幼女、ダンジョンのボスに驚愕する
さっきから威嚇はしてくるが向かっては来ないボスっぽい魔物。
こちらから動かない限り何もしてこないのかもしれない。そうなるとこっちで攻撃出来そうなのは伸びる鞭を持つユキと伸びるワイヤー持ちのマオになる。
この選択肢なら当然ユキになったわけだが、やる気なさげに放たれた鞭は普通に外れた。
というか避けられたのか?
「急に居なくなったわよ」
「反対側の鉄の棒に止まってますよ。とんでもない速さで移動したか瞬間移動のどちらかでしょう」
おぉ……移動したのだとすれば過去最速の魔物じゃなかろうか。ユキが真面目に攻撃しても避けられてたかもしれない。
翼を広げた状態でおよそ3メートルといったボスにしては割と小さめな魔物なのだが、速く動く為に小型化してるのかもしれない。
「あの速度で嘴による攻撃を受けたらたまったもんじゃないですね」
「確かに。どうよマリア、久しぶりに鑑定してみたら?」
「おっけ。むむむ……名前はイーグルホークバード君で色は黄色だからそこそこ強いって感じかな」
「色々ツッコミどころがあるわね」
「鷹と鷲を混合させた魔物なのは何となく分かりますが、何故に君付け」
察するにあの魔物はこのダンジョンを造った人物によって生み出された合成獣みたいなもんだろ。
さっきまで威嚇するだけだったが、一度攻撃したからか俺の速さを見ろとでも言わんばかりに飛び回っている。だが攻撃してこない。
「ツイニデバンガキタカ」
「あのマイさんが存在感をあらわに!」
「居たんだ」
「失礼ね、ちゃんと一緒に干し肉食ってたじゃない」
鳥に対して強気になってるマイちゃんがやる気になったが、ぶっちゃけ速度で負けてる感がある。
やけに自信有り気だが秘策でもあるのだろうか。
「ソウ、カナラズコロスワザヲアミダシタ」
「へー、でもそれを言うなら必殺技よ」
「ソウ、ヒッサツワザヲアミダシタ」
「言い直すんだ」
相手は降りてこないし、下からの攻撃も当たりそうにないからここは任せるべきか。
でも必殺技については一応聞いておいた方が良い気がする。
「ソノナモ、バーニングアタック」
「凄い!名前聞いただけで想像がつく安直なネーミング!」
「マイちゃん煽んな」
「タダ……ココデハツカエナイ。ダカラタイアタリ」
「結局いつも通りじゃん」
バーニングになるには魔法か精霊魔法を使用しなきゃダメみたいだ。いよいよ精霊に片足突っ込んでた状態から精霊のなりかけになったな。
あからさまに信頼度が下がったのでマイちゃんが惨敗した時用に対策を考えるとしよう。
「襲ってこないのなら先へ進めばいいのでは?」
「倒さないと新鮮な肉が食えないわよ」
「合成獣とか食欲わかないのですが」
ふむ、言われてみれば有害物質でも有りそうではある。何せこんな場所でずっと生きてる様な奴だし。
となるとスルーして進んだ方がいいのか。
「しかし先へ進む道など無いので倒さないと現れない仕様かもしれません」
「そんな変なギミック造るの無理でしょう」
「……入り口ならある。上の方に」
メルフィに言われ、見上げてよーく見てみれば確かに足場と扉らしきものが見える。
あの魔物が上にばかり居るのはあそこを守っているからか……じゃあ結局倒さないとダメなのか。
「主殿、主殿」
「ん?」
ルリが袖を引っ張って何事か伝えてきたので目を向けると、手から水を滴らせるという謎のアピールが。
理解する為に見ていると今度は勢いよく水が零れだした。
「なるほど、ルリは手からオシッコするのね!」
「違うのじゃっ!精霊魔法が使えると言っておるのじゃ!!」
マジか。てことは普通の魔法も使えるって事か?
ユキ達に簡単な魔法で確認させてみると確かに使用出来るようだった。
「マリア殿が普通に鑑定を使っておったのでな、物は試しにとやってみたのじゃ……とはいえ精霊の数が少ないからそう強い魔法は使えんがの」
「そうか……マリアの空間が発動しないなら鑑定も出来ない筈。よくやったわ、珍しく活躍したわね」
「ふふん!」
「これで今日はまともな飯が食えるわよ」
「「おおっ!」」
亜空間に保存されている食料を取り出せると分かると皆やる気になった。久しぶりに温かい飯が食えるのだからテンションも上がるわ。
後はマイちゃんがちゃんと鳥をやってくれればいいのだが……
「グハァ」
魔法が使えると分かってる筈なのにいつもの体当たりで立ち向かって即効で撃沈する駄蝶。
見ててやはり速度で明らかに負けてるのが分かった。
というか幻獣に勝てるくせに一撃でやられおったぞコイツ。
「何でバーニングしない」
「アレハ、オノレスラモエツキルモロハノワザ」
「自分が必ず死んでどうする」
そもそもこうして生きてるなら訓練すらしてないって事じゃないか。使った所で避けられて自分だけサヨナラがオチだろう。
「マイちゃん鑑定すると強さはどうなの?」
「青だから弱いかなぁ」
「あれで幻獣は余裕で倒すんだけど」
「だってあたし基準なんだから仕方ないじゃん」
なるほど、別に全世界で平均的な強さを出す訳じゃなく鑑定を使う本人にとって脅威かを見るらしい。
考えてみたら当然か。
だが青って事は黄色の鳥より弱いって事か。割と厳しい。
「マイさんマイさん」
「……オオ!」
ユキが補助魔法をマイちゃんに施したようだ。
効果は知らんが何か光ってるので見掛け倒しと見た。
「ドウヤラ、ホンキヲダストキガキタ」
「ついにマイさんが本気に!」
他人任せのくせにこのセリフである。それをヨイショするユキもどうかと思うが。
この先の展開は見なくてもやられると分かるので信用ならないマイちゃんの背中に信用出来そうなリンを乗っけて見た。
お互い体当たりするだけという地味な戦いを見てるのもつまらん。きっとリンならこの見ても盛り上がらない戦いに終止符を打ってくれる筈だ。
流石に強化魔法付きなだけあって速度で負けてはいるが一撃でふっとばされる事はなく、押され気味ではあるが競り合っている。空飛んでるくせに力比べ的な戦い方とは……
この馬鹿な鳥も速度を生かさない戦いをしてくれるので何とも有り難い。
マイちゃんと鳥がぶつかり合ってる中、リンはぴょいんと鳥の方へ飛び移った。如何に速かろうが取り付いてしまえば関係ない。
流石はリンだ。マイちゃんとは頭の出来が違う。
そのまま頭を潰すなり胴体に風穴開けるなりすれば勝ちだと思うが、何を考えたのか羽を毟りだした。
頭から首にかけて次第に羽が無くなっていく……鳥も気付いてはいるがマイちゃんが邪魔するしリンは振り落とされないのでどうしようもない様だ。
「あれは……ハゲタカ!きっと喋れないリンさんなりの渾身のギャグ!」
「くそ、誰の馬鹿がうつったと言うの!」
「ユキじゃないでしょうか」
マイちゃんから伝染したとでも言うのか……
だが良く見て見ると毟られた鳥の首辺りに何やら宝石の様なモノが現れた。リンはそれを両手で掴み引っこ抜くとそのまま落下してきた。
引っこ抜かれた鳥はと言えば急に苦しみだして暴れ回り、壁にぶつかりまくってしばらくすると地面に落ち動かなくなった。
なるほど、あれが弱点というか鳥にとっての核だったか。リンは何故気付いたし。
結構高い所から落下したが特に損傷もなく着地したリンが戻り、私に例の物体を差し出してきた。
受け取って見て見るがただの赤い宝石にしか見えない。
怪しい物体にはあまり触れていたくはないが一応売れそうな気はするので貰っておこう。
そして久しぶりの温かい食事タイムである。やはり鍋はいい……茸と言えば鍋だわ。
仮にまだ先があって再び魔法が使えなくなるって事も考えてリュックに食料を補給しておく。
「では先に進みましょうか」
「梯子で上る様ですね」
ほう、梯子とな。ならば私は一番最後に上るとしようか、理由なんて一つしかない。
先に見てもつまらんズボン組に上がってもらってからが本番だ。
「……見て面白い?」
「白ばっかりなのはイマイチ」
私とユキ以外の全員が上がったので私達も行くとしよう。
ユキが私を抱っこしたまま器用に右手のみで上がり、頂上に到着すると未だ扉は開けられていなかった。
さっさと開けりゃいいのに何をしてんだと思ったら扉に張り紙が貼ってあるそうだ。
「くっくっく、イーグルホークバード君は所詮ダンジョン三羽烏の中でも最弱……速さ以外取り柄の無い我らの面汚しよ」
「何発症してんのこの娘」
「張り紙に書いてあるそうです」
わざわざノリノリになって読んでいるらしい。
さっさと開けないで律儀に待ってる辺り私じゃなくてもマオに甘いじゃないか。
『さあ、入ってくるがいい。このアイスタイガースネーク様が直々に殺してやろう』と次の部屋に居るボスの弱点を教えてくれた所で読み終わったようだ。
そして触れてもいないのに扉が開いた。
「入りますか?」
「あれだ、この魔法が使えるエリアから一気に火の魔法でやれない?」
「あっちのエリアでも使えるならいけそうです」
「待ってリーダー、タイガースネークってどんな姿してるか見たいかも!」
そりゃ虎の尻尾が蛇になってるだけの魔物だろ。
だがどうしても見たいと言うので仕方なく中に入って見た。
すぐに青白い虎の姿を確認出来たが、蛇要素が見当たらない。
「ただの虎じゃん」
「いえ、威嚇してる今なら分かりますが、舌が蛇の舌になってます」
確かに蛇の舌の様にチョロチョロしてるけど……何の意味があるんだ。
観察してると襲ってきたのでマリアに任せておく。
ハゲタカには劣るが結構な速さで向かってくる虎、口を開けて噛み付こうとしてきた虎の牙を両手で掴み足で下顎を思いっきり踏んづけるとあっさり顎が外れたみたいだ。
そして口の中に手を突っ込みふんぬっっとマリアが舌を引っこ抜くと何故かこっちに持ってくる。
「要らん」
「何で!?リンからは受け取ったくせにっ!」
宝石と獣の臭い舌を一緒にするなと。
どうせなら宝石を持って来いとジタバタもがいてる虎に向かう様告げると渋々歩いていった。
マリアが相手だと魔物の強さがさっぱり分からんな。ハゲタカと一緒ぐらいだとは思うが。
鬱陶しく動く虎を止める為に脳天に鈍い音が聞こえる程の拳を叩き込むと虎はそのままごろんと倒れた。
弱く感じるだろ?……多分強いんだぜ……
首筋辺りをもそもそしてるとお目当ての宝石があったのかブチっと引っこ抜いて持ってきた。
「赤い宝石、一緒みたいね」
「マリアさんの鑑定で分からないのですか?」
「あたしは生き物しか出来ないから」
意外な事に全て鑑定出来る訳ではないようだ。
まぁ何なのか分からなくても宝石として売れれば問題ない。
さて、三羽烏って事は次で最後か。
例によって上の方に扉が見えるので上がれって事だ。
例によってぱんつを眺めた所でさっさと進むとしよう。
張り紙が再び書いてあったが今度は無視して扉を開けようとしたが、馬鹿力軍団でも何故か開けられなかった。
どうやらこれまでの様に蹴破るは通用しなくなったらしい。
「読まないと開かないのでは?」
「ならメルフィが読んで」
何で私がと渋るメルフィだが、ここで文句言っても仕方ないと棒読みで『所詮やられた二匹は三羽烏の数合わせ』うんたらかんたらと読み終わった。
だが開かぬ。
「開かないじゃない」
「読まされ損」
「……まさか、マオさんの様にやたら感情を込めて読まないと開かないのでは?」
マジか。こんなのも罠の一つだったのか。
こんな思春期の少年が考える様な文を感情込めて読む奴なんて早々いないぞ……マオが居なければ詰んでいた。
実際再びマオに普通なら恥ずかしい文章を迫真の演技で読んでもらうと普通に開いた。
まさかマオが攻略に必要な存在になる日が来るとは思わなかった。
「次のボスの名前は有りませんでしたね」
「ラスボスだからじゃない?」
「まぁ入ってみましょう」
今度はすぐにボス部屋になる訳ではなく長い通路を歩かないとダメらしい。
ほんの5分程度進むとまた扉が有り、これまた張り紙がしてあった。
また恥ずかしい文章を読まされるのかと思いきや、たったの一文が書いてあるだけだ。
『誰も抗えない最も恐ろしい存在に勝てるつもりなら入れ』
何だろうか、ぶらっくうるふでも居るのか。
最も強いのなら星落としでも居るのかと思うが、今はウチでのんびりしてる筈だし。
「これまでの2体を考えると大したボスが居るとは思えないのですが」
「ここを造ったのはやらしい奴よ。楽勝と思わせといてとんでもない奴が居るかもしれないわ」
「恐ろしい奴か……あ奴以外思いつかないのじゃ」
「同感」
うーむ、慎重になるべきなのか……今更帰還するのも勿体無いとは思う。
他のメンバーの表情をちらっと盗み見る限り行く気満々らしいし……
「覚悟を決めて行くか……」
「そんな大げさな」
「余裕かましてると誰か死ぬわよ」
道中の殺す気しかない罠の数を忘れたか。
私の注意に身が引き締まった所で扉を開ける。開けるというか触れたら勝手に開いた。
すると、目の前に現れた空間は何故か外の世界の風景だった。
空もある、木々もあるし草花もある。
いつぞや見た骨が管理していた地下世界みたいだ……残念ながら現在の異世界の植物に侵食された世界と同じだが。
皆もいきなり現れた風景に驚いている様子。
こんな広い空間このダンジョンにあっただろうか……サヨみたいに空間を広げているのかも。
肝心のボスは何処にいるのだと見渡すと、木々の中に寝そべっている人物が一人。
そう、今まで魔物だったくせにどう見ても人型だ。
そしてのそりと起き上がりダルそうにこちらに歩いてくる。
「は?」
その姿を見て誰が声を発しただろうか……
ここに居る筈の無い人物が目の前に。
ある者は畏怖を。
ある者は驚愕を。
そして私は胡散臭そうな目を。
「んぁー……誰か来るとは思わなかったー……めんどくせー」
「んな馬鹿な……」
「創造、主?」
私と同じ紅い髪に紅い目、いつぞやのマリオネットと似た神官服。
私と言うより母に似たその姿、ダルそうな表情はまさしく以前見た初代フィーリアそのもの。
「いや偽者でしょ」
「で、ですよねー」
「う、うむ……なのじゃのじゃ」
焦る私達の前で何故かストレッチを始めた偽フィーリア。
眠気が取れたのか先ほどよりマシな表情で私達に向かい合った。
「誰が偽者よ二代目ちゃん……まともに会うのは初めてね。前にあった時は白いモヤモヤだったしねー」
「……」
……マジかコイツ。何でその事を知っているのだ。
「小さい頃の私にそっくりねー」とケラケラ嗤う先代が異質なモノに見えてくる。
本物……?いやいや有り得ねー。
「サヨ、貴女から見てどう?あれ本物?」
「いえ……そんな訳ない筈ですが」
「私もそう思う」
思うのだが……何か決定的に違うと言える事はないか?
先代がダンジョンのボスなんてやる訳が無いって事がすでに偽者と裏づけされてはいるが。
「先代が遺した奇跡人って感じでもないし……そうよ、マリア。鑑定してみなさい」
「なるほど、それなら正体が分かりますね」
「おっけー」
マリアが鑑定を始めても偽フィーリアに動きは無い。むしろ鑑定が終わるまで大人しく待っていてくれるらしい……その表情は極めて余裕そうだ。
鑑定が終わったマリアがこちらに顔を向けてくるが、いつもと違って表情が険しい。
「……結果は?」
「名前はフィーリア……色は、黒。アトロノモスなんて目じゃないわ……あたしじゃ絶対勝てない相手」
鑑定してもフィーリアだと?精霊魔法とかで魔物が化けている訳ではないのか?
嘘だろ……確かにサヨ達奇跡人でも死んだ姿は確認してないとの事だが。
「んふふー、鑑定……鑑定か。そう、私はフィーリア」
「げっ!?」
一気にマリアに詰め寄りその身を粉砕しようとする、がマリアも反応は出来ている様で咄嗟に後ろに下がるが偽フィーリアに腕を掴まれる。
メギ、ゴッゴッと骨が砕かれる音がするとマリアが絶叫を上げる。あのマリアの腕をあっさりと潰しやがったのだ。
「そして、天使殺しなんて呼ばれてるの」
「あ、ふっ……」
そのままマリアの心臓を貫こうとしたが咄嗟に掴まれてない方の手でガードする。
だが先代並の馬鹿力らしくその腕ごとマリアの身体を貫いた。
「放しなさいっ!」
「おっと、久しぶりに会うってのにつれないわねぇ」
ヤバイと思ったのかサヨが符で作った薙刀を偽フィーリアに振るうがやはりと言うかあっさりとかわされる。しかしお陰でマリアは解放された。
腕でガードしたお陰で即死ではなかったので即効でユニクスの血の入った瓶の飲み口を口の中に突っ込んで飲ませた。
「…………がふっ!?ゴフ、じ、じぬ!?」
「よし、セーフよ」
「息が出来ない様ですが」
大丈夫な様なので瓶を口から離してやった。鼻から出てる液体についてはスルー。
ぜーはーと荒い息を吐いているが偽フィーリアのせいなのか私のせいなのか。
「マリアが派手にやられるとは思わなかったわ」
「……アレはほんとヤバイ奴だって。一度あっさりやられちゃったからかアレを見ると震えがくるもん」
「私は破けた服から覗くマリアの乳に震えがくるわ」
「こっちみんな!」
ふむ、多少の軽口程度では恐怖心を拭う事は出来なさそうだ。
サヨもあっさりやられているかと思ったが偽フィーリアは避けるばかりで反撃していない。何か言ってる様子なので遊んでるのだろう。
天使殺しとか言ってたし天使であるマリアにだけ容赦ないのかもしれない。
「主殿……あんなの相手にしていては全滅も有りうるのじゃ……ここは逃げるべきじゃ」
「先代の偽者如きに逃げろっての?」
「紅茶にされるのじゃぞ!?」
されねーよ。まだ湖が紅茶にされた事を気にしてんのか。
「良い機会だわ。偽者とは言え先代と同等の強さ……アレを倒して先代超えを果たしましょう」
「無謀なのじゃ……」
「だが相手が奇跡すてっきを取り出したら私は全力で逃げる」
「それでこそ姉さん」
私が持ってるから相手は持ってないとは思うが、仮に持ってたら逃げ一択だ。だって先代は使い放題じゃん……そんなの倒せる訳ないじゃん?
化け物とは言え一人は一人。
「さぁ、全員でかかってアイツを倒すのよ!」
「ま、全員でやらなきゃ無理じゃろうしな」
「わたしもですか!?」
「当然」
ガクブルなマリアを除いたウチのチート達が一斉に偽フィーリアに向かう。
それに気付いた先代は意外にも木々の中に逃げ込んだ。
森というか林に近い。中に入って不意打ちされると危険だからか全員その場に止まって相手の出方を待つ。
するとすぐに先代が林の中から現れた。
手にバナナを一房持ってもぐもぐ食べながら……バナナの木あんのかよここ。
「食べる?」
「要らん」
くそ、逃げたんじゃなくて腹へってたのかよ。
戦闘中に飯を食うとか非常識な奴め。
「いえお母さんも何度か戦闘中に食事を始めてましたが」
「血は争えんのじゃ」
バナナを食べながら戦うつもりらしく今度は向こうから攻撃してきた。
と言っても両手は塞がっているので足技だけだが。
前衛ではなく後衛を狙ったのかメルフィとルリがそれぞれ蹴り一撃で吹っ飛んでいく。避けようと思う前に吹っ飛ばされたって感じだ。
一撃とは言え有り得ない音がした事から察するに致命傷に近いのでマリアがすかさず救出に向かいユニクスの血を与えた。
それでも流石は非常識、後ろから気配を消して攻撃したのだろうサヨを見もせず避けるとそのまま踵落としで背中を踏み落とす。
手加減はしたのか骨が折れる音はしなかったが、踏んづけられたサヨは起き上がる事が出来ない。
「んー、強くはなってるけど何百年も経ってるのにこの程度じゃねー」
「う、るさいですよ!」
いつぞや見た符の束が弾丸の様にサヨの袖から放たれたがバナナの皮で弾かれる。
あれを全て捌ける偽フィーリアにも驚きだがそれよりも――
「そんな硬いバナナの皮があるかっ!」
「ふ、常識は壊すものよ二代目ちゃん」
余裕綽々な偽フィーリアをマオがワイヤーでぐるぐる巻きにする。
だがバナナをもぐもぐしてる偽フィーリアが腕を広げるとプチっとあっさり拘束が外された。マオのワイヤーも逃げも避けもする必要がないって事か。
ならばとユキが鞭でサヨを踏んづけてる偽フィーリアの足を狙うが避けるどころか何の抵抗も見せずにそのまま受けた。
あのユキが珍しく驚きに目を開くが再び鞭で攻撃をする。
だがまともに受けてるのにダメージが見られない。どうなってんだアイツの身体は……私が造った武器が惨敗である。
しかし二回も攻撃されると鬱陶しくなったのか食べ終わったバナナの皮を高速でユキに投げつけた。
あんなのでダメージある訳ないじゃん、と思うだろうが常識を壊した偽フィーリアによって放たれた明らかに目で追えない速度で飛ぶバナナの皮は何とユキの左手を肘から吹き飛ばした。
「づ、ぁ……!」
「ユキっち!新しいユニクスの血よ!」
「えー、そうポンポン全回復するアイテム使うとか卑怯じゃない?」
「うっさいわ非常識!」
「でもアイテム尽きたらどうするのかしらねー」
まさにそれだ。在庫はあと4,5本といった所だ。
このままユキ達が攻め続けたところでやられる一方、ユニクスの血が無くなったら後は死ぬだけだ。
「ん?やる気になった?」
「はっ、ウチの娘達の情けない姿をこれ以上見るのもなんだしね」
「らぶを感じるわ!」
「ねーよ」
存在がオカシイ偽フィーリアにこれ以上あの娘達がどうこうしても仕方ない。
今はまだ生きているが、即死だったらユニクスの血でも回復出来ないのだ。
口には出さないがマリアがやられた時は内心かなり焦った。
死んだらどうしようもない。
「二代目ちゃん」
「なぁに?」
「あの悪魔ちゃん……大事よねぇ?」
にっこり微笑んでる筈なのにゾッとする笑顔。
「私、貴女と本気で戦ってみたいなぁ」
わたわたしているアホの娘に顔を向けると踏ん付けていたサヨを蹴飛ばす。
奴はマオを完全に殺す気だ……!
んな事やらせる私ではない、のだが私が心の中で奇跡ぱわーに願うよりも速くアイツは行動する。
戦闘に関しては全然ダメなマオでは偽フィーリアの致命傷をかわすのは難しい。
死ぬ――
私も、私以外の誰もがそう思っただろうが、結果的にマオは死んでなかった。
偽フィーリアも意外だったのか結構驚いた顔でマオの前に立ちふさがる娘を見ていた。
いつも無表情な顔なのに殺意に漲らせた目、食いしばった歯は力を入れてるせいかバキっと割れていく。
両手をクロスさせて偽フィーリアの攻撃を止めようとしたのだろうが、身体に穴こそ空いてないが両手はあらぬ方向へ向いてしまっている。
「……ま、私が造った娘じゃないし殺していっか」
「ユキさん!?」
良い娘だ。流石は私の娘……最高じゃないか。
マオを救っただけじゃない。こうして私が願うまでの時間を稼いでくれたのだから。
偽フィーリアが放ったユキに止めを刺す為の攻撃は私が受け止めている。
相手も分かっていたのか驚いた様子は無いが……
「……最初から、出てきていれば無駄に傷つく子達は出なかったんじゃない?」
黙ってろババア。
偽者は無視して最高の活躍をしてくれた娘に目を向ける。
「流石はユキね、最高の娘よ」
「……っ」
「黙って回復してなさいな……ま、あの偽者は任せときなさい」
さて、私は咄嗟に何を願っただろうか。
まぁ……この状態で願う事なんて一つしかないわな。




