幼女と旅立ち前
冒険家として再出発した私達一行は、まずは五丁目に戻って何処に行こうか決める事にした。
ぶっちゃけどこでも良い気がする。西に向かってずっと一直線に進んでみるとか。王都は一国民として一度は見ておきたい。
「スライムがいますね」
「永遠の雑魚キャラがついに出たのね」
ちなみに帰りは起きてる事にした。今後起きて冒険するための予行練習みたいなものだ。草原ばかりで飽きるけど……
「なに?この水溜まりがスライム?」
「そうです」
「気付かないわよこんなの…雨の日とか奇襲されまくりじゃない」
雑魚と思ってたら雨の日は強者になりかねない水溜まり…
「まあ…所詮スライムです。飛び掛かってくるだけです」
「飛び掛かってくるとか嫌ね」
「折角なので見てみましょう」
水溜まりがどんな攻撃するかは確かに気になる。ユキはスライムに近づき、飛び掛かってくるのを待つ
…モゾ……モゾ……ぐっぐ……ぴょいん!べしゃ……
……モゾモゾ動いたと思ったら小さく丸まり飛んできた。ユキが普通に避けて道に落ち、また水溜まりが広まった。
「…遅すぎる」
「スライムですし。雨の日でも普通に歩いてれば攻撃される前に通り過ぎます。当たった所で服が濡れて汚れるだけです」
ただの嫌がらせ生物じゃないか
「不人気そうですが、スライム愛好家も結構居ますね」
「こんなの可愛いと思う物好きがいるのね…マイちゃんのが数百倍は可愛いわ」
パタパタ
「スライムに白い絵の具を混ぜて、寝ている女性に飛び掛からせたあと興奮しながら濡れた女性を見るそうです」
「それはただの変態よ」
下ネタじゃないか。やめてホント。ついでに顔を赤くしてこっちを見るのもやめて。絶対想像してるよこのアホ!
★★★★★★★★★★
本日2度目のギルドに来た。すでに夜なんだが、ギルドは年中無休で常に開いてるらしい。
中に入れば依頼が終わったのだろう冒険者たちが昼間と違ってかなり居た。
「あれ?また来たんですか?」
「……誰かと思えばノーマルじゃない、普通の制服から普通の私服になってたから気づかなかったわ」
「はいはい、今日は上がりなんですよ」
「そう…丁度いいわ。あなたに聞きたい事があったのよ」
運よくノーマルの仕事帰りに会えた。入れ違いだったら無駄骨だ。
「聞きたい事あるなら受付で聞けばいいじゃないですかー…」
「嫌よ、あなたが良いもの。ていうか、あなた以外の受付嬢って話しても面白くなさそうだし」
「うぇっ!?な、なんですか急に…」
「今のは中々の殺し文句です。良かったですね、ノエルさん…ご主人様に気に入られて」
赤くなったノーマル…ふむふむ、口説きスキルを上げればどこかで役立つかも知れない。同性に通用する様だし…
「からかう対象として好かれても…」
「ちがうよー?おねえちゃんのことほんとにすきだよー?」
「幼児化しないで下さい。嫌な記憶を思い出しますし、少しキュンとする自分に腹立ちます」
これも同性に使えそう…っと
「幼児のフリすれば大抵の女性も油断してくれそうね」
「どこで使う気ですか、やめて下さい」
「そんな事より、何処かお店に行って軽い物でも食べながら話しましょう」
「…はぁ、わかりました」
とりあえず喫茶店でいいか。何か口にすればノーマルの機嫌も良くなるだろう。
☆☆☆☆☆
喫茶店に向かう途中で雑貨屋に立ち寄る。何故かと言えばユキが買いたい物があると言い出したからだ。
『欲しい物は買っても良いとお許しが出たので』
とはユキの弁。確かに許可したけどね。許可出てすぐ買うとかよっぽど欲しい物だったのかも…もっと早く欲しい物は好きに買えと言えば良かったかな?
店の前でノーマルと待ち、ほどなくしてユキが出てくる。
「なに買ったの?」
「こちらです」
と言って見せてきたのは画用紙が数十枚と絵の具セット一式。
「山に行った時に風景画をプレゼントすると約束致しましたので」
「…なんだ、結局私の為じゃない」
私は数日前の事だと言うのにすっかり忘れてたが、ユキはあんな些細な言葉まで覚えてたのか…
たまには自分の物を買えばいいのに……言ったって聞きやしないだろうから、私がその内何か贈り物でもしてあげよう。
「いーですねー…いーですねっ!、尽くしてくれるメイドさんっ!ずるいですっ!」
「喧しいわね、自分も雇えばいいじゃない」
「そんなお給金払えるほど稼いでないですよぉ…それにユキ様ほど主に心から仕える人なんてそうそう居ませんし」
だろうね。ノーマルは記憶の彼方に追いやってるのだろうが、ユキは私がそういう風に生み出した娘だし。
堂々と言っちゃったし、嘘だとでも思ったか…あるいはからかわれてると思ったか…
とか言い合ってる内に喫茶店に着いた。評判が良い店という訳ではないが、一番近かったからこの店が選ばれた。
「それで?聞きたい事って何です?」
「忙しないわね…まずはノーマルの好きな人を語り合うとかガールズトークするべきでしょ」
「嫌です、早く帰りたいです」
ドリンクとサンドイッチを注文してすぐの事、早くも本題に入りたがるノーマル。横道に逸れて本題を忘れても困るので言う通りにしとこう。
「私達冒険家として再出発する訳なんだけど」
「知ってますよ、ツーリストになるんですよね」
「違うわ。観光目的じゃなくて、もちろん観光もするけど…秘境を探検したり、朽ち果てた遺跡で宝探しする命知らずになるの」
「なんでまた急に…」
「面白そうだから」
私の原動力は好奇心だ。面白そうなら動く
「そんな秘境までどうやって行くんです?まさか歩いて行ったり…」
「その辺りは馬車でも調達すれば良いでしょ?」
「…高いんですよ?馬車…」
「そんな大きいの要らないし、馬も一頭で十分」
むしろ力のある魔物を調教した方が…ダメか。町に入れなくなる
「ついでに新しい人材欲しいわ」
「いりません。必要ありません。邪魔になります。余計な出費が増えます」
ユキの拒絶反応が酷い。だがこの頃頭がおかしくなりつつ有るユキとの二人旅は何か危険を感じる…マイちゃんもいるけど
「御者がいるし、馬車はお尻が痛くなると評判だから、椅子代わりになる人材は欲しいわ。ユキと同様お給金は0で私に心酔するような」
「ペド様はとんでもない事言ってるのわかってます?そんな事承知する人居ませんよ……」
探せばいるだろう…一生かかっても返せない様な恩を与えれば或いは…
「今日私が足になると言いました。なのでこれまでの様に移動は私が抱っこすればいいのです」
「あぁ…あれ無し。今はまだしも、この先暑い季節になっても抱っことか暑苦しくて嫌。馬車が通れない場所なら仕方ないけど」
「……せめて椅子代わりは私が」
「抱っこ係と椅子係は別の方が気分転換になるわ」
「……」
死んだ。自ら椅子になりたいとかとんだ変態だ。言い出したのは私だが…
「馬車はどうするか…商人の馬車が盗賊に襲われて全滅した所で私達が盗賊を討伐…。持ち主の居なくなった馬車を私達が…」
「とんだ外道ですね。実行したら貴女を新たな盗賊として討伐依頼を出してやりたいです」
「冗談よ」
しかし、上手いことそんな場面に遭遇したら分からないが…
「そもそも盗賊なんてこの辺りに居ませんよ」
「居ないの?」
「職に困れば冒険者になって稼げますし。わざわざお尋ね者になる方は居ませんね。治安の悪いサード帝国内なら居ると思いますが…」
「他所には居る…か。その国に行ったら山道で出くわすかもね」
「山に何て潜みませんよ普通…ペド様は絵本か何かに影響受けすぎじゃないですか?」
……確かに盗賊の類いは山にアジトでも作ってるとか思ってた…
「山は魔物の巣窟でも有りますからね、わざわざそんな危険な場所で待ち伏せするのは馬鹿くらいです」
「じゃあ何処に潜んでる訳?」
「地下ですよ、地下」
地下?地中か…潜伏する為に穴掘るのか?わざわざご苦労な事だ。
「盗賊は基本夜に町に出て、人目につかない様に悪さをするみたいですね。まぁ、強盗や泥棒みたいなもんでしょう」
「はぁ…現実的で嫌ねぇ人間は。移動中にいきなり森から現れて『今日は運が良いぜ…嬢ちゃん達、後でたっぷり可愛がってやるぜウェッヘッヘ』みたいな展開ちょっと期待してたわ」
「うわー…すごい雑魚っぽい……」
でしょうね。物語の序盤辺りに出そうな小物臭い盗賊を言ってみたし。
「ところで、明日にでも出発するつもりなんだけど、オススメの国を教えてちょーだい」
「急ですね…サード帝国以外なら何処も比較的安全と思います。宝探しするならセブンス自由都市がオススメですかね」
なるほど、聞いといてよかった。セブンス自由都市とやらは行くべきだ。しかし、距離がどれくらいかさっぱり分からない。
「遠いの?その自由都市とやらは」
「馬車でも数ヶ月はかかるかもしれませんねぇ…」
「寄り道すると考えたら一年はかかるかな…遠いわねー……」
「そりゃ世界は広大ですからね…海のずっと先には未知の土地があるんじゃないかって言われてます」
「誰か行けばいいのに」
「海から数十km進んだら急に巨大な生物に襲われるので無理らしいです。何匹巨大生物がいるか分からないくらい居るらしいですよ」
「そりゃ無理か」
そもそも海の先の地までどれほどかかるかも分からないし。土地も存在しないかもしれない…
「そうそう、途中のファイス王国内には飛竜がいるみたいなのでご注意を」
「それは必見ね。デカいトカゲ見たって竜って感じしないもの」
あの地竜じゃなあ……
「必見て……危ないって言ってるのに」
「いざとなったらユキが魔法で撃ち落とすわよ」
「ご主人様、魔法で撃ち落とすのは難しいかと」
なんと…魔法耐性でもあるのか……
「空を飛び回られては当てるのが難しいのです」
「ユキなら出来そうだけど…」
「私は命中力があまり無いようなので、陸だろうとすばしっこい魔物に魔法を使うのはリスクが有ります」
「うそぉ……」
だから結界とか光を出すとか対象が無い魔法ばっか使ってたのか…
「的が動かなければいけるかと。まぁ、空中だろうと鞭なら当てれますので大丈夫ですよ」
まぁ…ユキ専用に作った鞭なら攻撃魔法要らずか…回復魔法と補助魔法だけでも十分重宝するだろう。でも奇跡ぱわーに才能と技術力も願っておけばよかったかも……あっ
「マイちゃんの高速体当たりがあるじゃない」
「なるほど、確かにマイさんなら…」
「マイさん?誰です?」
「この子」
パタパタ
マイちゃんを私の手に移動させてノーマルに見せる。
「…飾りと思ってました…こんな大きい蝶いるんですね」
「すでにホントに飾りと化すくらい存在感がないわ」
パタパタッ!
怒った。でもホントの事だし…
その後はモブオとモブジロウのどっちが好きなんだとノーマルに責めより、結局どっちも興味ないというつまらない話をした。
あの二人の本名は知らないままだが、別にいいか…興味ないし
☆☆☆☆☆☆
「さて、じゃあ帰りましょう」
「聞きたい事ってあれだけですか?」
「えぇ、しばらく会えないだろうから話をする為の口実よ」
好き勝手に進むのにオススメの国を聞いたって仕方ない。だがセブンス自由都市には行こう。
「…たった2日何ですけどねぇ…ペド様に会ったのは」
「そうね」「そのキャラは忘れられないです。冒険家でしたっけ?頑張って下さい」
「あなたもね、里帰りしたらまた会いに来るわ」
喫茶店を出て、その場で別れる事にした。明日には五丁目とおさらばすると思うと少し感慨深い。
「じゃあね、普通の人生を送る人」
「どうせ無難な道を選んでますよ…はぁ……行ってらっしゃいませペド様」
「…いい旅立ちになりそう。感謝するわ、ノエル」
「どういたしまして、それでは………ん?今……」
ノーマルが立ち止まって考え込んだが、すでに私達は夜の人混みの中。
まずは馬車か人材か…明日からの事を思案する。なんか案外あっさり見つかる予感がする…何となく。でも今日は寝よう…何だかんだ言って濃い1日だった。
寝ても後はユキが何とかしてくれる、という事でお休みなさい……




