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幼女と宝の地図

「ごしゅじんたまー」

「肥溜めに頭から突っ込んで溺死すれば?」

「理由無き言葉の暴力が私を襲ったところでお母さんにご報告です」

「そんな無表情でごしゅじんたまーとか言ったらそりゃイラっとするでしょうよ」


 私の気持ちはサヨが代弁してくれた。


 処刑の時に不在だったユキが何をしていたのかと言うとミニマムメイド達の訓練である。

 メイドの訓練って紅茶の淹れ方とかかと思ったが、魔法使いの癖に暴力に訴える事が多いユキは戦闘の訓練を強要していたようだ。


「時代は戦闘メイドを必要としてるのです。アルカディアに住む以上地竜くらいは単独撃破できる程度の力は付けて頂きたいです」

「ミニマム達はあんた等と違って普通の人間でしょうが。そこまでいくには無理があるわ」

「ところがですね、あの子達は戦闘の才能がかなりあるようでして……生まれがサード帝国なので生まれた時から戦闘種族だったのではと推測しました」


 なんと、という事は今はまだ可愛らしさがあるミニマム共は数年後にはドSの畜生になってしまうのか。

 反旗を翻される前に今の内に始末しておくべきか。


「脅威の芽は早いうちに狩る。それが私よ」

「身内に大して非情な決断は大変あっぱれですが、お母さんを裏切る事はないでしょうから無用の心配です」

「随分な自信ね」

「なんせ奴隷ですし」


 そりゃそうだ。

 奴隷から解放しない限り私に対して攻撃なんか出来ないわな。

 つまり奴隷から解放された奴が現れたら順次殺していけばいいんだな。


「今の快適な生活を捨てるアホはおらんじゃろ」

「そもそもメイド達に限った話ではないですが、この国に住む奴隷達のお姉様に対する忠誠心は半端じゃないですよ」

「ふーん。モテるのに慣れすぎてあんまり嬉しさは感じないわ」

「五丁目の冒険者達に聞かせたい台詞です」


 私のモテ具合は置いといて、サード帝国出身というだけで中々な戦闘能力を秘めているのか。

 という事はサード帝国の奴隷を集めれば優秀な軍隊が誕生するのではないか?

 育成期間を考えてミニマム達と同じくらいの年の奴隷を買い漁るのもいいかもしれない。何せ今は奴隷が激安みたいだし。


「ところでお母さんは先程から何を書いておられるのです?」

「新たな拷問器具の設計図でしょうか」


 ユキが問うた通り私は会話をしながらある物を一枚の紙に書いていた。

 ペタン娘が言った拷問器具ではない。というかそこまで私は拷問好きと思われているのか。甚だ遺憾である。


 ……よし、まあこんなものでいいだろう。何を書いてたか気になってるだろうし正解を教えてやるか。


「大変よ皆、神殿を探索していたら宝の地図らしき物を発見したわ」

「せめて5分くらいでも実際に探索する努力をしようよ」

「隠されている宝は不明みたい……これは冒険家魂に火がつくわね。文字の乾き具合を考えると、ついさっき書かれた地図と思われるわ」

「知ってる」


 とりあえずテーブルに持っていって皆に見えるようにする。

 我先にと食いついてきたのはマオだった。どうやら宝の地図に興味津々なお年頃だったようだ。


「宝の地図……なんだかわくわくしますねっ」

「く、疑う事を知らない純真無垢なマオっちがあたしには眩しすぎる」

「しかし地図と言っても地形などは全く書かれてませんね」

「書かれてるヒントを頼りにするしかないようです」

「西側に二股に別れた滝のある川があり、東側にフルモンティの小屋とか言う訳のわからない施設、挟まれる形で中央に血の様に真っ赤な木がある、と」

「肝心のお宝は真っ赤な木から東へ700メートル進み、北へ300メートル。そこから障害物にぶつかるまで北東に進みぶつかったら南東に550メートル進む……そして北へ1700メートル進み、用事を思い出して1700メートル南に戻る。そこに宝があるそうです」

「最後の2つ要らんじゃろ」

「用事を思い出さなきゃ宝が見つかんないかもしれないじゃない」

「どんな宝じゃ」


 それはさておき、何だかんだノリの良い連中なので興味を持ち始めたようだ。

 この中で一番世の中の地理に詳しいのはサヨなのでサヨを中心に宝の在り処を探す事にしたらしい。


「滝があるという事はある程度山の中かもしれませんね。一番見付けやすそうなのは真っ赤な木でしょうか……世界に一本だけ生えてる親切仕様とは思えませんから、真っ赤な木を発見出来たら周辺を探索し、滝と小屋を探して木を特定するのがいいかもしれません」

「見て、あんな落書きを真面目に解読してるわ。滑稽よね」

「酷い幼女だなっ」


 だがサヨ以上に活き活きとしてるのはマオだったりする。

 サヨが方針を提示する度に鼻息が荒くなっている。何だかマオの期待が重い。


「にしてもマオさん、よく架空の宝の地図にそこまで興奮できますね」

「だって楽しそうですっ。それに、お姉ちゃんが書いた地図だから何か本当に宝がある気がして」

「驚きの説得力」

「フルモンティの小屋って何ですか」

「異世界辞書に載ってた言葉ですね。確か全裸とかそういう意味だったかと」

「え、フルモンティに意味なんてあったの?」

「何で書いた本人が驚くのですか」


 何となく思いついた言葉だからだ。

 もしかしたら昔、異世界辞書を読んだ時におぼろげながらも覚えてたのかもしれない。


 だが全裸とは如何に。

 ウチで全裸で連想する人物と言えばメルフィだ。


「……なに?姉さん」

「メルモンティ」

「流石にその単語と混ぜるのは許されない。そもそも私は自分の部屋と姉さんの部屋でしか脱がない」

「念の為に言っておきますが問題発言ですよ」

「いいじゃん。巨乳美少女の全裸が簡単に見られるんだからリーダーだって内心喜んでる筈よ」

「見慣れた光景すぎて感動が薄れてるわ」

「まあお風呂でも見てるしねぇ……頻度が多いと見慣れちゃうのも仕方ないか」


 …………


 突如沈黙が襲った。

 何てことはない、何かユキの様子に異変が生じただけだ。


「歓談の途中ですが、緊急会議です。何ですかマリアさん、まるでお母さんと混浴したみたいな言い方は」

「同性なのに混浴?……まあたまに一緒にお風呂入ってるけど?」

「イショーニ・オ・フーロ?ちょっと何言ってるか分かりませんね」

「こっちの台詞なんだけど」

「どういう事ですか、和気藹々とした入浴タイムに何で実の娘がハブられなければならないのですか!」

「実の娘じゃないだろ」

「お母さんの力で生まれたのなら実の娘です!」


 いつになく面倒くさい。というか暑苦しい、いつもの冷静さは何処へいった。

 ここだけ聞いたら仲間外れが嫌で駄々こねてる娘に見えるが、その実体は幼女のマッパを自分も見たいと興奮するただの変態である。


「ユキっちはどうせリーダーの裸が見たいだけでしょ?」

「はいっ!!」

「良い返事ね、いっそ清々しいわ」

「そんなだからハブられるのじゃ」

「くっ、ちょっと待って下さい。ハブられてるのってもしかして私だけでしょうか?」

「ううん、サヨっちも」


 自分だけでないと知りユキはあからさまにホッとした顔をした。


「いや待って下さい。何ですか、私は愚妹と同じく変態と思われてるのですか」

「うーん……何というか、サヨと一緒にお風呂って何か嫌じゃない?」

「特に理由なく嫌がられてる!?」

「あれじゃない?サヨっちって長年生きてるし、老廃物的な意味で嫌とか」

「貴女は私以上にババアでしょうが」

「そうだった!」


 忘れてたのか馬鹿マリアは。

 結局の所は私が身の危険を感じるか感じないかで決めてる事なんだけど。


「風呂の事は今はどうでもいいわ。お宝の方に集中しなさい」

「と言われてもこれに書かれている事以上のヒントなんかありませんよね?」

「ええ、という訳で書かれてる物について調べましょう」

「では姉さんはフルモンティの小屋について調べて下さい」

「変態臭を感じるヤツは変態である貴女が調べなさい」


 情報収集と言えばまずは聞き込みだな。

 神殿内にいる奴等は期待出来ない。奴隷達も商館の中ぐらいしか知らないだろうし、ここは町中に行くしかないな。


「さあ、聞き込みに行くわよマオ!」

「はいっ」


 お供には一番やる気を見せているマオに頼んだ。

 マジで期待が重いわ。



★★★★★★★★★★



 アルカディアは今日も良い天気だ。

 急に運ばれてきた女王特製の拷問器具も光輝いている。


「これでますます客足が遠のきますね」

「そもそもお客さんが来る事が稀だけどね」


 国の場所自体は悪くないと思う。

 近くの山々は妖精達が沢山居るだけあって薬草等は豊富に生えているだろう。

 それを採取に来た冒険者のお客だけでもそれなりの売り上げは期待出来る。


 ただし冒険者が欲しがる商品があった場合だが。

 装備、全く無い。ポーション等の回復薬、この国の住民はユニクスの血を贅沢に使ってるからそもそもショボイ回復薬が無い。

 これではこの先冒険者達が立ち寄っても何も売れないなぁ。

 誰が雑に作られた拷問器具を買うと言うのか。というかこれ血がついてるじゃんっ!


「……」

「……」


 拷問器具に憎憎しい視線を向けていると、ふと視線を感じて前を見た。

 するとそこには幼女と少女が居た。

 うん、まあ女王陛下とマオさんだけど。


「きゃー、神までもが絶賛するアルカディアでしか売られてない桃女郎が置いてあるわー。持ってないと時代に取り残されるかもって不安だったわー。買わなきゃー」


 いとも容易く行われるサクラ行為。


 やってるのが作者本人という悲しい現実である。

 当然サクラ行為をやった所で興味を持つ客なんていやしない。


「今ここで買わなきゃ売り切れるところだったわー」


 その心配は無い。


 やがて周囲が全く無関心である事に気付いたのか、手に取っていた本を戻した。買わんのかい。


「さて、スイッチョン」

「僕はオーランド、以前は小さいながらも一代で築きあげた商会のトップだったが」

「あなたの情報とかどうでもいいから。で、この桃女郎は何冊売れてるわけ?」


 どこか期待した様な目で問いかけてきた。

 この在庫の量を見て何故に期待が持てるのだ。ほとんど売れてないと物語ってるじゃないか。


「……3冊ずつ売れました」

「3冊……1冊は確実に売れたのは知ってたけど。ふむ、ならあと100部ずつ増刷した方がいいわね」


 何でそんな強気な姿勢が出来るのだろう。

 ポジティブなんて域を通り越している。不動の在庫の山になるのは勘弁して頂きたい。


「桃女郎は置いといて、今日は情報収集で来たのよ。商人なら何かしら知ってそうだし」

「うーん、どんな情報か聞いてみないと何とも答えられませんが」

「この宝の地図なんだけど、書いてある物に心当たりはない?」


 そう言って渡されたのは宝の地図の割に何の地形も書かれてない紙だ。

 何というか、真新しすぎる気もするが……ぶっちゃけ最近書かれた奴じゃないのかコレ。


 肝心の内容だが、二股に別れてる滝に関しては知らない。が、探せば見つかりそうな滝と言える。

 フルモンティの小屋とか言うのはさっぱり分からない。


 そして、最後の血の様に真っ赤な木だが……はて、そう言えば。


「血の様に真っ赤な木については聞いた事がありますね」

「ホントですかっ!?」

「え、実在すんの?」


 この女王陛下とマオさんの温度差は何なんだろうか。

 聞いてきたくせに何とも冷めた反応である。


「確かお化けザクラ、または妖桜と呼ばれてましたね。花が赤いのではなく、言葉通り木全体が真っ赤な不気味な桜らしいです」

「ほう、桜か。それは何処にあるの?」

「東方ですね。フィフス王国やヒノモト国の周辺の森に生えてると聞きました。一箇所じゃなくて点在してる様なのでお目当ての木かどうかは残りの2つで判断するしかないでしょう」

「正に今から向かう場所ってわけね」


 帰ってきたばかりなのにまた旅に出るようだ。

 まあ女王陛下は冒険者が本職みたいだから冒険してる時が一番楽しいのだろうが。


「出だし好調よマオ。早速戻って報告しましょう」

「はいっ」


 僕の情報が役に立ったようで何よりだ。

 それにしても宝か……売れそうだったら店に持ってきて欲しいなぁ。



★★★★★★★★★★



 一夜明けて旅に出る朝がやってきた。

 今回はヒノモト以外にも旅のお楽しみが出来たのでいつもよりテンションが上がっている。


「にしても久しぶりねぺけぴー。駄馬街道をまっしぐらしてないでしょうね?」

「そこはご安心下さいお姉様。ぺけぴーには出番の無い時は訓練しておくように言っておりましたので」

「へー、なら少しはパワーアップとかしてるんでしょうね」

「勿論です。さあぺけぴー、強化されたあなたを見せて御覧なさい」

『クックドゥルドゥー』

「戻して」


 可愛さがガクッと下がっていた。

 何だその鳴き声は……チェンジだチェンジ。


「残念でしたねぺけぴー、どうやら迫力のある鳴き声はダメみたいです」

『くるっくー……』

「迫力は皆無だったけど」

「そんな事より出発ですよお姉ちゃん!お宝がわたし達を呼んでます!」


 ここまでマオが張り切るのも珍しい。

 恐らく宝探しが関係してる書物を読んで影響を受けたのだと思う。


「ところでお母さん。どうして急に宝の地図などを?」

「ほら、今や馬車の中って豪華じゃない。御者をする奴以外はそれぞれ本を読んだりリビングで駄弁ったりで移動中はまるで景色を見やしない」


 道中の景色は余程環境の違う土地にでも行かない限り代わり映えしない。


 だが、道中で宝探しをしたら?

 それぞれ窓なり屋根上なりから目印となる物を探すだろう。


「要は目的地だけじゃなく、移動時間も面白くなればそれでいいのよ。別に宝なんて実際には無くていい」

「そういう事でしたか、やはりお母さんはお優しいです」

「存分に褒めるがいいわ。幸いな事に真っ赤な木に関しては実在するらしいじゃない、これは何としても探すわよ」

「桜と言うからには見頃は今でしょうか」

「なら早めに探す必要があるわね」


 フィフス王国付近まではスピードは速めで移動した方がいいな。

 だが森と言っても沢山ありそうだ。

 一つ一つ探索していては花が散ってしまうかもしれない。でもまあ木自体が真っ赤なら花が散ってようが分かるだろうけど。どうせ見るなら花が咲いてる時がいい。


「じゃあ馬車に乗りなさい、行くわよ!」

「ではキキョウさん、毎度の事ですが後は任せましたよ」

「かしこまりました」


 アルカディア住民全員という無駄じゃないかと思う見送りに手を振り私達は出発した。

 久しぶりの馬車旅か、最近は転移ばっかだったからなぁ。


「では転移」


 ただし、国を出るまでは転移である。

 まあ森の中は馬車が通れないからな、うん。

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