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幼女と嵐

「大変よリーダー」

「大変なら饅頭食いながら現れないでちょーだい」


 ユキオ改め災厄が去ったあと私達もすぐに帰還した。

 もちろんナキリ一行を希望通りの場所に転移させてからだ。


 ちなみに全く関係ないがマリアによってナキリの本名がダイゴロウであると判明したので今後はその名で呼ぶことにしよう。


 帰ってからは他の連中はともかく私は暇になったのでこうして部屋でゴロゴロしながら過ごしていた訳だが先ほど言った様にマリアが部屋に乱入してきた。


「マオっちが変になってるのよ」

「ほぅ」


 それは大体いつも変だろと言うツッコミ待ちなのだろうか。


「今はユキっちが相手してあげてるからさっさと何とかしてよ」

「ユキが対処する程なのか」


 面倒くさいが変なマオはそれはそれで見てみたい。

 と言ってもマリアのこのだらけ具合を見るに深刻そうではないけどなぁ。


「聞いただけだから何とも言えないけど、マオは災厄の影響を受けたのかもね」

「あー、おもっきしビンタして触れちゃったもんねぇ……」

「マオは感受性が強いせいでしょうね。マリアはどうなのよ」

「あたしは元々おかしいから平気」

「自分で言いやがった」


 いっそ清々しい奴だ。

 まぁマリアほど長く生きてる奴はおかしくないとやっていけないのかもしれない。


 話を戻して災厄関連の事だが、一応私も直接触れた一人だけど特に何とも無い。

 そもそも災厄本体ならともかく分体程度に何で影響されなきゃならんという話だな。




 さて、件のマオがどうなってるかとりあえず遠巻きに観察しようとリビングにやってきた訳だが、何故かユキがおらずマオに絡まれているのはキキョウだった。


「ユキっちめ、逃げたわね」

「そこまでおかしな娘になってんの?」


 見た感じはそうおかしな様には見え……るな。

 どう見てもドヤ顔しながら何やらキキョウに語っているのが分かる。

 ドヤ顔如きで何をと思うかもしれないが、マオのドヤ顔とか本気で腹立つのだ。


 マオは教養がショボい娘だしきっとどうでもいい話を延々と聞かされているのだろう。

 どれ、ちょっと聞き耳立ててみるか。


「とまぁ求める数字になる様にxに代入するだけなので簡単ですよねー」

「ソウデスネ」

「あー、あー!キキョウさんには分かりづらかったですかね、ごめんなさいー」

「ソウデスカ」


 ……


「あれは覚えたての一次関数とやらをこれみよがしに自慢してる様よ。ユキっちが対処してた時から変わってないって事は延々と自慢してるみたいね!」

「……まぁ、子供にはよくある自慢だし別におかしくはなってないんじゃない?」

「おかしいでしょ。マオっちがあそこまで煽るとか異常じゃないの……それに、他にもあるわ。まぁ見ててよ」


 確かにあのドヤ顔を超越したニヤケ顔は腹立つな。殴りたい、あの笑顔。

 対するキキョウは冷めた顔をしている。死んだ目をしてないって事はほぼ聞き流しているのだろう。


「そうだ。今度はサヨさんにでも教えてあげましょう!」

「マオ様にご忠告ですが、あまり調子に乗ると痛い目を見ると思いますので程ほどがよろしいかと」

「ふっふっふ、今のわたしはフィーリア四天王の中で下から二番目……忠告なんか不要です」




「ほら、気が大きくなって最弱四天王じゃなくなってる」

「だが謙虚」

「それに見て、いつもは何も言わずともソファの端っこにちょこんと座るのに今のマオっちは真ん中を堂々と占拠してるわ」

「あの下っ端根性は割りと好き」


 それよりもマオの中で誰が最弱になっているのかが非常に気になるところ。


 いや良く考えたらどうでもいいな。

 いや良く考えなくてもどうでもいいわ。


「確かに少々おかしくはなっているわね」

「あれは放っておいたらサヨっち辺りにボコボコにされるに違いないわ」

「そうね」


 どれ、私相手でもあの態度を取れるか見てやるとするか。


 暇なのでリビングに来ました感を出しながら歩いていると、流石にすぐに気付き二人ともこちらに目を向けてきた。

 方や満面の笑みで方やホッとしたような顔だ。

 どっちがどっちかは言わずもがなだ。


「いいところに来ましたねお姉ちゃん。お話したい事があるんですっ」

「そう、私もちょうどマオに聞きたい事があったのよ」

「むぐ、ま、まあいいです。お姉ちゃんからお先にどうぞ」

「20+6×3の答えってなぁに?」

「…………」


 予想外の質問だったのかあの殴りたい笑顔が固まった。

 一次関数とやらは出来るのにこんなのも出来んのかコヤツは。


「……な、ななじゅうはち、です」

「38よ。こんなのも出来んのかクソ馬鹿。よくそんな頭でドヤ顔できんな」

「うぅ、わたしはしょせんフィーリア四天王の中でも最弱です……ぐす」

「よし、元に戻ったわ」

「……それは戻ってんの?」


 治っただろ。

 見ろ、今のマオは以前の様に肩身の狭そうな存在に戻っている。その内ソファの端っこに移動するに違いない。


 リビングに平和が戻ったところで部屋に戻るのもダルいので私もここで駄弁るとしよう。


「そういやルリが居ないわね。私の紅茶淹れ作業をサボるとは調子に乗ってるんじゃない?」

「なに言ってんの。リーダーに言われた通り必死に嵐を何とかしてるとこじゃない」

「あー、はいはい。嵐ね、いつ頃くるのやら」

「もう来てますよお姉様。この国はニボシさんの結界で何の影響も受けてませんが外は中々に楽しい事になってますよ」


 いつの間にやらサヨがやってきていた。

 きっとマオの頭おかしい事件が解決したから出てきたに違いない。


 というか嵐だが実はもう来てたそうだ。

 マジか。全く嵐が来てる様な気配は無かった筈だが……そんな移動速度が速いのか?


「お姉様達は最北端に行っていたのでまだ影響が無くて気付かなかっただけだと思います」

「それか」

「私も嵐の規模は確認していませんが、それ程に被害が大きそうな嵐なのですか?」

「流石に山が削れて消滅とまではいきませんが、ひょっとしたら木が根こそぎ折れてハゲ山になるかもしれませんね。森も同様です」


 そりゃ酷い。世界に優遇されてなきゃ実家も跡形も無く消え去りそうだわ。

 恐らく五丁目は風が強いなー程度で済むだろう。加護持ち贔屓万歳ですわ。


「丁度いいので皆さんで外に行って見ましょうか。防壁までなら安全ですし」

「あたしは見たいから行くわ」

「どうせだから皆で行きましょう。嵐なんてもう見れないかもしれないわよ」


 なんせ普段は精霊や妖精が守ってくれているからな。

 来るとしたら巨大すぎる嵐ってのが問題だが。


「そういや聞いてなかったけど頼んでおいた食料の買占めは出来た?」

「難航はしました。市場に出回る食料が大分減ってましたから……どうやら戦争のせいで各国が備蓄の為に動いていたようで……逆に黒竜の素材を売るのは簡単でしたけどね。まぁこちらには転移という最高の手段がありますので奴隷達に手伝ってもらって人海戦術で何とか市場の買占め、私とオーランドは内政官っぽい姿に変装して直接農家から買占めしたので問題ありません」


 つまりライチの元を離反した異世界人共のせいか。

 まぁ買えたのなら問題はない。


 どうやら変装して交渉したのはサヨではなくオーランドだそうだ。

 口の上手い商人だからこそ農家に怪しまれずに買えたのかもしれないな。後でバレるだろうけど姿を変えていたし大丈夫だろう。


「食料が大丈夫ならどうとでもなるわ」

「あと十数年は引き篭もれますよ」


 少人数の国とはいえそこまで引き篭もれるのか……

 一つ目ちゃんが農作業頑張ってるしそもそも自給自足でいけそうだけど。


 それはさておき折角の嵐だ。

 どれだけの代物か拝みに行くとしよう。



☆☆☆☆☆☆



 防壁に行くと、目の前は嵐だった。

 いやまぁ、そりゃそうなんだが……雨で視界が悪すぎる。


「うひゃあ……近くまで来るとすごい音するもんだねー」

「これは危ないですね……雨風だけならともかく、あらゆる物が混じってる様です。迂闊に結界の外に手を出せば大怪我するかもしれません」


 あらゆる物が混じっているらしい。お前ら良く見えるな……私はかろうじて見えた折れた木片とかしか分からんぞ。


「この嵐ってどれくらい酷いの?」

「うーん……最上級、いや上級程度の風魔法が広範囲で吹き荒れ続けてるって感じでしょうか」

「風魔法たって色々あるでしょうに。まぁ割と凄いってのは分かった」


 こりゃあアルカディア以外の国は大損害だな。

 ニボシを確保しといて良かった。ユキやサヨの結界じゃ魔力がもたなかっただろう。


 しかしこれで人間がそれ程死なないレベルだってんだから人間って割と丈夫に出来てるなぁ。


「いえ、内陸に進むほど精霊達の頑張りによって弱まっていくからです」

「この国は海に近い方だからねぇ……」

「なんで中に行くほど弱まるんです?」

「南側は山が多いですからね。そこに住む精霊や妖精が頑張るのでしょう。残念ながらアルカディアは山に囲まれた場所なので弱まる前に嵐が来てしまってますが」


 なるほど。つまり一番北にあるナイン皇国はそれほど被害が出ないという事か。

 精霊達にあまり頑張るなと言うべきだろうか。


「そんな自然が破壊されるのを見過ごせというのは酷な命令ですよ」

「ち、せめてあの災厄が暴れてくれればいいのに」


 あの野郎は今頃なにしてるのだろうか。

 見逃してから数日経っているけど特に大きな被害が出たって話は聞かないが。

 やっぱり本体が来るまでは大人しくするつもりなのかね。


「どうですメルフィさん……この体感した事のない風、背中の翼が疼くと思いません?」

「乗るしかない、このビッグウインドに」

「乗らんでいい。さっさと邪魔な羽を仕舞えアホ共」


 さっき危ないと忠告受けたばかりだと言うのにアホな悪魔と元悪魔だ。


 しっかし風の音が凄い。

 普通の街で家に居たら怖そうではある。


「リーダー!空からマグロが!」

「まぐろが空を飛ぶわけ……なんだとっ!?」

「いや、マグロじゃないと思いますけど」


 異世界の魚だしな。だが何でもお高い魚だそうじゃないか。

 この世界に居ないのならいつかマリアに捕まえてきてもらおう。


 まぐろではないらしいが確かに魚が視界の悪い空の上を飛んでいる。

 いや、飛んでるというか落ちてる?


 謎の現象に呆然としていると誰かと会話していたっぽいフルートがこちらに来て理由を説明してくれた。


「どうやら風の精霊を通して聞き耳を立てていた風の大精霊様がサービスしてくれたみたいですよ」

「どんなサービスよ」

「会った事もない大精霊なのにデレデレじゃないですか」


 うぬー……この嵐が去った後に生臭くなりそうなサービスが果たして善意なのか。嫌がらせじゃねーか。

 よほど高い所から落下しているのか地面に叩きつけられたらもはや食えるとは思えない。


「この嵐の中、魚を集めてこようと思う猛者はいる?」

「ふっ、嵐など結界の前には無意味。という事で私とユキで結界を張りますので私達と奴隷兵達で確保してきましょうか」

「任せたわ。というかユキは居たのか」

「居ましたよ。マオさんに絡まれない様に気配を消していただけです」


 そこまであの自慢話を聞くのが嫌だったのか……分かる。

 その微妙に煙たがられてる元凶はおかしくなったせいか嵐の中に突っ込んで魚を捕る作業だってのにやる気に満ちている。


 結界符を持った面子はそれぞれ何処から調達したのか篭を背負って旅立っていった。

 嵐とは空から降ってくる魚を捕るもの……また新たな歴史が生まれたな。


「ところでフルート、ルリのあん畜生は何の役に立ってるわけ?」

「それはあんまりなお言葉。ルリ様は波を制御するという重大な役目を全う中ですよ」

「波か……確かにこの規模の嵐だと荒波どころか津波になってそうよね」

「その通りです」


 水の大精霊が嵐対策に必要なのか疑問だったが解消されたな。

 雨の降る量を減らすとかだったら帰ってきた瞬間バカにするつもりだったが、たまには労ってやるとしよう。


「噂をすればルリ様ですよ」

「……まだ嵐が来てる真っ最中なんだけど」

「ふむ、あの大泣きしてる様子から結構大変な事態になっているかと」


 フルートの言う通り迷子の子供の如く泣き喚きながらこちらに来ている。

 最近泣いてないなと思って泣き癖が治ったのかと思ったが違ったようだ。


「びぇ、主殿ぉ……大変なのじゃ、えぐ」

「異常気象で魚でも降ってくるんでしょ」

「そんな冗談を言ってる場合じゃないのじゃ!そんな魚が降るなぞ……馬鹿なっ!?」


 くっ、こんなアホと似たようなリアクションをしてしまった自分が憎い。


 てか泣きながら来るほど大変な事が起こったんじゃないのか?

 何を空から降る魚に見とれてるんだと。


「はっ!……そうじゃった。大変なのじゃ!海から化け物共がやってきそうなのじゃ!」

「ほぅ、魔物ではなく化け物とはね」

「海の生物はあまり知られていません。どんな生物がやってきそうなのでしょう」

「うむ、どうやら嵐と共に移動してきた奴が数は分からぬが複数向かっておるのじゃ。どれ、水の大精霊であるワシが追っ払ってやるかと思ったのじゃが……」

「ダメだったと」

「海は魔境じゃ……あんな馬鹿デカイ生物が実在するとは思わないのじゃ」


 馬鹿デカイ生物ならすでにアトロノモスというデカブツを見てるじゃないか。何を今更。


「海の化け物を侮ってはいかんのじゃ……あれはアトロノモスの数倍は大きいのじゃ!」

「となると全長2、3キロぐらいありそうじゃない。そんな大きくて生きれるか疑問ね、盛ってんでしょ」

「ん?全長3キロぐらいの魔物ならいるよ?」


 ある程度魚が捕れたのか戻ってきていたマリアが割って入ってきた。

 というか実在するだと……なんというロマン。


「そんなの居るとかこえーな海」

「まぁ海の深さは最大で100キロはあるんじゃないかと言われてるしねー。そんな深くなった原因としてそういう馬鹿デカイ生き物が移動する毎に海底が削られていった説があるわ」

「その話も気になりますが、向かってくる生物の対策はどうしましょう?」

「海の生き物なら陸には上がれないでしょ」

「流石リーダー、的確にフラグを立てていく」


 まるで私の発言が原因で最悪の事態になるとでも言ってるかの様に聞こえる。

 まぁそんな都合の悪い事が起こる訳が……


「大変じゃ、精霊達によれば上陸した化け物がこっちに向かっておるらしい」

「私はきっと悪くない」

「今はそれよりも対処する方が先決ですよ、皆様に戻ってきて頂きましょう」


 そこまで慌てるほどの問題とは思えない。

 そんな巨体が陸でまともに動くのは無理。だからこそ海中で大きくなっているのだし。


 まぁ謎に包まれてる海中生物を拝見するのも嵐と同じく一生涯に一度あるかないかだろうし貴重な体験になるだろう。

 よし、その辺の村よりも大きい生物とやらを見せてもらおうか。

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