幼女、敵の親玉の母を人質にする
さてさてどんな奴が来るんかいとガサガサ荒ぶる森を眺めているとまず初めに大型犬くらいのサイズの生き物が多数飛び出してきた。
「鼠ですね。恐らくこの前見たラージヌードラットの強化版ですね」
「速いわね、下手に大きいだけの魔物より厄介だわ」
「数も多いですからね」
と言ってもライチの軍の装備の前には噛み付いたところで自分達の歯が欠けるだけだろうが。
鼠に関しては特に問題無さそうなので真打が登場するのを待ってみる。
鼠が全て森から出たのか列が途切れた所でデカイ頭がにゅっと森から出てきた。
蛇みたいな顔してるから蛇なんだろうけど、何かドシンドシン歩いている。蛇のくせに胴体があるようだ。じゃあもう蛇じゃないじゃん。
蛇に続いて虎だったり狼だったりと魔物の定番そうな奴を強化しました感があるのが出てくる中、一匹全身ピンク色という異様な物体に思わず目がいった。
「切り札と聞いて少しは楽しみにしておったが、何か大した事無さそうだな」
「この後も色々と投下してくるでしょうよ。そんな事よりあのピンクね」
「知っておるのか?」
「ええ……以前とある異世界人に武器にされたり盾にされた挙句身体を張って助けたのに気にもされなかった哀れな悪魔がいたのよ。ソイツが遺言としてあの触手生物をくれるとか言ってたけど要らんから放置してた。そしたら今大きくなって現れたのよ」
例のとある異世界人の方を見てみると知らん顔して自分が持ってきた料理を食ってた。
知らん顔というかアイツ絶対に覚えてないわ。
「ダメよリーダー、そういうのはちゃんと回収しとかないと。こんな風に忘れた頃に出てくるもんなのよ?」
「回収したらサヨが夜な夜な一人遊びに耽っちゃうじゃない」
「私に対する風評被害です」
名前は確かピンクロータ君二号だったか?
前に廃墟で見た奴より3倍はデカい。デカすぎて良い的になりそうだ。
「あの大きさですと果たして姉さんが受け入れられるか……」
「受け入れるかボケ」
「確かに太いけど、一般女性の太ももくらいでしょ。赤ん坊が出てくるくらいだからイケるイケる」
「そうですよ姉さん。案外イケるとエロ本が証明してますし」
「自分がやりなさい」
サヨがイライラし始めたのでこんくらいにしとこうか。
触手はもういいとして他の魔物軍団を見ていたらついに大物らしきモノが出てきた。
姿形はドラゴン、ただ大きさは黒竜と同程度かそれ以上だ。どす黒い赤い皮膚はもはや元が何のドラゴンだったか分かりゃしない。
「ドラゴンきたっ!ボスと言えばドラゴンっていう実に安直な考えをやってきたっ!!」
「良い事言うわねマリア。是非とも強化した本人に言ってやりなさい」
「うははははっ!やっと少しは面白そうなのが出てきたなっ!」
「まぁアトロノモスには及ばないでしょうが」
切り札がこの程度と分かったので後はライチ達に任せるか。所詮は小物だしどっかで死んでくれればそれでいい。
「さてと、早速ババア母を召喚するとしましょうか」
「召喚するのは構いませんが、その後どうするおつもりで?」
「あのババアって言う奴の目の前で殺すんじゃない?」
「甘いわねマリア、その程度で済ます私じゃないわよ。そりゃもう発狂した挙句正気に戻らないくらいにはやりたい」
ただ殺すだけじゃ激昂して襲いかかってくるだけで終わるだろう。
最初はそれでいい。
真の地獄はその後だ。
「とりあえずサヨに式紙だっけ?それを使って貰って偽者の母親を数体作ってもらうわ。まずはその偽者一体をババアの目の前で殺す。で、実は偽者でしたーってバラす」
「……それで?」
「同じ事を何度か繰り返す。目の前で殺される母親が偽者であると心底疑う様になったら次に移行よ」
「それだけで精神的に参りそうですが」
「甘い。次は本物の母親をババアに返す」
返すと聞いて一部の連中が不思議そうに首を傾げた。
ニボシに至っては興味無いのか意味が分からないのか料理に意識が戻ってしまった。
「結局返すのですか?」
「ただしニーナに洗脳してもらって私の手先にしてからね。しばらくは大人しくさせるけど」
「うわぁ」
「やんないよめんどっちぃ」
「ふ、実は私達は異世界の調味料を色々と調達していてね、手伝ってくれれば……」
「お安い御用だねっ」
よし、ニーナとヨーコはこれで大丈夫だ。
むしろ頼んだニーナよりヨーコの方が燃えている。
この手は何度か使えそうなのでヨーコ達に手伝って欲しい事があったら使おう。
「そして最後に如何にも本物ですって感じの偽母を門の辺りに張り付けにした後、本物の母親にババアを攻撃させる。奴等がやはり偽者かと母親を殺した後にソイツは本物でした、プギャーで終わりよ」
「よし、妾はフィーリアを怒らせない様にしよう」
「あのライチさんを怯えさせるとは」
「一応ババアにだってチャンスはやってるのよ?返された母親が本物だと気付けばいいだけの事よ」
自分の母親なら分かりそうなもんだ。
私ならきっと分かる。散々間近で見てきたし。
ただ父となると難しい。あんまりマジマジと視界に入れた事無いからなぁ……
「妾はゲスな行為を見るつもりはないからあっちの魔物とやらを相手させてもらうぞ」
「むしろ助かるわ。今の私はババア以外眼中にないもの」
後は――
「私の気絶中にやってもらう指示を書くから紙とペンをちょーだい」
「口頭ではダメなのですか?」
「細かい指示だから書くわ」
紙とペンを受け取ってサラサラと書いていく。焦っているだろうしババアは門前まで転移してきて突っ込んでくるだろう。
制限時間3時間くらい、この3時間くらいってのがミソだな。正確な死刑執行時間を伝えなければ焦るだろうし。
とはいえ予定通りに動いてくれる保証は無い。ババア達が妙な行動をとったらサヨかキキョウ辺りに対処してもらうしかない。ま、大丈夫だろ。
「サヨ、貴女に渡しておくわ。つまり貴女が指示を出すのよ」
「私ですか……まぁやりますけど」
「それに書かれていない事は自分達で対応する事」
「はぁ、分かりました」
色々な事態に対応出来る様にしたから大丈夫とは思うが。
サヨの方を見れば微妙そうな顔をして指示を書いた紙を見ていたが内容は分かった事だろう。
後はババア達の動き次第。
ユキに用意してもらった召喚の魔法陣の真ん中に立ち、私はババアの母親を召喚した。
★★★★★★★★★★
という訳でお母さんはバッチリと目的の人物を召喚したハズなのですが。
「し、死んでる」
「いや生きてるみたいですよ」
「くっさ、これ絶対糞尿垂れ流しの要介護人物だって」
この言い様である。
しかし言いたくなるのも仕方ない。髪は真っ白で姉以上の白髪だし顔だってこれ以上老けませんってくらい老けている。
あのババアと言われてる人の母だし40代後半くらいかと思ったがこれでは80歳超えと言われても不思議ではない。
自分が今どうなってるのかすら分かっていないだろう。ボケとかそういうのではなく何も考えてない生きた人形状態がこの人だ。
「あのババアの母ですから妾を誘拐するとはなんたる下郎とか言ってくるかと思いましたが、何とも拍子抜けですね」
「どうすんのユキっち。戦中に介護が始まる展開とかあたし嫌よ?」
「私としてはちゃっかりお母さんを膝枕してるキキョウさんに物申したい所ですが」
「いえ、皆様はこれから戦うのですからここは私がと……」
おのれ……介護するなら私だってこんな老人よりお母さんのが良いに決まってる。
だが戦うのは事実な訳なので仕方なくキキョウさんに任せるとしよう。後はこの要介護物件だが。
「臭いので隔離しときましょう。ちょうど良く天狐族の方々が来てますしお世話は彼女達に任せます」
「分かりました。流石に洗っても宜しいでしょうか?」
「むしろお願いします」
清潔にしてもらわないとお母さんが起きた時に酷い。
今まで誰があの老人の世話をしていたのか。あの様子ではろくな世話をされてないと思うが、生きているって事は食事ぐらいは与えられていたのだろう。
敬意は無いが死なれても困るって感じか。
「ではここからは私がお姉様より受けた指示を出しますのでそのつもりで。敵がお姉様の予測した通りに動かなかったら臨機応変で対応します」
私より姉に任せられたのは癪だが、きっと今回は姉の方が適任だったのだろう。
しかしここもまたお母さんの指示か、きっとまともに戦わないえげつない作戦でもするのでしょうね。
★★★★★★★★★★
「奴等相手に正面突破とは些か無謀だと思いますが?」
「うるさいね……私だってチビ達相手に正面きって戦うとか嫌に決まってるでしょ。でもお母様を救出するにはもう考える時間とかないんだ」
「せめてもう一時間くらいは作戦を練っても……」
「あのチビはきまぐれで人を殺す様な奴さ。3時間くらい猶予をやるったって守る保証すらない」
一応一時間ちょっとは考えた。
だが普通の奴ならまだしもアイツ等相手にはろくな作戦が思いつかない。
無謀と言えど、一番内部に突入出来る可能性があるのは門をぶち破っての突破だ。
マッチョ共が張り付いた時にもっと大人数で攻めていればいけたと思う。
幸いにしてサード帝国の奴等、あの一番厄介そうなチビ巨乳も強化された魔物達の方に行ってくれた。
あの強さだからすぐに魔物が殲滅されるかと思ったが、あの野郎の駒は中々に多いらしく未だ殲滅される気配は無い。今ならあの化け物に邪魔される事はないだろう。
問題は暗闇に引きずりこまれる魔法だが、魔法封じの魔道具さえ所持してれば大丈夫なハズ。
「ですがアナルチア様。あの凶悪なロリ巨乳をあえて遠ざけるなど罠としか思えません」
「だろうね、私の精神を破壊するとか物騒な事を言っていたしね。何としてでもお母様を殺すつもりだろうよ」
殺すつもりではあるのだろうがすぐには殺さないのは私の焦る姿が見たいからか。
チビの愉悦そうな顔を見るのは癪だが、そのゲスな性格のお陰で未だお母様は生きていられる。
「逆に奴に悔しがる姿を見せてやりたいもんだね」
「敵の常識知らずな罠を考えますとほぼ失敗しそうですけど」
「……ウチの者は私への忠誠が低いわー」
「私はシリアナ様派でしたので」
やれやれだ。
これだけの兵がウチに忠誠を誓っていたのはほぼシリアナのお陰だ。ここまで大きくさせたのは彼女なのだから当然と言えば当然な訳だが……
元はお母様の為の国だったんだけどなぁ。
所詮は借り物の国か。いや、私やお父様には国を持つだけの器が無かったのか。
でも諦めちゃいない。器が無いなら今後持てばいいだけの話だ。
その前にまずはあのチビ達に勝つ。
有り難い事にシリアナ亡き後も私達に部下達は手を貸してくれている。まぁ命令聞かずに中継都市で暴走したりもしたが。
「……ところでお前誰だっけ?」
「数少ない女性の部下を知らないとはとんだ上司様ですね」
「え、いや、ごめん……」
「まぁまともに会うのは今日が始めてなので知らなくて当然ですが。今まではシリアナ様の直属の部下として影で行動してましたが、シリアナ様が亡き今仕方なくアナルチア様に協力します。ここまで無残にやられてるのも癪ですしね」
「ぐっ……」
流石はシリアナの部下。上司に似て私に対する敬意がまるで見られない。
……しかし今急に知らない部下が出るとか実は敵だったりしないか?
金髪に整った顔は何ともペロ欲をそそるが今は我慢だ。
一応着ている服からしてウチの者ではあるようだが。
「お前、名前は?」
「ドールです。シリアナ様に頂いた名前です」
「うわっ、ずるいっ!」
「やかましいです。そうだ、攻める前に言っておきますが私には目的がありますので宜しくお願いします。と言ってもアナルチア様にも得はありますが」
「目的?」
「シリアナ様を殺したとされる偽者少女達を始末する事です」
……出来んの?
逆にやられそうなんだけど。
「言っておきますが、やらきゃやられますよ。居場所も顔も知らない貴女の母上様を本当に召喚出来るのなら救出してもまた捕らえられるのがオチです。召喚者が不明な以上全て殺すしかないでしょう」
「……確かに」
参った。ただ助けるよりも何倍も厳しい。
だが、シリアナが秘蔵っ娘と言うくらいだしコイツが居ればもしかしたら……いや、何を他人任せにしてるんだ私は。
私は私の力でやるしかないだろう?
「余計な小細工はしない。転移で門前まで飛んだ後に一気に門をぶち破る!」
私の号令に勇ましく雄たけびをあげるマッチョになった部下達。ムキムキになった兵は気持ち悪いが頼もしくもある。
お母様を救出したらあのチビを絶対にぶん殴ってやるっ!!
転移で門前に飛ぶとあちらさんも分かっていた様で現れた瞬間に魔法で歓迎してくれた。
だがこちらには結界の魔道具もあるので被害はほぼ無い。
魔法は無駄と判断したのか矢と何故か剣を防壁の上から投げて妨害してくる。
だがそれを生身で弾くマッチョ達。
「うーん、癪だけどあのイカれた奴の強化は凄いね。物理が全く効かないじゃないか」
「そうですね。あと一応言っておきますが、防壁の上に必ず母上様がおられるとは限りませんよ」
「そん時は誰かをとっ捕まえて吐かせるさ」
向こうの応戦にチビの仲間の鞭使いと糸使いが見える。
あの二人の場合は他の雑魚と違って強化兵にも多少のダメージは与えられる様だ。流石はチビの仲間と言うべきか。それともあの化け物共の攻撃で死なない兵にしたあの野郎を褒めるべきか。
「こっちが有利か?」
「ここだけを見ればそうですね」
ウチの強化兵達は敵の妨害を気にする事無く門に拳を叩き付けている。
一瞬で破壊されないだけ向こうの強化も中々のものだ。
転移してから時間はほとんど経ってはないと思うが早く門を突破して欲しいと思ってしまう。
早ければ早いだけお母様の救出が成功するから。
そんな願いが通じたのかベキっと何かが割れる様な音が門から響いた。
「拳じゃなくてタックルで一気に破壊してそのまま突入してやれっ!!」
応!と勇ましい返事と共にすでに200人は切ってるかもしれない数の強化兵達が突っ込んだ。
そして、やっと門が開いて――
「……?」
「あれは……アナルチア様、兵を撤退させて下さいっ!!?」
雪崩れ込んだ兵達が門を通ると静かに消えていく――
まさか、門前で一気に兵を消滅させたあの魔法か!?
一応魔法無効化の魔道具は持たせているハズなのだが……まさか無効化が防がれている?
「そう言えば、サード帝国の奴等が現れる前に攻めてきた時は無効化が通用しなかったですね」
「ぜ、全軍下がれっ!!」
それ超重要な情報だからっ!?
そうは言うが勢いづいた兵達を急に下がらせるなど難しい。
下がれないにしても止まってさえしてくれれば――
突如響いたドスンともゴオとも言えない轟音と地響きに思わずしゃがみ込む。
大きな地震でもあったか?
だけどそんな訳は無かった。
目の前にあるのは……壁。
「……」
「…………壁が、降ってきましたね。こじ開けた門は塞がれ、近くにいた兵達は下敷きになった様です」
……ここまでやるかね。
門の中は闇魔法で、それに気付いて退却を考えたら巨大な壁が降ってくるとか予想出来るかっ……!
憎々しく見上げていると壁の上に影が現れる。
あの姿は、シリアナ。いや、シリアナに似たあのチビの仲間だ。
「ほぅ、大分減った様です。いやはや、流石はお姉様の読みと言いますか……如何にマッチョと言えど極限まで強化した壁を遥か上空から落とせば確かに殺せるみたいです」
「……こ、の、非常識ども」
「あれが、標的の少女ですか」
残った兵はどれくらいだ?
元々少なかったがざっと数えた限りもう30人も居ないじゃないかっ!
「どうする……」
「では私が殺してきましょう」
「いやいやいやいや!?見えてないけど向こうには他にも化け物が居るんだって!」
「大丈夫です。あれをサクっと始末して一度退却を――」
ドールが自信満々に語っていたが急に驚愕した様な顔をして黙った。
何だ?
「予定が変わりましたね」
「何の事……」
ドールの目線を追えばシリアナに似たあの少女が胸を貫かれていた。
一瞬何が何だか分からなかったが、少女の後ろを見れば見覚えのある男が。
「あれは、ドラッグの野郎?……マジか、アイツ薬物しか能が無いと思ったけど強かったのか?」
「ドラッグと言うのですか。獲物を取られたのは腹立ちますがチャンスですよ、あれに気を取られている内に内部に侵入して母上様を救出しましょう」
「そ、そうだなっ」
一応シリアナの仇は取ったって言えるのか?
まだ他に居るけどまずは一人だ。
まさかのイケ好かない奴が良い仕事しやがった。
だが、仲間をやられたとなるとあのチビの反応が恐ろしく感じる。めっちゃ嫌な予感しかしない。
★★★★★★★★★★
お母さんから指示を出されたとの事で姉の指揮のもと急ピッチで作業を終わらせた。
ニボシさんには魔物の方に向かう様にと指示があったとの事。
アルカディア最強の存在が不在というのは少々心許ないが、今はヨーコさん達も居るのでお母さんがそう判断されたのだろう。
「門の内側に亜空間に繋がる符を貼りました。指示では一応抵抗しながら門を開けて突入させる様にとの事。これで奴等が突撃してきたらそのまま亜空間にダイブです」
「ホントに馬鹿正直に門を攻めてくるの?」
「恐らくは。もはや迂回して別路から攻める時間は無いでしょう。一気に突入して中から私達のいる上を目指す、これが一番可能性が高いです」
この姉はやたら自信満々で言っているが、どうせそれもお母さんの考えなんだろう。あたかも自分の案の様にドヤ顔で語るとはこの愚姉め。
「そして、奴等が罠に気付き退却しようとした所で亜空間に閉まっておいた防壁の余りを上空から落下させます」
「壁?」
「壁です。敵を倒す事と開けられた門を塞ぐ為ですね。極限まで強化したいのでマリアさんとユキには手伝ってもらいます」
「それも主殿の指示か?……何というか、あの短時間で良く考えるというか頭の回転が早いのぅ」
ただの壁のままだとマッチョ達が死なない可能性が高いからか。
どうせだから壁の下に棘棘をつけて串刺しにしてやろうか。
「ルリさんかメルフィさんのどちらかには私と一緒に行動してもらいます。亜空間から出した壁は目立つので精霊魔法で隠して欲しいからです」
「ならばワシが共に行こう」
「宜しくお願いします。では敵が来る前に壁を強化し、敵が攻めてきたら行動開始します」
果たして結果は姉というかお母さんの予想通りとなっていた。
転移で門前に現れた敵はなりふり構わず門をこじ開け突入する。
黒い空間に突入する兵が消えだすと流石に敵も気付く。それでも結構な数のマッチョが消えた様だ。
門の中が罠だと悟れば当然退却し始める。
しかし勢いづいた兵達が急に退却出来る訳も無く、ルリさんによって上空で見えなくなっていた防壁の落下によって多くの兵が潰された。
清々しいまでに予定通り行動してくれるなペロ帝国は。
一仕事終えて姉も上空から降りてきた。そして落下させた防壁の上から戦場を見ている。
「姉さん……?」
「どしたのユキっち?」
「いえ、何か……」
何か不吉なものを感じる。
何だ?
「ほぅ、大分減った様です。いやはや、流石はお姉様の読みと言いますか……如何にマッチョと言えど極限まで強化した壁を遥か上空から落とせば確かに殺せるみたいです」
偉そうに語る姉はともかく、何かを忘れている様な……
忘れているとは思うのだが中々思い出せない。こんな時お母さんならその何かにすぐに気付いていると思うが――
「サヨさん後ろっ!?」
考え込んでいると急にマオさんが叫んだ。
驚いて目を向ければ姉の背後に急に現れた男。
そうだ――
姉が今立っている場所はニボシさんの張った結界の範囲外、つまり転移可能な範囲だった――
だが気付いた時にはすでに遅い。
姉は男が手に持っていた剣によって胸を貫かれていた。




