幼女、本気でビビる
かくして予想通りにババア母は転移で襲ってきた。
しかし私を殺しに来たのではなく連れ去りにだった。もはや焦って愚かな事をする雑魚だと思っていたが違ったか。
私を捕まえ何処ぞへと転移するや否や手に持ったナイフで私の胸を思いっきり刺す。
思いのほか力があった様で当然怪我は無いがそのまま突き飛ばされて尻を打った。
「尻いてっ」
起き上がって尻の安否を気遣ってる内に再び刺される。今度は頭だった。
で、また尻餅をつく形で尻を打つ。
いてーだろ、私の尻を苛めんな!
「お?」
背中を押され倒れると後ろ手を組まされた。今度は縛るみたいだ。
紐なんか無かったが、どうも自分の着ている服の袖を破いて結ぶらしい。
よぼよぼババアだったくせにえらく機敏だな。
「ナイフで刺されて無傷だなんて面白いお嬢さんだこと」
「えらくキャラが変わったわね。それが素なの?」
「さて、どうかしらねぇ」
「まさか私が見誤るなんてね……」
「初見で私がボテバラート達を嫌悪してると見抜いただけでも大したもんよ」
腕を縛り終えると次は足らしい。念入りだなコイツ。
ええい、誰だコイツを雑魚とか言った奴は!私だ!
「お嬢さんは捕まってた時の私が演技してると思ってたのかしら」
「違うの?」
「違うわよ?どちらも本物の私」
「あなた二重人格なわけ?」
「そんな訳ないじゃないの」
ギュっと足を縛り終えると私から離れて適当な場所をナイフで掘り出した。
なに?埋めるの?
どうやら違う様で少し掘った場所にナイフを刃を上向きにして埋めた。
「ナイフは効かなかったけど尻餅ついた時お尻は痛そうだったわね。魔法で防御した訳でも無さそう。なら私が何もしなければあなたにもダメージがあるのでしょう」
「お前、頭いいな」
「お褒め頂き光栄ですわ」
つまり私をナイフの上に放り投げようって事か。
何すんだやめろ馬鹿!
「ふふん、そんな事じゃ私にダメージを与える事は出来ないわ」
「じゃあ試しにやってみるわ」
「まあ待ちなさい」
「やれやれ、お嬢さんは頭はキレる方みたいだけどまだまだね」
「む」
「私はあなたが生きてる年齢以上に貴族社会で駆け引きして生きてきたの。ボテバラートへの殺意がバレたが最期、全ては水の泡、私の命も無かった訳よ。だけど私はここまでやり遂げた」
ボテ腹を殺す為だけに奴の懐に潜り込んだのか?
何があったか知らんが随分と手の込んだ復讐だこと。貴族の考える事は分からん。
「お嬢さんが見てきた貴族はせいぜいが未熟な学生ばかりでしょう?本物の貴族社会を知らないお嬢さんに出し抜かれるほど私は耄碌してないわよ」
「くっ、生かせ……!」
「形勢逆転されて減らず口を叩ける根性は認めるわ」
案外生かしてくれるかと思ったけどそんな事は無かった。やっぱ山賊の真似してもダメだわ。
ついに身体を持ち上げられた。ああん……
「一つ聞きたいけど、あなた程の者に毒を盛った側近はどうしてるの?」
「あの話信じたの?程度が知れるわね、おほほほほ」
「ぐぬぬっ」
「実際に側近は居たわ。民に扮した私の手の者に殺されたけど」
お、ババア母の動きが止まった。
私の寿命がちょっとばかし延びたらしい。
「私も聞きたいのだけど、精神が壊れたフリをしていた私を見破り、本当に壊してくれたあの女を知ってる?……アナルチアはシリアナとか呼んでいたわ」
「知ってる」
「そう、あの女にしてやられたのが最初で最後の大失敗だったわね……」
『おや、精神を壊したのでしょう?ならちゃんと壊れましょうか』
「ニヤニヤしながら言ってきた腹立つ娘だったわ。目的は達成寸前だったのに……残念ながらバトックス国にはそれなりに優秀な臣下が多かったからバレずにあの二人を殺すのは難しい。だから一度民を使って国を滅ぼさせた。
そして民に裏切られた事で精神を病んだフリをした私の為に再び国を興させる。だけどあの二人の器は小さい、優秀な臣下さえ居なければ今度こそ民に討たれてくれる。遠回りな道程だと思うでしょう?私の為にとやってきた事で自分達を死に追いやった様を見て嘲笑ってやる為よ。だけど、あの女め……」
「ざまぁ」
「そんな状態で良く吠えられるわね、感心するわ。で、知ってるならあの女は何処に居るの?」
「私がぼっこぼこにした後に妹に討たれて死にましたー」
「……まぁいいわ、あの女は後回しよ」
コイツ信じてねぇぞ。
まさかとは思うが私よりマリオネットのが上と思ってんじゃないだろうな?
「お嬢さん達には感謝してるわ。シナリオとは違うけど、結果的にボテバラートは死に、アナルチアもすぐに死ぬでしょう。これであの一族の血は絶える」
「一族郎党皆殺しとはえらく恨んでるわね」
「……そうね、長い長い怨恨よ。お嬢さんは気に入ったから教えてあげるわ、私の曾お爺様の代の事だけど、数百年は生きていた化け物の男に我が家、いえ私達の町は滅ぼされたの。かろうじて生き逃れた息子であるお爺様はその男に復讐する為だけに生きた。それが今の私にまで継がれたってこと」
それだけ生きるなら吸血鬼か何かか、爺さんはともかく孫であるババア母には直接関係は無い話だ。
そんな知らない奴相手に復讐するとは人間恐るべし。
「その男はナイン皇国の勇者とやらに殺されたわ。だけど、奴には何処でこさえたのか娘が居た」
「それがボテ腹の母親だか婆様だったの?」
「そう言う事。奴の血筋は一人残らず殺す……それが私の一族の願いよ。奴の娘は面倒な事に小国を作り上げる力量はあったわけ。親のせいで敵が多かったから防衛の為に国を興したの。奴も面倒なら娘も面倒だわ」
「その娘も殺したのね」
「いえ、アイツはボテバラートを生んですぐ死んだみたい。手間が省けて良かったわ」
さて、とババア母が呟くと止まっていた足を動かしだした。
今度こそ殺されるなコレ。
「さよならお嬢さん。あなたとの駆け引きは中々スリルがあったわ」
「考え直しなさい。こんな事をすると私のお袋が泣くわよ」
「うふふ、最後まで楽しいお嬢さんね。だけどダメよ、あんな召喚魔法を使えるあなたを生かしてはおけない。あなたを殺したらただのアスとして自由に生きるの。やっと解放される……家からも、フィーリア一族からも」
…………
……ん?
「もう一度」
「家からもフィーリア一族からも解放されるわ」
「お分かり頂けただろうか?」
「何言ってんの?」
フィーリア一族か。でも良く考えたら別にウチの家系とは全く関係無い同名かもしれない。
サヨによれば親戚に当たる奇跡人が散らばってるらしいがこの際忘れよう。
大体勇者に討たれる様な外道が私の親戚な訳がない。それにだ、ソイツが親戚だった場合はババアもボテ腹も親戚って事になってしまう……嫌すぎる。
「フィーリア一族……一体何者なんだ」
「何そのワザとらしい台詞。あなた実は関係者なの?」
「残念ながら私はワンス王国五丁目に生まれた一般人よ」
「あらそう」
ナイフが埋められた側に私を置くと、近くにあった木の枝にロープの様に服を結びだす。
私を吊るした後に切って落としてグッサリって事か。
さて、そろそろ頭に乗ってる蝶をけしかけるとしよう。私は死にたくない。
「……ん?っぐ!?」
ババア母が私を吊るす為に持ち上げようとした時、顔面目掛けてマイちゃんが割と本気でタックルした。
例によってデカすぎる蝶とは思わず飾りと判断してくれたみたいだ。
マイちゃんの擬態能力は日に日に増している。
「ほらマイちゃん、今の内に私を解放するのよ」
「ガッテンデイ」
影は薄いが役に立つ親友よ……変な言葉を覚えてるが何処で習ったのだろうか。
結んである服をほどくほど器用ではないみたいで、ブチっと音が聞こえたから無理やり引き千切った様だ。
自由になった所で大の字で倒れているババア母を見る。
幻獣すら吹き飛ばすマイちゃんタックルを食らったんだし死んだかも。
のそのそと近付くと右手が動きいつの間に所持していたのかナイフで首目掛けて切りつけられた。
「……ふ、ふぉーっ!?あっぶねえええぇぇぇぇっ!?」
咄嗟に奇跡すてっきを召喚して首をガードしたが左手に割と深い傷を付けられた。
リディアのお守りがあるのに斬りやがったのだコイツはっ!
「失敗したか……ひょっとしたら敵意を持った相手のみの攻撃を弾く結界でも張ってるのかと賭けに出てみたけど……惜しいなぁ」
「まさか、傷を付けられるとは思わなかったわ……」
しかもバレてる。
「無心でやれば敵意とか関係無いからねぇ」
言うのは簡単だがこの短時間で無心になり敵を倒すとなると難しい。
何コイツ怖い。
「……マイちゃん。あと3回くらいタックルよ。ゴー」
「アイヨー」
倒れてるババア母に身体がくの字になるほど強烈なタックルをかましたので今度こそ意識を失った筈だ。
だが油断はいけない。
何せ一度は食らっても意識があったのだ。何かしらの方法で防御してたのだと思うが……
3回目に内臓を損傷したのか血を吐いたのでもう動けまい。
見た目老人とは思えないほど恐ろしい相手だった。
「マイちゃん、今後は35歳以上の貴族様に喧嘩を売るのは止めましょう」
「ビビッテンナー」
ビビるだろ、やべーよ年取った貴族。
マイちゃんが居なけりゃ奇跡ぱわーを使わざるをえなかった。
マリオネットに精神壊されてなきゃとっくにババア達は殺されていた事だろう。
フィーリア一族郎党皆殺しらしいが、この女なら生き残りの一族を調べて実家まで標的にしてきそうだ。
そうなってた場合はババアに代わってコイツがボスとしてやり合う事になってた可能性があるって事か。
万全の状態のコイツとか嫌すぎる。
というか年から考えると狙われたのなら相手は恐らく母、あの母じゃあすぐに殺されてしまっただろう。マリオネット様々だ。
結果はこうして生きているがやっぱり人間ってこわい。
ズキズキ痛む左手の傷を見ながらつくづくそう思った。
「……転移符も無い。ユニクスの血も無い。奇跡ぱわーで帰るしかないか」
★★★★★★★★★★
何処へ飛んだか指定しなかったので分かりませんが、どうやら山の中みたいですね。
急にこんな所に連れてこられてアナルチアは少々混乱している様です。
あたふたするアナルチアなんて全く可愛くないのでさっさとやる事をやりましょう。
やる事とは何か?
もはやボテバラート同様にお役目御免なこの娘を永眠させる事ですね。
さて、ではリンに身体を貸して頂くとしますか。
「…………お?おおおおおぉぉぉぉぉっ!?」
「やかましいですね」
「マイシスターであるシリアナじゃないかっ!?」
今の私の姿はクソ姉に似ているが大人の姿。要するにアナルチアの側に居た頃の姿です。
「まさか、私を助けにあの世から?」
「んな訳ないでしょう。逆です、貴女をこの世からおさらばさせる為に来たのです」
「そ、そんな……一人じゃ寂しいからって私を迎えに来るなんて」
「相変わらず残念ですね」
もし、ボテバラートが母方の性を名乗っていればこの娘はアナルチア・フィーリア。
二代目様とは全く関係の無い家系ですが、私の創造主であるフィーリア様にとっては息子の子孫。
私と同じ、創造主が残した二代目様が成長する為の踏み台と言った所でしょうか。
二代目様が手を下さず私に任せたのは少々意外でしたが、まぁ良いでしょう。
しかし流石は二代目様と言いますか、よくまぁ私の存在に気付いたものです。マリオネットであった私が砕けた欠片が残っていただけですのに……
「ところで、何で死んだ筈のシリアナが?」
「……一度、一度だけ僅かな時間の間ですがマリオネットの身体を復元出来るのです。……創造主が仕込んでいたのでしょうね」
「そ、そうなんだ」
「本来ならっ!……二代目様が危機に陥った際に颯爽と現れクソ姉であるサヨより素敵ー、と言われる為に使う筈だったのですが二代目様に頼まれては出てこざるを得ません」
「……私は姉って呼んでくれなかったのに」
そりゃ姉と思ったことなど一度もないのだから当然でしょうが。頭大丈夫ですかこの子。
「さて、私には時間がありません。ものの数分で元の素敵な名前を付けられた人形であるリンに戻るでしょう」
「あのチビをヨイショしすぎじゃね?」
「次に二代目様をチビ呼ばわりした時、貴女は死にます」
口を閉ざしたアナルチアを尻目に適当な木の枝を折り、操術で木刀の形にします。
二本完成した所で片方を投げて渡し、構えを取ります。
「私が居ない間にも精進していたか、確かめてあげましょう」
「……ぇー」
「これは死合です。あっさり死にたくなくば全力でかかってきなさい」
一応構えはしますが乗り気じゃないのが丸分かりですよ。
元仲間でありあっちが勝手に自称していただけとは言え元姉妹、私が本気でアナルチアを殺すとは思ってないのかもしれません。
そんな甘い考えで二代目様と戦おうとは烏滸がましい。
「いきますよ」
「お、おうっ……っ!?」
あちらが返事をすると同時に瞬時に迫り胴を思いっきり薙ぎ払う。
手に持っていた木刀は弾かれ、腹部に強烈な一撃を受けたアナルチアはそのまま吹き飛び木に当たって崩れ落ちました。
喋れない程まともに受けたみたいですね、全くもって雑魚いです。
「……血が薄れると弱体化する一族なんでしょうかね」
「……っ!ふっ……っ!」
「貴女のダメダメな所はすぐに油断する事です。身内が牙を剥くなど先ほど貴女の母親が教えてくれたでしょうが」
まぁまだ喋れる程回復はしてないでしょうから返事は期待してません。
「だ、だ……」
「……この無駄に頑丈なのはこんなのでもフィーリア一族だからでしょうかね」
すでに声を出せるまでは回復してたとは……頑丈さなぞ役に立ちませんがね。
「だ、ダメダメとか、可愛すぎる……」
「貴女ホント残念ですよ」
この馬鹿の事は良く分かりました。まるで成長していません。
今まで私の側で何を見て何を学んできたのやら……
おっと……この馬鹿の成長なんか見ようとしたのが間違いでした。すでに手の先が薄れてきているので時間切れが間近です。
「最後まで残念なのは、貴女らしいかもしれませんね……では、私と共に逝きましょうか」
「……ぇ」
「だんだんと眠たくなってきたでしょう?……そのまま貴女は安らかな眠りにつきます。それなりに付き合いはあったのでせめてもの情けです。痛みなく死なせてあげましょう」
創造主が私に与えた操術。操ろうと思えば人の体内にある細胞だろうが血液だろうが操れます。
二代目様やクソ姉と戦った時に使っていれば勝ったのは私だったかもしれません。
「でも、殺してどうなるのです。二代目様が死ねばフィーリア一族の直系は絶えます。自分で命を絶つ選択肢が無い以上未来永劫生き続ける事になるでしょう……次代が生まれない未来を生きてどうすると言うのですか」
ましてや世界に寵愛されてる二代目様を殺せばそのまま世界まで終焉を迎えてしまいかねません。
「シリアナは、あのチビ、じゃなくて小娘の味方なのか?」
「当然です。創造主が言っていました。二代目様は力を受け継いだフィーリア一族が何代続こうが歴代最弱な存在だろう、と。ただ……成長次第では彼女ほど敵対したくない相手も居ないそうですよ。私は二代目様を成長させる為の駒の一人なのです」
好きに生きろ、創造主が別れ際に仰った言葉ですが中々に難しい事を言われる。
「お前の創造主って奴、酷い奴だ」
「違いますね。二代目様が生まれるまでの数百年もの間、振り返っても長い時間を私達は自由に生きてきました。長く生きすぎて疲れるほど、私はその内の一人です。
ある者は愛した人間との間に子を為し愛した者と共に生涯を閉じました。
ある者は人間の敵となり討たれました。
ある者はいずれ生まれる後継者の為に力を蓄えました。
そして、ある者は後継者の糧となる為に戦い、討たれる事を選んだのです。
分かりましたか?私達は何百年もの間どう生きるか散々選択する時間があったのです。そして、それぞれが自分で道を決め、好き勝手に生きてきたのです」
中には何もせず堕落した馬鹿も居ましたね、名前は知りませんがアトロノモス騒動の時に二代目様にボロクソにされた馬鹿です。あーいうのがまだ居そうですね。
ただ、誰も自らの手で死のうなどとは思わなかった様で……ま、創造主に貰った命なのですから当然です。
そして私は二代目様の敵となり糧となる道を選びました。せめて最後は次代の手によって死にたいとも。
「でも、願わくば許されたのなら二代目様と共に歩むのも夢見ました。しかし、隣にはすでに私の姉が居ました。憎たらしい姉でしてね、二代に渡って寵愛を受けるなど……ぬぅ」
「……サヨって奴が寵愛されてる様な扱いされてたかなぁ」
「あなたは好きな娘を苛める心理も知らないのですか。まあいいです……どの道私は二代目様と共に行く事は出来なかったでしょうし。私は二代目様を創造主以上に敬愛する主とは見れませんでした。そこが長く創造主と共に居なかった姉との違いですかね……」
「敬愛しなきゃ仕えられないのか」
「二代目様は慎重な方です。そうですね、家族以上の存在でないと側に置きたくないのでしょう。まぁ最近は奴隷を仕入れたりエルフを雇い入れたりとリンを通して見た限りでは大分緩和されてきた様ですが」
ただし長く共に冒険する相手ではないですけど。
さて、このアホな子は分かっているのでしょうか。二代目様と共に歩むのを夢見ていた、それはアナルチアと会う前の話なんですけどね。
アナルチアがあのカスに刺された時、思わずリンを操って手を出してしまいました。二代目様に討たれるならまだしも、あの様な者に殺されるなど許されません。
私は、この出来の悪い娘に出会った時点でアナルチアと共に生きると決めていたのかもしれませんね。気付いたのが死した後だと言うのが遅すぎましたが。
「二代目様が相容れぬ者と思っても仕方ありません。私は、自分ですら知らぬ間に他ならぬアナルチアと共に生きようと思ってたみたいですので」
「……へ?うっそマジで?みーとぅーみーとぅー!!」
もうすぐ死ぬ割に元気ですねこの子。
私の力は確かに作動してる筈なのですが、眠くないのですか?
「でも、あの時縁を切るって」
「私はあの場で死ぬつもりだったので」
「……やたら酷い事言われたけど?」
「あのくらい言わないとあなたには効果ないでしょうが。というか自分の気持ちに気付いたのは死んだ後なので許して下さい」
「私を、姉と呼んでくれなかったし……」
「こんな不出来な姉がいますか、あなたは精々手間の掛かる私の妹って所です」
「妹、妹かぁ……それはそれで、うへへへ、へ、へへ……」
気色悪い。言わなければ良かったです。
「……一つ、最後の最後でしたが、二代目様に痛手を与えたのは褒めてあげましょう。二代目様に真っ向から向かってもご覧の有様です。利用出来るものは利用する、何もかもをフル活用しなければ二代目様を倒すのは難しいです」
何せ二代目様自身はおろか仲間までが酷い。
特に星落とし、あれを倒すなど今の世では二代目様以外は無理でしょう。まずは星落としを倒すのではなく封印する手段を用意するのが先決です。
いや、もはや二代目様達をどうこうするのを考えても仕方ないですね。
「あなたは私と同じく二代目様の明確な敵となれた。これで二代目様はあなたの事を忘れる事はないでしょう……私はそれが誇らしい」
「……」
「お疲れ様でした。創造主の愛し子の末裔である娘」
最後の褒め言葉は届いたのでしょうか。
私ももうすぐ消えてしまう、その前にアナルチアの亡骸をどうにかしないと……こんな所に放置してゾンビにでもなったら可哀想ですしね。
「もう少し身体を借りますよリン……ん?」
アナルチアの身体を持ち上げた正にその時、目の前に倒れた女性と何やら疲れた様子の小さな少女、というか二代目様が現れました。
「……マリオネット」
「は、はぁ」
「私は、貴女に、いえ貴女達に勝ったわよね?」
「ええ、それはもう完膚なきまでに」
何の確認かは知りませんが、あなたも数に入ってて良かったですねアナルチア。
「そう、つまりマリオネットにしてやられたこの老女よりも私は上!……ふはははははっ!」
「……よ、良かったですね」
「ふは……マジ怖かった。このクソババア、アナルチアなんぞとは格が違うほどヤバかったわ」
本当に恐怖されたご様子、聞かなくて良かったですねアナルチア。
しかしそんなに厄介な奴だったのですか……すぐに精神を壊したので分かりませんでしたね。まあ良い経験になったでしょう。
「あー、これで安心して気絶出来る」
「はぁ」
「……あんたら、そうしてるとまるで姉妹みたいね」
そう仰られたあとそのまま倒れてスヤスヤと寝、いえ気絶されました。
姉妹……ですか。あなた様とサヨほどではありませんよ。
しかしこの死に損ないの女はどうしろってんですか。
と考えてたら二代目様のご友人らしい大きな蝶が何やら紙を抱えて飛んできました。私宛みたいなので受け取って読んでみると。
『あげる』
……ぇー
要らないんですけどー……
いや、そう言えばアナルチアは手の施しようがない程のマザコンでしたね。加えてファザコンでシスコンでもあります。良く言えば家族想い。
つまり、最後くらい一緒に逝かせようって事なんでしょうかね……ボテバラートは真っ二つにされましたが。
「とりあえず二代目様の傷を治しましょうか」
と言っても完全には治しません。二代目様を負傷させたという事実をあのクソ姉達に知らしめるのです。
二代目様の考えている通り最近の彼女達はたるんでましたからね、良い薬になるでしょう。
「二代目様、実は貴女にもフィーリア一族としての使命があるのですよ。自分の思うままに生きて天寿を全うする……簡単な様で難しい事です」
一人では難しいでしょうが、貴女様には側に仲間が沢山居ます。きっと大丈夫です。
薄い切り傷程度になった所で治療を止めました。改めて触れると本当に小さな手ですね……幼女なので当然なのですが。
これで私の役目も終わりでしょうか。
最後にアナルチアと語る時間を与えて下さった二代目様には本当に感謝しています。本当……身内には甘い方ですね。創造主とよく似ています。
……今度こそ、そちらへ向かいますよ創造主。オマケとして馬鹿でどうしようもない娘を連れて行きます。
この娘の側では、私は人形ではなく一人の姉として存在出来ます。
良い年して騒がしい娘ですけど、創造主は気に入ってくれるでしょうか――




