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幼女の休日(雪遊び編)

「舞王の角ってご立派よね」

「あらまぁ有難うございます。自慢の角ですの」

「マオにも生えるの?」

「翼と同様に生えます」


 生えるのか……


「邪魔になったら仕舞えるのよね?」

「ええ、ただし……生えていた場所はハゲます」

「ハゲるの?」

「ハゲます。毛穴も無くつるっつるになります。ハゲに厳しい世界では生きていけないでしょう」






「ハゲはあかんやろ」


 夢のくせにえらくリアリティがあった。マオに角を生やさせてはいけない。

 もしかしたらハゲない可能性もあるが、万が一という事もある。一生帽子を被って出歩く事になる所か引き篭もりと化す恐れもある。

 元引き篭もりとしてはあれはあれで悪くない生活だった……ならいいか。


「リン、今何時?」


 窓際にアリス人形と隣り合わせで待機していたリンに時間を尋ねると左手をほぼ垂直にあげ、右手をこちらから見てやや左下に伸ばした。

 身体で時計を表現してるとしたらおよそ七時か……早起きしたな。


 昨日ユキ達が帰ってきたのは大体夜の7時頃だった。本人は至って冷静を装っていたが目が爛々としてたので興奮冷めやらぬといった感じだった。一体どんな虐殺をしてきたのか。


 サヨとマリアは特に変わりは無かったので主な殺人はユキがやったのだろう。結局私が怪我したのを許せなかったって事だ。


「お姉様の前で無様に喚かなくなっただけでも成長したってもんです」


 とはサヨの弁。喚かなくはなったが我慢は出来ないと。

 まぁユキに関しては勝手に成長してもらうとして、例の不幸少女の調査をサヨにちゃっちゃと調べる様に言っといた。

 とても嫌そうな顔をされた。


「調べますけど、今後を左右しそうな人物みたいですしそれなりに時間は頂きます」


 念入りに調査するらしい。

 おいそれと買えない奴隷だからまぁ許す。少なくとも1日以上は欲しいとの事。

 念入りと言っといて1日以上とは如何に……そんなに探偵として優秀なのかあのちっぱいは。


 今日は暇な筈だが早起きしたしそのまま起きて着替えた後に誰か居るであろうリビングに向かう。

 奴隷達はお早い仕事の様でリビングに行く間に数人はすれ違った。頭を下げて挨拶をされると偉そうな身分だなぁと未だに思う。


 到着するとやはり早起き組が寛いでいた。

 ユキは当然居るだろうと思っていたが、それ以外だとサヨとメルフィが起きていた。


「おはようございます。今日はお早いのですね」

「ええ、休日は16時間は寝たいけど7時間の睡眠で起きたわ」

「活動時間と睡眠時間が逆なんですよ」


 全くだ。

 しかしあれだけ早く寝ているのにマオがまだ起きていないとは意外だ。


「ハゲはまだ起きてないのか」

「ハゲ?」

「ああ、マオの事よ」

「どこからそんな渾名を付けたか知りませんが本人に言ったら多分泣きますよ」


 今はふっさふさだから泣く事はないと思うけど。角が生えたら知らんがな。

 どうやらマオがここに来るのは大体7時半頃らしい。起きてしばらくは自室でのんびりしているのでは、とのこと。


 ならばそろそろ起きてくる時間か、もしかしたら今頃着替えの真っ最中かもしれない。

 よし、突撃しよう。


 日ごろのダラダラ具合を感じさせない機敏な動きで素早くマオの部屋向かった。

 もちろんノック無しでそのまま中に入る。


 ガチャっと扉を開けて入ると若干驚いた様子のマオがこちらを見ていた。


「……ふ、私の読みは当たっていたわね」

「な、なんですかいきなり……」


 予想通り着替えの真っ最中だった模様。

 夜中に尻を揉む時は下着の柄なんか見えやしなかったが、これは……


「いちごぱんつ。だが私の中ではいちごぱんつとはバックプリントに大きく苺が一つ描かれているものだと考えている。大してマオが穿いてるぱんつは光沢のある薄いピンクの絹地に小さな苺が散りばめられているもの……これはいちごぱんつではなく苺柄のぱんつだと私は言いたい」

「さっさと閉めてください」

「はい」


 素直にドアを閉めた。

 出て行ってくださいでは無かったので中に入って着替えを覗いてもいいって事だろう。

 どこか呆れた顔でこちらを見ているが気にせず着替えたまえ。


「……そこよ!ズボンを穿く時に片足を上げるその姿勢っ!薄い布っきれ一枚で隠されてはいるけど恥ずかしい部分がご開帳じゃないっ!特に私の目線ではなっ!!」

「黙っててくださいっ!?」


 ぷりぷり怒りながら着替えを済ますハゲ予備軍。

 あーあ、着替え終わっちゃった。ちなみにブラもセットなのか苺柄だった。


「そもそも何しに来たんですか」

「特に用は無いけど、強いて言えば角は生やさない方が良いと忠告に」

「別に生やす気はありませんけど……」


 鬼の里に居た頃は無理やり生やしてたくせに。

 さっきまでの不機嫌そうな顔はどこへ行ったのやら、マオは何故かキラキラした顔で話しかけてきた。


「堂々と乙女の着替えを覗いたお姉ちゃんには罰としてわたしと遊んでもらいますっ」

「同性だからノーカン」

「ダメですっ!」

「いや、別に罰とかじゃなくても言えば遊んであげるし」

「お姉ちゃんが……デレた!?」


 何を言うか。今までだって散々遊んでやったじゃないか。

 今日は早起きしてしまったし動かない遊びなら付き合ってやっても良い。


 窓際まで移動したマオが手招きして私を呼ぶ。

 外に何かあるのか?ついにクゥちゃん達が地上に上陸でもしたのか。


「見てくださいっ!雪です!」

「へー……山に挟まれてるだけあって降る時は降るのね。それともディーセットの奴が頑張ったのやら」


 神殿に居る時は外なんか見ないので雪が降ってるなど知らなかった。

 何センチくらい積もってるのだろうか?見た感じそれなりに積もってそうだが。


「雪と言えば雪だるまや雪合戦でしょうか。お姉ちゃんはやった事あります?」

「自慢じゃないけど友達が必要な雪遊びはやった事ないわ」

「泣けます」

「あんたも同類じゃない!」


 雪だるまぐらい作った事あるわい……母と。

 今思えば丸い雪の塊を二つくっつけて何が楽しいやら分からんな。ただやたら母が楽しそうだったからつい付き合ってしまった。


「雪だるまじゃ満足できん。雪像を作りましょう」

「雪像ですか?」

「そうよ。全裸でセクスィポーズしてるマオを作りましょう」

「嫌です」

「じゃあいちごぱんつ穿いてていいや」

「嫌ですってば!?」


 本人じゃないんだしいいじゃないか。


 結局妥協して雪だるまとかまくらを作る事になった。

 雪合戦はどうせ人外共が殺し合いしそうだからボツだ。


「寒そうだし手袋とか猫耳ニット帽も用意しとくか」

「そうですねぇ」


 予定が決まったので一旦マオの部屋から退室する。

 自室に装備を取りに向かう途中で再び掃除しているミニマムメイドに会った。再び頭を下げられたが、今度は素通りせずに立ち止まる。


「こんな雪が積もってる日に何掃除しとんじゃワレ!」

「ひっ!?……えっ?え?」

「良い事ガキんちょ、こんな遊びたくなる日は仕事なんかサボって遊ぶのが常識でしょうが!他の奴隷達にも外で遊べと伝えなさい」

「はい……え?いやいいんですか?」

「私が主で女王よ」


 理由になってないが納得したのか急いで走っていった。

 大体毎日掃除するとかどうなんだ。そんな埃溜まるのかこの神殿は。


 あと仕事してそうなのはキキョウ達か。

 すれ違う奴隷達にサボって遊べと伝えながら仕事をしてるであろう何とか室まで向かう。着替えは後からでいいだろう。


「入るわよ」

「あら、おはようございます」

「やはり仕事をしていたか……今日は仕事は無し!全員で外で遊びなさい」

「えー……」


 不服らしい。遊ぶ事より仕事が大事と申したか。

 やはりここは女王権限で無理やり遊ばせるしかない、と思ったが案外すんなり受け入れて片付け始めた。


「いやー、私って雪が降らない地域に住んでたから結構気になってたんだよね、雪!」

「そうですね……まぁ女王様が仰るなら遊ぶしかありません」

「あの、この後来客があるので私だけ遊べないのですがそれは」

「客なら仕方ないわ。キキョウの分までアン達が遊べばいい」

「えー……」


 黄昏だしたキキョウは放っておいて皆準備をする為に部屋に戻っていった。

 えらく落ち込んでいるが客が帰ったら参加すりゃいいだけの話なのだが。


 そう伝えると早く追い返しますと意気込んでいた。追い返したらダメだろ……


 後はニボシにでも言っておくか。雪に関心とかないだろうけど一応だ。

 一階の広間に行くといつも通り祭壇の前に座ってるニボシが居た。毎日あそこに居るだけで飽きないのだろうか。


「ニボシって良く考えたら有り得ない名前よね」

「いきなり喧嘩売ってくんなです」

「売ってない。有り得ないけど素敵な名前だと思うわ」

「褒めるフリして自画自賛すんなです」

「そこに居るのも暇でしょうから外で遊ぶわよ」

「急に本題に入りやがったです!」


 ふむ、この返しを考えるにニボシは馬鹿ではない。割と言葉を知っているし……どこで学んだのだろうか。

 ま、どうでもいいか。

 遊ぶ事については了承を得たので私も部屋に戻って防寒するとしよう。




 外に出て寒さに後悔した。

 雪が降るくらいだもの、寒いに決まってる。外にはほぼ全員が出てすでにはしゃぎ回ってるし今更中止とは言えない。

 頭の冷えた今なら分かる、雪だるま作って何が楽しいんだと。


 意外なのはガキ共だけがはしゃいでそうだったが天狐族達も同じくらいにはしゃいでいる。


「やはり犬科だから駆け回るのか」

「まともに雪で遊んだ事など無いからです」

「ふむ、顔は忘れたけど服の色から察するに貴女はアヤメね」

「……忘れられない様に努力します」


 アカネなら覚えてるんだけどなぁ……天狐達のまとめ役みたいになってるから。大体頼むときはアカネに言っている。

 我ながら分かりやすい名前を付けたもんだと感心する。最初の奴隷兵達なんて大体覚えてない。同じく軍服に付いてる番号を見なきゃ判断できん。


「ガキんちょ達が雪合戦しだしたけど人外じゃなければまぁいいか」

「同族のシロガネも参加してるんですが」

「ガキんちょ相手なんだし手加減するでしょ」


 さて、私がする事と言えば雪だるまだろ。積もっている雪を全部使用する勢いで作ってやろうじゃないか。

 雪だるまの頭部を担当するのはマオとその他フィーリア一家だ。どこまで大きくするか分からない以上胴体担当である私も本気を出すしかない。


「動けば寒くない。本気になった私を見せてやるとするわ」

「お手伝いは?」

「不要よ」


 そうだ、もう入り口から神殿まで転がせばめっちゃ大きくなると思う。

 そこまでやればマオ達より小さい雪玉になる事はあるまい。そうと決まれば転移で移動だ。






「ふ……私も甘かったか」


 発想は良かった。すでに私の身長に対してだが結構な大きさになってるし。

 問題は私の体力だった。押しても中々進まなくなったのだ。


「困った。と普通なら考えて結局は諦める所でしょう……」


 だがここにはまだ利用出来るモノが存在する。

 さっきから背後で見守ってるのか狙ってるのかデカワンコと魔物達が居る。入り口付近にある森からは出てこない様に命令されてるのに居るって事は私が全く進んでない証だ。

 ここまで力が無いとは予想外だ。


「今日は街中に入るのを許すわ……その代わり私を手伝って雪玉を神殿まで押してちょーだい」

「わふっ」


 押せとは言ったがどう押すのかと思えば器用に鼻先を使って押していく。

 トラっぽい姿にやたら長い牙を持つ魔物の方は前足を使って転がす様に押していた。ちなみにランクはCらしい。


「魔物と一緒に雪だるま作ったとか言ったらノエルは信じるのやら……」


 実際にここを見たら信じざるを得ないだろうけど。

 もう私が押しても邪魔になりそうなだけなので転がす方向を指示するだけにする。

 なるべく汚れてない雪を使用した方がいいだろう。


 時間は不明だが結構長い事転がしたので雪玉はかなりの大きさになっていた。ユキ2人分の高さはある様な無い様な……最終的には超えそうだ。


 大きくなるにつれて問題も出てくる。狭い通路が通れないのだ。

 これは困った。端っこを通ればいいんだろうけど、見えはしないが一つ目ちゃんの畑かもしれない。まだ野菜は育ててないだろうし荒らしても怒りはしないだろうが気分的に避けたい。


 よし、障害物である建物は破壊しながら進もう。


「大変だ!幼女が魔物に襲われているぞ!」

「なにっ!……襲われてるのか?」

「間違いない!多分!違うかもしれないがきっとそうだ!」

「く、判断に困る場面だ!」


 おや、冒険者パーティと思われる4人組と出くわしてしまった。

 彼らがキキョウの言っていた客とやらだろうか?


 今の私はデカワンコの上に乗って転がす方向を指示してるのだが、襲われてる様には見えないわな。


「たっけてー」

「やはり襲われてるぞ!」

「顔色一つ変えないとは何て余裕な幼女なんだ!ありゃ大物になるぜ」

「あの犬の魔物は見た事無いから注意しろよ!」


 魔物を倒さんと勢いよく突っ込んできたが実力は大した事はないらしくデカワンコ一匹であしらわれている。

 というか後ろ足だけで迎撃していた。冒険者達の方は見向きもせず雪玉転がしの方に集中している様を考えるに私の命令の方が重要という事なんだろうか、だとしたら良い奴等だ。


「くそ、俺らともあろう者が後ろ足だけで対処されてるぜ」

「こりゃAランクあるかもしれないな……だとしたらマズイ相手だ」

「諦めんな!パーティ結成時に雪玉を転がす魔物の上に幼女が乗ってたら必ず助けると誓っただろう!」

「そんな奇抜な誓いはしてねぇ」


 こいつらはモブオ達やトゥース王国の兵と同じニオイがする。つまり馬鹿だ。

 この世界の冒険者って馬鹿が多いよなぁ……


「……俺は負けん!こうなったら魔物より早く雪玉を転がしてやるっ!」

「どうしてそうなったか知らんがやってやるぜ!」

「雪玉を作れば満足して幼女が解放されるかもしれないだろ!」

「なるほど!」


 武器を仕舞い魔物の横に並んで雪玉を転がし始める謎の冒険者達。

 人間と魔物が雪だるま作りする意味不明な光景だが結構な偉業じゃなかろうか。



★★★★★★★★★★



 来客と言うのはフィーリア様の祖国の貴族。爵位は高い様でそこまで無碍には出来ません。

 お偉い様が直々に来たわけではなく仕えている執事の一人が交渉に来られた様です。


 来て早々支援だの友好だの言ってきましたが、見ての通り支援が必要なほど戦で疲弊していない事と何処とも友好を結ぶつもりは無いときっぱり断りました。


 早々に諦めはしましたが今度は取引がしたいのだと。どうせユニクスの情報を得たからすぐに参ったのでしょう。

 友好も支援もその為。こうも見え見えで来るのはウチを侮っているからですかねぇ。


「ユニクス関連はお抱え冒険者パーティである頑張らないフィーリア一家のみに権限があります。私共ではどうこう出来ません。どうしてもと言うのならそちらと交渉して下さい」


 丸投げしました。だって遊びに混ざりたいじゃないですか……

 ほら、丁度よくサヨ様がいらっしゃったのでお任せして私は遊びに行くとしましょう。後で怒られそうですが知ったこっちゃねーです。



★★★★★★★★★★



「ふ、ふふ……やるじゃねぇか。まさかここまで大きくするまで満足しないとは思わなかったぜ」

「わふっ」


 あれから転がし続けた雪玉は大きくなりすぎて神殿の前にも置けなくなったので少し手前の広めの場所に置いた。

 私の手柄に集まってきたマオ達や奴隷達は歓声を上げるどころか呆れている。なんて失礼な奴等だ。


「こんな大きいのどうするんですかお姉ちゃん」

「溶けるまで飾っておきましょう」

「頭を乗せるのが一苦労ですね」

「というかこいつら誰?」


 一応説明はした。

 名前も知らない冒険者達だが魔物と一緒に雪玉転がしを手伝ってくれたと。


「雪玉に夢中で気付かなかったが、ここは桃源郷か?」

「桃源郷に一人で入るとはズルい依頼人だぜ」

「俺、ここで結婚相手探すんだ……」

「五丁目の冒険者みたいなみっともない真似すんなって。入り口で待っとけって言われたし戻るぞー」


 魔物には褒美という事で適当に肉を与えてから森に帰る様に伝えた。

 すると友情でも芽生えたのか冒険者達も一緒にこちらに名乗る事もなく去っていった。あの様子じゃ帰りながら戦う事はないだろう。


「何だったんですかね」

「森で襲われなかったのなら悪い奴等ではないんでしょ。そんな事より次は頭部の顔作りよ」


 この大きさの胴体だ。当然顔もデカくなる。そうなると小さいパーツでは無理だ。

 顔を大きくするのは奴隷達に任せて私達は神殿でパーツになるものを探す事にした。



★★★★★★★★★★



 ふーむ、ヴェロキア侯爵の使いとして来ましたが下手に出られる事もなくぞんざいに扱われましたね。

 立場を理解出来ない馬鹿なのか、それともウチが敵になろうが全く意に介さないか……あの様子では後者でしょうね。


 さて、ユニクスの血に関して交渉する事となった少女なのですが……物凄く不機嫌です。


「キキョウさんは後でとっちめるとして、交渉とは何でしょう?」

「いえ、ユニクスの血に関する交渉なのですが」

「あー無理です。ユニクスの血の売買はお姉様の判断次第ですので私に言われても困ります。自分達で使う分には私でも入手出来ますが取引となると別です」


 また交渉相手が変わるのですか。今度はこのサヨ様のお姉様だそうです。

 どうやら冒険者パーティのリーダーの方だそうで……神獣から血を入手出来るだけあって侮れない方なのでしょうね。


 何やらある調査をしなければならないとの事でさっさと言ってしまわれました。

 冒険者にまでこの扱いとは些か憤りを感じますが我慢です。何せ神獣の血がかかっているのですから取引が成功するまでは下手に出るのが吉ですね。


「問題はお姉様とやらが何方なのか、ですが」


 今この神殿内に人は少ない様で人影が全く見当たりません。と思いましたがメイドが丁度来られたので聞いてみますか。

 というかこの神殿は美人が多いですね……キキョウ様の趣味でしょうか。


「すいません。お尋ねしますがサヨ様を知ってらっしゃいますよね」

「姉さんが何か?」

「姉さん?……サヨ様の妹君でしたか。ああそうだ、お聞きしたいのですがサヨ様のお姉様は今どちらに?」

「姉さんのお姉様ですか。恐らく今は神殿の中にいらっしゃるかと」

「そうですか、分かりました。ありがとうございます」


 ふむ、神殿内に居るのなら見つかりそうですね。何せ人が少ないので。


「すいません。サヨ様のお姉様を探しているのですが」

「サヨ姉の姉?……さっき厨房に行った」


「すいません。サヨ様のお姉様を探しているのですが」

「サヨさんのお姉ちゃんですか?……お姉ちゃんなら、あれ?さっきまで一緒にいましたが何処かへ行っちゃったみたいです」


「すいません。サヨ様のお姉様を探しているのですが」

「サヨ殿の姉?それならワシの主殿じゃな。さっきキキョウ殿の所に雪だるまに使えそうな大きな物がないか聞きにいったのじゃ」





 全く見つかりません。

 というか明らかに年上に見える方々なのにサヨ様の方が姉とおっしゃる。

 場所を聞く前に容姿と名前を聞けば良かったと後悔しております。


 そろそろ帰らねばならぬ時間となって焦って探しますが一向に見つかりません。

 諦めて一度帰ろうと思ってた所で廊下を歩く小さい少女を見つけました。


 ……どう見てもサヨ様の姉に見える年齢ではありませんよね。

 しかし良く考えたらサヨ様も見た目に反して姉の位置に居ましたし、もしかしたら身長に似合わず年上な可能性も。


「お嬢さんすいません。少々お聞きしたいのですが」

「なぁに?」

「サヨ様をご存知ですか?」

「知ってる」

「そうですか。変な事を聞きますが……」


 我ながら変な質問しようとしてるが、するだけならタダです。

 奇跡的にこの少女が目的の人物だって可能性もあるのです!


「実は見た目に反してサヨ様より年上だったりします?」

「見た目通り私が年下だけど」

「…………ですよねー。いえおかしな質問をしてすいませんでした」


 とてとてと少女は小走りで去っていきました。

 どう考えても子供でしたもんね……私も疲れているのかもしれません。今日の所は引き上げるとしましょう。


「にしてもお姉様とは誰なのでしょう……」


 次に使いに出される事があれば今度こそ見つけましょう。

 雇った冒険者達は時間にうるさいので早く戻らねば。



★★★★★★★★★★



「完成したわ」


 まゆげと口は長くて黒い布、目は丸く削った岩、鼻が難関だったが昔狩ったドラゴンの角をユキに出してもらって赤く塗って突き刺した。

 出来上がった頭部を雪の上でゴロゴロ転がってただけのニボシに頼んで合体させてもらう。


「「「「おおー」」」」


 馬鹿デカイ雪だるまが完成した。大きさ的に15メートルはあるかもしれない。


「しまった。頭を忘れてたわ。ハゲだるまじゃ同類のマオの精神にダメージが!」

「わたし禿げてませんよ!?」

「流石にあれに被せるバケツはありません」

「別にハゲでいいじゃん」

「よくないですっ!」

「いやマオっちの事じゃなく……」


 ふむ、たまには童心に返るのも悪くない。

 違うか、マオの遊びに付き合うと言いつつ私もやってみたかったのかもしれないな。両親意外とやる雪遊びって奴を。

 それとも……人間に獣人に悪魔に妖怪、そしていつの間にか混ざっている妖精、途中までだが動物に魔物に見知らぬ他国の冒険者達も居た。まぁ冒険者に関しては謎の発想だったのだが。


 種族によっていがみ合う筈がここでは誰もが笑顔だ。こんな光景はアルカディアでしか見れまい。意図して集めた訳ではないのだが無意識の内にこの光景を見たがってたのかもしれないな。


「どう?楽しかった?」

「……はい」


 たまたま側にいたヒメに尋ねると言葉にした返事で返ってきた。さっきまで姿は無かった筈だがタツコ辺りが強引に連れ出したのかね。

 ヒメが遊んだのは僅かな時間だろうが楽しんだならそれでいい。


 やるなと言っていた筈の雪合戦を人外共がやりだしたが止めはしない。奴隷兵の連中もあのニボシも混ざってるのに無粋な事はしない方がいいだろう。

 私には無理な攻防戦なのでヒメの隣でのんびり観戦させてもらうとしよう。


「何だかんだ今日も平和だったわ」


 フィーリア一家最弱の宿命なのか、集中砲火で一番に撃沈したマオを見届けて明日は晴れそうだなぁと空を見上げた。

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