幼女、久しぶりに王都に行く
大精霊の宴とやらに連れて行く従者が決まったので、やってきました久々の王都。
前回同様薄着の変態共が我が物顔で歩いている。
ただし以前来たとき程活気があるかと言えばそうではない。
やはり王都とはいえ食料不足はどうしようも無いようだ。というか王都は貴族が多いから他の町より一般人が食える食料は出回ってないのかも。
もう少し遅く来てれば痩せた変態共が彷徨う光景が見れたかもしれない。
「相変わらずね此処は」
「冬場なら多少は厚着してると思いますけど」
「ですがご覧下さい。表情に明るさがあまりありません、やはり王都も食糧難の影響が見られます」
「貴族も多けりゃ民も多いですしね」
さっき似たような事を考えてたけどな。
とはいえ他人が飢えてようが私達には全く関係ない。飢え死にしたくなけりゃ無駄に動かず余計なカロリーを消費しなきゃいいんだ。
と、王都の変態達をある程度観察したところで本来の目的地である冒険者ギルドに行くとしよう。
目的の人物が居りゃいいのだが、留守だったらどうするか……よし、拉致ろう。
「おや、ご覧下さい。華やかな王都に似つかわしくない雑魚臭を放つ底辺達が居ますよ」
「あらホント」
「自分達が場違いだと気付いてないのでしょう。空気読めないのはああいう方達の事を言うのです」
「この言い様」
ウチの連中にボロクソ言われてたのは何を隠そう五丁目の冒険者達である。
五丁目に居る訳ではないのに何と言う遭遇率。
とはいえ久しぶりと言えば久しぶりなので声をかけてやるとするか。
どうやらユキ達は災厄云々の時に会ってるみたいだけど。
「久しぶりね、失せろ三下」
「自分から声を掛けといて失せろとか何その辛辣な挨拶」
「て、誰かと思えばペドちゃん達じゃないか。なら許すわ」
「あなた達に縁の無さそうな王都で何してんの?……なるほど、薄着の美女達の視姦と。死ねばいいのに」
「ちょっと見ない間に口の悪さが悪化してない?」
「だが俺達の行動っぽいから反論はしない」
五丁目特有の暴言による挨拶も済んだ事だし何でこんなトコに居るのか聞いてみた。
どうやら災厄とのいざこざが終わってフォース王国周辺から帰ってる途中だったらしい。
未だに五丁目に帰れてないとか遅いなと思ったが、普通の冒険者ならこの速度が普通だそうだ。
まあ五丁目の冒険者は思考回路は普通じゃないけど。
「さっき王都のギルドに寄って報酬は頂いてきたからな、丁度いいから王都の装備屋に行くところだ」
「報酬って五丁目じゃなくても貰えるのか」
「そりゃワンス王国のギルドの元締めは王都のギルドだしな……他の町は無理だが、王都のギルドなら国内で受けた依頼の報酬は貰えるぜ。確認がクソ面倒だが」
「で、クズ共の分際で一丁前に装備を整えると」
「まあ、装備を買うっちゃ買うが」
何故か歯切れが悪い。
これは邪な考えをしているに違いない。
同じ五丁目の冒険者として同郷の犯罪者が重犯罪をおかさないか見張る必要がある。
という建前で邪魔しについていってやろう。
本来の目的?んなもん後だ後。
モブオ共についていった先にあったのは普通の装備屋だった。
武器も防具も両方取り扱っているので装備屋だ。
エロ本を利き手と逆に装備しに行くと思ってたが意外な事にまともだ。
「どうやら中古品の装備を取り扱ってる店らしいですね」
「まあ五丁目の雑魚冒険者なら中古で十分でしょ」
「ふふん、身の程知ってるだろ俺等」
「褒めてねーし」
予想を覆して面白みの無い結果になったが、奴等の事だから店に入ってから何かやらかすかもしれない。
店の中に入ると、やはり普通の店な様で中古の装備が種類別に並べられて売られている。
私達は特に装備に拘りを持ってない集団なので全くテンション上がらなかった。
しかし五丁目の筆頭クズ達は新たな装備にやたらとはしゃいでいる。
ちなみに武器ではなく防具ばっかに目が行ってる様だ。
雑魚の自覚があるのか。死なない事に重点を置いてるみたいだ。
「お、これとか良いわ」
「ほう、アインの目利き拝見と行くか」
「ユキの目利きではどうよ」
「私には初期装備クラスの皮の鎧にしか見えませんが」
私も名前だけは知ってる装備だ。
皮の装備を着るくらいなら普通に私服でいいんじゃなかろうかと思う私が居る。
だがてっきり布製品っぽい奴かと思えばそうでもなさげだ。
触ってみると意外と固くペチペチ音が鳴る。とはいえ剣とか簡単に突き破れそうなのには違いない。
「んな安物買うくらいなら今のままでいいじゃん。というか装備変わんないでしょ」
「何言ってんだペドちゃん。王都まで着て手ぶらで帰れる訳ないだろ」
「なら剣でも買えば?」
「そもそもその鎧はあなたのガタイに合ってないでしょうに」
確かに。サヨの言う通りモブオが手に持ってる鎧はモブオが着るには明らかに小さい。
……この小ささは中等部程度のガキが着ていた奴か、あるいは女性か。
「なるほど、モブオ共が装備を買う理由がゲスくて安心した」
「ふ、どうやらバレてしまった様だな。そうだ、俺達は女性が着用したであろう装備を買いにはるばる王都にやってきたのさ!」
「しかも身体にピッタリ密着した防具のみをな!」
「ここそういう店じゃねーから」
「いや、この店の店主は表には出さないが俺等みたいな隠れた趣味を持つ奴等にそういった理由で売っているぞ」
「買い取った装備を手入れも洗いもせず据え置きで売ってくれるのはここだけ」
店主もグルだとは……確かに一見すれば物臭な店主が道楽で店開いてる風に見えなくもない。
しかしてその実体は変態共に変態装備を売る店だったと。
というか良くそんな店に女性冒険者が装備を売ったな。
「そりゃ他の店より買取価格が高いからな。駆け出し冒険者の装備なんか他の店より5割増しで買い取ってくれるぜ」
「駆け出し、つまり若い奴って事だ。男も当然売る訳だが、王都には女の変態も沢山居るから問題無し」
「駆け出し冒険者連中には金が必要だろ?……という如何にも冒険者達の為にやってるってな理由で買い取ってるらしいぜ」
「んで、噂が噂を呼んで若い冒険者達は初期装備をここに売る様になってるって感じだな。そしてそれを俺等の様な客が買う!」
「ほう、需要と供給がきちんとあるのならば中々に良い売買戦略だわ」
「ここは侮蔑の言葉を投げかける場面ですよ。なに感心してるんですか」
店としても擬態も完璧、更に表面上は駆け出し冒険者の味方というカモフラージュも出来てるんだろ?
感心するわ。エロは偉大である。
「しかしサイズの小さい装備と言っても少年の着用していた装備という事もありそうですね」
「そうね。なら女性しか装備しなさそうなの選べばいいんじゃない?」
例えば店の端に飾ってあるビキニアーマーとか女しか着ないだろ。
ただ、あれはまぁ……うむ。
丁度この店に来るのは初めてなのかキョロキョロしている奴が居たので声をかける事にした。
というかコイツ誰だっけか。モブオグループの新入りかね。
「そこの、モブゴロウ」
「……俺?」
「今からあなたはモブゴロウよ。装備で如何わしい行為がしたいならあのビキニアーマーとかオススメよ」
「おほ、あんな所に隠されたお宝があったのか。ありがとよペドちゃん、値段もそこそこだしあれに」
「待て、それはペドちゃんの罠だ!」
「なにっ!?」
「見ろ、確かに女性が着てたのかもしれんが……下手すりゃ俺達でも装備出来るくらいデカイ。あれを着てた奴はガタイの良いアマゾネスだったに違いない!」
「な、なるほど」
モブオの分際で気付いたらしい。
そもそも値段が皮の鎧と同程度な時点で怪しさ抜群である。
でも良く考えたら普通の装備としては安いんじゃなかろうか……ビキニアーマーって謎の障壁があって防御力高いんだろ?アマゾネスじゃなきゃ着れないかもしれんが。
「いいか、俺等はしょっちゅう装備を買える程金を持ってる訳じゃねぇ……買えるモノだって限られてる。騙されて失敗なんざ許されねぇんだ!」
「お、おう」
「全く、俺に感謝しろよ。過去に店主にアマゾネス仕様の装備買わされたからこそ気付けたんだ」
「経験が生きたな」
「騙されてんじゃん」
「昔の話だ。今は騙されん、例え少年が着ていたサイズと女性が着ていたサイズが同じだろうが区別出来るからな!」
私達が考えてた懸念だが区別出来るそうだ。
変態達は変態行為に関しては熱心に行動しやがる。
ウチのユキもそうだっけか。
「お、これは間違いなく女物だな。雌の匂いがプンプンしやがる」
「成りたての冒険者が着るような装備だ、間違いなく若いぜ」
「今日も良い買い物出来そうだわ」
「嗅覚で判断すんのかよ」
それぞれお目当ての物が見つかったようだ。
言っちゃなんだが折角の収入をゴミに代える必要あったのだろうか。
同類と思われたくないので店の外で待機して、変態共が出てきた所でその辺を聞いてみる。
「何言ってんだペドちゃん。コイツは娼婦と違って何回も再利用できんだぞ?」
「それで興奮出来るとかおめでたいわ。けど私が言いたい事はそうじゃない」
「ん?何か他にあんのか?」
「そんなん買うくらいなら奴隷買えよ。そっちのが再利用出来るじゃん」
そう言ったら驚愕の表情で見られた。
別に驚く事を言った訳じゃないのだが……
「その発想を忘れてた。けどなぁ……流石に奴隷を買える程の報酬は無かったしなぁ」
「だよなぁ」
「知らんのか。今のご時勢だと奴隷が安売りされてるわよ。というかサード帝国付近の中継都市に行けば数万ポッケで買えるし」
「ペドちゃんや」
「うむ」
「なぜそれを俺等が金を払って商品を受け取る前に教えてくれなかった」
「あの店は返品出来ないんだぞ!?」
「知った事か馬鹿め」
五丁目のクズなんぞに親切に教えてやる義理はない。
次に金が入った時にそうすりゃいいんだ。
まあその頃には奴隷の値段も元に戻ってそうだが。
クズ共がその場に崩れ落ちた所で本来の目的であるギルドに行くとするか。
「じゃあ私達は行くわ。あんた等のその表情を見れて満足」
「サドちゃんだわ……あ、そう言えばだ、五丁目に期待の新人が現れたらしい」
「そうそう、ペドちゃんのライバルになるであろう幼女冒険者だそうだ」
「ほぅ、年齢制限は大丈夫だったのかね」
「詳しい事は帰って聞かないと分からんな……ただ、そこのギルドで聞いた話じゃ登録早々黒竜を狩ってきたそうだぜ。頭おかしいだろ?」
お前等に言われたくないだろうが、確かに頭おかしいな。
私ですら最初は控えめに始めたと言うのに……余程の自信があったのか。
ただ、五丁目に私達みたいな化け物が居るとは思えん。ヨーコ達は別として。
間違いなく他所からやってきた者だろうな。
何で五丁目で登録したのか……私達に対する挑戦か何かか。まあ最近冒険者として活動してないからいいか。
「面白そうな情報だったわ。感謝する」
「ああ、俺等も見てみたいからさっさと帰る事にするわ」
「と言っても数週間はかかるからな」
「雑魚は大変ねぇ」
「ふ、だが今からは道中の楽しみがあるからな。テンション上げて帰るぜ」
すでに買ってきた装備品を使用する気満々である。
魔物も出る野外で何やってんだコイツら。
どこかウキウキしながら門の方へ向かうクズ共を見送ってから私達もギルドに向かう。
ふーむ、幼女冒険者とは何者だろうか。
今は色々とやる事あるからその内見物しに行くとするか。
「今日の夕方には戻ってくるそうです」
「遠出してなくて良かったわ」
「むぅ、今更ですけど本気でダイゴロウなんぞに護衛を任せる気ですか?」
「当然。今回はダイゴロウ以外は考えられん」
という事で精霊の宴に連れて行く従者はダイゴロウである。
一応依頼という形になるので報酬は支払う。
あちらが依頼を受けるかはダイゴロウ次第だが、ほぼほぼ受けてくれるだろう。
「安心なさい。ダイゴロウにはとある任務をしてもらうつもりだから。本当の護衛は誰にも見つからない上空で待機していてもらうみみみよ」
「貴き方の安全はお任せ下さい」
「みみみさんが護衛ならば不満はありません。しかしダイゴロウさんに何をさせるのです?」
「ナイン皇国は恐らく残ってる勇者達を連れてくるでしょうからね、ダイゴロウには奴等に接触して情報を集めて貰う。特に女勇者の」
都合の良い事に先の件でスズキフミオの私物が割と集まった。
異世界のものであろう服も確保している。
それをダイゴロウに着て貰えばあら不思議。どっからどう見ても勇者達と同じく召喚された異世界人に見えるという事だ。
異世界で出会う同郷の者だ、勇者連中の方から接触してくるに違いない。
「念入りに集めて貰いたいのは女勇者がスズキフミオと親しいかどうかね。恋人だったりした日にはその場で殺してもいいくらい」
「そんなに気になるなら前にババアの母親を召喚した時みたいに呼び出して殺せばいいのでは?」
「深夜の寝てる時間に召喚して殺せばナイン皇国側は抜け出して失踪したと思ってくれますね」
「なんじゃこの殺伐としたパーティは」
「きっとお姉ちゃんの影響ですっ」
確かに本当に危惧してるのならばユキとサヨの殺伐コンビが言った様にすればいい。
「何となくだけど、奴等が私に無害ならば放置して生かした方が面白くなりそうな気がする」
「お得意の勘ですね」
「なら害が無いようでしたら生かしておきましょうか」
「でもそうね、マオの故郷である悪魔の里に手を出す様だったら容赦しなくていいから」
「そういや勇者ですから有り得ますね」
また舞王達が返り討ちにするかもしれんが……舞王はウチの人外連中に比べればかなり弱いからなぁ。
ヨーコの兄程度にあの怪我だ、3人も来られたら危ないかもしれない。
しばらくは動かないだろうけど、注意はしておくべきである。
さて、夕方までまだ数時間はある。
折角王都に来たんだ、たまには街中をふらふらしながら観光するのもいいかもしれない。
いよいよ暇になったら久しぶりにソープお姉さんを訪ねてみるのもいいな。
贅沢を言えば、どうせ観光するなら美味い食い物がある時に来たかった。
それもこれも嵐って奴が悪いんだが、終わった事だ。
今楽しめる事だけで我慢するとしよう。




