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幼女、環境破壊をする

 再び五体満足で冒険出来るなど諦めていたが、いざどうにか出来るとなると心が躍る。例えその犠牲になる奴が居たとしてもだ。

 ふむ、私もまた生き汚い人間の一人であったという事か。


「順番的にどうしたらいいのかね?やっぱり奇跡すてっきの融合から?」

「それだと貴女に補助が無くなっちゃうじゃない」

「じゃあいっそ同時にやるか」

「適当よねぇ……失敗したらどうすんの」


 平行世界とはいえ仮にも私なのだ。失敗はないだろう。


「確かに万全の状態でやりたいわね。なら丁度いい事にそこに幸運を与えてくれるらしい女がいるじゃない、ソイツの幸運をもらいましょうか」

「ほんと二代目ちゃんに都合のいい世界だこと」

「ただ、事が終われば貴女はその妙な力が無くなって普通の女性になると勘が告げてるけど」

「構いません。むしろ持ってって下さい」

「よろしい。まぁ下手すりゃ不幸を撒き散らすみたいだしね、無い方がいいか」


 何とまぁ……つまりこの場には私を救う為の最低限の手段は用意されてた訳だ。

 確かに私は自分の意思で動いてきたが、結果的に誰かに操作されてたかの様な気持ち悪さだ。


 ポジティブに考えると日頃の行いが良かったって話だ。

 だが私の日頃の行いが良い訳ねぇ。


「苦労かけるわ。もっと軽い代償の予定だったんだけどね」

「代償、ねぇ。私は対価って考えしてたけど」

「似たようなもんでしょ」

「馬鹿ねぇ、買い物と一緒で100ポッケ分の力を使えばその分だけを支払うようなもんだから対価でしょ」


 うん……まぁやっぱり似たようなもんだろ。

 しかし買い物か。私が転移とかで符を補助に使ったりした時に気絶時間が短かったのは買い物で言う所の割引券を使ったって感じになるのか。

 えらい庶民的だな奇跡ぱわー。


「ところで、奇跡すてっきを融合させたらやっぱり今後の代償とかも軽減されると思う?」

「それは間違いないと思うわ」


 マジか。とても聞き逃せない話が出やがったぞ。

 1時間の気絶が今後は半分になったりするのか?


「もしかしたら気絶中に夢が見れる様になるかもしれない」

「ただの睡眠じゃない」

「いっそのこと気絶から鼻血とかにすれば?」

「ビジュアル的にきついわ」

「いいじゃん。酷い対価でも口から摂取し続ければ問題なさそうだし」


 あるだろ。

 鼻血を飲みながら戦う幼女とか斬新すぎて引く。

 というかいい加減私を助けろよ、刻一刻と消えてんだよ。


「良い感じに消えてきたわね。そろそろやりましょう」

「あーあ、もう未来の世界とおさらばかぁ」

「ダンジョンで消える気だったくせに。まぁすぐには消えないわ、短い時間だろうけど意識体としてこの場に残る筈よ」

「それも勘?」

「当然」


 すぐには消えないのなら礼を言う時間はあるって事か。

 先代に礼を言うのは何となく癪だがな。


 別の私は奇跡すてっきを持つと何でか知らんが私の頭にくっつけてきた。


「気にしなくていいわ。この方がこの子もやりやすいだろうからしてるだけ」

「いよいよ私達の体が二代目ちゃんの血となり肉となるのね」

「魔物だけどね」


 言わんで良い。

 だが本当に魔物の肉体を素材にしていいのだろうか、ちと不安である。


「さっきはああ言ったけど、別に肉体をそのまま貴女に譲る訳じゃないから安心しなさい」

「貴女が払う対価を私達が肩代わりするだけなんだから結局は失った肉体が元に戻るだけでしょ」

「なら余計な力とか言うな」

「ふ……貴女も体験してるとは思うけど、奇跡ぱわーはたまに余計な強化をしてくれるでしょ」


 心当たりがありすぎた。

 だが奇跡ぱわーは私、というか一族に甘い。余計な力付けんなと願っていればきっと大丈夫だろう。


「ところで何て願うの耳削ぎちゃん」

「んなもん決まってるでしょ。元気になれーよ」

「……そう」


 うむ、基本だな。どう願うか考えるのが面倒くさい時によくする願いだ。

 いや、だが待て。余計な力が付与する時って大体元気になれと言ってた時じゃないか。


「元気になれえええぇぇぇぇぇっ!!」

「こいつ、合図する事無く急に使いやがった!?」


 違う願いに変えろと言う暇も無かった。もう発動してしまったのなら私にはどうしようもない。

 後はひたすら普通の幼女でお願いしますと願うだけよ……


 お?

 徐々にだが感覚が無くなっていた下半身に雪の冷たさを感じる様になってきた。

 両手、両足も同様だ。

 それに比例して二人の姿が薄くなってきている。


「さみー」

「元通りになってる証拠よ。有難みをかみ締めなさい」

「けど地味ね。もっとこう……眩い光に包まれながら復活するとかなかったの?」

「要らんわ」


 そうこう言ってる内に大分身体の感覚が戻ってきた。

 すでに普通に立ち上がって歩く事も可能だろう。


 不安と期待でドキドキしながら結果を待つ展開なんて無かった。


「大体終わったわ。次は奇跡すてっきの融合よ」

「早いわね。緊迫感の欠片もないわ」

「無駄に緊張する展開よりマシだわ」


 私の身体はもう元通りと言っていい。

 だがこのままでは再び消えていくだけ、なので次に二つの奇跡すてっきを融合させて代償を軽減するのだろうが、果たしてどちらも受け入れて合体するんだろうか?

 というか意識あるすてっきなんだが、どっちの意識が残るのか。


 とりあえず身体が動くようになったので寝たままだが奇跡すてっきを呼び出し、あっちの奇跡すてっきと重なる様に置いてみる。


「いや余計なことしなくていいけど」

「この方がそれっぽいじゃない……お?」


 何かすてっきを持つ手が熱くなってきた……というかあっつ!?

 火傷一歩手前な熱さだったので思わず手を離したが、奇跡すてっきは相手のすてっきとくっついたまま止まっていた。


「おお、でろでろになっていくわ」

「溶けるの!?」

「何て予想外な合体!」


 いやこれ大丈夫か?

 相手のすてっきはどうもなってないが私のすてっきだけ溶けていっている。

 まさか私のだけ消えないだろうな……


「む、溶けたすてっきが私のすてっきを覆っていくわね」

「なんかスライムの捕食みたい」

「この場合ってどっちの意識が残るのよ」


 見た感じだと私が使っていた奇跡すてっきとはお別れって感じだけど。

 すてっき丈夫の羽根も溶けていって残るはほとんど丸い玉だけだ。


「……安心なさい。この世界で生きていたのは貴女の持っていたすてっき、ちゃんと意識はそっちのが残るわ」

「よく分かるわね」

「この子、私の奇跡すてっきがお別れを言ってきたわ。こっちの私と比べればしょーもない人生だったってのに楽しかったと」


 やはり片方の意識は消えるみたいだ。

 何の借りもない奇跡すてっきの犠牲は少々申し訳ない……と言いたいけど道具だしいいや。

 新たな奇跡すてっきとして大事にしてやればよかろう。


「それでいいのよ。ちゃんとこの子を楽しませる人生を送りなさいよ」

「善処する」

「見なさい幼女達、奇跡すてっきが大きくなっていくわ」


 どう見ても玩具だった奇跡すてっきの進化だと?

 まさか格好よくなるのか?あ、大きいと邪魔なのであんまり大きくならない様にお願いします。


 その願いが通じたのかどうかは知らんが、元々のサイズより数センチ大きくなったところで止まった。

 うーむ……何か強化された感があんまないな。


 と思っていたが、デフォルメされた安っぽい造りだった羽根が本に出てくる天使の翼の如くリアルになりすてっきの先端に付いていた玉は……変化無し。うむ残念。


 だが見た目の安っぽさが無くなっただけマシだな。ピンク色は変わらないがちょっと深みのある色に変わったし。


「……成功、よね?」

「ええ、勘だけどもう消える気はしないわ」

「すてっきは何の強化もされてないわけ?」


 さあ?どうだろうか。

 今までは投げても呼べば戻ってくる。あと強固な事以外に特に無かったがもしかしたら知らない強化がされてるかもしれないな。


 ともあれ、こうして復活したのだから起きるとしよう。

 アザレアの膝枕から起き上がり、特に違和感も感じないと分かったところで功労者である二人に向き直す。

 アザレアは空気を呼んでるのか黙ったままだ。


「ありがとう二人とも」

「私は借りを返しただけ」

「私には存分に感謝しなさい」

「はいはい。で、いつ消えるの?」

「まぁせいぜい10分くらいだと思うわ」


 短いな。まぁ災厄をどうこうした私の代償を肩代わりしてくれたのだから仕方ない。


 地面に積もってる雪を手に取ったり、足を踏みつけたりしてみる。

 うむ、以前と変わらずただの幼女だな。良かった、余計な強化はされなかったみたいだ。


「消える前に先代には聞いておきたい事がある」

「何かしら?」

「貴女の旦那ってどんな奴だったの?」

「復活して最初の質問がそれかい」


 気になるじゃないか。あの横暴な先代の旦那だぞ?

 どんな勇者だ。


 すると言いたくないのか先代は露骨に顔を顰めた。


「言いたくなさそうね……まぁ無理には聞かないわ」

「そうしてちょうだい」

「じゃあ質問を変えるけど、アイリスの父親ってどんな奴?」

「質問変わってねぇよボケ幼女」


 ちっ、騙されなかったか。

 だが旦那にそこまで良い感情を持ってないってのは分かった。

 自分で愛の意味を持つ名前と言っておきながらそれはどうなんだと思うけど。


「というか消えゆく私達に新たな力を見せなさいよ。具体的には対価がどう軽減されたのか」

「そうね、私としてもそれは気になるわ」


 二人が言う様に私も気になってる案件だ。

 復活したらやろうと思ってた事もあるし、折角だから使ってやるとしよう。


「何をするの?とりあえず軽いヤツがいいとは思うけど」

「最初にするのは決まってる……リンを復活させる」

「いやいや、いきなり重いのやめろ」


 断る。

 私に次ぐ功労者をそのままに出来るか。


「大丈夫。酷い代償にはならないと勘が告げてる」

「なるわよお馬鹿。消えはしないだろうけど長い気絶になるわよ」

「私は止めないわ。リンって人形は言葉どおり命懸けで貴女の力になったんだし、借りは返すのがペド・フィーリアですもの」

「……はぁ、もういいわ。やりたきゃやんなさいな」


 本当は実家に帰ってベッドの上でやろうと思っていたが、予定は変わるもんだからしょーがない。

 慣れてしまうとリンが肩に乗ってないと落ち着かないし。


「じゃあ復活させてみなさい」

「復活なんて願わない……私が願うのは」


 また、一緒に冒険をしましょう、リン。



★★★★★★★★★★



 まるで小さい人間の様な人形がピクっと動いた。

 そしてピョンと起き上がるとこの世界の私の肩に飛び乗り頬擦りしだした。


 何だコイツ可愛いな!

 復活したばかりで無茶な願いを告げた私はそれを見届けるとそのまま倒れて気絶――


 するかと思ったのだが、まるで意識の無い目になるとぼーっとしだした。


「気絶しないわよ」

「でも意識は無いみたい」

「なるほど……やっぱりパワーアップしたのね。きっと立ったまま気絶出来る様になったんだわ」


 寝かせてやれよ……意味ないだろこの強化。


 だが呆れた顔で見ていると変化があった。

 何というか、妙に寒気がしたのだ。実体ないんだけどな。


「……嫌な感じがするわね」

「先代も感じたならそうなんでしょう」


 本来なら気絶して意識の無い筈のソレは、普通に動き出し、一度空を眺めるとどこぞへと歩き出した。


「めっちゃ動いてるわよ」

「……えぇ」


 どういう事だろうか。

 やっぱり先代と耳削ぎとか言う変な身体を使ったのがマズかったのだろうか。


「私の勘によれば……あれは代償として理性となけなしの優しさが無くなってる状態よ」

「まるで耳削ぎちゃんだわ」


 あれとは違う気がするけど……そもそもあれは何者かによって強化されていたが今のコイツは違う。気絶してはいるが操られてる感じはしない。

 そして実際に戦ってる姿を見てないので断言は出来ないが、恐らく先代と耳削ぎの力が合わさったぐらいの強さがある気がする。


 要するに化け物だ。


「どうすんの?代償ならもう戻らないんじゃない?」

「一定時間で元に戻るとは思う」


 ただ人形とはいえ死した者を復活させたのだ。短時間では戻るとは思えない。

 まぁ幸いと言うか、復活した人形に危害を加える気はなさそうなので味方には被害が出ないだろう。


「にしても気絶どころか、より強化されるとはねぇ……対価って言うよりむしろ得してるじゃん」

「……もしかしたら、あれは気絶してる状態なのかもしれない」

「どっちにしろ得でしょ。強敵が出たらわざと気絶して戦えばいいんだし」

「代償って言うからにはデメリットもある筈よ」


 というか何処に行こうとしてるのだろう。

 アザレアという少女と一緒に後ろを着いていっているが、何処に行く気か検討がつかない。


 というか私と先代はもうちょっとで消えてしまうのだから早いところ何をする気なのか教えて欲しい。


 すると願いが通じたのか急に立ち止まった。

 周りを見渡しても特に何もないのだが……


 疑問を持つ私達を他所に、手に持った奇跡すてっきをある方向に向ける。

 その方向を見ても当然特に変わった様子はない。


 何がしたいのやらと思ってると。


「ひゃあっ!?」

「まぶしっ!」


 激しい光で目の前が見えなくなった。

 ちなみに「ひゃあ」はアザレアの声である。


 薄目で確認して光の正体は分かった。

 何がどうしてそんな行動したのかは分からなかったが、アイツが目の前のものを全て薙ぎ払う程の極太のレーザーを放っていたのだ。


 というかビーム打てんのかよこっちの私!


「……凄いわね、幼女ビーム。何を狙ったのか知らないけど」

「酷い環境破壊があったもんだわ」


 ただ幸いな事にビームを打って満足したのかそのまま仰向けに気絶した。

 それを見たアザレアが慌てて介抱に向かう。


「……まぁ、何だか分からないけど大丈夫そうだし、私達は逝くとしましょうか」

「んー、もうちょっと見たかったけど仕方ないか」


 色々と心配な部分もあるが、まぁ私なんだから自分で何とかするだろう。


 後はこの世界で生きているアンタでどうこうしなさいな。



★★★★★★★★★★



 大地が揺れた。


 というか現在進行形で揺れている。

 ついでに窓の外は激しい光で目も開けていられない。


 そして何らかの爆破の衝撃と思われる振動と共に窓ガラスが全て割れて飛び散った。


「ぬおおおおおっ!?なんじゃなんじゃ!?何が襲撃してきたのじゃ!!?」


 衝撃で飛んでくる色々なものから身を守る為にソファの後ろに隠れてエレムに様子を尋ねる。


「よく分かりませんが、北の方角から特大のレーザーらしきものが飛んできましたね」

「どんな魔法じゃ!」


 北ってなんだ!

 ナイン皇国より北に国など存在しないぞ?

 考えられる事と言えば元災厄のアイツだが……あの幼女によって存在を変えられた元災厄はフォース王国に居る様だし。


「こ、こんな威力のビーム打たれたらかなりの人間が死んだかのう」

「かもしれませんね」


 衝撃が来た速度からして結構遠くに着弾した筈だ。

 それにもかかわらず我の住む神殿がボロボロになるほどの威力。

 これはナイン皇国全体がかなりの被害にあっているに違いない。


「ポンコツ様」

「何じゃ」

「ナイン皇国付近に現れた例の獣が先程のレーザーで消し飛びました」

「……そうか」


 あれは災厄の置き土産を狙ったものだったか。

 誰だか知らぬが上手い事やりおる。


 災厄と同時にナイン皇国も狙ったに違いない。

 そうでなければこの過剰威力に説明がつかない。


 だがあれ程の威力を持つビームを打てるヤツとは……いや待て。


 北の方角。

 あの幼女と災厄が戦った場所も北。というか最北端。


 まさか……あ奴、生きておったのか。

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