幼女と戦争の影
妖精をけしかけて3日。サヨに頼んで監視してもらっているがまだ特に動きはないとのこと。
場所を知ってる訳ないので転移で妖精達を例の町に送ってから決して姿を見せずに行動する様にと言っておいた。
後はその町に隠れて住んでる妖精達と連携して何かしらやってくれるだろう。別に妖精や精霊の仕業とバレてもいいが、姿を見せない様に言ったのは見つかると殺されるか捕まる可能性があるからだ。
妖精達に問題はないが、待ってるこちらに一つ問題がある。待ってる間とんでもなく暇だと言う事だ。
「リーダー暇なんだけどー」
「マリアも私を見習って執筆すれば?」
「あたし読み専。てかまた書いてるの?キキョウが泣くわー」
「そうね、泣いて喜ぶ姿が目に浮かぶわ」
「うへ、嫌味が通用しないや。リーダー乗っけてるマオっちならどんなの書いてるか見えるでしょ?中身どんな感じ?」
「わたしには何も見えません」
「重症だわ」
今見るより後から一気に読んだ方が楽しみって事ですね、わかります。
恋愛で書いていた筈だが尻の頭を持つ怪人とか出してしまった。まぁいいや。
「しかしまぁ暇なのは確かですね。村の散策など2日で終わってしまいましたし」
「他の町に移動してもいいのでは?」
「うーん、ここくらい人が少ない場所の方が受け入れ先としてはいい気がするんだけど」
「受け入れ先とは?」
「何となく、あの町から住民が逃げて来るかなって」
勘だけどね、と付け加える。
受け入れ先とはいえ建物は無いので逃げてきた住民全てを受け入れるのは無理だとは思う。それでも最大100人くらいはこの村に移住出来るだろう。
「その逃げてきた住民の為に残っていると?」
「別に民に恨みは無いし。滞在中に捨てれるだけ金を捨てて、更に私がここにいれば妖精達が土地を豊かにしてくれるでしょうよ」
「なるほど、他の町はともかくこの村の経済力では新たな住民を養うにはギリギリでしょうからね。生産力さえ上がれば確かに100人は移住出来るでしょう」
「民の為か、一国の主になったからか主殿も立派になったもんじゃのう」
とばっちり食らわせるだけだしそんな立派なもんじゃないけど。
★★★★★★★★★★
最近イライラして毛が抜け落ちるんじゃないかと危惧してるのが何を隠そうこのキキョウです。はい。
「世の中アホな人間が多いと思いませんか?」
「いきなりどうしたのよ」
「見て下さいなこの書簡の量、そして中身」
好意的に解釈すれば我が国と友好を築きたい、と読めますがどいつもこいつもウチに従え、嫁に迎えてやるから感謝しろという上から目線な貴族の多いこと。
いくら出来たばかりの小国相手とはいえこの対応はどうなのでしょうか。
馬鹿じゃないでしょうか、妖精を不快に思わせなきゃ大丈夫とでも思ってるのでしょうか?
どうも私は妖精のオマケの様に扱われてますね……中にはまともな方も居るのが救いですが。かと言って簡単に友好を結ぶつもりはありませんけど。縁談?全て却下です。
「小国というだけで格下と決め付け舐めすぎだと思います」
「そりゃまあ相手が人間だし?」
「妖精の庇護を受けた浅ましい弱者達、と影で言われてるようで」
「まぁ人数も少ないし獣人のが多いから」
全く発展していない国なのでそう言われても仕方ないとは思います。
冒険者として活動してるあの娘達も低ランクの依頼ばかり受けてるせいか雑魚扱いされてるのも一つの要因でしょう。
アルカディアの存在が世に知れて、国内の事情が分かってきた所でこの評価。
仮にフィーリア様達が王として対応していたならまた違ったでしょうが……具体的には化け物揃いの国として畏怖されていた事でしょう。
「我が国を馬鹿にされるという事はフィーリア様を馬鹿にされている事と同義、認識を改めて貰わねば私としましても不愉快です」
「じゃあどうすんの?」
「フィフス王国の様にドラゴンを飼いならすとか。サヨ様が乗り気でしたし」
「すでに水竜がいるけどね」
「水竜は逆に狙われるのでこのまま秘匿しておきたいです」
となると他のドラゴンが対象になりますが、どうせなら黒竜クラスのドラゴンを数頭山に飼いたいですね。
「サヨ様達に頼んで銀竜でも捕まえてきてもらいますか」
「普通なら何とち狂った事を言ってんだって話ね」
「ええ、フィーリア様達でなければ無謀な挑戦です」
現存するドラゴンの中では上位に位置する銀竜ならペットとして上出来でしょう。
あんなもんを敵にしたら一頭だけで大国だろうと大きな被害を出す可能性大ですし。
「あ、あのー」
「あら、一つ目様ではないですか。何か開墾でトラブルでも?」
「ト、トラブルと言えばトラブルなんですけどっ」
「……どうしたの?」
ここに一つ目様が来るのも珍しいのですが、わざわざ報告に来るトラブルというのも珍しいというか。むしろ初めてですけど。
「ニ、ニボシ様が、ですね?」
「……ああ、あの娘ならトラブル起こしても何か納得」
「それで、ニボシ様が?」
「ニボシ様が…………来訪された使者を殺害なさいました」
おぉ……
いや驚きませんが。この国に仇名す者は殺せとフィーリア様にお願いされてましたし。
様は使者が何かやったので殺したのでしょう。自業自得ですよ、ざまぁねーです。
「殺したのはあちらに非があったのでしょう。それよりも何処の使者なのでしょう?」
「ペロ帝国、とか言ってたと思います」
「……何故あそこがウチに」
小国に使者を送ってる場合じゃないでしょうに。もはや周りは敵だらけ、途中で使者が他国の者に襲われるとは考えなかったのでしょうか?
よくまぁ無事にここまで来れたといいますか。
「三人で来られたのですが、案内中にニボシ様を見た一人が突然襲いかかれまして……」
「もしや、ニボシ様がホシオトシだと気付かれた……?」
「いえ、何か、ロリ巨乳ペロペロ、と言いながらいきなり」
「ただの犯罪者じゃない。死んでよし」
「殺したのは一人だけですか?」
「はいっ、残った二人は使者を襲うとはとか後でどうとか喚きながら帰っていきました」
「まるでこっちが悪者ね」
何か、戦を仕掛ける言い分を作られた感が凄いんですけど。
しかし今のペロ帝国は賊と認定されているので大義名分がなくとも攻めてきそうなもんですが。
何故わざわざ使者など寄越したのでしょうか。何か怪しいですね、元々ウチを狙ってきた気がします。
「何か、よく分からないのでフィーリア様に相談致しましょう」
「それがいいわ」
★★★★★★★★★★
人が住めなくなると勘で言っていたが、それがとんでもない事になると知ったのが10日目の事だ。
「お姉様、グリーンの町の農作物が腐り始めました」
「腐る……妖精の怒りってそうなるのか」
「……農作物だけではなく土地もです」
「土地?」
聞けば農作物に関しては畑にあるものは当然として、すでに収穫済みであった備蓄さえも腐り始めているとの事。
だがそっちはどうでもいい。問題は土地にさえも影響が出ているという事だ。
「そうです。土地、木々、花、雑草に至るまでグリーンの町では死に絶えようとしています」
「それは、妖精達がやっているのよね?」
「はい。自然から生まれる妖精が自然を殺す、同族殺しとも言えます」
その報告に思わず額に手を付いてしまう。
やっちまったな、まさか私の復讐の為に妖精が自然を破壊するとは予想外だった。
農作物に影響が出るとは思っていた。それによる食料不足で住民が町を移住すると考えていたが、まさか文字通り住めない町になるとは……
「別にあの町がどうなろうといいんだけど、妖精達に悪いことしたわね。前に鬼共や人間が妖精と敵対しても土地を腐らせるなんてしなかったから思いもよらなかった」
「妖精達にとってお母さんの存在は世界と同義なのでしょう。だからこそお母さんの為なら自分達にとっての命でもある自然を死に追いやる事が出来るのだと私は思います」
「……重すぎんでしょ」
何か疲れてきたので安物のベッドに寝転んだ。
このまま放っておけばあの町から妖精が生まれる事は二度とないだろう。
たかが町一つの自然が失われるだけと言ったらそれまでだが、うーむ。
「そもそも、妖精を怒らせた場合って普通はどうなるの?」
「少し怒らせたら妖精と精霊が居なくなるだけです。当然作物の育ちは悪くなりますが、そこは山から定期的に土を持ってきたりすれば問題はありません。危険な上に面倒が増えますがね」
「酷い場合は疫病が流行ったり精霊魔法で殺されたりしますが」
むしろアホ貴族を殺す方向でやっても良かったのに。
「やっちまったものは仕方ないからこのまま様子見ましょう」
「立ち直り早いですね」
『フィーリア様、フィーリア様ー?』
「姉さん、現場のキキョウから音声が繋がってます」
「まだやってんのかい。聞こえてるわよー」
『実はご相談したい事がありまして――』
「あれよ、やっちまったものは仕方ない」
「ついさっき聞いた言葉ですね」
『ニボシ様を襲う不届き者が死んだのはいいのです。ただ何のためにウチに来たのか不明でして』
「自分で言ったじゃない。戦を仕掛けてくるって」
『いえ、それは予想してるのですが……』
ベッドから起き上がり再びマオの太腿に座ってキキョウの報告を聞いた。
キキョウはペロ帝国についてそこまで詳しくないから思いつかないのだと思うが、一つ目ちゃんに聞いた所国内を色々と案内していたらしい。
それこそ使われていない施設や、奴隷兵達が寝泊りしている施設まで――
ハッキリ言ってペロ帝国の事を割と知ってる私達からすればこれはいけない。
「ニボシが使者を全て殺さなかったのは愚かな判断ね」
「全くです。狙うべき施設がバレてしまってるではないですか」
『確かに、そうですが……私として戦になったら野戦で対応するつもりですけど』
普通の相手ならそれでいい。対魔物用に頑丈に作られた中継都市から奪ってきた防壁だ。それをサヨが補強してドラゴンだろうが突破出来ない用に仕上げてある。
防壁の扉を閉めて篭城して上から応戦すればそれだけでほぼ壊滅出来るだろう。
「キキョウ、奴等は転移出来る魔道具をもっているの。どれだけの人数を運べるかは知らないけど、国内に転移して一気に貴女達を狙ってくるつもりでしょうよ」
「少数しか転移出来ない場合は人数が集まるまで空き施設に息を潜める事も出来ますね」
『……そうでしたか、狙いは最初から神殿、及び主要施設の位置を確認する事』
「ニボシなら転移を含め魔法を弾く結界を張れると思うから私がお願いしてたと伝えて。後で……そうね、サヨとマリアを寄越すわ。こっちはこっちで何か厄介な事になってるからそっちは任せる」
『そのお二方が参られるならば余裕ですね。分かりました、必ずや防衛致しますのでご安心を』
『ふしゃーっ!』
通話符が切れて静かになる。
何か最後にニボシが襲ってきたような声が聞こえたがブチっと切れた。奴め、声だけなのに私の気配を察知しやがった。今頃通話符を持ってたキキョウに飛び掛っている事だろう。
しかし他国にやられて勝手に消えると思っていたが、ボテ腹の野郎。
それにしてもキキョウもまだまだ若いわー、まぁ領地経営や戦方面の教育は受けてなさそうだし今後の成長に期待ってところだ。
「妖精にご執心だった様だし、それが攻めてくる原因かも」
「てかリーダー、何で私まで行かなきゃなんないのよ」
「何となく」
「また勘?ニボシんが居れば大丈夫でしょうに」
「そう言えば、以前ボテバラートを遠めに見かけましたが……名前とは裏腹に筋肉の塊の男でかなりの実力者でしたよ。どう見ても人間の限界を超えてましたね」
ふむ、という事は裏に何者かが居るのかもしれない。
シリアナがボテバラートを強化した可能性もあるが、尻ババアの方に強化は見られなかったので別の奴の仕業だと思う。
フォース王国を攻める際にシリアナが参戦するまで防壁で梃子摺ってたし、強化されたのならその後だろう。シリアナも確かボテ腹の事を豚とか言ってたしその時はただのデブだった筈。
「ひょっとしたら、天使が絡んでるかも」
「それはどうして?」
「いやね、私が天使になった頃からこの大陸に渡っては現地の人間を扇動して戦を起こさせる馬鹿天使が後を絶たなかったの」
「ほー、確かに昔は戦争が頻発してたようね」
「よくまぁ蹂躙されずに今まで存続してましたね」
「それはあれよ、天使の中でも別格の強さを持った奴が生まれてこの大陸で暴れる馬鹿共を始末して回ってたの。そりゃもう私の空間能力なんか比べ物にならない能力で付いた仇名が天使殺し」
天使の中にもそんな事をする奴がいたのか。
そこまで強いとかどんな奴だったのやら。先代な気もしなくはないが、暴れてる天使を殺すとかやりそうに無い様な?
「どんな方ですか?」
「それがさっぱり思い出せないのよねー。まぁ数百年は昔の話だし、私は引きこもって静観してたから。でもそんなチート野郎がいた事は覚えてる」
「マリアさんにここまで言わせるとは……創造主とどちらが強いのでしょうか」
「数百年前なら案外先代の事かもしれないわよ」
「あの外道が世のため人のためにそんな事する訳ないのじゃ」
やはり評判が悪いだけに先代とは思われていない。
すでに死んだ奴の事だし誰だろうが構わないけど。
「しかしここ数百年の間は人間同士での大きな戦争は無かった筈ですが」
「それね、例の天使が居なくなると同時にあっちの大陸の外側全体に妙な結界が張られてどんなに強い天使でも大陸の外には出られなくなったの。私も空間内に引き篭もりながらこっちに渡ろうとしたけどダメだったわ」
「しかし今はこちらに居ますよね?」
「10年くらい前かな?久しぶりに外を見ようと思って見たらやたら緑溢れる景色に変わっててびっくりしたわ。何時の間にか結界が消失してたみたい。いやー、向こうの化け物共と違って本で読んでた魔物やら冒険者がいるファンタジーな世界で興奮したっけ」
「で、思わずナキリを召喚したと」
ごめんなさい、とマリアは美しい土下座を披露してくれた。
いやもう終わった事だから怒っちゃいないんだけど。
結界がないって事は今後どんどん天使とやらが来る訳だ。私が生きてる間に消えるとは何て使えない結界なのだ。とは言うもののそのお陰でマリアという便利な奴が仲間になった訳だが。
ライチはともかく、これまでの戦は天使絡みだったのかもしれないな。
「では、私とマリアさんはアルカディアで防戦するとしましょうか」
「んー、まあ天使が本当に居るのなら同じ天使であるあたしの仕事ねっ!ぶっ殺してやるわっ!」
「ニボシも居るし、余裕でしょうけど頑張ってね」
「任せてください。ペロ帝国くらいならウチの戦力だけで返り討ちです」
「サヨっち、それ負けフラグだよ」
「ニボシさんとマリアさん、三英傑の内の二人が居るのですからきっと大丈夫ですっ」
「マオさん……私も居ます……」
本当に大丈夫かコイツらで……
結界を張って奇襲さえされなければ大丈夫だとは思うけど。
信じるとしようか。ニボシとマリアで戦力ではお釣りがくるだろ。
「では行って参ります」
「あちらも転移を使用するならすぐにでも戦いになるでしょう。魔法を弾く結界を張るのはお早めに」
「分かってますよ」
「いい?あたし達が帰ってくるまであんまり旅路を進めちゃダメだかんねっ」
「はいはい、行ってらっしゃい」
二人は転移してアルカディアへと帰っていった。
進めるなと言われてもこっちの報復もそんなに早くは終わるまい。町にダメージを与えるだけでは奴に対する報復にはならない。
「今度はこっちの件の話よ。最終的にはガルフとか言う馬鹿を殺すつもりだけど……奴をそのまま生かして疫病神扱いするのも良し」
「行く所全ての土地をダメにすると?」
「それは大精霊としては遠慮してもらいたいのじゃ」
「まぁそうよね。一番惨たらしい殺し方って何だろう?」
「そうですね、災いを呼ぶ男として親や民に殺させるのが一番かと」
ユキの案も悪くは無い。私としては連帯責任として一族郎党全て殺すつもりだったが。
あれだ、いっその事妖精を怒らせた馬鹿として王族に密告してやろうか。もちろん匿名希望で。
「妖精次第ですが、ひょっとしたら報復がその町だけに収まらない可能性もあります」
「流石にそれは止めるから安心なさい」
「ワシらの事を調べた割に阿呆な貴族じゃの。ちょっと考えれば危険だと分かるだろうに」
「死ぬ覚悟で復讐してきたのかもしんないわよー」
「それでも実家に迷惑をかけるなど愚の骨頂です」
サヨが居なくなったので偵察はメルフィに頼んだ。正確には精霊にだが。
土地がダメになってきてはいるがまだ町の住民やターゲットに大きな動きはない。
予想外の結果になりつつあるが、折角なので今回の件は各国に妖精の脅威を見せ付けるのも目的として追加した。
恐らくあの町を調べにそれなりの地位にいるお偉いさんが来る。そしてガルフが私達を襲う様に指示した事も分かるだろう。
妖精を擁護するウチに手を出した奴はああなるぞ、という脅しだな。
何かキキョウも苦労してそうだったからこれでウチに対して馬鹿な対応してくる国や貴族も減って楽になると思う。
ついでにキキョウ達が戦で完勝すれば武力方面でも見せ付けられるし。逆に媚びへつらう輩が増えるかもしれないが。
うむ、我が国ながら恐ろしい……同じ様な国が敵だと仮想すると勝てる要素がねぇ。
収穫済みの備蓄も腐るなら他国から買った食糧もダメになるだろう、そんなん戦の前に全滅するわ。拠点を移動しても同じ現象に陥るなら飢え死に待ったなしだ。
妖精ってこわい。




