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幼女、獲物を譲る

 リンが行動をした訳は不明だがとりあえず好きにさせてみよう。

 実はマリオネットの意識がありましたって可能性は無いとは思うのだが……


「マリオネットだった時の記憶があるんですかね?」

「無いでしょ。あったらサヨに懐くハズがないわ」

「く、納得せざるを得ません」


 まず自分の意思でババア母をぶっ飛ばしたのか無意識でやったのかが分からん。

 流石の私も表情が変わらない人形の心理など読めないし、本人に聞こうにも喋らん。


 て事で見守りつつ判断しようと思う。

 一応手下であるマッチョ共がリンを何とかしようとするがちっこいからスルスルと逃げていく。

 そのままババアに手当てをしているボテ腹の側に行ってもしや……と思ったが何とリンはババアを蹴った。


「蹴りましたよ」

「蹴りましたね。重傷なのに」


 蹴ったと言っても軽めな様でゴロゴロ転がる程度で済んだ。いきなりの凶行にボテ腹は慌てているが。

 次に何をするのかと期待したがリンはそのまま戻ってきた。


「何がしたいのよこの子」


 定位置である肩に戻るのかと思ったが登ってきたリンはそのまま私の背負ってるリュックの中へと侵入していく。

 背中でゴソゴソ動かれると何か虫が蠢いてる様で不快だがまぁ我慢しよう。

 お目当ての物が見つかったのかリンにとっては大きな物体を両手で持って飛び出してきた。


「こら、勝手にお姉様の私物を持ち出さない様に」

「好きにさせてみましょう」

「あれユニクスの血ですよ?」


 ほぅ、ダンジョンで使用したので補充したばかりのユニクスの血を持ち出したか。

 別に構わんな、ウチの者なら好き勝手使っていい代物なので当然リンも使いたければ使っていい。


 ババアの方へ向かっていくって事はババアに使うのだろう。

 しかし再び近づくリンにマッチョ共はより一層の邪魔をしてきた。あれがユニクスの血とは知らないから毒とでも思ってるのかもしれない。


 リンにとっては大きなビンを抱えているので動きは鈍る。さっきまで余裕でかわしていたが今度は危なっかしい場面がちらほらと……かろうじてちょこまか逃げ切れているがあの調子ではその内捕まりそうだな。


 リンもそれを察したのか一度ぴょいんと後ろへ下がった。

 で、ババアの方を向くと両手を上げてビンをババアへとおもっきし投擲した。


「ぎゃああああああっ!?」

「アナルチアの頭にビンが当たって砕けただとぉ!?……なんたる石頭だ娘よ」

「し、心配して下さい……あれ?痛くない」

「なんと……まごうことなき石頭よ!」

「お父様は黙ってて下さい。でも何で……はっ!そう言えばビンに入ってた液体を被った途端胸の傷まで痛くなくなった様な……まさかシリアナが私の為にっ!?ふおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 相変わらずマリオネット関係になるとやかましい奴だ。


 即効性に定評のあるユニクスの血だけあって頭に当たった拍子に出来た怪我も治った模様。

 刺された傷もその内治るだろう。

 リンがババアを治すのは分かっていたが、問題はこの後何をやらかしてくれるのか……


「リンが次に何をするか楽しみね」

「すでにお姉様の肩に戻ってきて寛いでるんですが」

「……まさか治して終わりっての?」


 リンが再び登ってきたのは知ってる。またリュックを漁りに来たのだと思ったがどうもやりたかった事はアレだけらしい。


「それだけかよ!ババアが得しただけじゃない!」

「いえ、待って下さい。リンさんが何かジェスチャーをしています」


 顔を肩に向ければかろうじてリンが人の肩の上で暴れているのが分かった。

 パンチをしているから殴れって事か?

 数秒の間殴るジェスチャーをしていたが突然今度は寝た。


 私には意味不明だったがマリアは分かったのか名乗りを上げる。


「なるほどわからん」

「分かったのか分かんないのかどっちよ」

「まれによくあると一緒でちと矛盾した言葉じゃな。こういう言葉はいくつかあるのか?」

「処女ビッチとかね」

「何故その言葉をチョイスしたのじゃ」


 殴って寝る。

 あれか、ババアを殴りまくって永眠させたいって事か。リンも染まってきたな。

 だが戻ってきたって事は、自分じゃなくて別の者にそれをやって欲しいのかもしれない。例えばババアに一度やられた私とか……


「あんなカスババアじゃなくて私に止めを刺させたいと、そういう事?」


 すんすんと頷いたのでそれで合っている様だ。本心なのかは分からん。流石の私でも表情が不変な人形は読めん。のだが……


「あなたは本当にそれでいいの?」


 もう一度聞くとまたもやすんすんと頷いた。良く分からんやっちゃな、自分でやりたきゃやればいいのに。


 どうしたもんか、元々やるつもりだったけど……?

 急に影が差したので上を見てみると。


「おや、ドラゴン達が来ましたね」

「……何か降ってくるわ」


 ここぞと言う場面でドラゴンが援軍に来たらカッコいいと思うが、現実では中途半端なタイミングで現われた。

 そして高度を下げた銀竜と白竜の背中から黄色い物体が次々と降ってくる。

 あの丸い体型の物体はもしかしなくても奴等だ。


 割と高い所から落ちた様だがぼいんぼいんと地面から跳ねてそのままスタっと着地していく。


「何でもっきゅんが来るのよ」

「先ほど私が申し上げた援軍です。マッチョと言えば物理攻撃、対してもっきゅんは物理があまり効かないという最高の相性です」

「今頃か」

「ドラゴン達に頼んでもっきゅん達を運ばせたのですが、結構仕事が遅かった様で」

『言われた通り連れてきたのにこの言われ様か』


 いきなり現れたドラゴンともっきゅん達に慌てているのはババア達だ。今の会話でこちら側とも分かっただろう。

 ちなみに虫人達もドラゴンは恐ろしいのか腰が引けている。味方だ馬鹿者。


『というか何をしておるのだ?』

「殺し合い」

『またか。で?手伝う事はあるか?』

「無いわね。どいつが味方かわかんないだろうし上空でぐるぐる回って威嚇しとけば?」


 というか降りてきたら何も知らないライチが嬉々として殺しに掛かってくると思う。

 いや、奴の事だからジャンプでドラゴン達に届くかもしれないな。




「嘘だろ……あいつ水竜以外のドラゴンまで手懐けてんのかよ」

「壮観だな。ここまでされると最早打つ手は無しだと思わされる」

「いや来る前から負け戦だったから」


 もっきゅんはともかく、ドラゴンの到着は結構士気に影響あったみたいだ。

 デカイだけあって威圧感だけはあるのだろう。


「よくもまぁ様々な種族を手懐けたものだ。人間だけにしか目が行かなかった私達に比べればどれだけ器が大きいか……」

「お父様」

「小さい少女だが優れた指導者と言えるだろう。あの子は私達なぞ眼中に無い。あの子が見ているのはアナルチア、お前だけだ。あの様な者に唯一の敵と認められたお前が誇らしい様な不憫な様な」

「……ちびっ子の敵とか恥ずかしいんだけど」


 ボテ腹の戯言にピクっと反応してしまったが冷静を保つ。


「女性ばかりの目立つパーティだ、すぐに分かった。彼女達は私としても敵に回したくない相手筆頭だったが……世の中ままならんな」

「私もハッキリ言って会いたくはなかったです。色んな意味で」

「ま、こうして対立してしまったのだ。致し方ない事だな……絶対的自信で勝つつもりであったがいきなり出鼻を挫かれたというか、あそこまでやられると笑うしかなかったな。流石は白銀のペタン娘と言った所か」

「あいついきなり私を馬鹿にしてきたんですけど?」

「そんな称号付けられてる方が悪い」

「お姉様が付けたんでしょう!?」


 皆揃ってまともな称号付いてないからいいじゃないか。サヨとアホの娘のおかげで抱っこちゃんがまともに聞こえて万歳だ。


 未だに敵である私達を賞賛し続けるボテ腹だがそろそろ聞いてて不快になる。

 賞賛しといて私をイラつかせるとは大したもんだ。


「ふざけろブタ野郎、会ったばかりのブタが私を評価するな」


 あっちとしても予想外の反応だったろう、私の発言に驚きと困惑の表情を浮かべているから分かる。

 あのブタは何も分かっちゃいない。


「誰が優れた指導者だ。親子揃ってそんなに私に殺されたいのか、というか私を怒らせるのが天才な一族だな貴様らは……降ろせユキ」


 言われた通りユキは私をその場に降ろす。

 降りるだけの行為だがどれだけ私が本気か知ってる奴等には分かった事だろう。


「……何でリーダー怒ってんの?」

「お母さんは褒めるとキレるタイプですので」

「扱いめんどくさっ!?」


 失敬な事を後ろで言われてるが扱いのめんどくささは自分でも分かってるので許してやろう。

 今はあのブタ野郎の方が先だ。


「底の浅いカス野郎は似た様な事を言いやがる。何故こんな状況で敵を褒め称える様な事を言うか分かるか?……自分がそれなりに優れていると勘違いしてるからだよ。自称優秀な自分達がぼろ糞にやられる相手だ、そりゃかなり優れた奴だって思うでしょうよ」

「なるほど、説得力あるのじゃ」

「実際お姉様は優秀なのですが」


 サヨもアホな事を言い出したか。まぁこの娘の場合は身内贔屓みたいなもんだと思うが。


「もう一つ不快な事がある。お前、人間以外を見下してるだろ?」


 手懐けていると奴は言った。

 奴の言葉を正しく言えば畜生共の手綱を握ってよく使っているって事だ。


 あのブタは心の中で私達さえ居なければこんな小国なんざすぐに落とせたと思ってる。

 ニボシが居なけりゃ実際落とされていたとは思うが、そもそも兵の数が違う。

 同戦力であればキキョウ達がブタなんぞに負ける訳がないのだ。


「そ」

「そんな事は思ってないとかぬかすな下郎め。この私がお前程度の考えを読み間違える訳がないだろうが、お前の目は明らかにキキョウ達を見下している」


 もっとも、それは無意識なのかもしれない。

 人間が他種族を見下すのは子供の頃に受けた教育のせいなのが大きい。

 あの変態共はペロペロ愛でる対象としては獣人だろうが関係ないのだろう。


「頭の良さでは天狐族には勝てない。魔法ではエルフに劣る。身体能力に至っては獣人のほとんどに負けるのが人間よ。唯一勝っているのは繁殖力ぐらいだろうに……それでよく人間以外を見下せるものね」

「……」

「私はほとんど指示なんかしちゃいない。ババアに仕返しした事以外は……戦に関してはキキョウにでも任せとけばどうとでもなったのよ」


 つまりは


「私は指揮官としては至って凡人、いえそれ以下でしょう。私が優れているのではない、お前達が愚かなだけだ」

「チビ……!」

「実際そうでしょう?……マリオネット、いえシリアナが居なけりゃまともに軍も動かせない愚か者共が。優秀な指揮官が居なくなったのなら魔道具でも売って天狐族じゃなくてもいいけど頭の良い奴隷を買っときゃ良かったのよ。ま、獣人なんぞの指示を受けるのは屈辱だったろうからそもそも選択肢に無かっただろうけど」

「っ……」


 はっ、図星だからか言い返しては来ない。

 程度が知れるわババアが。


 だがここまで愚かになってるのにも訳はある。

 まず間違いなく学園での勉強のせいだろう。社会の教科書を読めば分かるがあれは人間が如何に生物の中で上であり、如何に他の種族が下かをつらつら書いただけの下らない本だった。

 あれは最早洗脳に近い。幼い頃からあんなもので勉強させられたなら亜人や獣人に初対面で好意は持てまい。

 特に貴族連中はしっかり学ばなければ家に怒られる事もあって必死になってしまう。愚かな貴族が多いのはこう言ったのも要因だろ。


 私は1ページ読んで下らない代物と分かったからまともに勉強しちゃいないが。当然教師連中にお叱りは受けるが役に立たない勉強なんざする訳ねぇ。

 問題児には問題児なりの理由があるのだ。

 

「ふーん。種族同士で因縁があるから嫌悪してるとかじゃないんだ」

「違うわね、大体が洗脳に近い教育を受けた人間が一方的に嫌悪してるだけよ。ウチに良い例がいるじゃないの。ミニマムメイド達はまともな教育を受ける前に奴隷になってるから天狐族にも他の種族にも特に嫌悪感を持ってないでしょ」

「確かに」

「はい。良い子達ですね」


 さて、この世界に学園なんてものを最初に作ったのは誰か?

 異世界人だ。

 持ち込んだモノの中で余計なモノの一つだな。多種族暮らす世界に人間しか居ない世界の奴が教育を施すとかアホだろ。


「貴族はともかく一般人が義務教育で勉強する事なんざ多少の礼儀作法に言葉と文字、それと簡単な計算ぐらいで十分でしょ。後は就職先なり進学先なりで勉強すりゃいいのよ」

「それも極端ですけど」

「仮に私が真面目に勉強していたら9割は必要の無い知識だったと思う。マオが今勉強してる因数分解だか2次方程式なんてクソの役にも立たんわっ!」

「わああああぁぁぁぁんっ!」

「どさくさに紛れて何でマオっちを苛めた!」


 おっと、ついうっかり口が滑ったわ。


「本当はマオが計算を覚えてドヤ顔で報告しに来た時に言ってやろうと思ってたけどつい言ってしまったわ、悪かったわね」

「なんだ、未遂で済んで良かったね」

「よくないですよっ!?」


 マオが元気になった所でそろそろ行こう。

 あちらさんは最早だんまりなのでこれでお互い言う事は無い。

 ただやる前にっと……


 背中のリュックを降ろして転移符を取り出す。


「これで最後、ペロ帝国なんてふざけた名前の国との付き合いはお仕舞い。後は腹立つ獲物をやっちまうだけ……ただ、私の標的が一人増えた訳よ。片方ずつを嬲りたい所だけど奴等の事だからお互い庇い合いでウザい事この上無いでしょうね」


 別に独り言を言っている訳ではない。

 返事をしないというか出来ない人形へ語りかけているのだ。


「だからあなたがババアをやりなさい。性根が腐れた母親のお陰でババアへの仕返しはもう十分よ」


 無機質な目でこちらをジッと見てる人形に転移符を渡す。何処か別の場所に転移しろって事なのだが果たして人形に使えるのかと思う……けどまあ視認出来ないが側に居る筈の者がリンを操れば使えるだろう。


 だからリンにやれと言わず「あなた」がやれと言ってる訳だ。

 獲物を譲るとか私も優しくなったもんよのぅ。


「なんじゃ、リン殿にやらせるのか?」

「ふん、愛しのシリアナに止めを刺されるババアを笑ってやろうって事よ」

「と言ってますがお姉様はリンさんが望んでるのでやらせてあげようって事だと思います」

「ダメですよ姉さん。気付いてないフリをしないとお母さんが恥ずかしさで悶死してしまいます」

「強引にボテ腹に怒ったフリして標的を変えたと見せかけてるんですね、わかります」

「長い建前だった」


 く、気付いても気付かないフリしろよアホ共め!

 だがボテ腹にイラついたのは事実である。ほんの少しだけど……


「折角だからもっきゅん達にはマッチョ共を何とかしてもらいましょう。リンがババアを転移で運んでからが本番よ」

「そしてお姉様がボテ腹に止めを刺すのですね」

「けっ、バレたんなら私はもう見物よ。ボテ腹なんぞあんたらに譲ってやるわ」

「それで結構です。偉い人として偉そうに見ていて下さい」


 普通に快諾された。

 いいさ、1日に二度も気絶する必要はあるまい。


 ただこいつらは分かって無さそうだけど、今や一番警戒しなきゃならんのはババアの母親だ。

 奴の生に対する執着心は結構えげつない。

 あの中では一番の雑魚なのだろうが何をするか分からんという意味では一番危険だ。

 ああいう奴は何かしら一矢報いてきそうだけど、人外共はたるんでるみたいだから黙っとこう。




「さて、そちらさんの腹は決まった?」

「ああ」

「宜しい。では始めましょう」


 開始の言葉と共に手下であるマッチョ共が向かってくる。だがもっきゅん達がそれを迎え撃つ。

 まさか最後の最後で魔物と戦う事になるとは思ってなかっただろう。


 もっきゅんが殴られるとぼよんと弾き飛ばされるが無傷。

 マッチョが殴られると硬すぎて無傷。何とも長引きそうな戦いである。


 しかし奴等は紳士だ。いかがわしい行為をする変態相手には真価を発揮するのだ。

 男には容赦のないもっきゅん達はマッチョ共の急所を執拗に狙いだした。後でちゃんと手を洗わせよう。

 思惑に気付いたマッチョが股間をガードするが別のもっきゅんに顔面を殴られる始末。完全に遊ばれている。


「何か解説するとアホくさくなる戦いね」

「もっきゅんですから」

「全くだわ。じゃ、予定通りあなたにはババアの元へ行ってもらいましょう」


 符を両手で持ってるリンを地面に降ろしながらそう伝える。

 すぐには行動せずじーっとしているが


「別に惨たらしく殺してきなさいとは言わないわ。あなたなりにケリをつけて来なさいな」


 お互いじーっと見詰め合っていたがやがてペコリとお辞儀をした後転移符で飛んでいった。


 ババアの方を見れば転移で現れたリンが頭の上に乗っかり何処かへ転移する所だった。

 もう、ババアの顔を見る事は無いだろう。


「ふむ、お別れするのもあっけないものね。最後なんだし顔面に馬のふんでも投げてやりゃ良かった」

「あの女の本性さえ分かってれば国を興すなんて真似はしなかったかもしれません」

「というか小国が滅ばず存在してたと思われます」


 降りた後そのまま突っ立って雑談していると目の前にデカい図体が現れた。

 ボテ腹が直接大将である私に向かってきたのだ。

 まぁ転移可能なのだから来るのは当然だ。開始早々でケリを着ける手としても有効なのだろう。


「ぬぅ」

「まあそれくらい私も読んでいる訳なんだけど」


 私の目の前でボテ腹の拳を掴んでいるのは我らがニボシだ。

 結構離れた位置に居たと思ったが一瞬で現れた。100M何秒か計りたい。


「隙をついてもダメか」

「お前は遅すぎるのです」

「目の前まで転移してなお遅いか、とんでもない部下だ」

「ふっふっふ、お前を倒せば特別ぼーなすが待ってるのです。だから死にやがれですっ!」


 ……そういや言ったな。言ったけど、あれはキキョウとメルフィ以外には話してなかった筈だが?……まさかコイツあんだけ距離あったのに聞こえてやがったのか。

 てかニボシってば私じゃなくて食べ物の為にやってるのかよ。ぐぬぬ……


 ニボシの腹パンというなの必殺技は見事に上半身と下半身に分断させた。パンチって威力じゃねぇぞ。

 ボテ腹もここまで色々やってきて有名にもなったろうに無残な死に様だこと。


「ボテ腹は死んだ。だがいつか第二第三のボテ腹がきっと」

「敵の大将を倒したらとりあえずそのセリフを言えばいいってもんじゃないです」


 突っ込まれた所で次だ。

 残るはマッチョに例のババア母か……それと今何処かで姉妹喧嘩してる二人か。


「ヨーコが出前を持ってくる前には終わりそうね」

「フィーリアよ」


 ふと声を掛けられたので左方向を見ればライチが居た。忘れてたわ。

 戻ってきたって事は魔物の方は片付いたって事だろう……しかし。


 何故コイツの後ろに巨大なピンクの触手生物がいるのだ。


「コイツはお前達のモノらしいから生かして連れてきたぞ」

「すげー勘違いしやがったな!」

「だってその、サヨとかいう奴はコイツで、何だ……いやらしい事をするんだろ?」

「何で風評被害が広がってるんですか」

「というか何だお前の軍勢は!妾よりも魔王っぽいではないかっ!!」

「自覚してる」


 締まらんなぁ……ま、これぐらい緩いのがウチに似合ってるのかもしれないが。

 ボテ腹もババアも居なくなった事ですでに勝利ムードだ。ニボシもボーナスに浮かれて敵は眼中に無い。


 ユキ達もすでに残ったマッチョ共には多少の警戒はすれど侮ったまま、ましてやババアの母親なんて雑魚は眼中にすらない。

 さっきも思ったが実にたるんでいる。だがこちらが油断しきってるとは言え雑魚ババアが相手ではたるんでようが撃退出来る。

 昔はもっと戦闘中は常に警戒してた気がするが、仲間が増えだしてから警戒心が薄れてきている。特にニボシが入ってからか。


 ババア母が奇襲してきた所で撃退は容易い。それではあまり成長しない……

 あんな年寄りでも一矢報いれる相手、そんなの私ぐらいしか居ないじゃないか。


 うーむ、リディアのお守りがあるから痛くはないだろうがあんな雑魚にワザととは言えやられるのは腹立つ、が仕方ない。


 今後の主な相手のボスは天使共だろう。ババアのお陰で戦の火種になる良い餌がウチに居る事が知られてしまっている。そんな都合の良いモノを利用しない奴等ではない筈だ。

 今のこの娘達でマリア並かそれ以上の相手が現れたら果たして全員無事で済むやら……


 ババア母が下手な死んだフリをしつつコソコソとマッチョの死体を漁ってるのは確認済みだ。まず間違いなく転移の魔道具は入手済みだろう。

 あれはそのまま逃げる馬鹿ではない。私が居る限り召喚されて殺される、そのくらい分かっている。

 ならば私を殺した後で転移で逃げるしかない、そうだろう?


 だからさっさと来い。その生き汚さを浮かれた馬鹿達の成長に利用させてもらう。

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