幼女、先っちょをもぐ
まるでお母さんが死んだかの様に話す戯けこと痴女。
万が一を考えてお母さんセンサーを発動させてみるがちゃんと反応している。まぁそんなセンサー無いんだけど。
ただ漠然とまだ生きていると分かる程度だ。
「どうなんですか?ユキの変態センサーなら分かりそうですけど」
「生きておられます。匂いから察するに北の方にいらっしゃるかと」
「匂いとか……変態に拍車がかかってますね」
「じゃあ消滅させたって誰の事よ」
「というか実家じゃなかったのか?何で北に居るのじゃ」
さぁ?
マリアさんの問いに答えるなら勘違いなんじゃないか。
ルリさんの問いに答えるなら知らんがな。
「というかそもそもあんた誰よ」
「普通はまず先にそれを聞きますよね」
「違う。普通は先に名乗るのが常識」
なかなか正論を言いますねメルフィさん。
人の母親を勝手に死んだ事にする様な不届き者にもっと常識無しだと言ってやって欲しい。
「失礼しました。私は元々は災厄だった者です。皆様方とも会ってますよ、その時はユキオという復讐者の身体を借りてましたが」
「作戦会議しますので少々お待ちを」
何の作戦だこの馬鹿姉は。
今の一言で大体は察せるじゃないか。
「どう思います?」
「どうも何も、実家に帰ると嘘ついたお母さんが単身で災厄に挑んで綺麗な災厄にしたって事じゃないですか」
「……貴女お姉様程ではないですか察しがよくなりましたね」
お褒め頂き光栄、と言いたいが姉に褒められてもなぁ……有難みがないな。
「嘘っぱちだったりしないの?」
「ユキオの事を知ってるのですから可能性は極めて高いでしょう」
「言われてみりゃそうだわ」
という事で30秒程度で結論が出たので再び元災厄から話を聞く事にした。
「あの、私の紹介はもう終わりなんですけど」
「短いなっ」
「ふむ。では今後災厄だった貴女はどう行動されるので?災厄が来たら迎え撃つとか私達を守るってのは分かりましたが」
「そうですね……貴女方が危機に瀕するなどそんなにないと思いますが陰ながら見守る事にします」
アルカディアに住む訳ではないみたいだ。
まぁただでさえ星堕としが居座ってるのだから色物の元災厄は要らないか。
けど私には分かる。
どうせお母さんが生きてると分かったら住み着くに違いない。お母さんの人外への魅力チートは半端じゃないのだ。
「それでは、他に質問が無ければ私は次の――」
「……どうしました?」
急に黙ったかと思えば訝しげな表情で北の方を向いた。
「……もう一体の滅びの獣が消滅しました。おかしいですね、まだ生物には倒せる程弱ってなかった筈ですが」
「もうその時点で誰の仕業か勘繰ってしまうのぅ」
「お姉ちゃんの仕業です。わたしには分かります」
お母さんを知ってる方なら誰でもそう思う。
普通の生物に倒せないなら普通じゃないお母さんが倒すに決まってる。
でもそれは奇跡ぱわーを使ったらの話。
今頃に気絶してらっしゃるに違いない……救出に向かわねば。
にしても相変わらず私達の見てない所で無茶をなさる。
「……いえ、貴き方のはずは」
「まだるっこしい人ですね。じゃあ確認に出向けばいいでしょうが」
「その通りです。気絶してるお母さんを回収しましょう」
「それはいいのじゃが、何か騒がしくないかの?」
こんな所に急にスケベ衣装を着た痴女が現れたからでは?
と思ったが違った。
どうやら城の方が何者かに襲われているらしい。
災厄に襲われたばかりだと言うのに不憫な事だ……というかあれって実験体共じゃないか。
「クーデターだわ!これは漲ってくる!」
「ああ、滅びの獣の影響を受けて好戦的になってしまわれたのですね」
「一目散に城を狙う辺り、好戦的というか恨みが強くなってる感がありますが」
「ヨーコさんの怨念です」
「あんだけ恨んでたヨーコさんを素材に使うから……自業自得です」
まぁ、どうでもいいな。
フォース王国がこれで滅亡しようが私達にはなんら関係ない。
「物語的にはクーデター鎮圧に貢献して王様に謁見する場面じゃないの?」
「そんなのどこぞの主人公気取りに譲ってあげればいいでしょう。丁度勇者共がいるんですし」
「そういう事じゃな」
では私達は真偽を確かめるために転移で移動するとしよう。
「待った!!」
「どうせなら俺達も一緒に連れてってくれ!」
そこに待ったをかけたのが五丁目の面汚し達。
「四丁目に行けって言われたから行ったら問答無用で三丁目の奴等と一緒に転移させられちまったんだ」
「帰りはどうすんだって話だぜ」
知らんわ。
「三つの町の冒険者を転移させる程の魔道具があったんですね」
「姉さんの符を大きくした感じのヤツを大地にでも敷いたのでは?」
「かもしれませんね」
まぁどうでもいい。
こんな奴等が帰路に苦労しようが私達は一向に構わない。
そんな事よりお母さんだ。
「では行きましょう。貴女がお母さんと戦った場所はどこですか?」
「前に貴女方と会った場所ですが」
「ならそこに行きますか、転移」
「あれ、ホントに置いてかれちまうぞ!」
「まるでモブキャラの様な扱いだ!」
何を今更。
転移で以前災厄と会った場所までやってきた。
来たはいいが戦闘の跡はあれどお母さんの姿は見えず……何処かへいかれたのだろうか。
「しかし匂いから察するに近くにいらっしゃるはず」
「またですか、いよいよ気持ち悪いですね貴女」
急に姉に暴言を吐かれたが気にせず辺りを探してみる。
道があるのは南側しかないのですんなり見つかるだろう。
果たしてそれは正解で、少し探しただけでお母さんの姿は発見出来た。
見知らぬ女に膝枕されて寝ている、いや気絶している状態で。
「殺しましょう」
「何色々とすっ飛ばして結論言ってんの!?」
「あれは……以前私が調査していたアザレアという奴隷じゃないですか」
「確かに」
実際に見た事あるメンバーが同意しているので間違いないのだろう。
そのアザレアが何故人の母親を膝枕しているのだ。
「ま、まさか本当に貴き方が生きてらしたとは……」
「私達には事情がさっぱりなのでアザレアも交えて説明を聞きましょうか」
☆☆☆☆☆☆
「……ふむ、中々に複雑な話です」
「簡単に言うとお母さんとご先祖様であるアイリス様の意識体、それとアザレアさんであの災厄と対峙したと」
「しかも主殿はワシ達に気付かれる事無くかなり前にアザレアを奴隷にしたというのか」
く、確かに全く気付かなかった。
相変わらずお母さんは隠し事が上手い。
だが災厄を倒した、というか別の存在にしてしまったのはまだいい。
「創造主と、違う世界のお姉様がお姉様を救ったと」
「壮大ねっ!」
「あの創造主が子孫とはいえお姉様の為に身体を張るなど信じられませんね」
「全くじゃ。あの外道に身内とはいえ情けをかけるなど寒気がする」
散々な言われようだが仕方がない事だ。
お母さん同様あの先代も何を考えてるのかさっぱり分からないタイプだし……あの時は消えるとか言いつつ結局消えてなかったしなぁ。
だが何の気まぐれかお母さんを救ってくれた事には素直に感謝しよう。
平行世界のお母さんにはもの凄く感謝する。
「問題なのは次じゃな」
「奇跡ぱわーでリンさんを復活させたお姉様は気絶する事無くぼーっとした何だか良く分からない状態になったと」
「そんでビーム撃ったら気絶したんだっけ?」
その会話だけではまるで意味が分からない。
分かったのはあの耳削ぎ事件の時の様におかしな状態になったという事だけだ。
それでもビーム撃つ様な幼女になる訳ない。
「まぁ推測しますとこの豪華になった奇跡すてっきが原因でしょう」
「つまり考えられるのは奇跡ぱわーを二度お使いになられたという事」
「一度使うとおかしな状態になって、二度使うと気絶するという事じゃな」
「だってマオっち」
何を考えているのかマオさんは静かに目を閉じて聞いていた。
だがマリアさんに問われるとその瞳をカッと開き――
「フィーリア調査団、結成ですっ!」
「解散」
「ひどいっ!?」
マオさんのトチ狂った一言はメルフィさんにバッサリ切られた。
とりあえずマオさんは放っておいて考えてみるとしよう。
ふーむ……奇跡すてっきの強化か。そこまでしないとお母さんが消えてしまったという話なのだから仕方のない事だが、奇跡ぱわーを使うともれなくおかしくなるのは困る。
極太ビームもそれなりに代償を払っただろうが、リンさんを復活させるとかより大きな代償が必要だったろう。
つまりおかしな状態が長引きそうだと言う事だ。
気絶から目覚められても凶悪化してそうで一番被害にあっても良いだろうと言う理由でアザレアの膝枕が続行されている。
「もう訳分からんのじゃ」
「姉さんが起きないと考えても無駄」
「です、ねっ!?」
そうこう言ってるとムクリとお母さんが起き上がった。
ビーム撃ってからそう時間は経ってない。ビームの代償は案外軽かったのか、もしくは代償が軽減されたのか。
そしてリンさんの件を考えるとやはり一度目と二度目の代償は別として扱われていると思われる。
一緒だったらまだ目覚める筈がないから。
つまり……お母さんは未だおかしくなってるという事だ。
「……」
「お、おはようございます?」
何を血迷ったのか姉がお母さんに話しかけた。
案の定ぼーっとした目が姉をロックオンしている。触らぬおかしな幼女に何とやらという言葉を知らんのか。
アザレアの膝枕から起き上がったお母さんはとてとてと姉に近付いていく。
意外と無害かもしれない……いや、耳削ぎという実績を持つお母さんだ。油断してはいけない。
うむ、油断してはいけないのだが……
「ねえねえ、何か抱っこしてーのポーズでリーダーがサヨっちに近付いてんだけど」
「あれは可愛い」
「ですがデレデレしだした姉さんの顔は全く可愛くないです」
「嫉妬じゃな」
おのれクソ姉め……それは私の役目だと言うのに!
そのまま抱っこする事無くやられちまえばいいんだ。
「んひゃあっ!?……ぃぎっ!!?」
おや……
いざ抱っこしようとした姉が何か嬌声を発したかと思えば胸を抑えて蹲ってしまった。
蹲る姉の前に立つお母さんをみれば右手が赤く……
「死んだ」
「うむ、死んだのじゃ」
「心臓を一突き、流石リーダーね」
「何を冷静に言ってるんですっ!?」
ただ一人マオさんが慌てていたがいつもの事なのでスルー。
お母さんの右手は確かに赤くなっているがそれは指先だけの話だ。大した怪我ではないだろう。
そのお母さんは姉から興味が無くなったのか離れてその辺の雪を弄りだしたので今のうちに姉の様子を見るとしよう。
「大丈夫ですか姉さん。手当てするので見せてください」
「っう……結構です。自分で何とかしますよ」
「怪しいので見せてください」
「お断りします」
ますます怪しい……そもそも最初にあげた嬌声は何だったのか。
大体想像は付いているが具体的に聞きたい。
「何で鼻息が荒くなるのですか」
「失礼。少々興奮してしまいました。ですがこの興奮は姉さんの口から具体的に何をされたか聞かないと収まりそうにありません」
「この愚妹は……はあ、簡単に言うと、もがれただけです」
「ほう、ほうほう!一体何をもがれたと言うのです!」
「ですから……って、大体分かってるでしょうが!」
「わかりません!」
「このっ……だから、先っちょですよ!」
おお……あえて乳首と言わず先っちょと言うとは。逆にエロい、見直したぞ我が姉よ。
更に具体的に聞けば姉のちっぱいの先っちょだけもぎ取るという職人技だったようだ。
「大陸最北端、広大な雪原の大地に乳首ハンターは実在した」
「何言っとるのじゃ」
「メルっちも時々変になるよね」
後ろで妙な事を言ってるが姉の治療を見守っていると割とすぐに終わったようだ。
服ごともがれたので先っちょが見れるかと思ったが終始隠して治療しやがったので見れなかった。
お母さんには全裸を晒しといて何で隠しやがるのかこの姉は。
おっと、こうしてはいられない。
姉がこうなった以上私がお母さんを何とかするしかない。
「姉さんがダメなら私がやってみます。決してお母さんに先っちょをもいで欲しい訳ではありません」
「誰もそんな事聞いてません。やられたきゃ黙って死にに行きなさい」
では遠慮なく。
あの姉の嬌声、先っちょをもがれるほど抓られるとか何というご褒美。
普段のお母さんからは絶対にされる事無い所業、今のうちにやってもらうしかない!
無造作に近付く私に気付いたお母さんは雪遊びをやめてこちらに振り向く。
姉の時のように近付いて来ないのは何か悔しいがまあいい。
さあ、姉以上の力で私の――
ズドン、という感じの衝撃が私の腹部に走った。
そして遅れて込み上げてくるモノ。
そのままの状態だとお母さんにぶっかけてしまうので咄嗟に身体をずらした私の判断には賞賛を送りたい。
「ぅえ、ぶふっ……か、は」
おもいっきり白い大地に赤い液体をぶちまけた。
そのまま倒れるとあまりの激痛に震えがくる。
何が起こったのか……目の前に立つお母さんを見上げると私に興味が無くなったのか反転して歩いていってしまわれた。
手を伸ばそうとしたら少し身体を動かしただけで激痛がくる。
「……今度こそ死んだんじゃない?」
「死んでもしょうがないヤツですがね。しかしあれはかなりのダメージがあったでしょう、身体をふっ飛ばさず内部にだけダメージを与えるとは何と言う浸透勁」
「ねぇ、何かおかしくない?……主に背中の形。なにこの出っ張り」
「今のお姉様の一撃で折れた背骨が突き破って出てきてるのですよ」
「うわぁ……」
そんな事になってるのか私の身体は。
というかグダってないでさっさと治療してくれないと死ぬだろ、常識的に考えて。
とか考えていると突然襲ってきた背中の激痛に思わず声を上げてしまった。
「っああああああああぁぁぁっ!!?……が、い、ぃぃ」
「何で急に蹴ったの?」
「治療する前に折れた背骨を元の位置に戻しただけです」
「あのユキ殿がもの凄く泣いておるぞ」
「そりゃ痛いでしょうし」
お、おのれクソ姉……重傷者に対してこの仕打ち、いつか必ず恨みを晴らしてやる。
魔法ではどうしようもないと判断したのかユニクスの血を強引に飲ませてきた。
むせて吐きそうになるが何とか我慢して飲む。
いつも通り速攻性があり少しすれば動いても大丈夫そうなぐらいまで回復した。
起き上がれそうだったのでゆっくりと上半身だけ起き上がってみる。特に問題はなし。
「ふぅ、何とか致命傷で済みました」
「ダメじゃろ」
「私達の場合即死じゃなければ大丈夫ですので」
しかし何で私には腹部パンチなのだ。
非常に納得いかないが、終わった事はしょうがない。
とにかく今のお母さんに興味を持たれたらもれなく被害を被る事は分かった。
ならば正気に戻るまでそっとした方がいいか。
そう結論した所でお母さんの肩に乗っていたリンがぴょんと降りてこちらに向かってくる。
そして何処から調達したのか木の枝を使って雪の上に何やら書き始めた。
『よっぱらい』
「とっぱらい?」
「よっぱらいですよ。しかし何故に酔っ払い」
「もしや今の主殿は酔っておるのか?」
ルリさんの問いに頷く事で肯定するリンさん。
酔っ払いか……だが酔っ払って凶悪になるのはまぁ分かる。酔って理性を無くす奴なんぞ腐るほど居るからな。だが姉の先っちょをもぎ取るほど力が強化される訳がない。
これなら耳削ぎ化してると言われた方がしっくりくる。
「ふむ、聞いた事があります」
「知っているのかサヨっち!」
「ええ、フィーリア一族の者は酒に酔うと歴代の当主達の力を得て強化されるんじゃないかと推測しました」
「聞いた事ないんじゃん」
全くだ。聞いた事あると言いつつ推測を語るとか何言ってんだコイツ。
「いやいや、過去にフィーリア一族の者が同じ様な状態になった事があるらしいのですよ。その当時の当主は一般人並の力しか持たない筈なのに捕縛に来た騎士などを軽々と殺しまわったとか……」
「大事件じゃん」
「初代とお母さん以外にそんな暴れる方も居たのですね」
「聞いた話ですがね……そこから酔うとフィーリア一族の者は凶悪になる、というのが私の推測です」
聞いた話から推測したって事か。紛らわしい。
しかしフィーリア一族の話となると……
「ご実家を調べれば何か分かるかもしれませんね。今後奇跡ぱわーを使う度にああなってしまうのなら対処法くらいは知っておきたいです」
「ふむ……セティ様に聞けば何かわかああぁぁぁっ!?」
急ににゅっと目の前にお母さんの顔が現れたのでビックリしてしまった。
それもぼーっとしてる顔ではなく妙に爛々とした目でより驚いた。
どうやら私のメイド服に飛びついてしがみついた様だ。
そのままだと何なので恐る恐る抱っこしてみる。
よし、大人しくしてくださった。
「おかーさん?」
「セティ様の事ですか?」
「というか喋れたんだ……」
「ほわぁ……紛れもなく貴き方の声。素晴らしい旋律です」
居たのか元災厄。マオさんによればお母さんをうっとり見たままぼけっとしてたらしい。
見惚れていたのか、見所はあるな。
そんな事よりお母さんだ。
物凄く至近距離に居る私は選択を誤ると即死してしまうかもしれない。
とはいえ、お母さんが何を期待してるのかは分かっているけど。
「……これから一緒にセティ様の所にお帰りになりますか?」
「うん」
どうやら正解だったようだ。
この様子ではフィーリアの血筋の者には無害そうなので一緒に連れて帰っても大丈夫だろう。
と、そう言えばいつものリュックを背負っていらっしゃらない。
恐らくご実家に置いてきているのだろう。どうせ取りに戻るのなら丁度いいな。
「では行きましょうか皆さん」
「あたしリーダーの実家とか初めて行くわ」
「貴き方の聖域……!」
「お主も付いてくる気か」
「当然でしょう。貴き方のお側こそ私の居場所です」
こんな大人数で行くと邪魔でしょうがない。
元災厄は来るなと言ってもついてくるだろうし仕方ないとして、アザレアはどうするか……お母さんの奴隷になったそうだし連れて行くか。




