幼女、身分がバレる
久しぶりに会ったライチ御一行だが、従者の一人である秘書っぽい奴は見覚えあるが、もう一人の護衛っぽい騎士は知らん。
というか馬鹿のライチに護衛とか要らんだろ。
「その新顔は誰よ」
「コルネリアだ。というか会った事あるだろ」
「知らん」
「お久しぶりです。初めてお会いした時は兜を被ってましたのでお分かりになられないのでしょう」
初めて、というとアトロノモスとの出来事の時か。
そういや偉そうに喋ってた奴がこんな声だった気がする。
「偉そうな喋り方してた奴か」
「はい。今となってはかつての自分に誰に向かって偉そうな口利いてんだと文句言いたいです」
「うむ、気にすんな」
「ひいぃ、ペドちゃんが偉そうだよぉ!」
「偉いから仕方ない。てかさっきも言ったけど二人とも座ればぁ?」
ライチ達に用意された席は何故か7人分の椅子がある。
どうやら従者は腰掛けたりしない様なので座ってるのはライチと私だけだ。
余ってんだから気にせず座ればいいのに。
「こほん、流石にサード帝国の皇帝様と同じ席に座るには両親に許可を得る必要がありますので」
「私も、私も!」
「めんどくさいな貴族」
「ならばアムリタ、お前が付き添いで共に説得してやれ」
「かしこまりました」
ライチは善意のつもりだろうが、二人の表情が魔王からは逃げられないと物語っていた。
まあ二人はワンス王国出身なので別にライチと戦をする未来はないんだから気楽に接すればいいんじゃないかね。
アムリタとやらが絶望してる二人を連れてワンス王国の連中が座ってる場所へ向かった所で何かコソコソとライチが話しかけてきた。
「ところでフィーリア、今更だがお前よく生きてたな」
「災厄の事か。本当に今更ね」
「いやー、遠目から見ておったが、いかに妾とて真っ向から戦えばあっさり返り討ちになっておったかもしれん相手だった。それをお前ときたら……流石は妾の親友だ」
「何だ、見てる奴居たのか。じゃあトゥース王国を攻めたサード帝国の奴等はライチがどうこうした訳じゃないのね」
「誰にも邪魔はさせぬと言っただろう、故に何人たりとも近付かぬ様に監視しとったのだ。ちなみに離反した馬鹿共はコルネリア達に丸投げしたわ」
ふむ、そのコルネリアとやらもライチには及ばないが中々の強者なのか。
ウチの変態共より強いのかね……マリアよりは弱そうだがユキ達よりは強い程度か。
流石は初対面で私に向かって偉そうに喋ってただけはある。
「やはり私に偉そうに喋るだけの強さは持ってたか。私に向かって偉そうに喋るくらいだし結構な強さなんでしょうね」
「うぅ……」
「何か知らんが許してやれ」
許すも何も別に怒っちゃいないんだけど。
割と居心地悪そうな顔になったからこの辺で弄るのは勘弁してやるとしよう。
「にしてもよくライチがこんな催しに参加しようと思ったわね」
「ふむ。妾の国も食料不足による飢えには勝てぬでな、タダで食い物の恩恵に与れるのならば参加するしかあるまい」
「サード帝国は人口多そうだしなぁ」
「まあな、今は下々の奴等から食料を取り上げて食いつないでる感じか。飢饉が解消される頃にはどれほど人口が減っておるかのう」
嫌なところで魔王っぽい行動をする奴である。
私で無ければ非難浴びせまくってる案件だぞ。
あと一月もすれば数百万は死んでるかもしれんな。
「何てな。言っておくが、狩った魔物を提供してやってはいるぞ?代わりに野菜類を頂戴してるだけだ」
「なら栄養バランス云々は置いておけば飢え死にはしないわね」
「うむ。まあ妾は魔王らしく民など飢え死にさせればよいと言ったのだが、家臣共が猛反対しての」
「当たり前です」
常識人である部下達は大変だな。
よくライチを見限らずに付いていける事だ。
「丁度よい。フィーリア、お前には貸しが一つあっただろ?」
「知らん」
「あるのだ。よい機会だから返せ、お前の所はどうせ腐るほど食料があるのだろう?……食料事情が落ち着くまで妾達と取引してくれ」
「寄越せと言わない辺りが評価出来るわ。いいでしょう、可能な範囲で売ってあげる」
「うむ、感謝するぞ。うははは!やはり非常識な奴に貸しを作っておくと役に立つのう」
さて、売るのは構わんが対価はどうするか。
ライチ達なら逆に腐る程の金は持ってるだろうが、別に稼ごうと思えば稼げるから金以外の物が欲しいな。
「対価の半分は金でいいけど、もう半分は奴隷で払ってちょーだい」
「奴隷か……?構わんが、奴隷兵となるとそう多くは譲れんぞ?」
「ただの最底辺の奴隷でいいわ。ろくに教育を受けてない奴、今後の事を考えるとガキの方がいいかも。適当に見繕ってくれれば後は私が使えそうな奴を選んで貰うわ」
「ふむぅ、最底辺の奴隷でいいとは、おかしな奴よ」
「良い事を教えてあげる。これから仕込もうと思う奴は、無駄に知識がある奴よりは無知の方が良い」
それこそ常識を知らない奴がベストだが、流石にそこまでの逸材はおらん。
魔法使いで例えるなら、無詠唱を覚えさせる際に詠唱が必須だと習ってる奴より、何も知らん奴に魔法は無詠唱で発動させるものであると教えた方が習得が早い。
ユキがそう言ってたから間違いない。凝り固まった知識は時として邪魔になるって事だ。
「なるほどな、コルネリアよ、我が国でも無知な輩に色々と仕込んでみるか?」
「そうですね……こちらの世界の人間も使える者に成長するならば価値はあるかと」
「それにしても視線が鬱陶しいな、如何に妾とてこの様な場で暴れたりはせんわ」
確かにチラチラとこちらを窺う視線を感じる。
だがライチ達というより私を観察する視線の方が強い気がする。
こんないたいけな幼女を凝視するなど無礼千万だ。
他人がどうでもいい私としては視線程度気にはならないが、一部例外だ。
「あのケバい女みたいな不愉快な視線だとイラッとするわね」
「誰だか知らんがフィーリアに敵意を見せるなど自殺志願者かあ奴は」
「しかし閣下が見ましたら慌てて目を逸らしましたね。あれは小物です」
「ま、何処ぞの平民がサード帝国の皇帝に取り入ってるのが気に入らないって所かね」
「カスの思考は理解に苦しむな」
あのケバいおばはんは何処の国の者だ?
ワンス王国やトゥース王国じゃなければ処刑してもいい気がする。
セシリアとナタリーちゃんが戻ってきたら聞いてみよう。
というかさっさと宴会始めればいいのに。
長いんだよ、待ち時間が。
そのせいでこんなザワザワと騒いで喧しいんだ。
……ふむ、こんなザワザワしてたっけか?
「フィーリア。妾には何の変哲もない少女に見える奴が注目を浴びておるぞ。あれは誰だ?」
「私が知ってる訳ないでしょ……いや知ってる奴だったわ」
誰かと思えばミラだった。
幻獣やら水の大精霊やらサード帝国勘違いの撃退事件やらで一躍時の人となってる様だ。
噂が事実として飛び交ってるのか、ミラを見る目には尊敬の念がありありだ。
周りに居る普通ながらも偉そうなのが家族であり国王やら王子なのだろう。
だがもはやミラ以外の王族なぞミラのオマケでしかない、可哀想に。
世間の目は水の大精霊……の分体を隣に置いてるミラにしか向いていない。
「トゥース王国の方々ですね。今となってはトゥース王国と言えばミラ姫、と返すほど有名みたいです」
「うむ。あれがフィーリアの友か?」
「チヤホヤされて青い顔になってる奴の事なら友達よ」
「うーむ……賞賛されて青くなるとは面妖な奴よの」
だって本人は普通の人間だし。
ある意味私がミラの周辺を魔改造した結果ああなってしまっている。
青くなってるのはもう戻れない所まで勘違いされて胃痛でも起こしてるんだろう。
「フィーリアの友なら妾も挨拶に行くべきだな」
「殺す気か」
「どうしてそうなった」
「サード帝国の皇帝にまで一目置かれてると周知の事実にされたら胃痛では済まないわ」
「フィーリアの友の割に軟弱な奴だな」
という事で友達想いの私はそっとしといてやろう。
そう思っていたが、空気の読めないルリの阿呆はミラの腕を掴んでずんずんとこちらに向かってきている。
周りの王族共が止めろよと思ったが、大精霊には強く言えないのか無言で見守るだけだ。何という役立たず。
さよならミラの胃。
あのアホの大精霊は後で泣かせておく。
「ミラ殿を連れてきたのじゃ」
「ええ、久しぶりねミラ。貴女の胃はもうすぐ死を迎える」
「久しぶりだねドンちゃん……でも気分は重いけど別に胃がどうこうとか無いから」
「そう言って皆死んだわ」
「死なないよ!?」
何だ、元気そうじゃないか。
私が思ってる以上にミラの精神力は強いらしい。
何はともあれ、ライチとミラの邂逅がルリによって強制的になされた。
ただしジッと見るライチに対し、ミラの方は分かりやすいぐらい目を合わせない様に顔を背けている。
気持ちは分かるが皇帝相手にそれはないだろ。
「お主がミラとやらか。妾の名はライチ。この場は宴の席、同じフィーリアの友として仲良くしようではないか」
「はい……ミラ・クルステンダムと申します。こちらこそ宜しくお願いします」
「うむ、こうして主殿の人脈の絆が強固になっていくのじゃな」
「どうでもいいけどここでは主殿って呼ばないで。ミラがこっち来たせいで更に注目浴びてるじゃない。聞かれたらクソ面倒になりそう、大精霊に認められてるとかスゲーされて胃を痛めるのはミラだけでいいの」
「分かったのじゃ」
「極悪だよ……」
もうこうなったら仕方ないのでミラにも座れと言ったが、父の許可を得ないと……とセシリア達と同じ理由で逃げようとした。
逃がすつもりは無いのでルリに王に許可を貰って来いと伝え向かわせたらあっさり許可を貰って戻ってきた。
どうやらトゥース王国側としてはミラがライチと友好を深める事で戦を回避しようと考えてるらしい。
んな事しなくても攻めて来ないのに。
「はあ……こうしてまた私が何か凄い奴って認識される勘違いが加速するんだ」
「ふむ、何を考えてるか知らぬが、こうしてフィーリアが友と認めておるのだから凄い奴に違いはなかろう」
「私を基準にするのやめれ」
「ドンちゃんってそんなに凄いんですか?」
「こ奴相手にドンちゃん呼ばわりのそなたも大概凄いがな。そうだな……」
何かを考えるかの様にライチは空に目を向ける。
いや、違う。誰も気付いてないが、ライチだけは遥か上空に待機しているみみみに気付いてるみたいだ。
自称魔王なだけあってやっぱ化け物だなコイツ。
「とりあえずフィーリアに敵対すれば妾達だろうと滅ぶな。あのニボシという者だけならともかく、更に一体増えたとなるとなぁ」
「ほえー」
「興味ないだろ。貴女に分かりやすく言えば、私はミラと違って1日の小遣いが200万ポッケの存在よ」
「凄すぎだよ!」
「何でそっちに食いつくのだ。どう考えても圧倒的武力の方がえげつないだろう?」
そんな事言ってもミラの奴は弱っちいから強さに全く興味無いだろうし。
それが気に入らないのかライチは熱く語りかけているが、ミラの方はほぼ聞き流しながら空返事するばかり。
弱小国の姫のくせに強国の皇帝相手にこの態度、ちょっと大物過ぎないか。
やはりミラは面白い奴である。
ライチが一方的にミラに話しかけて親睦を深めているので、私は大人しく目の前にある食い物に集中する事にしよう。
さっき食べて思ったが、用意されてる野菜がアルカディア産に匹敵する美味さだ。
精霊達が育てたのだろうか、良い仕事してやがる。
むしゃむしゃしてるとこちらに向かってくる人の気配を感じた。
どうやらセシリア達が無事に許可を貰って戻ってきたようだ。
「ただいま戻りました魔王様。無事に挨拶して参りました」
「ご苦労。二人共戻ってきたという事は無事に許可は得られた様だな、まあ座るといい」
「はい、失礼します……。その前に、お初にお目にかかります。セシリア・アダルジーザと申します。どうぞ、よしなにお願いします」
「わー、見てドンちゃん。私よりお姫様っぽいよ」
「あんたに挨拶してんだから返しなさいよ」
「はぅあ!?ご、ごめんなさいっ!ミラ・クルステンダムです、宜しくお願いしますっ!?」
ミラのアホ具合を間近で見たおかげか、ナタリーちゃんの生気が回復してきた。
だが立場ではミラの方が上である。残念だがナタリーちゃんは一番下っ端だ。
ナタリーちゃんの挨拶も終わった所で皆して席についた。
この知り合いだけで固めていくスタイル、嫌いじゃない。と言ってもセシリアとナタリーちゃんはほぼ初対面だけど。
後はサユリでも確保出来れば完璧だが、そもそも来ているのかどうかも知らない。
「ミラとナタリーちゃんはキャラが被ってるからきっと仲良く出来るわ」
「ステータスでは惨敗だよ……」
「そ、そんな事ないですよ!ミラ様だって素敵な方です!」
「身分で勝ってりゃステータスなんざどうでもいいでしょ」
「身分……そういえばこの場で一番偉いのってドンちゃんじゃない?となるとドンちゃんじゃなくてドン様とか呼んだ方がいいのかな」
何故ドン呼びは直さない。
様付けになったら完全に男みたいな呼び方じゃないか。どこの賊のお頭だよ。
「え、ペドちゃんが一番?えーと、ライチ様ではなく?」
「うむ、フィーリアの国であるアルカディアは小国とはいえ武力だけなら大陸一だからな。もはや何処の国だろうが逆らう事は出来まい……と言いたいが何処にでも馬鹿はおる故、妙な自信で攻めようとする者もおるだろうな」
「アルカディア女王ってペドちゃんだったの!?」
「私だったのか」
「何で本人が知らないの!?」
「このナタリーという者も面白い奴だな」
「そうですねー」
ほらー、ナタリーちゃんが馬鹿みたいな大声で叫ぶから聞き耳立ててた奴等に私の正体がバレたじゃないか。
別に隠す気はなかったが、これで私にちょっかい出してくる馬鹿が減ってしまう。
こうなったらあの頭悪そうなケバいおばはんが突っかかって来る事を期待するしかない。
空気読まずに来いよおばはん。
「む、そろそろ始まるようじゃの。では主、ではなくフィーリア殿にミラ殿。ワシは出番故に行ってくるのじゃ」
「やっとか」
「いってらっしゃい大精霊様」
「何だ、美味いモノ食べて騒いで終わりではないのか」
私としてはそれで終わっていいと思う。
大精霊達が長ったらしい挨拶とかした所で聞いちゃいないし。
何やら後方が騒がしくなってきたな……例の一般参加の連中が入場してきたのか。
「見ろ、前方のステージに何か現れるぞ」
「何かって……大精霊共でしょ」
「大精霊様達にそんな言い方するのドンちゃんくらいだよ」
私が見た事あるのは水と風の大精霊だけだ。
他の大精霊達がどんな奴かも気になるが、大精霊が何種類居るのかも気になる。
頭上から光が舞い降りるという無駄な演出を見ながら大精霊達の出現を待った。




