幼女と冒険者
パタパタと面倒そうな気配を感じたのか、マイちゃんがこちらに翔んできた。空気が読める様でなにより
冒険者集団はユキに何か話しているみたいだが、私は聞き流してるので全く分からない。
「…ペドちゃん、この場はこの俺が何とかしてやろうか?」
「へー…やってご覧なさいな」
「任せとけっ」
全く期待してないが、意外と何とかなるかもしれない。だが、何とかするって何だろうか?そんな面倒な相手だったりするのか?
いや、モブオは馬鹿だから良い格好したいだけだろうな。
「そうだ。椅子係なんだし、マオの上に座ればいい」
「そ、それなら引っ付けますっ!」
私達は私達で何だか分からない話をしていた。
「よっ!俺は五丁目ギルドのアインだ!ランクは中級者だ、おたくは?」
「…四丁目ギルドのファルクスだ。ランクは二段だ」
「…そっか!よろしくなっ」
それだけ言ってモブオはこっちグループに戻ってきた。何しにいった
「俺にはこれが限界だった…」
「相手のランクの高さにビビったって訳ね。流石五丁目ギルドの穀潰し、何もしちゃいないわ」
「…幼女の罵倒も悪くない……」
「もう帰っていいわよ」
「…俺はいつか幼女に相応しい男になって帰ってくるっ!」
と言ってダッシュで出ていった。幼女に相応しいとか、性犯罪者にでもなるつもりだろうか…
「ご主人様」
「終わったー?」
「いえ、こちらの冒険者達が私をパーティに入れたいと仰ってます」
パーティ?…仲間か。ランクアップしそうだし私はパスだ。誘われてるのはユキだけ何だけど…
「好きにすればー?誘われてるのはユキだけなんだし」
「わかりました。お断りしますね」
決断早いな。というか聞かなくても良かったろうに。好きにしろと言った所でどうせユキが私から離れる事は…多分ない。
「ちょっといいかい?」
標的が私になったか。
「何のご用?」
「いや、君がユキさんの主と聞いたからね…良ければユキさんを依頼を受ける時だけでも一緒させてくれないかい?」
「嫌よ。判断は本人に任せてるんだから、ユキが断った以上諦めなさい」
即答した。興味が湧かない奴等だからさっさと立ち去って欲しい
「私からもいいかしら?」
「…何よ?」
今度はお仲間に居た女が話しかけてきた。
「…随分高圧的ね、貴族ってこれだから」
小声で言ったつもりだろうが、バッチリ聞こえてる。
「ユキさんのお給料っていくら?依頼を受けてる間は倍額払うわ、それでどう?」
「0ポッケ、無料、タダ働きよ。あと、私は平民だから…良かったわね。私が貴族だったなら、態度の悪い貴女に何の罰を与えてたやら…」
「…タダ働き?この優秀なユキさんを?」
「薬草狩り何てものが優秀なのね」
全く凄さが分からない。鞭使いのユキ、とか言われた方がマシじゃないか?
「…並の冒険者じゃ採ってこれない場所にある薬草をユキさんは短時間で採ってこれるのよ。薬草狩りとはその凄さを表した名誉ある称号なわけ」
「その称号ってのカッコ悪くない?あなた達もそんな恥ずかしい称号もってるの?」
女の顔が真っ赤になりだした。やれやれ、怒りっぽい女だ…
「あのね…年上には敬意をもって接しなさい、お嬢ちゃん?」
「私は16歳だけど?あなたこそ外見だけで判断して子供扱いするのは失礼ね」
「うそぉ…」とか言いながら皆して見てくる。子供らしからぬ雰囲気を醸し出してるのに気付かないとは…
「ふんっ!ユキさんと一緒に居るって事はあなた達も冒険者でしょ?あなた自身の実力を教えて貰おうかしら?ついでに後ろの娘も…まさか全部ユキさん任せって事は無いでしょうね?」
「良くわかったわね。戦闘はほぼユキ任せで合ってるわ。ちなみに私自身はぶらっくうるふを何とかする為修行中…この子は魔物を倒した事はまだ無いわ」
嘘は言ってない。私自身の実力と言われたし、奇跡ぱわーの力は除外した。マオも身体能力は高いが魔物を倒した事は無いし
しばらくポカーンとして女は笑いだした
「あっははは!ブラックウルフって…あんなのに手こずってるわけ?」
「えぇ、手強いもの」
あいつらの誘惑は酷い…恐らくマオもぶらっくうるふの可愛さにやられてしまうだろう
「そんな初心者組にユキさんは勿体無いわ。やっぱりウチに来た方が良い。ランクも高いし」
ランクが高いと何かあるのか…?面倒くさい義務が発生するだけだと思うが…
「ランク高いと何がいいわけ?」
「あぁ、高ランクになると騎士として国が雇ってくれる事があるんだ。優秀な冒険者を国外に出したくないだろうし…装備品の割引とかもあるけど…」
最初にユキに話しかけたリーダーらしき男が答えてくれた。
騎士なんぞになってどうするんだろう…?安定した給料が貰えるだけでは?稼ぐのに余裕が出てから装備品の割引されても意味ないし
「あなた達は騎士になりたいの?」
「…まあ、憧れだしね。なれるものならなりたいかな」
「じゃあ何で冒険者になったの?」
「何でと言われても…この世界は至る所で魔物に襲われる危険があるし…人々の安全のために危険な魔物を倒す。そのついでにお金を稼ぐためかな?」
魔物倒したいなら冒険者のままでいいのでは?…騎士なんて余程の被害が無い限り魔物討伐なんてしない。存在理由は起こるかもしれない戦争の駒だと思うが…後は町の警備か?
「危険な魔物から人を助けたいなら冒険者でいいじゃない」
「そうだね…。あー……正直言うと、親に冒険者になる何て恥ずかしい、みたいな事を言われててね。見返してやりたいのが本音かな?」
冒険者ってのは職に就けなかった落ちこぼれの職業だしなぁ…。もしかしたら、この男は騎士の試験に落ちて冒険者になったのかも……どちらにせよ人助け大好きなんだろうなぁ…
「君達は…その、親の反対とか無かったのかい?そんなに小さいのに冒険者だなんて…」
むしろ働けと言われた、とは言わないでおく。あれでも私の母だ、私の夢に気付いていたかもしれない。
「ユキがいるからね、特には何も。別に魔物討伐だけが仕事じゃないし」
「そうか…きっとユキさんを信頼して君を託したんだね…だったら君から引き離すわけにはいかないか……」
全然違うが、何か良い方向に勘違いしてくれたからいいや…
「いや、邪魔したね…ユキさんは諦める事にするよ…。そもそもユキさんに頼らず自分の実力で騎士にならなきゃ意味ないしね」
騎士になるのは結構大変なのかもしれない。でもこの男ならその内夢を叶えるかもしれないなー…。
「一つだけ。騎士になったなら一国に縛られる事になるわ。なら冒険者である内に他国にでも行ったら?ギルドカード一枚あれば自由に、何処にでも気楽に旅が出来ると考えれば冒険者も悪くないでしょ」
「…そういう考えも有りか、な?」
「あなたの好きな人助けを何の縛りもなく出来るのは今の内だけよ。せいぜい見知らぬ土地の見知らぬ人達をいっぱい助ける事ね」
「…そうだね……ありがとう。君のお陰で冒険者になって良かったって思えたよ」
そう言って男と仲間達はギルドから出ていった。結局他の仲間は喋らなかったなぁ……。ちなみにあの女、出ていく際に私を見てあっかんべーしやがった。子供か!
「案外ああいうのが物語の英雄みたいになるのかも」
「そうかもしれませんね」
「お姉ちゃんだって英雄になれるです!」
ならないです。絶対やだ。『英雄ペド・ここに眠る』とか恥ずかしい墓を建てられそうだし
「嫌すぎる…絶対やだ」
「そ、それでも!わたしやマイちゃんさんにとっては命を救って貰った英雄なのです!」
パタパタ
マイちゃんかマイさんのどっちかにして…『マイちゃん』って言う名前じゃないし
「まぁ…あなた達がそう思うならそう思えばいいわ」
「はいっ!」
パタッ!
身内だけの英雄ならいいか……とか思ってたらマオのギルドカードが出来たみたいなので、カードを受け取りギルドを後にした
★★★★★★★★★★
節約のため、安めの宿をとった。どうせユキがベッドに潜り込むだろうからツインベッドの部屋にした。
「一応言っておくけど、朝起きたら私を挟んで川の字で寝てましたとか要らないから」
「…………はぅー」
この娘絶対するつもりだった!あらかじめ言っておいて正解だったようだ。
しかし、安めの宿だけあってベッドの敷き布団は薄っぺらいし、部屋も狭い。何より茶菓子がないのがいただけない
ユキは再び画伯となり、テーブルを独占して続きを描いている。マイちゃんはユキの肩に乗り、作業風景を眺めているっぽい
残った私達はする事ないので、とりあえず窓際にある椅子に座って町を見ながらまったりしている。
「何というか、固い椅子ね…お尻と腰が痛くなりそう」
「あ、わたしの太ももに座りますか?」
「…そうね。マオは平気みたいね」
「全然大丈夫です」
やはり丈夫な娘だ。これなら馬車でも大丈夫かも。振動次第とは思うが…
その後、日が暮れて夜の世界になった町をぼーっと見ていた。
「ああっ!?待って下さいマイさんっ!」
急にユキが大声をあげるのでビクッとした…マオが。何事かと見ればマイちゃんが画用紙を掴んで私の元へ来る所だった。
とりあえずマイちゃんから画用紙を受け取って見てみる。
『尻・再び』
まだ下書き段階だが、前見た様なパンツ丸見え幼女が天井裏に上がろうとしている様子が……
「フンッ!」
ビリイイィィィィッ!
「ああっ!?」
何て懲りないメイドだ。舞王の続きを描くと油断させといてまた尻を描いているとは……
「でかしたわマイちゃん…ご褒美にマイちゃんの夕飯は豪勢にしましょう」
パタパタッ!
もちろんその分アホの夕飯が貧相になるが。自業自得だ。
「マオが仲間になって大丈夫などと思ってた私の失態ね」
「まさか…マイさんが裏切るなんて……」
「当たり前でしょ。むしろマイちゃんを尻を愛でる仲間にしようとか考えた貴女の方がまさかよ。友達を何だと思ってる」
マイちゃんが常識ある蝶で良かった…。マイちゃんまで変態側になったら味方はマオだけだ。不安しかない
「何か言うべき事は?」
「せめて…着色後に破って頂ければ…」
「まず謝罪でしょ。私とマイちゃんに」
マオが仲間になろうとユキは変わらない…四丁目に来て初めての収穫がこれとは…突発性の変態が無ければ良い娘なんだが…
ユキの謝罪を満足いくまで聞いた後に、夕飯を食べる為に私達はなんだかやるせない気持ちのまま部屋を後にした。




