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幼女、勇者の情報を聞く

 さて、この世界で気にかかっている事その2の場所に来た。

 その場所とはやましい事がある塵芥が潜伏するであろう洞窟だ。何処の星でも隠れ場所ってのは変わらないもんだね。


 見張りとかが居れば殺しながら進んでいる所だけど、どう言う訳か一人も居ない。

 奥には確実に複数の塵芥が居る筈なんだけど……無駄に自信のあるのかただ馬鹿なのか。


 まぁいいや、どうせ用があるのはその内の一匹だけだし。一箇所に集まってるなら殺すのに好都合ってもんだね。


 にしても近付く度に濃くなるこの臭い匂いは……まぁお楽しみしてる最中って事か。


「おい、そこの不細工ちょっと待て」

「どいつもこいつも不細工不細工って……そんなにコイツの顔って酷いのかね」

「何を言ってるか知らんが、よく来たな。何も言わずともその顔を見るだけで分かるぞ。お前も災厄を招き一度世界を滅ぼした後に築く新世界の一員になりに来たんだろう?」

「……あぁ、所謂邪教徒って奴か。3つくらい星を渡ると一つには必ず居るね」


 ボクを崇拝したところでどうせ殺されるのになぁ……敵にならないと考える思考がよく分からない。


 何をどう考えて邪教徒の一員にされたか不明だが、歓迎されるように洞窟の奥へと案内された。


「案の定だね。だけどこれはいけ好かない」

「へへ、まぁそう言うな。あれは災厄を招く巫女的な役割をしてもらっていてな……とことん不幸になってもらう為に仕方なくああしてるのさ」


 祭壇と思われる物体の前に敷かれたボロい布。その布の上で行われているのは複数の雄の塵芥による一匹の雌への陵辱。

 あんなんでボクを呼べると思ってるとか腹立つな。


「いけ好かないのはあの雌だね。絶望してるならまだしも無感情じゃないか、これじゃあ何も美味しくないや」

「なるほど、絶望か……確かに災厄を招くには必要な気がするな」


 まぁあの塵芥自身はどうでもいいが、纏う奇妙な気配は中々に素敵だ。

 あれは負の感情に密接に関係する不幸を呼び寄せる代物だ。実に面白い。


「そう言えば龍の神は従者とやらを連れていたっけ……真似してみようかな。アレならボクの従者として十分でしょ」

「ところでさっきから何言ってんだ?」

「何でもないさ。それよりもう気が済んだだろ?お望み通りの存在が来てやったんだからさ」

「あ?」


 実にくだらない奴等だが、恐怖くらいは食わせて欲しいね。






 とまぁあっさりとグチャグチャにしてやった訳だけど、予想通りに何人か命乞いをしてきた。

 最後に良い思い出来たんだからいいだろ。


「……そんなに、強かったのですね」

「んー?」

「申し訳ありません。純潔はご主人様に捧げる事は出来ませんでした」

「……何を言ってるんだい?ご主人様とはボクの事かい?」

「?」


 いや待て、今のボクの姿はユキオとか言う塵芥の姿だった。と言う事はコイツはユキオの僕か。

 いやはや何とも繋がるね。


「君の主人であるユキオは死んだよ。ボクはソイツの姿を借りてる負の感情を餌に星々を回る災厄さ」

「あの、私のご主人様はユキノジョウ様だったかと」

「そっちか。どっちにしろ死んだよ」

「そうですか」


 負の感情を出さないつまらない塵芥だと思ったが、災厄と名乗った上でも恐怖心無しか。

 あのチビもだがこの星の連中は変な奴が多いなぁ。


「塵芥。ボクは君がそれなりに気に入った。ボクが新しい主になっても問題ないだろう?」

「……はい。どなたが主だろうと構いません」

「そうかい。それで塵芥、君の名前は何と言う?」

「アザレアと申します」

「なら付いて来いアザレア。この星は中々に興味深い、地上を這う塵芥共を一掃する前に観光に行こうと思うんだ。だから君が案内しろ」

「分かりました。……それよりも、何か着る物を下さいませんか?」


 塵芥は何故か全裸を嫌がる。

 全く面倒な事この上ないな。着る物と言ってもボクはその辺サッパリだからなぁ……まぁ適当に用意するとしよう。



★★★★★★★★★★



 嵐が過ぎ去ってすでに4日が経過している。

 と言っても他国は絶賛嵐に見舞われている真っ最中なんだろうが。


 嵐がそれなりに弱まった所でルリ達もお役御免となった。

 今はのじゃのじゃ言いながら疲れて寝てる事だろう。

 風の大精霊も「別に休みたいんだからねっ!」というおかしな言語で疲れたアピールしてきたのでルリと一緒に休ませてやっている。


 そして私達はと言えば来るべき災厄に備えてダラダラとお休みを満喫している。

 そんなダラダラしてる私の部屋にキキョウがやって来た。


「嘘か真かフィーリア様の知り合いを名乗る方がお見えになられてますよ」

「ふーん。その聞き方から察するにキキョウは知らない奴なのね」

「存じませんね」


 大多数にキキョウの国と誤解されてる我が国に私を名指しで来る客か。

 誰だか検討付かないが客だってんなら一応会ってやろう。


「ところでどんな奴よ」

「サヨ様くらいの年の男の子です」

「男の子って、年季の入ったクソジジイじゃない」

「……失礼、サヨ様くらいの身長の男の子です」


 野郎か。冒険に出た後ならほんの少しは知り合いは出来たが、ここに来る様な奴となると検討が付かない。

 名ぐらい名乗っとけよ。






 ばいんばいん。


 客に会う為に応接室的な部屋まで移動してる途中、ニボシが座する広間に妙ちくりんな音が聞こえた。


「ばいんばいんとか。ニボシの奴が飛び跳ねて乳揺れでもしてんじゃないの」

「それは一大事です。こっそり覗きましょう」


 客よりニボシの乳揺れの方が大事な模様。わかる。

 かくいう私も得体の知れぬ客を相手にするぐらいならニボシの乳を見る。


 正面は開放しっぱなしなので側面側にある非常用の扉を音がしない様に細心の注意を払いながらほんの僅かだけ開きキキョウと共にこっそりと覗いてみると……

 床の上をばいんばいん跳ねる黄色い物体とつまらなそうにそれを見るニボシの姿が。


「何だお前か。生きてたのね」

「おぉ、嬢ちゃんか。久しぶりで積もる話もあるだろうが今は待ってくれ。このボイン嬢ちゃんと食うか食われるかの攻防に集中したいんだ」

「我は床に落ちた汚いものは食べないのです」

「おいおい、子供に食われなきゃ誰が俺を食ってくれんだよ」


 誰も食わねぇよ。

 しかしホットケーキの分際でよくフォース王国の連中から逃げ切れたもんだ。

 人間達にもだが来る最中に出会ったであろう魔物からもだ。


「ふ、そこは木や岩に自分から体当たりして分裂した奴を囮にしてきたのさ」

「なるほど。一匹いればいいものね」


 何処で知ったか不明だが私達の国だから亡命してきたって感じか。

 おっさん面したホットケーキの魔物とか置いておく必要はないが、ニボシが殺さずに生かす選択をしたなら奇妙な生物枠としてその辺の森に置いておこうか。


「さて、客のところに行きましょうか」

「そうですね」






 客が待ってる部屋に行くと、ユキ達の姿もあった。会いに来たのは私だけではないみたいだな。

 そしてその客とやらの姿を確認すると……ふむ、確か亜人のボスだっけか。


「誰かと思えばショタロウか」

「久しぶりだね」


 何を勘違いしてるのか知らんがやけにフレンドリーである。

 言っておくがショタロウなんぞと仲良くなった覚えはない。アホな事を言ってきたら殴って追い返そう。


「えらいタメ口ね、対等な関係と勘違いしてるなら殺すわよ」

「……相変わらずえげつない人だ」

「で、勘違い野郎は一体何しに来たの?」

「今、僕達の国にナイン皇国に召喚された勇者達が攻め入ろうとしてるんだ……僕達だけじゃ厳しい。それで手を貸して欲しいとお願いしに来たんだ」


 はーん。勇者ねぇ……この時期に亜人共の国を攻め入る理由としては経験を積ませようって魂胆か。

 向こうだって戦力を失うのは痛い筈だからそう本気で攻めては来ないだろう。


「んな事より国の場所がバレてるって所に危機感抱いた方がいいわよ」

「まぁね、ただ教皇って奴なら僕達の居場所くらい簡単に見つけられそうだから」

「ふーん……さて、手を貸して欲しいって事だけど却下。こっちは勇者なんて雑魚と違って大物の討伐を控えてんのよ。今は休みだ休み、誰も働かせねぇ」


 来るべき災厄に備えて休暇を与えるとか家主の鑑じゃなかろうか。


「同盟してる訳でもないし、こっちの都合ばかりで申し訳ないとは思う……けど、国を守る為には君達の力が必要なんだ」

「国を守る。それなら良い手があるわよ」

「……なに?」

「ハーピーを使いなさい。とりあえず2人くらい殺せ。後は3人くらい重傷者と軽傷者を作る、後は……そうね、ガキを2人くらい連れて勇者達の元に潜入させればいいでしょ。亜人達の国から逃げてきたと言いながらね……後は食事に毒でも盛ればいいのよ。流石に死者が居れば本当に逃げてきたと思うでしょ」

「それは……正気で言っているのかい?」


 不服であると目が語っている。

 国を守ると言ったのは貴様だと言うのに。


「一番犠牲者の少ないやり方だと思うけど?戦って死ぬのと何が違うっての。まさか雑魚の集まりの分際で犠牲者を出さずに勝ちたいとか思ってないでしょうね」

「君はっ……!」

「はいはい、ところでお姉様。その作戦は上手くいくのですか?」

「来たばっかの異世界人には通用するでしょうね。この世界に来るアホ共はどこか夢を見てるみたいだし……顔と体だけとは言え人の姿をしてるハーピーなら正義感丸出しで保護するでしょうよ」


 助けを求められるのが気持ちいいのかね?

 男の異世界人の場合ハーレム願望が強い、それもまた利用出来る。


「ふむ、通用するなら手の一つとして一応考慮しておくのもいいでしょう」

「あぁ?……んなもん通用するかばーかばーか!」

「え……お姉様が言ったのに……」

「異世界人にはね。どうせ監視とかでナイン皇国の騎士団も付いてくるんでしょうよ。ソイツらが亜人を生かして保護する訳がない」

「確かに……」


 どうせ勇者が寝てる間に殺されるのがオチだ。


「はぁ……君の話を聞いてるとどうしたらいいか分からなくなるよ」

「龍人と一緒に特攻しろ。そして死ね」

「お、お姉ちゃん、真面目に考えてあげましょうよ」

「む、マオに言われちゃ仕方ないわね。なら数日耐えなさい。どうせ災厄が来れば亜人どころじゃないわ」

「その数日が辛いんだよねぇ」

「情けねぇガキだ。周囲には魔物も居るんでしょ?そいつらを引き付けて勇者共にぶつけなさい。無茶はしないだろうから上手くいけば退却するでしょう」


 全く頭の悪いガキだ。何で私が亜人なんぞに知恵を貸さなければいかんのだ。

 ちなみに今回を乗り切ってもどうせその後攻められるであろう事は黙っておく。まぁ災厄と戦えば勇者共は死ぬだろうからまだ楽だろう。


「魔物か……うん、それでやってみる」

「決まったならさっさと帰って準備すべきね」

「分かってる。それより……いや、何でもない」


 飲み込んだ言葉は恐らく力を貸してくれ。

 どうせ私が許可を出す訳がないってのを分かってくれて何より。


「……お姉様、今は休暇中ですよね?」

「ええ」

「ふむ。では来るべき災厄に備えて亜人の国周辺に修行に行ってきてもいいですか?」

「いいよー」

「軽い返事だなリーダー!さっきまでの拒否の姿勢は何だったのよ」

「だから国のトップとして無駄な戦いはさせる訳にはいかんでしょ。ただ休みに何をしようがそれはソイツの勝手よ。そこまで制限はしないわ」

「これがリーダー流ツンデレ……なんてめんどくさい娘」


 デレてねぇから。


「ところで数日後に災厄が来るのって確かな情報なんです?」

「ニボシに聞けば分かるわよ」

「ならば勇者なんぞさっさとお帰り願って災厄に備えるとしましょう」

「待ったサヨっち!まずはこのマリア様が勇者とやらの調査をしてあげるわ。ちょっと気になるし」


 悪くない案だ。鑑定なら相手の能力とかも分かるだろう。

 チート能力さえ分かれば対策など容易い。異世界人なんて長年生きたマリアを考えると劣化天使だ。

 サヨだけでも翻弄出来ると思う。


「でしたらマリアさんはショタロウと一緒に一足先に向かって情報を入手してきて下さい。ひょっとしたら私達も対立する可能性はありますしね」

「おっけー」

「……今更だけど、僕はショタロウって名前じゃないから」



☆☆☆☆☆☆



「結局ホットケーキは居座る事になったのか」

「ニボシ様が捨てないから……」

「我のせいにするなです」

「ニボシレーターでは災厄到着まで後何日?」

「……何故か移動速度が上がっているのです。早ければ後3日には来る筈です」


 3日。早い……が早ければ早いほど厄介な事が起きずに済む。

 ショタロウ共はどうでもいいが、トゥース王国も3日くらいなら持ちこたえられるだろう。

 ミラの奴が援軍欲しいとか言ってくると思ったが、来なかったな。


「お前は本当に災厄とやり合うつもりなのです?」

「私の未来の旅路の邪魔になるならね」

「……それはやり合うと認め」

「たっだいまああぁぁぁぁっ!」


 やかましいマリアのおかげでダルそうな話題がぶった切られた。

 このテンションの高さはさぞや良い調査が出来た事だろう。


「待たせたわねサヨっち!情報はバッチリ集まったわ!」

「それはどうも。では早速ですがお聞かせ下さい」

「うん。男3人に女1人って情報はもう知ってるわよね?……それじゃあ早速1人目だけど、初めは『皆!僕に付いて来てくれ!』系勇者ね。異世界に勝手に呼ばれたくせに異世界の為に戦う洗脳しやすい奴だわ。勇者達のリーダー格なんだけど、聖剣の使い手だからって勝手にリーダー面してるだけだしこういう奴は大体雑魚だから気にしなくていいわ」


 うん。最初の余計な情報は何なんだろう。

 それはともかく聖剣ね、確かに気にする程のもんじゃないな。人が造った武器より奇跡ぱわー製の武器の方が上だわ。


「2人目は『こんな奴等に使われてたまるか!俺は国を出るぞ』系勇者よ。リーダー程じゃないけど察しが良いわ。ある程度実力を付けたらナイン皇国から脱走すると思う……その後はナキリ改めダイゴロウばりのハーレムを築くに違いない」

「2人目にして欲しい情報が無くなってんだけど?」

「ちなみに異世界ではオタクと言われる嫌われ者とかいじめられっこに多い勇者だとあたしは思ってる」

「聞けよ」


 肝心の能力はなんだ。厄介なのかそうでないのか教えろ下さい。


「3人目は『ったくしょーがねーなー』系勇者ね。基本的にめんどくさがりなんだけど、頼まれたらしょーがねーなーの一言で何だかんだ請け負っちゃうアホね。ただし美少女に限る」

「あっそ」

「ああ、すでにお姉ちゃんが聞き流す体勢に!」

「しょーがねーでしょ」


 私が欲しいのは異世界人の能力の情報のみだ。

 この前の一件で能力を奪うなんて芸当をしやがる奴がいるのは分かった。能力次第で念の為に殺さなきゃならない事も考えられる。


「最後は女勇者ね」

「いえ、もう大丈夫です。ではお姉様、私はちょっと修行に行ってきます」

「ええ、災厄が来たらちゃんと帰ってくるのよ」

「分かってます」


 サヨも聞いてられなくなったようだ。

 報告をぶった切られたマリアは不服そうだが自業自得である。


「むきー!サヨっちってばあたしがどんだけ苦労して調べたと思ってんのよ!」

「はいはい。なら最後の女勇者の情報を言って見なさいな」

「もういいわよ……女勇者はたぶん時間を止めたり出来るってだけ」


 ……強くね?

 それは教えなきゃダメな報告じゃなかろうか。


 とはいえそれ程の能力だ。私の奇跡ぱわーと同じくおいそれと使えない筈。


「だけどレベルってチートと組み合わさったら厄介な事になりそうね。ソイツは災厄とのいざこざの時にこっそりと殺しましょう」

「別に敵になると決まった訳じゃないのに殺すんだ」

「念には念をって奴よ。どうせ異世界の奴なんだし居なくなっても構わないでしょ」

「うわぁ、ゲスい……」


 何を今更。

 私は必要とあらば仲間だって切り捨てる様な極悪人だぞ。

 たかが見知らぬ異世界人くらいもしかしたら危険ってだけで始末出来るわい。


「……そうね。やっぱり切り捨てなきゃ災厄には勝てないわね」

「何か言った?」

「災厄が来るまでせいぜい楽しく生きろって言ったの」

「いや、あたし死ぬつもりないから」


 あと3日か。

 せいぜい楽しく生きろね、果たして私は誰に向かって言ったのやら。

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