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幼女と幼女

「ヤバイのが来るのです。だからさっさとアイツを呼び戻せです」


 フィーリア様の報酬は普通サイズのプリンを1日1個だった筈なのですが。


「おやまぁ、ニボシ様は我慢出来ない子だったのですか」


 バケツプリンを食べながらやってきていきなりそう要求してきたニボシ様。


「我をガキ扱いすんなです。これは報酬の先払いなのです」

「何でまた急に?」

「さっき言ったのです。ヤバイのが来るのです……ソイツが来たらもうプリンが食べられないかもしれないから先に貰っとくのですー」


 ヤバイのと言われても困ります。あのニボシ様がヤバイと言うくらいなんですからそりゃもうヤバイのが来るのでしょうけど。


「何ですか?ニボシ様みたいにこの星を破壊しに来る奴でも来るのですか?」

「馬鹿言えです。星を壊すのは我の領域なのです」

「ではそのヤバイと言うのは何しに来るのです?」

「お前達みたいに地上に這う塵芥共を消滅させに来るのですー」


 とりあえず私達の命がヤバイというのは分かりました。

 ただんな事言われてもなーって感じです。


「ニボシちゃんでも勝てないの?」

「……この弱体化してる身体から元に戻れば勝てるのです」

「それを戻すなんてとんでもない!」

「しかし何でまた急にそんな展開に」


 確かに急展開ですね。

 聞けばニボシ様と違って星々に頼まれて来る訳でもなく、かと言って標的を絞って狙ってる訳でもなく適当な星にやってきては地上に済む生物を皆殺しにする、そんな存在だそうです。


「何でそんなの生まれたのよ」

「我を生んだのが星々ならアイツを生んだのは星に住む塵芥共の感情なのです。この星だけじゃないです、別次元に存在する数多の星に住む塵芥共の負の感情が集まって生まれたのがアイツなのです」

「わー……ヤバそう」

「そう言ってるのです。だからさっさとアイツを呼び戻せと言ってるのです!我が特別に別の星に避難させてやるのです」


 それはフィーリア様でも手に負えない相手という事なのでしょう。

 あの方なら案外ホイホイ仲間に引き込みそうなもんですけど、流石に負の感情しか持って無さそうな相手では厳しいですかね。


「しかしフィーリア様はこの星を捨てて他の星に避難などしないと思いますが」

「むー」

「まあ対策を練ってみましょう。相手が規格外でも何とかなりますよ、フィーリア様にここを守る様にお願いされてるニボシ様もついてますし」

「むー!むー!」


 これは可愛い。戦いたくない相手だけどお願いされてしまってるから凄く悩むニボシ様いいぞ。

 しかし対策……聞いた感じ私達程度ではどうする事も出来ない相手ですからねぇ。


 フィーリア様は未だにダンジョンに潜ったままで連絡つかずですし。

 それとなく情報を流して世界中の国に知らせておきましょうか。






「どうやらナイン皇国の教皇が世界に危機が迫っていると御触れを出しているそうですよ」

「シュクミナル族のエルフの姫さんも大神木から同じ様なお告げがあったって」

「ヒノモトでも高位の巫女が神託を受けたとか」


 情報を流すまでもなく知られていた様です。

 冒険者組がギルドから持ち帰った情報が以上です。


 あの胡散臭いナイン皇国の教皇がこの危機を予見出来たのが意外でしたね。ただの金にがめつい宗教国家では無かった様です。

 こうして一斉に色んな所から世界の危機という御触れが出たおかげで世界はてんやわんやだそうで。


「ふん。世界に危機なんか来ないのです。危機が迫っているのは塵芥共だけなのです!」

「ニボシ様、何とかする方法はないのですか?」

「甘んじて滅びろですー」

「フィーリア様も死んでしまわれますよ?」

「む、むー……あるにはあるのです」


 あるんかいっ!とはしたないツッコミを入れたアン様も宥めつつニボシ様に先を促します。

 何とかする方法があるのならそれに賭けるべきでしょう。


「アイツは馬鹿なのです」

「はぁ」

「所詮は負の感情だけが集まって生まれた馬鹿なのです。考える知能もない愚か者ですー。適当にふらふら次元を移動してたまたま塵芥共が住んでいる星を見つけては殺戮を繰り返す阿呆です」


 中々に辛らつな言葉を吐くニボシ様。そんなニボシ様も素敵です。おっと、思考が逸れてました。

 つまりたまたま私達の世界が見つかってしまったと?


「違うのです。今回アイツは真っ直ぐにこの星に向かってきているのです」

「と言いますと?」

「たまーに生まれるのです……アイツを呼び寄せる目印になる様な存在が」


 目印……負の感情の集まりを呼び寄せる存在。


 なんでしょう、思いっきりそんな存在を最近耳にした様な。


「つまりその目印を殺せばよいと?」

「それではダメなのです。すでにアイツはこの星に目を付けているのです……この星から逸らすにはその目印となる存在を別の星に移動させればいいのです」

「なるほど、別の星に誘導するという事ですね」

「アイツが来るまで後一月はあるのです。でもアイツが近付くだけでこの星は様々な不幸に見舞われるのですー……あと一週間もすれば影響がある筈なのです」


 思ったより時間が無いようです。

 ただ、目印となる者……もしかしたら例の不幸少女かもしれません。


「フルート様、違っている可能性もありますが例の少女が原因かもしれません」

「アザレアと言いましたか……あの子にそこまでの力は無いと思いますが、まぁ今の所あの子以外に心当たりがありませんからね。探してみましょう」


 フィーリア様と連絡が取れない以上私達だけで動くしかありません。

 適当にやっといてと言われましたが、どう考えても適当で対応出来る案件じゃありませんよね……


 早くダンジョンを攻略してくれる事を祈りましょう。



★★★★★★★★★★



「くたばれ!」

「あぁ?てめぇがくたばれやっ!」


 何とも女として有り得ない様な口汚い言葉と共に拳をぶつけ合っているのは何を隠そう私と偽フィーリアだ。

 リーチの短い私が不利になるのは当然だがそう易々と負ける私ではない。


 はっきり言って相手の繰り出す攻撃は見えない。奇跡ぱわーで強化して尚だ。

 だったら予測して受け止めるなり避けるなりすればいいのだが、奴はずっと私の目を見たまま攻撃してくるので何処を攻めてくるのか分かりゃしない。


「ぐ、ううぅぅぅぅっ!」

「はっ!私の血を引いててその程度か!」


 てっきりパンチしてくると思ったら蹴りがきてまともにわき腹に食らい無様に地面を転がっていく。

 くっそ痛ぇなあの野郎!ライチと一緒でリディアのお守りなんか効きゃしねぇ!

 にしてもたった一回当たった程度で何がその程度だクソボケがっ!


「くそが、幼女のお腹を何だと思ってやがる」

「は、普通なら臓物をぶちまけてる筈だけどね」


 立ち上がろうとしたら勘が避けろと告げてきたので四つん這いの姿勢のまま後ろへ飛んだ。

 直後に私のいた位置で地面がドゴっと言う音と共に爆ぜた。どうやら偽フィーリアが私を潰そうとしてきたらしい。流石は私の勘だ。


 再び踏み潰そうとそのまま追撃を仕掛けてきたので今度はあえて攻撃を受けた。

 私のぷりてぃなお腹に二度目の激痛が走るが我慢だ。


「解せないわね。あの力を使ったのなら如何に私でも苦戦する筈なんだけど」

「……ぐひ、貴様には分からないでしょうねっ!」

「いっ!?だ、あだだ、いだああぁぁぁぁぁっ!?」


 腹筋の要領で跳ね起き偽フィーリアのふくらはぎに食らいつく。

 メギメギ言ってるのは私の歯か、それとも偽フィーリアの肉か。


「ぐうぅぅぅいいいぃぃぃ!」

「くぁ、マジかこの子!はな、せっ!!」


 ああ、離れてやるよ……貴様のふくらはぎごとだがな!

 奴が私を振り払おうと思いっきり足を蹴り上げたと同時にブチィっと噛み切ってやった。


「あだあああああああああああああぁぁぁっ!?」

「べっ……くそ不味いったらありゃしない」

「いぃぃぃっ!おチビがっ、まるで獣ね」


 噛み千切ってやったはいいが動きが悪くなるなんて事は偽フィーリアには期待出来ないだろう。


「ち、私がまともにダメージを受けたなんて初めてかもしれないわね……ふはっ、やっぱり私とまともにやりあえるのは身内って訳か」

「ふざけろ、私なんて何回大怪我した事か」


 天使殺しって事は何人もの天使をぶっ殺してきたんだろう?

 だってのにまともなダメージが初めてとかどんだけ化け物なんだ。まぁ当時は奇跡ぱわーも持ってたのだからそりゃ無敵だっただろうが。


 だがそれが仇になる事もある。初の激痛に内心さぞや焦っている事だろう。

 今の内に一気に畳み掛けたい所だが私のお腹も中々にヤバイ。


「よし、タイムよ」

「あぁん?今からあんたの髪を引き抜いて禿げにしてやるつもりなんだけど?」

「何この子孫!?」


 あーいてぇなーと親父くさい喋り方をしながらその場で胡坐をかく偽フィーリア。

 くそ、別に見たくはないがぱんつ見えねぇぞこの野郎。

 一応血は流れている様で私が噛み千切った場所から未だに血が溢れている。ざまぁ。


 相手は止血する様だが私はユニクスの血を飲んで全快するとしよう。恨めしい視線を感じるが無視だ。

 ボス部屋で戦闘を中断するとか何ともおかしな話だなぁとか思ってると不意に偽フィーリアが語りかけてきた。


「ふむ、二代目、いえペド・フィーリアちゃん。貴女は私の存在がどういったものか大体察してるわよね?」

「……合っていれば私達の記憶によって生まれたのが貴女。入り口にあった張り紙で自分達が想像した恐ろしい存在ってのを具現化したってところ?」

「頭良いわよねぇ……弱者の特権よね。この世界で生き残る為に知恵を使う。ただ半分正解ってところね」


 褒められた様で弱いとディスられた気がする。

 半分正解って事は私達の記憶から生まれたってのは合ってるって事か。


「貴女の言う通り私は貴女達の誰かが考えた恐ろしい相手って奴よ。ただ、貴女達の記憶から生まれたんじゃない……この世界の記憶から生まれたのよ」

「世界……?」

「そ、この世界が見てきたフィーリアという存在をこの場所で生み出したの。何が凄いかって世界が認証して生んだの事よね、種族は人間じゃなくなったけど私は確かにフィーリア。だからその天使の鑑定だってフィーリアって出てたでしょ」

「世界が認めて過去の生物を再誕させるとかどんなダンジョンなのよここは……」


 いよいよダンジョンを造った奴がおかしくなってきた。

 もはや魔法では有り得ない現象だ。造った奴は天使か異世界人かのどちらかか。


「ま、欠点はあるわ……それは本物と同じ存在を生み出すんだから本物がぐーたらだったらボスとして働かない。このシステムを造った奴はドラゴンとかその辺を想像してくれると思ってたんでしょ」

「貴女の事ね」

「私はちゃんと戦ったじゃん!」


 こんな鬼畜ダンジョンのボス部屋まで来る様な奴がドラゴン程度を恐ろしいなんて思う訳ないだろ。

 物語に出てくる魔王とかその辺を想像させて楽しむつもりだったのだろう。


「でもまぁ……私はここで今だけしか存在出来ないのよねー」

「外へ好き勝手に出歩かないなら安心した」

「……ふふふ、でも一つだけ方法はあるわ。貴女の力が私に戻ってくれば私はこの時代に復活出来る、その力を使ってね」

「ほう」

「要は貴女に継承されちゃってるから私にはその力がないの。どう?あなたサヨって名前付けられてたわね、もう一度私と旅をしてみない?……私の子供達が私を忘れないって事は分かった、だから今度はずっと一緒に旅出来るわよ?……二代目ちゃんが力を失えばね」


 要は私を殺すってんだろ?ちゃんと言えよ。

 ま、サヨが私を殺そうなんて思う訳がない。無いよね?


 だが相手は創造主、つまり母親だ。可能性はゼロではない。


「私がお姉様を殺すなど有り得ませんが?」

「聞いたか死に損ない」

「は、殺すのは私なんだけど。聞いたのは一緒に旅する気があるかを聞いたのよ。そもそも二代目ちゃんを殺す必要もない……要はらぶりぃすてっきが私を使い手として選べばいいのよ」


 ふふんとドヤ顔してるのが腹立つので不意打ちで顔を殴った。

 流石に怒ったのか今までより激しい攻撃をしてくるが何とか捌く。うぜぇな、髪の毛抜くぞてめぇ!!

 顔に迫るパンチを受け止めた所で偽フィーリアの攻撃が止まった。


 そして、勝手に奇跡すてっきが目の前に現れた。


「私の元に、帰ってきなさい」

「……意思のある武器ってのもこうなると面倒よね。ま、好きにしなさいな」


 奇跡すてっきが先代を選ぶのなら仕方ない。私がただの世界に愛された幼女になるだけの話だ。

 あれ?それだけでも結構凄い存在じゃなかろうか。


 自力でふよふよ浮いてる奇跡すてっきの動向を見守っているとゆっくりと先代の方へ向かう。

 おい、マジで行かれるとそれはそれで困るじゃないか。

 待つんだ奇跡すてっきよ、ここは私を選んで先代ざまぁな展開になるのが普通じゃないか?


「ぬぅ、こんなオバサンが良いっての!?」

「ばーかばーか!幼女ざまぁ!」


 く、この煽り方で同じ血筋だと分かってしまうっ!



『フィーリア様……私は奇跡すてっきです。今後はお忘れなく、それでは』



 不意に声が聞こえるとすいーっと私の手元に戻ってきた。

 わざわざ出てきたのはらぶりぃすてっきではないと伝えたかっただけみたいだ。


「ばーかばーか!先代ざまぁ!」

「ぬぅ、こんな幼女が良いっての!?」

「まさに似た者同士」

「仲良さそうですね」


 さて、無事偽フィーリアに力を取られなかった訳だが偽フィーリアを倒すにはちと厳しい。

 当然と言えば当然だけど、何せ偽フィーリアを一方的にボコボコにする力が欲しいとか願った訳じゃないし。


「さって、そろそろ再開しましょうか」

「いいわよ、ただし今度は私達はパーティで戦うけど」

「?……はっきり言うけどその娘達じゃ無駄死にするだけよ」

「ウチは私だけのワンマンパーティじゃないの、むしろ本来なら私が楽する側よ。貴女の懸念については心配無用、何故ならすでに全員で戦えば貴女に勝てる程度に強化してあるもの」


 それが私の願った事だ。初代と二代目の喧嘩ならあっちはあっち流、私は私流で戦わせてもらう。


「私は貴女と違って一人で何でもする気はない。たまに一人で戦う事もあるけどね……今回は特別な相手だから特別なおもてなしをしてあげるわ」

「なるほど……そういう事」

「もうバッチリ回復してるでしょ?ちゃんと戦える様に強化もしてある、後は貴女達のやる気次第だけどどうよ?」


 そう言われてやる気を出さない娘達ではない事を知ってる。

 散々やられたからか今度はやり返してやろうって感じだ。マリアからも今は怯えを感じない。


「当然やりますよ」

「わたしもですっ!」

「ふはははは!リーダーに強化してもらった今ならあたしに敵は無しっ!!」

「お姉様は創造主と違って私が居ないとダメな方ですからね……もちろんお手伝い致しますよ」


 返事は無かったがルリとメルフィも頷く事で返事してくれた。

 上等、この歩く理不尽を泣かせてやろうじゃないか。


「一人で何でも、ねぇ。本当にそうなら子供達なんて造ってなかったんだけどね」


 ボソっとした呟きだが私には聞こえた。

 そう言えば先代の事を忘れる忘れないとかサヨに言ってたな……


 サヨを旅の同行に誘った事も考えると案外先代も私達みたいにパーティで行動するつもりだったのかもな。

 考えられる事と言えば先代の奇跡ぱわーの代償は記憶だったって事だ。使えば使うほど他人に忘れ去られていったのだとしたら気絶なんぞよりよっぽどキツイ代償かもしれない。

 とはいえこうしてサヨも覚えてる事から身内には効かなかったようだけど。先代が身内にまで忘れられるのを恐れていたとしたら案外臆病者である。


 自己中で腐れ外道で理不尽な強さをもつ先代も人の子だったと思うとほっこりするわ。


「貴女達の姿は、私の思い描いていた理想かもしれない」

「んぁ?」

「結構いいわねぇ……こうして自分の子孫が自分には出来なかった事を実現させてるのを見るのは。さ、無駄話は終わり……殺すつもりでいくからそっちもその気で来なさい」


 明らかに殺意を感じる。殺すつもりという言葉に嘘はないらしい。

 格下相手に手加減する馬鹿ではないか、なんせ一度私に怪我させられてるしな。

 やられ役みたいな馬鹿が私のご先祖様な訳がない。


「一度の油断が死に繋がる、そう思いながら戦いなさい。いくわよっ!」


 返事も聞かない、様子の確認もしない。

 する必要がない。あの娘達なら自分達で考えて最適な行動をとってくれる筈だから。

 ……いいねぇ、これぞダンジョンのボス戦って感じじゃないか!


 一番弱いし一番死ぬと困る私がパーティ内ではトップの身体能力になっている。

 だから偽フィーリアに最初に接近したのは私だ。


「遅い!」

「お前が化け物すぎんのよ!」


 まだ攻撃する前だってのにいつの間にか偽フィーリアに後ろに回りこまれており咄嗟にガードしつつ後ろを向いたら蹴りが飛んできていた。

 最初に比べて遥かに重い一撃だったのでガードしていた腕が弾かれる。


 慌てて次の攻撃に備えるがマオがワイヤーを偽フィーリアに巻きつけ動きを封じていた。

 だが先代と同等ならそんなもの通用しないので私もすぐさま態勢を整えて攻撃に参加する。


「弱いのから潰すのがセオリーかな」

「っ!」


 まるで糸と同じと言わんばかりにあっさりブチっとワイヤーを引き千切るとそのままマオに向かう。

 さっきと違って今度は守る必要はない。


「まず一人っ!」

「ご、ぁ……」


 偽フィーリアのパンチをもろに胸に食らった様でまともに呼吸出来てないだろう。

 だが私はマオの救出には向かわない。


 あの娘の精神の強さは私が一番良く分かっている。マオが作るチャンスは有り難く使わせてもらおう。


「ん?……な、ちょ、放せ!」

「ふへ、わ、わたしは我慢強いんですよ?」

「大したもんでしょ、私の妹も!」


 マオの胸に穴こそ空いてないが偽フィーリアの拳が深くめり込んでいる。だがそれを意地でも放さないと言った様子でマオが奴の右腕を両手で握り締め封じていた。

 気を取られている内に私は偽フィーリアの背中に飛びつきおんぶされる形でそのまま首を絞める。


 如何に速い偽フィーリアだろうが取り付いてしまえば問題無い。このまま絞め落としてくれるわっ!


 空いている左手で私を掴もうとしてくるがそれを邪魔するのが私の娘であるユキだ。

 鞭を左腕に巻きつけ私の邪魔はさせんと踏ん張っている。


 両手が使えないなら当然足が出てくる。

 恐らく先にマオを蹴り飛ばして右腕を解放しようと思ったのだろうが甘い。


 偽フィーリアの足元が突如ぬかるみと化し沈みだしたのだ。

 やったのは当然ルリ、アトロノモスの時も思ったが使える能力だこと。

 しかし思いっきり首を絞めてるってのに落ちないぞコイツ……


「お返しだこん畜生!!」


 風穴空けられたのを根にもっていたのかマリアの怒りの拳が偽フィーリアの腹に突き刺さる。

 頑丈ボディに穴こそ空かないがそれなりにダメージを与えたのか呻き声が漏れた。


 だがマリアの攻撃は衝撃が大きすぎたのかマオの拘束が若干緩んだようでその隙を逃さない偽フィーリアが無理やりマオを振りほどき投げ飛ばす。

 運の悪い事に投げ飛ばされた先に岩がありマオのドタマがゴイーンとぶつかった。あれでより一層アホにならなきゃいいけど。


 一応頭を打っているので念のためマリアを向かわせてダメそうならユニクスの血を使用する様に伝えた。


「無事かマオっち!」

「ふへへ……ハードラックと踊っちまったです……」

「これは……判断に困るっ!」

「マリア、何かその娘妙な事を口走った気がするけどどうなの?大丈夫なの?」

「半々っ!」


 どっちだ。半殺しって事なのか?

 それだとヤバイので一応血をぶっかけとけと言っといた。


 だが人の心配してる場合ではなかった様だ。

 右手が自由になった偽フィーリアに首を絞めている腕を掴まれ無理やり外される。


 これはやられる、と思ったが何故か放り投げられるだけで済んだので華麗に着地して不審げに偽フィーリアを見つめた。


「ちょっとコイツを見なさい」

「なにそれ」


 どこで捕まえたのか偽フィーリアはぼやぁっとしてる良くわからない黒いモノを手に掴んでこちらに見せてきた。

 人型にも見えるしただの太い木の影にも見える。


「あ、あれもコリャマイッタワーで見た影みたいな奴です」

「ふーん。そいつが何よ」

「さっきの話だけど、この場所のボスは貴女達の恐れている生物を創り出したモノだってのは覚えてる?」

「ええ」

「コレがその核となる奴。私も元はコレね、コイツに世界から情報と能力が与えられて私みたいに誕生すんのよ」


 その核とやらがここに居るって事は、そういう事なのだろう。


「私達全員が先代を想像した訳じゃないものね」

「そういう事。さてさて、新たな相手はどんな奴なのかなー」


 ここでアトロノモスとか出てこようがまぁ何とかなるだろ。

 先代の事を想像したのはまぁサヨかルリかメルフィ辺りだろうが、他の奴等は何を思い浮かべたのか。というか私は何て考えたっけか。


 影がぐにゃぐにゃしだしたので何者かに擬態というか変化するのだろう。

 今の内にやっちまえば良い気もするがどうせ偽フィーリアに邪魔されるだろうからとりあえず静観しとく。


 その影だが予想に反して小さくなっていった。

 いよいよぶらっくうるふになるのかと期待したがどうやら人の形になっていく。


 ある程度人の形になってから段々と影から人へと変貌していき、何か物凄く見覚えのある人物が見えた。


 紅い髪を靡かせたゴスロリ幼女、どう見ても私だった。


「……味方に恐れられるとか大した子孫だこと」

「誰だ私を怖いとか思った奴は!?」


 見渡して目を逸らした人物がおよそ二名。そうか……犯人はサヨとユキか。


 しかし現れた私の偽者だが何か馬鹿っぽい。

 良く言えば知性の低そうな子供に見える。そんな昔の私を二人が知ってるとは思えないが……


 そんな子供と言えば何故ここに居るのか分からないのかキョロキョロしている。


「マリア、一応鑑定してみなさいな。この世界に同じ人物が二人居るとかえらい事よ」

「そこは種族の違いで大目に見てくれるかも、まぁ一応見て見るよ」


 実は私じゃなくて他のフィーリア一族かもしれないし。

 まぁあんな格好する奴が他にも居るとは思えないが。


「大変、あれはリーダーな様で違う様な良くわからない奴よ」

「何だそれ」

「名前は耳削ぎペド・フィーリア。名前からして耳を削がれる気がするわ!」

「意味が分からん」


 私は意味が分からん。が、何故か青い顔をしている者が複数名。

 うーむ、耳か……確か前にアンの耳を私が切り落としたとか言われた記憶があるなぁ。


「この二代目ちゃんやたらガキっぽいわね」

「全くだわ。こんな知性が無さそうな奴が私な訳がない」

「知らぬが仏ですね」


 ボソっと言ったつもりだろうが聞こえてんぞ。

 私の偽者って事は敵として見なくていいのだろうか……記憶があるなら味方に襲い掛かるなんて真似はしないと思うし。


「言い忘れてた。アレの色はリーダーと一緒で白よ。という事で強さは不明だわ」

「白なら弱いでしょ」


 と思うのだが、件の幼女が背中のリュックを降ろしじーーっと見つめだした辺りから背筋がゾワゾワしてきた。

 自分の筈なのにこの寒気、偽フィーリアなんか目じゃない。


 誰も言葉を発さない異様な雰囲気の中リュックをじっと見続ける偽者の私。

 良く見るとウサギのリュックの耳が片方千切れたのか無いのが分かる。


「たいへん……こわされちゃった……ウサギのおみみがなくなっちゃった……おみみのないウサギはモルモットになっちゃう」

「へー、その発想はなかったわ。流石ね私」

「くっ、聞き覚えがありすぎるセリフですっ」


 軽口を叩いちゃいるが内心結構焦ってる。何か偽フィーリアも異様な気配を察したのか距離を取ったし。

 虚ろな目をしながらおみみおみみとブツブツ呟く様は不気味としか言い様がない。

 これ本当に私かよ。


 やがて心の中である結論に達したのか虚ろだった目がこっちに向けられた。

 こっち見んな。


「つかまえたら……おみみ げっちゅ」


 ヨタヨタとこちらに向かってきた。ハッキリ言って遅い、のだがその遅さが逆に恐ろしい。

 こんな異様な奴をまともに相手してられない。

 何とか戦わずに済ませる方法を考えるか。

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