幼女、お友達を招待する
「他所ではお初にお目にかかるやらお久しゅうございますとか挨拶が始まってんだけどここには誰も来ないわね」
「半分はお前の虐殺のせいだろ」
「つまりもう半分はライチのせいか」
要するにアルカディアとサード帝国には関わり合いになりたくないと。
サード帝国はともかくウチとはお知り合いになる価値あるというのに。
「ドンちゃんとお友達になれば色々とお得なのにね」
「まあ、ここにはアルカディア国以上に繋がりを持っておきたい相手がいらっしゃいますので」
「それが今わらわらと群がれてる大精霊共って事か」
そもそも会う事すら滅多にない相手らしいからな、チャンスがあるならお近付きになりたいのも分かる。
私の場合はそんなレアな奴等が勝手に寄ってくるから別に挨拶する必要ないな。
というかこの私を道化に使ったのだから向こうが来い。
と思ってたら何処からともなく一枚の紙が飛んできた。
『ご挨拶申し上げたいところですが、お一人だけ贔屓にしてしまいますと貴女様が目立ってしまいますし要らぬ妬みや恨みを買う事もあるでしょう。ですので後に時間がある時に我等が母たる世界から与えられる能力の詳細とご挨拶にお伺い致すとします』
何時の間に書いたのか不明だが、大精霊連中の方を見るとババアの大精霊と目が合ったのでこれを寄越したのは奴だろう。
しかし挨拶とな。謝罪しろ謝罪。
「ひえぇ……大精霊様自らご挨拶に伺うだって。何様だよドンちゃん」
「それは悪口よミラ」
「ペドちゃんが学生時代には考えられなかったくらい大物になってるよ……」
「ふふん、つまり人が偉くなるのに学園の成績なぞ関係無いと証明されたって事よ」
なら学園の存在意義って何だろか。
一般常識を学ぶ場かね。
さて、後は王族貴族連中の挨拶の場と化して終わりそうだし、そろそろ帰るか。
「宴もたけなわではございますが、時間の都合上この辺でお開きと」
「なに勝手に締めの挨拶始めとるのだお前は」
「そうだよ。まだ食べられるだけ食べてないよ」
「ここで食い溜めするつもりなのか……」
見苦しいぞ王族。
いや、同じことを考えていたのかナタリーちゃんが視線を外しやがったぞ。
卑しい者共め。
「そうだ、ドンちゃんの国に遊びに行けば美味しいもの食べれそう!」
「遊びに?」
「え、うん……遊びに」
「これは、所謂お友達を家に呼ぶってシチュエーションか!」
「ペドちゃん本当に友達居なかったんだね……」
やかましい。私についてこれる奴が居なかっただけだ。
だがどうしたもんか。ミラだけなら構わないが、トゥース王国の王族とか来るのもダルいな。
「おい待て。妾だってフィーリアの国に遊びに行っておったろう」
「あんたは招いてない」
「なんだと……」
ミラも向こうが言い出したんだから正確には招いてないけど。
「まあミラだけならいいや」
「これでもお姫様なんだけど……お姫様が単独で国外に遊びに行くってどういう事?」
「ルリの分体をお付きにしとけばいいじゃない」
「えぇ……」
もう来る方向で考えよう。
アルカディアのおもてなしとやらを見せてやるとしよう。
「よし、こうしちゃいられない。ミラを全力でもてなす準備の為に帰る」
「やる気出しすぎだよ」
「妾が除外されたのなら初めて友を呼ぶのだ。テンションがおかしくなっても不思議ではあるまい。ぼっちだった者の悲しい性だな」
「もう大精霊様が開く宴とか興味ないんだね……やっぱりペドちゃんは思考が他人とズレてるね」
食い物は一通り食った。宴は十分に満喫したじゃないか。
あ、でも珍しい食材には未練がある。
「持って帰ろ」
「店で残り物を持ち帰る浅ましい庶民の真似はやめよ」
「ばっきゃろう。持って帰ればウチで栽培出来るかもしんない代物よ。持ち帰らなきゃ損だわ」
「栽培する気か」
「アルカディア国なら可能かもしれませんね」
理解を得られた所でみみみに頼んで集めてもらった。
今度こそ宴に未練は無くなった。帰ろ。
「じゃあ先に帰るわ。セシリアにナタリーちゃん、知り合いのよしみでアルカディアに来た際は優遇してやるとするわ」
「ありがとうございます」
「行ったら優遇してね」
「ミラは明日来なさい」
「気が早すぎだよ!というか距離的に無理!」
「サヨあたりを迎えに行かせるから問題ない。けどまあ準備とかあるだろうから3日後ね」
「……許可が出たらね?」
許可か。どうせ大丈夫だろう。
むしろ喜んで差し出すに違いない。
「ではなフィーリア。その内取引に向かわせてもらう」
「ええ」
もうこっちに意識が向いてる連中は少ない。
一部は向いてるが……あれはフィフス王国か。別に敵意はないな。
あれだけ賠償をもらったんだ、純粋に私がどんな奴か気になったのだろう。
さっき天使相手にあれだけ暴れたのだ。もう馬鹿な真似はしまい。
転移符を取り出し、入り口まで戻るのも面倒なのでその場で転移して帰った。
そういやタメゴロウを忘れた。
まあタメゴロウだからいいか。
★★★★★★★★★★
「マオっち……あなたは5ね!」
「ちがいますー」
「馬鹿、な……!」
帰って目に入ったのは私を抜きにして謎の遊びに興じるフィーリア一家の面子だった。
私抜きでそこまで盛り上がるとはどういう事だ。
「お帰りなさいませ」
「おやお姉様、意外と早いお帰りで」
「ただいま。途中で帰っただけよ、このお土産は一つ目ちゃんに渡して栽培可能か聞いといて。ダメなら食う」
「見た事ない野菜、というか植物ですね。わかりました、お渡ししておきます」
そういやあの食材の名前とか聞いてなかった。
ルリが帰ってきたら聞いとくか。
「で、何を盛り上がってんのよ」
「ふふん、これはあたし達が考えたゲームよ!」
「ほう」
「簡単に言えば紙に書かれた数字を当てるゲームです。発案者はマオさんです」
相変わらず金のかからない遊びを考案する奴である。
ユキやサヨ、更にはキキョウまで参加してるんだからただ数字を当てるだけのゲームじゃないんだろう。
どういう遊びかは解説係りのサヨにしてもらう。
「ルールは続ける毎に改変してやっています。現在のルールは使用していい数字は0~20まで。質問していいのは3回まで、質問された側は1回だけ嘘がつけます。その後、相手の数字を見抜き答えます。外れたら攻守交替です」
「ほう、どっちも相手の数字を外した場合は?」
「以降はお互い1回ずつ質問をします。延長戦の場合は嘘をつくつかないは自由です」
「へー……生きてて楽しい?」
「私の生き様を馬鹿にする必要性がどこにありましたか」
ふむ、ルールに雑さが見られるのはまだ発展途上のゲームだからか。
改良されたら手に汗握る頭脳戦になるかもしれない。
「今後は全員参加で出来るルールを考えてみるつもりです」
「全員ね……人数が増えると質問の内容と答えを覚えておくのが面倒そう」
「む、いいですね。メモは不可にしときましょう。ついでに同じ人への質問は不可という事で」
誰が誰に質問したかくらい覚えておけそうなもんだけど。
覚えておけそうにない馬鹿が居るんだろうなぁ……
「それよりも折角帰ってきたんだからリーダーも参加しなさいよ!」
「まあいいけど」
「ふふん、相手はわたしですよお姉ちゃん!下克上ですっ」
勝てそう。
「初心者のリーダーから質問するといいわ。でも極端な質問はだめよ」
「極端と言うと?」
「偶数とか奇数とか、極端に数を減らす質問」
質問を考えるのが難しいとは如何に。
「じゃあそうねぇ、マオはお風呂入ったらどこから洗うの?」
「ゲームに関係ない質問はNGよ」
「みかんの白い筋ってアルベドって言うらしいわ」
「質問ですらない!?」
むしろ相手側から質問してもらわにゃどの程度の質問していいか分からんだろ。
まあいい、要はマオが書いた数字が分かればいいんだろ。
どうやらルールの中に質問をしない場合は相手の質問を待たずに解答する事も出来るみたいだから今回はさっさと答えてマオを撃沈させるとするか。
「では解答するとしましょう」
「まだ何の質問もしてないんだけど……」
「必要ないわ。マオの書いた数字は――6ね」
「!?」
反応で丸分かりだ。どうやら問題なく正解を引き当てた模様。
「何で分かったんですかぁっ!」
「マオが数字を書く時の手の動きで」
「これそういうの見て当てるゲームじゃないから」
という事でやり直しである。解せぬ。
今度は不正対策として双方後ろを向いた状態で数字を書く事になった。
てか今まで誰も手の動きを観察してなかったって事か。
お互い書き終わった所で再開である。
「マオの数字は15」
「!?」
「いきなり終わるとか早すぎぃ!まーた質問すっ飛ばして何で分かんのよ!」
「勘」
…………
「リーダーは出禁になったわ」
「ふえぇ……」
「無害な幼女のフリをしても無駄よ!リーダーのやり方はこのゲームの醍醐味を9割以上潰している!」
だろうよ。でも仕方ないじゃない、勘で分かるんだもの。
しばらくぼけーっとフィーリア一家達の対戦を見ていたが、見飽きたので執務室に向かう事にした。
キキョウは遊んでいるが、フルート達は仕事してるだろう。
執務室に入ると思った通りフルートが事務的な何かをしていた。
ぶっちゃけ何の仕事してるのか分からん。
「お帰りなさいませフィーリア女王陛下。お帰りが少々早い気もしますが大精霊の宴は如何でしたか?」
「いっぱい殺した」
「お戯れも程々に……みみみ様、実際の所はどうでした?」
「貴き方から放たれる一撃は正しく必殺の一撃。見事なお手前でした」
「え、やだ……まさかの実話?」
実話だが、王族貴族を殺しまわったと勘違いしてそうなので殺しまくったのは天使共だと教えておく。
そう説明するとホッと一息をつくフルート。
だが少し時間が経つと次第に険しい表情が形成されていく。これは面倒なお小言がくる予感。
「みみみ様が一緒におられながら女王陛下自ら敵陣に突っ込むとは何たる愚考。御身に何かあれば貴女様だけの問題にはならないと」
「待った。おばさんくさい説教はむーりー」
「ぐ、フィフス王国の現国王より問題児なんですから」
そりゃお前、私は元々一般家庭の庶民でまともな教育受けてないんだから当然じゃないか。
言っても無駄と判断したのかお小言は中止された。英断だ。
「こっちでは何か問題なかった?と言っても1日すら経ってないから大丈夫だろうけど」
「有る無しでしたらございます。アルカディアで働いている奴隷のメイド達ですが、一斉に自分達を買い戻したいと申してきました」
「なんと、全員?」
「はい。全員です。これに関しては当事者であるメイド達、それとユキ様も交えてお話すると致しましょう」
いきなりメイド全員が辞めるとは如何に。
やはり職場環境が悪かったか……サボれる時間が6時間というのは厳しすぎたようだ。
でもまあ辞めたら辞めたでまた新しいのを雇えばいいや。
「良く集まってくれたわ。早速本題だけどフルートから聞いた話だと自分を買い上げて奴隷から解放されたいみたいね」
「はい」
返事をしたのは一番年上の奴隷メイドだ。
ちなみにミニマムよりお高い奴隷だったが、コイツは自分を買い上げる程稼いでんのかね。
「ふむ。まあ意思が固いのなら私がどうこう言う問題じゃないけど、奴隷から解放されて何をしようってのよ」
「はい。私達奴隷一同、解放された暁には正規の暗殺メイドを目指す所存です」
「正規の暗殺メイド」
こう真っ直ぐ言われるとおかしくない風に聞こえるがめっちゃおかしいぞ。
何だよ正規の暗殺メイドって。
「おいユキ。この前は戦闘メイドを育てるとか言ってたのに暗殺メイドという物騒なジョブチェンジしてるのはどういう事よ」
「時代は暗殺メイドを必要としてるのです」
「時代の流れ速いなっ」
「外道の道を歩むお母さんには暗殺メイドがきっとお役に立つでしょう」
どうやらユキの入れ知恵も今回の一斉奴隷解放に関わっている模様。
ろくな事しねぇなコイツ。
「ならその正規の暗殺メイドになってどうすんのよ」
「暗殺します」
「メイドしろよ」
そもそも私が聞きたいのはそういう事ではない。
奴隷から解放されて暗殺メイドするのは分かったから何処で暗殺するつもりだって話だ。
「私達のご主人様はフィーリア様以外に考えられません。暗殺メイドとなってもアルカディアに尽くすつもりです」
「じゃあ奴隷メイドが暗殺メイドに変わるってだけか」
奴隷じゃないなら私に危害を加える事も可能という事である。
何でそんな物騒なメイド達を置いておかなきゃいけないの?
解雇だ解雇。
それが嫌ならこのまま奴隷メイドで居ればいいんだ。
「私達は未だ暗殺道に足を踏み入れたばかり……お役に立てるまで成長してから奴隷解放されるのが筋なのでしょうが、奴隷がメイドをしてるからとご主人様まで馬鹿にされるのは耐えられません」
「馬鹿にされたのか」
「頭の悪い来客が来られるとたまに」
「向こうから殺すチャンスをくれるとか有り難いじゃない」
「はい。ただ公にやってしまいますと問題になる恐れも有りますので、機を見計らってサクッと暗殺がベストだと思いました」
「そうではないでしょう?女王陛下が馬鹿にされるのが我慢出来ないから奴隷から解放されたいのでしょう?」
暗殺道とかいう謎の道にはツッコミはあえてしない。
コイツ等私が馬鹿にされるのが気に食わないとかほざいてるけど、どっちかと言えば殺したくてウズウズしてる方だろ。
アルカディアが更に殺伐とするのは大体ユキが悪い。
「おや、奴隷メイドが勢ぞろいでどうしました?」
「なになに?リーダーに愛想つかして出て行くの?」
「黙らんかい。数字当てゲームはどうしたのよ」
「はい。残念ながら数をこなして行く内に同じ質問ばかりになるので飽きが。もっと改良が必要ですね」
だろうよ。有利な質問するのが常套手段、質問の幅が狭まるのも道理だ。
「なら運の要素も追加すればいい。あらかじめ質問を書いたくじを一つの質問につき10枚くらい用意しといてくじ引きで質問をすればいいのよ」
「なるほど。それなら飽きも来ないかもしれません」
「運が悪いとヒントにすらならない質問が出てくるって訳ね!いいじゃないの」
「更に運が悪いとそのしょーもない質問しか出ない場合もあるって事です」
再び盛り上がってきたらしい。
よくあんなゲームに夢中になれるな。アルカディアには娯楽が少なすぎるのかもしれない。
「ゲームは置いておきまして。一体どうしたのですか?」
「奴隷から解放されて暗殺メイドになりたいそうよ」
「暗殺という言葉の必要性」
文句はユキに言ってくれ。
けど何を言っても無駄なんだろう。コイツ等の中ではすでに暗殺という単語がかなり重要視されている。
「話は分かりました。ですが、奴隷から解放されますとお姉様の所有物という肩書きが無くなってしまいますが……よろしいので?」
「!……少々話し合いをさせて下さい」
考え直す気になったらしい。
奴隷云々じゃなくて暗殺の方を考え直すべきである。
しばらく待ってると、メイド達の中で答えが出たのか戻ってきた。
「私達が間違っていました。ご主人様の奴隷という肩書きを捨てるなどとんでもありません……しかし、暗殺メイドを諦めきれないのも事実」
「わたしに考えがありますっ」
「期待しない様に」
「なんでですかっ!?」
だってマオだし。
どこにそんな自信があるのか、不敵な笑みを携えてもったいぶった感じで語りだした。
「奴隷の皆さんの苦悩、わたしが解決しますっ!……ずばり、皆さんは暗殺メイドレイになればいいのですっ!」
「暗殺、メイドレイ……!」
「それですっ!」
何が?
何がそれ?
奴隷の諸君、君達は私が奴隷のメイドを使っていて馬鹿にされてるのが嫌で解放されたかったのではないのかね?
「お母さん。この世には建前と言う単語がございます」
「やかましい。結局暗殺が付いてりゃ何でもいいんじゃない」
「でもまぁ奴隷のままなのですから良かったではないですか」
良くは無い。何やら私が馬鹿にされてる感が否めない。
それもこれもユキの教育が悪すぎるせいだ。
……そうだ。子供らしい事をさせればいいじゃないか。今ならまだ子供らしいミニマムメイドに戻れるかもしれない。
帰って来い、ミニマムだったあの日。
丁度いい事に子供にやらせるにはもってこいな催しがある。
「3日後、私のお友達でもあるトゥース王国のお姫様がくるわ。ミニマム達には歓迎の意を込めて催し物をしてもらう」
「ミラさんがいらっしゃるのですか」
「催し物ってどんなのさせるの?」
子供らしいものか。
演劇とかそんくらいしか思いつかないが……歌でもいいな。
「歌にしましょう。ミニマム一同による合唱でのお出迎えよ」
「悪くないですね。して、選曲は?」
「子供らしい歌……うむ、猫ふんじゃったがいいわ」
「お出迎えに猫ふんじゃったですか」
斬新でいいじゃないか。
どこの国でも歌われてる万能ソングだ。ミラもつい一緒に口ずさんでしまうに違いない。
「それってどんな歌なの?」
「マリアさんは知らないのですね。確かねこふんじゃった……はて、どんな歌でしたっけお姉様」
「ねこふんづけたら死んじゃった」
「残酷な歌だな!」
むむう?
正確な歌詞が思いだせん。最初だけは妙に頭に残ってるのだが、死んだ後が分からん。
「え?本当に猫踏んで死ぬ歌なの?」
「そんな歌詞も聞いた気がしますので合っているようないないような」
「歌詞の正解不正解は置いておいて、曲の全容が分からないのであれば猫ふんじゃったは不可ですね」
「待て、私は一度決めた事をやっぱやめるなどと優柔不断な事はしない」
「頑固になる場面はもっと別にあるでしょ」
歌が無理なら演劇にすればいいじゃない。
結局演劇になるのかよ、というツッコミは受け付けない。
「演劇『ねこふんじゃった』でいくわ」
「猫を踏んづける劇ってどんなのですか」
「それを考えるのよ。まず、猫を踏んづけてしまう状況ってどんな場合が思いつく?」
「そうですねぇ……奴等は飼いならされて家猫となってしまうと餌をくれる人物の足元をウロチョロしだしますから、踏まれるとしたらその時かと」
「いえ、奴等はあざといくらいに身体を擦り付けてきます。気付かず踏むというのは不可能でしょう」
にゃんこを奴等呼ばわりである。
ユキとサヨは猫が嫌いなのだろうか。
「寂しさのせいか、足元まできて寝る時もある。あくまで側まで近付くだけで人の身には触れない……それなら誤って踏まれる事もある」
「いいですねメルフィさん。猫が踏まれる状況はそれでいきましょう」
「ふ、良い感じの議論になってきたわ。ならば、次は踏まれて死ぬ状況よ!」
「それなら、首の所を思いっきり踏めばコキッと折れて死ぬでしょう」
「だが待って欲しい。確かに首を折れば死ぬ、けど折れる前に踏んでる者が気付いて足を浮かせると思う」
何か知らんがメルフィが輝きだした。
いつもは黙して語らずの目立たないキャラのくせに。猫を踏む事にどんな思い入れがあるというのか。
「どうすれば猫を踏んで殺せるかという議論にあたしはついていけない」
「わたしもです……」
マリアとマオは脱落したらしい。
ちなみに私も言うだけ言って距離を置いていたりする。
私が参加してない事に気付いてるのか気付いてないのか不明だが、ユキとサヨとメルフィによる猫の正しい踏み殺し談義は数分ほど続いた。
そして一応結論は出たようだ。
「結婚前はスリムだった女性、結婚して10年経って重さ80キロの巨漢となった奥様が足元に居た猫に気付かずに踏んづけてしまいます。
普通なら足に異物の感触がした時点で気付き足を上げますが、太りすぎた奥様は思うように身体を動かせずに足を上げようとしてバランスを崩し、転ばない様に踏ん張ろうとしたところ運の悪い事に足元に居た猫を今度は思いっきり踏んづけてしまいます。
その奥様の足は残念な事に猫の首に綺麗に乗っかり、そのままゴキっと首の骨を折って猫は死んでしまいました」
長い。
猫を踏み殺すのにそんな細かい設定が必要なのか。
猫ふんじゃったの奥は深い。
「けどさぁ、軽いタイトルな割に内容が残酷すぎない?」
「お、マリアさんも参加してきましたね」
「確かに、マリアの言うとおりタイトルと内容のギャップでミラが引いちゃうかもしれない」
つまりタイトルであらかじめ心構えをさせておく必要がある。
そうだなぁ、もっと悲壮感を出してみるか。
『お母さん……』
『どうしたの?そんな暗い顔をして』
『ど、どうしようお母さん!わ、わたし、わたしぃ!』
『落ち着いて!……ゆっくり、ゆっくりでいいから落ち着いて喋って。何があったの?』
『わ、わたしっ……ねこ、ふんじゃった……』
『!?』
「こんなもんか」
「悲壮感は出てきましたね」
「単純にタイトルが長すぎです」
「え?このどこか優しい女学生を思わせる奴が巨漢の奥様なの?」
「お前、デブってるからって皆が皆ふてぶてしい訳じゃないのよ」
「え、何か世界中のおデブ達にごめん……」
しかし良い感じに仕上がってきたじゃないか。
猫ふんじゃったを通り越してほぼオリジナルになってしまっているが、面白い感はある。
この様子なら、きっと壮大な駄作が出来上がるに違いない!
☆☆☆☆☆☆
フィーリア一家でシナリオを書き上げた演劇をミニマム達は必死の思いでマスターした。
そして今日、ミラがやってくる日である。
サヨが迎えに行ったのでまもなく戻ってくるだろう。
程なくして普段着の様な服装でミラはやってきた。
お付きは当然ルリだけなので無駄な挨拶も不要。
キキョウやらフルートやら挨拶するべき連中の挨拶が終わった所でいよいよミニマム達の劇が始まる――
『首の骨を一撃で!?』
『奴等は寂しかっただけなんだ……!踏まれたかった訳じゃない!』
『ねこおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
内容はともかく、ミニマム達はミスする事無く演劇をやりきった。
成長したな、ミニマム達よ。
だが、やはり猫を踏んづける内容で歓迎というのは無理がある。どう考えても失敗だ。
ミニマム達の子供特有の愛らしさで誤魔化せればいいが、猫を踏み殺す劇だもんなぁ……
そこはミラの感性次第だが、果たしてミラの感想は如何に。
「なにこれ」
当然失敗した。




