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幼女の休日(オークション参加編)

 マリアです。

 ペロ帝国の残党狩りって事でユキっちとサヨっちと一緒に付いてきたんだけど、結構目を疑う出来事が目の前で起こってたりする。


「ひ、ひいぃぃぎゃああぁぁぁっ!?」

「く、くはははははっ!もっと喚け、苦しめ下郎!貴様ら如きが我が母の柔肌を傷つけるなど許されざる事だ!楽には死なせんぞ!」

「ぐっあぁ、ま、待って、俺は……もうあの国とは関係、なっ」

「あるだろう?……一度でもペロ帝国に忠誠を誓った者は誰一人として逃がしはしない」


 ゴリゴリと背中を踏みつけるユキっちは普段と違いすぎて引く。

 いやね、殺すならサクっと殺してあげりゃいいのにって思うよあたしゃ。


「た、頼む……俺は、結婚して子供が出来て、本当にあの国とは縁を切ったんだっ!」

「ほぅ、聞きましたか姉さん」

「いや、この家に標的が他にも居るのは知ってたでしょうに」

「その通りです。聞いたか?……元々貴様の家族もろとも始末する予定だったんだ。性犯罪者集団の一味が幸せな家庭とは聞いて呆れる」


 あれー、無関係とは言えないけど子供まで殺す気?

 そんな非道パーティだったっけ?


「こ、子供は、子供と妻は関係ないだ、ろ!」

「貴様だけ殺しても残された者が復讐しに来ないとは限らない。来た所でどうせ殺すが、二度手間だ。なら一緒に始末する方が話が早い」

「えー……いいのサヨっち」

「何の為に一家揃ってる時に来たと思ってるのですか」


 どうやらサヨっちも殺る気満々みたい……こりゃもうお手上げだね。

 子供まで虐殺とか外聞悪そうだけど転移で乗り込んで来たから一般人達にはバレてない。フィーリア一家の名を汚さず始末する気だぁね。


「これだけでは足らない、全然足らない。だが私達の標的は貴様だけではない……時間は惜しい。さっさと殺って次へ行くとしよう」

「ま、待ってくれ……頼む、なぁ頼むよ!わ、分かった、俺は死んでもいい、だから」

「くひ、そんなに大事か……自分の家族が」

「当たり前だろうっ!!」


 あ、この展開はあたしでも分かるわ。きっと今から先に死んだ家族を見せ付けて絶望させるパターンだよこれ。

 そして予想通りと言うか、ユキっちに踏みつけられてる男の眼前に人間だったモノが投げ落とされた。


「夫が痛めつけられてるのに妙に静かだとは思いませんでしたか?……すでに死んでるんですよ、あなたの家族」

「……!?」

「ひゃは、あっははははははっ!いいですよ姉さん、お陰で良い顔をしてますよコイツ!」

「2分ほどオーバーしてますよユキ」

「それはすいません。では最後にもう一度質問してから終わらせるとしましょう……で、貴様はこの肉の塊がそんなに大事か?」

「こ、なっ……っの悪魔が!」

「それは私が優しいとでも?……ろくに悪魔を知りもしないくせに引き合いに出すな」


 ズブリとユキっちの鞭が男の脳天に突き刺さりそのまま絶命した。

 いやビクンビクン動いているけど……まぁ死んでるかな。


「では次に行きましょう」

「というかもう少しスマートに殺って下さい。鉄臭くてしょうがない」

「いいのです。この返り血はお母さんの敵を排除した証なのですから」


 ギラギラした眼にニタニタ嗤う顔のせいで普段の美人が台無しだよ。オマケに返り血で顔はおろか服まで真っ赤でより怖い。

 この姿を見たらリーダーの娘だって納得しちゃうね。まぁリーダーの方が外道さでは上なんだろうけど。


「マリアさんは意外と平然としてますね」

「ん?まー、向こうじゃ女子供が惨たらしく死ぬなんて日常茶飯事だったしねー」


 慣れってやつだね。それにこうも長生きしてると人の生き死にに対する嫌悪とか割と無くなる。

 自分の知らない奴が目の前で死のうがもはや何も感じないや。


「そもそも何人あたしが殺してきたと思ってるのさ」

「それもそうですね」

「マオさんならこうは行きませんね……では姉さん仕上げを」

「ええ」


 仕上げとは何だろうか。

 考えるより見る方が早かったね。サヨっちが確か式紙とかいう符術の一種でさっき死んだ一家の偽者を創り出した。


「死体は床に埋めて数日は式紙に代わりに過ごしてもらいます。頃合いになったら死体を掘り起こし火の不始末が原因で家共々燃えて完了です」

「火事の際に私達は適当に冒険者活動してアリバイが出来る。式紙は紙なので燃えて証拠も隠滅という事ですね」

「問題はユキが刺した鞭の痕ですね……流石に頭の骨が残ると他殺とバレますので落下してきた天井に潰されたって事にして割っておきましょうか」

「目の前で完全犯罪しようとしてる件」


 何とも徹底している。そこらの殺人犯には出来ない所業だね。

 それにしてもユキっちの性格が変わりすぎてるなぁって思う。


「ユキっちって本性はこんななの?」

「ええ、お姉様と同じく心の中では口汚い言葉を吐いてますよ。まぁお姉様の前ではこの姿は見せないでしょうが」


 リーダーはしょっちゅう汚い言葉を吐くから知ってたけど、まさかユキっちまでそうだとは思わなかった。誰もが見惚れる品行方正な姿は仮の姿だったんだ。


「では次に。姉さんが調べた残党の数はまだまだ居ます。今日中に全て狩るつもりで行きましょう」


 ユキっちもユキっちだけどサヨっちも大概だよ。たった数日で残党全てを把握するとかどんだけって感じ。

 あー、確かルリっちが明日は雪が積もりそうとか言ってたし明日は遊びたいなぁ……よし、ユキっちの言う通り今日で終わらせようっと。



★★★★★★★★★★



「閃いた」


 起きて早々の一言である。


「リン、紙とペンを用意してちょーだい」


 動く便利人形であるリンに頼むとものの数秒で持ってきてくれた。

 何処に何があるか把握してるのかもしれない。便利だが気味悪いな。


 さて何を閃いたかと言えば……占いである。


「メルフィとサヨの占いも良いけど、奇跡すてっき占いなら当たり確率100%を誇ってもおかしくないわ」


 大きめに丸を書いて円グラフの要領で線を書く。

 分割された各所に今日の運勢を書いていけばそれで完成だ。ちなみに三分の二は寝るが吉だ。


「さあ奇跡すてっきの出番よ。今日の運勢は如何に!」


 丸の中心に奇跡すてっきを立てて手を離せばぽてんと倒れる。

 倒れた位置に書かれている事は……


「ふ、今日はラッキーデイらしいわ。何がラッキーか知らんけど」


 三分の二を占める寝て過ごすを避けてのラッキーデイだ。それなりにラッキーな出来事が起こる筈。

 とりあえず起きよう。


 まずは部屋を出る。そして曲がり角で誰かと出くわしぶつかった拍子に何かしらエロい事が起きる、なんて事は無かった。別にラッキースケベが起きるという事ではないらしい。


「よく考えたら私はラッキーに頼らずともエロい事出来るから関係ないか」

「人前でその発言は如何なものかと思いますよ」


 どうやら何時の間にやらリビングに着いていたようだ。

 苦言を申してきたのはフルートだ。寛いでる姿を見るに休憩中か。


「ユキ達が居ないとは珍しいわね」

「ユキ殿達はペロ帝国の残党狩りだそうじゃ。今日は夜まで帰って来ないじゃろうな」

「ご苦労な事で……どうせ返り血で血生臭くなって帰って来るだろうから早めに風呂を沸かしとくといいわ」


 今頃は普段の無表情からは想像出来ないようなニタニタ顔で敵を殺してる事だろう。

 私は見た事は無いが知ってる。


「ユキ達は大丈夫でしょうからいいわ。それよりも今日はラッキーデイの筈なのよ」

「何ですかいきなり」

「だから良い事があるのよ、何かそういうにゅーすないのメルフィ」

「今日の晩御飯は茸メインの鍋」

「わーい」


 じゃねぇよ。

 それはそれでラッキーかも知れないがそうじゃない。


「何かこう……ナイン皇国が滅亡したとかそんな感じの」

「そんな大きな出来事は……ああ、似たようなものは有りましたね」

「ほぅ、でかしたわキキョウ。続きは?」

「最近の事ではありませんが、トゥエンティ国が地震による大被害を受けたそうです。復興費用が莫大な為か今まで閉鎖的だったのですがとうとう他国に向けて取引を開始したようです。地震は結構前ですが、取引を開始したのは各国から来る客の移動距離を考えて最近の事ですね」

「そんな国は知らん」


 名前的に二十番目の国か。聞いた事無いからどうせ小国だ。


「地の大精霊の住むと言われる土地の傍に建国された国です。そのお陰か国の北半分は豊かだそうですよ」

「南は?」

「逆に作物はろくに育たぬ不毛の大地だそうです。北が裕福層、南が貧民街というかスラムですかね」


 えらい両極端な国だ。

 どうやら地の大精霊とやらの恩恵が届くのが北半分だけらしい。元々人が暮らすには厳しい大地だったが地の大精霊があの近くに住み着いたとの情報をいち早く察知した誰かがあそこの土地を我先にと確保し建国したそうだ。


「他国に対して売りに出してるのが地の大精霊の恵みによって育てられた作物、鉱石の販売……ああ、奴隷もオークション形式で売り出すそうです」

「食べ物……気になるわ」

「奴隷はよろしいので?オークション形式なので優良物件が格安で手に入るかもしれませんよ」


 奴隷ねぇ……見るだけならいいか。

 ラッキーデイだけあって掘り出し物が入ってるかもしれないしね。


「でも地の大精霊様の側で地震が起こるってのも変な話ね」

「それがですねアン様、地震が起こった日と言うのがフィーリア様が大泣きした日でして……」

「お姉ちゃんが泣いた日って言うと……あのアトロノモスさんと会った日ですか」

「大精霊のくせに主殿に感化されるとは情けない話なのじゃ」


 なんだ、美味いかもしれない食べ物を買える様になったのは結果的に私のおかげじゃないか。

 いや、そもそもの原因はアリスか。アリスのおかげでまだ見ぬ食材とついでに買うかもしれない奴隷を入手出来るとはアリスちゃんマジ天使。


「じゃあ掘り出し物が売り切れる前に行ってみましょうか」

「ユキ様達はよろしいので?」

「居ないもんは仕方ないわ。夜まで帰って来ないんじゃあ待ってても無駄、残った面子で行きましょう」


 向かうメンバーは私にマオにメルフィに案内役にフルートだ。

 地の大精霊とは仲がよろしくないらしくルリは留守番だ。まぁ居なくても問題ないな。


「なんかユキさん達が居ないと不安です」

「ふ、ラッキーデイを信じなさい」


 しかし行くにしても場所が分からん。

 どうやら不毛な地と言うだけあって寒そうな北にあるようだが……場所が不明だと転移で行けない。


「だが問題ない。何故ならラッキーデイだから。適当に転移すればきっと着く」

「やっぱり不安です……」

「だまらっしゃい。うだうだ言ってないで行くわよ!ラッキー転移!」

「せめて陸地に!?」


 女々しいマオの叫びを後に私達は適当に転移符を使って飛んだ。






「見なさい。きっとここがトゥエンティよ、見事に4回の転移で到着したわ」

「一発じゃない所がラッキーデイを疑いますっ」

「海の中に転移しなかっただけ十分ラッキーデイでしょ」

「どうせなら奇跡ぱわーで送って欲しかったです……」


 その手もあるが、わざわざ気絶したくない。

 それはともかくトゥエンティ国の中の様子だが、割と賑わってる。賑わってるというか、ただ人が多いだけだが。


 ここは南の貧民街なのだろう。ろくな店は見当たらず住民らしき人間は全て痩せ細っている。

 良い服を着て偉そうに歩いているのは他国からの客だな。身なりからして貴族連中や商人達だと思われる。私達みたいな冒険者風なのは見当たらない。


「売り出される奴隷は主にこの貧民街から選ばれるそうです」

「こんなガリガリ共で利益を得ようなんて都合の良い話ね」

「本命の値段を釣り上げる為の引き立て役でしょうがね。元々ろくに食べる事が出来ない上に地震による災害です。大分弱ってる事でしょう」


 見知らぬ他人がどれだけ困ってようがどうでもいい。私の目的の場所はやはり裕福層が住む北側だろう。

 だったらこんな何も無い場所をぶらつく理由はないな。


 さっさと進んでいたが、カモだと思われたのかマオに近づくいかにもな乞食のガキが一匹現れた。

 マオに近づくって事はマオに抱っこされてる私に近寄ると同義、馬鹿なガキには奇跡すてっきを投げつけてやって追い返した。


「むぅ、何もあそこまでしなくても……お菓子の一つくらいあげてもいいんじゃないですか?」

「ほぅ、間接的にガキを始末しようと。マオもえげつない奴になったもんだ」

「わたしはそんな事言ってませんっ」

「貴女にその気は無くとも餌を与えたらあの弱っちぃガキは死んだわ。家族を元へ持ち帰る前に一部始終を見ていた他の乞食に殺されて奪われるのがオチよ」

「……その場で食べれば」

「そしたら他の乞食共がマオ目掛けて殺到してくるわね。与えなければアイツは良くて何で俺達はダメなんだってセリフ付きで」


 本来ならば汚い手で触れようとした時点で殺すべきだと思う。そうすれば二度と私達に近付く馬鹿は現れまい。まぁ移動する度に見せしめに殺すのは面倒だから追い返すのがベストか。


「人間社会って、複雑なんですね」

「そうね、けどまぁこんな場所で暮らしてるだけあって標的を見つけるのが上手いわね。他の客には目もくれずマオに近付いて来たし」

「マオは人相がすでにお人好しだから」


 メルフィの言うとおり顔に出すぎなだけかもしれない。

 とろそうな目をしてるし誘拐するのも楽そうだ。実際されたし。


 しばらく寄って来る乞食共をシバきながら歩くと急に立ち並ぶ家が立派になってきた。北側に到着したみたいだ。

 ワンス王国の王都並みまではいかないが、二丁目ぐらい都会である。

 家がレンガ製じゃないとか生意気な国め……


「一部の家は大理石っぽいですね。よくまぁ閉鎖的だった割に贅沢な家ですこと」

「地の大精霊の恩恵でしょ。鉱石も豊富らしいし立派な家があってもおかしくはないわ」

「こっちは畑も立派です……同じ国なのに」

「地震のせいか壊れてる家もちらほら見受けられますね」


 畑。畑といえば農作物だ。

 そう、私の目的である珍しい野菜がそこにっ!


「無いじゃない。どれもこれも見た事ある野菜だわ」

「味は良いのでは?」

「はっ、ウチで作った野菜以上の味が出せるとは思わないわね」


 何せ勝手に恩恵を受けてるだけの国だ。妖精を筆頭に精霊達が率先して手を貸してくれるウチ以上とは到底思えない。

 更にはサヨが言うに一流の農家である一つ目ちゃんが育てるのだ。負けは無い。

 だがまだ見ぬ食材が無いとはなんてガッカリだ。地の大精霊を追い払って滅亡させてやろうか。


 しかし、他も見て回ればひょっとしたらがあるかもしれない。


 でもひょっとしたらは無かった。

 散々歩いて観光したが店の商品を見ても別の畑を見ても代わり映えしない。


「どこがラッキーデイなのよ」

「まぁまぁ、もしかしたらお目当てのものは奴隷かもしれませんよ」

「オークションとか言ってたか……」


 折角の休日にここまで来たのだ。見ていってやってもよかろう。

 でも要するに競りだよなぁ……競りで果たして安く良い奴隷を買えるのやら。


 そのオークション会場とやらは見た目で分かる大きな建物であるらしい。

 客であろう貴族風の連中はこぞってそこへ向かっている。奴隷を求めてわざわざやってくるとは……フィフス王国にでも行ってろ。


「珍しい事に参加費用はタダだそうです」

「普通じゃないの?」

「席の数は限られてますし、何も買わずに帰る冷やかしを考えたら入場料を取るのが普通です」


 まぁいいじゃないか。タダなんてラッキー……はっ、ラッキーデイって入場料がタダになるだけか?

 いやいや、そんな馬鹿な。


 中に入るとすでに始まっているオークション。入る時に番号が書かれた取っ手付きの板を貰ったが、これは入札する時に値段を言いつつ掲げるものだそうだ。

 仕様が分かった所でさぁオークションを見るぞ、そう思ったのも束の間。どうやら今落札されているのは奴隷ではなく宝石の類。ウチの母なら飛びつく物件だが私は要らん。


「ルビーでしょうか、加工前の原石ですが随分と大きいですね。あれも地の大精霊様の恩恵でしょうか」

「実は魔力を蓄えられたり?」

「いいえ、ただの装飾品にしかなりません」

「ゴミか」

「ふふ、あれだけの宝石を前にしてゴミと言い放つのは女王陛下ぐらいですよ」


 女王陛下とか仰々しい。その呼び方をするのはフルートだけだが外ではこう呼ぶそうだ。

 あんな色が付いた石程度に他の客共は白熱している。現在は2000万ポッケ、あんなの買うくらいなら天狐族を2人買った方がマシだろ。


「陛下には分からないでしょうが、あれだけの宝石を身に着けるのは自分の領地の繁栄具合、経済力などのアピールになるのです」

「たかが駆け引きの為だけに高い金を払って宝石買うなんて阿呆ですこと」


 結局ルビーの原石とやらは4000万ポッケで落札された。買った後で虚しくならなきゃいいけど。

 その後の出品も宝石類が主で見ていてつまらん。

 我慢して見ていたがいつまで経っても奴隷が出てこない。


 ハズレだ。限界、帰ろう。ラッキーデイなんて無かった。


「あ、奴隷ですよお姉ちゃん」

「く、萎えて帰ろうとしたらコレだ」


 ぞろぞろと舞台に上がるのは十数人の男女。

 自分たちの席からは遠いのでいまいち当たりか外れか分からん。

 なかなか始まらないかと思えばどうも冊子か何かを配っている模様。それは私達の元へも届いた。


「どうやら各奴隷の能力が書かれているようですね」

「名前、年齢、性別に特技……肝心の面白いか面白くないかが書かれてないわ」

「ふふ、面白さは客の感性次第ですので書いても仕方がない事です」


 素直にそんな馬鹿な事書くわけねーだろって言えばいいのに。

 こんなどうでもいい事だけでは買う買わないは決められんなー……どうしたもんか。


 オークションは始まったが私は全く乗り気になれない。

 今は貧民街の連中が競りに出されてるらしく値段も安い。あんなガリガリでも売れる様で次々と落札されていく。


 一切参加せずぼけーっと眺めていたらふと不穏な空気を感じた。


「……嫌な感じがするわ」

「今競りに出てる奴隷だけ誰も入札しませんね」


 誰も?

 使えなさそうなガリガリまでもが売れていたのに?

 一体どんな奴だと見るが、やっぱり遠目すぎて見えない。かろうじて分かるのは異世界人並に黒い髪を前髪ぱっつんの所謂おかっぱにしてる少女。


 ……異世界人って事はなかろう。

 先ほどもらった冊子を見れば名前はアザレア、年は13……特技は商家の娘らしく計算か。

 何だ、割と使えそうじゃないか。


「あの娘は不幸を呼ぶ存在だそうで」

「また不幸属性か……と言いたいけどあの娘の場合は事実でしょうね」

「そうなのですか、どうやら入札者無しでお流れになりそうです」


 しかし参加者全員があの娘の事を知っているのなら大した有名人だな。


「いえ陛下、オークション開始時にあの娘のせいで実家が破滅ギリギリまでいったと説明が有りましたが」

「聞いてなかった」

「ですよね」

「アザレアか……うーーーーん。居ても居なくてもいいけど、居ないより居る方が良いって気がする」

「ややこしい」


 アザレア、花の名前だ。花言葉はあなたに愛されて幸せ。

 どこが幸せなんだと……

 今日のオークションでは彼女以外気になる奴隷は居ないだろう。だが嫌な感じがしたし簡単に買うのは危険な気がする。


「あの娘、また出品されると思う?」

「恐らくは。これで3度目の出品らしいですし……段々と最低落札価格が下がってるようです」

「それでも売れないと……まぁいい。また出品されるならそれまでにあの娘の事をサヨにでも調べてもらいましょう」


 この先の事を考えるとあの娘が居る居ないで大分変わると思う。何故かは知らんけど。

 馬鹿みたいに強い天使がアルカディアを攻めようとあの娘次第で何とかなるかもしれない。それぐらい重要な要素になりそう……


 だが一歩間違えるとすぐに破滅を導く、そんな存在なのがアザレアなのだろう。

 まずは彼女がどういう存在かを調べる、買うのはそれからだ。

 なに、ラッキーデイに出会った奴なんだ。扱い次第ではきっとプラスな存在になる。


 他の奴隷にはもう興味は無い。フルートの言う通り落札者無しでお流れになったようだし一旦帰る事にした。

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