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幼女、護衛を得る

「……何だか長い夢を見ていた気がするわ」


 目が覚めたのは自室。

 当然ワンス王国の実家である。


 冒険者になっていつの間にやら女王になって住んでた神殿ではない。

 この私が冒険者とは……いやはや中々に興味深い夢だった。


 起きて着替えを済ませ、母が居るであろうキッチンへ向かう。

 途中リビングに寄るが、当然夢で見た仲間、いや家族だったか。彼女達は居ない。

 これが普通なのに静かに感じるとは不思議な事だ。


「あらおはようペドちゃん。えらい早起きね」

「おはよう。何か変な夢見たせいか目が覚めたわ」

「ふーん」


 早起きしたついでに朝食も頂くとするか。

 追加でパンと目玉焼きを焼くだけなのですぐに出来た。手抜きである。


「で、変な夢って?」

「10年後くらい先の夢。何か中等部卒業したら1年引き篭もったあと冒険者になって旅に出てたわ」

「旅ねぇ」

「なかなか濃い内容だったわ。一年で大所帯になって、更には国まで興して……敵は何か妙に強い奴ばっか遭遇してたし、正夢なら勘弁してくれって感じだった」

「一年で国を興すとか現実味が無いわね」


 全くだ。

 仲間になる奴等の種族的にも現実味が無い。


「けど……楽しい夢だったわ」

「そう」


 私に奇跡ぱわーなんて強力な力が本当にあったのなら、もしかしたら同じ様な人生を歩んでいたのかもしれない。

 ……いやあんな化け物ばっかと戦わなきゃならんとか同じ様な人生歩きたくないわ。


「ペドちゃん」

「なに?」

「夢じゃねーから」

「急にどうしたの?」

「いやね、もうツッコミしなきゃ先に進まない気配がするから言ってあげたの。というか何急にこれまでの悪事を夢オチにして無かった事にしようとしてるの?お母さんびっくり」

「……そう、お母さんも私と同じ夢を見てたのね」

「朝からめんどくさい娘だな!」


 何をプリプリ怒っているのだろうか。

 ふと、「あー」と声がしたのでそちらを向くと、赤ん坊であるアリスが起きていた。


「おはようアリス。そうそう、夢の中にはアリスに似た妹も出てきてたわ。アリスと一緒でアリスって名前の妹でね、10年後にもしかしたら本当にアリスに似たアリスって妹が生まれるかもしれないもう何言ってるか分かんない」

「なら止めなさい。というか何なのよその夢オチ設定は」

「いやね、今本を出してるんだけど……最終的に夢オチにでもしようかと思って実際にどんなもんかやってみた」

「それは読者が一番激怒するオチよ」


 なるほど。では夢オチはボツか。

 わざわざ夢オチ設定で小芝居やったが無駄になったわ。


「てか悪事って何よ。私はお母さん達と違って騎士団の世話になった事は一度しかないわ」

「あんのかい。娘のゲスさは母親である私が一番よく知ってるわよ、どうせ魔物より人間の方が殺した数多いんでしょうが」

「かろうじて魔物のが多い筈よ」

「かろうじて何て言葉が出てくる時点で殺人鬼なのが分かるわ」


 しかし大量に殺す原因となったのは戦争じゃないか。

 そもそも直接殺した訳でもないし。


「今回だってペドちゃん達の殺人鬼っぷりのせいで起こったんじゃないの?」

「違うわよ。そもそも今回は見た事もない国が勝手にちょっかい出してきたんだし……でもそうね、こうして何もしなくても危害を加えてくるならいっそ世界中の王族貴族を根絶やしにするしか」

「その思考やめなさいな……素直に護衛でも置いてくれればいいわよ」

「その手があったか」


 だが護衛と言ってもみみみの野郎がやってくれてた筈だが……まぁ今回は頭の悪い雑魚のくせに悪意の無い冒険者を介して接してきたから仕方ないが。

 ふぅむ、結構な実力者で旅の面子以外となると候補がおらんな……いっそニボシが分裂してくんねーかな。


「そんな事よりどう?念願の冒険者生活は楽しんでる?」

「冒険してない日の方が多い気がする。由々しき問題だわ」

「でしょうねぇ、充実してますって顔してないもの」


 親子だとそこまで分かるもんかね。

 言われた通り充実してるとは言い難い。冒険を楽しもうとしたら途中で殺人が入るし。


「いっそ別の夢も持ったら?別に夢は一人一つじゃなくていいでしょうし」

「別の夢ねぇ……特にないなー」

「冒険以外にも好きな事の一つくらいはあるでしょうに」

「好きなもの、強いて言えばおっぱいかな」

「あんた女よね?」


 別におっぱい好きは男だけの特権じゃないだろ。

 風呂場で触りっこしてキャッキャウフフしてる女子共がいるだろうが。


「おっぱいちっぱいいっぱいおっぱい」

「……やだ、何かリズムが良い」

「大小様々なおっぱいを集める。新しい夢にふさわしいと思うわ」

「ふーん、叶ってないの?」

「叶ってた」


 人類最速で夢を抱き叶えた瞬間である。


 つまり結局夢は冒険する事しかないって事だ。

 おう、冒険させろや邪魔してくるアホ共よ。私は大人しくしてれば無害な幼女だぞ。


「あーい」

「アリスはちっぱいだったか。それはそれで良いものよ」

「まだ赤ん坊なんだから小さいに決まってんでしょうが」

「いいえ、アリスは大人になってもちっぱいよ、間違いないわ。約束されたちっぱいなのがアリスよ」

「へぐー」

「すでに確定された絶壁のペドちゃんよりマシでしょ」

「へぐー」

「いやペドちゃんがアリスちゃんの真似しても可愛くは……いや可愛いわ。ウチの娘達は可愛いわ」


 急に親ばかが始まったわ。気持ち悪い。


 しかしユキ達は一体何処に行ったんだ。

 起きたら居なかったのでアルカディアに居るのだろうが……


「ユキ達は?」

「今更?ユキちゃん達は今日は休みだからって国に戻ってるでしょうが」

「やっぱ国か」


 私もアリスを愛でるのに満足したら戻るとするか。

 いや、満足する気がせんな。ユキ達が迎えに来たら帰る方向でいこう。


「でもペドちゃんたまにはウナギとか食べたいと思わない?」

「でもって何だよ」

「何言ってるの。フィーリア一族に伝わる話術『頼むから会話しろ』じゃない。貴女も使ってるんでしょ?」


 話術の名前が相手の気持ちを代弁するとかどうなんだ。

 いやたまに使ってるけど……歴代のご先祖様達はもっと後世に伝えるべきものがあったんじゃなかろうか。


「ウナギならそれこそ漁師の父さんにお願いしなさいよ」

「ワンス王国じゃ捕れないんじゃない?」

「つまり旅の途中で見かけたら買って来いと」

「そうそう」


 その日に食べたい訳でもないと。

 いつでもいいなら入手したならでいいか。逆に言えば入手出来なかったら要らんって事だ。


『もしもし?聞こえてますか?お姉様ー?』

「呼ばれてるわよ」

「ち、何かあるとすーぐ私を呼ぶ」

「仕方ないでしょ、あんた女王なんだから」


 その女王が楽をする為にキキョウが居るんじゃないか。

 普段ならともかく、アリスを愛でてる最中に呼ぶとは何たる体たらく。ニボシと接触禁止の刑にしてやる。


『お姉様ー?サヨですけど』

「私もサヨです」

『あ、いらっしゃいましたね。小ボケは無視してお姉様にお客さんがいらしたので連絡致しました』

「客だぁ?」

『はい。まあお姉様にとってはどうでもいい客でしょうけど。お姉様も知ってらっしゃる風の大精霊です。お姉様を呼べとやかましいので神殿までお帰り願います』

「神殿が来い」

『んな無茶な……』


 何でまた風の大精霊なんぞが私を呼ぶのか。

 はて、何か約束事でもあったっけ?……うーむ、思いだせん。

 思い出せないって事は大した事ではないと過去の偉人も名言している。よって行く必要はない。


 いや待てよ。

 精霊と言えば情報収集にはうってつけな程優秀な不思議物体だ。つまり索敵にはもってこい。

 更に風とは言え大精霊ならばそれなりの力はあるだろう。ウチの人外達曰く魔力だけは勝てんとのお墨付きだし。


 よろしい。風の大精霊を実家の護衛にするとしよう。


「という事で私の脳内で風の大精霊を実家で護衛させる事に決定したわ」

「決定するのはいいけどウチで暴れられても困るわよ?」

「大丈夫。私が大人しくしとけと言えば大人しくなるでしょ。すでに水の大精霊は従順なペットになって友人の所を護衛してるし」


 そうと決まれば面倒だが帰ってやるとしよう。

 どうせ転移符で一瞬だし。

 むしろあっちが来ればいいだろうに。実家には来たくないのか?


「じゃあ行って来るわ」

「いってらっしゃい。次帰る時はウナギを手に入れた時ね」

「はいはい」

「あとアリスちゃんは置いていきなさい」

「ち、自然な流れで持ち帰ろうとしたのに。腐っても私のお母さんって訳か」

「鮮度抜群よ失礼ね」

「ほら、言い方がおばはんくさい」


 抱っこしてたアリスを母に渡し、ついでに頭をぐりぐり撫でてから離れる。

 うむ、次に会う時は普通に喋ってるかもしれないな。



★★★★★★★★★★



「絶対忘れてるんだからねっ!!」

「うるせー。絶対とか決め付けんな。この世に絶対はほぼないって格言があんだろうが」

「じゃあじゃあ招待状!招待状を見せて!今ここで!」

「そんなもの知らん。つまり忘れてるんじゃなくて知らないのよ、ほーら私のせいじゃない」

「ちゃんと渡したの覚えてるんだからねっ!」


 転移で帰った瞬間に絡まれた。

 招待状がどうのこうの、このアホの大精霊は何の話をしてるのだ。


「フィーリア様。証拠のブツはこちらに」

「キキョウが持ってるなら知らなくて当然だわ」

「いえ、一瞥された後に投げ渡されました」

「ほらー!やっぱり忘れてるんだからね!ばかー!」

「同じ大精霊であるルリが何も言わなかったのが悪い」

「何でじゃ」


 証拠のブツを拝見すると、大精霊の宴の招待状らしい。

 うむ、かすかに見た記憶がなきにしもあらず。

 だがまだ開催日まで数日あるじゃないか。ここまで喧しく言うのは当日にして欲しい。


「あのね、他の国の人間はぞくぞくと集まってるのにね、この国だけ誰一人来る気配が無かったの。だからね、精霊に頼んで貴女の様子を覗いたらね、何か夢オチにして無かった事にしようとしてるから急いで来たの」

「何という間の悪さ、あれは私の書いてる本を夢オチにしようって話だったのに」

「ほほぅ、つまり屁こき少女なんて居なかったエンドになると。主人公が救われてよろしいかと」


 内容を知ってるからか母とは真逆の反応である。


 夢オチ云々はともかく、このまま風の大精霊が来なければ確かに誰一人行かなかったのは事実。


「ワシというペットがおるのに図々しくも主殿に渡すからじゃ。本来ならワシが渡すべき代物じゃぞ」

「早い者勝ちなんだからねっ!」

「ふふん、一人につき一つと決められてはおらぬわ。という事でワシからも招待状なのじゃ」

「ミラにでもやんなさいよ」

「ミラ殿は王族じゃろうが。何も渡さずとも来るのじゃ」


 王族には渡す必要ないそうだ。


 だが待ってほしい。小国とはいえ私も一応王族なんて身分じゃなかろうか。

 と思ったが、小国となると招待状なしに参加するのは難しいらしい。


 一応招待状無しでも参加出来るらしいが、席が確保出来る人数だけだそうだ。

 つまり早い者勝ちだ。気合の入った小国は宴の事を知ったその日から会場に向けて出発してるとか。

 何ともご苦労な話である。


「というか、私が行く意味あんの?あれって今の不作な状況云々をどうにかする為の宴会でしょ?」

「確かにアルカディアには関係ない話ですね」

「作物補助に関してはともかく、もっとも大精霊達に好かれた者は特別な力を与えられるのじゃ」

「祝福の事か」

「それとはまた別じゃ。例えば前々回で選ばれたヒノモトには世界に善悪の采配を委ねる事が出来る様になっておる、主殿はその身で受けたから知っておるじゃろ。宴で最も気に入られた国は個人ではなく、国自体に益のある報酬が与えられるのじゃ」


 あの天罰の事か。

 なるほど、カオルは優秀そうではあったが、この世界に対して干渉出来る程かと言われると疑問だったからな。

 しかしヒノモト出身ってだけで天罰を食らわせられるとは中々に破格の報酬だ。いや全員使えると決まった訳ではないが。


「何でヒノモトが選ばれたのですか?」

「うむ。依怙贔屓じゃ」

「依怙贔屓とか大精霊も腐ってんな」

「何を言う。主殿達だって好きな者以外はどうでもいいじゃろうに。というかな、ワシ等の母である世界がヒノモト贔屓にしておったらそりゃワシ等は従うしかないじゃろ」


 この世界も宴の際には参加してるのか。

 いや参加してるというか、大精霊達に指示してるだけっぽい。


 にしても何でヒノモト贔屓……あれか、てんてりが居るからか。当時は参加してなかっただろうに。


「その理屈で言うと今回はお母さんが最優秀幼女に選ばれると」

「その通り、出来レースじゃ」

「間違いないんだからねっ!」

「結果が決まってるとかクソみたいなイベントじゃない」

「参加するだけで国単位の利益があるとか楽勝じゃないですか」


 やる気に満ち溢れている他国が聞いたら憤死するレベルである。

 大精霊達に選ばれる為に気合を入れていったのに労せず幼女に掻っ攫われるとか。


「お姉ちゃん参加するんです?」

「どうかね……参加した所でどっかの平民が紛れ込んだって勘違いされてちょっかい出されそうだし。いやそれはいいな、向こうから喧嘩売ってくれるとか最高じゃないか」

「殺戮の宴じゃないんだからねっ!」

「それは他の人間次第よ。でも知り合いがミラしか居ないんじゃ参加してもなぁ」

「知り合いレベルでいいならワンス王国の姫も参加するでしょう」


 会話する仲じゃないなら要らん。

 他となるとヒノモトの連中も来るのかね。すでに報酬貰ってるから不参加だろうか……いやこのご時勢だから参加するか。精霊や妖精の補助をしてもらえるだけで十分価値がある。

 宴が終わったあと農業の補助してくれるのか知らんけど。


「行ってもいい。けど代わりに対価を求める」

「えー……何?」

「貴女に実家の護衛を頼みたいの」

「護衛?……別に構わないんだからね?」

「やけにあっさり頷いたわね」

「貴女の家族に何かあったら世界を滅ぼす勢いで暴走しかねないからー。そうなったら私達も困るから仕方ないんだからねっ」


 よく分かってるじゃないか。

 使えるな、この脅し文句。精霊の類に依頼する時は暴れるぞと脅せばいいのか。


「じゃあ貴女の家族は護衛してあげるからちゃんと来てほしいんだからね?」

「はいはい行くわよ」


 めんどくさいが対価が承認された以上参加してやるとしよう。

 他国の王族や偉い貴族共がどの程度のものか調べる事も出来るしな。

 喧嘩を売っても問題ない相手か調べるには実に都合のいい催しである。


「ちなみに従者は一人しか連れていけんぞ?」

「へー、会場の広さの関係かね。まあ数日あるし当日までに決めればいいか」


 ユキはやめておこう。

 メイド服着てるから如何にもって感じだが、他所の貴族連中が私に罵倒を浴びせてきたらキレかねん。

 その場で暴れはしないだろうが、絶対はないし。


 となると……まあいいや、時間はまだあるしのんびり考えるとしよう。

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