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幼女、ネギを食べる

 たかが今まで見えなかった奴が目の前に現れただけで大騒ぎになったものだ。

 と言っても騒いでいるのは後ろの方で控えていたモブキャラの文官連中なんだけど。


 これはアレか、サユリみたいに実在するとは思ってなかった奴も結構居たのかもしれないな。

 この場を静める役目であろうヒミコは何かガックリしてるし……


「今まで他所の神と名前を間違えていたのがそこまでショックだったか」

「建国当時からアマテラス様を祀っていた、と勘違いしてたからね。歴代ヒミコの信仰が意味無かったと思うとそりゃガックリするわよ」

「意味、無かった……」

「サユリが要らんこと言うから更にヒミコがガックリきたわよ」

「過去が無駄になったなら今まで以上に信仰すりゃいいのよ」


 何て良い事言う奴なんだ。

 全くもってその通り。終わった事なんか気にせんでいいわ。


「無駄ではありませんよ」

「主神様……!」

「あなた達の信仰はちゃんと届いていました。顔も知らないアマテラスとかいう神に」

「あふん」


 敬ってくれてる部下に対して止めを刺しやがった。

 完全に崩れ落ちたヒミコを微笑ましそうに見つめるゲス神。いきなり復活してはっちゃけてる様子。


「冗談です。ヒミコも含め、極一部の方からの信仰はちゃんと私に届いてましたよ」

「え、本当ですか!?」

「ええ。ヒミコはわたくしの事を主神様と呼んでましたからね、同じく主神と呼んで慕ってくれた子達の信仰は僅かとはいえ力となっておりました」


 なるほど。アマテラスと呼ばれた時は全く聞こえなかった様だが、主神というこの国の神を現す呼び名だったら届いていたと言う事か。

 ややこしい事この上ない。


「ところで、わたくしの事より今はお客様の方が大事ではないのですか?」

「どちらも無視出来ないのですが……」

「相手はわたくしを救ってくださった恩人ですよ」

「分かりました」


 やっとこさ私達の用事が済まされそうだ。

 と言っても、この神が復活した今、妖精や精霊の力なんぞ不要になったと思う。


 あれ、つまり私達もう帰っていいんじゃね?


「次に私達が来たときにはまともなご飯が食べられる様になってるでしょう。ならばもはや用は無し」

「流石に何の謝礼も無しという訳にも……」

「ふむ、ならばヒノモトオススメの観光スポットでも教えてもらいましょう」


 見るものが決まっていれば無駄な時間は省ける。

 サヨが修行したという場所はどうするか……行かなくてもいいが、本人が行きたい様なら行けばいい。


「観光スポット……そうですね、ナキサワメの祠はヒノモトでも有名なので如何でしょう」

「ほう、どんな場所?」

「その祠の奥から女性の泣き声が聞こえてくるそうです。ただ、妙な結界が張ってあり入る事は出来ないみたいで」


 つまり何者かが引き篭もっているのか。

 引き篭もってる間に観光スポットになってると本人が知ったらさぞかし驚くだろう。


「発見当時はかなり話題になったみたいです。やれ中にいるのは美女だとか、泣き止ませた者は嫁に出来るなどなど」

「今はそうでもないのね」

「発見されたのは建国中ですし……そんな長い事生きてる者が人間な訳ない、という事で大体50年ほどで騒ぎは全く無くなりました」


 そりゃ騒がなくなるわ。

 そんな得体の知れない奴が国内に居るとかよく暮らせるもんだ。

 まぁ泣いてるだけで外には出てこないみたいだから安心は出来るのだろうが。


「一応何かあった時のために見張りは立ててますよ」

「無難ね。さて、回る観光スポットも分かったようだし帰るか」

「まあまあお待ちくださいませペド様。わたくしからはまだ何も返せておりませぬ。本殿にご招待致しますのでどうぞおもてなしさせて下さいませ」

「主神様……本殿どころか鳥居の先には誰も入れないではないですか」

「大丈夫ですよ」


 鳥居と言うとあの赤い奴か。

 普通は入れないようだが、てんてりの口ぶり的に私は入れる様にしてくれるのだろう。


 招待されたのは私だけなので他の面子には残ってもらう。

 まぁ他の娘達にはヒミコ達がもてなしてくれる筈だ。


「そして当然のようについてくるみみみ」

「貴き方をお一人にさせる訳がないではありませんか」

「入れんの?」

「私はあの神より格上ですから。当然入れます」


 入れる入れないはどうやら格で左右されるようだ。

 じゃあ私もあれか、てんてりより格上だから入れるって事か。


 事実そうであったのか、誰も入れなかった鳥居とやらにすんなり入れた。

 入れたのはいい、だが階段なんぞ上りたくない。

 ユキは入れない、という訳でみみみに抱っこしてもらう事にした。


「貴き方とこんなに触れ合うなど……もはや未練はありません」


 幼女信者がまた増えた。

 たかが抱っこするだけで満足するとは安い連中ばかりだ。


 階段を少し上った所にある建物に入る、事無く迂回して後方にあった小さい建物に案内される。


「狭そう」

「申し訳ありませんが、実際狭いです」

「まぁ座れるスペースがあるならいいや」


 しかしこんな狭い部屋でどうおもてなしとやらをするのか。

 答えは簡単。

 部屋の中にあった小さめの箪笥っぽい家具から何か出てきた。


「何それ」

「七輪です。これで食べ物を焼いて食べる訳です」


 この小さい物体は七輪というらしい。

 炭火を使う事からバーベキューセットの小さい版みたいなものか。


 火を使うという事で窓は開けてある。

 しかし窓は開いているとはいえ室内で焼くとか臭いは大丈夫なのだろうか。


「豪勢な料理はヒミコ達がもてなしてくれると思います。なのでわたくしからは……こちらです」

「……ねぎ」

「陽光恵葱というヒノモト独自の白ネギになります」


 ほう、大層な名前が付いている野菜とか期待出来る。

 これを七輪とやらで焼くのだな。早くしろ。


「……何の文句も出ないとは思いませんでした」

「文句あるわよ、さっさと食わせろ」

「ふふ、焼くには少々時間かかりますのでお待ちください」


 白ネギをざっくり5センチ程の長さで切ってそのまま豪快に乗っけて焼く。

 ジュージュー派手に焼ける訳ではないらしい。まあネギだしな。


「さて、焼けるまでの間わたくしとお話いたしましょう」

「お話、ね」

「ですがその前に改めて感謝を。わたくしの名前を、いえ、違いますね。わたくしの過去を思い出させてくれてありがとうございました」

「過去ねぇ……神とやらはどう生まれるのよ」

「生まれですか、わたくしの場合は人間達の強い想いによって生まれました」


 想いか、奇跡ぱわー製と似たようなもんだ。

 だが奇跡ぱわーを持たぬ人間達の想いが結晶になったのだとしたら中々に大きい想いだ。

 というか人間が神を産み出すとかもう何でもありだわ。


「人が生み出した神です。貴き方はおろか、私から見ても格下です……ただ、貴き方が名付けられた事で以前よりは数段は格が上がったようですが」

「私が名付けたというか、元々の名前がてんてりだったんでしょう?」

「はい。ですが一度は失われた名です。わたくしが名付けられたのは二度目と言う認識でかまいません」

「初めにてんてりなんて名付けたのはどんな奴よ」


 ネーミングセンスが私ばりとかさぞや凄い奴なのだろう。


 順を追って話すというのでネギが焼けるまでは大人しく聞く事にした。


 元々は天照という名ばかりの神を祀ってある神社だったが、丁度今のように不作に悩み飢饉に陥った時、藁にも縋る思いで神社に神頼みをする連中が続出したらしい。


 だが、その程度で神が生まれる筈は無い。

 生まれた理由は別、死の直前まで神に祈り続ける連中が何人もおり、神社の前で死に絶える者が後を絶たなかった。

 結果的にそいつらの魂を生贄にした形となり、名も無き神となったてんてりが現世に実体化した。

 実際には強い想いだけではダメだったって事だ。


 アマテラスとやらが現れなかったのはすでに実在しているらしいので別の場所を守護していたか、はたまた生贄が足りなかったのか。

 何にせよ神は神。ただ存在するだけで人間の願い通り飢饉に悩む村に徐々にだが作物が実りだしたそうだ。


「わたくしに名前をくれたのは、その村に住んでいた一人の男の子でした」

「へぇ」

「わたくしは、まぁそれまでアマテラスと呼ばれていたのですが、すでに別にアマテラスの名を持つ神がいらっしゃいますからね……残念ながら名無しの神として村を見守っていたのです」


 同じ名前がダメだとか、神の世界も世知辛いのぅ。

 人間みたいに数がアホみたいに多い訳ではないのならいいが、数次第では名前を考えるだけで一苦労じゃないか。


 それから何か長めの説明を受けたが、頭に入って来なかったので省略。


「そして、てんてりという名前を貰ったその日から、わたくしはお日様の神として神の一柱となったのです」

「何でそのガキんちょはアマテラスという名前で呼ばれてる貴女をてんてりなんて名付けたのよ」

「あの子は、わたくしに本当は名前が無いという事を何となく気付いていた様です。もしくはアマテラスという名前で呼ばれるわたくしに違和感を持っていたのかもしれませんね」


 ふむ、私ほどではないが良い直感を持ってたようだ。

 異世界にも見所のある奴が多少はいるらしい。


 そのガキの功績によって晴れて名も頂戴し、ただの神からお日様の神へと昇格したって事だ。


「ふふ、ですがやはりあの子より……お日様の神であったと見抜かれたペド様の方が凄いのですけどね」

「貴き方がただの人間の子に劣る訳がありません」

「そんな事よりネギを食うわよ」


 そうこう話してる間にネギが良い感じに焼けてた。

 だが食うにしてもどうするのだろう。


「そのまま何も付けずにご賞味ください」

「素材の味で勝負とな。その自信、嫌いじゃない」


 では食わせてもらおう。ヒノモトブランドのネギとやらを。


 七輪から熱々のネギを取り、観察してみる。

 まあ、ネギだわな。匂いもネギ。味はどうなんだろうかと。


「むぐ……ぬ、ぬぬっ。甘い、だと」

「通常のネギより多く水分を含んでおります。その水分から甘みが出てるのです」

「理屈は分からんが美味いのは分かった」

「次はこの茹でたものを酢味噌に付けてどうぞ」


 何だその美味そうなヤツ。

 焼いたり茹でたり生でもいけそう。万能だなネギ。


「……美味いな酢味噌とやら。意外とサッパリしてるわ、甘いけど丁度良く、酸っぱくもなくこれまた丁度いい塩梅」

「酢味噌は家庭や味噌によって違いますので、復興した暁には色々なお店で食してみるといいですよ」


 なるほど、この味はさしずめてんてり味という事か。

 ただ何と言うか味が濃い。ヒノモトは濃い味付けが好きなのだろうか。


「時にペド様、実はここに招待した目的は御礼の他に別にあるのです」

「何よ」


 変な要求じゃなかろうな。

 そんなちょっと警戒してる私に対し、何やらゴソゴソと取り出したのは……


「ペド様、いえふぃりあ先生……この本にサインくださいっ!」

「神が私が書いた本を持ってるとかどういう事よ」

「これはお友達に買ってきて頂いたものです。昨日徹夜で読破させて頂きました」


 寝てた理由は徹夜で桃女郎読んでたからかよ。何て素晴らしい奴なんだ。

 そこまで私のサインを熱望するなら書いてやるのも吝かではない。


 しかしヒノモトまで進出していたとは桃女郎はじまったな。


「ふ、書いてあげたわ。後生大事にするといいわ」

「おお、有難うございます……」


 サインとやらを書いて返してやると、喜びが溢れた顔から真顔になった。


「これは?」

「サイン」


『おならぷぅ』


 我ながら達筆で書けたと思う。

 普通ならさぞかし感激してるだろうに、てんてりはどこか不満そうだ。


「何か文句でも?」

「いえ、サインどうこうは関係ありません。どこかでヤンデレがわたくしに対して大笑いしてるようで」

「意味わからん」

「まあ御気になさらず……はっ!言葉はともかく、これはペド様が初めて書いたサインですよね!?」

「まあそうね」


 肯定してやると一変して破顔した。

 何がそこまで嬉しかったのやら……


「何がって、ペド様、いえふぃりあ先生初のファンに向けて書いたサイン?第一号ですよ!それを頂いたのは何を隠そうこのわたくし!……ハッ、ハハンッ!!」


 テンション上がって上機嫌になったてんてりは、誰に向かってかは不明だが明後日の方向を向いて勝ち誇ったように鼻で笑った。


 すると何やら黒いモヤの塊が何処からとも無く飛んできててんてりを襲った。

 と言ってもてんてりに当たる前に消滅しているのでこ奴は無傷である。


「何か飛んで来てるんだけど」

「御気になさらず。ヤンデレ特有の嫉妬で呪い攻撃です」

「御気になるわ」


 こんな呪いが色々な方向から飛んでくる空間に居られるか、私は帰るぞ。

 一応みみみに守られているから安心ではあるけど。


「く、意外と本気で撃ってきやがりますね。申し訳ありませんペド様、少しでも気を抜くとやられそうなのでお見送りは出来そうにありません」


 神を苦戦させるとはヤンデレとはかくも恐ろしい存在である。

 そもそも見送りとか不要なので巻き込まれる前にさっさと出るとしよう。


 そうだ、後でサユリにあのネギ売ってるか聞こう。






 ウチの連中とサユリ達ヒノモトの連中が集まってる場所に戻ると、何やら真面目そうな会議をしていた。

 兵士共が慌しく動いてるのを考えるに問題が発生したという事か。


「何があったの?」

「お帰りなさいませお母さん。どうやらヒノモトに潜んでいた間諜が逃げ出したようで」


 逃げたとな。サユリ達が間諜と気付いた事に相手も気付いたのか?

 だが逃げたもんは仕方ない。それより地図を見ながら何を唸っているのか。


「逃げた間諜はホウライという文官だそうで。4年に渡りヒノモトに仕えており、国内の区画整理などにも携わったようで」

「その情報が何よ」

「もしかしたら、町中に何か仕掛けている可能性もある、という事です」


 聞けばソイツは妙に区画整理に御執心だったそうだ。

 現在の道の広さや施設の位置などはソイツが指示して形にしたものらしい。


「それで怪しい場所が無いか調べてると」

「そう言う事よチビっ子。真面目に話してるから構ってる暇はないの」

「……やれやれ、その地図、試しに逆さにしてみなさい」


 私がそう言ってやるとヒミコが素直に見ている地図を逆さにした。

 それを改めて目を凝らして見る面々。

 しばらく無言で見続けていたが、諦めたのかサユリが話しかけてきた。


「サッパリだわ。逆さにしたらどうだっての?」

「特に意味は無い」

「なら何で指示した」

「分かった風な口聞いたら構ってもらえると思って」

「よし、すっこんでろ」


 あぁん……


 すっこんでろと言われたら大人しく引っ込む私だが、何処に行けと言うのか。

 とりあえず話しに参加してないマオ達の所に行くか。


 同じくすっこんでると思われるのはマオとマリアとメルフィ。

 メルフィは頭良さそうに見えるが、呪い関連以外は知識少ないからなぁ。


「ようこそお姉ちゃん。役立たずの集いへ」

「この私が馬鹿のコミュニティに仲間入りしなきゃならんだと?」

「甘いわリーダー。馬鹿だろうが馬鹿じゃなかろうが役立たずは役立たずよ」


 その役立たずの集いにはフィーリア一家しか居なかった。悲しいなぁ……


「まあ待ちなさいって。何もあたし達だってこのまま馬鹿で終わるつもりはないわ」

「そうですっ。皆さんより先に謎を解明するんです!」


 馬鹿云々より先に気付く事があるだろ。

 何でヒノモトの問題にアルカディアの面々が参加してるのだ……ウチと全く関係ないじゃないか。


「あたしの考えを聞いて。この世には三大災害ってのがあるじゃない、地震、雷、火事、親父っての」

「4つあるです」

「いいじゃない。5人揃って四天王と一緒よ」

「なるほどですっ」


 なるほど馬鹿だ。


「まず地震……これは大精霊かリーダーくらいじゃないと無理か。雷は、まあサンダーって魔法があるけど結界で防がれるだろうしこれもない」

「となると火事」

「そう言う事よメルっち。この地図を見てあたしは気付いた。一定の間隔で鍛冶屋とか料理屋とか燃えやすそうな施設があるじゃない、これはきっと次々と延焼させるつもりなのよ!」

「おおっ!」

「それっぽい」


 正直驚いた。

 馬鹿のくせに良い所に目を付けている。


 実際の所、火災って手段はかなり使える。

 いたる所で火災が発生し、さらに延焼して大規模な火災になったとしたら消火の為に結構な数の戦巫女が動員されるだろう。


 ある程度数が減ったのならヒノモトの防壁を打ち破るのが楽になる。


「あ、あれ……意外と好感触?ごめんね?馬鹿じゃなくて」

「敵が火事を狙っているとは思えません。火災が延焼しない様に建物と建物の間には十分なスペースがありますし、何より消火用に各家庭に大量の水が出る符が常備されています」


 間に入ってきたミコちゃんによってマリアの説は否定された。


「カオルさんも役立たずの集いの仲間です?」

「いえ、お客様であるアルカディアの方々を放置する訳にはいきませんので私が付く事になりました」


 遠まわしに馬鹿ではないと言いたいらしい。


「ま、執拗にこの国を欲しがるって事は神のおかげで豊かなこの国の資源が目当てなんでしょ。燃やしてダメにする馬鹿はいないわね」

「となると、残るは親父か……ねえねえ、親父で何するつもりか分かる?」


 分かる訳ねぇだろ馬鹿。


 残念ながら本当に馬鹿なのでコミュニティメンバーは如何に親父でヒノモトを脅威に陥れるかを考える始末。悲しいなぁ……


「そういえばさぁ、こっちが後ろに居るのに気付いてない時に限ってデカいくしゃみする親父いるじゃない?……あれって無駄に驚くから腹立つわよね」

「ああ!わかりますっ!びっくりしますよねっ!」

「もう考えるのを放棄しやがった」


 よそ様に自慢出来ない奴等である。


 まあ、ある意味正解なんだろうが。

 考えるだけ無駄な事なのだ。


「お姉ちゃんは何か分からないんですか?」

「特に意味無し。サユリにも言ったけど私の考えではこれが正解なのよ」

「どういう意味?」

「そのまんま。どいつもこいつも深く考えすぎなのよ」


 それなりに頭の良い奴の弊害である。


 相手は何だ?

 間諜、というか密偵だ密偵。


 密偵の一番の仕事が何だか考えろっての。


「一番の目的は情報。集めるには上層部にいけばいくほど集まる。そうする為には?……出世すればいい。逃げた奴は優秀な文官だったんでしょう。それを密偵として送り込んだ。区画整理なんて、ただの出世する為の手段にすぎない。ま、関われば詳細な地図も覚えられるって考えもあったかもしれないけど」


 功績を上げれば上げるほど重要な仕事に関われる。

 そして城勤めするまでになった。

 ただの下っ端では知りえない情報も知る事が出来るだろう。


「恐らく神の情報が第一だったんでしょうね……てんてりが現れた途端に消えたし。実際に姿を現した事で相手がどう出るか見物だわ」

「今から追いかけて殺せば相手の国に伝わるのを阻止できるんじゃない?」

「無理でしょ。もうすぐハン国とやらにも伝わると思うわ」

「え、何で?」


 てんてりが姿を現したのはついさっき。

 だが時間で言うとすでに1時間以上は経ってるだろう。それだけあれば手紙を用意し、国に送るくらい出来る。


「そうなの?メルっち」

「なぜ私に聞く」

「良かった。分かってないのがあたしだけじゃなくて安心した」

「まあ普通は分からないでしょうね。私の見立てでは昨日見た魔物使い、あれも潜入した敵だわ。空を飛ぶ魔物を使って手紙のやりとりをしていた、ってのが私の考え」


 わざわざハイリスクな魔物を家畜として飼うとかおかしすぎる。

 それを許可したこの国もおかしいが。


「というのが役立たずの集いが考えた結論よカオルっち!」

「お前等ただの馬鹿だったろ」

「見事な考察でございます。ヒミコ様達にもお伝えしておきます」


 正解不正解は分からんのだがな。


 にしても……相変わらずあちらで熱い討論しているヒノモトの連中を見て思う。

 ヒノモトとやらは400年続いてる割に存外に脆い。


 戦力に関しては何も問題ないのであろうが、頭の方はどうなのやら。

 今まで神頼みでやってきた感が半端ないのだが。

 てんてりが過保護すぎてヒノモトの奴等がだらしなくなってるのかもしれんな。上の連中が若いってのもあるかもしれんが、それでも私よりは年上だ。


 まぁ他国の心配なんてしたって仕方がない。

 私達が観光するまで存命してくれてればそれでいい。


 さて、関係ないくせにしゃしゃり出て色々と意見出してるユキ達を回収して帰るとしよう。

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