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幼女、ダンジョン攻略に失敗する

「あんたらに食わせる土産はねぇ、と言いたい所だけど当たりの食べ物を見つけたから食わせてやるわ」

「おー」

「珍しい飲み物は無かったのか?」

「ない」


 適当に屋台を見て回って一つ中々に面白い謳い文句を掲げている屋台があったので寄ってみたのだ。

 どうもあの米とか言う食べ物を使った料理の一つらしい。

 で、食べてみたのだが何とも美味だった。


 ヒノモトから出稼ぎに来てたらしいのでその場で全て買い占めてある。


「で、それがこれ」

「おー……?」

「見た目が排泄物みたいと思ったでしょ」

「思わない」

「むしろ主殿のせいで食べたくなくなったぞ、どうしてくれるのじゃ」


 心の中では思ってるんだろ?

 私は一目見た瞬間に感想を述べて店主に怒られた。


「狐まっしぐらな料理らしいわ」

「何じゃそれ」

「そう謳い文句が書いてあったのよ」


 実際アカネ達の目の前に持っていき見せたら獲物を狙う目になったので嘘では無さそうだった。


「名前は稲荷寿司よ。まぁとりあえず食え。天狐達も食えばいいわ、他の奴隷達もね。大量に買ってきたしキャロットには今後はウチでも作れる様にしてもらう」

「どれ……うむ、にっちゃにっちゃしておるが味は良い。この米と言うのを抜きにして食べたいのじゃ」

「それだと味が濃いでしょ。米自体にも酢で味付けしてある様だし」

「あぐあぐ」

「すごいっ!メルフィさんが一気に二つ口の中にっ!?」

「止めなさいメルフィ、キャラに合ってそうで合ってないわ」


 無言で食べ続けるメルフィを見る限り土産は気に入った様だ。

 天狐達は感動しながら食べている。そんなに狐が好きな味なのだろうか……


 好評っぷりを観察していたらユキが皿に乗せて持ってきてくれたので私も食べる。

 うーむ、この皮みたいな奴は原材料が大豆とか言っていたが、何をどうすればこうなるのか。

 味付けは何となく分かりそうだし、まずはこの皮を作れる様になって貰わねば。


「どうですかお母さん。私のお稲荷さんは美味しいですか?」

「ええ、屋台で食べた時に言った筈だけど美味しいわ。あなたのじゃないけど」

「……それだけですか?」

「何その期待してた反応と違うと言いたげな顔は」

「いえ、お母さんがピュアな方だと証明出来たので満足です。まあ私も女なので意味の無い質問でしたが」


 つまりピュアじゃない質問をしたのだろう。

 無表情の顔の裏は穢れきっているなこの娘。やはり3歳児にエロ本を読ませてはいかんのだ。


 マリアによれば異世界ではエロ本は18歳以上でしか読めないという。

 あちらでも穢れた子供が量産された故に規制がかかったのかもしれないな……


「どうよキャロット。再現できそう?」

「レシピ無しに大豆とお米をこうもふっくら美味しい物に変えるのは難しいですが、モノにしてみせます」

「そう……キャラ変わってるわよ」

「料理に関しては私は常に真剣です」


 キャロットは厨房に立つと人が変わる性質らしい。

 間延びした声で喋られるよりはマシだが、なんか兎っぽくない。


 天狐達は一つ食べた後は物欲しそうな目で伺うだけで手を出そうとしない。そこまで食べたいなら食えばいいじゃないか。

 ユキに御代わりを亜空間から出してもらい天狐達の前に置いて食えと言ったら神の如く扱われた。

 何か狐って餌付けが簡単そう。


 ヒメも一応フォークを使いながらもそもそと食べてはいる。とんでもない容姿なのにお上品というよりは庶民的に見える不思議。

 意外と見た目に反して中身は平凡な娘なのかも……


「ヒメって何処から見ても麗しの姫様って感じだけど、王宮で煌びやかな生活してるよりも一般家庭で裁縫とかしてる方が何となく似合うわよね」

「……!」


 急に立ち上がったと思ったら私と目線を合わせて何故か握手された。

 その通りですって事なんだろうなぁ……見た目だけでお嬢様とか言われてた可能性もある。めっちゃ美人というのもそれはそれで大変だ。


 裁縫道具いる?って聞いたらスンスンと頷いたので後で買ってやるとしよう。何を縫うのか知らんが私にも何か作ってもらおうか。

 ただそれは腕前が良かったらの話だ。


 稲荷寿司ばっか食うのもあれなのでここいらで明日潜るダンジョンについて話そうじゃないか。


「近場のダンジョンはあった?」

「はい。近場なので当然攻略済みですが、お母さんの嗅覚なら隠し部屋の一つくらい見つけられるかもしれません」

「私は匂いで探ってる訳じゃないわ。そこは難しい場所?」

「中級程度かと。ただ魔物は湧くみたいですね」


 魔物が湧くってのも変な話だな。元となる動物とかが変異して魔物化するってのが常識だ。

 湧くというより外から召喚する類だと思う。

 ダンジョンとは相当金かかってそうだ。


 ベストメンバーじゃないし今回は中級くらいで丁度いいだろう。

 何にせよ久々のダンジョンだ。楽しむとしよう。



★★★★★★★★★★



 やってきたのは王都を出て数キロ離れた山の麓に入り口のあるダンジョン。


「今からダンジョンに入るわけだけど、先頭はタツコね。狐っ娘達はまぁ自由で」

「了解でありますっ」


 今日もタツコは元気だった。

 何でも初めてのふかふかのベッドでの就寝だったらしく夕飯の後はずっと寝ていやがった。奴隷のくせに11時間も寝ていやがったのだコイツは。

 このままいくとサボりタイムはずっと寝て過ごす事になりそう。


「しかし見事に私達しか来てないわね」

「攻略済みですから潜った所で魔物しか出ませんし」

「自動的に宝箱とか設置してくれる機能とか付いてれば繁盛しそうなもんだけどね」


 だが前に骨に聞いた話では日陰者が隠れ住む為に造ったもんらしいし繁盛してもらっちゃ困るわな。


 今回のメンバーは私達の他にタツコに天狐達だ。フルートとヒメは留守番。キャロットには稲荷寿司の再現を優先させている。

 稲荷に関しては実現は割と先の話だろう。何せ作り方を全く知らない訳だし……ひょっとしたら異世界の料理本にはレシピがあるやもしれんが、それはマリア達が戻ってからだ。




 早速潜ったわけだが、天狐達のフォーメーションは8人で私達をぐるっと囲むもの、これはあれだろうか……私達を守る陣形か?


「奴隷とはいえ自分達から主人を守る陣を選択するとは……えらく懐かれたもんじゃの主殿は」

「ええ、稲荷寿司って凄いのね」

「いえ、別に稲荷が理由でお慕いしてる訳ではないのですが」


 でも私を除く人外達には護衛とか要らんと思う。

 しかし入り口付近だってのにやたら険しい面持ちで周囲を見渡す狐っ娘達に邪魔だから後ろに居ろとか言うのも無粋ってもんだ。

 てっきり奴隷らしく後ろをついてくると思っていたが……自分達の格好がただの使用人服だと忘れてるんじゃなかろうか。


「これぞ肉の壁ね」

「ご主人、魔物が現れたであります」


 早いな、まだ入ったばかりだと言うのに。

 壁になった天狐達が邪魔で何の魔物か見えないが、何か鈍い音が聞こえたので恐らくタツコが殴って撃退したと思われる。


「何が出たの?」

「何の変哲もないゴブリンですね」


 雑魚の定番か。奥に進むにつれて魔物が強くなる仕様かも……そんな親切仕様じゃなくて最初からドラゴンが出てきても良いと思うが。


「ダンジョンの序盤は雑魚の魔物が出るのが定番ですから」

「定番ねぇ、そういう先入観って使えるのよね。私なら最初は雑魚の魔物を放って最初の中ボス部屋に神獣でも配置するわ、入った瞬間入り口を塞ぐ親切設計で」

「ゴブリン並の雑魚から急に神獣が敵になるのですか……しかも逃走不可。普通の冒険者なら絶望ものです」


 その顔を見るのが楽しいんだよ。楽勝と余裕かましてた顔が青くなる様だけでご飯が美味い。

 いいなそれ、ダンジョン造りたくなってきたわ。

 最初のスライム以降は全部神獣かドラゴンを置いてみたい。


「情報によれば普通に潜ると1週間はかかるらしいからサクサク進みましょう」

「任せるでありますっ」


 しばらくは暇な時間になるな、何かあるとすれば奥だろうし。







「あっと言う間に4日が過ぎたわけだけど」

「魔物がBランク級になる以外特に何もありませんね」


 ここまで強行軍でやってきたので最下層は目前だが、流石にタツコや天狐達に疲れが目立ち始めた。ぐっすり寝てはいるが、やはり連日歩きっぱなしってのは辛いらしい。

 対して私達は特に問題無し。昔は体力が無かったマオもぼけーっと歩いてるし、職業的に魔法使いのくせにメルフィですら疲れた様子が見られない。フィーリア一家は貫禄が違う。


「あんたら元気よね」

「よく寝てよく食べてるのにどこに疲れる要素があるのじゃ」

「奴隷達を見なさい」

「いや、今まで奴隷部屋でジッとしておったのじゃから仕方ないじゃろ」


 引き篭もりが急に運動してもすぐバテるか、運動不足って奴だ。私にも当てはまる事だけど。

 それで4日も歩き続けてるんだから奴隷達は根性があるなぁ。


 流石に疲れが見えたあたりからユキ達も戦いに参戦させている。

 魔物も強くなった事だし任せっぱなしだと怪我しそうだし。


「ご主人、階段であります」

「フルートの情報通りなら次で最下層みたいね。3日も短縮したんだし中々のものよ」


 ここに来るまでにあったのは魔物としょーもない罠だけ。宝箱とか一切無かった。

 当然隠し部屋とかもある気配が無かった訳だが……ここはハズレのダンジョンの可能性が高いな。


 それでも最下層なら何とかしてくれる、かもしれないので多少は期待しつつ降りていく。

 降りた瞬間なんか大きい蛇の魔物がいたがユキが瞬時に切り刻んだ。


「毒を持ってる魔物です。こんな最下層で毒を食らったら困りますね」

「毒消しを用意してれば問題ないでしょ」

「無かったら死ぬしかありませんよ」


 最下層になってから急に難易度が変わった。

 まず罠のスイッチが分からん。私には、だが……人外は何故か把握出来てるらしく踏まない様にとタツコに注意を促している。


「二度目だけどサッパリ分からん。丁度いいからその罠とやらを踏んでみて」

「なぜ自ら危険を冒すのじゃ」

「気になるから」

「何か前にも見た光景です」


 ユキ曰くわざわざ生身で踏む必要はないとの事で離れた位置から鞭を使って罠が稼動するスイッチとやらを押す。

 するとガコっと床が開いて落とし穴が現れた。

 覗いてみれば落ちた先に刃物がある訳でもなく、ただ深いだけの穴の様だ。


 ほほぅ、あの骨の時も深い穴から侵入したしこの穴の下にひょっとしたら何かあるのやも……


「何でそんなにきつく抱きしめるの?」

「お母さんには前科が有りますので」

「ち、一番深い最下層だってのに落とし穴よ?何があるか気になるでしょ。落とし穴は入り口だってのが私の中での常識なのよ」

「ダメです」


 要するに他の奴が落ちればいいんだろ?

 タツコとかどうだろうか……ハーフとはいえ龍人だし頑丈だろ。私の視線に気付いたのか顔をぶんぶんと横に振って拒否の意を示した。


「奴隷に拒否権は無い」

「後生でありますっ、何卒、何卒ぉぉぉっ!?」

「仕方ないわね、なら私が」

「ダメです」


 そうだ、皆で落ちよう。

 それなら文句はあるまい。一蓮托生だ。


 だが一緒に落ちようぜっ、と言う前にユキに先手を取られた。


「何も落ちる必要はありません」



☆☆☆☆☆☆



「ほっと、結構深い穴じゃったの」

「これで全員降りましたね」


 ユキの何処までも伸びる鞭をロープ代わりに利用して底まで降りてきた。

 私の創った武器は変な所でも実力を発揮するもんだな。


 前のダンジョンの時もこうしてれば良かったかも。まぁ私が案を聞く前に飛び込んだ訳だけど。


 降りると暗くて良く見えないのが当然な筈だが、通路の方はぼんやりと明るくなっている。

 するとやはりと言うか先が通路になっていた。

 落とし穴は入り口説が信憑性を増した瞬間である。


「うひっ、ま、周りに骨がっ!?」

「落ちて死んだ者達でしょうね」

「金目の物は持っていきましょう」

「言うと思った」


 最下層まで来た奴等なだけあって中々に装備は立派だ。だが死体が着てた装備だから誰も触りたがらないので装備は無視する事にする。

 道具袋と思われるものはちゃんと頂いた。中身は金やら腐った薬草やら割れた瓶が入っていた。


「金だけでいいか」

「本当に通路があるとは驚きじゃの」

「今後は底が見えない落とし穴は突入しましょう」


 最下層の更に下だ。フルートも知らなかった情報だし突入するのは私達が初めてか、それとも前に来た者が居るが出られなかったかだ。


「魔法が発動しませんね。ここは魔法が使えないみたいです」

「それは危険じゃの」

「私とルリは役立たずになった」


 魔法無効化空間とな……じゃあ転移では帰れないという事か。

 来た時と同様にユキの鞭を上って出るか、奇跡ぱわーで脱出するかのどちらかしか手は無い。

 奥に進めば外に出られる魔法陣とかあるかもしれないしとりあえず進もう。


「何とも不気味な雰囲気なのじゃ」

「魔物の気配は無さそうです」


 通路は直進で続いている。奥は暗くて見えないので距離は不明。

 通路の幅は3メートル程度と先ほどまでの通路より狭い。これだと魔物を避けて通る事は出来ないのだが、何故か魔物がいないと。

 骨が居たダンジョンも落とし穴の下には魔物は居なかったし、隠しダンジョンには魔物が出ないのがお約束なのだろうか?


「罠はある?」

「いえ、無さそうで」

「ひぎっ!?」


 ユキが罠が無いと言おうとした途端に右側に居た天狐から悲鳴が上がった。

 服の色からアヤメだと分かる。腹部に出血が見られる事から壁から突き出て来た刃物によって負傷した様だ。


「槍?」

「みたいです。矢ではなく槍とは完全に殺すつもりな罠ですね……ふむ、ご丁寧に毒も付着してます」


 壁から放たれた槍はなんと3本。確実に当てるつもりか……天狐も身体能力は高いので2本は何とか腕で庇って急所を免れたが腹部は避けられなかったらしい。

 魔法が使えない空間なのでアイテムでしか治せないという事だ。毒の種類によっては普通の冒険者ならここでお終いだろう。


「長い事放置されていた様で毒の効果が薄れてそうなのが救いですね」

「それでも放っておいたら死ぬわ」


 ユキに降ろしてもらいアヤメの状態を見に行く。仲間の天狐によって槍は抜かれている。

 本来なら抜かない方がいいが、今回は毒付きという事で抜くという選択をした。


「っぅ……大丈夫、ですか?」

「それは私じゃなくて貴女に言う言葉でしょうに。まぁ貴女が避けずに全て防いでくれたお陰で無傷よ」


 そう聞くとホッとした様子になる。

 ぶっちゃけ避けてくれればユキが対処してくれたと思うが、自分よりも主人である私の身を案じてくれている奴隷に言うのは野暮ってもんだ。


「亜空間も開けないので薬草すら出せませんね」

「ああ、私が持ってるから」


 万が一に備えて一つは確実にユニクスの血を常備している。流石は私、誰よりも負傷するだけあって学習はバッチリだ。


 瓶ごと渡してグイっと飲めと命令し、飲んで少ししたらもう回復した。

 ちゃんと解毒もされた様だし流石はユニクスだ。


「す、凄いです。もう治りました……あの、ひょっとして物凄く高価なポーションなのですか?」

「そんな上等なもんじゃないわ」

「いやいや、ユニクスの血じゃぞ?たった1瓶でこやつら並の奴隷を3、4人は買えるじゃろ」

「でもポーションってイーーヒッヒッヒって笑いながら魔法使いがデカい鍋で薬草を調合して作る面倒な薬でしょ?」

「姉さん、それはかなりの偏見」

「でも調合するのは間違ってないじゃない。その点ユニクスの血なんて殴れば手に入るわ」

「まず殴る事が困難なんですが」

「し、神獣の血……!?そ、その様な高価な物を申し訳ありませんっ!!」


 天狐一同と何故かタツコまでが土下座してきた。自分達より高い血とあって恐縮してるみたいだ。

 どうせ消耗品だし気にするなと言っておく。

 亜空間の中にはまだまだ在庫があるだろうしウチにとってはタダの便利な血でしかない。


「お、お姉ちゃんっ、お化けが来ますよっ!?」


 ビビリのマオが前方を指して告げる。

 確かに半透明な魔物がユラユラと迫ってきている。


「レイス型の魔物です。物理は効かないでしょう」

「魔法が使えない場所で物理無効の魔物とかお手上げね」


 さっきの罠といい此処を作成した創設者はよほど奥に進ませたくない様だ。

 いや、違うか……行かせたくないならこんな通路を造らなきゃいい。余程の実力者だけしか行かせたくないって感じか?


「やらしい奴が造ったんでしょうね。さっきの罠は一番油断してる中列を狙って仕掛けたんでしょうよ。もしくは一番偉そうな奴を狙った罠ってところね」

「中列を狙う事など可能でしょうか?」

「発動を遅らせればいいだけの話でしょ。最初に私達の隊列を把握し、その後で罠を作動させる」

「特にスイッチを踏んだ覚えはありませんが」

「……熱で感知したのかもね」

「それなら通路に魔物が居なかったのも分かります。レイス型の魔物は出ましたが体温などありませんし……しかし探知魔法も使えないのでセンサーを見つけるのは難しそうです」


 この先に進んでも同じ様な罠はあるだろう。ユキも気付かない罠だしこのメンバーでは危険しかない。

 奥だってどれだけ時間がかかるか不明なので亜空間が使えない以上食料も危うい。

 魔法とは違う空間を使えるマリアが居ないと厳しそうだ。


「引き返しましょう。次怪我をしたら治せないし」

「それがいいでしょう。レイス型の魔物に有効な武器も調達しないといけませんし」

「あの、お役に立てずすいません」

「強行軍について来れただけでも十分よ」


 魔法が使えない時点で引き返すべきだったか……油断していた訳ではないが、天狐の一人が負傷したのは事実。

 今回は相手の嫌らしさの方が勝った。最下層まではスイッチ型の罠ばかりだったので完全に思い込まされたか……


「何か怪しいダンジョンね。私みたいに全力で嫌がらせしてるみたいに感じるわ」

「嫌がらせですか?」

「そう、私ならかなーり奥深くにゴールを作って結局何もありませんでした、残念!って侵入者を思いっきり馬鹿にする造りにするわ」

「犠牲者を馬鹿にする性質の悪い嫌がらせじゃの」

「そうね、次に来て3日以上かかる様なら帰るべきよ」

「では姉さん達と合流したらそうしましょうか」


 精霊魔法が使えないのでメルフィとルリは留守番を申し出た。ルリは大精霊の力を使えばいいんじゃないかと思うが。

 とりあえずレイス型の魔物が接近しているし奇跡ぱわーでちゃちゃっと脱出しよう。



☆☆☆☆☆☆



 帰って留守番組みに戦果を告げると何とも微妙そうな顔をされたそうだ。

 フルートはダンジョンに更に先があった事を驚いていたが、普通は気付かないから仕方ない。


 帰還後、気絶から回復すると天狐族がやけに甲斐甲斐しく世話をしだしたが、もしかしなくてもユニクスの血を惜しみなく使ったからだろう。

 たかが回復薬の一つでこうも慕われるようになるとは……人間嫌いじゃなかったのか?


「私達を敵視している人間はともかく、一般人や見ず知らずの人間まで恨む様な事はしません」

「特に稲荷寿司を編み出した人間は尊敬に値します」

「あ、そう……」


 高額な薬を奴隷にあっさり使用してくれた私は稲荷寿司職人より尊敬に値するそうだ。何かあんまり尊敬されてない気もするが、天狐族にとってはかなりの評価なんだろう。


 それにしてもダンジョンを制覇せずに逃げ帰る事になるとは……うぎぎ。


 リビングでアルカディアに居る奴等の土産だった稲荷寿司をやけ食いしているとメルフィが何やらカードの様なものを持って寄ってきた。


「不機嫌そうな姉さんの為に機嫌が良くなる事がないか占いをしてみた」

「メルフィ……」


 何て姉思いの奴なんだと言いたいが……


「アルカディア一の美人の座も良い声の座もポッと出のヒメに奪われたから別のキャラ作りをしてるのね?……稲荷寿司の時に大食いキャラにしようと思ったけど何かイマイチだったから今度は占いキャラになろうとしてるんでしょ?そうでしょ?……けど、占いキャラも結局はサヨと被ってるわ」

「何で姉さんは人の心を抉る言葉をそう簡単に吐けるのか」


 図星だったか。

 悲しげに背中を向けてメルフィは失敗したキャラで帰っていった。


 と思ったらすぐ戻ってきた……が。


「姉さん、占いの結果を言うのを忘れてただすよ。わたすとした事がうっかりだぁ」

「ごめんメルフィ、私が悪かった。もうそのデブキャラは過去の事よ……戻ってちょーだい。貴女は普段の方がいいわ」

「ん」


 まさかデブキャラを再誕させるとは思わなかった。

 懐かしい姿とも言えるが喋り方が嫌。メルフィが元の姿に戻ったところで占いの結果とやらを聞いてみる。


「で、何か面白い事でもあんの?」

「今アルカディアに戻れば姉さんにとって非常に楽しい事態が起こってる、らしい」

「……今ってもうサヨ達は戦ってるわよね?」

「んー、戦場じゃない。多分神殿の方」


 神殿とな。

 ミニマムメイド達しか残ってなさそうだが、何があったのやら。

 占いだし何も起こってない可能性もあるが……


「よし、行けば分かるし帰るか」

「それよりも買い物に行ったら銀竜と白竜が群れをなしてフィフス王国周辺を飛び回っていると住民が避難しながら言ってましたが」


 忘れてたわ。

 ダンジョンに潜っている間に魔物狩りから戻ってきたのだろう。だが肝心の私達が王都に移動してしまっていたので探し回っていたといった所か。


「神殿にはユキと二人で帰るから、メルフィとマオでドラゴン達をアルカディアに連れて行ってちょーだい」

「馬車はどうするのじゃ?」

「そうねぇ、アルカディアには転移出来ない結界が張ってあるようだしここで待ってなさい。ルリが居れば襲われても何とかなるでしょ」


 ドラゴンが徘徊してるなら馬車を狙うどころじゃないと思うが。

 奴隷達には特にさせる事もないので適当に過ごせと言っておく。


 ダンジョンのリベンジもあるし、アルカディアに戻ったらペロ帝国なんぞさっさと蹴散らしてしまおうか。貴族の件は終わったし、次は戦に参戦するのも良しだ。

 占いが外れていた場合はペロ帝国の奴等で憂さ晴らしさせてもらうとしよう。

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