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幼女、邪魔される

 1日のんびり休み、現在堂々と馬車でグリーンの町へと向かっている途中だ。

 宿屋に来た兵士共を一人残らず殺して領主の屋敷に送ってやったので今頃は大騒ぎで兵をかき集めてる事だろう。

 こちらの問題としては人数が少ないので国内全てを落とすにはかなり時間がかかるという事だ。

 更には本国からの援軍も来るだろうしサヨ達よりも長引くと思われる。


「兵力としてはどのくらいになるんだろうか」

「騎士が3万、兵が15万と言った所でしょうか。全て敵に回った場合ですけど」

「……多いわね」

「本国からの援軍を考えたら更に10万以上は追加されますよ」


 そんな大きな国だったのか。大国というだけあって何とも凄い兵だこと。


「兵は貴族が登用してる私兵や冒険者、農民などの志願兵を合わせた数です。大多数は冒険者になりますね」

「ちなみにフォース王国はどんくらいだったの?」

「合わせて60万ですね」

「そんだけ居るのにペロペロなんぞに蹂躙されてたのか」

「冒険者や貴族の私兵は共に避難して不参加でしたし。あの時戦っていた兵は3万程度です。そして半数以上が魔物やゾンビの相手をしてましたね」


 余裕かましてて大打撃を食らったって事か。というか大体私達のせいだった様だ。

 流石に王都まで来られた時は追加の兵を動員したみたいだが。

 国を守るべき貴族まで避難させたんだ、多分実験体を実践投入して戦果を検証しようとでも思ったのだろう。


 私達が居なかった場合でもシリアナ一人にやられてただろうな。ヨーコがあのザマだったし。


 ちなみにワンス王国は15万、トゥース王国は12万という圧倒的弱小国だそうで。

 土地だけは広いんだけど。


「サード帝国は貫禄の140万ですよ。ただし奴隷兵がほとんどですが、まあライチさんに王が変わってから大分減ったと思います」

「桁違いで宜しい。それを破るライチはやっぱ化け物ね」

「異世界最強というのは伊達ではないという事じゃな」

「たった5人と人形1体に蝶1匹、あとドラゴン80体で国を落とそうと考えてる私達も相当なもんよ」

「先に転移して目標を殺すのを推奨する。兵達に守られてる間に逃げるかも」


 その可能性もあるか、先に指導者を殺せば指揮が乱れるもんだけど、王子とやらは馬鹿だしなぁ……逆に優秀な奴が指揮を執って苦戦する事になりそうなんだけど。

 まあいい、出たとこ勝負って事でまずは恨みを晴らしに行くか。



★★★★★★★★★★



「この国はもう終わりですね」


 はぁ、と溜息をついて思わず頭をかかえてしまった。


 土地や食料が急に腐りだしたと聞いてライオット王子と共に件の町に視察しに来て見れば、そこには自分が苦しみながらも土地を死に絶やそうとしている精霊の姿が見えた。

 姿は見えなかったがきっと妖精も共犯となっているのだろう。


 比較的精霊と親交のある私の言葉ですら届かないほど憎しみを持っていた。

 妖精や精霊が自然を死に至らせるなど有り得ない。どんなに怒り狂おうが世界に対して牙は向けない、筈だったのだが。


 これだけの事をやるという事はもう一つしか考えられない。

 世界に愛され、加護を授かった者の仕業だ。

 正確には加護を持つ者にこの町の者が被害を与えたのだろう。それも妖精や精霊が激怒する類のものを。


 その原因はすぐに判明した。

 いつの間にか机に置かれていた一通の手紙。内容は3度に渡る暗殺未遂についての謝罪を要求するもの。

 加護を持つ者を暗殺しようなどと愚かなっ、と怒りに震えるが加護を持ってるかなんてただの人間には分からないから仕方が無い。


 それよりも問題は中身だ。謝罪さえすれば許しを得られるなど破格な条件だ。

 ただし、相手は冒険者。

 あの無駄にプライドが高いだけが取り得の王子や伯爵が謝罪などする訳がない。きっとこの手紙の主もそれが分かって送っているのだろう。

 あの方達の逃げ道を塞ぐためか……あの性格ではいざ死に瀕したら無様に言い訳しそうだし。これで何を言おうがあの方達は殺されるわ。




『たかが冒険者に頭を下げるなど民に示しがつかない』

『向こうに非があるのに謝罪とはおかしな事を言われますな』


 ダメだコイツら。片方はバカで片方は性根が腐ってる。


 私は余所の精霊から聞いて非がどちらにあるかはすでに知っている。

 賊になった親戚を殺された腹いせとか上に立つ者としての対応と言えるか?

 バカ王子に真相を告げるが聞く耳もたない。貴族がその様な馬鹿な真似をする筈がない。するんだよマヌケが。


 対して伯爵は「私の町の惨状はトルーマン伯爵の仕業だっ!」ですと。

 アホかと。たかが人間がこんな状態に出来る訳ないだろうと。こっちはこっちで私怨による罪の押し付けときたもんだ。

 オマケに証拠もない。もちろん無視した。

 町はともかく冒険者達に非はない、謝れボケ。それで済むわ、という旨をやんわり伝えると先ほどのセリフが飛び出した。この時点でコイツは無事では済まないと悟った。


 しかもよりにもよって更に兵を差し向けるなど悪手もいいとこだ!

 向こうはもう容赦しない。本国にいる王が謝罪しようが無駄だ。出向いた兵が全て首だけとなって帰ってきたので向こうの怒り度合いが良く分かる。

 あのバカ王子と伯爵の一族全ての命を差し出して事を収められるかどうか。無理だろうな。


 もはや私に出来るのは本国へ第二王子と伯爵との縁を切る様に勧める事だけだ。

 こっちのバカ達と本国であるフィフス王国は無関係です、苦し紛れだがそうするしかない。

 あちらがすぐ様攻めて来なかったのは幸いで、飛竜を擁するだけあって返信の封書はすぐに届いた。


『ライオット王子は王位継承権、統治権剥奪、グリューネル伯爵及び一族郎党を爵位、及び身分剥奪のうえ国外に追放する』


 流石に王はバカではなかった。まあ小さい頃から知ってたけど。

 こいつらが国に居る限り土地も作物も全て死滅すると簡単に脅したらすぐさま反応してきた。例え自分の子供だろうが切る事が出来る。中々良い王に育ったものだな。

 相手は冒険者であるが、どちらの立場が上になるかを即座に把握出来たのは褒めてやっていい。

 ただ追放する前に殺されると思うが。


 この事を伝えてさっさと追い出してしまおうと思っていた矢先に屋敷の外で爆音が響いた。

 例の冒険者達がやってきたのだろう。

 ギリギリ間に合ったと言った所か……


「……兵糧が全て腐るなど、戦にすらなりませんね」


 あちらがその気なら、だが。

 向こうはそもそも戦う必要すらない。このまま国全体の食料、土地を死に至らしめればいいのだ。

 そうしないのは慈悲などではなく精霊と妖精の為なのだろう。


 対してこちらは何も出来ない。

 加護持ちを殺そうものなら世界の逆鱗に触れて滅びる。

 戦に勝とうが負けようが最終的に国は滅びる。


「これでこの国が終わるかは分かりませんが、まあこの屋敷の皆さんは終わりでしょうね」


 後は相手次第。甘い性格をしてそうにはないが、奴等の命と私の身柄、後は賠償金で何とか許してもうらうしかない。


 貢物扱いだが加護持ちに仕えられれば人生勝ち組だ。里に自慢の手紙でも書いて送ろうかな。



★★★★★★★★★★



「挨拶は?」

「扉を吹き飛ばす程度で」


 ユキが火属性の魔法で無駄に立派な扉を吹き飛ばす。

 屋敷内にターゲットが居るのは確認済みだ。

 屋敷内にいる人間の兵士なんぞ何の脅威でもないので悠々と中に入る。


 入ってすぐ人の姿が見えるが、執事と使用人らしかった。

 メイドはキャーキャー叫んで逃げるが執事はこちらを賊と認定したのか鋭い視線を送ってきた。


 という事で殺した。

 こちらを殺すつもりだったんだろうし死んでも問題あるまい。

 構えた瞬間胴体を切断した。


「やはりいいわね、このワイヤー。簡単に殺せるわ」

「うー、わたしの武器……」

「片方だけじゃない」

「メイドはどうします?」

「この屋敷からは逃げられない。ゆっくり追い詰めて捕まえたらやりましょう」


 逃げられない様に結界は張ってある。だから私達はのんびり狩りをすればいい。

 逃げる側としては恐怖以外の何者でもないだろうなぁ。


「あくどい顔をしてます……」

「立場が逆転したあちらさんの気持ちを考えるとニヤニヤするわよ」


 どうやら標的は上の方に居る様なので階段を上がっていく。

 途中で腰が抜けてるのかガタガタ震えて蹲るメイドがいたが命乞いを聞く様な私ではないのでユキに蹴り飛ばす様に指示する。

 まだ死んではないだろうから痛みに耐えながら必死で逃げる事だろう。後でそのザマを嘲笑いつつ狩ろう。


 後ろを振り返れば外が見えているのに出られない事に阿鼻叫喚している奴等の姿が。

 そのまま絶望してろ。


 階段を上がると二手に通路が分かれていた。

 反応は左にある様なので左に向かう。


 ここで漸く兵達が集まりだし前と後ろを挟まれる形になったが、前は私とユキで対処し後ろはメルフィとルリが精霊魔法でこんがり焼いた。


「マオも手伝いなさいよ。あっちが殺す気なんだしやらなきゃ死ぬわよ」

「わ、分かってはいるんですけどぉ……」

「まあいい。屋敷内じゃ自慢の竜騎士は何も出来ない様ね」

「飛竜を降りればただの騎士ですよ」

「王都からこっちに向かっているのはいる」


 来なきゃドラゴン達が暇する事になる。

 上空と近くの山に潜んで貰い竜騎士が見つかり次第襲う様に伝えている。この屋敷まで辿り着ける者はいないだろう。


 兵達を虐殺していると装備がより豪華な奴等が現れた。

 雑兵と違ってこちらを馬鹿正直に襲っては来ないし訓練されてそうだから騎士か。

 だが別に黒竜クラスの装備をしている訳ではないので離れた位置からワイヤーで雑兵と同様に撃破出来る。格が違うのだよ雑魚めが。


「見なさいな、今まで必死にやってきた訓練が何も出来ずに無駄になった様を。あれ?生きてる意味あった?って言ってやりなさい」

「死者の扱いまでゲスいのぅ」

「だって死に方としては賊以下じゃない。ぷふーっ」

「大変機嫌がよろしい様で」

「この後鬱憤を晴らす事を考えたらご機嫌にもなるわ」


 屋敷の中に居た兵は100人も居なかった。国内だからと油断してたのかもな、馬鹿だし。

 鼻歌交じりに進んでいくと標的が潜んでいる扉が見えてきた。

 どんな顔をしてるか楽しみだことっ






「不愉快」

「心変わりがお早い事で」


 部屋に突入すると偉そうな奴が3人、貴族の妻と娘らしき女が2人、そしてローブを羽織って顔が見えない奴が一人いた。

 早速まずは精神的に攻撃してやろうかと思ったら先手を取られてローブの奴が一枚の書状を見せながら読み上げる。

 内容はこの場に居る第二王子と伯爵一族の国籍を抹消して追放するだそうだ。

 ただ標的共も初耳らしく大層驚いていたな。


「つまりどういう事なのじゃ?」

「こいつらはもうフィフス王国とは関係ありませんよーって事でしょ。要するに無関係になった以上他の町を攻撃したり国を潰したりしたら今度は他国やワンス王国によって私のアリスが連帯責任で罰せられるかもしれないって言う脅し、だと思う」

「そろそろご両親の事も入れてあげて下さい」

「知らぬ間に重度のシスコンになっておるな」


 しかし早い――


 1日ちょっとで本国に縁を切る様に仕向け、更に王も自分の子供をあっさり切った。

 本国の王族は馬鹿ではなかった様だが、まるでいつ捨てても良かったんじゃないの?と言いたくなる早さだ。

 そしてこうする様に指示した奴も大概だな。良くまぁ仕える身分で上を簡単に見捨てられるもんだ。


 少々不意を突かれたが仕方ない。たかが冒険者相手にここまでするって事はこの町の惨状が私達の仕業と分かっているのだろう。ならこの判断は間違っていない。


「ふん、まぁ冒険者相手に王族と貴族を捨てる判断したのは褒めてやりましょうか」

「……この度の不始末、謹んでお詫び申し上げます」

「どういう事だフルートっ!?」

「あなた方にはもはや何も言う事はありません。もはやフィフス王国とは無関係なんですから」


 フルートって名前か。侘びの一つとしてコイツが私達に降る旨が書いてあった。

 あの判断を即時にしたのならまぁ使える奴ではある。


「だがムカつく。私は思い通りに事が進まないと腹立つタイプなの」

「子供じゃな」


 ローブの奥でドヤ顔してると思うと一矢報いたくなる。ただの被害妄想だけど。

 都合の良い事に件の馬鹿達も初耳らしいのでそこを突くとしよう。


「ところでこれ本物?本当に本国の王が書いたものか分かったもんじゃないわ」

「正真正銘本物です。ちゃんと王印も入っておりますが」

「あのね、こちとら冒険者なの。王族様なんかと付き合いはございませんわ。王印とか言われても知らないっての、という事でこんなんじゃ信用出来ない」

「お言葉ですが」

「待って、別にそこまで疑ってはいないわ。ただ確証が欲しいだけよ」


 コイツに喋らせると次なる証拠とか出てきそうで厄介だから語らせてはいけない。

 頭が優秀な奴が厄介なら頭が残念な奴に語らせればいい。


「ちょうどここに王子様とやらがいるじゃない。だからソイツにこれに書かれている事と王印とやらが本物であるかを確認するとしましょう」


 髭面のオッサンに若い男が二人。より偉そうな格好の奴が王子だろう。

 それなりの顔をしてるんだろうが馬鹿と知ってるからマヌケ面にしか見えんな。


 こっちを睨む様に見ている王子とやらに書を渡す。


「で、王子様。それは本物?」

「……く」

「ちゃんと言いなさいな。冒険者である私達に対し害を与えたとして実の息子をあっさり捨て、伯爵の一族も追放すると書いてあるって」


 今にも飛びかかろうってくらい怒りを露にする王子、と隣にいた男。コイツがガルフとかいう元凶である大馬鹿か。

 にしてもこの煽り耐性の無さは簡単に遊べそうだ。


「馬鹿な判断しか出来ない出来損ないの第二王子は不要、だから捨てる。賊になった馬鹿な女を殺された逆恨みで暗殺を目論む単細胞貴族も国にとって害でしかないから捨てる」

「貴様ぁ!!」

「こわいこわい。でも事実じゃない、その書状が本物ならそういう事でしょ?」

「そんなわけないだろうっ!!」


 ……ハッ。

 言いやがったよこの馬鹿。ローブの女からも若干の焦りが伺える。


「ほーん、ならこれは偽物ってことね」

「そ、そうだ……父上が私を捨てるなど、ある訳が、ない」

「だそうですわよ?」

「……その者らはフィフス王国の者ではありません。ですので今の発言は何の証明にもならないでしょう。あるとすれば自分を王の息子と偽った事に対する罪でしょうか」

「お、お前っ!」


 うるさいから馬鹿共は床に這い蹲らせて黙らせた。


「あなたにはそうでも、私達にとってコイツらは王子と貴族。人の上に立つ者がしょーもない嘘をつくとは思えない。それともフィフス王国ってのはしょーもない奴等ばっか上に居るのやら」

「……」

「考え中みたいね。しかしまぁ偽物の書状を用意してその場をやり過ごそうとは舐められたものね……もしこれが原因で国中の大地が死に絶えたら大変だわ。ついでにあなたの故郷も」

「そっ」

「ま、冗談だけど」

「……は?」


 ユキに近づく様に言ってマヌケな声を上げたフルートとやらのローブを上げて素顔を拝む。

 何となく予想してたがやはり緑髪のエルフだった。

 ドヤ顔とは程遠く焦った様に冷や汗をかいているが唖然としているマヌケ面。


「見なさいこのアホ面。嫌がらせした甲斐があったってもんよ」

「お可哀想に」

「嫌がらせ……?」

「わざわざ用意した銀竜と白竜が無駄になっちゃったから腹いせに嫌がらせしてみただけよ」


 言われた事が分からなかったのか表情がころころ変わっていくが、やがて状況が飲み込めたのか疲れた様に溜息をはいて床に崩れ落ちた。


「我ながら無理のある物言いだと思ったけど、やっぱり土地をどうこう出来る立場ってのは絶大だったわ」

「思いつきにしては良く出来た方かと」

「そうね。これで戯れはお終い、お待ちかねの処刑タイムよ」


 黙らせていた口を開けてやると一斉に喚き散らし始める未だに立場が分かっていない馬鹿共。

 こっちとしても元気な方が殺し甲斐があるってもんだ。


「覚悟はいい?罪人の皆様」

「罪人はそっちだ!このままで済むとは思うなよ、今頃こっちに竜騎士達が向かっている。この場で断罪してくれる!」

「あー、竜騎士か……銀竜と白竜に頼んだから今頃すでに死んでると思うけど」

「馬鹿が、上位のドラゴンが貴様等程度に従う訳ないだろう」

「だって」

「あの程度を従えられない雑魚と自白された様ですね」


 全くだ。加護が無かろうが暴力のみで服従させられる程度のドラゴンなのに。私は無理だけどなっ!

 こいつらが飛竜しか使ってない時点で雑魚ですわ。


「ドラゴン80体で国を蹂躙して回る計画は潰えたけど、まぁいいか」

「そんな計画をされてたのですか……間に合って良かったです」

「ウチの駒になるならフィフス王国への忠誠は捨ててもらうわよ?」

「分かっております。今回までです」

「何じゃ、ソイツ仲間に入れるのか?」


 信用出来ないわな。

 そこで敵になるかを判断する為にリンを持たせてみた。

 普通に持てたので少なくとも敵にはならないのだろう。本人は何のこっちゃ分かってない様子だったが気にするなと言っておいた。


「まずは王子か、一番恨みは低いし首を刎ねるだけでいいわよ」

「では早速」


 早速と言い終わる頃にはすでに首が刎ねられていた。王族だからこんな目に遭う事はないと思っていた事だろう。

 この期に及んで余裕の見える顔をしていたから良く分かる。


「ざまぁ、そして良い顔になってきたわよ元馬鹿貴族の皆様」

「た、たす」

「やだ。殺そうとしてきたんだから死ぬ覚悟ぐらい出来てるでしょ。そもそも謝罪で許してやろうという私の優しさを突っぱねたのはお前等でしょうに」

「そうです。ごめんなさいで許すなんて流石はお姉ちゃんです」

「あんな出任せを信じてる娘がいる」

「そっとしておくのじゃ」


 あれだけ殺意剥き出しだった馬鹿息子の方が醜い命乞いをしてきたので笑えてくる。

 所詮は自分の身が一番可愛いって事だ。


「……すまぬが、妻と娘だけは助けてくれないかね?この二人は何も関与しておらぬ。処罰されるのは私と息子だけでお願いしたい」

「は、馬鹿息子よりはマシね。でも失格、そこはこの町の民と使用人達も助命すべきだったわね」


 どっちにしろ殺すけど。

 生き残りがまた賊になってでも復讐しようと思ったら面倒だし。厄介事の種は全て刈る。


「メルフィ、こいつは燃やして殺しなさい」

「今?」

「今よ、せめてもの情けで妻と娘が惨たらしく殺される姿は見せないであげる」


 ふーんと興味無さげに手を翳すと伯爵は一気に燃え出した。

 ぎゃーぎゃー泣き叫ぶと思いきや、黙ってジッと耐えながら死をまっている。

 貴族としてのプライドとやらか。


「つまんない奴。まだ何もしてないのに泣き叫んでる息子を見習いなさい」

「どっちが悪人かわからんの」

「うっさい。私は自分が正しくても誤解されて悪者扱いされるのが得意なのよ」

「ダメじゃろ、それ」


 次は娘だな。

 母親が抱きしめながら必死に庇っているが、ユキが容赦なく引き剥がす。


 娘は12才くらいか、涙目だが馬鹿息子と違って命乞いはしない。子供の方が立派とか残念な貴族だこと。


「あなたは生きて地獄を見るのと、ここですぐに死ぬのどちらがお好み?」


 嘲笑を浮かべながら娘の答えを待つ。

 目の前で父を殺された娘は何と答えるのだろうか。

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