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幼女と瀕死な娘

 痛いです。身体中がすごく痛いです。家をおいだされて泣きながら山の中を歩いてきました。


 泣きながら歩いてると熊さんに会いました。熊さんに助けを求めたら爪で腕を引っ掻かれました。痛いです。


 熊さんから逃げると大きな蛇さんに会いました。大きな蛇さんにはお腹を咬まれました。すごく痛いです。


 大きな蛇さんに咬まれたら頭がふらふらしてきました。苦しいです。


 ふらふらしながら必死で逃げたら身体が動かなくなりました。


 動かないでいたら大きな狼さんがたくさん寄って来ました。


 狼さん達は私を食べようとします。でも私の身体は丈夫なので肉を食い千切れないみたいです。


 でもいっぱい噛まれて私の身体は傷だらけです。所々食い千切られました。


 ずっと我慢してたら狼さん達は居なくなりました。でも私は動く事ができません。


 目も見えなくなってきました。身体がとても寒いです。でも震えは全くありません。


 やっぱり私はひとりぼっちです。魔物さん達も寄って来なくなりました。寂しいです。でも涙は流れません。


 家族が欲しかったです。一緒にご飯が食べたかったです。

 お友達が欲しかったです。一緒に遊んで欲しかったです。


 神様、次に生まれ変わったらお願いを聞いてください……









「あら、こんな所に死体が」

「埋めますか?」



……まだ生きてるのです



★★★★★★★★★★




 起きた。起きてすぐ太陽の位置を見る…真上に昇る少し前、つまり昼前。よし、このグータラさはいつもの私だ。


「おはようございます」

「おはよ」


 ユキは起きていたようだ。ちなみに寝てたのはいつもの宿。節約して安い所に泊まるべきだったか…初日だけの予定がずるずると贅沢してしまった。


「…ふわぁ……?絵を描いてたの?」

「はい。3枚ほど書き上げました」

「早っ!?まさか徹夜してたの?」

「いえ、5時間もあれば十分でした」


 それなら十分睡眠時間とれるか、それにしても早すぎる。絵ってそんなに早く描けるものか?


「どれどれ…」


 お、これは白露花の花畑か。左下にタイトルが有るから間違いない。ユキ画伯の腕前を見せて貰おう



『白露花の群生地』

 絵の具だけであの風景をここまで再現するとは見事。風に吹かれて黄色い花が揺れている様な感じだ。

 これは良い…あの時の光景が思い出せる。奥にある岩山はもしや……今あそこに行ったら白露花が全部食べられた後かもしれない。



『初めてのお友達』

 これはマイちゃんか。顔は描いてないが、メイド服の女性、間違いなくユキだ。ユキの肩の上に止まってる所を描いたようだ。

 恐らく鏡を見ながらやったのだろう…マイちゃんやたらリアルだなぁ…初めての友達だからって張り切りすぎだろう。

 しかし、こうして見るとやっぱりデカいな…抱っこちゃん状態だとあんまり見えなかったが、ユキの顔の倍以上はある。私の頭に止まるとデカイリボンみたいになってるかも……案外軽いから気にしてなかったが。



『尻』

 天井裏に登ろうとしてる幼女らしき姿が…周りは雑に書いてあるくせに、ゴスロリのスカート部分と白いパンツと足だけやたら鮮明に描かれている。服のシワも完璧で、それ以上に完全再現されてるのが白い……





ビリイィィィッッ!!


「ああっ!3時間も費やした力作がっ!」


 他の2枚は一時間で描いたんかい。それよりもユキの尻に費やす情熱が問題だ。鮮明に覚えすぎだろう……


「やっぱり最近のユキは変よ。おかしいわ、頭が。あなたそんな姿してるけどまだ2歳児よ?早すぎる思春期を迎えてしまったとでも言うの?」

「2歳児として、母の全てが大好きなのです」

「2歳児が尻に興味を持つ年頃とか聞いた事ないわ」

「なるほど…2歳児ならまだ……」


 とか言いながらやたら真面目な顔つきで私を見てくる。主に…胸のあたりを。


…これはもうダメっぽい


「…馬車なんかより一刻も早く人材を探す事にする。無害な人材を」

「私の何がご不満でしょうか?」

「何故そのセリフが言える」


 真面目なユキの場合の方が多いが、急に変態になる。常に変態であるより恐ろしい…抱っこ中なら逃げられない。


「行くわよユキ、癪だけど、あなたに抱っこされてあげるわ」

「かしこまりました」

「…急に真面目になったわね」

「嫌われたら生きていけませんので」


 だったら脱変態すればいい。二人になった途端の変態だから、前は母の存在が抑止力になっていたのか……



☆☆☆☆☆☆



 今日は西の門から出る。王都に行くためだ、五丁目からは600kmほどの道のり…遠いわ。

 歩いて行くとどんだけかかるんだ…国内だけでこの距離とかホント世界は広い。


「こりゃ大変ね。やっぱり四丁目か一丁目で馬車を入手しましょう」

「でしたら一丁目ですね。王都に一番近いだけあって町の賑わいは一番です。馬車も売ってあるでしょう」


 初めて町の外に出た時と変わらず、相変わらずうさぎのリュック一つだ。変わったのはマイちゃんが増えたくらい。


「ユキの荷物は空間に仕舞ってるんだっけ?」

「はい。便利ですよ、武器もすぐ取り出せます」


 奇跡すてっきだけなら私もすぐ取り出せるが、そういえば何処に置いてきたっけ?


「私の奇跡すてっきどうしたっけ?」

「空間に一緒に仕舞ってます」


 ちゃんと持って来てたのか…とりあえず呼んでみよう。奇跡すてっき来ーい


「…空間に仕舞っても来るのね」

「私の空間魔法までスルー出来るとは…」


 謎仕様だからなぁ…


「西門に着きました」

「えぇ」


 宿からおよそ40分。五丁目も端から端までの直線距離は15kmはある。歩けばそれなりに時間がかかる広さなのだ。


 門番にギルドカードを見せて外にでる。絶対ピクニックに行くと思われた…


「また草原か…」

「お休みになりますか?」

「いえ…起きてるわ。何か見れるかもしれないし…」


 とは言っても期待できない。せいぜいスライムに出会うくらいか


「マイちゃんもたまには翔んだら?」

パタパタ


 と言ったら羽ばたいた。空を飛ぶのは楽しいだろうなー…

 しばらく眺めてたら、無害と思われる野鳥を高速体当たりで打ち落とした。


「さすがマイさん。食材を一つ入手出来ました」

「捕食者として立場逆転したわね」


 だがその後も次々に打ち落とす姿は何か復讐してるんじゃないかと思う。芋虫時代に何かあったのか?


「せっかくなので、空間に保存しておきましょう」

「ホント便利ね。魔法を使える様に生んでよかったわ」


 たまにスライムを見かけるが当然の如くスルー。通り過ぎた後に聞こえる「べしゃっ」という音が物悲しく響いた。


「あそこの山は確か…」

「なに?」

「あの山には美味しい茸が生えてるのです」

「おー、焼いたら美味しい?」

「出汁にしても美味しいです」


 そりゃ採るべきだ。今日は鍋が出来るんじゃないか?鳥と茸…野菜はまた野草か……


「いってみましょう。今日は鍋がいい」

「はい。遅くなりますが、下山したら近くの村まで行きますか?」

「野宿でいいわ。前作ったキャンプセットあるでしょ」

「もちろん空間に有ります。では野宿という段取りで進みますね」


 ユキの言葉に適当に返事をする。すでに頭の中は夕飯の事でいっぱいだ。


「マイちゃん、鳥はもういいから降りて来なさい!」


 未だに鳥を狩り続けるマイちゃんに気付いて、降りて来る様に叫んだ。

 ヒラヒラ翔んできて、マイちゃんは私の頭に止まる。今日は私の頭が定位置らしい



☆☆☆☆☆☆



 山に入って一時間ほど、案外登らないといけないようだ。


「後どのくらい?」

「もうじきです」


 もう少しか。それにしてもこの山の魔物は攻撃性が高い。会う魔物全て向かってくる。


「狼型が多いわね。ぶらっくうるふと違って可愛くない奴が」

「紫紅狼です。この紫紅山に棲むのでそう呼ばれてます」


 ふむ。カッコつけた名前だから可愛くないんだ。てか山の名前とかあったのか…


「じゃあ、あの蛇は紫紅蛇?」

「いえ、あれはどこの国でも居る腐毒大蛇です。名前の通り体を腐らす毒を持ってますのでご注意を」

「へー」


 紫の体をした蛇とか如何にも毒を持ってますって感じだ。

 ユキが鞭で頭を吹っ飛ばしてもまだ胴体が動いてる。


「この山は外れね。可愛い魔物がいやしない」

「初段ランクアップ試験場として使われる事も有りますし、初心者用の雑魚は居ませんね」


 たぶん茸を採ってきたら合格とか実益を兼ねた試験なんだろうな。

 苦労するだけの価値がある茸ならいいか。何もしてないけど。


「何か見えますね。衣服みたいなのが」

「んー?」


 遠目じゃわかりづらいが確かに何か見える。濃い青色か?


「良く見えないわ。どうせ通り道だしもっと近づきましょう」

「わかりました」


 近づくにつれ段々ハッキリ見えてきた。

 これは…服か?見たことない感じだが確かに服…っぽい


 謎の衣服に更に寄ると、血の後と思われる赤いシミが点々としている。そして……


「あら、こんな所に死体が」

「埋めますか?」

「まぁ待ちなさい」


 黒い髪…注意してみると濃い紫の髪だと分かる。16歳くらいの娘か?顔は頬痩けてるが、若い娘。身体も細くて貧相だ。

 至る所に傷があり、左腕には深く抉れた怪我、お腹には穴が空いてる様子。足なんか先ほどの狼達の仕業であろう噛んだ様な後が多数…一部は噛み切られたらしい


「冒険者でしょうか?」

「冒険者がこんな動き辛そうな服を着るわけないでしょ」


 捨てられたか?さすがにこのまま置いていくのは何なので埋め……


「ユキ、ちょっと降ろして」

「はぁ、触れてはダメですよ」


 わかってる。だが良く確認しないと…もし、この娘がこんな状態でも…


 開かれた娘の瞳をじーっと見る。赤紫の瞳、元気な時は綺麗に見えそうだが、今は焦点の定まらない濁った眼…


……やっぱり、この娘


「これはびっくりね。生きてるわよ……この娘」


 そう、どう見ても死体な娘はまだ生きていたのだ。

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