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幼女、城に出向く

 一泊してから旅館を出ると、そこには馬車が無かった。


「ウチの馬車とは数ランクほど低いであろう馬車が見当たらないんだけど?」

「停車出来る場所は決められておりますので」

「お姉様の無意味な暴言をスルー出来るとは中々見所ありますよ」


 なんだ、決められた場所までは結局徒歩で移動しなきゃならんのか。

 私は歩かないから別にいいんですけどー。


 歩いていると作物が育った様子が見られない畑がちらほらと見えてくる。

 ただ単に植えたばっかで育ってないんじゃないかと思ったが、ちょろっと芽が出てる謎の野菜が枯れそうになってるのを見てやっぱ災厄のせいだわと確信した。


 その枯れた野菜の前で農家だろう数人の人間が何か喚いていた。


「土も水も日当たりも以前と同じく出来ていたのに何で枯れるんだ!」

「やはり呪われているんじゃないか」

「天狗じゃ!天狗の仕業に違いない!」


 ふむ、天狗の仕業らしい。


「サヨも隠れてえげつない事するわね」

「何もしておりませんが」

「てんぐこわーい」

「くっ、災厄の影響と知っておられるくせに!」


 しかし何処から天狗なんて単語が出てきたのだろうか。

 もしやこの国は原因不明なモノはとりあえず天狗のせいにしてるのでは?


「我が国では天狗とは畏怖の象徴ですから」

「ほほぅ、天狗の野郎はこの国で何かしでかしたの?」

「いえ、ただ急に現れた天狗と言う妖怪の名を語った何者かはこの国の戦巫女装束を纏っていたようでして……その者が亜人達を導き知恵を与え、人間達に反旗を翻させようとしていたともっぱらの噂になっております」

「そんな話もあったわね。戦巫女ってなに?」

「この国の戦闘を得意とする巫女達です。私の穿いている赤い袴と違い、青い袴を穿いているのが戦巫女です。それを天狗とやらが纏っていたみたいでして、おかげで我が国の陰謀か何かでは?と大国から睨まれる始末……民はいつか危険視した大国がここを攻めてくるのではと戦々恐々としているのです」


 なるほどな。天狗とやらのせいで知らぬ間にヒノモト滅亡の危機であったのか。

 紛らわしい格好して修行時代に恩のあった国を危機に晒すとか天狗最低だな。


「天狗最低だな。声に出して言ってみた」

「言わなくて宜しいです」

「そちらのサヨ様もこの国の戦巫女であったと思われますが?」

「私は戦巫女などではありませんが……単に売ってあったのを買っただけです。そもそもこの国の出身じゃありませんし」

「売ってあんのか。紛らわしい奴が出てくるのはそのせいじゃない……やっぱサヨが悪いな」

「なぜ……」


 着なきゃ良かったんだ。

 そしてノーパンにならなきゃ尚良かったんだ。

 む、という事はこの国にはノーパン痴女がわんさか居るのか?


「売ってあった、ですか。おかしいですね……戦巫女装束は市販での売買は禁止されてる筈なのですが」

「パチモンじゃないの?」

「確かに他国で似たような服が販売される事もあるみたいですが……サヨ様の着られている巫女装束はウチで生産された物に間違いありません」


 他所の奴と区別出来る目印でもあるのか。

 と思ったが単純に生地の違いらしい。ミコちゃん達が着る巫女服は妙に厚い生地してて丈夫なのだそうだ。

 嘘か真か安物の刃物なら切れないらしい。何の素材使ってるのだろうか。


「天狗とやらも本物の服だったの?」

「いえ、実物を見ていませんので何とも」

「恐らくその天狗とやらはパチモンの衣装だったに違いありません。間違いないです」

「必死だな」


 まぁ天狗はもはや居ないからいいか。


 話も終わって再び馬車のある場所へと向かっていると、何か臭い匂いがした。

 なんだっけか、何かの動物の飼育小屋がこんな匂いだったか。


 ちなみに調べるまでもなくコケコケ言ってるから鶏だと分かる。

 ふむ、肉はまだある様だな……?


「……魔王!魔王じゃないか!」

「はい?」

「いえ、マオさんではなく魔王かと。どうやらいつもの鶏のようです」

「魔物ではないか……そんなもの飼育して大丈夫なのか?」

「あそこは魔物使いの方が飼育されてるのですよ」


 魔物使い……もっきゅん使いである私等の同業者か。

 あえて普通の鶏ではなく魔王を飼育しているのは何故だろうか。


 いや、理由などどうでもいい。


「我が天敵たる魔王が何たる醜態……!」

「そろそろ天敵卒業してもいいのでは?」

「馬鹿者、宿敵はどれほど実力に差が開こうとも宿敵なのよ。それがこんな人間に飼われるとは何と無様な……ただの鶏と違って羽ばたける力があるというのにそれでいいのか魔王達よ!」

「何煽りだしてんの!?」


 私の真摯な願いが通じたのか、一瞬静かになった小屋からコケーっと魔物らしい咆哮が聞こえた。

 同時にガンガンと小屋を破壊しようと魔王共が騒ぎだしている。

 うむ、外へ脱出するのも時間の問題だろう……


 というかすでに屋根が破壊されて出て行ってた。


「それでいい」

「よくないから!何やってんのこの幼女!?」

「私はただ道端でカッコよさそうな台詞を言っただけよ」

「罪から目を背けるつもりだわ!」


 やかましい。

 ほれ、何か騒ぎに気付いた住民達が逃げ始めたから私達も便乗してずらかるぞ。

 奴等もやはり魔物、手当たり次第に攻撃しておるわ。


「何だこれは……!なぜ急に暴れだしたんだ!!」

「このすっとこどっこい!だから魔物を飼育なんてやめろと言ったんだ!」

「てめぇただでさえ嵐で滅茶苦茶だってのに余計な被害出しやがって」

「この損害は全ててめぇが払うんだぞ!」


 どうやら例の魔物使いも騒ぎに気付いて駆けつけたらしい。

 駆けつけた瞬間に集中口撃されてた。


 よし、私の罪を擦り付けられたぞ!


「幼女最低だな」

「私は何もしてないじゃない。ただいつの間にか奴が罪人に仕立てられただけよ」

「お姉様の犯罪行為はこの巫女さんがバッチリ目撃されてるのですが」


 ふ、世界に祝福された私をどうこうするなど出来まい。


 だが仕方ない。

 やたらと私を見る目がジト目に変化しているのでここらで一肌脱ぐとしよう。


「天狗よ!天狗の仕業に違いないわ!!」

「天狗だと!?」

「やっぱり天狗か!奴はヒノモトの疫病神に違えねぇ!!」

「天狗最低だな!」

「だから天狗の討伐依頼を出せと言ったんだ!」

「あれ、天狗って死んだんじゃなかったっけ?」


 よし、天狗が罪を全て被ってくれる。これで安心だな!

 更に何かしでかしても天狗のせいにしておけば大体大丈夫だという事が分かったのも有り難い。


「お姉様……」

「天狗最低だな」

「あんただよ」


 いつもながらマリアのツッコミは遠慮がない。

 しかし天狗の仕業にして魔物使いを助けてやったってのにジト目が治っていない……摩訶不思議である。


「皆様、あそこに見えますのがこれから私達が乗る馬車にございます」

「我関せずのミコちゃん素敵。にしてもやっと馬車か」

「カオルさんが寛大で良かったですね」


 そういやこのミコちゃんカオルという名前らしい。

 まぁミコちゃんの方が分かりやすいからミコちゃんでいいな。


「あの程度の魔物ならすぐに鎮圧されますので……あの通り」


 ミコちゃんに言われて振り返ると、魔法らしきものに次々と打ち落とされている魔王達の姿が見える。

 飛ぶだけあってバラバラに行動していたのにあちこちで打ち落とされてる様を見るにこの国には魔法使いが多々いるようだ。


 格好を見るにサヨと同じく青い袴とやらを穿いている。あれが戦巫女って奴等なのだろう。

 すぐに駆けつけ敵を殲滅している辺り優秀なようで。


「この辺りに常駐しているのは魔法使いではなく符という魔法を込めた特殊な紙を使う術使いがほとんどです」

「ほー、魔法を込められるとか符術ってのは凄いのね」

「驚きの白々しさ」


 今度はメルフィにツッコまれた。

 折角知らないであろう私達に説明しようとしてくれてるんだから知らないテイでいくのが優しさってもんだろ。


「知っておられるみたいですね。という事はサヨ様は符術を使える戦巫女でございましたか」

「使えますが、戦巫女じゃありませんから」

「しかしもう鎮圧されましたか、被害が大きかったのはあの小屋だけで済みましたね」

「符術とはいえ、要するにこの国の兵は魔法使いが多いという事ですよね?……アルカディア程とは言いませんが武力の高い国です」


 全くだ。五丁目に魔法使いなんて何人居ると思ってるんだ。

 いや、魔法使いは数人だろうが、ヨーコ達という人外が居るから五丁目も何だかんだおかしな町である。


 馬車に乗ってからは特に騒ぎは起こさず進む。

 というかウチの連中が目で騒ぎは起こすなと訴えてくるのだ。何て失礼な奴等だ。


 しかし遅い。ぺけぴーと違って普通の馬だからだろうが速度が遅すぎる。

 これでは到着がいつになるか分からんな。


「夕刻が到着予定時間となっております」

「あと6時間近くかかるじゃん」

「五丁目より広いですからね」

「もう町の広さは徒歩5時間までに決めた方がいいと思う」

「それだと狭すぎでしょう」


 十分広いだろうが。学生時代、たかが一つの町のくせに広いせいで私は寮住まいだったんだぞ。

 あの他人が犇く魔窟に強制的に住まわされる絶望を知らんから言えるのだ。


 する事ないので馬車から外を眺めているが、不思議な事に近くに建ってる家同士なのにやたら壊れてる家もあれば軽微で済んでる家もある。

 造りとしてはほぼ一緒だろうにこの差は何なのか。


「被害が大きいのは防災を怠った家になります」

「防災?」

「簡潔にお伝えするならば、障壁を張ったか張ってないかの違いとなります」

「障壁……つまり結界ですか。ただの一般人が結界なんぞ張れるのですか?」

「はい。この国には符術がございますので。値段は高いですが、戦争が続く国ですので万が一の為の防衛というのが本来の役目になります」


 金で命が買えるんだから安いもんだ。

 それより一般人ですら結界符を常備出来るとか小国のくせに贅沢な国だ。


「この国ならすぐに戦争など終わらせられそうですが、一体どこと戦争をしているのですか?」

「ハン国という隣国になります。ヒノモトより歴史は浅いですが、250年ほど存命している小国です」

「それはそれは……それですともう長年戦争してそうですね。何で滅亡させないのですか?」

「ハン国自体はどうとでもなりましょう……しかし、あの国はフィフス王国が後ろ盾になっておりまして、総被害を考えますと迂闊に手を出せないのです。ハン国を手に入れても旨味がございませんし」


 大国が小国の後ろ盾になってんのか。

 何でそんな妙な事になってるのかと尋ねれば、ハン国を建国したのがフィフス王国縁の者だからだそうだ。

 それも親しい貴族に公爵がいるらしい。


「竜騎兵でも出てこられたら確かに厄介ですね」

「単純に質より量で攻められるでしょう。確かに下手に打って出られないですね」

「ふーん。でもリーダーがヒノモトの後ろ盾になったらフィフス王国とかビビッて手を引くんじゃない?」

「確かに」

「貴き方の威光には人間達も恐れ慄くという事ですか、素晴らしい」


 私の名を利用しようとは図々しい。

 後ろ盾とか面倒なもの誰がやるか。しかもヒノモトとか何の恩もないじゃねぇか。


「フィフス王国が出しゃばらなければすぐに戦争は終わるんですか?」

「そうですね、歴代のハン国王は250年続くだけあって優秀な者達ばかりでした。こちらからすれば厄介な相手という事ですね。しかし一族が代々王を務める国です、立て続けに優秀な者が生まれる訳がありません」

「つまり、今の国王は愚王と?」

「歴代最低と想定されます。こちらから仕掛けて潰すのは容易いでしょう」


 滅ぼすなら今って事か。

 だが残念な事にろくな食料が無いから攻めるに攻めれまい。

 あちらさんは何故か戦を仕掛けてきてるようだが、何処にそんな食料があるのやら。


「まぁこの食料難の時代に先を考えず戦をする考えなしの馬鹿です。余程の無能なのでしょう。放っておいたらクーデターで滅亡してても不思議ではありません」

「その無能は何て名前?」

「ミコスリ・ハン王です」

「酷い名前もあったもんです。親は何を考えて将来の王にそんな名前を付けたのでしょう」

「お母さんよりも上が居ましたよ。それに比べたらお母さんなんてそれなりに普通です」


 ……ふむ。

 それなりに普通とか割と暴言吐かれた気がするが……そんな事よりもだ。


「何がそんなに酷いの?」

「え……」

「ミコスリハンの何がどう酷いのか分からん」

「……姉さんのせいでピュアなお母さんが変な言葉を覚えてしまいそうになったじゃないですか。訴訟ものです」

「あんたもノッてきたでしょうが」


 私の他にもマオもルリもメルフィもみみみも分かってないらしい。

 マリアは知らないフリをしていた。私にバレないとでも思ってるのかピュアじゃない奴め。


 結局詳細は教えてもらえず、男として可哀想な名前という事だけ教えて貰った。

 それを言ったら私だって女として大概可哀想な名前ではないかと思う。


 で、何だかんだ話している間に結構な時間が経っていたらしく、ミコちゃんから間もなく到着すると伝えられた。

 私が昼寝もせずに会話に参加するとか快挙じゃなかろうか。

 まぁこんな座る場所は柔らかい敷物があるが、馬車自体がやたら揺れて五月蝿いから寝られたもんじゃないが。


「あれがヒノモトの城ですか」

「変わった形をしてますね」

「でも何か複雑そうな造りしてますよ」

「わたし、こういうのマリアさんから貰った教科書で見ましたっ」

「へー、つまり異世界の城か」


 その城とやらは特に嵐の被害が無いらしい。やはり最重要施設だから結界も何重にしてたのだろう。

 他国の城と違って何の素材か分からないので壁は何を使ってるか聞くと、意外にも土壁と言われた。

 瓦を使用してるのは民家と同じだ。

 ただ上だけじゃなく、途中にも瓦で出来た屋根があったり意味不明である。見た目が良くなるからああしてるのだろうか。


「脆そう」

「そこは魔法で補強しておりますので。どうも初代国王が土壁に拘ったらしく……異世界人だったとの事で故郷の城を真似されたのかと」


 まぁいいけど。


 門の前には当然ながら兵が。

 ただ装備が変わっている。あれも異世界独自の鎧なのだろうか。

 兜に角っぽいのを付ける意味とは一体。


「門番は戦巫女ではないのですね」

「そうそう数が居る訳ではありませんので」


 馬車から降りてミコちゃんを先頭に城の中に入る。

 槍を持った門番は特に何を言うでもなく、前を向いたまま頭を下げるだけだった。


 これが大国だったらミコちゃんはともかくお前達は何者云々なやり取りがあっただろうに。


「おお、何だか良く分かりませんが綺麗な庭ですよ」

「確かに何だか良く分からないけど妙な庭があるわね」

「枯山水にございます」

「カレー三昧」

「勝手に食ってろよ」


 食欲旺盛なメルフィは置いておいて、通路の横にある何だか分からないモノが枯山水らしい。

 水を使わず川というか自然を表したモノなんだと。水を使わない意味は知らんが、荒らしやすそう。


「足跡つけたい」

「ダメでしょ」

「鑑賞は後にして、もうすぐ夜になりますし早いとこ偉い方に会いましょう」


 確かに。もうすぐ夕食の時間だし、きっと私達にヒノモト料理を振舞ってくれる事だろう。

 キャロットの知らない料理だといいな。


 この城はどうにも4階建てらしいので、馬鹿と偉い奴は高い所が好きという事で上まで行かなきゃならんのかと思ってたが、どうやら1階が偉い奴等の集まる場所みたいだ。


 何とも珍しいが、どうやら何かしらの事情があるそうだ。その辺は実際に見てみれば分かるか。


 ミコちゃんに案内され、通路を進んでいくとある扉の前で立ち止まった。

 この奥にお偉いさん方が居るって事だ。


「この先にこの国での最高権力者であらせられるヒミコ様がおられます」

「ヒミコ?……なんか巫女っぽい」

「大巫女様と呼ばれてます。主神様の神託を授けられる唯一のお方です」


 巫女のくせに一番偉いのか……この国には王とやらが居ないらしい。

 珍しい国である。


 まぁいいや、さっさと会って用件を済ませるとしよう。

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