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幼女と援軍

 雑魚戦の最中にボスが紛れ込んできた的な感じになってんな。

 しかし実際に強さが分かってるのはライチだけだし案外弱い可能性も無きにしも非ず。

 というかアルカディアが誇る最終兵器であるニボシに任せとけば何とかなるんじゃね?ぶっちゃけ星落としに勝てる奴なんかいないと思う。


「流石にこれはマズいですね」

「キキョウを差し出せば見逃してくれるんじゃない?」

「ライチさんが相手なら可能かと」

「げふんげふん、真面目に対処を考えましょう」


 にしてもお腹すいた。解説で喋るにも体力は使う様だ。そろそろ昼飯にしてもいいんじゃなかろうか……てか寒くなってきたぞ。やはりただの椅子では太ももが冷える。

 鼻がやたら冷たいので手で暖めてる時にふと気付いた。


 何か良い匂いがする!


「凄く真剣に考えてるお姉様は何か作戦でも思いつきましたか?」

「ん?……ああ、全然関係ない事を考えてたわ」

「お姉様の何気ない一言が活路を見出す事も有りましたし聞いておきたいです」

「いやホント関係無いから」


 しかしこの匂いは一体……何を触ったのだろうか?

 ぬぅ……謎だ。

 にしても関係無いと言っているのにサヨの奴はしつこく聞いてくる。言った所でこんな時に何考えてるんだとか言うくせに。


「そこまで聞きたいなら言いましょう。何か指先から良い匂いがするのよ、何かこう……バーベキューで匂いそうな奴が」

「本当に関係無い話じゃないですか」

「だからそう言ってたでしょうが」

「尻でも触ったんじゃないの?」

「マオの尻を揉んだ後はちゃんと手を洗って寝てるわ」

「誰もマオさんの尻とは言ってません」


 というか尻を触ったら良い匂いがするもんなのか。マリアが適当な事を言ってるだけだろうけど。

 心当たりと言えばマイちゃんかリンだな。


「ああ……何かリンから香ばしい匂いがするわ」

「しょっちゅうバーベキューするので匂いが移ってるんでしょうね」

「人形だから忘れてたけどちゃんと洗ってあげないとね」


 原因はリンだったか、しかし良い匂いがするんだからこれはこれで……いややっぱダメだわ。


「というかこの非常時に何の話をしてるんですか」

「リーダーが尻を触って手を洗ってなかったかもしんないんだから一大事じゃない!」

「それは確かに」

「私は清潔な幼女だ」


 解決した所で援軍をどうするか考えてやるか。

 と言ってもやはりニボシに無双してもらうか、それともここは私が颯爽と倒して賞賛されるか……


 やるか、ニボシ任せにしすぎるとニボシ帝国へと変貌するかもしれないし。


「仕方ないからここは私が始末しましょう、如何に私が凄い幼女なのか見届けなさい」

「お母さんが自らとは……あまり長時間気絶されても困るのですが」

「そう時間はかからないわ。サヨ、亜空間の符をちょーだい」

「何をなさるかもう分かりました。どうぞ」


 察しが良いというか、まぁ分かるか。

 地味だが奴等を亜空間に確実に落とせばそれで終わりだ。サヨが仕掛けた罠ならチート集団であろう奴等は避けたりしそうだが、私なら問題無い。

 奇跡ぱわーからは逃れられない。残念だったな異世界の者共よ。


 私の身長では防壁から覗く事は出来ないので安定のユキによる抱っこ状態で眼下を見つめる。

 余裕の表れなのかサード帝国の奴等はゆっくりと前進しながらこっちに向かっていた。そこまで敵意が見られないし案外味方の可能性もある様な……


「援軍要請してないし味方な訳ないか」

「でしょうね」


 まだ声が聞こえる距離になるまでは時間がありそうだから私が気絶した後の事について言っておくか。


「さて、私が奴等を始末したらペロ帝国側は新たな手を打ってくるでしょう。恐らくそれが最後の手段よ」

「まだあるの?」

「ふん。実験大好きな自称天才が黒幕だろうし確実にあるわ。人間をあれだけ強化した奴が人間だけで満足する訳が無い、となると人間より強い固体……つまり魔物かドラゴン辺りを強化して送り込んで来るでしょう」

「なるほど……」

「まぁ、小物だろうからそこまでが限界ね」

「仮にも天使だろうから小物って事は無いんじゃない?」


 これまでお手本の様にやられっぱなしの奴なんだから小物だろ。

 ドーピング方面のみなら頭は良いのは認める。それ以外はカスだ。


「小物じゃなければ昨日の内に防壁は突破されてるでしょ、あんだけマッチョが居るんだし」

「確かに」

「良く言えば王道的な戦い方ね、小出しにして様子を伺いながら戦う。まさに物語の戦をそのまま使ってんじゃないかってくらい分かりやすい。最初から戦は長期戦だと思ってるでしょうし、切り札として自信のあるものを用意してるとなりがちな戦い方と言えるわ」

「ほぅ」

「マリオネットが居たら間違いなく昨日二陣目のマッチョが防壁に届いた時点で罠はもう無いと悟って全力で防壁を突破してたわ……フォース王国で倒してたのは幸いだったわね」


 長いこと先代と一緒に旅してたみたいだし常識的な戦いより効率的な戦いを覚えてそうだ。

 フォース王国でも内部から崩そうとしてたり自ら防壁をぶっ壊してたしなぁ。


「戦で一番兵を消費するのは防壁と城攻めでしょうからね……」

「あれね、本で学びすぎて常識が根付いた奴ほど分かりやすいわね。適当に防壁作って門をおけばそこを攻めてくれるし」

「ふむふむ」

「罠も門周辺にばかり設置するし」

「ぐぬぬ……」

「兵法書もお母さんの前には役に立ちませんね」

「そんなん何処の国の参謀も読んでるんだしそのまま運用しても基本役立たずでしょうが」


 本で良くあるしまった、これは何とかの策!?……なんて展開はほぼない。

 うわぁ……兵法書通りとか分かりやすい戦い方してるよぷぎゃー、これが現実。結局重要なのは戦力である。数の利があるならゴリ押しで大体何とかなるわ。


 ただし、兵法書を熟知していて且つ頭の回転が早い奴なら似たような策と思わせといて全く別の手を用意してました、何て厄介になる恐れはあるが。まぁ今はどうでもいい。


「何より、切り札として用意した手駒はピンチにならなきゃ使わない。正にアホウ」

「ウチで言う所のお姉様の奇跡ぱわーですね」

「ウチの切り札はニボシでしょうが」

「我ですか?」


 素で強いんだから気絶する奇跡ぱわーより使えるじゃないか。

 切り札なんだけどニボシが参戦すれば被害が最小限になるんだし使うだろ、常識的に考えて。


「けど黒幕と思われるのが天使なんだから一応警戒しといた方がいいんじゃない?」

「天使全てがヤバイ訳じゃないでしょ。危険な海を渡ってきたって事でヤバイと思ってるんだろうけど、あんな小物が一人で渡れる訳が無い」

「つまり、他の天使と一緒に来たと」

「まぁそうでしょうね……この大陸に来て別行動してんでしょうよ」


 結構な数の団体で渡ったとしても一人は確実にヤバそうなのが居る筈だ。雑魚は何人集まっても雑魚だし。

 そいつには出会わない事を祈ろう……とか言うと出会うのがこの世の不条理だ。言わないでおこう。


「流石はフィーリア様、勉強になります」

「ふ、もっと褒めていいのよ」

「数々の嫌がらせを思いついた学生時代は伊達ではありませんね」

「ふ、同窓会に呼ばれない自信があるわ」

「自慢になってません」


 そろそろ私の声が届きそうな位置にまで進軍してきたかな。

 くっくっく……異世界に来て妙な力を手に入れて調子に乗ってるだろうが、その力を発揮する前に貴様等は死ぬのだよ。


「ふははははっ!異世界チートが現地チートに勝てる訳がなかろう!!」

「理屈は分かりませんが、確かに奇跡ぱわー以上のチートは無いでしょうね……気絶しますけど」


 そうだろうそうだろう……奇跡すてっきも疼いておるわ。


 目立つ様に防壁の段差の上に立つ。もちろん落下防止の為にユキに支えて貰っている。

 一応風魔法も使ってもらったから確実に聞こえるだろう。


「よく来たな下郎共っ!ペロ帝国なんぞに手を貸すとは恥ずかしい奴等よ。どんな密約を結んだか知らんが、ライチを恐れて離反するしか出来ない雑魚がライチを一撃でぶっ倒した私に喧嘩を売るとは笑止っ!後悔する暇もなく殺してやるわ!!」

「――!?」


 何か言ってるが聞こえんから無視だ。

 唸れ奇跡すてっき!奴等の足元に亜空間を開き確実に落とすのだ!


「ふはははははっ!現地チートを思い知るがいいわっ!」

「うはははははっ!遊びに来たぞフィーリア!」

「ふはははははっ!ライチまで来やがったかっ!だが私には勝てんわ!」

「うはははははっ!ならば今度は妾も本気でやってくれようぞ!」






「で、何しに来たのよ」

「遊びに来たと言っておるだろう」


 テンション上がったままライチ諸共始末しようとしたらユキ達に結構本気で止められた。同じくライチも味方だったのかサード帝国の兵達に止められていた。


 現在は防壁の上にライチだけ招いて事情を聞いてる最中だ。門から入れるとペロ帝国の奴等にこっち側だとバレるので見えない速度でジャンプして来てもらった。もはや瞬間移動である。


「何で戦の真っ最中に遊びに来んのよ」

「……ああ、忘れておった。援軍だ援軍、遊びに来たと言っただろ?あれは嘘だ」


 コイツ絶対遊びに来てるわ。援軍という名目であのお付の女に許してもらって来たのだろう。

 しかしタイミング的にやけに敵っぽい現れ方したな。すげぇ勘違いしたわ……


「それか、朝起きて何となく城をふらっと歩いてたら知らない奴が居たのでな、敵と断定して殴って倒したらソイツが何やら手紙を持っておったのだ」

「まず客かも知れない奴を殴るな」

「気にするな。で、ソイツが持っていた手紙にアルカディアと戦をするから手を貸してくれとかそんな感じの事が書いてあったのだ」


 ほー、て事はそれを知ってわざわざ来たのか。意外と友情に厚い奴よ。


「アルカディアと言えばキキョウの国っ!……ではなくフィーリアの国!」

「おい」


 コイツ絶対私の為に来てねぇぞ。分かりやすい嘘を付くくらいならいっそ正直に言ってくれ。


「それは助けに行けねばと思った訳よ。妾に従う兵が集まり、指定時間までまだ時間があったから腹ごしらえをし、時間が来たからこうして出陣したという訳だ」

「あんたが遅刻した事と従う兵がやたら少ないのは置いといて、何で敵の指定した時間に合わせるのよ」

「いや流石にアイツらは全体の一部だ。時間に関しては手紙にそう書いてあったからであろう?むしろ時間通りに来た妾を褒めろ。遅刻なぞ誤差だ、というか妾の邪魔をしたアムリタが悪い」

「奴等が指定した時間通りとか敵と勘違いするじゃない。来るなら兵が集まり次第さっさと来なさいよ」

「……」

「……」

「お前は何を言っておるのだ?」

「私のセリフよ」


 そう言えばコイツは馬鹿だった。

 馬鹿のフリしてるだけではなく真の馬鹿だ。こんな馬鹿は早々いねぇ。


 いや、これはこれで相手もライチの兵が味方だと勘違いしてる可能性があるな……あたかも味方の様に奴等の内部に入って暴れてもらうってのも有りか。

 とはいえそれだとウチに被害はないが援軍なのに危険に晒されるドグマの兵達から不満とか言われそうだなぁ。

 まぁライチの兵なんだしライチの好きにさせればいいか。


「で、ライチは援軍に来てどうするっての?」

「あの兵達は全て妾との勝負に7秒は耐える猛者共だ。そのまま突撃しても問題ないだろう」

「凄く無さそうだけどアンタ相手に7秒は素直に賞賛だわ」

「妾を一撃で沈めたお前が言うと皮肉に聞こえるな」


 あれズルだし。

 しかしあれだ、一気に楽になってしまって拍子抜けだな。もう後の楽しみは敵の隠し玉くらいしかないぞ?


「妾としてはフィーリア相手ならすでに戦なぞ終わってると思ったがなぁ」

「折角の機会だし色々と経験させておきたいじゃない。他の厄介事が無かったら進軍中に殲滅してたでしょうね。普通の国相手なら宣戦布告した時点で終わらせる事も出来たけど」

「ほぅ、何故か聞かせて貰おう」

「必ず守るものがあるからねぇ……私なら相手が命をかけてでも守りたいものをすぐに入手出来るし。まずは私の力で王様以外の王族を全て捕らえるでしょうね、従わねば殺すと脅して降伏したらそれで終わり。従わなかったら隕石で丸ごと滅ぼして終わり」


 隕石降らせて終わりってのも何だかなぁとは思う。地味だし。

 戦で見せ場を作ろうと頑張る奴が何も出来ずに死ぬってのは楽しそうだけど。霊魂を呼んで何も出来ずに死んでどんな気持ち?とか聞いてやりたい。


「お前は存在が反則だなぁ」

「何もしなきゃ無害な可愛い幼女よ。しかしペロ帝国は敵としては中々ね、守るべき民も居ないしババアは人質にもならなそうだし」


 ババアですら復讐より撤退を判断したんだ、ババアを人質に取った所でボテ腹も仕方ないと犠牲にしただろう。

 長い気絶タイムを覚悟してボテ腹含む全ての指揮官を捕らえて処刑しても残った兵達が只の賊になって結局戦ってた筈だ。どのみち全滅しなきゃならんなら気絶しなくて済む方がいいわ。


「フィーリア、兵達を突撃させてよいのか?」

「あんたの兵なんだからあんたの好きに動かしなさい。奴等がピンチになったら奥の手が出てくるでしょうよ」

「ふむ、あの筋肉共はつまらなさそうだがそっちは気になるな……奥の手とやらが出るまでは妾もここでのんびり見物するか」

「へー、戦闘馬鹿だから一緒に突撃すると思ったわ」

「妾は獣ではないわ。……こほん、決してキキョウと少し話そうとか思った訳ではないぞ?」


 何で自分から暴露するかなぁ……当のキキョウは今の発言で物凄くめんどくさそうな顔になってるのに。いやぁ、キキョウも愛されてますなぁ。


 さて、思わぬ所でライチの所の戦力がどれ程のものか確認出来るのだししばらくウチの面子は待機にして分析してもらうとしよう。

 兵数としてはライチの方が多少は不利だがほぼ互角、ライチと戦って7秒耐えるってのがどのくらいの強さか判断しづらいがもしかしたらドグマ兵一人がユキより強いなんて可能性もある。


 やっぱ異世界からこっちに来るってだけで強化されるとか卑怯だわー。


「うはははははっ!ちょっと兵達に指示してくるから少し待っておれよキキョウよっ!」

「何で私に言うのですか……さっさと行って散って下さい」


 ライチは当然の様に防壁から飛び降りて兵達の元へと向かった。

 こうして戦ってくれる訳だし礼としてキキョウと1日お出かけでもさせてあげるべきだろうか……


「お断りします」

「何故察した」

「フィーリア様とニボシ様に関しては何となく分かりますので」

「気色悪い方向にダメになってるわ」


 フィーリア一家は大体そっち方面の成長するから困る。


 ライチ達の方はと言えば指示は終わったのか兵達が反転してマッチョ達の方へと進軍を始めた。割と高速で。

 動揺してる間にやろうって事か……これはライチではなく兵達で考えた方法だな。どうせライチは突撃だっ!とか言っただけだろうし。


「ライチ達と敵対する事はほぼないだろうけど、反ライチ派と戦う羽目になった時に備えてちゃんとドグマ兵の強さを見ておくように」

「分かってます」

「あの変な女はそんなに強いのです?」

「……ライチでも本気のニボシには勝てないでしょうね」

「当然なのですっ!」


 ニボシが本気の本気になったら多分人化が解けて元のホシオトシに戻る。そうなったらライチでも無理だろう、だって星壊すもの。

 とりあえず胸を張ってたゆんたゆんさせるニボシをガン見しよう。けしからんな、こいつめ。


「お母さん。今は胸より戦いを見ましょう」

「おっと、私が生み出した願望の化身に思わず魅入ったわ。じゃ、現サード帝国の兵である奴等の強さってのを見せてもらいましょ」


 接触まで数分、もかからないくらいか。流石に速いなライチのお墨付きの奴等は。

 ペロ帝国の方は異変に気付いているが特に慌てた様子はない……これは少し意外だ。


 そう言えばライチが使者を殴ってたっけか……転移で帰って来ないならそりゃ怪しむわな。

 どちらも戦う準備が出来てるなら見る分には丁度いい、じっくり拝見させてもらうとしようか。

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