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幼女、娘に興味をもつ

 死体を埋葬してあげる善意の行動が、実は生き埋めにして殺人をする所だったと発覚したのだが…どうしたものか


「これだけ酷くやられて生きてるなら人間じゃないわね」

「はい。このお腹の傷は腐毒大蛇によるものと見られます。これだけの怪我と毒で生きてるとは異常な生命力です」


 そんな生命力は人間以外の種族としか思えない


「とりあえず怪我くらいは治してあげよっか」

「そうですね。怪我と毒の浄化くらいはしてあげましょう。ですが何者か分からない以上、動けない様に最低限しか治しません」


 それが無難か。治した途端に襲いかかって来たら困る。恩人を襲うような娘には見えないが…


「…終わりました。これだけ回復しておけば死ぬ事はないでしょう」

「うわー…傷口だけ治したから噛み切られた所とかでこぼこじゃない」

「失った肉を再生させるのは難しいのです。出来はしますが、長い時間がかかるでしょう」


 確かに肉がみるみる内に再生したら気色悪いが。しかし、これはひどい。執拗に噛まれたのだろう太ももが特にでこぼこしてて痛々しい。


「それにしてもエロい格好してるわね。大分はだけちゃってるわ」

「バスローブみたいに羽織ったあとに帯で留めてるみたいですね」


 そういう服か。五丁目には無いから珍しいな。魔物から逃げてこんなはだけた格好になったのかもしれない。あまりに貧相だから食い尽くされなかったのか…?


 その辺に落ちてた小枝を拾う。触れないよう言われたので念のため小枝を使ってこの娘を調べるのだ。


「生命力の高い吸血鬼ってやつかもしれないから、牙があるか見てみるわ」

「それなら私が…」

「いい。気になるから私がやる」

「十分ご注意下さい」

「わかってるわ。注意するから小枝で調べるんだもの」

「いえ、その格好でしゃがめば正面から見ますとぱんつが」

「……」


 無言でしゃがむ動作をやめる。確かにこの格好で今しがたやろうとした膝から下をハの字にする座り方をすれば丸見えだ。だがもっと別に注意をする事があるだろう……


 結局膝立ちの状態で調べる事にした。服が汚れるが、この際仕方ない…

 小枝の先で上唇を持ち上げる。見た感じ鋭く尖った牙はない。吸血鬼ではないようだ。


「牙はないわね」

「吸血鬼ではないみたいですね」


 分からないなら後で本人に聞けばいいか…それよりも暗くなる前に茸を探した方が良い気がする。

 この娘には悪いが、見知らぬ他人より美味しい茸を優先しよう。マイちゃんに護衛させておけば大丈夫だろう。


「まずは先に茸を探しましょうか。まだおやつ食べてる様な時間だけど、早めに見つけておくに越したことはないわ」

「この娘は宜しいので?」

「マイちゃんに残ってもらいましょう」

パタパタ


 持っていた小枝を捨てて立ち上がる。死は免れたなら一、二時間空けても大丈夫だろう…とユキの所に歩き出した時


「じゃあ……っ!うっきゃあぁっ!急に何すんのよ瀕死体!マイちゃんをくらえやぁっ!!」

パタッ!?


 急に死にかけてた娘に左腕を掴まれたので、思わず右手でマイちゃんを掴み娘の顔にぶん投げた。

 ベシッ!と、マイちゃんが顔にぶつかるとビクリとして娘の腕が離れた。…?なんなんだろ…?


「大丈夫ですか?」

「えぇ、すぐに解放されたか……痛っ!いたたたたっ!?マイちゃん痛い!痛いっ!ごめんなさいっ!」


 顔面にぶん投げられたマイちゃんはご立腹らしい。髪を掴まれ上空に引っ張られた。

 髪が抜けたら嫌なので、必死に謝り夕飯の茸を一番多くあげるという事で許して貰えた。


「マイさんも流石にあれは怒りますか」

「仕方ないじゃない。咄嗟に掴めたのマイちゃんぐらいだったし」

パタパタッ!


 そんな事より…もう一度娘を見る。私が見えているか判らない瞳…。再びしゃがんで頭を撫でてみる。脂と汚れでベトベトだが、風呂にでも入れればサラサラな触り心地になるかもしれない。

 触ったときに少し反応があった。ピクッとしたくらいだが…


「ひょっとしたら、この娘は中々面白い存在かもしれないわね」

「ご主人様が興味を持つに値する存在ですか」

「私はそんな大層な者でもないけど…」


 まぁ考えるのは後にしよう。今は茸だ茸!


「じゃあ茸採りに行きましょう」

「はい」

「マイちゃんその娘を頼むわね」

パタパタ


 マイちゃんと娘を残して更に山を登り始める。食材が4人分に増えたから手間が増えたが、時間はまだあるし大丈夫か…



★★★★★★★★★★



 足音が遠ざかっていきます。さっきまでわたしを小枝でいたずらしてた人たちの足音です


 初めは新しい魔物さんが来て、またいじめられて今度こそ死んじゃうんだ、と思いました。


 でも、何か暖かいものを感じたと思ったら、身体の痛さと苦しさが無くなりました。


 治してくれた御礼を言わなきゃ、と思いましたが、身体はまだ動きません…話す事も出来ないみたいです。


 残念です。そう思ってた時に小枝で口の中を調べられました。ちょっと痛いです。身体は丈夫でも、口の中は痛いです。


 きゅうけつきという生き物と思われたみたいです。動けないので、早くやめて欲しいなー…って思ってたらすぐにやめてくれました。


 そして足音がわたしから離れていくのを感じました。きゅうけつきという生き物じゃなかったからこのまま放って、また置いていかれると思いました。


 置いていかないで!って思ったら、動かないはずの身体が何かを掴んでました。たぶん、人の手だと思います。小さい子でしょうか?随分ちっちゃかったです。


 ちっちゃい子が叫んで何かが顔にぶつかりました。痛くはなかったですが、里でされた事を思い出して、思わずびくっとしてその子の手を離しました。


 身体はまた動かなくなりました。またひとりぼっちになると思ったら悲しくなりました。でも少ししたら何か頭に小さい物が乗ってました


 たぶん、さっきの子の手です。わたしの汚い髪を撫でてるみたいです。何の意味があるかわかりませんが、凄く落ち着きました。


 置いていかれると思ったのはわたしの勘違いで、きのこというのを探しに行くようです。わたしを守るために一人残ってくれるみたいで感謝です。


 あの子はまた戻ってきてくれるみたいなので、少し眠ることにします。寝て起きたらすぐに会えるからです。


 知らない子だけど、何か安心しました。不思議です。起きてまた会うのが楽しみです……



★★★★★★★★★★



「あの娘は子供かもしれないわ」

「子供、ですか?」


 茸は特定の木のそばに生えるらしい。その場所までもう少しかかるそうだ。

 襲ってくる魔物は容赦なくユキが蹴散らす。鞭を斬る事に特化させて、複数いようが一振りで斬り捨てる。こういう時は頼もしい。


「身体は大人だけど、精神が未熟な子」

「そうなんですか」

「もちろん違う可能性のが高いわ」


 ただの勘だし。マイちゃんを投げた時は驚いたというよりは怯えた様に感じた。

 頭を撫でた時も反応は薄かったが同様。もしかしたら日常的に虐めにでもあってたのかもしれない。


「あんな痩せてたらロクに食事もしてないでしょうね」

「そうですね。余程貧しい村だったか、あるいは…」

「あの時私の予想通り怯えてたなら違うでしょう」

「…虐待ですか」


 それは本人に聞かないと分からない。だがもし虐待されていたのなら、あの様子だと随分長い事被害を受けてきただろう。


「生まれながらに虐げられる存在だったか、はたまた急に虐げられだしたか…もしかしたら勘違いで本当に貧しい村にでも住んでただけなのかも」

「ご主人様の人物鑑定は優れてますから、そう感じたのならそうなのでしょう」

「そうかしらねぇ」

「恐らくは…。実は傷を治す際に魔物から受けた傷とは思えない怪我がかなり有りました。虐待されていたなら辻褄が合います」


それなら虐待の線が強いか


「あの子の精神が純粋な子供だったら仲間に欲しいわね」

「そんな…まだ初日ですのに…」


 ユキがそんなだから安全な奴が欲しいんだが…精神が幼ければ邪な考えもしないだろう。

 それに、あれだけ成長してれば上に座れるはずだ。


「完全に治したあと、虐めた奴に復讐するー!とか言う奴なら興味ないけどね」

「あそこまでやられたら、どうですかね」


 確かに、私なら少しでもやられたら、やり返す。あくまで嫌がらせで、暴力的な事はしないが…あんまり…たぶん。

 でも、勝手ながらあの娘にはそんな存在であって欲しくない。




 見た目が幼いのに年齢は16な私。精神は年相応だろう。たぶん


 ユキは見た目と精神は大人だろうが、実年齢は赤ん坊に近い特殊な存在。


 あの娘がもし、見た目と年齢は大人だけど、精神が子供だとしたら…?


 実にややこしくて可笑しなメンバーが揃う。マイちゃんはマイちゃんで変だし…


「面白い旅が出来るかもね」

「そう上手くはいきませんよ」


 仲間にいれると言ったからか、ユキが否定的になってきた。


「難しいのは分かってる。あの娘が私の元へ来るかもわからないし」


 だが何となく予感がする。私達はあの娘とこれから色々な国を巡り、興味ある事に顔を突っ込み、好き勝手に振る舞う。そんな長い付き合いをすると…


「…この辺りが良さそうですね」


 葉が尖った木の下には茸がちらほら見える。ユキの作る鍋はきっとあの娘も気に入ってくれると思う。

 私も抱っこから降りて四人分の茸を集める手伝いをする事にした。

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