の情報をもっと聞きたい所だが、私の目がミラが何やら精神的に不安を抱いてると感じている。
恐らく私達が帰った後に厄介な事になったに違いない。
もう直球で聞いてやろうか。
「ミラ、あの宴の席で何かあったでしょ。それも不安になるくらいの出来事が」
「えぇ、ドンちゃんって何でもお見通しなんだねぇ」
「ほれ言ってみ。口に出してみりゃスッキリするわよ」
「えっとね、私ね……婚約したみたい」
「がーん」
「私の方がショックなんだよっ!」
ショックなのか。
ミラも王族なんだから恋愛云々抜きで婚約するとか当然だと分かってるだろうに。
そんな心構えが出来てるのにショックって事は相手が相当嫌な奴だと思われる。
「かなりの相手みたいですね。よろしければお相手を聞いても?」
「うん。シックス王国の第三王子様だって」
「セックス王国とか夢も希望もないな」
「そうなんだよー……もうダメだ。16歳になって成人したら私は毎日蹂躙される日々を送るんだぁ」
セックス王国の嫁になったが最後、旦那だけに飽き足らず親族連中にすら襲われるというのがセックス王国に対する評価。
そんなの聞いて結婚する女性が居るのかって話だが、どうやら女性も性欲が異常だそうだ。
にしても16歳で結婚か。王族貴族なら普通なんだろうな。
ミラは14だか15だった筈だから、1年は猶予あるじゃん。
「王族の宿命とはいえ、相手が悪かったですね」
「ミラ、忘れてたけど依頼料の3000ポッケ支払って」
「話の流れ考えてっ!!」
おっと、ここにきてフィーリア一族に伝わる話術が発動してしまった。
ミラの言ったフレーズが良い感じだから「話の流れ考えて」に名前変えてもいい気がする。
「うぅ、ドンちゃんの所に居る時だけでも忘れようと思ってたけど、無理があるんだよぉ」
「ですー」
「ほら、良い所に活きの良いニボシが来たわよ。和んで元気出しなさい」
「煮干なのに活きがいいとかどういう事なんだよ……」
これは中々に重症だ。
今日はもうぐっすり寝て貰った方がいいかもしれない。
こんな状態じゃ女子会やっても楽しいお喋りは無理だろう。
「お前の友人と言う対等な立場の奴が来たって聞いて見に来てみれば、暗い奴なのです」
「今はタイミングが悪かったわね。フルート、ミラはお疲れみたい。今日は休んでもらいなさい」
「わかりました。ではミラ様、お部屋へ案内します」
「うん、ごめんね」
他人の家だってのにさっさと休みたいって思うほど精神的に参ってるみたいだ。
ふーむ……
「家族会議を始めるわ」
「唐突ですね。お題はミラさんの事で?」
「その通り。ミラは何であんなに落ち込んでんの?」
「さぁ?」
「え、嫌な相手と結婚するからじゃないんです?」
マオとマリアを筆頭とする役立たずの集いメンバーも分かってなさげだ。
世情に疎すぎる。
「もしかして、ミラも気付いてないのかね」
「恐らくそうなのでしょう」
「く、詳しく……あたし達にも分かる様にっ」
「はいはい。直球で言うと、シックス王国なんざミラが結婚する前に滅亡するだろって事」
正確にはライチに滅ぼされる。
食糧問題で未だに侵攻こそしていないが、ウチと取引をする約束はしているので兵糧問題については解決済みだ。
サード帝国に近い国はトゥース王国にフォース王国にシックス王国の3国。
トゥース王国には攻めないから除外。フォース王国はすでに滅んだ。じゃあ最初に攻めるのは残っているシックス王国という事になる。
ライチが馬鹿とはいえ、近場を無視して遠くの国から攻めるなんて真似はしないだろう。
いや、やりそうだ。やりそうだが、奴は一応部下の助言は聞くようなのでシックス王国を攻める可能性が一番高い。
なんなら取引をしに来たときにシックス王国から攻めろと伝えればいいし。
「じゃ、じゃあミラさんは望まれない結婚をしなくていいって事ですねっ」
「そうね。ミラの親父達もその辺分かってて婚約させたのかもね。常識的に考えて水の大精霊や幻獣と仲が良いミラを早々手放す訳が無い」
「確かに」
結論として、ミラを元気にさせるには今の話を伝えりゃいいって事になった。
というかミラの親族共が伝えておけば良かったんだ。
「次、ルリの本体が未だに戻って来ないけど何やってんのよ」
「うむ、大精霊会議が長引いてな。主に母たる世界が未だにアルカディアに与える報酬を決めかねておるのじゃ」
そこまで大層なものを寄越さなくてもいいのに。
この世界は私の事になると全力で祝福してくるからヒノモト以上の力をくれそうだ。
「では次、私が新たに得た能力について」
「え、リーダーまた変な力貰ったの?今度は鼻から食べ物を吸収できるとか?」
「そんな幼女がいるか。詳しい説明はみみみに頼んだ」
「お任せ下さい。では、改めて説明致しますが、貴き方が今回手に入れられた能力は召喚です。召喚魔法とは別物で、貴き方が念じれば発動致します」
お手軽で簡単だ。
世界は私がめんどくさがりだと言う事をよく理解している。
「召喚される対象は人間以外。そして貴き方より格が同等かそれ以下の者が対象であり、召喚される事を承諾した者のみ召喚されます。ちなみに異世界からの召喚も可能です」
「異世界召喚まで可能とは流石はお姉様と言いますか」
「お母さんに危害を加えようとする輩も現れやしませんか?」
「貴き方は持ち前の運の高さに加え、この星からの祝福で更に幸運を得ていますので大丈夫でしょう。仮に敵対する者が出てきても私が排除致します」
みみみが居れば安心して召喚できるな。
じゃあサクっと召喚してみるかとなるかと言えば違う。
こんな大層な召喚だ。何の対価も無しで出来るとは思えん。
「で、対価には何を支払えって?」
「一定以上の大きさの魂を5体分です」
「おっと、意外と重い対価がきたぞ」
「虐殺幼女のリーダーならすぐ貯まるじゃん」
「別に貴き方が殺しまわらずとも、私達が狩れば大丈夫です」
一定以上と言っている以上その辺の虫を5匹潰しても無理だろうな。
どうせドラゴンクラス以上の奴を狩れとかそういうのだろ?
「すぐ呼ぶのは無理かー」
「いえ、この星からのサービスで月に1回は無償で召喚可能らしいです」
「1日1回に変えてくれ」
「何て強欲……!」
「タダならいいじゃん。早速何か召喚してみようよリーダー」
「そうね」
何せタダだしな。
何が呼ばれるか不明だが、どうせならぶらっくうるふくらい愛くるしいわんこに来てもらいたい。
別に戦力は求めてないので可愛さ重視で来い。
「サモン・ザ・ヨージョ!」
「何その呪文」
「それでは幼女が召喚されそうなんですが」
適当な呪文だが、発動自体はちゃんとしたようで目の前に召喚用のゲートと思われる穴が開いた。
中は光って何も見えないが、少し待つと何か人の形をしたシルエットが見えた。
大きさ的に大人だ。残念ながらわんこは来なかったらしい。
やがて穴からニボシが着ている巫女服の豪華バージョンみたいな格好をした女性が出てきた。
額には太陽を模った飾りを着けている。
髪は黒髪、顔もヒノモト美人で完全にヒノモトというか異世界人よりの顔をしている。
うむ、これはひょっとしなくても人間が呼んではいけない奴だろ。
そして――?
「我が名は天照大御神。太陽を神格化した神などと言われてます」
「へー」
「よもや人の子一人に神である私が召喚されるとは思いませんでした。一応拒否は出来たようですが」
「へー」
「しかし、神を単独で召喚出来るという事は貴女は私と同等かそれ以上の神格をお持ちという事、俄かには信じられません。まあこうしてこの星に私が居るというのが真実なのでしょうが」
「へー」
「人の子よ、もっと私に興味を持ってください」
うむ、そうしたいのは山々なのだが……残念ながら私の視線はアマテラスとやらの足元に釘付けである。
他のメンバーもどっちかと言えば別物にチラチラ視線を送ってるし。
「悪いわね。どうにも貴女の足元にいる奴が私の好奇心を刺激してやまない」
「足元?……召喚されたのは私だけ」
アマテラスとやらも気付いたらしい。
アマテラスが着ているスリットになってるのか曝け出している生足の前に変なオッサンが居るのだ。
身長的に8歳の子供とかそのくらいの大きさだが、頭が薄毛を通り越して禿げ上がっている上にくたびれた顔はどう見てもオッサンである。
私の興味津々な視線に応えるかの様に謎のオッサンが語りだした。
「ワシの名はハゲテラス。アマテラスのパチモンにして数多の星の子供達が適当に考えたネタで生まれし存在。毛根を死滅へと誘う邪神である」
「何ですか、このオッサン」
「あんたのパチモンでしょ」
「神を二柱同時に召喚されるとは、流石は貴き方です」
「ネタで邪神を生み出すとは……人の子とは業が深い。何で私がモデルなのにこんなオッサンになるのですか」
天照大御神は男とも女とも言われてるらしいし、面白さを追求するなら男でオッサンがいいんじゃないかとかそういう感じでネタになったんだと思う。
「召喚主よ、ワシに可能な事なら聞き届けよう。さあ、願いを言ってみるがいい。誰を禿にすればいいのだ」
「可能な事とか言いつつ禿限定にすんな」
「すまぬ、ネタ神には大層な力などないのだ」
「可哀想じゃないリーダー。ちゃんと誰かをハゲさせようよ」
「じゃあ後ろにいるアマテラスで」
「な!?」
「いきなり自分より遥かに格上の神を禿にしろとは無茶を言う召喚主だ。だがやるだけやってやろう」
オッサンがアマテラスに向かって手を翳すとアマテラスが光に覆われた。
最初驚いていたアマテラスだが、流石にオッサン程度ではどうにも出来ないと悟ったのか冷たい視線でオッサンを見ている。
やがて、無理だと悟ったのか、オッサンは力なく手をゆっくり下ろした。
「下級の邪神の分際で私をどうこうしようなど片腹痛いのですが」
「すまぬ、召喚主よ……ワシにはアマテラスの下半身をつるつるにするくらいしか出来なかった」
「!?」
私達が見てるってのに股間を押さえて顔を真っ赤にする神。
あの様子では本当にパイパンにさせられたらしい。
神のくせに可愛い顔を出来るじゃないか。
「でかした、ハゲテラス」
「なんと、不甲斐ないワシに賞賛の言葉を?」
「ええ、頭をハゲさせるより素晴らしい仕事だった」
「そうか……素晴らしいか。こうして褒められるのも、悪くないのぅ」
感動してるとこ悪いが、オッサンの後ろではオッサンを消滅させようとアマテラスがスタンバイしてるぞ。
「命の危険故に今回は帰るとしよう。さらばだ召喚主よ、また呼ばれる事があれば召喚に応じよう」
逃げ足は速いようでアマテラスに殺される前にサッと消えていった。
なんだ、召喚しても頼みごとが終われば帰るのか。
召喚で国民を増やすのは無理そうだ。
「茂み、無くなった?」
「茂み言わないで下さい人の子よ。あの下級の邪神は必ず探し出して消滅させます」
「面白いのに」
「私は屈辱です。さて、私も呼ばれたからには貴女の望みを聞く必要があります」
む、と言っても今はこれといってしてもらいたい事が無い。
折角当たりと思われる神が来たんだからここぞって時に役に立ってもらいたいのだが。
「保留で」
「保留、神をこの星に縛り付ける気ですか。まあ暇でしたから構いませんが」
「あっさりオッケーしたわね」
「はい。私が此度の召喚に応じたのは訳がございます。この星とは無縁の筈なのに、何故か私に対する信仰が流れてきているのです。それを調べるには保留される方が都合がよいのです」
確実にてんてりの件が原因じゃないか。
アマテラスとてんてり。天照大御神と天照……コイツ等を会わせていいのだろうか。
てんてりはある意味アマテラスのパチモンだし。
まあ、出会ったからとして敵対はしないかも。
丁度ヒノモトにも向かう予定だし連れていって会わせてみよう。




