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幼女とまおう

 ご主人様が少女の攻撃によって怪我を負われた。それも腹部を貫かれる様な重傷だ。完全に私の失態だ

 あの時、合図があったというのに油断していた…悔やむより先にご主人様の傷を治す。


「咄嗟に奇跡すてっきを防御に使わなければ…」


死んでいたかもしれない…


「…すぐにでも八つ裂きにしたい所ですが」


 少女を見やる。おどおどしてた時と違い、憎々しげに歪んだ表情…笑っていれば美しいだろう顔はもはや別人。

 ご主人様は『誰だ』と仰った…つまりこの少女の中身は確かに別人なのだろう。


 少女はいきなり飛び掛かって来る。速いっ…が、捌けない程ではない!首でも飛ばすつもりなのか、私の頭部目掛けて手刀を横薙ぎに払ってきた。

 頭を少し後ろにずらしてかわす。が、腕を振り抜いた勢いで回転して再び攻撃してくる。それすらかわすと今度は回らず突きを放ってきた


「…ふむ」


 避けずに掴んで背負い投げの要領で投げ飛ばす。空中で素早く体勢を立て直す少女の着地点に向けて鞭を振るう


「む…」


 少女は左手一本で鞭を掴んで止めた。それなりのスピードを出したが、掴めるとは…

 さて、どうするか…鞭を斬撃タイプにでもすれば放すだろうが、傷をつける訳にもいかない。


 少女は鞭を奪おうとかなりの力で引き寄せようとするが、私の方が力も速さも上だ。

 いっそ思いっきり引き寄せて…と思ってたら


「…がっは!?」


 少女が吹っ飛ばされた。どうやらマイさんが体当たりしたらしい。


「ご主人様に怪我を負わせた相手ですし…そりゃ怒りますよね」


 とりあえずマイさんをこちらに呼ぶ。その間に少女は立ち上がり、こちらを見据える。傷を負わせない様に躊躇してたが、ずっと攻撃をいなしているだけでは埒があかない。なにより…


「よし、どうせ回復魔法使えますし、立ち上がれないくらいボコボコにしましょう」

パタパタッ!


 最愛の主を傷付けた事はやはり簡単に許す事は出来ない。



★★★★★★★★★★




 気絶から回復した。どのくらい時間が経ったのか…と思ったら明るい事に気付いた。

 つまり数時間は経っている…娘に受けた傷はどうなったか…

 顔だけ上げてお腹を見れば真っ赤…には見えない。黒いゴスロリ服だし、フリルの白い部分は赤い部分あるけど。どうやら傷自体は回復してるらしい。


 しかし…痛かったなー…痛みも酷いが吐き気も酷かった。もう大怪我したくない。

 そういえば、娘はどうなったのだろうか


 仰向け状態から上半身だけ持ち上げる。起き上がると吐き気が込み上げてくるが我慢。

 音がする方を向けば今尚戦い続けてる二人…とマイちゃん。大分一方的だが…

 娘が右手で殴りかかればユキが左手で受け止めて右手でぶん殴る。蹴りを出せば逆に蹴られて吹っ飛ぶ。

 これは心にくる…技量の違いを見せつけて諦めさせるつもりなのか?ずっとこんな調子でやりあってるなら娘の方も根性ある…別人だけど


「いつ終わるかなー」


 と、呟いたらユキが鞭を伸ばし、娘を捕らえてぐるぐる巻きにした。聞こえたのか…


「お加減はいかがですか?」

パタパタ

「吐き気以外は大丈夫よ」


 寄って来たユキとマイちゃんに問題ない宣言し、豹変した娘を見る。


「ざまぁないわね」

「人格が戻りましたら回復致します」


 今なら娘に近付いても大丈夫みたいなので、話をする為、もがく娘の前まで進む


「…あなた喋れる?」

「……」


 完全に見下してます、みたいな目で見てくる。腹立つのでつま先で蹴ってみる


「…!くそガキがっ!」


 おーぅ反抗的…これは楽しめ…っと、違う違う。話をするんだった


「で?お前誰よ?」

「…」


 …めんどくさい。だんまりしとけば良いと思ったら大間違いだ。起きてすぐだが仕方ない。


「お前をその娘の身体から追い出す」

「…なに?」

「私の仲間は良い子ちゃんの方なの。お前は要らない」

「…ふん、そんな事」


 誰が不健康なその身体を今の状態にしたと思ってる。分離さえすれば遠慮なくこいつをボロボロにしてやろう


「ユキ、分離したらボコボコにしてあげなさい。肉体は無いかもしれないけど、貴女なら関係なくやれそうだし」

「お任せ下さい。ギリギリ生きてるくらいまで痛めつけてあげましょう」


 ニヤリと邪笑を浮かべる。やはり頼もしいメイドだ。ようやく危機を感じとったか、阿呆が焦り始めた。だがもう遅い


「私の仲間からクズを追い出しなさい!奇跡ぱわぁーっ!」

「…うっ?!」


 娘の身体が淡く光り、半透明の何かが這い出てくる。こいつが別人格だろう。


「はぅっ!身体が動かないです!…痛っ?!あちこち痛いのです…うぅ…」


 気絶寸前に本来のあの娘の声が聞こえた……



★★★★★★★★★★




「ふははははっ!鉄鍋の味をくらえやボケぇっ!」

『ぶほっ!?』


 現在元凶をフルボッコ中。娘の中に宿っていたのは悪魔らしき女。なんと娘の母親だとか


「娘の母親だろうが容赦はしないのが私」

「はぅー…」

「ご主人様、次のアイテムです」

「おぉ…これは熱湯…そりゃ」

『あっつ!熱いっ!あっつい!?』

「はぅー……」



 なんで娘の母親をフルボッコ中かと言えば、娘の里での仕打ちがこの女のせいだったからだ。というのが建前で、怪我をされた仕返しというのが本音である。


 何で里での仕打ちがこの母親のせいかと言えば、その理由は分離したあとに気絶から起きた時まで遡る……


☆☆☆☆☆☆


 むくりと起き上がる。短時間の気絶で済んだと思うが、さてさて…ユキはちゃんと別人格をボコボコにしてるかな?


 心配する事もなくちゃんとボコボコにしてた。娘と同じ服をしている半透明の人物で、髪の色も濃い紫と変わらない。

 一つだけ違うのは頭に山羊の角みたいなものがついている事だ。娘の方はメイド無双をおろおろしながら見ている。


「ユキは空中コンボが好きねぇ…」


 空中に蹴り上げては見えはしないが数発は殴って踵落としで地面に叩きつける。で、また蹴り上げて今度は鞭で足首を掴み、地面に叩きつけては浮かせ、また叩きつける。

 びったんびったんと半透明の人物を痛めつけてるのを見ながら娘に寄る。


「身体の調子はどう?」

「わっ!?…あ、もう大丈夫なのです?」


 私が聞いたのに質問を返された。心配させ続けるのもなんなので「大丈夫」と答えておく。


「貴女も…大丈夫そうね」

「はい、ユキさんに治してもらいました」


 無双の合間に回復したのだろう。しかし、あの痩せこけてた娘と同一人物とは思えない変わりようだ。


「胸についた余計な物は奇跡ぱわーで消すべきか…」

「はい?」


 少し垂れ気味の眠そうな目、おっとり系な世間一般では美しいと思われる顔。痩せこけた状態から平均的な体型になるだけでこうも変わるものか?まぁ、汚れもあったし、何より元の素材が良かったのだろう。

 それよりも胸。ユキ程では無いが、それなりにある胸。奇跡ぱわーは余計な事までしてくれました


「しかし、これなら椅子になれそう…かな」

「いす?」

「貴女が私の仲間になる場合の役割よ。私の護衛と椅子係。ちなみにユキは護衛と抱っこ係」

「それをやれば家族になれますか?」

「やらなくても構わないけど」

「いえ、やりたいです」


 嫌なら嫌でいいのだが、まぁやってくれるならいいや。結局片付ける時間が無かったので、夕べのまま放置されているキャンプセットからシートを引きずって持ってくる。

 シートの上に正座するよう指示を出し、私は娘の太ももの上に座る。


「悪くないわ。…なるほど、この脂肪は枕の代わりという事ね」

「んー…わたし、何だかこの格好が好きみたいです」

「それは良かった。正座だと辛いでしょうけど、馬車さえ入手すれば腰掛けた状態になるから」

「ペドさんは小さくて軽いから全然大丈夫ですー」


 正座だと微妙な角度があってずり落ちそうになる。そこで娘の両手をお腹に回してもらって固定する。


「このお腹の怪我…」

「別に貴女のせいではないから気にしなくていいわ。というかアイツ誰?」

「誰ですかね?」


 知らんがな。見た感じだと娘に縁のある者だと思うが…



 ばしいぃぃぃんっ!っと、寛いでる私達の目の前に半透明の人物が叩きつけられた。


『…ぬ、ぐぅ……』

「ご主人様がお目覚めになられたので、この変にしておいてあげます。…とりあえずは、ですが」


 半透明のくせに十分ボロボロにされてる。物理攻撃受けるとか、まさに人は見かけによらない


「半透明だろうが物理攻撃するとは流石ユキね」

「いえ、私は何もしておりません。最初から攻撃が通りました。恐らくご主人様がボコボコにしたいと奇跡ぱわーに願ったからだと思います」

「あり得るわ。そう思ってたし」


 今度は当事者の娘もいる事だし、口を割ってくれるだろう。


「じゃあこの娘にとり憑いていた理由を聞きましょうか」

『…!…その子を離せっ!』


 私がこの娘を拘束してる様に見えるのか?逆だろ、むしろ私が拘束されてる図だ。だが利用出来そうだし、いいか


「この娘を解放して欲しければ訳を話してもらいましょうか?」

『卑怯なくそガキめっ!』


 良い顔をしておるわ…クックック…。体勢を変えて娘に抱きついて勝ち誇った顔を向ける。…何か学園時代に同じ事したような…?

 何故か娘が抱き締めてきたが、そのおかげで奴の顔が悔しそうになったので私は満足だ。


『ぐぬぬぬぬっっ!』

「ふぬぬぬぬっっ!」


 何故かユキまで悔しがっていた。お前までそっち側の人間になるんじゃない…


「まずは貴女が何者か聞きましょう」

『私はマオウだ…。その子の母親だ』


 まおう?魔王?こいつが?物語に出てくる様な存在?頭には山羊みたいな角があって悪魔っぽいけど…しかも母親……娘とは逆に吊り上がった眼だが、娘に似ている気もする


「それって笑う所?良い年こいて私は魔王とかだっさーい!って…」

『代々受け継いできた名前を侮辱するかくそガキ!』

「名前なのっ?!しかも世襲制…?」

『そうだ!そしてその子が次代のマオウだ』


 うわぁ…この家系の先祖達は名前に疑問を持たなかったのか?


「そのマオウさんとやらは悪魔の王様でもしてたの?見た感じ悪魔っぽい角してるけど?」

『違う。いや、王とは称すが…舞いの王と書いて舞王だ。身分としては只の民だ。悪魔と言うのは合ってるが』


 なるほど、確かにその服で舞えば美しく感じるかもしれない。やってくれないだろうけど。


「なんで貴女は娘の中に居たわけ?というか死んでるの?」

『母として娘を守る為だ。死んでるかと聞かれれば一応死んではいない』

「一応?」

『急に私の故郷である悪魔達が住む里に人間共がやって来て、「お前が魔王か!覚悟っ!」とか言いながら農作業していた私を襲撃してきたのだが』


 めっちゃ勘違いされてる。農作業する魔王がいるか、その人間馬鹿だろ


『流石に鍬では剣をもった複数の相手には勝てず重傷を負ったのだ。そのままだと死んでしまうから亜空間に身体を保存して、魂だけ寝ている娘の身体に憑依させた』

「空間の中なら身体が無事って訳ね」

『うむ。異変に気付いた里の者達が人間共を迎撃してくれなかったら無理だったが…』

「その混乱に乗じて脱出したって事?」

『そうだ。まだ歩ける様になって間もない娘だったからな。娘の意識が眠っている内に私が身体を操って人間共に気付かれない様に里から逃げ出した。』


 そんな小さい時の頃だから娘はコイツを知らないのか。そして私達を憎悪の目で見て攻撃してきたのは里を襲った奴等と同じ人間だから…では娘を拾ってくれたであろう鬼達は?


「この娘は鬼の里で扱い悪かったのだけど、何か知ってる?」

『あぁ…あいつらか…鬼の分際で子供だったとはいえ、娘を格下の様に扱うからこの子が寝た後に躾をしてやったな』

「…なに?」

『だから鬼共をいたぶってやった。あいつら私の意識が寝てる昼間は大人しいと知ったら娘に仕返しして来たからな、日課みたいになったな』


 それこそ笑う所なのか?化物とか呼ばれてたのも虐められてたのもコイツのせいか…そりゃそんな事を娘の身体でやってたら馴染める訳ないわ


「予想外に馬鹿な話でどうしよう」

「ご主人様、以前申したのですが、魔物に縦社会がある様に異種族にも縦社会があるのです」

「人間で言う所の貴族と平民って所ね」


 そんなプライドで娘を不幸にしてたら世話ないと思うが。だがまぁ、この事は当事者である娘の判断に任せよう。


「貴女の母親のせいで長年虐められてた訳だけど、どうするの?」

「は、はぃ?…どうする…って?」

「許すか、ぶちのめすか」

「えー…でも、お母さん…?なんですよね?」

『そうだ、愛しの娘よ』


 何か私が娘に座ってると場違いそうなのでユキの所に退避する


「…わたし、ずっと家族に憧れてました…友達も欲しかったです」

『そうか…そうだな…では共に過ごせる様に身体を治す事に専念しよう』

「…いえ、わたしはまだお母さんと一緒には暮らせないです」

『…なぜた?』

「…わたしに、お母さん以外の家族が…お友達が…!大切な仲間が出来たのです……」


 と言ってこちらを見る娘。今は娘から離れてユキ、マイちゃんと茸を摘まみながら見ていた。

 ごめん。めっちゃ油断してたから思いっきり茸を頬張ってます。


『まさか…あんな茸を下品に頬張るあいつらの事か…?』


なんだとテメー


「えっと…そうです…。それに、命を助けてくれた恩もあるのです!」

『人間だぞ?何もしてない私達を襲撃する様な、汚い人間だぞ?』

「ペドさん達は良い人です。わたしに酷いことしないです」

『…私より、あいつらがいいのか?』

「同じくらい大事です!お母さんには身体が治ったら会いに行くです!」


 そういえばこのご時世に魔王退治何かしてる人間いるんだ。物語に出てくる魔王とか居るわけないのに。

 無関係な種族を魔王と決めつけて攻撃するとか同じ人間として迷惑な存在だと謝りたいわー


「あの娘も山羊みたいな角が生えると思う?」

「流石にあの年で生えてないなら今後も生えないのでは?」

「よかった。きっと父親には角がなくて、そっちに似たのね」


 まさかあの娘にも角が生えるかもって気にしてたが大丈夫そうだ。


 さて、許すか許さないかを聞いたのに、話が大分変わっているが、まあ娘の中では許す以前に怒ってすらいない問題だったのだろう。


 だからあの娘に変わって私が裁く。長年に渡る理不尽な扱いは新たな家族であるこの私が許さない…

 私は空になった鉄鍋を持って二人に近づいた。



「そろそろ話は終わった?次は私の番なのだけど?」



 笑ってない目で母親、マオウに近寄る。娘のためと言いつつ、ほぼお腹の怪我の仕返しという私怨だが…下手すれば死んでいたかもしれないと思うと復讐せざるを得ない


そして先ほどの場面に戻る

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