表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
185/245

幼女とポンコツ教皇ちゃん

「この我がわざわざお前ら死ぬぞと伝えてやったというのにこの有様じゃ。なんじゃ?奴等は自分の命より権力の方が欲しいのか?」

「いざとなれば逃げればいいとでも思ってるのでしょう」

「アレから逃げられる訳なかろう……思ったより馬鹿じゃの」

「本気でヤバくなったらダンジョン内に逃げる算段らしいですよ」

「少しは考えた様だが、嵐は逃れても探知に優れるアレからは逃げられんな」


 まぁ生きてようが死んでようがどうでもいい奴等なのだが……また新しい人間を調教して我の思うように動くように誘導するのもそれはそれで面倒だ。


「そもそも強欲な大司教達なぞ死んで結構じゃないですか」

「いやいや、今の世に必要なのは悪みたいだからのぅ……それに折角我があそこまで傲慢に育てたのだし。まぁアレにこの星の塵芥共が滅ぼされたなら不要になるが」

「悪が必要とはおかしな世の中ですこと」

「善人ばかりだとなぁ……それが星を苦しめる事になったからのぅ」


 ふとこの世から悪人が居なくなったらどうなるか試したくなった。

 人心操作にもってこいなこの教皇の身分を利用しまくって数年どころか数十年がかりで善人が蔓延る世の中にしてみたのだが……


「まるで見てきた様に仰いますね」 

「実際見たのじゃ。というかやった。魔物にすら慈悲の心で接する狂人共が溢れかえってなぁ……おかげで魔物は増殖して星を穢し、魔物の命を散らして収入を得る冒険者達の地位は低下したわ」

「今の冒険者がボロクソに言われてるのも数が減ってるのもポンコツ様のせいでしたか」

「誰がポンコツじゃ。仮にも教皇に向かって吐く言葉ではないぞ」

「トカゲの神のくせにそんな失敗する方はポンコツ様で十分です」

「トカゲではないわ、龍神じゃ龍神」


 蛇でもないぞ?

 本来の我の姿はそれはもう一目見れば誰もが恐れ慄くカッコイイ姿なのだ。


 では今の我はと言うと、何故か知らんが幼女から成長しないというおかしな姿に生まれていた。


「しかし何故急にこんなちんくしゃに生まれたのじゃろうな……前世まではそれはもう威厳のある女神じゃったのに」


 まぁちんまいだけで別に不便はない。どうせ部屋から出る事など無いしな。


 今の言葉から分かる様にナイン皇国の教皇は初代から今代まで全て我が務めている。

 世界が善を求めるか、悪を必要としてるかの時代によって転生し直す事になったから何度目の生やら……


「ただ、仮にも龍神である我がこんな愛くるしいのは些か、なあ?」

「あぁ、その設定じゃなくてもポンコツぶりで威厳なんてありませんよ」

「設定いうな!我は正真正銘の龍神じゃ!」


 この従者、この国で一番偉い我に対して遠慮がないな。

 我の世話役は代々一人だけにしてきた。総じて忠誠心に厚く我の秘密を口外しない者ばかりだ。


「だと言うのに今代のお前ときたら」

「ご不満なら新しい者を従者に指名すればいいじゃないですか」

「いや、我に軽口を叩く従者というのも面白いやもしれぬ」


 従者などと言ってるが実際はただの世話役だがの。

 正直飯を作るのが上手ければ誰でもいいのだが、コイツは何か中身が気に入った。


「まとめるとあれじゃ、この我が世に蔓延る塵芥共を調和出来るように上手いこと調整しておるのじゃ。偉いじゃろ」

「人心を上手い具合に操作してるのは素直に賞賛しましょう」

「うむ。まぁ始めた頃は盛大に失敗して星堕としが来てしまったがの」

「星堕としが襲来したのもあなたが原因なのですかこのポンコツ」

「結果的に無事なんじゃからいいじゃろ」


 だがあの時は焦った。星堕としが来る気配を察知するのが遅かったらこの星は滅びを望み消滅していただろう。即時に修正できた我は自分で自分を褒めたい。


「件の星堕としはまだこの世界に居るのでしょう?ダメじゃないですか」

「いや、もう星堕としという存在はおらんぞ。どうやら一人の塵芥に一生命体にさせられた様じゃ。今のあやつは元星堕としじゃな」

「災厄の象徴を生命体にするなど出鱈目な方が居るものです」

「全くじゃ。まぁそもそもこの星自体がおかしいのじゃがな……」


 この星の生命力の強さは異常すぎる。何でこうなったのか知らんがたかが星の一つに過ぎないくせに次元より生まれた星堕としより上位の人間を生むとかおかしいだろ。

 そ奴に限った話ではないが妙な力を持った奴等もポンポン出て来ておる。


「ただ強すぎるが故に化け物を引き寄せるのも事実。かくいう我もホイホイ吸い寄せられてこの星に来たからの」

「ホイホイ来たのは分かりましたが、何でこんな所で教皇ごっこやってるんですか?」

「……何でじゃろうな。気付けば教皇になっておったわ」

「ふむ、長く生きすぎて脳に障害がある様です」

「我は健康じゃ!……しかし、何か忘れてる気はするの」


 うーむ、さっぱり思いだせぬ。

 教皇なんぞになったのは確か800年ほど前だったか?

 何かあって現在の立場に居るのだろうが、はて何があったやら……覚えてないというのも気味の悪い話だ。


「長年疑問をもたずに教皇やってるなんて流石はポンコツ様です」

「やかましいわ」

「まぁポンコツ様の痴呆は置いといて、どうするんですか?」

「何をじゃ?」

「のじゃロリが二番煎じ感が強い事です」

「違うじゃろ……この星に向かってきておるアレについてじゃろ」

「分かってるなら聞き返さないで頂きたい」


 ……何でこんな可愛げないのだろうか。

 初めて会った時はもっとこう……変わってないな。最初からこやつはこんなだったわ。


「アレの影響で発生した嵐についてはサード帝国におる自称魔王とやらが動けば何とかなろう」

「ほぅ」

「自然現象ではないのじゃからあ奴が持っておる無効化の力で消滅させる事は可能じゃ。ふん、あんなのでもこの星にやってきた意味はあったという事じゃな」

「では本命の方は?」

「一番なのは奴の襲来を阻止する事じゃが、大司教の阿呆共はあの調子じゃからもはや来ると思っておいてよいな……後は、星堕としの奴が例の国の奴等に助言しおったからそ奴等の行動次第じゃな。仮にアレが来たなら我はその時点で干渉せんぞ」


 災厄の象徴が塵芥共の為に助言というのも笑える話だ。そこまで入れ込む塵芥とはどんな奴かと覗き見した事はある。


「何と言うか……幼女じゃったな」

「あなたも幼女じゃないですか」

「じゃが物凄く既視感を感じるんじゃよなぁ……容姿もそうじゃが、何よりあ奴の力を我は知ってた様な」


 何処で見たかはさっぱり思い出せんがな。


 しかしまぁ、あれは人の身には過ぎたる力すぎるだろ。あんな力を持った奴なんて忘れるとは思えないが……まぁ思い出せんものは思い出せん。


「アルカディア女王ですか。これまでの行いを見るに中々の悪ですね」

「人間目線で見ればそりゃ悪、というか外道なんじゃろうがな」

「ふむ、ポンコツ様から見れば悪ではないと」

「あ奴はな、一生に渡って付き合うつもりがある者には手を差し伸べるがそれ以外には見向きもしない。じゃがそれは正しいと我は思う……」


 例えば道で飢えに苦しむ童に会ったとしよう。

 ここで不憫に思い食料を与える者は只の偽善者だ。自分は良い行いをした、一人の子供を救ったなどと思う奴こそ悪だ。

 偽善者のやった行いはその日の飢えを防いだに過ぎない。ならば次の日はどうするのか?

 また施しをするのか?

 毎日毎日そんな事をするお人好しは居ないとは言わんがほんの一握りにすぎん。


 本来なら童が本当に生きるつもりなら自分で行動すべきなのだ。

 だが一度施しを受けた弱者が自分から立ち上がる事は意外と難しい……偽善者の行為は弱者が立ち上がる機会を奪った事になりかねんのだ。


「フィフス王国での行いはどうかと思いますが」

「一族郎党皆殺し、大いに結構なのじゃ。復讐を考える者が誰一人生きていないのであればこの星に向かっておるアレの源である負の感情すら湧かんじゃろ」


 周りに憎悪の感情は持たせず恐怖を与える。まことに結構。

 塵芥共が皆そうであったならアレも生まれなかっただろうがこの広い次元、それは無理な話だ。


「全く、塵芥共は自己満足に浸る偽善者が多すぎるのじゃ……そ奴等のせいで我が苦労してると言っても過言ではないぞ」

「まぁ頑張って下さい」

「他人事じゃのう……まあよいわ、話は終わりじゃな。引き続き大司教の阿呆共の監視は任せたぞエレム」

「かしこまりました教皇ポンコツ様」

「違うわっ、我は教皇リーフィアだ」


 だがエレムは謝りもせずそのまま退出していった。

 うぬぬ……やはり幼女の姿だとなめられるのだろうか?



★★★★★★★★★★



「キキョウさんはナイン皇国の教皇をご存知ですか?」

「ぽっちゃりしたジジイじゃないんですか?」

「それは大司教です。まぁ表に出ない方なので知らないでしょうね、それはともかく中々面白い事が分かりましたよ」


 フルートさんが探りをいれると仰ってから早3日。

 面白い事が分かったそうですが現状の騒ぎを考えると全く面白くありません。


「まず一つ目ですが、件の騒動は大司教達が独断で行った行為みたいです。目的はナイン皇国の権威を増強すること……世界の危機を乗り越えられた場合は自分達の教えを行ったおかげだと告げ信者を増やす算段なのでしょうね」

「滅亡したら意味ないですがね」

「それなのですが、どうも奴等は滅亡に瀕した場合に逃げ切る手段を持っているようです。まぁニボシ様のように別の星にでも避難するのかもしれませんね。自分達が生き残っていれば自分達の好きな様に世界を再生出来る、つまり人類が滅亡しようが回避されようがどっちでもいいという事です」


 クソみたいに幼稚な計画ですこと。

 まぁこの危機に瀕してから時間はそう経ってないのでまともな計画を立てられなかったのでしょうが。


「回避された場合はナイン皇国が他国を差し置いてトップに立つなど夢でしかないでしょうに」

「それです。フォース王国は例の実験体の件で国そのものを潰せと、サード帝国に関しては異世界の者がこの世界を侵略するなど悪と称して討たせるつもりみたいですよ」

「誰にですか」

「フォース王国に関しては民や兵士に、サード帝国に関しては各国と召喚したとされる勇者達に。要するに自分達の手は汚さないって事です」


 フォース王国はともかく、あの自称魔王を倒せる奴などフィーリア様かニボシ様しかいないでしょうに。あの人の強さを知らないというのも残念な話ですね。


 しかし勇者達とはまた……複数系という事は何人か召喚したという事でしょうか。いともたやすく拉致する国ですこと。また上手い言葉で誘導してんでしょうね。

 伝説の存在であった異世界人がここ最近だけで随分と大安売りになりましたね。


「教皇は何やってんの?」

「先ほど言った通り表舞台には全く出てこないそうです。神託とやらを告げるだけ告げて後は放置なんじゃないでしょうか?それを良い事に好き勝手やられてるのです……ただ、どうやら今回教皇が告げた指示は種族問わず協力すれば危機を回避出来る可能性はある、だそうです」

「やってる事が全然違うじゃないですか」

「表舞台に出て自分が告げれば問題なかったのに……何で引き篭もってんのよ」

「理由は不明です。ですが教皇とやらはフィーリア様と同じく全く成長しない子供の姿をしているとか」


 ほぅ、それが引き篭もっている理由と関係あるのでしょうか。

 しかしフィーリア様みたいに成長しない者が他にも居るのですね。性別は不明ですが興味あります。


「よくそんな情報入手出来ましたね」

「確信はありません。大司教達がそんな事を言っていたので今は噂にすぎません」

「そう言えばあの子の友達に幼女な魔女が居たわね。その教皇とやらも人間捨ててんじゃないの?」

「なぜ紹介してくれないのですかアン様」

「いや、何処にいるか知らないし……」


 く、成長しない幼女がもう一人おられたとは……しかしフィーリア様のご友人ならばその内会えるかもしれません。期待して待つとしましょう。


「何なのこの幼女率」

「今の時代は幼女がトレンディなのですよ」

「犯罪臭漂う時代だこと」

「そろそろ真面目に話し合いしませんか?」


 フルート様は少々真面目すぎですね。

 しかし真面目にと言ったって情報を集めてる奴隷兵達が帰って来なければ会議にもなりません。


「嵐対策だけでも考えておきましょう。防ぐのが不可能だった場合は避難場所を指定しておかないと」

「避難場所……あそこでいいじゃないですか。マリア様がお造りになったユニクス達が避難してる空間。あそこなら嵐の影響など受けないと思いますが」

「どうしたのキキョウ……まともな提案するなんて変よ」


 どういう意味ですか。言っておきますが私の頭脳はフィーリア様の次に優秀と自負しておりますが。


「良い案です。となるとその空間に持ち込む物も今の内に決めておきますか」

「それ、フィーリア様達が戻ったらサヨ様に頼んで亜空間に土地ごと仕舞ってもらえばいいんじゃないですか」

「ふむ、生き物だけをマリア様の空間に避難させるという事ですね。流石に水竜は水が無いと困るでしょうから湖ごとになりますが」

「では話は終わりという事で」

「早っ」


 もういいではないですか……そもそも今日は休日だったのですよ?

 休みの日はニボシ様と過ごすと心に決めてましたのに……


「おい、いい加減遅すぎるのです。アイツと連絡する道具を貸しやがれです」

「なんと、ニボシ様が私の想いを知ってお会いに!?」

「そこの耳長、さっさと寄越せですー」


 おもいっきり無視されました。

 しかし繋がらない以上連絡を取りようがないと散々言ったと思うのですがねぇ……


 いや、ニボシ様の力ならもしかしたら。


「はい。使い方は分かるの?」

「我をガキ扱いするなですっ。えーと……おい、聞こえるのですか!こっちは色々と大変なんだからさっさと戻ってきやがれですっ!」


 ……


 ふむ、返事は無し。

 やはりまだダンジョン内にいらっしゃるのでしょう。

 とりあえずニボシ様の情報書き換えとかいう謎の力で何とか出来ないかと尋ねようとすると――


「……通話符から何か音してない?」

「もしかして繋がったのでは?ニボシ様、もっと話かけてみて下さい」

「ふしゃー!」

「威嚇しろとは申しておりませんっ!」


 これはダメだとニボシ様から通話符を受け取り、今度は私が話しかけてみます。


「フィーリア様、聞こえますか?フィーリア様ー?」

『……お、ありがとうリン。何か聞こえた気がしたのよねー。具体的にはニボシの威嚇とか』

「気のせいではありませんよ、良かった……やっとフィーリア様に繋がりました」


 後は戻って来て頂いて厄介事の対処を一緒に考えて頂くだけですね。


『わたし?だぁれ?なぁに?』

『この時代で私を呼ぶ奴とか誰よ』

『あんたらは黙ってろ』

「……アイツが分裂してるのですっ!?」

「何ですって!?通話符の向こう側ではいつものフィーリア様と舌足らずなフィーリア様、そして何かアダルティなフィーリア様が居るですって!?」

「言ってない言ってない」


 何で私はその場に居ないのかと嘆いていたらアン様に割とマジに蹴られたのでいつものぱーふぇくとなキキョウに戻るとします。痛い。

 向こうの状態がどうなってるのかさっぱり分かりませんが、話を聞いてくれるそうなので現在の状況を伝える事にしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ