幼女、直接手を下す事を決意する
サヨ達が帰ってから4日、最近昼の時間になるとメルフィが椅子に座って姿勢をただしながら語りだす。
「お昼の精霊にゅーすをお伝えします」
「もうそれ気に入ってるでしょ」
「ん。この偽りの自分を演じてる感が中々いい」
ここ数日でメルフィの良い声による報告が定番となっている。
皆で声の事を褒めちぎったからに違いない。
「そこまで良い声を出せるのなら歌い手になられてみてはいかがです?」
「歌……何かいけそう」
「なら私が作詞作曲してあげる」
「ごめん姉さん……そこまで重い覚悟は出来てない」
「どういう意味よ」
フィーリア先生による超大作、新感覚お尻系恋愛小説である「桃女郎」を書いて以降やけに私に対する風当たりが強くなっている。
キキョウには「素晴らしいタイトル詐欺ですね」と中々の高評価を貰った。
対してこやつらはダメ出しばかり、感性がおかしいんじゃないかと。
人外達には桃太郎みたいに鬼を虐殺する物語の方が好まれるのかもしれない。
「それより報告があったのでは?」
「そう、何とも予想外な展開になってた」
「どんな?」
「まず、私達の仕業だとバレてない」
「まあ今は隠れてやってるし、まだ気付いてないだけじゃないの?」
「違う。そもそも私達はアルカディアの者だと思われてない。妖精や精霊の仕業だとは薄々気付いてる様だけど私達と妖精が親密な関係だとは思ってない」
「最初にギルドから派遣されてきた奴等にウチの事を説明したのサヨだったんだけど?それでも私達は国と関係ない者と思われるわけ?」
「玉座に居たのはキキョウ。ギルドにはキキョウが女王でその場に居た私達の事に関しては報告されてない。よっぽどランクの高い冒険者なら別だと思うけど」
部下の事に関していちいち報告はしないって事か。まあ小国だもんな、重要なのはその国の指導者の事と妖精の事だけと判断されたのだろう。
キキョウが女王と思われてるのは全然構わないが私に買われた奴隷である事くらい調べろよ。
「それ。キキョウは代理として対応する時は首輪をしてない。だから奴隷と思われてない、そもそも普通の女王は冒険者なんかしない」
「そりゃそうだ」
「私達と思われてないという事は……別のだれかが犯人だと思われてるという事ですか?」
「ん。ジェーンの実家を陥れた貴族の仕業だと思ってる」
「とばっちりを受けるのはその貴族の行いが悪いからよ、因果応報ね」
「主殿が言えるセリフではないがの」
最初からそっちに復讐してればこんな目に遭うことも無かったろうに。
「妖精の件は結構大事になってるらしく上の方も動いてるらしい。一足先に視察にきた偉そうな奴にここぞとばかりにその貴族の仕業かもしれないとジェーンの件も含めて大袈裟に言ってる」
「偉そうな奴って?」
「城に仕えてる者でしょう。宰相の手の者かと」
こうなると私達の存在は隠したまま勝手にやってもらうのも有りか。
完全に冤罪だからどうせ証拠は出ずに逆にガルフ達の首を絞める事になるだけだろうし。
「もう一つの報告が姉さんの機嫌を左右する話」
「て事は悪い報告か」
「結論から言うとグリューネル伯爵は息子が私達に向けて暗殺者を送ったのを知ってた」
「まあバレるでしょうよ」
「もちろん息子に対して怒った。理由は仮に他の貴族や王族に知られると不味い、特に今は町があの有様だから下手に疑われそうな行動をするなという事と失敗した事で金が無駄になったから」
「クズは世間体をよく気にするわよね」
「だから国に入ってから襲撃が無いのですね」
まるで無罪な私達が死んでても構わないと言う口ぶりだ。
あの子供にしてこの親有りって事か。
私怨で私達が殺されてたら問題じゃないのか?
「仮に暗殺で殺されてても冒険者だから魔物に殺されたとか偽装は簡単だとか」
「ふーん」
「ギルドに依頼があった以上ワンス王国に文句は言えないけど、所詮は平民の底辺な冒険者で死んでも特に問題ない存在だし罪をでっちあげて私達を断罪する事は可能だと」
「ほーん」
「具体的には私兵は私達に襲われ殺害された事にすると。私達を倒せなくとも下手をすれば姉さんの実家も巻き添えを食うかワンス王国から追い出されるかも。もしくは奴隷落ち」
「……へー」
私のアリスとその他二名にまで危害が及ぶと申したか。
冒険者を舐めすぎじゃなかろうか。いや違う、平民を舐めているのだ。
所詮は馬鹿な貴族、権力なんぞ圧倒的な力に対して何の意味も成さないと分かっていない。
アホみたいにドラゴンを狩ってくる冒険者だろうが貴族には逆らえないとでも思ってる様だな。
「お姉ちゃんの顔が血に飢えた肉食獣の様にっ……!」
「だから機嫌を左右すると言った」
「ご家族まで冤罪で糾弾されると言われましたら機嫌も悪くなられますよ」
「あんたら静かに、今殺すなんてあまっちょろい報復以外に苦しむ方法を考え中」
親子共々絶対に死ねない身体にしてマグマか巨大生物がうようよしてる海の中に放り込んでやろうか。身体能力はスライム以下、死ねないとはいえ人間並に脆い身体にして再生能力だけは高くしておく。逃げられるといけないから効果が絶対に切れない麻痺状態にし、永遠にもがき苦しんでもらう。
当然ながら精神は壊させない。意識も失わない。何か人間だからあまりに続く痛みと苦しさに妙な力に覚醒する可能性もあるからそれも封じておく。奴等は永遠の最弱者だ。
例えこの星が消えてなくなろうがヨーコ曰く宇宙という空間に放られてずっと生きればいい。
普通なら出来ないだろうが奇跡ぱわーなら出来る。代償に長く気絶しようがやってるわ。
「まで考えた」
「不死にするには相当な代償が必要だと思われますので反対です」
「マオが思わず耳を塞ぐ話」
「でもこれだけじゃ足りない……どうしましょう、奴等の大切な者から順に壊してくれようか」
「全く、怒り狂う主殿の側にいるワシらの身にもなれって話なのじゃ」
まずは、家族構成から調べるか。メルフィ頼んでそちらの情報も精霊経由で集めて貰おう。
貴族なんだし兄弟姉妹は居るだろうし母親だっているだろう。居なけりゃあの賊は従妹と言ってたし親戚連中を道連れだな。
「女はゴブリンにでも襲わせるか。どうせなら性格が穏やかな方が穢し甲斐があるけど貴族だしどうかねぇ」
「これで世界に愛されておるのだから世の中不思議じゃの」
イライラしながらあれこれ拷問方法を考えてると通話符からサヨの声が聞こえてきた。
『お姉様、聞こえますでしょうか?』
「……なによ」
『あ、はい。ええと、ニボシさんが結界を張るのを中々了承して頂けなくて』
「あ゛?」
『すいませんごめんなさい。で、出来ればお姉様に説得して頂けたらなー……って』
通話符を無言でブチ切った。
今日は私をイライラさせる日になってるらしい。
「ニボシめ」
「ほら、ニボシさんはホシオトシなのでプライドが高いせいで、本人に悪気は……はい」
「今の主殿に対してフォローを入れるなぞ度胸があるのぅマオ殿は」
「マオさんは勇者ですから」
「いや、悪魔じゃろ」
仕方ない、アルカディアに戻ってニボシの野郎に結界を張らせるとするか。
「ダメじゃ、ワシらの事は眼中にないようじゃ」
「触るな危険」
「落ち着かれるまで待ちましょうか」
「やり過ぎるとフィフス王国自体が敵になりかねんが……」
「家族に害をなすなら国ごと滅ぼすと言い切ったお母さんなので敵になったら滅ぼすだけです」
「そこまで言うならあの怒りっぷりもわかった」
外野がコソコソ言ってるが、符を使うのも勿体無いからユキに転移で飛ばしてもらおう。
★★★★★★★★★★
サヨです。
急にブチ切られた通話符を片手に呆然としてます。
「……」
「えーと、サヨ様?」
「お姉様こわい」
「はい」
今日のお姉様はとても機嫌が悪かったのか、姿が見えずとも声だけで背筋がゾクッとしました。
向こうで何か腹立つ事でもあったのでしょうか?
何かとばっちりを受けた様な気がしますが、それもこれもニボシさんのせいですね。
マリアさんと共に戻り、早速ニボシさんにお姉様からのお願いをお伝えしたはいいのですが
『何で我がそんな事をしなきゃいけないのです』
『我は便利な道具じゃないのです』
『お願いなら直接あいつが言えです』
とまぁ数日に渡って説得を試みてはいるのですがお姉様でなければダメみたいですね。
お菓子で釣ってもダメなら私達には打つ手なしです。
一応臨時の措置としてマリアさんに頼んで結界は張ってはいるのですが、マリアさんが言うには相手に天使がいたら恐らく破られるから早めにニボシさんに結界を張って欲しいとのこと。
それでも国全体を覆う結界を張れるマリアさんは凄いですね。そのマリアさんは今防壁の強化に向かわれてます。
「来たわ、ニボシは?」
聞こえてきた声にハッとなって振り向くと明らかに不機嫌ですと顔に出ているお姉様がおられました。
ニボシさんは今この部屋にはいませんけど、多分お姉様の気配を察知してすぐに参られ……って来ましたね。
私達がいる執務室のドアがバンっと開くとそこにはニボシさん。
「ふしゃっ!?ぁ……ですー」
飛び掛ろうとしてお姉様の不機嫌さに気付いたのか寸前で大人しくなられました。視線をあちこちに彷徨わせながらオロオロしてます。
あのニボシさんがこのザマとはやはりお姉様は恐ろしい方ですね。
あのまま空気読まずに飛び掛ってたら殺されるか相当酷いことされてたでしょう。
普通ならいやいや、言うだけでやんないでしょう?
という所を実際やるんですよこの方……
「ニボシ」
「な、なんです?結界のことです?わ、我はそう易々とお願いされるよう、な゛っ!?」
「お願い、この国を覆うように結界を張れ」
「む、胸倉掴みながら言うのはお願いじゃないのですっ!?脅しなのですっ!」
「……」
「な、何か言え、です」
「お願い」
「ぅ、わ、わかったのです……だからその目をやめろ、です」
了承を得るとお姉様は胸倉を掴んでいた手をお放しになり、同時にトサっと軽い音を立ててニボシさんが尻餅をつきました。腰でも抜けたんでしょうか?
こちらからは見えませんでしたが、災厄の象徴であるニボシさんが怯える程の目つきをされてた様で……多分役立たずのゴミを見るかの様な目をされてたのかと。いやそれ以上でしょう。
「な、涙目のニボシ様っ……うふ、ふふふふ」
「キキョウ……」
「アン様、またそんなドン引きしないで下さい」
キキョウさんも順調に変態への道を歩んでますね。
ただ彼女はお姉様がぶち切れても態度が変わらないのが凄い所です。国を任されるだけあってかなりの大物です。
「ぅー、我はホシオトシなのです……なのに……」
「サヨ、後は大丈夫よね」
「はい、何というか、お手数をおかけしました」
「構わないわ」
良かった、私はゴミを見る様な目では見られませんでした。
私まで役立たずの烙印を押されたら死ねます。一ヶ月くらいは落ち込んで仕事になりません。
「じゃあ私は戻るわ」
「ぁ、おぃ……っ」
「あ゛?」
「ぴっ!?……あぅ……む、胸、さわるです?」
ガタッ!?
「あんたは座ってなさい」
ストン……
真っ先に反応したのはキキョウさんでした。
アン様に完全に手綱を握られてる気がします。興奮して立ち上がり諫められてションボリして座る様はどう見ても犬です。耳も垂れてますし。
私とお姉様はと言えば、ニボシさんのいきなりな発言に思考停止してました。
「……胸?」
「うー、うーっ!わ、我を、そんなに怒るなです……」
「ぶっ……は、ふっはははははっ!に、ニボシってば私に嫌われたくないって訳ね、だから、む、胸触らせてご機嫌取ろうって……あっははははははっ!」
「わ、我を笑うなですっ!」
「くひ、ふっふふ……わ、悪かったわ、別にニボシに対してムカついてた訳じゃないのよ」
ああ、そういう事ですか。
前にお姉様がニボシさんの胸を触りまくってたからおっぱいスキーと思ってるのでしょうね。実際そうみたいですけど。
で、触らせてあげるから許して欲しいと……どこのエロ本ですか。
「アン様、ニボシ様かーわーいーいーと思いませんか?」
「はいはい、あんたのニボシ至上主義は分かったから」
「いえ、一番はぶっちぎりでフィーリア様ですけど」
「どっちにしろ童女よ」
「ふふふ、お二方の可愛らしい御姿のお陰でクソな貴族共のせいで荒んでた心が洗われます」
「片方は恐怖の権化だったけどね」
先ほどまでの張り詰めた空気が見事に霧散しましたね。
私達がお姉様を中心に成り立っている事が良く分かります。
言い方を変えると依存しまくってるという事ですが、お姉様が居なくなったらどうなるのやら。
「ありがとうニボシ、貴女のお陰で少し頭が冷えたわ」
「存分に感謝しろですっ」
「ええ、さて、イライラが収まった所で私は戻るわ」
イライラが収まっても報復はするんでしょうが。それも私とマリアさんが居ない間に酷い方向にパワーアップしてそうです。
冷静になった所で滅ぼしてくれるわ……と不穏な発言をしながら私が使った転移で帰っていかれました。
滅ぼすのはあの貴族達の町だけにして下さい。
「危なかったです……嫌われるとこだったのです」
そう言って安堵する災厄の象徴さん。
何かニボシさん重度のお姉様信者になってますよね?
ペド神様に仕える巫女に仕立て上げたからでしょうか?
胸倉掴まれて脅されたのに怒るでもなく愛想を尽かされるのをビビるってどういう事なんでしょう。目つきが恐ろしかろうがあれでただの幼女の身体能力しかないんですけど。
「あの娘の周りってチョロいのばっかね。強さは異常な奴ばっかだけど」
「ぼっち属性の子はチョロくていいと仰ってました」
「……そう、私もチョロすぎたかも」
何を今更。
★★★★★★★★★★
「しまった、折角なんだしおっぱい触ればよかった」
「戻って早々何を言っとるのじゃ」
何か物凄く損した気分。どうせ次からはまた嫌がるだろうし惜しい事をした。
あの腐れ貴族共のせいで思考が止まってたからだな、やはり許さん。
「ニボシさんに胸を触っていいと言われたのに結局触らずに帰ってきてしまったと」
「貴女気持ち悪いわね」
「ですから、まるで見てきたかの様に推測出きる私の頭脳が気持ち悪いと言って頂かないと周りに誤解を与えます」
「ユキ姉、どっちにしろ気持ち悪い」
さてさて、あれこれ考えるのは止めてここはもう直球でいこう。
まだるっこしいのは今の私には我慢ならん。ムカついたら殺れ、だ。が――
「私は優しいから一度はチャンスを与えてやろうか。馬鹿貴族に謝罪しろって内容の手紙を書きましょう」
「する訳ありません。どうせ証拠があるのか、とか言ってきますよ。暗殺者達は全て始末してしまったのでまた襲われない限り証拠は出せませんが?」
「証拠なんて要らないでしょ。私達は知ってる、向こうも知ってる。しらを切ればそのまま殺せばいい」
「それですとただの貴族殺しとして国からも狙われかねませんが?」
「人生で一度くらい国を滅ぼす経験も有りかな」
滅ぼす発言によりユキもマジな雰囲気になった。
私が本気だとわかった様だ。
「なるほど、では証拠も無しに貴族を滅ぼし更に国を相手にする事によって各国が敵になる、またはギルドに討伐依頼が出されると思われますが、それに関しては?ご実家の皆さんも肩身の狭い生活になるでしょうし」
「一番厄介なサード帝国が敵にならないんだし別に問題ないわ。実家の方はアルカディアに避難して貰いましょう。そもそも黙ってれば私のアリスに被害が行くかもしんないんでしょ?ならやるしかないじゃない」
「セティ様とダナン様も居ますが」
うむ、その他二名もついでに守ってやろう。
仮に国と事を構える場合だが、大国とはいえ結界はショボい。フォース王国ですら転移で中に入れるのだ。魔物を排除するだけの結界なんぞ私達には何の役にも立たない。
「非常識集団である私達なら妖精を使わずとも、ましてや奇跡ぱわーにも頼らずともフィフス王国程度なら余裕で滅ぼせるわ。まあ二つある内の片割れだけど」
「本国は北にある方ですね、ここは元は小国が大きくなった国で、それをフィフス王国が戦で占領した国です」
「場合によってそっちも相手にする事になるじゃろうな」
とりあえず一旦中断しよう、国と事を構えるのは仮定の話だし今は確実に敵となる何とか伯爵を攻める方法を考えるべきじゃないかと。
そう言えば町の領主の分際で飛竜を飼っているみたいだ。まあ数は少ないけど。
「竜騎士程度で調子に乗ってるからこっちもドラゴンを使おうかな」
「……手懐けにいくの?」
「ええ、知能あるドラゴンなら調教とか余裕でしょ。サヨもドラゴンを欲しがってたし終わったらアルカディアの隣にある山にでも放てばいいじゃない」
「ちなみに数はいかほど?」
「100頭くらい?」
多すぎですよ、とユキが難色を示す。ただし手がない訳ではないそうだ。
ドラゴンはそんなに多くの群れで行動はしないが、この前の黒竜の様に上位のドラゴンが召集した場合はそれなりの集団となって行動する。
大体が国を襲ったりする場合だそうだが。この前は私の存在がヤバすぎたのであの数が集まったのだと推測されるそうだ。
こんな愛らしい幼女の存在がヤバいとは解せぬ。
「という事は上位のドラゴンさえ従えればいいって事ね」
「そうですね。銀竜とか白竜とかで十分でしょう」
「そう、ただ住んでる場所が分かんないからそこは奇跡ぱわーで行くしかないかな」
期限はあの町から民が居なくなるまで。
その間にドラゴンを調教して手懐ける。その後クソ貴族宛に謝罪を要求する手紙を……そうだな、お偉いさんが居るようだしそっち宛に出すか。
お偉いさんの問いに言い訳する様を鑑賞させて貰う。
で、言い訳して私達を私兵を殺害した冒険者として処罰する事になった所で攻め込み、館にいる奴等を皆殺しにしよう。
そうと決まれば早速ドラゴンを調教しに行くとしようか。




