表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/245

幼女、ダンジョンのお宝を頂く

「ふへへ、つかまえた」

「聞き捨てならないわね、捕まってあげたのよ」


 標的として狙われ続けて何かもう疲れたので捕まってみる事にした。

 どんだけ逃げても気付けば後ろに居るとか逃げるの無理だろ……特に敵意は見えないし大丈夫だと思うが。


 いざという時にはリンとマイちゃんが何とかしてくれるだろう……いややっぱリンだけが何とかしてくれるだろう。駄蝶に過度な期待は禁物である。


「大体なんで私ばっかり狙うのよ、あっちに活きのいい耳を持った奴等がいるじゃない。言っておくけど私の耳は削がせはせんぞ」

「そんなことしないよ?」

「しないのか」

「わたし、じぶん大好きだからしないよ?」


 自分大好き。つまり種族以外は同じ存在である私も大好きって事か。

 おぉ……ガキんちょのくせして良く分かってるじゃないか。一番大事なのは我が身だよな!


「何歳か知らないけどそんだけ幼い内から一番大事なのが自分と分かってるなんて見所あるわね、流石は私よ」

「ふへへ」

「二代目ちゃんってガキの頃からこんなだったのか」

「自分を大事に出来ない者は他人を大事になんて出来ないって言葉が」

「なにその名言っぽいの」


 私の耳の安全は保障された訳だが結局倒さなきゃいけないのだから難易度ハードのままである。

 今は背中に引っ付いている状態だが、このまま不意打ちで倒せないものか……


「その子をどうやって倒そうなんて余計な心配は無用よ」

「貴女が始末してくれるって意味?」

「ま、そういう事ね。もうこっちに用は無いからさっさと帰んなさいな」

「断る。まだダンジョン制覇記念のアイテムを頂いてないわ」

「うわぁ……ボス倒してすらいないのに報酬頂こうとかがめついわー」


 何を言っているんだこの馬鹿は。お宝も頂かずに帰るとか何しにダンジョンに来たんだと。


「もう脹脛食い千切った時点で私の勝ちでしょ?はよお宝寄越せ」

「元々あげようと思ってたけど何かあげる気失せたわ」

「ダンジョンのボスが負けずしてお宝をくれるとか斬新なダンジョンですね」


 そういう風になってしまう様なダンジョンに造った奴が悪い。

 お宝くれるならいいけど、背中に引っ付いてる奴を先に何とかして欲しい。知らない間に私のリュックの耳を奪ってそうで怖いんだよ。


 元々ここに居た魔物なだけあって宝の在り処を知っている偽フィーリアがお宝を取ってきてくれるそうだ。ついでに背中の幼女も持ってけよ。


「リーダーが偽リーダーを手懐けたおかげで安心したわ」

「いえ、いつ耳を狙ってくるか分かりませんよ」

「まぁ切られたらユニクスの血でもぶっかければいいだけなんですけどね……」

「耳削がれるとか精神的に嫌」

「ですよね」


 コイツらが恐れている恐怖の化身が私の背中に張り付いていると言うのに助けもしないとは薄情な奴等よ。

 多少警戒しつつ偽フィーリアを待っていると何やら3つほどアイテムらしきものを持ちながら戻ってきた。一つだけじゃないとは中々に豪華だ。


「いや、何か期待してるようだけど持って帰れるのは一つだけよ?」

「ケチ」

「いやいや、複数持って帰るとダンジョンの外に出た瞬間もれなく爆発する仕様なんだってば」

「どんな仕様よ」


 やはりここを造った奴は頭がおかしい。

 まぁこんなダンジョンを造った奴が残したお宝と考えるととんでもないアイテムかもしれないしいいか。


 偽フィーリアが持ってきたのは水晶玉っぽいのと鏡っぽいの、後は何故か小刀だ。


「で、どれがどういう効果あんの?」

「教えない。貴女が直感で決めなさい」

「ケチ」

「ふふん、脹脛のお返しよ。大丈夫よ、どうせ勘で決めたのが貴女に必要なお宝って事なんだし」


 勘でねぇ……コイツの言う事を聞くのも癪だけど、性能が分からない以上勘で決めるしかないしなぁ。

 ハッキリ言ってどれもこれも何の変哲も無いアイテムだ。

 どれも期待出来そうにないが、強いて言えば小刀が何となく良さそうに思う。


「小刀にするわ」

「へぇ……貴女の勘はこれを必要としてるのね」

「いえ、一番カッコイイから」

「見た目で決めてんじゃないの」


 だってナイフより強そうじゃん。

 そろそろナイフからランクアップして小刀くらい持ってもよかろう。問題は性能だな、これでただの小刀だったら捨てるしかない。


「で、これにはどんな機能があるの?」

「一緒にあったメモによれば反転刀って名前みたい。性能はそのまんま刺したものを反転させるんだって」

「イマイチ分かりづらいわね……何を反転させんの?」

「何でもよ」

「つまりお母さんがお父さんになったりも出来ると?」

「まぁ、そうね……え?お父さんになるの?」

「なる訳ないでしょ」


 しかし反転か……使えそうだ。いや使える云々の前にとんでもないアイテムだな。

 やはりこのダンジョンを造った奴は侮れない。コリャマイッタワーとやらには行かない方がいい。


 しげしげと小刀を眺めていると後ろから何か聞こえた気がした。


「何か言った?」

「いってないよ?」

「……気のせいか」

「いってないけど、リュックからなんかきこえたー」

「こら、勝手に私のリュックを漁るんじゃねぇ」


 何て手癖の悪い幼女だ。

 しかし私のリュックから聞こえたって事は通話符を使って誰かしらが連絡してきたのかもしれない。


 というか今何かニボシの威嚇っぽい声が聞こえた気がするので可能性が高くなった。


 一応確認する為に通話符を取ろうと思ったが幼女が張り付いてるし面倒だからリンに頼んで取りに行ってもらう。

 一分ほど待っているとリンが通話符を手に肩に戻ってきた。


「……お、ありがとうリン。何か聞こえた気がしたのよねー。具体的にはニボシの威嚇とか」

『気のせいではありませんよ、良かった……やっとフィーリア様に繋がりました』


 何だキキョウか。

 ニボシの威嚇がしたからあのニボシが私に連絡してきたのかと思ったわ。


「わたし?だぁれ?なぁに?」

「この時代で私を呼ぶ奴とか誰よ」

「あんたらは黙ってろ」


 私の持ってる通話符なのにお前らに連絡してくる訳がなかろう。

 しかしキキョウが連絡してきたって事はまた何かしら厄介な事が起こったって事だろう。うわーめんどくせー……


「で、何かあった?」

『はい。もう外は大変な状態ですよ、ニボシ様によればあと数週間の内にニボシ様クラスの災厄がどこぞの次元から訪れるとか……その影響で間もなく大陸に上陸するほどの規模をもった嵐が来ますし、こんな状態だと言うのにナイン皇国がアホですし』


 ナイン皇国がアホなのは関係あるのだろうか……

 ふーむ……ニボシ並の奴がこの世界に来るとして、そんなに厄介な事になるのだろうか?


「何でまたそんな者が来るのでしょうね」

『どうもソレを引き寄せる様な存在がこの世界にいる様でして……それで私の考えとしましてはあのアザレアという少女が怪しいので行方を調べている所です』


 アザレアねぇ、確かトゥエンティで見た奴隷の娘だ。

 確かに不幸属性は持っていたが、災厄を招き寄せる程の影響力があったとは思えん。


「馬鹿ねキキョウ、恐らくアザレアが原因では無いわ。そもそもアザレアのせいで災厄とやらが来るならもっと早く来てるでしょうに」

『……言われてみれば』

『良かった。キキョウの推理が大した事なくて安心したわ』

『それはあんまりな言葉ですよ……』


 アザレアが原因ではないが、関係が無いとは言っていない。

 私はあの娘が不幸を周りに撒き散らすのだと思っていたが違う可能性もある。不幸をばら撒くのではなく招くのだ。


『しかし、困りましたね。ニボシ様によればその引き寄せる存在を他の星にやらない限り例の存在はこの星を狙い続けるそうなのですが……何か心当たりとかないでしょうか?』

「まぁ……あるわね」

『あるのですか……』

『え?あんの!?』

「ええ、マオとマリアが接触したと思われるアザレアの飼い主。たかが手を握った程度であんだけ不快な気配が纏わりつくなんて異常よ」


 アザレアの飼い主か……それもアザレアが招いたのかもしれないな。

 この世界自体に不幸を招くとは中々なもんだ。


『……つまりあの飼い主をとっ捕まえて他の星に追いやればよいのですね?』

「ニボシの言う通りならそうなんでしょうね。ただ、急に現れたって事はソイツも別の世界から来た可能性が高いでしょう。ヨーコやナキリを考えると一筋縄じゃいかない相手かもしれないわ」

『なるほど……まぁナイン皇国の勇者ラッシュでもう異世界人が何人来てようが驚きませんが』


 また勇者というなの奴隷を呼んだのかよ……あの国は本当に拉致が好きだな。


『ちなみにそのナイン皇国はサード帝国とフォース王国を潰そうと躍起になってますよ、この非常時に笑えますね』

「何でフォース王国なんか潰すのよ」

『自分達より上の大国など不要という事でしょう。例の実験体の件を大義名分に掲げて信者共や住民任せで潰そうとしてます』

「他人任せかい、だらしない国だな。というかその実験体の件はナイン皇国が無罪と判決してたくせにえらい掌返しね」

『そこはまぁ……教皇と大司教とで判断が違うんじゃないですか?』


 ふむ、教皇じゃなくて大司教とやらでも宣言出来るのか……


「その教皇ってのはどんな奴なのよ」

『表舞台に出ない人なので何とも。大体が神託という名の予言を言うだけですね』

「引き篭もりか。なら無罪判決も今回の有罪判決も大司教の独断かもね。教皇がフォース王国と手を結んで罪の無い民を使って実験してたとか言えば廃せるし、後に大司教が後釜に座れるでしょうし」

『実際は大司教側がフォース王国の実験に手を貸していたと言う事ですか……民を導くと称する国が嘆かわしい』

『しかし何とも小物が使いそうな手ですね』


 しかしナイン皇国のドタバタとか今はどうでもいい。

 こちらの問題としてはニボシの言う災厄と嵐か……だが嵐だけ防げばいいってもんじゃないよなぁ……


「嵐は例の奴の影響で生まれたんだっけ?」

『そうですが』

「だったら嵐をどうにかした所で影響がある限り次の災害が起きるでしょうねぇ、より酷いのが」

『……盲点でした』

『そんな事も分からないなんて狐は馬鹿なのです!』

『ぐふ……で、ですから次の災害が起きない様にアザレアの飼い主を探すのでしょう!?』


 私も思ったがニボシが大ダメージを与えた様なので言わないでおく。

 しかし面倒な、厄介事ってレベルじゃないだろ。


 そもそも嵐はともかく何で災厄なんてものを私達がどうこうしなきゃならんのだ。それこそ勇者とやらに任せればいいのに。


「まぁいい、その件に関しては帰ってから話しましょう」

『承知しました。お早いお帰りをお待ちしております』

「……さて、どうするか」

「ダンジョンに潜っている間に中々に大事になってますねぇ」

「やっぱりあの不細工は災厄と呼べる奴だったのね」


 その例の不細工とやらが異世界人だった場合は元の世界に戻せば解決するのだろうか。

 まぁ、それでニボシ並の奴が来ないのならまだ楽で良い。


 違うか、アザレアの方も何とかしないといけないな。また厄介な奴をホイホイ呼ばれちゃかなわない。


「いやー、二代目ちゃんの時代も中々にハードみたいねー!」

「も、って事は先代の時代もハードだったんでしょうね」

「ふふん、私は強いからね。と言っても強そうな奴と言えば空飛ぶデカイ蛇くらいだったけど。まぁ結局一方的にボコボコにするだけだったわ」


 蛇が空飛ぶとか妙な時代があったものだ。翼でも生えてたのか?

 それは置いといて、帰らなきゃならないなら背中に張り付いている幼女も何とかしないと……と思って背中を見たら何時の間にか居なくなっていた。

 何処行ったのかと辺りを見渡すと偽フィーリアの隣に移動している。私が帰る事を察して離れたのだろうか……


「では地上が大変みたいですので帰りましょうか」

「そうですね……では創造主の偽者さん、割と痛めつけられましたがまぁ懐かしい気持ちになれましたよ」

「まだまだ雑魚なんだから精進しなさいな」

「私の考えでは先代を超えてたと思ってたけどねぇ……」

「はっ、私みたいにずっと天使相手に戦い続けてから言って欲しいわ」


 ふむ……確かに。サヨには強者との戦いの経験がまだまだ少ない、技術面だけ磨いてもダメって事か。


 その後も他の面々がダンジョンのボスだと言うのにわざわざ別れの挨拶をするという謎の展開を繰り広げている。

 どこか狂気の薄れた私の偽者にはユキのみが別れを惜しんでいた。もう置いていってもいいんじゃなかろうか。


「偽者の先代だけど、私からも言っておくわ。貴女の遺した置き土産はありがたく受け取っておくから」

「何の事かしら?」

「代償として他人の記憶から消えるってのに、何でルリとメルフィは貴女の事を覚えてたのかね?」

「偶然でしょ」

「……この過保護」

「はっ、フィーリアの名を受け継いどいて人間に嫌われてそうな貴女には身内が過保護なくらいで丁度いいのよ」


 ぐぬぬ……確かに初めて先代を見た時は何か神殿で信仰されてた気がする。いや待て、今私が住んでるのは神殿じゃないか。何だか知らぬ間に先代と同じ道を歩んでる感がしてきた。


「帰りますよお姉様」

「む、分かったわ」

「じゃあね二代目ちゃん、と他色々」

「ばいばい?」

「さようなら、何だかんだ貴重な体験だったわ……先代と、私じゃない私」


 体験は貴重だが得られたものは反転刀とか言う小刀だけか。

 鬼畜なダンジョンの割にショボい報酬だったな。



☆☆☆☆☆☆



「いっちゃったよ?」

「そうねぇ……どうしましょうか」


 このまま偽者の二代目ちゃんをキュっと絞め殺して自分も消える予定だったけど、何とも外が楽しそうじゃないか。

 外に出たいなんて贅沢は言わないが、何とかして外の様子を見ながら茶菓子でも食えないものか。


「次元からやってくる災厄とか、どんな奴か見たいわよね?」

「うん。みたい」

「よねー!よし、がめつい二代目ちゃんには言わなかったけど、ここには妙なアイテムがゴロゴロしてるしいっちょ使えそうなモンを探しますか」

「おー」


 ふははははっ!

 私はまだまだ消えないぞ!この時代で苦労する二代目ちゃんを笑いながら見てやるのだ!


「まずは傷薬でも探しましょう……二代目ちゃんに食い千切られた足が地味に痛いわ」

「わかった」

「次に!外の世界を見れるアイテムを探す!分かったね!」

「うん」


 本当に分かってるのかは知らないが、まぁ頑張って探そう。見つからなかったら見つからなかったでそのまま消えればいい。

 というか今ここに居るのってらぶりぃ、じゃなくて奇跡ぱわーの使い手の初代と二代目、の偽者なのか……うーん、何とも素敵な組み合わせじゃないか。


「そとにでれるアイテムもある?」

「それは難しいでしょうね。そういうルールで造ってるみたいだし……」


 だが、私達ならばあの力無しでも奇跡を起こして出れるかもしれないな。

 ルールなんてものは破るものだし……抜け道を探せばあるいは。

 ま、取り合えず目的のアイテムを探そう、あと茶菓子。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ