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幼女の母とアナルチアの母

 まだ学園に通い始めたばかりだと言うのにやけに思考が大人だった我が娘。

 最初に先生に聞いた話は娘がやたらと人を遠ざけてますという言葉だった。聞いた瞬間だろうなーとは思った。

 入学初日の挨拶で私に話しかけんなボケ共とのたまったそうだ。アホだろこの子。


 学園で苛めにあったとかならともかく、通う前から人間嫌いというか人間不信があまりにも酷いので何でそんな子になっちゃったのか直球で聞いた事がある。そしたら……


『まだ目を見ただけではどんな奴か判断できないから。相手の裏の顔を見透かせない以上なるべく馴れ合いたくないの』


 何かズレた回答を頂いた。子供のくせに何言ってんだコイツと思ってもいいだろう。


『人間ってしょーもない事で手の平返しするじゃない。友達だった奴がとばっちりを恐れて苛める側にいく感じ?……ま、そういう訳で確実な味方以外は最初から確実な敵になってもらった方が後々めんどくさくない』


 と当然の様にのたまうこの幼女、6歳児である。


 敵を増やす方が面倒くさそうとは言ってはいけないのだろうか。母娘揃って敵が多いとかどうなのよ。

 しかし一応確実な味方なら仲良くする様なのでまだ安心と言える。


 当然そんな子は居ないのでぼっちだった様だけど。






「昔ペドちゃんが言ってた事が何となく分かったわ」

「急になんだい?」

「いやね、最近急に私に対して強く当たってた同年代のご婦人方がゴマすりだしたのよねぇ……妙にペドちゃんの事を褒めたりするし気持ち悪いったらないわ。急に手の平返しとか有り得ないっての、相手するこっちが色々と混乱して面倒ったらありゃしないわ」

「今じゃペドちゃんは有名人だからね。最近ではフィフス王国の町一つを滅ぼした挙句その国の王子様と貴族の一族全てを処刑しちゃったって」


 マジで何やってんだあの娘。

 王族殺しとか馬鹿じゃないか……やめてよーこっちにまで被害がくるじゃないか。


「でも大丈夫そうだ。何でも非は向こうにあった様でお詫びとして重鎮のエルフを謙譲されたみたい。どっちかと言うとフィフス王国側がひたすら謝罪してた様だよ」

「ウチの娘何者よ」

「冒険者、副業で小国の女王様?」

「副業が酷すぎる。てかたかが小国相手に大国が謝罪しっぱなしな訳ないでしょ。町一つ滅ぼすとか絶対あの力よ、大国すら恐れるあの謎ぱわーは世に出しちゃいけなかったのかもしれないわ」


 ユキちゃんを創った、とか言い出した時点で使ってはダメだと言うべきだった。

 何だよメイドを雇うんじゃなく創るって!

 ユキちゃんが居るとあまりにも快適なせいで良い力じゃないかと思ってしまった自分が悪いんだけど。


「でも分かったわ。要するにご婦人方はペドちゃんを敵に回すのが怖いって事ね」

「まぁ、そんな感じじゃないかな」


 だが町一つとか何をされたのやら……あれであの娘は沸点が低いハズだが。

 学園でも仕返しはするが常識の範疇だったと思う。


 しかしおばはん達は媚を売ってきてはいるが内心では未だに私に対して敵意を持っているんだろうな。やっぱ腹立つわ。


「けどペドちゃんがこうも目立つ行為をするとは珍しいね。頭に血が上ってたのかな?」

「あら、あの娘が凡ミスでそんな事するハズないわ。その答えとしてはもう目立っても大丈夫って事でしょ。今のあの娘は周りも含めてどんな相手でも返り討ちに出来る様になってるのね、きっと」

「……ああ、確かにウチの娘は何者なんだろうって思うね」


 大体冒険家になるんじゃなかったのか。何一年足らずで女王になってんの?

 副業だから大丈夫とか思ってんじゃないわ。

 おかげでお母さん鼻高々だよ!


「でも女王って事はペドちゃんの周りに友人が増えたのかしら。それなら良かった事だけど……何で小さい頃はあんなに人間嫌いだったのかなぁ」

「君がそれを言うのかい……」


 私のせいだって言うのかこの甲斐性なしは!


「ペドちゃんは悲しい事にお母さんっ子だった。本当に悲しい事にお父さんっ子じゃなかったんだ……あ、でも僕も別に嫌われてた訳ではないよ。これ重要」

「だから何よ」

「だから、ほら……セティは同年代のご婦人方に割と嫌われてたじゃない。もう直球で嫌味を言ってくるほど……ペドちゃんと一緒の時だって。目の前で自分の母親が他人に嫌味言われるんだよ?」

「え?それだけで?」

「子供は親の事を良く見てるって言うじゃないか。言われっぱなしでも表面では飄々としてるセティの心情をあの娘は察していたんだと思う」


 そうなんだ……それは、あの娘に悪い事をしたと思う。

 いや私としても小さい子供の前で堂々と悪口を言うおばはんが居るとは思わなかったのだ。おばはん連中が頭おかしいのだから仕方ない。

 口では私に対して親しげに話しかけてくるおばはんの中に目に敵意が見られる人だって居た。


 あの娘が人を見る目を鍛えだしたのもそれが理由なのだろうか。

 常に人の顔色を窺う生活してたとか大変だったろうに。


「でもそのお陰であんな強い娘に育ったんだから良かったと思うよ」

「そうならいいけど」


 これはあれか、あの娘をぼっち属性に育てたのは私のせいか。

 あの娘には悪いけど、私にはやり返しても後が面倒そうだから我慢した方がマシってタイプだったし。


 そういえばあの娘が笑ってる顔は不敵な笑みかニヤケ面ばかりだ。最後にあの子の子供らしい笑顔を見たのはいつだっただろうか。


「何か申し訳無さそうな顔をしてるけど別にペドちゃんは不幸な人生になった訳じゃないんだし」

「知ってる。ま、私はどんなペドちゃんだろうが愛してるから問題ないわ」


 ぅー、と下から声が聞こえた。あの娘の妹が起きてしまったらしい。

 もう一人の娘はペドちゃんが赤ん坊の頃と同じ様に愛らしい顔をしている。


「アリスちゃんは、明るい子に育ってくれるかな」

「あー」


 うん、大丈夫だ。最早私に対して嫌味を言うおばはんは皆無だろう。人間の汚い部分を見続けたペドちゃんみたいに成長する事は無い、と思う。

 ただ今度は成長したアリスちゃんに取り入ろうとする馬鹿達が出てきそうで心配だ。


 何が心配って、ペドちゃんが怒って何かやらかしそうで……


「……今頃お姉ちゃんは何をしてるのかしら。またどこかの誰かに盛大な仕返しでもしてるのかもねー」

「ぅ?」



★★★★★★★★★★



「ババア、恐るるに足らず」

「こらリーダー、あたし達に何か言うべき言葉があるでしょう?」

「計画通りっ……」

「違うっ!なにそのドヤ顔腹立つわねっ!?まずあたし達を心配させた事を謝るべきよ、謝罪はよ!」


 はて、謝るも何も私はただ気絶してただけだが。

 起きるまでどのくらい時間かかるかなんて私でも分からないんだから謝罪しようがない。


「そっちじゃなくて、本気でサヨっちが死んじゃったんじゃないかって心配したって方よ!」

「確かに事前に伝えてくれてればここまで焦る事はなかったかと」

「だって演技下手そうな娘がいるもの」

「納得です」

「な、何でわたしを見るんですっ!?」


 マオは感情が表に出やすいからなぁ……演劇には向いてるかもしれないが、こういう実戦での騙し合いは不向きだろ。


「てかどんな作戦だったわけ?」

「概ね見ていた通りです。まずニボシさんには魔物の方へ行ってもらったのですが、事前に私が壁を落下させたら上空に居る私の所へ来て下さいと伝えました。後はお姉様が起きて合図するまで待機です」

「ニボシさんが言う事を聞いたんですか?」

「いえ、お姉様がこうお願いしていますと指示が書かれた紙を見せて……で、次に私とルリさんが敵が転移で現れたのを見て上空に待機。その時に私は式紙を使って自分の偽者を作り入れ替わったと言う事です。そして私と壁をルリさんに見えない様にしてもらってから戻って頂きました」

「ああ、ルリ様がやけに落ち着いておられたのは知ってたからですか」

「う、うむ」


 黙っていてバツが悪い様子。作戦のウチなんだから気にする必要はないと思うが。


「私の偽者を作った理由としては例の小物とやらが襲撃するかもしれないとの事です。その辺はお姉様に聞かれた方がよいかと」

「いやね、小物が他人に使うには勿体無いほど強力な強化薬とか持ってたらそれ使って報復にくるかなーって。色々とやられっぱなしだし小物の中の小物なら初日に計画を滅茶苦茶にしたサヨ辺りをまず狙ってくるかなと」

「で、わざと転移可能エリアに式紙を置いたら見事に引っかかったという事です」

「こんだけ見事にやられるとか天使の面汚しだわ」


 その面汚しとやらはニボシに風穴を空けられて倒れたまま放置されている。

 しぶとい小物の様で少しずつほふく前進で移動している様だ。


 移動方向を考えるに何か奇妙なデカい花の方へ向かっているようだが、あの化け物花は何なんだ?


「あれ何?」

「あれは悪食って言う向こうの大陸の生物。雑魚なんだけど食った奴の力を吸収するから場合によっては厄介な奴だよ」


 ほうほう、食っただけで強くなるとか奇跡饅頭みたいなチート生物だな。

 それはともかく、どうやらあの小物はその悪食とやらに向かってるようだ。


 自分を食わせて悪食を強化するって考えか、小物的に考えて。


「皆ちゅーもくっ!」

「?」

「今こっそりと小物が最後の力を振り絞って悪食に食われる為に移動してるから応援しながら見届けてやりなさい」

「うわ、敵に行動バレた上に邪魔どころか応援されるなんてあたしならすぐ死にたい!」

「さっきまで青かった顔が真っ赤。これは恥ずかしい」

「がんばれー」


 見事な棒読みだがこんな美少女達に応援されてるというのに怒りに満ちた形相とは小物のくせに生意気な奴よ。

 何かブツブツ呟きながら移動しているが間違いなく恨み言の類だな。

 食われた後の悪食の始末はニボシにでも任せるか。本命じゃないしさっさと死んでもらおう。


「あの悪食ってのをニボシが始末してくれたら今夜はジャンボパフェよ」


 ニボシに向けてそう言ったらすでに花が燃えてた。

 早業とかそんな言葉じゃ言い表せない程の一瞬だった。いつやったし。


 すでにニボシはこちらに向けて期待を込めた眼差しを向けている。おめでとう、今夜はジャンボパフェだ。


「食われる前にやるのはどうかと思ったけど、これはこれで小物のざまぁっぷりが見れていいわね」

「その小物は固まっておるぞ」

「ぱふぇとは何なのです?」

「知らんでやったのか」

「きっと美味しい食べ物なのです。我には毎日のプリンと今夜のぱふぇが待っているのです!」


 毎日ではないだろ。ノルマ達成分はちゃんと毎日あげるつもりだが……

 灰と化した悪食の近くで未だに固まっている小物はどうするか、ほっといても死にそうだけど薬使ってるし燃やしとくか。


「あれ燃やしといてー」

「はいはい」

「で、本命のババアの母親はどこ?」

「臭かったので天狐族の方達に洗いに行ってもらってます」


 臭かったのか。

 洗うって事は神殿にでも連れて帰ったのか。

 と思ったが違うらしい。流石にあの臭い人間を神殿に連れて行くのは抵抗があったので奴隷達の暮らす宿舎に連れて行ったのだと。


「じゃ、ユキとサヨがお供して連れて行ってちょーだい」



★★★★★★★★★★



 これでババアとの因縁は最後という事で防壁の上ではなく門前に降りてババア達と対峙している。


『最後なのだから正面からやってあげる』


 そう挑発したらすんなりと応じてきた。

 向こうはすでに数える程度のマッチョとババア、そして横にいる偉そうなマッチョがボテ腹か。


 対するこっちはいつも通りのフィーリア一家、後ろに控える奴隷兵と天狐族達。

 そしてババア達を囲む様な形で虫人の大軍が居る。人数は数えるのが面倒なので沢山とだけ言っておく。

 ちなみにヨーコ達は起きた時すでに居なかった。どうもメルフィが追加の料理を発注したそうだ。ついでに夜の為の料理とパフェを注文しといた。


 で、何で急に虫人が現れたかと言えば向こうから勝手にきた。


『農家の女神とも呼べるフィーリア様達の危機を見逃す訳にはいきませぬっ!……あ、畑で取れた野菜は神殿の方へ届けておきました。いやー、女神様がこちらへ越してこられてから収穫が早くなる上に質も良い野菜が取れて感謝です』


 とはいつぞやのカマキリスの弁。

 恩恵を受けているばかりなのでお返しをしたいとのこと。野菜だけでいいと思うけど。

 しかしこんな終盤に来てもらっても仕方ないのだが。


 とりあえず邪魔だから観客になってろと伝えておいた。残念ながら来るのが遅すぎて奴等には任せる事が何もないのだ。




「よお、ババア」

「よお、チビ」


 ふん、敗戦はほぼ決まっていてもこの憎まれ口。それでこそババアだ。

 母親の偽者を殺されたら抜け殻になってたくせに。


「で、今度はどんな姑息な手を打ってるんだ?」

「失礼ね、真正面から叩き潰してやるんだから感謝しなさい」

「嘘くせぇな」


 ババアの母とやらに会ってからもはや考えていた精神ぶっ壊し作戦は無意味と悟った。

 まさかババアの母親があんな奴だったとは……


 ババアから視線を外し、隣に立っているマッチョに目をやる。


「お前がボテ腹か」

「ボテバラートだ。お初にお目にかかる、娘達が世話になったようだな」

「全くね。嫌な縁だったわ……で、お前に聞きたい事がある」

「何かな?」


 ふむ、初めてまともに見たがなるほど、小さな町の領主ぐらいにはなれそうだ。

 だがペロ帝国なんぞ名前だけは一丁前な国を治められる様な器ではない。マリオネット無しではフォース王国に勝っていたとしてもすぐに他国に攻められるか民の反乱で滅亡していただろう。


「何でこんな国を興したわけ?」

「妻の為だ」

「妻ねぇ、お前は元々は小国の王だったみたいね」

「左様、しかしよく調べたな」


 調べたのではなく母親を正気に戻して吐かせたんだがな。


 その小国ではどんな訳ありの者であれ受け入れた。それはババアの母親である王妃の意向だったそうだ。

 行く宛の無い人間達の最後の希望として国に招きいれたのだと。


 だが反乱が起きて国は結局滅亡した。

 命からがら逃げボテ腹達と少ない家臣は助かったものの、愛する民に反旗を翻され心底傷ついた母とやらは精神を病み現在はあんな状態になった。

 そして一緒に逃亡した家臣も一人また一人と去ってしまい残ったのはボテ腹一家だったと。簡単に纏めるとこんな感じ。


「私は当初外部の人間を誰彼構わず招きいれるのは反対だったのだが、妻は同じ人間なのだから信じて受け入れましょうと聞かなかった……結果は最悪だったが私は妻の信念を誇りに思う」

「私もだ……だから私達はお母様の為にもう一度国を興す事にしたんだ。同じ志があれば今度こそ大丈夫だろうと」


 同じ志がペロペロする事とか頭おかしい。

 とはいえ煩悩ほど人を操りやすいものもないから間違ってはいないが。

 変態性も使い方次第では役に立つ。他人どころか家族にすら好かれるハズの無い性癖は表に出すことは出来ない、だが集団がそれぞれ同じ性癖を共有しているなら別だ。

 きっと想像以上に仲間意識が芽生えてる筈だ。


 そしてその辺を上手く利用してきたのがマリオネットと思われる。

 中には常識人も居たと思うが言葉巧みに洗脳していったのだろう。宗教と似た様なもんだな。


 さて、ある程度経歴は分かったのだが、私の知ってるババアの母親と全く違う。

 この二人の様子から察するに家族にすら本性がバレてなかった様だ。二人が妻のためやら母の為とか言ってる時点で分かっちゃいたけど。


「信じていた民に裏切られたせいで精神を壊してしまった、なぁんて思ってるみたいだけど実際は側近に薬を盛られたせいと知ったらどう思うかね?」

「さて、それは見てみないと分かりませんね」

「うけけ、ババアの絶望する顔を見るのが楽しみだわ」

「お前は趣味が悪いのです」

「知ってる。じゃあ本性を知らないカスの為に数多の犠牲を出してきた奴等をどん底に落としてやりましょう」


 新たに即興で考えたのはこうだ。まずはババア達二人以外を全て殺す。戦いでは完全に勝てない事を更に思い知らせるのだ。今更って感じだがマッチョとか邪魔だし。

 で、もはや助かる道が無くなった所で更にババアの母親の本性を知らしめて完全に潰す。たったこれだけ。


「ふはははははっ!ババアを泣かす為だけの戦いだ!有り難く思え!」

「浮かれてる所すいませんがもう宜しいので?」

「おう、守る兵士を一人残らず始末してやりなさい」


 如何に物理に関しては厄介だったマッチョ共とは言え残りの数はあと僅か、名前すら知らないがバックに居た薬物野郎も殺した事だしもはや脅威ではない。

 置き土産の魔物達もどうやらライチ達によってほぼ殲滅されたみたいだ。


「ちょっと待ちなさいよ!何で私が処刑なんてされなきゃならないの!?ふざけるなっ!!」

「……あ?」

「こほん、どうやら例の女が叫んでる様です」


 それは分かる。

 だが何でこんな近くから声が聞こえるのか。クソ五月蝿いから隔離する様に言っておいたハズだが?


「キキョウ……」

「お、お待ち下さい。私はちゃんと小屋にでも放り込んでおけと言いましたよ!?」

「隙を見て飛び出しわざわざここに抗議しに来たのでしょう。ヒステリックババアに常識は通用しません」


 クソババアが……またしても私の邪魔をするか。もうコイツ殺していいんじゃないか?


 すでに近くまで来ていたがキキョウに止められている。が、やれ私は何の関係もないとか私が死ぬとか有り得ないとかギャンギャン喚いて鬱陶しい。


「どうしますか?」

「もういい、ペロ帝国に返してやりなさい。順序が変わっただけよ」


 とても王妃だったとは思えない醜い女はババアの元へと放り投げられた。そこでも私を投げるなんて有り得ない!と叫び立場すら分からぬ馬鹿者っぷりを発揮している。

 あれが王妃なんだ、そりゃ滅亡するわな。


「大丈夫ですかお母様!?」

「うるさいっ!……ん、お前アナルチアか!こ、このクソったれ娘がっ!お前が、いやお前達が馬鹿な事をするから私までこんな目に遭わなきゃいけないんだっ!死ぬならお前達だけで死ね!」

「お、お母様?……まさか、洗脳?」

「洗脳……?く、くはははははっ!!また、また私におかしな薬を盛るつもりかっ!?あの時の様に!!」

「……何の話です?」

「お前達が命令したんだろう!たかが亡命してきた余所者をストレス解消代わりにいたぶっていただけなのにあの側近ときたら……家臣のくせに私に苦言を申すばかりか薬を飲ませやがったのさ!」


 自分から悪事を暴露していくスタイル。嫌いじゃない。


 元々あの二人を嫌っていたのに我慢してたみたいだからなぁ、死に直面して鬱憤を曝け出そうって事かな。もう良い面する必要無いし。

 自分の知ってる母親と違いすぎて戸惑っているババアを見るのは面白い。


「ヨーコがあっさり自分の子を殺した時から思ってたけど、人間って血縁関係でも嫌悪するのね」

「愛した相手の子供じゃないからでしょう」

「見苦しい親じゃのう……」


 未だに困惑しているババアに対し一方的に罵るヒステリックババア。老けてるくせに元気だな、ずっと精神が壊れたままだったからまだ若い気でいるのだろうか。


「やめなさいアス」

「は?誰よあなた」

「……私はボテバラートだ」

「ボテ腹って、あの醜い?……随分と鍛えたもんね。丁度いい、あんたにも言いたい事が山ほどあったのよ。小国の王だからって嫌々嫁いでやったけど結局はこのザマ!所詮は小国の王、小さい奴だよお前は!!」


 今度は旦那に矛先が向かった。

 戦中だってのに馬鹿かアイツ、いや馬鹿なのだろう。ウチの面子はもはや皆揃って呆れ顔だ。


「アイツの名前はアスか。知りたくも無い事を知ってしまったわ」

「正確にはアス・バトックスらしいです。バトックスはボテ腹が王だった時の家名なので今はただのアスでしょうけど」

「ちなみに意味は?」

「尻・尻です」

「安心した」


 尻一族は小国から継承されていたのだ。だから何だと。


 しかしどうしようかなぁ……ババアは絶望せずに呆然としてるだけだし。

 もはやこれまでか、これ以上あの醜い女を見るのも辛い。


「そうだ、お前達が死んで詫びろ!元々あんた達が勝手にやった事でしょう?」

「お、母様」

「誰がお前の母親かっ!……私は、前々からお前達が大嫌いだったんだっ!大嫌いな男の子供をどうして好きになれるか!国と一緒に死んでおけば良かったものをっ!!」


 今の一言でババアがやっと精神的にダメージを食らったようだ。少しは役に立ったか。

 絶望とは違うがまあいい、これでもう奴はお役御免だ。


「ユキ、殺」


 殺せ、そう言い終わる前に向こうで動きがあった。

 どこに隠していたのか刃物を取り出したアスが娘であるババアの胸に突き刺したのだ。

 ボテ腹が咄嗟にアスを突き飛ばしたが間に合わなかった。


「私の、獲物……」

「やられてしまいましたね」


 死んだ訳ではないがもはや戦えまい。その内死ぬだろうし。

 じゃあ代わりにヒステリックババアをやるか?

 冗談じゃない、あんなカスがアナルチアの代わりになるハズがない。


 たった一人のせいで台無しになった。


「っ、ふは、まずは一人……後はあんたさえ死ねば!?」

「アス……この様な奴だったとは!」

「黙れ、お前なんぞの妻であった事すらおぞましい。王でも無いお前に価値などないわっ!私は生きて素晴らしい人生を取り戻すのよ!」


 流石にボテ腹には勝てまい。

 あんなカス私達が殺すまでもない。そのままボテ腹に殺されてろ――


 鈍い音と共にぐへ、と無様な悲鳴をあげてアスはぶっ飛ばされていった。

 しかしそれはボテ腹が殴ったからではない。

 私の肩から飛び降り高速で突進していった小さな影、いや人形。


 意外な事にアスをぶっ飛ばしたのはババアを嫌っていた筈のリンだった。

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