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幼女、報復を始める

 転移で速攻帰ってきたが、待っていたのは至って焦ってない母と至って普通にハイハイしてるアリスだった。

 特に変わった様子は見られない、と思ったが大変な事態になっているのに気付いた。


「なんだと……すでに全身の筋トレと言われるハイハイをマスターしてるだと……私の妹は天才か」

「帰って早々姉馬鹿はやめなさいよ」

「早ければ4ヶ月程度でハイハイしだす赤ん坊も居ますし、まぁ普通かと」

「で、何の件でこの私を呼んだのよ」

「用件言う前に切ったんじゃない。とりあえずアリスちゃんの額を見てみなさいな」


 アリスのデコか。

 ハイハイしてる所を捕まえて両脇を掴んで持ち上げる。

 多少体重も増えてるみたいだが、祝福によって身体能力2倍となった私なら持ち上げられる。


 産まれた時の猿顔から随分と愛らしい顔になったものよ。

 で、肝心の額はと言うと――


「てんてり。中々イカれた化粧してるわね」

「あい」

「認めただと……?」

「アホな事言ってないで何とかしてよ。というか何その妙な模様」


 んな事言われても私にだって分からん。

 だが「てんてり」という言葉は良く知っている。言葉と言うより名前だが。


 訳が分からんので、とりあえずどうしてこうなったのか詳しい経緯を母に聞く事にした。




「ほう、怪しい配達が来てアリスが依頼書に手形をつけたらこうなったと」

「ふむふむ、これは過去にヒノモトが使用していた呪いかと」

「知っているのかサヨ吉」

「誰がサヨ吉ですか。確かお互いに呪いをかけ、どちらかを殺さない限り解けない代物だった筈です。ただし、2週間以内にどちらも生きてた場合は両方死にます」


 ほう、決着をつけるぞ!と言いつつ結局決着をつけない詐欺バトルをやる奴等には有り難い呪いだ。

 連載をしてる物語だと宿敵が中々死ななくてイライラする奴もあるからな。


「つまり、てんてりの野郎が何か知らんがアリスを狙ったと」

「アリスさんと言うより、お母さんに対する宣戦布告では?」


 なるほど、アリスを助けたくば自分を倒してみろとかそう言う事か。

 実際はアリスではなく母を狙ったんだろうけど。


 しかしこの私を敵に回すとは愚かな事よ。

 だがてんてりが私を狙う理由がサッパリ分からん。

 すぐにヒノモトに転移してぶっ殺しに行ってやりたい所だが、短慮はいかん。


「これは名前を書く者が本人でないと発動しない呪いです。従って、呪いをかけた相手はてんてりで間違いないでしょう」

「何を考えておるのじゃあの駄神は」

「アリスは名前書いてないでしょ」

「要は本人しか持ち得ないものなら名前でなくても大丈夫です。手形なんて同じモノは無いですし……ただし、名前は正確でないとどっかの誰かみたいに不発に終わるようですが」

「神回避のセティと呼んでいいわよ」


 だからアリスは呪われて母は無事だったのか。

 てか依頼書に本名書かないとかどんなだよ。自分の名前忘れてんじゃないのか。


 しかしそうか……そうかそうか。


「お姉ちゃん!赤ちゃんがトラウマになるんじゃないかって心配になるくらい悪い顔になってますっ!」

「でひー、きゃあぁいいぃっ」

「アリスさんはご満悦の様子ですけど」

「流石はリーダーの妹、魔属性の素質があるわ」

「闇属性じゃろ」


 ケヒヒ、誰だか知らんがクソみたいな策略をしたもんよ。

 雑。一言で言うならあまりにも雑。


 偶然とはいえこんな雑な策で呪いが成功してんだから腹が立つ。

 そもそも、遠く離れたフィフス王国周辺に居たので通話符を持ってなかったら私達はアリスが死んでしばらく経ってから知る事になってたかもしれないのだ。


 何の自信があってこれなら私とてんてりが戦い合うと思ったのだ。


「この雑な計画を立てた奴に私は馬鹿にされてんのか」

「計画なんですか」

「どうやら私と神を戦わせたいみたい。いえ、恐らく私に神を倒して欲しいんでしょうね」


 てんてりが邪魔だって事だ。

 そしててんてりが邪魔だと思う国なんてハン国以外考えられん。


「じゃが、呪いは本人しかかけられないのじゃろ?」

「みたいね。なら、別のてんてりって名前の奴がかけたんでしょ」

「そんな妙な名前の人間他に居ますかね」

「居ないなら、名前が無い者にそう名付ければいい」

「……その手がありましたね」


 私のアリスに斬新な化粧をしやがったクソ野郎はきっとこの手を使ったに違いない。

 しかし、頭の悪い大馬鹿らしいのですぐバレる失敗をしている。

 これをドヤ顔で発案して実行してたのなら失笑モノだ。


「てんてりが私を敵にする理由が思いつかない。洗脳でもされたかと考えたけど……はっきり目視出来る程の呪いを防いでたのを考えるに、てんてりは守りに関しては超一流みたいだしそれもない」

「神を呪おうとする者とは一体……」

「そもそもてんてりは桃女郎のファン。このふぃりあ先生を亡き者にする訳が無い」

「へー、アレのファンとかやっぱ神って頭おかしいのね」


 アレとか言うな、しばくぞこの野郎。

 すでに3冊ずつ売れたという実績があるんだぞ。


 おっと、桃女郎の話題は今どうでもいい。

 丁度アリスがお絵描きしていた画用紙があるので一枚拝借してある言葉を書く。


『天照』


 てんてりはあくまで読み方であって本名はこっちだ。


「てんてりが書くなら当然こう書くでしょ」

「そう言えば……頭に血が上って気付きませんでした」

「そう、それも良い点よね。こうして私がアリスに呪いをかけたのがてんてりではないと証明した訳だけど……妙にてんてりに対して腹が立たない?」

「うむ、先程までよりは苛立ちが治まっておるが、ぶちのめしたいのじゃ」


 つまりだ、私達は何者かによっててんてりに対する好感度が下げられている状態である可能性がある。

 というか高い。

 頭に血が上っていれば怒りに任せててんてりを殺しに行く、というアホな考えしてたんだろう。


「好感度を下げる魔法とかあったっけ?」

「知りませんね。あるとしたら異世界人特有の謎能力か天使の力でしょう」

「そう、まあどっちでもいいわ。重要なのはこの思いついたモノをとりあえず実行した感が垣間見える駄策で私をどうこう出来ると思った愚か者が居るって事よ」

「あたし知ってる。ぼくのかんがえたすごい策略って奴でしょ」

「貴き方は知恵ある者の心理を操る作戦を考えになられますからね、かくいう私もそれで敗れた訳ですが。貴き方に比べれば確かに幼稚で駄策なのでしょう」

「昔のペドちゃんは力が無かったから、如何に相手の精神にダメージを与えるかに重点を置いてたからねぇ」


 私の事はともかくだ、敵対した愚か者を制裁するのは決定されているから良いとして、何が目的で私に神殺しをさせようとしたかだ。

 と言っても、てんてりを殺させようと企んだ時点でおおよそは分かっているが。


「次は愚か者が神殺しをさせようとした狙いについてよ」

「あの神が死んだとなれば、ヒノモトは衰退するでしょうし豊かな作物が目当てでは無かったみたいですね」

「フィフス王国の町が壊滅した件を知らぬ訳ではないじゃろうし、主殿を仕向けた時点で違うじゃろ」

「ヒノモト独自の技術と言えば符術ですが……潜入すれば習得は容易いです」

「潜入しなくても余所者のサヨが習得してるんだから他国の者でも習えるんじゃない?」

「確かに」


 相手の目的はヒノモトの資源でもない、技術でもない。

 では単に嫌っているか恨んでいるから滅ぼそうとしてるのかと言うとそれも違うだろう。

 本当に恨んでるなら長年小さい小競り合いなんかしてないだろうし。一気に滅ぼそうと全力で攻めた事も無さそうだし。


 やはり神が現れた事に関係してるのか。

 長年休むことなくヒノモトを攻めたのが神を引きずり出す事だと仮定したら色々と予想が出来る。


「ふぅむ、神を殺さなきゃならん理由か」

「神の肉でも食って不老不死にでもなろうとしてんじゃない?」

「食べたら不老不死になんの?」

「適当に言ったから知らない」


 よし、マリアは黙ってろ。

 ちょっと有り得るとか思っちゃったじゃないか。


 一旦てんてりから意識を外すか。

 では次に何でこんなすぐバレる幼稚な策を実行してきたかだ。

 サユリ達曰くハン国王が無能らしいので実行してきてもおかしくないのがまた判断に困る。


 だが、何を警戒してか無関係で何も知らない冒険者に依頼して呪いをかけに来るとか無能にしては慎重である。

 まあその辺はヒノモトから逃げ去った文官の助言という可能性が高いか。


「では、そんな頭の悪くない文官が居るのに何故こんな暴挙に出たか、よ」

「長年引き篭もってた神が出てきて逸る気持ちを抑えられなかったのでは?」

「感情で動こうなど優秀な文官に止められるでしょうが」

「王なんだから強引に実行した、とか?」

「馬鹿で無能なら言いくるめられて実行しませんよ」


 中々に結論が出ない。

 一つ一つ考えては分からんな。あまりに雑な行動すぎて逆に難しいじゃねぇか。


「纏めて考えましょう。何ですぐに悟られるような短期間に私達をけしかけて神を殺そうとしたか」

「短期間で判断するなら焦ってた、時間が無いって所ですが」

「そう言えばお姉様の実家を特定した時間を考慮すると私達がヒノモトを出てすぐに実行してるみたいですね」


 焦った。

 時間が無い。


 ……なるほど。

 私達はもう一度ヒノモトを訪れる予定だった。

 それまでに相手がてんてりを何とか殺したいのだったら確かに時間が無い。


 ついでに神を殺す手段も無い。

 だが、何を思ったか私達なら殺せると判断した、か。もしや私の力を知っているのだろうか?


 まあ外でそれなりに使用してるので知ってる奴が居てもおかしくはないが。


 で、次は何で私達が再びヒノモトを訪れて出ていった後ではダメだったかだ。

 私の目的は普通に観光するだけなのだが、それが相手としてはマズいって事か。


 私達の目的は食べ物が主なんだが……いや、そう言えばヒミコにオススメの観光スポットを聞いてたな。

 確かナキサワメの何たらだったか。

 ナキサワメか……


「ナキサワメの何たらって観光スポットを聞いたじゃない?あれって確か誰も入れない場所なんだっけ?」

「ナキサワメの祠ですね。不明の結界があって入れないみたいですね」

「結界……ほほぅ、つまりあれか。ナキサワメの祠の結界はてんてりの住処の結界と同じなんじゃない?」

「む、そうなりますと……相手の狙いは私達に神殺しをさせて結界を消滅させる事ですか?」


 狙いはナキサワメの方だろうけど。

 どういう訳かてんてりがナキサワメの祠に結界を張って守っているのであれば相手の行動も理解出来る。


 私とみみみはてんてりの住んでる部屋に普通に入れるもんなぁ、そりゃナキサワメの祠にも入れると考えるだろう。

 要は私達にナキサワメを取られたくないんだな。

 こんな雑な策をするくらい焦っているとは、ナキサワメとやらは中々に強力な力を持ってそうだ。

 何でハン国の奴等がそれを知っているかは知らんが。


「予想は出来た。これが相手の考えとして行動しましょう」

「わかりました」


 となるとまずは……

 未だに私に両脇を抱えられたまま妙にキラキラした目で見つめてご満悦なアリスちゃん。

 呪われてると言うのに暢気な奴よ。


「まずはアリスのダサい化粧を落としましょうか」

「しかしお姉様、それは謎の本人認証システムがあったり意味不明なほど高度な呪いですよ。私やメルフィさんでも解呪不可な代物を奇跡ぱわーで消そうものならとんでもない代償になるかと」

「その上代償が状態異常ですしね。最悪な場合、長時間酔っ払った状態になるかもしれません」


 まあご尤もな意見だ。

 私だって長時間の代償なんぞ御免被る。

 だがそんな心配は無用だ。私は別に呪いを解呪する訳ではない。


「安心なさい。私はこの呪いを実家を狙う事にした発案者に返すだけよ」

「反呪ですか、それならまあまだマシな代償で済むでしょうね」

「発案者に呪いを返すとはまた馬鹿げた話なのじゃ。そんな誰とも特定出来てない者を呪うなぞ主殿にしか出来んのぉ」


 この理不尽さこそ奇跡ぱわーよ。

 だが呪いを返すだけで終わると思うなよカス共め。


「呪いを移せおんどりゃああぁぁぁぁっ!奇跡ぱわあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

「うお、いつになく気合が入ってるわ!」

「流石はアリスさんが関わってるだけはあります」


 叫びすぎたのか、ご満悦だったアリスがビクッとして若干真顔になった。

 泣かないだけマシか。


 肝心のデコの落書きだが、奇跡ぱわーのお陰でみるみる薄くなっていく。

 数秒経つと完全に消えた。私の願い通り顔も名前も知らない発案者に返ったのだろう。


「消えたわ。アリスの可愛さ度が上がった」

「代償を忘れないで下さい。姉馬鹿してる場合じゃないですよ」

「でも酔っ払いではないみたいです。良かったですね」

「そう……ふ、ふえぇ……」

「な、泣くの!?あのリーダーが泣くのか!!?」

「………………くちゅ」

「クシャミかよ可愛いな!」


 おおぅ……鼻がムズムズするし妙に目がかゆい。

 鼻の奥をくすぐられてる感がしてくしゃみが出る。


「くしゅっ、何だこれ」

「花粉症みたいですね」

「わたしとお揃いですっ」


 嫌なお揃いがあったもんだ。

 しかし花粉症か、侮っていた。たかがクシャミ程度と思っていたが、これはツライ。

 まず集中力がかなり低下しそう。

 ついでにこのままクシャミ連発してたらその内頭まで痛くなりそうだ。


「代償が消えるまで大人しく寝とこう……」

「そうしなさいな。何はともあれお疲れ様、そしてありがとうねペドちゃん」

「うむ」


 もう少しアリスを愛でたい気分だったが、それは治まってからにしよう。

 やべえ、花粉症やべえわ。



★★★★★★★★★★



「アルカディアをヒノモトにけしかけたですと!?」

「どうした、不服そうだなウィラー。心配せずとも上手くいってる……筈だぞ」

「確信が無いではないですか!……く、まさか私とヒューイ無しに話を進めるどころか実行なさるとは」

「仕方なかろう、二人とも見当たらなかったのだから」


 まるでこの世の終わりとでも言ってるかの様に二人の顔は優れない。

 何かそういうのこっちも不安になるから止めてほしい。


「あまりにも時期尚早、相手はアルカディア女王……我等の仕業と勘繰られる恐れが高い」

「いや、フミオ殿の力で相手はヒノモトの神に並々ならぬ怒りを抱いておる。怒りにまかせて攻め込む事を期待したい」

「後ろ向き発言ばかりではないですか!」


 だって確証とかないし。

 私だってフミオ殿の作戦は何か失敗しそうだと思っていたのだ。


「だがな、時間がない以上はフミオ殿が持つ能力に期待するしかないのだ」

「ぐぬぅ、フミオ様は自信がおありと?」

「かなりある、とは言えないがきっと上手くいくさ」


 この自信である。

 うーむ、異世界の者は自信過剰な者が多いのだろうか。

 ここまで自信満々だとこちらとしても頼もしいと言えるが……はぁ?


「ふ、ふみおどの?」

「何ですか?」

「か、かかか、顔、顔を見るのだ」

「顔?」


 自信満々のドヤ顔をしていたフミオ殿の額に突然文字が現れた。

 私はそれに見覚えがある。


 フミオ殿が連れてきた神の身代わりとなった少年、その者も額に呪われた証である名前があった。

 それと同じ状態である。


「馬鹿な!契約書に名前も書いておらんのに呪われるだと!」

「ああ……やはりアルカディア女王には見破られた、という事ですな」

「見破られただけで済む話ではないわっ!」

「ちょ、俺は呪われてんのか!?か、鏡は!?」


 あれ程ドヤ顔してたのが今は真っ青だ。

 フミオ殿が考えた策を見破られるのはまだ分かる。


 しかしあの呪いを返すとはどういう事だ。

 あれは解呪も無理なら呪い返しも無理な代物だった筈だ。

 マジかアルカディア女王……災厄を消滅させる奴はここまで理不尽なのか。


 我等の小さな希望であったフミオ殿は手鏡を渡され、自分の額を見て愕然としている。


『股間欠泉少年カドマツ』


「……………………誰だよっ!?」

「う、うむ。確かに奇抜な名前だが、呪いが発動してるという事は実在するのだろう」

「こんな訳分からん名前の奴を探せってのか!!」

「ただ探すだけではないぞ。名前の横に小さく数字が14とあるだろう?……それがタイムリミットになる。後14日後に相手を探し、殺さなければフミオ殿は死ぬ」


 と言っても、居るとしたらアルカディアだろうな……その時点で探す事は出来ても殺すとなるとほぼ不可能だ。

 そうだ、フミオ殿に全く知らぬ人物の名前が出たのなら我等の悲願の生贄となった少年はどうなった?


 確認の為にこの部屋に連れてきていたのですぐにチェックする。

 すると、不思議な事に少年の額からは名前が消えていた。

 となると、訳分からん名前の人物の額にフミオ殿の名前があるのだろう。


「あの、非常に申し上げにくいのですが」

「何だヒューイ、申してみろ」

「はい……股間欠泉少年カドマツなる人物ですが、アルカディア女王とヒノモトのサユリという人物が会話していた際に出てきた創作の物語の登場人物の名前だったかと」

「な、んだと」


 こんな意味不明な登場人物が出る物語だと!?

 世界屈指の実力がある者はどこか頭がおかしいと言うが、アルカディア女王もそうだと言う事か。


 いや、アルカディア女王の頭のおかしさはこの際どうでもいい。

 問題なのは別だ。


「創作の、人物」

「はい。架空の存在です。つまり……フミオ殿が殺すべき相手は存在しません、従って呪いも解けません」

「ではっ!?」

「俺は……呪いで死ぬ?」


 あまりの事実にフミオ殿は言葉を失ってしまった。

 14日、余命としてはあまりにも短い。


 解呪の方法を探すにも時間が無い。

 しかし、このまま何もせず死を待たせるのも忍びない。


「フミオ殿、解呪出来ない可能性はゼロではない。探そうではないか」

「セロさん……」

「それにだ、ひょっとしたら股間けブフォッ!…こ、こがブヒュ、ヒッ、ヒーヒヒッ……!」

「なに笑ってんだてめぇ!」

「ぶ、く…………ええーいやかましいわっ!こんな真面目な雰囲気の中で股間欠泉少年とか変な単語出たら笑うだろうがっ!というかフミオ殿の額を見ただけで笑えるんだよぉっ!!」

「開き直ってんじゃねーよ!」


 く、我慢できなかった私も悪い。

 だが他の者を見ろ、奴等だって口の端がぴくぴくしてるじゃないか!絶対笑うのを堪えてるって!


 この状況で笑う私に怒りを覚えたのか、フミオ殿は顔を真っ赤にしながら出て行った。


 よし、笑いの元凶が出て行ったぞ。


 しばらく経てば笑いも収まり冷静になってくる。

 フミオ殿を救う方法は恐らく無い。あるとしたら……それはアルカディア女王の力を借りる事だろう。

 つまり無理だ。


「セロ様、フミオ殿の事も良いですが、他にも危惧すべき事がございましょう」

「ナキサワメか……」

「違います。アルカディア女王は……我が国にも報復する可能性が高いという事です!」


 ウィラーの言葉にハッとした。というかせざるを得なかった。

 そうだ、相手はすでに我等の仕業だと気付いてる可能性が高い、というかほぼ間違いない。


 となるとだ、フィフス王国で標的の貴族だけでなく、身内や王族、更には無関係な民達まで惨たらしく殺す様な非情の女王が我等を無傷で済ませる訳が無い。


 フミオ殿の次は、我々だと言う事だ。

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