表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/245

幼女、追い掛け回される

『いやぁ、ホント参ったってんだ。俺様が居なけりゃ今頃あん畜生はあの世行きだったにちげぇねぇ、何やったっててんでダメ!一丁前なのは性欲だけだってんだから救いようがねぇ。それに比べて加護持ちの姉御の素晴らしさと言ったら』

「……」


 うるせぇなコイツ。絞めてから揚げにしてやろうか。

 馬車に向かってくる神獣だって言うから興味本位で迎えてやったのが間違いだった。ユキノジョウの側に居た例の鳥らしいがやたらとヨイショしてくる。

 というかヨイショしかしてこない。取り入ってもらう気満々と見える。


『にしても助かったぜ。加護持ちの姉御がアイツを何とかしてくれりゃ晴れて俺様も自由の身だ』

「何じゃ、お主は好きで奴さんの側におった訳ではないのか」

『冗談キツイぜ大精霊さんよー。俺様、というかガルディアンていう神獣はアイツみたいな世界に嫌われる奴が現れると同時に生まれんだよ、主に見張りが役目だがソイツが世界を害そうとした時は殺してでも阻止するって訳さ。対象が死ぬか加護が、いや加護というか呪いだな……ソイツが解けりゃ自由の身になれんのさ』


 つまり自由になりたいからアイツを何とかしてくれと頼みに来たって事だ。

 今まさに何とかしようとしてるのにウザい奴め。と言ってもこの鳥とユキノジョウは今回の作戦であるユキオに弟の身体を乗っ取らせよう作戦は秘密にしてるからこの反応も仕方ない。

 ちなみにユキノジョウには兄貴が居るから感動の再会しろ、って事になっている。やや強引だが頭悪そうだし誤魔化せるだろ。


『ちっくしょーめい、どうせなら俺様だって柔肌ぷにぷにの幼女の監視の方がしたいっつーの!はぁぁ……何であんなのの監視なんかせないかんのか』

「……」


 椅子がブルブル震えだした。椅子とは当然マオである。

 分かる。饒舌に語る鳥の背後に無表情のくせに殺意の篭った目をした殺人メイドが立ってるからな。


『おぐぇっ!?』

「やはり生ゴミは神聖な馬車内に入れるべきではありませんでしたね、捨ててきます」

「お願いするわ、うるさいもの」


 未だに機嫌が悪いみたいだな。頭に矢が当たった本人が気にしていないと言うのに。

 鳥をポイ捨てしてきたユキだが御者に戻らず再びリビングに戻ってきた。窓の外を見て見れば馬車は止まったまま。


「腹立たしい事に魔法が使用不可になる結界が張られているようです。恐らく矢を放った不届き者の仕業でしょう……しかし、広範囲にこの結界を張れる者などそうそう居ません。今回仮に取り逃しても名のある魔法使いを片っ端から殺していけば犯人に辿り着けるでしょう」

「やめなさいな後が面倒くさそうだし。しかし困ったわね、進めないって事でしょ?」

「いえ別に。目の前の雪を薙ぎ払って進めばいけます。しかし普通に降りて走った方が早いでしょう」


 つまり遅れは出るがぬくぬくのまま馬車で行くか時間を取って走って行くかのどっちかって事か。

 そんなん寒いから馬車のまま行くに決まってんだろ。


「ではこのまま強引に向かうということで……」

「お」


 ユキが窓の外を見ながら固まったので釣られて窓の外を見る。

 すると一瞬だったが何やら黒い物がかなりの速度で落下していった。直後に落下した時の音であろう岩が破壊された様な音。

 振動は無かったからそこまで大きい物が落ちてきた訳じゃ無さそうだ。


「大きさとしてはほんの数十センチ程度の落下物、それでもあの音と空気の振動から察するにかなり上空から落ちてきたみたいです」

「隕石かね」

「どうでしょうね」


 私的には今落下してくるとしたら災厄じゃないかと思ってる訳だがどうだろ。

 妙に小さかったし特に脅威も感じない。

 ただ落ちた場所がユキオが封印されてる場所だとすると偶然とは思えない。ま、実際に行って見て確かめるのが一番だな。


「獲物を取られない程度にのんびり行きましょうか」






 のんびりと言ったがあれは嘘だ。

 いや私はのんびり行こうと思ってたがユキとメルフィが燃えていた為にかなり早く現場に着いた。


 何故か途中で結界が消失した事で魔法が使える様になったので再び雪を溶かしながら来たが、よく考えると結界が無くなったって事はすでに何者かによってユキオが退治されたのかもしれないって事だ。


 私の考えではさっきの隕石か何かが関係してると思うのだが。


「穴が空いてますね。恐らく降ってきたものによって出来たのでしょう」

「……この結界を物理で破るのは有り得ない。降ってきたのは隕石じゃない」

「となると災厄でしょうか……しかし穴の中には何も居ませんね」


 そう、困った事に何も居ない。

 目的であるユキオが居なくちゃ何しに来たんだって話だ。すでに倒されたとしたら作戦がパーになってしまうので非常に困る。


「……穴の中には本当に何もないわね。逆に怪しいわ、2000年経ったとはいえ骨の残骸くらいはあると思ったけど」

「確かに、穴から這い上がって何処かへ行ったのかもしれません」

「いえ、近くに居るかもしれないわ。戻りながら探しましょう、ただし皆固まってね」


 相手の強さは未知数だ。メルフィがあれほど言うくらいだし相当な力を持っているのだろう。それに災厄の力が合わさっていたとしたら脅威なんてもんじゃない。


 封印されていた穴の向こうは崖になっている。海に落ちて逃げた訳じゃないなら周りの木々の中に紛れ込んでいる可能性が高い。

 奇襲も有り得るから注意しないといけない。

 とりあえず戻ってナキリ達と合流するか……ひょっとしたらユキオの意識が乗っ取られた事でユキノジョウの呪いも解けてるやもしれないし。


 注意しながら来た道を引き返していくが特に怪しいモノは見当たらない。

 相手が相手なので気を引き締めていかないといけないのだが……


「うぷっ……お、ぉぉ……」

「の、じゃ……」

「お二人とも、お辛いのでしたら国で待っていても良いのですよ?」


 そうしたい。馬車で横になってても辛いこの拒否反応。

 ナキリ達との距離が近付くにつれて酷くなるこの症状、もう側に居たら死ぬんじゃないかと思う。


 だが逆に言えば呪いが継続中って事はユキオはまだ魂だけとは言えこの世界に存在してると言う事だ。


「……そうだ、奇跡ぱわーを使おう」

「いやいや、戦う前に気絶してどーすんのよ」

「起きてようがこんな状態ならどの道まともに戦えないわ」

「……そんだけ普通に喋れるなら大丈夫なんじゃない?」


 ……?

 確かに、吐き気は未だ酷いが段々と治ってきている、気がしないでもない。

 いや、あと数分もすれば快復しそうだ。


「治ってきたわ。ユキオが死んだのかも」

「えっ、困るじゃない!」

「……ルリさんはまだ大変そうですよ?」


 確かにマオの言う通り以前としてルリはのじゃのじゃ突っ伏している。

 私だけ症状が無くなった感じか。しかし何故急に……加護と反発してあの状態になっていたのだから加護が消えたのかね。


「いや、うぷ、主殿の加護は、消えてない、のじゃ……ぅぇ」

「ふーん、なら世界が私を不憫に思って何とかしてくれたのかも」

「へぇ、つまりルリっちは世界にとってどうでもいいのねっ!」

「可哀想です」


 実際の所は分からんけどな。

 これでまともに動けるのだから誰の仕業かなどどうでもいい。目先の獲物が先だ。


 しかし結局獲物を見つける事が出来ずにナキリ達と合流するに至ってしまった。


「困りましたね」

「ここは発想を変えるのよ、身体欲しさにユキノジョウを狙ってくるならこのまま待てばいい」

「ではしばらく待ってみましょうか……暗くなったら諦めてお母さんを狙った不届き者を探しましょう」

「そっちは諦めなさいな。何の手がかりもないじゃない……魔力だけで誰だか探せるなら別だけど」

「ぐぬぬ、口惜しいですね」


 それにしても、と窓の外を見る。正確にはユキノジョウとやらを見るが……なるほど、負け犬の面してやがる。

 やたらと上機嫌なナキリに語りかけられてうんざりしてるようだ。


「顔面格差社会の勝者として調子に乗ってるに違いないわ」

「顔面だけじゃなくて実力も格差社会だけどね」


 何を話してるか知らないがナキリの見下した目は中々に好感がもてる。恐らく災厄の影響によって少なからず性格が悪くなってんだろうけど。

 ちなみに女性陣もユキノジョウに対してあまり良い感情を持ってないと見える。これは多分例の呪いのせいだろう。


 私達、というか私は未だに直接ユキノジョウと会ってない。

 吐き気も治まったことだし会ってみるのも一興かね。


「……お母さん、あの林の向こう、見えますか?」

「向こう?……見えないわね」


 ユキの指差す方を目を凝らして見るが特に異変は……あった。

 僅かではあるが蠢く何かが見える。

 こう遠くでは全貌が確認出来ないが、どことなく動きが異常だ。


 他の面々もその存在に気付いたのか緊張した面持ちだ。

 外にいるナキリ達は気付いてなさげだが。


 段々と姿が見えてくる事からしてこちらに向かって来ているのは明白だ。

 目的は、あれがユキオだとしたら弟が目当てなのだろう。


「外に出て出迎えてやりましょう」



☆☆☆☆☆☆



『いやぁ、抱っこされる姿も惚れ惚れしますな、流石は加護持ちの姉御!』

「黙ってろ鳥、会うのは初めてねユキノジョウ。なるほど、近くで見ると益々負け犬の面だわ」

「え、はは、初めまして?いきなり手厳しいですね」

「誤解しない様に言うけど、顔が悪いとか言ってる訳じゃない。これまで会ってきた負け犬共と同じ様な顔してんのよ、自分じゃどうしようもない、どうせ何も出来ないって言ってるカスと同じ顔。ついでに演技くさい喋り方も反吐が出る」

「とても初対面とは思えない罵倒」

「いや、堂々とここまで言うといっそスッキリするものよメルっち」


 けっ、何とでも言え。絶句するだけで良い返す事もしないカスにマオはやらん。

 化けの皮を剥いでやりたい所だが時間がない。

 すでに何だか分からない奴は結構近くまで来てるのだ。


 およそ数百メートルの距離はあるが、その何だか分からない奴の姿は大体分かる。

 黒い人型で頭を左右に結構な速さで振っている様は不気味としか言い様にない。


「何だか分からない奴としか言えないわ」

「あたし知ってる。きっとあれはくねくねよ」

「気持ち悪いです……」


 あの頭を振りまくる動作に何の意味があるのだろうか。

 こちらに恐怖心を与えるという目的なら達成出来ているけど。流石にあれにはナキリ達も引き攣った顔を向けている。


「マリア、一応鑑定して」

「……むぅ、よく分かんない。名前が上手く見えないわ、ただユキオって言葉は見えるから標的に違いないと思う。色はオレンジ、ちょっと手強い相手ね」

「先代より弱いならザコよ」


 さて、相手がユキオなら問題ない。まずやるとしたらアレだ。

 ユキに目配せをし、作戦に移る。


「へ?」


 ボケっと突っ立っていたユキノジョウを縛り、生贄の如くユキオの向かってくる方向にセットした。


「さあ感動の再会よユキノジョウ。あそこに見えるはあなたの兄、2000年前に召喚されて散々暴れた後に封印されたアホウよ」

「に、兄さん?」

「そう、あなたの兄はこの世界に害をもたらした。そして今日私達が正義の為に始末する、あなたは兄弟として連帯責任として罪を償ってもらう」

「そんな無茶苦茶な!?」


 無茶苦茶だろうが知った事か。恨むならこの世界に呼んだ兄を恨め。

 そもそも世界に嫌われる人生を送る方が悪い。遅かれ早かれ理不尽に死ぬだろうしここで死んでも一緒だ。


「うっさい。異世界人に人権なんてねー」

「助けてナキリさん!?この幼女外道ですよっ!?」

「今日も女神様は美しいですね」

「ふふん、あたしが見込んだだけの事はあるわねっ」


 残念ながらナキリはマリアとの再会に夢中だ。くふふ、貴様に助けなど来ないぞ。

 もはや後数分、いや数十秒の命だな……ふ、尊い犠牲だった。


「まだ接触すらしてませんが」

「先に言っておこうかと」


 弟に気付いたのか、さっきより早い動きで近付いてきた。

 それに伴い頭の動きも見てるこっちが頭痛くなりそうなほど激しい。


「ひゃあああぁぁ!?ちょっと、助けてっ!?」

「黙れカス。クソみたいな人生送ってきたカスだとしても最後くらいは役に立って死ね」

「よく知りもしない相手に何故そこまで暴言を吐けるのか」

「私は自分の人生を諦めて生きる奴が嫌いなの。コイツの顔はそう語ってる、諦めてんならさっさと死ねばいいのよ」

『ぶひゃひゃひゃ!最高だな姉御、俺様はアイツの経緯を知っていてな……何でもこの世界には自殺したら来ていたって話だ。最初の方こそ人生やり直すぞって息巻いてたがご覧の有様だぜ』


 一度自殺したってんなら死んでも構わないな。よし、罪悪感を持たずに済んだぞ。

 だが多少話は違うのだろう。死んだらこの世界には来れない。

 死ぬ寸前のユキノジョウを兄が召喚したと思われる。


「けっ、どうせ今まで苛められてきた口よ、前の世界で生きるのが辛くて死のうとしたくせに誰も自分を知らない世界に来たからやり直せるとか思ってたんでしょ。この世界はカス野郎に都合の良い世界じゃないのよ。嫌われて当然だわ」

『ご尤もだぜ姉御』

「さて、ナキリ達にも作戦を話しておきましょう。ユキノジョウの身体が兄の残骸に乗っ取られたら全員でボコる。これでもかってボコってメルフィがスッキリしたら適当な星に転移させる。以上よ」

「そ、そう……」


 上から目線で見下すのはともかく殴るのは抵抗がある模様。どうせ向こうでも知らない他人同士なんだから気にしなくていいのに。


「そろそろ接触するよっ」

「分かったわ」


 もうほぼ確認出来るほど近くまで来たようだ。

 全身真っ黒、限りなく黒にした黒というよく分からん感想を思い浮かべるほど黒い人型。

 それが頭をブンブン振り回してんだから普通なら悲鳴をあげて逃げるところだ。


「に、兄さん?これは罠だ!こっちに来ないで下さい!てか来るなっ!ぎゃああああぁぁぁぁぁ!?」

「よし、行け!さっさと乗っ取っちまえ!」


 すでにユキオはユキノジョウの目の前に立っている……正確には目の前で頭を振っている。何だ、頭の動きを止めたら死ぬのか?

 そしてついにユキオが黒い手を伸ばし――


「ぶっご!?」


 飛んだ。

 ユキノジョウが飛んだ。乗っ取るとみせかけて殴られたのだ。

 生贄にされたくせに殴られるとは散々な奴だ。酷い目にあってんだからせめて身体くらい乗っ取ってやれよ。


「くそ、拒否られやがった!」

「拒否られるとかぷふーっ、だっさ!」

「アホ!これじゃあ作戦失敗じゃないの!」


 運が良いのか悪いのか、殴られたユキノジョウはまだ生きているらしい。ただの一般人並の強さしかない奴がよく耐えたもんだ。

 しかしこうなるとメルフィの気が晴れるまで殴るのは難しいのではなかろうか。


「来るわよ!」

「散開しましょう。距離をとってから魔法で攻撃よ」


 まずは様子見として散り散りになって遠距離で攻撃をする。私もマオに手袋を借りてワイヤー攻撃で参加する予定だ。


「身体を乗っ取るって……良く考えたら黒いけど人型になってるし肉体とか要らないのかも」


 魂とやらがどういうモノか不明だが、あんな黒い生物な訳がない。

 恐らくあの姿は災厄を取り込んだ事によるものだ。


 ワイヤーを伸ばし、首を刎ねようとしたが当たらず空振りに終わる。いや、当たってはいる……実態が無いのか通りすぎるのだ。

 やっぱ幽霊相手は面倒だな、魔法でどうにかするしかないか。


「くそっ、何でこっちにきやがる!?」

「ナキリがお気に入りなようね」


 散開してるのに狙われるのはナキリばかりだ。同じ異世界人だからだろうか?

 何にせよこっちは安全に攻撃出来るから楽で良い。


 どうしようかと考えてるとマリアが走って寄ってきた。顔を見る限り真剣なので何か手を思いついたのかもしれない。


「リーダー、分かったわ!」

「でかしたわ、それでどうするの?」

「ユキオの奴、きっと不細工なユキノジョウの身体を乗っ取るのが嫌だったのよ!2000年も前の話だからね、きっと弟の事は覚えてても顔なんて覚えて無かったんだわ。そして都合の良い事にこの場にはナキリがいた……身体が馴染む云々以前にどうせ乗っ取るならカッコイイ奴の身体が欲しいじゃない。幽霊にだって、顔を選ぶ権利はある――」

「お前も最低だな」


 でかしてないじゃん。

 私も割かし真面目にふざけてるから強くは言わないが。


「でも実体はないけどすでに人型になれてるじゃない。もはや肉体とか不要なのかもしれないわ」

「何言ってんのリーダー、実体がなきゃエロい事できないじゃない。下半身種族である異世界人がエロを放棄する訳無いわ」


 謎の説得力である。

 今まで会った男の異世界人の事を考えると一理あるとしか言えない。


「しかしマリアの言う通りナキリの身体を狙ってるなら作戦変更して乗っ取られたナキリをボコって捨てるのがいいかもね」

「そ、それは許してあげて下さい」

「冗談よ」


 流石にナキリの仲間が黙っちゃいないか。


 状況は変わらず距離をとってどうするか考えてる真っ最中。

 ゴーストタイプの魔物と同じく魔法が通用するかと思ったが何と効かない。

 ユキとメルフィが放つ魔法は当たりはするがダメージがないのだ。


 相変わらずナキリを追いかけていたが強さの割に動きが遅いので捕まらずに済んでいる。

 だからだろう……奴はナキリを追うのを止めた。

 そして、一番狙いやすそうな奴を見る。つまりは私だ。


「くそ、幼女で妥協しやがった!私はどう見ても女だろうがっ!」

「お、お姉ちゃんの場合天罰が下ったんですっ!というかこっち来ないで下さいっ!?」

「黙れマオ!」


 姉である私を見捨てて逃げるとは何事だ!

 ムカついたので逃げるマオを追って走る。そんな私を追ってユキオも迫る。

 見た目とは裏腹に割と切羽詰まった追いかけっこだが、私が狙われてるとあってユキが側までやってきた。


「ユキ!」

「私が食い止めてみせます」


 違う!私を抱えて逃げる場面だここは!

 くそ、幼女の体力を甘くみんなよ!すでに限界だってんだ。


 後ろを気にしつつ走ってると、ユキが至近距離から戦おうとして――思いっきり後ろに飛んで逃げた。

 まるで食い止める気配がない。


「く、どんな攻撃をするのかと思いましたが、いきなり胸を狙ってきました。後ろに飛んでなければ揉まれるところでした」

「やっぱりエロいじゃない!」


 不気味な物体のセクハラに女性陣は戦慄している。

 もはや近付こうと思う者は居ないだろう。て事は後は魔法でどうこうするしかない。


 そして再開する私とユキオの鬼ごっこ。


「クソが!いい加減他の奴を狙えってんだロリコン野郎!」


 このままでは確実に捕まる。

 こうなったら手は一つだ。前を走って逃げるマオに向けてワイヤーを放ちぐるぐると巻く。

 腰から脚にかけて徐々に巻きつけていくと流石に気付いて足を止めた。


「な、何です!?」


 そのままワイヤーに縮めと念じればあら不思議、ワイヤーに引っ張られて私がマオの方向に飛んでいく。

 緊急回避にはもってこいの武器だ。

 無事マオにぶつかって停止したところで素早く後ろに回りこんだ。


「お、お姉ちゃん!?」

「いつだって、エロい事されるのはマオなのよ……」

「何言ってるんですか!?」

「リーダー後ろ後ろ!」


 マリアの焦った声に後ろを振り向けばまだ距離があった筈なのにすぐ近くまで迫ってきている黒人。

 動きはそんなに早くなかった筈なのにいつの間に。


「クソがっ、捕まってたまるか!マオバリアアアアアァァァァァ!!」

「ふぎゃああああああぁぁぁぁ!?」


 バチイイィィィン!!


「お?」


 何とも良い音がしたのでマオの背中をよじ登って確認してみると……結構離れた位置でビクンビクンしながら倒れてるユキオが居た。

 マジか……音から察するにマオがビンタしたんだろうが初めて物理が効いた事になる。

 何をやったのだこの娘は。


「うわあああああああぁぁぁぁん!お姉ちゃんが盾にしたああああああああぁぁぁぁ!!」

「まぁ落ち着きなさいマオ。アレを見るのよ、貴女の放った一撃であの様よ」

「へ……?」


 ビクンビクンしてるくせに頭を振るのは忘れない。

 倒れてるのはチャンスなのでここぞとばかりに魔法使い組がじゃんじゃん攻撃魔法を放っている。


「私はこれを狙ってた」

「うそつきっ!」


 当然だが誤魔化せなかった。マオの事だからすぐに機嫌も直るはず。

 とりあえず逃げる必要もマオを盾にする必要もなくなったようだしマオに巻き付けたワイヤーを回収する。

 よじ登っておんぶちゃん状態だったが面倒なのでこのままでいいや。丁度マオと重要な話をしなくちゃならなくなったし。


「何をやったの?」

「さ、さぁ?……とっさにビンタしたらあんな感じに」


 うーん、本人は自覚なしに攻撃したか。まぁマオだしな。

 ともかく攻撃が通用する手段があるとは分かった。後は考える役目として私の仕事。


 ユキは個人的恨みがあるのか炎の魔法を連発中である。あれは多分中級魔法だ。魔力がすっからかんにならない様に注意してればいいが。


 ナキリの仲間であるペペロッテともう一人もそれぞれ風と水魔法で攻撃しちゃいるが、例によって効果は薄そうだ。

 ルリはおえーおえーしてるから馬車の中である。


「ふふん、ついにサヨっちに借りた聖水の出番ね。これを杖にかければ殴れるわ」

「気をつけなさいよ。動きがとろいとは言えマリアより強いみたいだし」


 そこまで言ってふと思った。

 マリアより強い筈なのにここまで動きが遅いなんて事があるのか?

 2000年も前、殺す事が出来ずに封印するだけに終わった相手なのに……


 ここまで異世界人特有の妙な能力も使った様子が無い。メルフィの事を考えるに呪術くらいは出来た筈だ。


「もしや、私達が来る前にいた者達がユキオを弱体化させたのかもしれませんね」

「……そうね、そこそこ魔法の腕は良いみたいだったし能力を封じるくらい出来たかもしれないわ。それでもマリアの鑑定では脅威と判断されてるから油断は禁物よ。さっきも急に距離をつめてきたし」

「確かに、これを見てマリアさん以上には見えません」


 余程ビンタが効いたのか未だにビクンビクンしている。

 明らかにザコなのだが油断はしない。

 このまま他の星に捨てる事も出来そうなのだが、さてどうするか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ