幼女、起きて状況を把握する
サヨ様がやられるという衝撃的な光景に皆様固まってしまっておられる様で。ずるっと剣を抜かれてサヨ様はそのまま倒れ伏しました。
やったのは濃い青髪に短髪ツンツンに眼鏡と白衣という如何にもな感じの男。見た目で判断するに裏から兵や魔物を強化していた人物でしょうね。フィーリア様が小物と連呼されるので隠れてコソコソするタイプだと思ってましたが前線にも出られる程度は度胸がある様です。
「皆様固まっておられますがサヨ様を放っておいて良いので?」
「ハッ!……あまりにあっけなくやられるからギャグだと思ってた!」
「酷いですよ!?サヨさん死んじゃいますよっ!」
うーん、良い感じに混乱してますね。特にマオさんの慌てぶりと言ったら見てて楽しいです。
それに比べて冷静なのがユキ様です。姉と慕う……いえ普段の様子から慕っているかは不明ですが身内がやれてもその表情は変わらぬまま。流石はフィーリア様の娘と言えます。
ただ対象がフィーリア様でしたら物凄く慌てそうですが。
「どうしようユキっち!」
「落ち着いて下さい。そうだ、頭にぱんつを被せればもっきゅんの様に復活するかも」
「ユキっちいいいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
訂正、どうやらユキ様も頭の中ではいっぱいいっぱいだったご様子。
確かに指揮官がやられると混乱するとは思いますが、ユキ様辺りがすぐさま引き継げば混乱は収まりそうなもんですがねぇ。
「とりあえず一番冷静そうなルリ様がこの場の指揮を執られては如何でしょう?」
「キキョウ殿は案外冷静じゃの」
「戦中に何を言っているのですか、殺し合いなのですから味方だって殺されます。むしろ今までこちらに被害が無かった方がおかしいのです」
実際は本当に被害無しでいけると思ってましたので多少は動揺してますが。
サヨ様も今はまだ生きてると思いますし。すぐに救出してユニクスの血でも飲ませれば大丈夫でしょう。
「サヨ様が刺されたのは背中の右側から斜め方向です。心臓には刺さってないでしょう」
「なるほどの、だがすぐにでも助けださねばな」
「……いえ、姉さんの事ですからやられたフリして今は回復魔法に集中して治療している事でしょう。重傷ですが死にはしないかと」
ユキ様も冷静になられた様で。
皆様はサヨ様だけに気を取られていますが、一応敵は他にもいるのですが。幸いな事に頑丈に強化された壁を落としたのでマッチョ達もそう安々とこちらまで来られはしないでしょう。
「じゃああの変態をやっつけてサヨっちを助ければいいって訳ね?」
「そうなりますが、あの男は例の天使でしょうか?」
「だと思う」
あれがですか、確かに小物臭が漂う男ですね。
ですが不意打ちとはいえサヨ様をあっさりとやれるだけの実力はある様で。どうせ自分には特別な強化を施してあるとかそんな所でしょうけど。
「限界以上に強化すれば身体は持たない。しかしそれを補う超再生能力を持つユニコーンの角を使用すればこうも素晴らしい力を得るのですか……これは益々ユニクスを捕らえる必要がありますね」
ほら、聞いてもいないのに自分から語りだしました。
敵というかこの男の狙いはユニクスみたいです。ユニコーンと違って血だけでユニコーンの角と同等の効果がありますからね。一頭いれば血が使いたい放題ですよ。
「この中で確実に姉さんを救助出来そうなのはマリアさんかルリさんです。スピードを考えたらマリアさんにお任せしたいのですが、大丈夫ですか?」
「あたしに任せて!」
「頼みます。転移であの男の背後に送りますので殺せなくてもいいので一撃を与え、怯んだ隙に姉さんを救出してください」
相手がどれだけ強化されているのか不明ですので無難な選択ですね。
後はマリアさんの力を信じるのみです……って。
「ユキ様、あれは?」
「あれは、何でしょうね」
あの男が呼び寄せたのか隣にはいつの間にやら巨大な黄色い花の形をした何かがいました。うぞうぞと茎の部分から触手の様なものが生えて動いています。
中央がグロい口の様になっているので生物とは思いますが。
「あれは、向こうの大陸にいる悪食って奴だね」
「アクジキですか、強いなら厄介ですが」
「悪食は弱い部類になるんだけど……厄介な事に食べた奴の能力を奪うというか、食べた奴が強い程強化するの。食べれば食べる程強くなるから場合によってはとんでもなく嫌な奴だよ」
それは羨ましそうな能力ですこと。
しかし強い相手を食べれば食べる程ですか……それなら、今あの男の足元に倒れている――
「サヨ様を食べさせる気では――」
「ユキっち!」
「お願いしますっ!!」
流石はフィーリア一家の方々、判断が早い上に行動も早いです。
ユキ様の転移であの男と悪食の背後に回られたマリア様は現れるや否やすかさず男の横腹目掛けて攻撃をなさいますが、驚いた事にとっさに反応し防御されてしまいました。
とはいえ小物は小物、腕で防ぐものの無様にすっ飛んでいきます。
しかし極上の餌であるサヨ様にご執心な様で飛ばされながらも左手でサヨ様の衣服を掴みそのまま一緒に転がっていきました。
これは何かマズいんじゃないでしょうか?
今のマリア様の攻撃のおかげで悪食と男の距離は離れましたが、近づかせればきっとサヨ様はあの化け物の胃袋の中に入るでしょう。
「痛いですね、これだけ強化してもこのダメージですか。敵ながら恐ろしい力です。しかし餌には素晴らしい」
「サヨっちを放しなさい変態!」
「そっちは散々私達の駒を殺しておいて放せはないでしょう?……なるほど、確かに近くで見ると美しい少女です」
力なくだらんとしているサヨ様の顔を持ち上げると頬をペロりと……何というかご愁傷様です。
やはり奴もペロ帝国に居るだけの事はあるとしか。
「しかし勿体無い素材ですが、今は研究どころじゃありません」
「そいつに食わせるつもりでしょ!させてたまるかっ!」
「悪食の事をご存知とは……つまり貴女も向こうの大陸の者、天使ですか。それであの力を」
マリア様が話も聞かずに突撃しました。
ハッキリ言って速すぎて見えませんが、なんとあの男は動きが見えているのかマリア様の攻撃をかわしている様です。
不意打ちは食らいましたが正面からだと対応出来るのでしょうね。小物のくせに厄介な相手です。
加えてサヨ様が捕らえられているのですからマリア様も迂闊な事は出来ないと思われます。
男はマリア様の攻撃が鬱陶しくなったのか防壁の端まで転移らしき方法で移動しました。
「逃げんなっ!」
「逃げるでしょう鬱陶しい。私の邪魔をしないで頂きたい」
男が手を翳すと足元から新たな生物が出てきました。
何かは不明ですが顔や身体からして亜人であるコボルトっぽいです。そいつはマリア様に向かって行きますが、雑魚程度に梃子摺るマリア様ではなく難なく頭を吹っ飛ばして殺されます。
「あれは時間稼ぎなのじゃ、自分の手元にあのアクジキとかいうのを呼び戻してサヨ殿を食わせるつもりじゃ!」
ルリ様が分かりやすく解説してくださりました。
確かに仰る通り男の側にあの大きな花の化け物が、そして男はサヨ様をソイツの口の中へと放り込み……
寸前で転移されたユキ様が鞭を使ってサヨ様を掴もうとされます。
「近づくとしたら転移である事は私とて想定しているよ」
それを邪魔したのはあの男。ユキ様の放った鞭を掴むと力任せにユキ様ごと放り投げます。
「サヨさんっ!?」
「まだ、すぐに消化される訳じゃ――」
バギ、ゴリ……
言葉にすればそんな感じの咀嚼音が聞こえます。
丸呑みではなく咀嚼するんですか……骨ごと砕いてそうなあの音ではサヨ様は。
「残念だったね、ただ消化して強化されるまでは時間がかかる。その間は折角だから私が相手をしてみるとしよう」
こちらにマリア様とユキ様が戻って来られました。
お二人とも先ほどまでと違って表情に余裕はありません。
「ゆ、ユキっち……ごめん、サヨっちを助けられなかったよ」
「……いえ、それは私とて同じ事です」
呆気ない。
あちらの敵が死ぬのも呆気なければこちらの仲間が死ぬのも呆気ないです。ですがそれが殺し合いですから。
もはや涙目のマリア様がこちらに走ってこられます。正確には視線の先は私の膝で眠っておられるフィーリア様の下へですが。
「ちょっとリーダー!こんな時に何暢気に気絶してんのよっ!!」
「落ち着いて下さいマリア様。そんな叫ばれてもフィーリア様は」
「うっさいっ!!」
「まだ完全にサヨ様が助からない訳ではないでしょう?」
「……ほんと?」
多分ですけど。
流石に死亡したサヨ様をあの化け物から救出してもユニクスの血では最早復活しないでしょう。
「フィーリア様なら、或いは」
「……そっか」
「蘇生となればお母さんでも無理でしょう。代償として逆にお母さんが一生目を覚まさないか最悪死ぬ事になりかねません」
それは、無理ですね。仮にフィーリア様が任せろと言いながらやろうものなら皆して全力で止めなければなりません。
「しかし蘇生ではなく新たに創造されるならば……」
「でも、それはサヨっちに似た別人じゃないの?」
「姉さんの脳と心臓があればもしかしたら記憶を引き継いだ姉さんが創造されるかもしれません」
生物の核となる心臓と記憶を所持する脳ですか、確かに言われてみるともしかしたらと言えます。
「じゃあ、悪食に吸収される前にサヨっちの肉塊を取り戻せば!」
「肉塊とは嫌な表現ですね、ですがその通りです」
所詮は憶測ですけど、と小さく呟くユキ様。しかし可能性が少しでもあるのならやってみる価値はあるのではないでしょうか?
私の中では可能性なんてありませんが。
あれだけ咀嚼されたのなら脳も心臓も無事とは思えません。
「サヨ様が助かる見込みはないと言えばいいのですが、今は戦時中です。皆様がやる気を無くされては困ります……ならば皆様を必死にさせ敵を倒して頂くのが最善でしょう。しかし我ながら嫌な奴ですね」
皆様がポッと出の強敵に向かわれるのを見送りながら小声で呟きます。
普段はぼんやりなあのマオ様ですら今は敵を殺してでもサヨ様を救出しようと頑張ってらっしゃいます。
どうやらルリ様にマリア様があの男を、他の方々で花の化け物を仕留めるみたいです。
一番警戒すべきはあの男ですが、戦いに挑むのはマリア様でルリ様は援護に回るみたいです。ルリ様も攻撃に回った方がいい気がしますが、はてさて。
そしてユキ様達の方ですが、以外な事に苦戦しておられます。
あの触手の様な蔓が意外と素早く動く様で近づくと避けるだけで精一杯なご様子。事前に何か別のものを吸収させていたのでしょうね。
「うーん、私としては皆様がやられるのも困りますが、一番困るのは目を覚まされたフィーリア様にサヨ様が亡くなられた事をどう伝えるかですね」
「へー、サヨがどうしたって?」
ギクリ、と思わず身体が小さく震えました。
恐る恐る下を見れば笑ってない紅の目をこちらに向けながら嗤うフィーリア様が。
「お、おはようございます」
「ええ」
のそりと起き上がられ、戦場となっている防壁をゆるりと見渡されます。
自分の中で状況を把握されたのか、再びこちらに顔をお向けになられました。怖いです。
「あの男が誰なのか、あの花は何なのかとか色々聞きたいけど」
「……けど?」
「指揮を任せたサヨの姿が見えないわね。何故か」
えー……私がそれを説明するのですか?
とばっちりを食らうのが怖いですが、何とかしどろもどろになりながらフィーリア様が気絶中の事を説明しました。途中で激怒とかされるかと思いましたが案外冷静にお聞きになられて助かりました。
「なるほどね……ふ、ふふふふ」
「あ、あの?」
「キキョウ」
「はいっ!」
「ギャグキャラは死なないのよ。ボケであるサヨもギャグキャラと言えるわ、だからサヨは死んでない」
フィーリア様あああああぁぁぁぁぁぁ!!?
何という事でしょう、まさかフィーリア様まで現実を受け入れられないとは……!
「フィーリア様……心苦しいのですが言わせて頂きます。あの化け物にバリボリ食われた以上サヨ様は生きてはおられません!」
言った、よく言った私!
逆恨みされる恐れに耐えてよく言った!後が怖いっ!
「ふふ……」
「事実です」
「しょ、しょっしょ証拠がなきゃ信じゅないし?」
「おいたわしや……」
証拠と言われてもサヨ様は悪食の腹の中ですし……
いえ、今はこのままでいいでしょう。何かフィーリア様が泣いたり怒ったりすると世界がヤバくなりそうですから。
皆様もフィーリア様が目覚められた事に気付いたのでしょう。敵から離れるとこちらに退却されてます。
戻ってこられても困るのですが、敵も消化待ちなのか追撃はしてきませんでした。むしろ勝ち誇った顔をしてニヤニヤしています。きめぇです。
「リーダー……」
「分かってるわ」
「お姉ちゃんっ」
「ええ、きっとサヨはあの花の中で服だけ消化されて全裸なのよ。出るに出られないのね」
「リイイィィィダアアアァァァァァッ!?」
残念ながら何も分かっておられないのですよ……
ですが何とか場を和ませようと頑張っておられると考えるとほら、フィーリア様いじらしいです。
そう思ってましたが、ふといつもの不敵な笑みを浮かべられた顔を見て勘違いしていたと気付きました。
「来たわね」
フィーリア様が向いておられる方を見れば何処から進入したのか防壁の内側にある階段を登ってきたと思われる女性が二人。
片方の女性は背中に召喚した母親を背負っています。そしてもう一人は……
★★★★★★★★★★
「あの男に気を取られている内に反対側の防壁を登って進入します」
「お、おう」
「大人数ではバレるので私と母上様を知っているアナルチア様で行きましょう」
そう言えばお母様を知ってる奴って私とお父様くらいか。出来るだけ隠していたし。
しかし登るったってどうしろって言うんだ?
「残った兵達に踏み台になってもらえばいけるでしょう」
「……それしかないか」
梯子なんて用意してない。
正確には用意していたがあの闇魔法に吸い込まれてしまった。物資のほとんどが無くなったのは痛いなぁ。
マッチョな兵達がそれぞれを肩車しながら徐々に梯子の代わりとなっていく。
この光景は意外と凄いぞ。強化されてなかったら下の兵が潰れてただろう。
上へ届く高さになった所でドールはトントンと兵の背中を跳ねる様に登っていく。
出来そうで出来ない様な芸当を簡単にやるなんてアイツすげぇ。
残念ながら私には出来ないので汗臭い背中をゆっくりと登っていった。何か兵達が嬉しそうに見えるのはきっと気のせいだ。
やっとの事で上に着くと不満たらたらな顔をしたドールが待っていた。
「遅いです。敵に見つかったらどうするのですか」
「んな無茶な」
「まぁいいです。ざっと見た限り貴女の母上様と思われる者は見当たりませんでした。きっと別の場所に居るのでしょうね」
凹の字の形になってる防壁の左上に隠れているので見つからずに済んだ様だ。
しかしここに居ないとなると見つけるのは難しい、困ったぞ。
「防壁は見張りの役目もあるのです。ならば見張りの兵の為の詰め所くらいあるでしょう、隠されているならそこかもしれません」
「そ、そうか」
何か頼りになるぞコイツ。最初から表に出てきてくれてたらもっと被害が抑えられてたかもしれない。
次は件の詰め所探しになるが、防壁の内側を上から覗けばすぐにそれっぽいモノがあった。一部だけ壁に隣接して出っ張ってるのであそこが部屋になってると思われる。
「下の森は魔物が放し飼いらしいので厄介ですね……仕方ありません。あの壁の上に直接降りましょう」
「降りるって……?」
「当然飛び降ります」
マジかよ……どんだけ高さがあると思ってるんだ。
お前はともかく私は飛び降りた瞬間死ぬっての!
「不本意ながら私が抱えて降ります」
「うわー、嫌そう」
私を小脇に抱えると相手がこちらを見ていないのを確認してからドールは本当に飛び降りた。
思わず悲鳴をあげそうになるがバレてはいけないので我慢する。
高いとはいえ飛び降りるとほんの一瞬だ。
ドールはトンっと案外軽く着地すると私を雑に落とす。文句言いたいが静かにせねば……
「中を見てきます。アナルチア様はこのままここで待機です」
「自分のお母様を他人任せとは情けないが、頼む」
物陰に降り、中を伺うドール。当然ながら見張りがいる様だ。
ドールは少し考える素振りを見せたあと、入り口を蹴り破り扉で死角になっている内に窓をぶち破って突入する。
敵の怒声が聞こえていたが、少し経つと静かになった。
そして背中にお母様らしき人物を背負ったドールが出てくるとこちらにジャンプして戻ってきた。
「この方が母上様ですか?」
「ああ……間違いないよ。本当に召喚されてたんだな」
改めて相手の非常識さに戦慄する。
「敵はいたかい?」
「天狐族が数人。まぁあの程度なら私でも余裕です」
おお、凄いぞコイツ。私の下に居るのが不思議なくらいだ。シリアナが居なかったらそもそも居なかったと思うけど。
それでも私の部下だ。ぬふふふふ。
「悦に浸っている所すいませんが、さっさと行きますよ」
「くっ……可愛くない!」
「静かに。上に行くにはそこの階段を上がるしかありません。幸いな事に上がった場所は敵の背後をつける位置です。厄介な幼女を倒した後に即逃げる事にしましょう」
「ああ」
逞しい奴だ。
お母様はそのままコイツが背負っていくらしい。元々凡人な私が背負っていったら更にお荷物になるからと言われたが。
無性に悔しい、私も強化されておくべきだったか。いや、マッチョになるとかやだ。
階段の最後の段を上がる前にドールはまたコッソリと隙を窺っている。
ドールの狙いとしては奴等が一斉にドラッグの野郎に向かってから手薄になった幼女を仕留めるつもりらしい。
そして狙い通り幼女と狐の獣人だけになったのだが、未だにドールは動かない。
「おい、何やってんだ?」
「静かに、どうもあの幼女がお昼寝から目覚めたようで」
寝てたのかよ!
戦中に暢気に昼寝とかそっちのが驚きだわ。
更に最悪な事にチビの仲間達が戦闘を中断して戻ってきた。ドラッグの野郎は余裕で様子見している。何やってんだあの馬鹿は。
「あんだけ固まってるとマズイな」
「いえ、頃合いです。行きましょう」
そう言うとドールはスタスタと向かっていく。
コイツ本当に行きやがったよ!どの辺が頃合いだってんだ!
とはいえ着いて行かざるをえないので着いていくとこちらに気付いたチビとバッチリ目が合った。
「来たわね」
来たわね、確かにそう言った。まるで来るのが分かっていたかの様に。
「起きてみれば概ね予想通り。と言っても大体が対処出来る様に動いてもらった訳なんだけど」
何を、言っている……?
「ニボシ」
「ぐ、げっ……」
チビがそう言うと呻き声が聞こえた。声の発生源はドラッグ……
まるでサヨとかいう少女のやられ様を再現したかの如くいつの間に現れたのかあのロリ巨乳によって胸を貫かれていた。
ドラッグがあっさりやられるとかやはりあのロリ巨乳はヤバイ奴だ。
「ふん、今後は我を道化に使おうと思うなです!」
「はいはい」
でもあのロリ巨乳は魔物達の方に向かったんじゃなかったのか、って考えるまでもない。私達は嵌められていたんだ。
動揺して頭の中がぐちゃぐちゃであまり考えられないながらもその結論に辿り着いた。
「サヨ」
「はい、お姉様」
「サヨっち!?」
「ご苦労様、ちゃんと指示通りに動いてくれたのね」
「そりゃまぁ、お姉様の指示ですから」
ドラッグに胸を貫かれたハズの、その後は見てなかったが死んだと思われたハズのあの少女までもが無傷で現れた。
「しっかりして下さいアナルチア様。ここで呆けられても困ります」
「あ、ああ……済まない」
ドールに叱責されて何とか正気に戻った。
だけど――
「まだ終わりじゃないです」
何の事だと思った。
ドールは何の警戒もなくチビの方へ歩いていく。
チビが視線をドールに向け、その目が敵を見る目じゃない事でまさかと思った。
そしてチビがこっちを見て嗤ったのを見て確信させられた。
「あらまぁ、それがババアの母親?……本当にババアね」
「ご命令通り二人共お連れしました」
「ありがとう」
やはり、敵だったのか。
急に現れた時点で気付くべき、信じるべきではなかったのだ……!
そんな都合よく強い味方など現れてはくれないと。
ドールの身体が少し輝くと、そこにはチビの国の兵と同じ格好をした女性がいた。
「ババアに紹介するわ。この娘は私の奴隷でトロワって言うの。急に味方に現れて最初は疑ったでしょ?……でも焦ってる貴女なら短時間でも自分の為に動いてくれるこの娘を信用してくれると思った。ま、人間ってそんなもんだと思うから気にしない方がいいわよ?どうしようもない時って小さな可能性でも賭けてみるもんでしょう?」
「お、お前」
「気に入った?全て貴女の為に考えたのよ。小物が動くかもと思って小物用の罠も仕掛けてみたけど、見事に引っかかったみたいね。所詮は小物よねぇ……ま、あっちはどうでもいいけど」
マジかコイツ……私に嫌がらせする為だけにこんな事やらせるのかよ。
あのトロワって奴だって下手したらバレて死んでたかもしれないってのに……
「ババア、一筋でも希望の光は見えた?……そうだったら私はとても嬉しいわ。最初から絶望しかない貴女に嫌がらせしてもつまらないもの。一度何で貴女を開放したかもう分かったわよね?上げて落とす、常套手段かもしれないけど効果はあるみたいね」
……こ、こいつ、どうしようもないゲス野郎だ。
敵になった時点で私達は終わっていたのだ。なんなんだよ、このチビは!
「サヨ、やっていいわよ」
「やれやれ、完全に悪役ですよ」
サヨという少女が何処から出したのか槍の様な武器を取り出した。
まさか……
ハッとしたがやめろと叫ぶ間もなくお母様の首が胴体と切断された。
今度こそ目の前が白くなる。
私の、私とお父様が今までやってこれた理由が目の前で刈り取られた。
「ふむ、案外精神が弱い。これじゃあ今後がつまらないわね。安心しなさいババア、この母親は偽者、人形よ人形。小物が殺したと思ってたサヨと一緒よ」
「え……」
「もう一度チャンスをあげましょうか。今度は貴女の父親と一緒に私達に残る全てを賭けて立ち向かってきなさい。それが最後よ」
クソチビは心底楽しそうに私に告げた。
憎らしいなんてものじゃない、死んでも殺してやると思いながらチビを睨む。
だけどもはや私はあのチビの玩具、一体どうしろってんだ!
動揺している私の表情を見てチビは益々を笑みを浮かべた。
そして私はいつの間にやら転移であの戦場に飛ばされていた。




