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幼女、疑われる

 何か妙にワザとらしい襲撃が始まったが、アホとは言え貴族が一人殺された以上賊には鉄槌をくださねばならない。というのが他の国の連中の考えだろう。

 しかし私はそんな血気盛んな馬鹿共とは違う。王として生きて帰る為に馬鹿達に丸投げして静観している。事が済めばやれ臆病者だとか言われそうだが、言いたい奴には言わせておけばいい。


「という事でハリソンも目の前の料理でも食って待て。しばらくはこんな料理食えんぞ」

「少しは危機感を持ってくだされ……」

「危機感か、無いな。見ろ、何だか分からん女性と幼女が殺しまわっておる。どう見ても負けそうにないからもう任せとけばいいのだ」

「そうですな。しかし他の国の連中は触発されたのかそこかしこで戦闘が起こってますが」


 触発されて戦いに赴くとは愚かな。

 奴等は上に立つ者だと言う事を分かっておるのだろうか。

 何処の国の者か知らんが私は王子だなどとわざわざ宣言して戦いに向かうアホも居る。


 お前王族だろうが。死んだら国の未来はどうなるんだと。

 私はそんなアホとは違いフルート先生が仰っていた無駄に死に行くより生き残る選択を選んだ。


 まああの女性達が居なけりゃ生き残る為に戦ってたかもしれんが。


「というか何者なのだ。強いなんてもんじゃないだろ」

「またまたご冗談を。あの幼い少女こそアルカディアの女王ではありませんか」

「ちっさ!」


 アルカディア女王ちっさ!

 若いなんてもんじゃないぞ。あんな幼女に我が国の一つの町が壊滅させられたのか。


「小さいからと油断してはなりませんぞ」

「そりゃあんな無双っぷりを見せられたら油断なんかせんが……しかしあの様な幼子に10億を超える賠償金を請求させられたのか」


 実際は奴隷商館から請求書が届いたのだが。

 意味分かんなかった。10億を超える奴隷って何を貰っていったんだ……

 流石に国が傾く額という事は無かったが、それでも臨時支出としては手痛い額だ。


 1億くらい渡せば機嫌直るかな、と思ったら10倍要求された。

 ちょっとムカっときたけど、あんな化け物と戦争回避出来たなら結果オーライである。


「アルカディア女王と揉め事なぞ起こしてはなりませんぞ陛下」

「するか戯け。そもそも私はアルカディア女王が気に入らないという訳ではない。町こそ一つ滅ぼされたが、それは馬鹿な方の息子にも原因があったしな」

「初耳ですな」

「それにだ、フルート先生が嬉々として働きに行きたいと言った国だ、もうそれだけで友好的になるな!」

「もうフルート殿はおられないのですからフルート離れしなされ……しかし、フルート殿が自ら希望したのですか?……賠償の為だと聞いておりましたが」

「表向きはそうなっておる」


 長年フルート先生を見続けてきた私には分かる。

 これ幸いとアルカディアで働く為にワザと自分を差し出したんだ。

 まあフィフス王国への恩はもう十分な程返していた。別の国へ向かう良い機会だったのだろう。


 精霊や妖精がわんさか居るらしい国だ。

 エルフであるフルート先生が行きたくなるのも仕方ない。


「フルート先生の話はここまでだ。暢気にお話してる場合ではないぞ」

「お気づきになられた様でなによりです」

「お、てっきりすぐやられると思ったナイン皇国の異世界勇者が健闘しておるな」

「勇者と名乗るくらいなので当然でしょう」


 それそれ、自分で俺は勇者とか名乗るの恥ずかしくないのか?

 あれか、若気の至りってやつか。10年も経てばクッソ恥ずかしい過去になってるのだろうな。


 しかし健闘ね……アルカディア女王達は全て一撃で相手を屠っているというのに件の勇者とやらは未だに最初の一体に梃子摺ってる始末。

 災厄を倒したとか嘘だろ。あの程度の実力なら我が国の騎士の中にもおるわ。

 というか異能が無かったらただの雑魚だ。


「右腕も斬った。足も斬られて満足に動けないだろう、大人しく降参しろ」

「あぁ、いってぇな……こんだけやられちゃ文句の一つも言いたくなるわ」

「黙れ、俺がいる限りこの場で好きにはさせない」

「さっきから何だお前は……ぼくの知ってるかっこいいセリフシリーズでも言いたいのかぁ?」


 ブッフォ!


 あいつ良いわぁ……私も言いたかった事を言ってくれた。

 図星だったのか勇者を名乗った男の顔が赤くなっている。


「しかしまぁ殺さないでくれてありがとうよ……ま、お前程度に殺される俺じゃないけどな」

「はあ、頭の悪い奴は嫌いだ」

「ぶははははっ!!俺もだ、その言葉も、何もかもそっくりそのまま返すぜ?」

「なに……がっ!?」


 状況が引っくり返った。

 言葉通りなのだが、勇者が天使とやらに与えた傷が無くなり、勇者に同じ傷が現れた。


 何だあの卑怯な力……


「どうだ?めんどくせぇ力だろ?……だがな、この力で俺は天使達との戦いから生き延びたんだ。どれだけ致命傷を負おうが生きてりゃ俺の勝ちだ」

「あ、おがぁ……!?」


 やっぱりやられるんじゃないか。

 もうあの勇者はダメだな。


 お、何か加勢に向かう者が出てきた。

 そう言えば勇者は数人いたか。増援の2人も勇者なのだろう。

 程度が知れたし、勝手に一緒に死んでくれ。


「父上、こちらにも向かってくる敵がおります」

「どこかに押し付けられんか?」

「無理でしょう。何処の国も自分達に向かってくる敵で手一杯みたいですし」

「ならば逃げ回るか」

「情けないですぞ陛下。フルート殿も王らしく振舞えと常に仰っていたではありませんか」


 言われてはいた。だが、言われたからって素直に聞いた事は無い。

 なぜならそうするとフルート先生が叱ってくれるからなっ!


 ……と、気を引こうとしてたら大人になってもこんな性格なまま育ってしまった。

 まあそのお陰で馬鹿共と同じくカッコつけて戦って死ぬ事はないので悪い事ばかりではなかった。


 生き残ること大事。

 私に課せられたのはフィフス王国の者を誰一人死なせず国に帰ることだ。



★★★★★★★★★★



 天使共が何か不思議な力を使いましたポーズをしながら死んでいく。

 本当に何かしら使ったのだろうが私には何も効かないので何の力なのかすら分からん。


 敵としたら「食らえ!」と必殺技的な力を使ったのに何も発動せず殺されてさぞ無念だろう。


 だが殺す。


「ち、お前等下がれ!何かしらんがコイツには天使の力が通じねーぞ!」

「どうなってるのよ!?」

「うるせぇ!……くそ、こっちの大陸にも化け物って奴は居たのかよ」

「誰だ、天使を殺せるのは天使だけとか法螺吹いた奴は!」


 天使だろうが頭をふっ飛ばせば死ぬだろうが。

 何をトチ狂った事を言ってるのだ。


 にしても自分達の事を天使天使と、聞いてるこっちが恥ずかしい。


 と、考えてるうちに一番近くにいた天使の足を蹴り飛ばし、転倒したところで顔面に一撃を……入れようと思ってやめた。


「強者は何か知らんが首を絞めて持ち上げる。でも私は身長の低さのせいで無理、そもそも首を掴めるほど手が大きくない。それでも首を掴もうとすると……どうなる?」

「え、たすけて?」

「ダメだよ?」


 むんずっと掴めるだけの範囲で首を掴み、おもいっきり力を入れた。

 すると……何という事でしょう、首の骨付近あたりまで肉が千切れたではありませんか。


「がっ!?がふぉっ、ひゅっ……!?」

「うぇ……マジか、楽に死なせてももらえんのか!」

「いっそあっちの俺等よりも天使っぽい女に一思いに殺された方がいいわ!」


 意外とびゅーびゅー血が出てくる訳ではない。

 思うように呼吸出来ないせいか、バタバタともがき苦しむ様を見てふと思った。


「腹へった」

「これ見て腹が減るとかどういう神経してんだコイツ」

「落ち着け。ここまで混乱しては敵の思う壺だ」


 お、またしても指揮官っぽい奴が出てきた。

 最初に殺した奴より偉いかどうかは分からん。そもそも天使共の序列がどうなってるかすら不明だ。


 最初に指揮官クラスをやってもそこまで動揺してなかったし……私達が虐殺しだしたら目に見えて動揺したけど。


「ち、実力では完全にあっちが上だな……しかもどうやら冥土の土産すらくれないタイプの相手だ」

「おいおい、冥土の土産もくれないとかこっちの大陸の奴等はゲスいな」

「何よ冥土の土産って」

「天使の間では相手を殺す前に冥土の土産を語るのがブームになってんだ。月に一回、天使達が集まって自分達がどれ程の情報を冥土の土産として贈ったか競いあうんだ」


 何やってんだ天使。

 あっちはあっちで殺し合いの最中にふざけてるんだな。


 ま、どうでもいいから虐殺の続きをするか。


 手身近にいた女天使を狙う。もうめんどうだからジャンプして腹をぶち破ればいいや。


「ひっ、ぎゃっあああぃぃぃぃっ!」

「ポロン!?」

「クソったれ、冥土の土産の事を聞いてきといて教えてる最中に殺すとか卑怯ものめ!」


 天使共が喚いてる最中も近い者から順に始末していく。


 馬鹿かコイツらは。敵が皆して話を聞き終わるまで待ってくれると思っているのか?

 殺し合いに会話なんぞ不要だろ。


 天使の能力は無駄と判断したのか、一人の天使が格闘で私に挑んできた。

 が、拳には拳で粉砕し、蹴りには蹴りで蹴り飛ばした。


「ウッソだろおい……天使がこんだけ居て為す術ないとかどんな悪夢だよ」

「おい、もう逃げるっぎゃ!?」


 この私に余所見をした馬鹿者の胴体をぶん殴って吹き飛ばし、近くに居る天使はようやっと一人になった。

 後から出てきた偉そうな奴が最後だ。

 残りはみみみが勝手に狩ってくれるだろう。


「……はぁ、とんだ貧乏くじだ。この大陸の偉そうな連中をぶっ殺して混乱する世界を見る筈が、こうして逆にぶっ殺される側になるたぁな」

「ふむ、どうやら死ぬ覚悟があるみたい。なら死ね」

「待った。殺されるのは仕方ないが、最後に……俺から俺へ贈る冥土の土産を語らせてくれ」

「死ぬ前の奴に言われたセリフとしては初めて」


 ここは聞く耳持たず殺す場面だ。


 しかし意味不明すぎて面白いので冥土の土産を語らせてやるとしよう。

 ペドちゃんは面白い事が好きなのだ。


「聞いてやろう」

「ありがてぇ……コホン、くっくっく、せめてもの情けだ。死ぬ前に冥土の土産をくれてやるよ……俺に」

「やだ、意味不明。続けて」

「おう。いいか……天使ってのは殺し合い奪い合う連中だったが、数年前、たった一人の強大な天使によって統一されたのさ」

「知ってた」

「ウッソだろおい……何で他所の大陸事情なのに知ってんだよ、情報通なんてもんじゃねぇぞ!」


 正確には予想してた。

 冥土の土産のくせに知ってる情報しかくれないとは不甲斐ない。

 楽には殺さんぞ。


「仕方ねぇ……とっておきの方で行くか。もう一回チャンスをくれ」

「いいでしょう。ただし、知ってる情報だった時点で殺す」

「ふん、とっておきだ。絶対に知らねぇ情報だ。コホン、くっくっく、せめてもの情けだ。死ぬ前に冥土の土産をくれてやるよ……俺に」

「そこから始めるのか」


 みみみの方ももうすぐ片付きそうだな。

 流石は元災厄、あっちは天使の異能も発動するだろうになんて事ないって感じで殺しまわっている。


 あんなのと戦ってたんだぜ、私。


「いいか、今、総統率いる全ての天使達がこの大陸に向かっている。総統はマジでやべぇぞ?どのくらい先の話かは知らんが、天使達が到着した時がこの大陸の最期だぜ」

「ほう、天使共の総攻撃か。どうやって海を越えるつもり?」

「ふ、冥土の土産だからくれてやる。十数年前まで、俺等の大陸はどんな天使でも破れねぇ結界が大陸を囲む様に張ってあったが、いつの間にか消えていた。

 その誰にも破れなかった結界と同等の結界を総統は使えるのさ……つまり、総統は結界で橋を作り侵攻するつもりだ。あの結界なら海の化け物だろうが破れねぇから弱小天使だろうが通れる。言葉通り、全ての天使がこっちに来るのさ」


 どれだけ距離があるか知らんが結界で橋を作るとか疲れそう、というのは置いておく。

 天使が全員で攻めてこようがどうせみみみには勝てないからどうでもいい。


 さて、自分で語った冥土の土産にしてはいい情報を聞けた。

 私達の敵ではないが、他の連中としてはたまったもんではないだろう。


「いい土産話だったわ。お礼にじわじわとなぶり殺しにしてあげる」

「ひとおもいにやって?」

「なら一撃で葬ってやるわ」


 もう抵抗する気もないのだろう。

 何かやり遂げたって顔で殺されるのを待っている。


 天使にもこんな変なの居るんだな。


「情報に免じて、私からも冥土の土産をくれてやる」

「マジで!?」

「ペドちゃんは、茸がお好き」

「クッソどうでもいい」


 不満たらたらの天使の顔をこれまでと同じように殴って破裂させた。

 終わってみれば楽勝だったな。


 周辺を見回してもほとんどの天使が掃討されている。

 意外な事に勇者連中も生きてるみたいだ。

 あの聖剣使いの奴はボロボロだが、傷は治ってるらしい。やられすぎだろ。


 後は何もせずとも終わるだろうし私は戻るとしよう。




「お帰りドンちゃん。凄かったね!返り血をどうにかしてから近付いてね!」

「何て酷いセリフ。頑張った友達に言うセリフじゃないわ」

「フィーリア、お前はボンボンと敵を破裂させすぎだ。そんなだから血塗れになるのだ」

「殴ったら飛び散るから仕方ないじゃない」


 席に戻ると、先程の面子が私が近付いたら離れていくスタイルで出迎えてくれた。解せぬ。

 誰のおかげで無事に生きて帰れると思ってんだ。もっと感謝しろ。


 仕方ないので返り血をどうにかしようと思うが、服に付いたのはもう洗わなきゃどうしようもないな。


 そう考えていたら身体がホワっとして、綺麗サッパリしていた。

 誰の仕業かと思えば、ステージで親指を立ててこちらを見てるルリの仕業なようだ。


 天使共が死んだお陰で動ける様になったらしい。


「参加者の皆様、皆様のお力のおかげで賊達は討伐されました。大精霊の代表として感謝致します。また、犠牲となった方にはお悔やみを申し上げます」


 もう討伐されてたのか。

 後ろにいつの間に戻ってたのかみみみが控えているから本当なのだろう。

 背中の二対の羽が邪魔で仕方ない。仕舞えばいいのに。


「さて、本来ならば宴もたけなわな時間に行う予定でしたが、大精霊の宴のメインイベントをこれから行いたいと思います」

「そのメインイベントですが、これは尤も功績を残された国に我等が母たる世界から特別な力を贈り物として贈与されます」

「我等が母たる世界は、ここ最近の各国の皆様を同様に評価されており、正直優劣の付け難い状況でした」

「という事でじゃ、今回はワシ等大精霊の動きすら封じる厄介な連中の撃退、これも評価に入れて今回最も優秀だった国を選ばせてもらうのじゃ」


 ……読めた。


 とんだ茶番だ。

 アルカディアがそのまま選ばれていれば小国であるが故に他国から不平不満がわんさか出てきた事だろう。


 だが、今回私とみみみは天使共のほとんどを蹂躙した。

 これだけの功績を見せれば誰も文句は言うまい……


 つまり、大精霊共は私が天使殺しの能力を持っている事を知っていた。

 天使の襲撃がある事も知っていた。

 実際には大精霊共でも天使の対処は出来たのだろうが、あえてこの場に招きいれ、更に何もせずに捕まったのは私達に暴れさせて功績を残させる為……全てはただの仕組まれた茶番。


 私を躍らせるとかぶち殺すぞ大精霊。


「ひいぃっ!?……そ、そそ、それでは早速発表といくのじゃ!?」


 どうやらルリの奴は私の殺気を感じ取ったらしい。

 当然ヤツも折檻してやる。

 下手すりゃミラ達にも危害が……ライチが居たから無さそうだが可能性はあった。


「此度、最高の功績を残された国は……アルカディア国です」

「わ、ドンちゃん選ばれちゃったよ!?」

「知ってた」

「知っておったのならつまらんイベントだな。ま、あれだけ派手に暴れれば当然か」


 会場はザワザワしている。

 だが当然文句は出てこない。そりゃあれだけ天使を殺しまわってた奴に文句とか言える訳がない。

 全ては大精霊共の筋書き通りって訳だ。


「アルカディア国には我等が母たる世界から特別な力が授けられます」

「どの様な力なのかは私達には分かりませんが、間違いなく強力な力です」


 授けられるのは構わんが、どうやって貰うのだろうか。

 祝福の時みたいに光でも降ってくるのかね。


「というかセシリアとナタリーちゃんはやけに静かね」

「あ、いえ……カリーナ様が殺されたというのに、何事もなく進むのだと思って少々……いえ、何でもありません。おめでとうございます」

「良いヤツなのも良し悪しよね。私とかもうおばはんの事とか忘れてたわ」


 こうしておばはんの事を誰も気にしないのは人徳故に仕方ない事だ。

 私が殺してもいいと思ったくらいだ。他国の連中もあんまりお近づきになりたくない奴だったのだろう。


「ちょっと待ってほしい!」


 ちょっと待ったが入った。

 大精霊の話が続いてるだけあって皆静かにしてたので無駄に会場に響き渡った。


 大精霊共の計画では誰も文句言わない筈だったのだろうが、どうやら文句言う奴がいるみたいだぞ?


「……発言を許可した覚えはありませんが、聞きましょう」

「感謝します。俺はナイン皇国の勇者コウキ。今回の事件……俺は仕組まれた事ではないかと疑っています」


 また勇者がしゃしゃり出てきたらしい。

 しかし、毎回勇者とアピールする必要があるのだろうか。


 この先の展開は大体読めるが、まあ面白くなりそうだから黙っていよう。

 仕組まれたってのも間違ってないし。ただし、仕組んだのは目の前に居る大精霊共だが。


「仕組まれた、ですか」

「はい。今回の襲撃……大精霊様達がご用意したこの場所にあっさりと侵入された事がそもそもおかしい。俺には何者かが手引きしたとしか考えられません」

「なるほど」

「そして、その手引きした者……それは、そうする事で最も得をする人物。用意しておいた偽りの敵を招きいれ、それらを倒し功績を残す事で世界から特別な力を頂く。そう、これはアルカディア国の者が仕組んだ襲撃に違いありません」


 という勇者の頭おかしい発言で他国のお偉いさん連中に動揺が走る。


 具体的には化け物相手に何を喧嘩売ってんだという馬鹿を見る目で勇者を見ている。

 その周囲の目に全く気付かない馬鹿はどこかドヤ顔でこちらを見ていた。


 おい、ナイン皇国の連中を見ろ。顔が死に掛けてるぞ。


 だがまぁ折角あっちがこのクソくだらないイベントを面白くしてくれるのなら乗るしかない。


「ふ、私が仕組んだ事だと。確かに有り得る話ではあるわね、世界から貰える特別な力ってのは魅力だし」

「ふん。認めるのだな」


 有り得る話だ、と言ったのに何故か認めた事にされた。

 ダメだな、異世界人ってのはアホが多い。フミオ然り、コイツ然り。


「なかなか面白い推理だこと。でも残念ながら私は何もしちゃいないし計画を立てる理由もない。それとも、今回の襲撃を私が企てたという証拠でもあるの?」

「ドンちゃん、それ犯人が言うセリフだよ」


 マジか。

 言われてみれば犯人がよく言ってそうな言葉だった。


「あくまで白を切るつもりか。子供だろうと、悪はこの俺が許さない」

「この人会話が成立しないよドンちゃん」

「ミラにまで言われるとか相当よね」

「もうドンちゃんが無実だってガツンと言ってやればいいんだよ」


 言ったって通用しないから困ってるんじゃないか。

 というか好都合じゃないか。この馬鹿勇者を機にナイン皇国に攻め込み滅ぼす。


 幸いにして、奴は「ナイン皇国の勇者」と名乗った。

 付け入る隙がありまくりだ。馬鹿ってこういう時は有り難い。


 マオにとって脅威の芽である宗教国家は早々に滅ぼすに限る。

 ケバはんよりも相手に不足なし。


「よく聞きなさい。私は誰であろうと敵対する奴は殺す。例え罪の無い住民だろうと標的が住んでる場所に居るだけで始末する。逆に敵対してなけりゃ殺さない……つまり今回は私は無実よ」

「説得力仕事して」

「何がつまりなのか妾にも分からんぞ」


 とりあえず無実だと言ってやったからミラの要望は聞いてやった。


 てかもうどうしようもないだろ。

 件の馬鹿勇者は何が何でも私を犯人に仕立て上げたいようだし。


 何故かと言えば……この世界から特別な力を貰う為、だろうな。

 どうにもこの馬鹿勇者は特別って言葉が好きらしい。

 優れているって意味にもなるからな。


 後は……控えているみみみにも興味津々らしい。チラチラ見てるし。

 美人で本物の天使っぽいしなぁ、宗教国家からしたら欲しい人物だろう。


 ま、この勇者は下半身事情で欲しいだけなんだろうけど。

 ここで私の評判を落としてみみみの忠誠度を下げ、世界から贈られる力と一緒に手に入れたいって所か。

 よかろう、そのくだらない欲望に付き合ってやろうじゃないか。

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