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幼女、馬車を欲しがる

「つまり私がマオウに娘認定を受けた以上、貴女の母じゃいけないわけよ。というか娘とかユキだけでお腹いっぱい」

「はぃー…」


 現在はマオに私達がどういった存在か説明中。ペドさんとか町中で呼ばれる訳にはいかないので、私の呼び名を決めている所だ。

 ユキは画伯となり、我関せずといった様子で黙々と絵を描いている。ちなみにまだ山の中だったりする。


「まず、貴女いくつよ?」

「わたしは14歳です」


 じゅうよん…こんな身体しといて14歳ときたか…。何という敗北感…


「あーら、奥さん…今の言葉聞きました?」

「聞いてませんでした」


 聞けよ。返事しといて聞いてないとか何だよ。一人で近所の奥様ごっことか馬鹿丸出しじゃないか……絵に夢中なユキは役に立たたない。


「貴女は精神育たず、身体だけ育ったタイプなのね、この変態。淫魔」

「ひどいですっ!?」


 マオウには聞きそびれたが、舞王一族が淫魔である可能性はなきにしもあらずだ。


「でも14歳って事なら私の方が年上よ。敬意を込めてお姉様と呼んでいいわ」

「はいです、ペドお姉ちゃん」

「ペドは要らない。町中でその名を呼んだ瞬間、私と貴女は他人と化す」

「気をつけますぅ…自信無いけど……」


 別に家族解消とかしないけど、脅しておいて損はない。

 というかいい加減先に進みたい。未だに五丁目まで1日かからず帰れる距離に居るとか、世界を回るのに一生じゃ足りない。


「お姉ちゃんって、何者ですか?」

「ワンス王国五丁目にお住まいのフィーリアさん家のペドさんだけど?」

「そうじゃなくて…わたしのけがを一瞬で治したり、マイちゃんさんを巨大化させたり、何よりユキさんを生んだり」

「私じゃなくて奇跡ぱわーのお陰だけど?私自身は奇跡ぱわーが無かったらタダの嫌がらせが得意な幼女よ」


 言ってて我ながらロクな存在じゃないと思う。もし、奇跡ぱわーが無かったならマイちゃんもすでに亡き者だし、ユキも居ない。

 一生ごろごろ過ごして、嫌がらせだけには頭を使う。稼ぐ人が父だけなら家計は大変だろう…何もしない二人が家に居るし……


「おぉ…フィーリア家は私の代で滅亡してしまった」

「何でそうなりました?」

「もしもの話を想像しただけよ…で、何だっけ?」

「…お姉ちゃんは…神様ですか?」


 神様…ゴッドか……私が神とかあり得なさすぎる。ホントないわー


「ご主人様が神…奇跡を起こせるのが神ならば…なるほど」

「残念ながら私は普通の人間よ」

「そうなんですか?」

「んー…勘だけど。もしかしたら私以外にも奇跡ぱわー使える人間もいるかも…」


 私の直感によれば、確かに私は普通の人間だ。間違いない。そもそも奇跡を起こす度に気絶する神とか聞いた事ないし…

 というか、あの両親が神とかあり得ない。特に母が


「ひょっとしたら誰でも使えたりして」

「わたしにも使えますか?」

「やって見たら?」


 マオが何か考える仕草をし、足元に落ちていた石を掌の上に置いた。そして目の高さまで持ってきて唸る


「むむむっ……石よ…浮いてっ…奇跡ぱわー!」


……


「……頭大丈夫?」

「……ひどいですー…」


 予想通り何も起こらなかった。見た目は大人に近いため、子供みたいな事をするのは非常に滑稽だ。


「まぁ、結論として私は私という存在って事ね」

「…そうですね!」

「ユキ画伯が絵を描き終えるまで紅茶でも飲んで待ってましょう」

「はい」


 キャンプセットのテーブルにユキは画用紙を敷いて絵画作成中。

 対面に椅子を持ってきてマオを座らせ、その上に私が乗る。これなら子供用の足場がやたら高い椅子は必要無い。


「…上手いもんよねー。これはマオウが舞ってる所ね」

「凄いです、お母さんです」


 実にほのぼのしてるが、魔物が生息してる山の中である。結界が無ければ今頃戦闘中だったかも…


 いや、マイちゃんが結界の外で狼の魔物相手に無双中だった。何処にも居ないと思ったらストレス発散でもしてるのか……?とりあえずマイちゃんは置いといて…


「次は馬車か…」

「おー…馬車ですか」


 マオはとりあえず返事してる風なのが良く分かる。もう少し知能を上げるのもいいかもしれない。

 私じゃなくてもこの娘を騙して悪さするのは容易だろう。


「…ダメですね、用紙一枚程度じゃ舞王の舞を伝える事は出来ません」

「そう…?確かにそうかもね」

「わたしも早く舞えるようになりたいです」


 マオは私達が何も言わなくても舞王のを目指す事にしたようだ。私が見たい時に見せてもらおう…まだ下手だろうけど。


「そろそろ行きましょう、すぐにでも馬車が欲しいから四丁目すっ飛ばして一丁目いくべき?」

「走るなら大丈夫です。が、今日中に一丁目に着いたとしても馬車を買う資金に不安が…。ある事はあるのですが、買ったら生活用の資金はほぼ無くなります」

「…ノーマルが言ってたけど、そんな高いのかぁ…」

「500万ポッケ有れば買えますね」

「高っ…たかが木製品の分際で高すぎない?」

「主に貴族用の品ですから、馬自体も高いですし。それに安いと平民に流通しすぎて、平民ごときが貴族と同じ馬車に乗るとはなんだ、と喧しい貴族がいるのでは?」

「くだらなー…なんか自作すれば大分安くなりそうね」

「出来そうですが、時間はかかりそうですね」


 時間がかかるなら止めておこう。やっぱり世の中お金か…四丁目で何か無いか見てみるか…


「四丁目で何か儲け話でも探しましょう。ついでにマオの身分証…ギルドカードも用意しましょう」

「かしこまりました」

「はいです」


 儲け話が無ければ一丁目に向かえばいい。王都の次に大きい町なら何かあるだろう。



★★★★★★★★★★



 四丁目についた。思ったより遠かったので途中から走った。一丁目まで行くとか言ってたら高速移動されたかもしれない…。

 四丁目の広さは五丁目と同じくらいらしいが、人口はこっちの方が多く見える。


「五丁目と変わらないわね」

「隣町ですし」

「ひ…人がいっぱい…」


 マオは初の大人数に怯えているようだ。この程度で怯えているようじゃ王都に行ったらどうなるやら…。そもそも誰もいじめやしないだろう…


 マオは現在ユキに抱っこされてる私の左腕にしがみついてる状態だ。意味が分からない。


「おかしいでしょ、何で私にしがみつく。ユキの右腕があるでしょう?」

「いえ、万が一の時に備えて右手は空けておきたいです」

「み…見られてます…あわわわ…」


 確かに何か注目を浴びている気はする。


「マオさんの着ている着物とやらは目立ちますし」

「わ、わたし?可愛い服を着たお姉ちゃんを抱っこしてるユキさんの方が目立つような…」

「メイド服だしね。それより目立つのはあり得ない大きさの蝶のマイちゃんでしょ」

パタッ!?



 マオの着ている珍しい服は着物と言うらしい。私も穴の空いた服から着替え済みだ。色は赤になった


「つまり、総じてこのメンバーは目立つという事ね」

「い…石とか飛んで来ません…よね?」

「無いわよ。小心者ね貴女も。いっそ淫魔らしく素っ裸になれば少しは度胸つくんじゃない?」

「いっ…淫魔じゃないですっ!」


 だが淫魔かもしれない可能性はある。そう言えば、自分でぶっ刺したらしい角擬きを取らないと…鬼じゃなかったんだし


「宿に着いたらマオの角擬きを抜きましょう」

「そういえば…何かあるといけませんし、抜いておいた方が良いですね」

「い…痛そうです…」

「我慢は貴女の十八番でしょ。私は涙目になる貴女を見ながら紅茶を飲みたい」

「あぅ…お姉ちゃんはいじわるです」


 視線に晒されながらしばらく歩いていると、人が遠巻きに集まって何かを見ているのが分かった。


「見せ物でもあるの?」

「さぁ…どうでしょうか」


 好奇心が刺激されたので私達も近寄ってみる。


「…あら、オークよ、身なりの良いオークが居るわ」

「…貴族ですね」


 丸々と太ったオーク…醜悪と言われそうな容姿の貴族だ。マントを羽織った黒を基調とした服を着ている。

 貴族は地面に転がった瓶等を集めている。側には護衛らしき者に押さえつけられた子供。


「この…ガキがっ!」

「…よくもっ…!…いや、捨て置け、そのような子供」


 護衛が子供を殴ろうとするが、貴族が周りを気にしてか止めた。


「…いえ、このガキは謝罪すらしません。せめて親にはそれなりの罰を与えねば…」

「好きにしろ」


 そう言って貴族はもう一人いた護衛と去る。残った護衛は泣きわめく子供の首根っこを掴み、近くにいた青い顔をした女性の元へ向かった。多分、子供の親なのだろう


「あの子も、あの子の親も可哀想に…」

「あんな醜悪な奴に捕まっちゃ、何されるか分からんな…」


 あの貴族は大分嫌われているらしい。見た目がオーク貴族だからかもしれないが。


「た…助けないのです?」

「誰を?あの子供を?嫌よ、興味ない」

「あぅ…」

「ではギルドの方に向かいましょう」

「わかったわ」


 集まった人の波に逆らい、来た道を引き返す。民衆が邪魔なので迂回するようだ。

 少し歩くとマオがおずおずと私の袖を引っ張ってきた


「あの、お姉ちゃん…」

「…何?まさかさっきの子供を助けたいとか?」


 コクコクと頷くマオ。この娘は私が誰でも助ける聖人とでも思ってるんじゃないか?


「見なさい、この通りは広いけど、今の時間は人通りはあんまり無いでしょ?あの野次馬達はともかく」

「はい」

「こんな見晴らしのいい道でぶつかるとか、明らかに子供の不注意。会話を聞く限り謝罪も無かった様だし、非はあのバカ餓鬼にあるわ。注意しなかった親も同罪。助ける価値なし」

「…そう、なんです?」

「貴女は私達以外の正義ぶった誰かが親子を助けるのを祈っておけばいいわ」

「…わかりました」


 どうせ重罪にはなりはしまい、むしろ良い教訓になる。せいぜい怒鳴られることだ


☆☆☆☆☆☆


 四丁目ギルドに着いた。ギルドの大きさも五丁目と大差ない。

 中に入れば酒臭い、という事は無かった。やっぱり五丁目が特別酒臭いのだと分かる。


 とりあえず受付にいき、マオのギルドカード発行のため登録する。四丁目の受付嬢は面白そうな気配がないので、私は喋らず全てユキに任せた。


「私達はここに居てもしょうがないし、隣の酒場で何か飲んで待ってましょう」

「わかりました」

「お…置いてかないでくださいっ!?」


 マオが必死に私にしがみつく…だからユキにしろと、服がしわくちゃになるだろ……


 結局ぐずるので受付嬢にギルドの説明は私達がすると言って、カード発行終わるまで皆で酒場で待つ事にした。






「……だから、変でしょ?」

「私はご主人様の隣で護衛しないといけませんので」

「わ、わたしもお姉ちゃんの隣じゃないと不安で…」


 ユキとマオに挟まれて座る私。対面式の4人用の席で本来なら2人ずつに別れるのだろうが、対面には誰も居ない状態だ。


「せめてマイちゃんでも対面に置いとこうかな」

パタパタ


 すでにマイちゃんはユキの肩に退避済みだった。勘のいい蝶だこと


「お、やっぱりペドちゃん達だ」


 誰かが声をかけてきたかと思えばモブオだった。何でモブオが四丁目に…まさか…働いてるのか!?


「五丁目ギルドの筆頭クズが…働く…だなんて……」

「酷いぜペドちゃん、ここ座っていい?」

「構わないわ」


 知らない奴に対面に座られるよりはマシか…。モブオは座って何か注文する訳でもないらしい。五丁目でも水ばっか飲んでたしなー…



「…会えたら言おうと思ってたんだが、セティさんが大変そうなんだ」

「母さんが?」


嫌な予感…


「あぁ…泣きながら質屋に入っていく姿が目撃されてるんだ……」

「予想以上に売りに出すのが早いわね。どんな生活してんのよ」


 やっぱりだ。あの母はもって数ヶ月の財産しかないと思う…今のまま過ごせばだが


「今日はモブジロウは一緒じゃないのね」

「モブジロウ…?あー…相棒か、あいつモブジロウが本名なのか…偽名で登録してたんだな……じゃなくて、今日は一人で依頼受けてるよ」


 モブジロウを本名と思うとか馬鹿だなこいつも…


「ところで、知らない娘が居るけど、ペドちゃんは俺を差し置いてハーレム作っちゃったわけ?」

「他人から見ればあなたがハーレム王よ。やったわね」

「なんだって!?すまねぇ…相棒…俺はお前を置いて先にいくぜ……」

「お…お姉ちゃん…誰です?このひと…」

「お姉ちゃん…?ペドちゃんが…?つまりこの子のが年下…ペドちゃんは合法ロリ…じゃあこの子は合法じゃない少女…どういう事だっ!?」

「何言ってるか分からないわ」

「こ、怖いひとです」


 引っ付いてくるマオが鬱陶しいから怖がらせないで欲しい…ユキなんて他人のフリしてマイちゃんにジュースを飲ませてる始末


「私は今日…何度あなたを鬱陶しいと思ったっけか…」

「き、嫌いになりました?」

「それはないわね。家族だし」

「お…お姉ちゃんっ!」


 更に引っ付いてきた。余計鬱陶しくなった。だがマオの私に対する忠誠心が増えた気がするからいいか


「なぁ…百合百合しい姿をこの目に焼き付けた俺はこの後どうすればいい?」


何もするな




「会話中失礼、あなたは…『薬草狩り』のユキさんでは?」


 また誰かが声をかけてきた。今度は知らない男…と後ろに仲間らしき数人。ユキに用があるらしい。

 しかし、薬草狩りとか馬鹿にしてんじゃないか?と、思わず考えるほどダサい名称だなぁ…ユキの客なんだし、ユキに任せようと思いながら、未だに引っ付いている妹分を引き離す事にした。

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