幼女、みかんを食べる
「不愉快」
「でたー、でましたわー、帰って早々リーダーの不愉快がでましたわー」
ぶちのめすぞアホマリア。
「おいサヨ助、ヒノモトに転移出来ないってのはどういう了見よ?ああん?」
「どこのチンピラですか。仕方ないじゃないですか、魔物どころか魔法すら弾く結界が張られてるんですから」
「多少は大きいとはいえ小国ですよ?何でそんなに大規模な結界が張れるんですか」
「流石に常時張れる何て事は無かったです。要するに現在ヒノモトは戦の真っ最中なんでしょう」
また戦争か。
滅多にないとか嘘っぱちじゃないか。
「いやいや、話題にはなりませんが小国同士の戦なんてそりゃもうしょっちゅう起こってますよ?」
「そういや前にそんな事聞いたわね。小国はしょっちゅう小競り合いしてるって」
「ウチも攻められてるしねぇ」
「小国が大国になるには戦で勝って吸収するのが手っ取り早いですし」
「吸収ねぇ……まさかとは思うけど国民丸ごと吸収するとか言わないでしょうね?」
「そのまさかですが」
何それアホみたい。
そんな事してるから災厄の好物が生まれちまうんだ。
「吸収したけりゃ敵国の住民は皆殺し、これを定着させるべきだわ」
「まぁ、そうすれば無用な負の感情は湧きませんけど」
「流石は貴き方です」
「またヨイショするだけの人が増えとる」
というか話が逸れとる。
問題はヒノモトに入れませんって事だろうに。
「ちゃんと手続きを取って門から入ろうにも時間がかかるでしょうしね。具体的には終戦まで」
「待ってられん」
「というかヒノモト料理食べたいだけならキャロットに作ってもらえばいいじゃん」
「キャロットが作ったら何でも美味しいじゃない」
「何がいかんのじゃ」
「たまには出店で出てるようなチープな味が食べたい」
「わかる」
分かっちゃったよ。
ただしそれはメルフィ一人だけだったようで他のメンバーはこの人面倒くさいって感じで見てきた。何て女郎共だ。
さて入国方法だが、魔法がダメならドラゴンにでも乗って上空から降りればいいんじゃないかと思う。
「貴き方、私に命じて頂ければその相手国を数分で壊滅して差し上げましょう」
「そこまで恩を売るつもりないわ」
「災厄でも元災厄でも過激さに変わりないじゃないですか」
「その元災厄という呼び方何とかなりません?他所では迂闊に呼べないのですが」
それは私に対して名前を考えろというフリなのだろうか。
ほほぅ、よかろう、過去にニボシという素敵な出汁になりそうな名前を名付けた実績を持つこの私が元災厄にも命名してやろうではないか。
よし、入国方法の前にいっちょ一仕事やってやるか。
「大変よ、リーダーが何か乗り気だわ!」
「今度はコンブですかねー」
「だまらっしゃい」
「貴き方に名前を頂けるのでしたら例え出汁っぽい名前だろうが喜んで受け入れますけど」
「やめときなさいな」
ふ、愚かな……このグラマラスで痴女スタイルの元災厄だぞ。
ここはギャップで攻めるとしよう。という事は可愛い系だな。具体的には「え?その見た目でそんな名前なの?」って感じのヤツだ。
「そうねぇ……ヲ、ヲ……」
「出だしが最悪だわ。残念だったわね元災厄」
「ふ、浅はかねマリアは。冗談に決まってんじゃない」
「嘘くさっ!?」
そうか。ヲで始まっちゃダメだったか。
ニボシみたいに世界で一人しか居ない様な名前にしてやろうと思ったのだが。
お?
何か良い名前が思いつたぞ。しかも可愛いヤツ。
「みみみ」
「?」
「だから、みみみ」
「……それが名前ですか?」
「そう」
「まぁ、何と素晴らしい名前なのでしょう!出汁になりそうな名前より遥かに素敵です」
「お前、表に出ろなのです!」
本人が絶賛してるのなら決まりだな。
いやー、我ながら良い名前を考え付いたもんだ。
「ミミじゃダメなの?」
「そんなありふれた名前で何が面白いのよ」
「面白いとか言っちゃったよ」
「まぁまともな方だからいいじゃないですか。改めて宜しくお願いしますみみみさん」
和んだ所で話題を戻した。
しかし私のドラゴンから急降下案は却下された。普通に敵襲と勘違いされるし、結界に弾かれないという保障が無いからだと。
もう強行突入しか残された手は無さそうだしいいじゃないか。
「まぁまぁフィーリア様、帰ってきたばかりで即旅立ちでは私達も寂しゅうございます。数日くらいはのんびりしてもいいじゃありませんか」
「十分のんびりしてるじゃない」
「そうだお姉様、一つ目ちゃんが育てていたミカンが実を付けてましたよ。キキョウさんの言う通り数日はのんびりして自国で育った食材に舌鼓をうつのも一興ですよ」
ミカンとな。もう春だぞ、季節感がまるでないな。
しかし自国で育った食材という事は複数あるという事だ。
実際にミカン以外に苺やら桃やら果物系から白菜やらレタスやら茄子やら季節を無視した食材が立派に育っているらしい。
旬とは一体。
「というかミカンって木になるヤツでしょ?何その急成長」
「流石はお母さんの加護と言えるでしょう。我が国では季節、土地、気候、成長速度全てを無視して食材が実るみたいです」
「農家にモテる理由が良く分かった」
ウチで飢饉とか全く関係ないな。
やべぇな世界の加護。もう世界の過保護でいいんじゃないかな?
「そこまで言うなら一先ずウチで育った食材を食う事にしてやるとしましょう」
「それがいいですよー」
「マオもダラけてやがる」
「一ヶ月も暇してましたから。訓練はしてましたけど」
そういう事に決まってしまったなら仕方ない。
外に出て新鮮な食材を見てこよう。いや、かぶり付いて食おう。
という事で一人で一つ目ちゃんが経営してる農園にやってきた。
ユキ達にはみみみと一緒に訓練しておけと言ったので今頃はボコボコにされてる事だろう。
外にはペド教信者と言う犯罪者がいるので一応護衛としてリンは連れてきている。
「一つ目ちゃんは留守か。まぁ広いし何処かには居るかもしれないけど」
ふーむ。実際に見ると旬の時期が違う食材が同時に育ってると違和感しかない。
白菜君、君はいつから春に育つようになったのだ。
とうもろこしに至ってはトゥース王国じゃないと育たないんじゃなかったのかと。
野菜に関しては後ほどキャロットに料理してもらうとして、やはりミカンだな。
「広くて分かりづらい、と言いたい所だけど木がある場所に行けばいいという簡単な話だわ」
ただし幼女の足なので遅い。
やはり誰かに抱っこしてもらうべきだったか。今後は自分で歩くのは室内だけにしよう。
それなりに長い時間をかけてミカンの成っている木に辿りついた。
どうやら植えたと言っても十本程度しか植えてないらしい。まぁ今の所一つ目ちゃん以外に農家居ないし人手不足なんだろう。
「届かん。リン、一つ採ってきて」
届く訳なかった。その辺も考慮しておくべきだったな。
それもこれも一国の女王を一人で外出させる奴等が悪い。
結局リンがジャンプして採ってくれたけど。何て愛いヤツなんだ。
「さて、加護満載で育ったミカンとやらはどんだけ美味いのかな」
「何やってんだお前!!」
いざ食べようと思った所で邪魔が入った。
クソガキっぽい声だなと思って振り返ったらやっぱりクソガキだった。身なり的にただの平民だろう。
この私に対してお前などとふざけた発言をするに余所者だろう。
ガキのくせにペド教信者とか言ったら戦慄せざるを得ない。
「さっさとソイツを元の場所に戻せよ!」
「千切り取ったヤツをどう戻せってのよ、アホか。いやアホよね、あなたアホそうだもの」
「アホな事しでかしてるお前に言われたくないやい!」
「ほう、私が何をしたと?」
「泥棒だ!」
ふむ、自分の国の食べ物を勝手に食うのは果たして泥棒と言えるのか。
確かに一つ目ちゃんには許可を得てないが……
うん、取ったのはリンだから私は悪くないな。
そんな事を考えてたら増援が現れた。今度は大人数名らしい。
「どうしたソウ、声が大きいぞ」
「父ちゃん!あいつ泥棒したんだ!」
「……マジか!?」
ミカン一つぐらいで何を大げさな。
だが私が持ってるミカンを見て驚きから怒りに変わっていく。
「何て事をするんだ君は!この国で育てられてる食材を盗むと君だけじゃなく私達まで連帯責任で死罪になるんだぞ!?」
「重すぎて笑う」
「笑ってる場合か!!」
しかしキキョウもやたら重い罰にしたな。
さては軽い罰だと犯罪をするヤツが多発したに違いない。そりゃこんだけ無防備に栽培してりゃなぁ……このご時勢だ、目の前に無防備な食材があればそりゃ魔が差すわな。
「ともかくそれを渡しなさい!謝れば何とかなるかもしれない」
「それ以上近付くと、このミカンを……食う!」
「どうすんだよ父ちゃん!何か斬新な人質を取られたじゃないか!」
「落ち着け……あれは人じゃないから果実質だ」
どうやら親父の方もそれなりに焦っているらしい。
たかが一般人とはいえ何か面白いからもう少しコイツ等で遊んでみようか。
「何を騒いでいるのです」
と思ったけどもう遊べ無さそうである。残念。
誰かと思えば黒い割烹着を来た天狐だった。確か、色からしてスミだったか。
ウチの奴隷で下っ端とはいえ天狐なので容姿は良い。つまりアホな親子とモテなさそうな大人達は揃ってスミの容姿に顔を赤くしている。
ちなみに私に対しても怒りで顔真っ赤だった。
「こ、これは、その、決して私達がやった訳ではないのですが」
「アイツ!アイツがミカンを盗んだんです!」
「おやまぁ……」
「けどお待ち下さい!あの子はまだ取っただけで食べては……食っとる!!?」
もぐもぐ……なるほど、中々の糖度。だが多少の酸味はある。
一つだけだが種も無いし非常に私にとって食べやすいと言える。
つまり私が一番好きな味に育ったって事か。何と私に甘い世界だろう。
「何食ってんだよぉ!!」
「終わった……あぁ、死罪だ……」
「この国は犯罪にだけは厳しい……きっと見逃してくれねぇ」
何か悲観してる奴等は放っておいて、もう一個……いや、ここには桃も苺もあるのだ。ミカンだけでお腹いっぱいになる訳にはいかない。
まずはそれぞれ一つずつ食して、一番気に入った者を再度食べるとしよう。
「流石は楽園だわ。サヨの為じゃないけど今度はメロンとかもいいわねぇ」
「いいですねー、けど一つ目様だけでは大変ですよ?……たまに私達もお手伝いしてますけど」
「一つ目ちゃんは必ずちゃん付けしなさい」
そろそろ一つ目ちゃんにも部下が必要かもしれない。
いずれ適当な人材を用意するとしよう。
出来る人形であるリンが桃と苺を三つほど採ってきてくれたので試食を再開するとしよう。
「丁度いい所に来たからスミが椅子になりなさい」
「いいのですか?一度やってみたかったのですよね」
幼女の椅子になりたいとは、モテる幼女は辛いな。
それはともかく桃か……これって皮ごとかぶりついて良かったっけか?
普通なら皮は剥くものだが、アルカディア産ならもしかしたら皮ごといけるかもしれない。
「あの……その子は?」
「お咎めは無しですか?」
「というか羨ましい」
「何でアイツだけ許されんだよ……」
一人だけ不敬罪で殺せそうな奴が居た。
やっぱアホじゃないかあのクソガキ……この状態をみれば私はこの国でそれなりに偉い者だと分かるだろうに。
「この方は私達の主様でありこの国で一番偉い方、つまりアルカディア女王陛下であらせられます」
「な、なんと!?」
「何でご主人様が驚くのですか」
「お約束」
スミがそう告げると信じたのか信じてないのか不明だが揃って土下座した。
ふふん、虫けらめが。頭が高いわ。
おめーの事だよ未だに不服そうな面してるクソガキ。
「か、数々のご無礼」
「謝る前に女王に対して不服そうな面してるガキを何とかしたら?」
「こ、こらソウ!何やってるのだお前は!!」
「……わるかった」
適当な謝罪である。
これだから頭の悪いガキは。
ヒノモトに行けなくてイライラしてた鬱憤をこのガキで晴らすとかいかがだろう。
「拷問してぇ」
「ひいぃぃぃぃ!?」
「あまり脅えさせてはいけませんよフィーリア様。彼等は我が国を頼って来たのです、過激な事は犯罪を犯してからにして下さいませ」
「あらキキョウ、過激な罰を与えてるのは貴女でしょうに」
「重くしなければ盗みを働く愚か者が増えて一つ目様に悪いので。しかしフィーリア様お一人だと何か厄介な事になりそうと思って出向いて良かったですね」
ならば最初から一緒に行けば良かったんじゃないかと思うが。キキョウは訓練なんぞしないだろうし。
「しかし食料難の時代とはいえ思い切った処罰にしたわね」
「いえ食料難とはあまり関係ありません」
「そうなの?」
「はい。この国は全てフィーリア様のものです。食べ物を盗んだという事はフィーリア様のものを盗んだ事と同義。そんな許されざる事……死罪で当然でしょう」
重いのはキキョウの私に対する好感度だったらしい。
まぁユキと違って変態とまではまだいかないからいいが。
にしてもウチの奴等はどいつもこいつも心酔しすぎである。私にそこまでの功績は無い……と言いたいが災厄を消滅させたとか凄い功績じゃなかろうか。というか世界どころか銀河初の功績となると凄いなんてもんじゃないな。この国の奴等以外知らないだろうけど。
「やべぇ、今更ながら私ってば凄い」
「当然でしょう」
「ウチのご主人様は世界一ですねー」
「そうでしょう、そうでしょう」
「そんな凄いご主人様がお風邪を引かれては大変ですので神殿に戻りましょう」
「まだあのクソガキに舐めた口利いた相手が一番偉い奴で今どんな気持ち?って煽る仕事が」
「小物臭いのでやらなくていいです」
「うむ」
他の食材については後で持ってきてもらってキャロットに調理してもらうとしよう。
「キキョウ、私は戻る。次は梨とか実ってたら狂喜するかもしれない」
「分かりました、一つ目様に相談しておきましょう」
「戻らないの?」
「そうですね……フィーリア様に舐めた態度を取った事に少々お説教でも。知らなかった様なので死罪は免除しますが」
流石は狂信者、大変よろしい。
伝える事は伝えたのでスミに抱えられて戻るとしよう。
後ろから「何で!?」とか聞こえるが知った事ではない。全ては頭の悪いのがいけないのだ。
☆☆☆☆☆☆
「数日のんびりしたから行くわよ」
「まだ二日も経ってませんが」
「数日とは一体……」
「やかましい。ウチの食材達が美味いのは分かった。ならもうヒノモトでチープな味を求める番でしょ」
「わかる」
分かっちゃったよ。もう分からんでいいわ。
確かにウチでキャロットの料理を食べるのも悪くない、いや大変よろしい。
だがキャロットの知らない料理や知ってても作らない庶民料理だってある筈だ。そういうの食おうぜ。
「門前払いを危惧してるなら抜かりは無いわ。要は強引に押し通ればいいのよ」
「また捕まるじゃないですか」
「身分を明かせば大丈夫でしょ。いざとなったら妖精で脅す」
「これほど性質の悪い小国の王が今まで居たでしょうか」
何とでも言え、と思ったが家主に対して何だその言い草は。
暇な時に調教してやるしかない。
「まぁ1日でも我慢出来ただけマシですよ。仕方ありません、行きましょうか」
「実はあたしも行きたかった!」
「なら私を援護しろよ」
「そこはほら、ガキみたいって思われないように?」
一ヶ月も引き篭もっていたからか腰が重いなコイツ等。
やはり自堕落はダメだ。私が過去に経験しているから間違いない。
小一時間ほど経った頃にようやくアホ共の準備が終わった。
「じゃあ行くわよ」
「では私が門前まで転移しましょう」
場所を知ってるサヨの転移でヒノモトへ向かう。
ヒノモトのお偉いさんに恩を売ったら後は戻って馬車の旅に逆戻りだ。
久方の冒険へ出発である。
「この国を荒らす賊共に天の裁きを」
ヒノモトに到着した私達はたった10分程度で巫女服を着た変な奴に絡まれていた。




