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幼女、帰国して戦の指揮を執る

「転移出来たじゃない」

「出来ましたねぇ」


 本当に転移が出来ないか確かめてみようという事で転移でアルカディアまで飛んでみた訳だが、見事に神殿の前まで転移で来られた。


「味方は転移可能って事では?」

「そうならニボシすげぇな」

「よく考えたら戦場で姉さん達が退却する時に転移で戻れなければ大変ですし」


 確かに。退却する事態になるかは知らんが。

 ニボシの情報書き換えという訳分からん能力も大概チートである。


「じゃあ中に入りましょう」


 主人が帰ってきたというのに出迎えは無い。

 ほとんど出払っているのだから当然と言えば当然だが、ミニマム連中が広間に一人も居ないとか何やってんだろう?


「何やら一箇所にほとんど集まってるみたいです」

「怪しいわ、きっと面白い事ってのはそこよ」


 ユキが歩いて行くのは2階だ。しかしリビングに行く素振りは見られない。

 てっきりリビングに集まっているのかと思ったが……

 自分達の私室がある方向へ向かっていると、何故か廊下にミニマムメイド達が集まっているのが見えた。

 場所的にトイレの前だが何でそんな場所に。


「あ、ごしゅじんさま」

「おかえりなさいませ」

「ただいま。この集まりは何?」


 聞けば何やら微妙そうな顔をして答えようとはしない。

 主人の問いに答えないとは他所の貴族なら打ち首だ。


「聞くより見た方が早いわね。敵はトイレにあり、突撃よ」

「敵ではないでしょう」


 ミニマム達も流石に主人である私達を止めようとはしない。というか出来ない。

 中に入れば閉まっている個室が一つ。

 ミニマム達が集まって見守っているって事はただ用を足しに篭ってる訳じゃないんだろう。


 とりあえず開けよう。


 ガチャガチャガチャガチャガチャッッ!!


「だ、だれなのですっ!?やめろです!」

「この声はニボシかっ!」


 戦場に行かずに何でトイレに引き篭っているのだコイツは!

 最大戦力が不在だといかにサヨ達だろうがキツイだろう。ペロ帝国は決して低い評価が出来る国ではない。


「こらニボシっ、この戦時中だってのに何で便所でご飯食べてんのよっ!」

「我はそんな事しないのですっ」

「あら、てっきり孤独に便所飯してるのかと思ったわ」


 じゃあ何をしてんだと。

 客観的に分析して長いことトイレに篭っているのは把握済みだ。だが何を隠しているのか答えようとしない。


 聞いても本人が言わない以上はミニマム達に聞くしかないな。



☆☆☆☆☆☆



「つまり食いすぎでお腹壊してトイレに篭っていると」

「ああ……お母さんの顔が生き生きしてきました」


 実に馬鹿馬鹿しい理由だった。

 キキョウに食え食えと与えられた餌を食いすぎて腹を壊すとは……弄るしかない!


「これがメルフィが言っていた事か……素晴らしい。全力で弄る事にするわ」

「戦時中云々は何処へ行ったのですか」

「サヨ達ならニボシ不在でも何とかしてくれるわ」


 トイレでやる嫌がらせと言ったらなんだろうか。

 突入だろうが。


「よし、全力でドアを破壊するわよっ!」

「やめろですっ!?」

「嫌がらせというより苛めですね」

「誰もが一度は通る道よ、致し方ないわ」

「通りませんよ」


 ユキに鞭を借りてバシバシとドアを叩くが傷一つ付かない。斬撃モードにしてるのでこの程度のドアなどスパっと切断される筈なのだが……


「ニボシ貴様っ、ドアに結界を張りやがったなっ!」

「当たり前なのですっ!」


 チートな結界を破るのは流石に難しい。

 となれば……次は上から行くか。


「ユキ、脚立」

「はいはい」


 何故常備してるのか不明だが亜空間から脚立を出したユキはニボシが篭っている個室の前にセットする。

 脚立の上に昇ると馬鹿娘が下から覗いてくるというリスクがあるが、背に腹は変えられない。


「よ、ほっ……む?」


 個室の上の空間に何か見えない壁の様なものがある。これもニボシの仕業か。

 一応鞭でバシバシ叩いてみたがやはり壊れる様子はない。


「これも失敗ね」

「次は下からですか?」


 下からの隙間は流石に狭すぎるだろ……

 だがリンなら入れそうだ。見えない壁が無ければだが。


「で、当然の様に壁があると」

「我を覗いてどうする気なのですかお前は!」

「どうもしないわよ。覗く事に意味があるっ」

「ないのですっ!」


 覗くというかトイレの定番の嫌がらせをしたいだけなんだけど。

 見えない壁がある以上侵入は無理だ。


「次の定番は水ぶっかけよ」

「それも阻止されるのでは?」

「でしょうねぇ」


 ……


 ガチャガチャガチャガチャガチャッッ!


「うるさいのです!やめろですっ!」

「ふはははははっ!どうよ、集中出来ないでしょ?」


 身動き取れないホシオトシなんてこのザマよ、こうなったら精神的に攻撃するしかない。

 だがこんな事をしていてもすぐ慣れる。なので別の方法を考えなければ……


「ニボシっ!ファイトよニボシっ!!貴女なら全てを出しきれるわっ!」

「……」

「尻からホシオトシ」

「さっさと出てけですっ!!」


 ふむ、そろそろブチ切れそうだ。


「ユキ、縦笛をちょーだい」

「そんなものどうするのです?」

「笛の音色って何か便意を催しそうじゃない?嫌がらせはここまでにして、次はニボシを応援しようかと」

「どの辺が応援なんでしょうか」


 と言いながら縦笛を寄越す馬鹿娘。何でそんなもの持っているんだと。

 寄越せと言っておいて何だが縦笛なんぞ常備してる奴は何処か変態臭を漂わせる。


「ご安心下さい。それは未使用です」

「何に使用する気だ。まあいいわ」


 自慢じゃないが笛なんぞ吹けない。

 でも吹けば音は出るし別に音楽にしなくてもいいか。


「ぴゅぴー、ぷーぷぴーぽー、ぴーぷぴぷぴぷぴぽー!」

「やかましいのですっ!」


 マイちゃんとリンがユキの方へと避難した事から余程酷い音色なのだと分かる。

 吹いてて思い出したが、笛で出すのって蛇じゃなかったっけ?

 ……ま、似たようなもんだろ。


 気分が乗ってきて熱を入れながら演奏していたらガチャリとドアが開いた。

 そして後から顔を俯かせる幽霊スタイルでニボシが出てきた。


 とりあえず何時でも逃げられる様にユキに視線で知らせておく。


 無言でひたひたと近付き、ある程度離れた位置でニボシは停止する。


「……我に何か言う事はないのです?」

「ぽひー」

「それから口を放せですっ!」


 ふむ、マジ切れの一歩手前と言った所か。

 とりあえず言う事はあったので笛から口を放して告げる。


「ニボシ、トイレから出たらまず手を洗いなさい。きったないわね」

「ふしゃあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

「転移」



★★★★★★★★★★



「という事があったの」

「酷すぎるじゃろ!?」

「ニボシさんが可哀想です……」


 流石はユキというか、猛突進してきたニボシが掴みかかる寸前で転移してくれた。

 あの場にいたミニマム達がとばっちり食らいそうだけど、殺しはしないと願っておこう。


「でもお陰でスカッとしたわ」

「あの後ニボシさんはどうなったのでしょうか?」

「ん。精霊達に聞いてみる」


 お、精霊にゅーすの出番か……

 しばらく待っているとどうなっているのか分かったのかメルフィが口を開く。


「どうやら八つ当たりでペロ帝国を襲ってるみたい」

「にゅーすじゃないんだ」

「……良い声の座は奪われたから」


 そこまで気にする事でも無いと思うが……

 しかし八つ当たりとはいえ参戦したのなら良かったじゃないか。


「ちなみにニボシが貞操の危機だったサヨ姉を救った」

「ほぅ、結果的に私のお陰でサヨは助かったって事ね」

「というか姉さんは襲われていたのですか……やはりエロいイベントと言ったら姉さんですね。どうも未遂で終わる様ですし寸止めのサヨと言う称号をギルドに申請しておきましょう」

「いいけど、その後の姉妹喧嘩は国の外でやりなさいよ」


 ほとぼりが冷めるまで待とうかと思ったが、ニボシが八つ当たりで怒りを発散させているなら帰っても大丈夫かもしれないな。

 何か甘い物でも持って帰れば完全に機嫌も直るだろう。


「よし、ケーキか何かを買ってからアルカディアに帰国するとしましょう」

「子供扱いですね」


 子供みたいなもんだろ。

 味方に八つ当たりしないだけ成長したとは思うが。



★★★★★★★★★★



 何なんでしょうね、この筋肉共は。

 マリアさんと一緒に飛び出したはいいですが……


「効かぬぞ少女よ!」

「何でそんなに硬いんですかっと」


 さっきから打撃が全く通用しません。どんな強化ですか。

 マリアさんの方は撃退出来ている様ですが、私には彼女の様な馬鹿力はありません。


 となると符で何とかするしかないのですが。


 筋肉に符を投げつけてもペシっと当たるだけで発動しません。いつぞやのアトロノモスと同じ現象です。パンツ一丁のくせに何処に魔法を防ぐ装備をしているのか。


「さっきから恋文を投げつけられてる俺は勝ち組」

「馬鹿野郎、少女は皆の財産だ」


 言ってる事はアホですが、実力は厄介極まりないです。

 ここは退きたい所ですが……!?


「よっしゃ、捕まえたぞっ!」

「でかした!」

「押さえろ押さえろ」


 後ろに回られた筋肉に右腕を捕らえられました、不覚。

 もう一人に左腕も捕まえられ、どうにも抜け出すのが困難ですね……これは不味いです。


「少女かと思ったが、こうして近くで嗅ぐと少女臭があんまりしないぞ」

「ロリババアかもしれんな」

「誰がババアですかっ!」

「その反応は図星だな。ババアなら遠慮はいらん。剥こう」

「おう」


 ええい失礼なっ!

 大体戦っている最中に剥こうとかどういう事ですかっ!

 こんな変態集団に剥かれたら何をされるか……マリアさんの救援は見込めませんし、どうしたものでしょう。


「わざわざ胸がはだけやすい格好をしてくれてるし、まずは胸だな」

「いいか、これは疚しい気持ちでやってるんじゃない。隠し武器をチェックしてるだけだ。いいね?」

「良くないっ」

「だが聞かん」


 こんな可愛らしい少女一人に何たる仕打ち、このままでは済まさんぞ貴様らぁ!

 一応抵抗してみるが、馬鹿力には無意味でした。

 ついに襟元を掴まれガバっと巫女服をはだけられます。


「ぬ……これは」

「肌着かと思ったがこの漂うババ臭さ、間違いない!」

「ババシャツだ!」

「やかましいっ!」


 寒いんだから中に一枚くらい着込んでもいいでしょうがっ!

 それに決してこれはババシャツではないっ!!


 しかし不真面目な展開とは裏腹に私の貞操はピンチな事に変わりはありません。

 ここらで颯爽と救ってくれる方でも来ないもんですかねぇ……


「ぶべっ!?」

「同志の頭が吹っ飛んだ!」

「何だ何ばっ!?」


 お、何か知りませんが拘束していたマッチョ共がやられた様です。

 この隙に一旦離れるとしましょう。


 後ろに後退すれば誰がこの危機を救ってくれたのかすぐに分かります。それはトイレに篭城してる筈のニボシさんでした。


「ニボシさんでしたか……体調が悪い時にありがとうございます」

「我は激怒した」

「はぁ」

「この場にいる見苦しい塵芥共は殺してよいのだろう?」

「そりゃまあ構いませんけど……」


 神殿で何かあったのかニボシさんは口調が星落としの時に戻るくらい怒っている様です。

 私が手も足も出なかったマッチョ共を拳のみで沈めていく姿を見るとやはり規格外な方だと分かりますね。手加減は無しな様で殴った箇所が全て引き千切られて飛んで行きます。


「凄いねぇ……普通は身体ごと吹っ飛びそうなのに見事に頭だけ飛んでいってるよ。最高の化け物が殴るとこうなる訳ねっ」

「おやマリアさん、片付いたのですか?」

「いんにゃ、ニボシんに全部任せておこうかと」


 八つ当たりしてる様ですしそれでもいいでしょう。

 流石のマッチョ共もニボシさんには恐怖してるみたいです。容姿は愛らしいんですけどね。


「おいお前達、一つ言っておくが……我はお前達の主人の為に戦っている訳ではない。勘違いするな」

「絵に描いた様なツンデレよ!」

「ですねぇ」


 それにしても凄いです。

 逃げるマッチョ共はその場で手を振り上げて叩きつける様に下ろすだけでグシャっと潰されていきます。

 あれも情報の書き換え云々による能力なのでしょうか?


「気が晴れぬぞっ!もっと我を楽しませろっ!!」

「くっ、何て異常な強さだ……ババシャツの娘同様ロリババアだなてめぇっ!」

「よく分からんが悪口を言ったな?」


 私までとばっちりで馬鹿にしてきたマッチョを見えない蹴りで胴体を二つに分けてくれました。ニボシさんもっとやれ。

 何処がババシャツですか。ちゃんと少女が着る様な可愛らしいシャツでしょうが。


 様子見だったか少ない数で攻めてきたのですでにニボシさんによってあらかた狩りつくされています。

 逃げるマッチョ共を悠々と追っていたニボシさんですが、突如としてその場に蹲りました。


 それを見て私達は慌ててニボシさんの方へ向かいます。


「どうしたニボシんっ!?」

「ぐ、ぬぬぬ……お、お腹の調子が悪いです」

「あ、元に戻ってる」

「まだ治ってなかったのですね……あちらさんも退くみたいですし、私達も一旦退きましょう」

「ぬぐぐ、生身の身体とはこうも脆いのですか……」


 とりあえずキキョウさん達の所へ戻り、その後で神殿まで転移しましょう。

 恩人であるニボシさんを漏らさせる訳には行きません。急ぎましょう。






「あらおかえり」

「……お姉様」


 奴隷兵達には見張りを命じ、キキョウさん達も連れて急ぎ神殿に戻るとお姉様達がいらしてました。

 しかも何やら大人数で……首輪から察するに新しい奴隷でしょう。


 そして、何でニボシさんが激怒していたか何となく分かりました。



★★★★★★★★★★



「ほーほー、大多数の兵士は亜空間に落として始末したと」

「はい。残りの戦力は1500も無いかと……ただ、妙に強いマッチョがおりまして、そいつらの数は不明です」

「あははははっ!やっぱりサヨに任せて良かったわ。マッチョがいようが数が少ないなら問題ないでしょう、ご苦労様」


 亜空間が即死魔法になる事を忘れていなかった様で何より。

 初日で壊滅させられるとは思ってなかったでしょうね、あのババア達も。


「そうだ、土産があったわ。稲荷寿司だって、キキョウも好物なんじゃない?」

「……我が君に永遠の忠誠を」

「そこまで言う程の代物か。あと、新しい奴隷仲間よ」


 天狐族に関しては顔見知りも居るだろう。同じ稲荷寿司の愛好家として不和にはなるまい。

 タツコとキャロットもそれぞれの得意な事を教えつつ紹介した。


「で、この娘がヒメ。美人でしょう」

「……えぇ、何とも惹きつけられるお方です」

「まぁ見た目に反して凡人みたいだし裁縫作業でもさせといて。強欲そうな客の前には出さないように」


 残るはエルフであるフルートだ。すでにアンの視線はヒメよりフルートの方に向いている。


「お初にお目にかかります。フルートと申します。私はフィフス王国からの賠償としてこちらに助力する事になりました」

「……信用出来る方なのでしょうか?」

「大丈夫でしょ。確かに長い事フィフス王国に仕えてたみたいだけど、エルフだし私というかウチに逆らう事はないわ」

「分かりました。キキョウと申します、どうぞ宜しくお願いします」

「で、これで補佐役はフルートにチェンジさせるんだけど、アンはどうする?私達と一緒に旅をする?」

「んー……私もキキョウの補佐を続けるよ、ちゃんと手綱を握ってないとダメな娘だし」


 冒険者志望だったアンもここで雑務をしてる内に気が変わったみたいだ。

 まぁそれならそれでいいんだけど、キキョウのツッコミ役はアンがベストだろう。


「あと、ドラゴンが80体ほど明日か明後日あたりに来るから住処を作っておいて」

「そんな数を何処に……」

「山に巣穴を作ってマリアが空間を広げればオッケーよ」


 後は……特に無いな。

 ふと周りを見渡してニボシが居ないのに気付いた。


「ところでサヨの貞操の危機を救った英雄はどこよ」

「トイレで頑張ってる頃でしょう」

「まだふんばってんのか、サヨが魔法か何かで治してやりゃいいのに」

「食べすぎが原因なんですから出すもの出した方がいいでしょう」


 こんだけトイレで頑張ってるならそろそろ出すもん出した頃だろ。

 戻ってきたら機嫌を直すついでに腹も治してやるか。何だかんだチョロい娘だからそれでトイレの件の事は忘れる筈だ。


 とか考えている内に当の本人が心なしかやつれた顔で戻ってきた。

 私を見て目だけはギラギラと殺意が見られるが本調子ではないせいか襲ってはこない。


「よくも我の前に顔を出せたものです」

「ふ、そう言っていられるのも今の内よ。ニボシにはこの万能薬と言えるものを進呈しましょう。さぁ、飲むがいいわっ」

「……今の我は何も口にしたくないです」

「まぁまぁ、飲んでみなさいって。お腹の痛みも無くなるわよ」


 いつものユニクスの血が入った瓶を差し出す。腹痛が治ると聞いてか手を伸ばしてきたが、疑うような目を私に向けて止まった。

 だが結局一抹の望みにかけたのか受け取ってくぴくぴ飲み始めた。勝ったな……何に勝ったか謎だけど。


「即効性だからもう治ったでしょ」

「……痛くないのです」

「そうでしょうそうでしょう。それはプリン100万個分の価値がある高額な薬よ、とても、かなり、もの凄く貴重な薬だけどニボシの為なら安いもんよ」

「そ、そうなのですかっ!ぷりんがそんなにも……」

「よくまぁいけしゃあしゃあと言えるものですね」


 寸止めのサヨは黙っとけ、簡単に手に入るとバレるだろ?

 見ろ、この殺意が見られた目が崇拝の目に変わった瞬間をっ……これぞチョロい娘よ。


「さぁ、治ったところでこの生クリームが乗ったプリンを食らうといいわ!」

「ぉぉぉ……」

「チョロいニボシ様も素敵でございます」

「キキョウにも在庫が少ない五目稲荷とか言うのをあげる」

「ぉぉぉ……」

「あんたもチョロさでは負けてないわ」


 無事にニボシを懐柔したところで本題に入る。

 わざわざ戻ってきたのはダンジョンに潜るにはマリアが必要不可欠だからだ。ならばこのくっだらない戦を終わらせる必要があるのだが……


「相手の切り札かもしれないマッチョ共をニボシがあっさり返り討ちにしたんでしょ?……だったら逃げるんじゃないかと思うわけだけど」

「降伏宣言は受けてませんが」

「あの国がそんなもん出す訳がない。黙って撤退したんじゃない?」

「まぁ見張りから何の連絡も無ければそうかもしれません」


 馬鹿じゃなければ実力に差がありすぎて無駄な消耗を避ける筈だ。

 いくら能無しのババアとはいえ玉砕覚悟で攻めはしまい。

 しかしババアはともかく、ボテ腹と裏に居そうな天使とやらはどうだろうか。争い大好きな天使なら諦めるという選択は無いとも言いきれない。

 一番考えられるのは一旦退いて、戦力を増強させてからまた来るってところか。



☆☆☆☆☆☆



「というのが昨日の考えだった訳よ」

「残念ながら馬鹿だった様ですね」


 馬鹿帝国は翌日の朝、つまり現在総力を挙げて攻めてきた。

 朝っぱらから見張りから連絡があったと起こされてわざわざ防壁まで出向いてやったのだ。


「数からして総戦力なのは間違いないでしょう」

「私が前に見たボテ腹と思われる者も居ますね」

「ニボシにやられたマッチョばかり、これでよく勝てると思って攻めてきたわ」

「魔法を無効果する装備をしている様なのでニボシさん以外には脅威ですよ。数も昨日より断然多いですし」


 別の兵器とか新たな強化兵も見られない。

 マジでこれで勝てると思ってきたのか……


「そう言えば昨日のニボシ様はものの数分で腹痛によりダウンされたので敵もニボシ様は長時間は戦えないと勘違いしてるのかもしれません」

「へぇ、ニボシの身体を張った迫真の演技のおかげで敵のトップまで引きずり出したって事ね」

「演技ではありませんでしたが」

「我は二度と緑色の狐に渡された物は食べないのです」

「そんな……」


 件のニボシはすこぶる元気だ。今日は大いに活躍してくれる事だろう。


 奴等を相手にするのは面倒だが変態帝国を滅するにはチャンスでもある。

 ボテ腹を抹殺すれば勝利ではあるがあんな変態共は一人として生かしてはおけん。


「会長に始まりババアにシリアナ、今度は国自体が相手よ。そろそろ腐れ縁には終止符を打つべきね」

「そう言われると妙に縁がありましたね」

「というかほぼ私達が奴等の邪魔をしてた気がしますが」


 ここまで来るとババアも私達には関わりたくないと思っているだろう。

 その証拠に戦場にはババアの姿はない。

 キキョウが女王と思われているだろうが、昨日サヨを見た瞬間に私達が関わっていると知ったに違いない。

 ボテ腹を説得したが、逃げるならババアだけ逃げろと言われたってところかな。


「にしてもリーダーが居ると謎の安心感があるよね」

「確かに」

「だったら安心して奴等に特攻してもらうわよ。いいわねあんた達、一匹残さず殲滅すんのよ」

「勿論です」

「万全の我は敵無しなのですっ」


 もちろん私は何もしないがなっ!

 防壁の上で馬鹿共が散る様を見物させてもらおう。

 まだ奴等とは距離があるがあと数十分もすれば開戦だ。戦をする側ってのも案外わくわくするもんだ。

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