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幼女、狙われる

 一泊してから再びフィフス王国に向けて旅立った。


 昨日は調子に乗ってケーキの他にバケツプリンを人数分作ってみたが当然ほとんどの者がケーキだけでプリンは食べきれず、余りはもれなくニボシの胃の中に入った。

 あれだけ食べても腹が出る様子は無かったので奴の胃はどこか別の場所に繋がっているのだろう。

 ちなみにニボシ以外で食べきれた勇者はメルフィだけである。


 余所の冒険者パーティと違って道中魔物と戦闘する事はほとんどないウチなのだが、魔物と遭遇しない訳ではない。向かってきた魔物が結界に当たって吹っ飛ばされるのだ。

 道を塞いでいる魔物に関してはユキがサクっと殺してぺけぴーが残骸を蹴飛ばして処理している。


「それでいいのか冒険者」

「どうしました?」

「折角魔物を殺したんなら回収して売ればいいじゃない」

「売れるのは一部の魔物だけですが?」


 今しがた活躍もなく殺された魔物は毛の抜けきったネズミが巨大化した様な魔物。

 毛皮もない上に肉は食べられないという事で売れない魔物の一つだそうだ。


「依頼に出ない魔物ほど困った存在はないわね」

「まあウチは遭遇しても問題ありませんが、普通のパーティならそうでしょうね」

「数が増えすぎたら依頼出るらしいけどねー」


 山に居る魔物は大体素材や肉として売れるそうだがその分ランクが上がる。

 問題はこういう道に出る魔物だ。虫の魔物とか見た目からして売れないと分かる。

 売れるとしたらたまに出る魔王という名のニワトリぐらいだ。


 魔物を倒したら魔石を落とすぐらいのサービスは欲しい。


「お、止めてちょーだい」

「どうしたのじゃ?」


 この晴れた日だってのに不自然にある水溜り。

 あれはきっとスライムだろう。結局倒した事はないので一度くらい倒してみたい。


「スライムがいるわ。この私が奇跡ぱわーに頼らず倒してみる」

「それだと姉さんには荷が重い」

「どんだけリーダー弱いのよ」


 馬鹿言え、スライムのとろさはすでに知っている。

 いくら私とてスライム如きに遅れは取らないわ。


 馬車から降りて自らの足で地に立つ。

 そう、降りたら本気出すペドちゃんは今まさに本気でスライムに立ち向かっているのだ。

 装備は奇跡すてっきにリディアから貰ったお守り、完璧だ。


 すぐには飛び掛って来ないのは分かっているので本当にスライムなのかをまず確かめる。

 よく見ると少し青みがかっている水溜りは少しずつ動いているのが確認された。

 スライムと断定した所で奇跡すてっきを叩きつける。


「む」


 パシャンという感触は普通の水溜りに突っ込んだ時と同じに感じるが水飛沫が飛び散る事はなかった。

 再びすてっきで叩くがダメージを食らった様子はない。

 何度か叩いていると飛び掛ってきそうになったので横にずれて避ける。

 ビョンと飛んでバシャっと落ちる。いつしか見たスライムと一緒の動きだ。


 うむ、物理が通用しない以上私には倒せない相手だな。

 これ以上やっても無駄そうなので馬車に帰った。


「あれは私の手には負えない相手だった」

「だから言った」

「主殿が勝てないとはスライムも侮れんの、やはり水属性こそ最強なのじゃ。ワシ凄い」


 物理が通用しない相手とは厄介なものよ……空を飛ぶ相手と同じくらい厄介だ。

 ルリが何かドヤ顔してるのは無視だ。


「ちなみに物理しか出来ない冒険者はこれで倒す事もあります」

「塩ですね」

「ナメクジと一緒かい。でも食材は無駄に出来ないわね」

「はい。結論としては街中に現れない限りやはり無視して進むのがベストです」


 スライムを放置して進んでいると冒険者と思われるパーティがさっきみた毛のないネズミの魔物の群れと交戦してるのが見えてきた。

 4人パーティらしいが動きがすばしっこいネズミに少し苦戦している模様。


「ネズミ如きにだらしない冒険者達ね」

「スライム相手に手に負えないって言ってた人のセリフとは思えないね」

「ラージヌードラットは動きだけは早いですからね」

「そんな名前だったのね」


 あ、冒険者の一人が足を噛まれた。

 毒とか持ってないそうなので痛いだけで済むだろう。


「邪魔するのも悪いから迂回して進みましょう」

「あの、わたしにはこっちに助けを求めてる様に見えるのですが」

「マオっちはこう言ってるけど?」

「金にならない事に助けがくるほど世の中甘くないって事を私は奴等に知って欲しい」

「素直に見捨てると言えば良いのじゃ」


 どうせ殺される様な相手でもないし放っておいて良し。

 あと数時間で中継都市に着くらしいのでそこで休憩と換金と買い物してからまたフィフス王国に向かうとしよう。

 こちらに向かって必死に駆け寄ってくる冒険者達が追いつけないのを確認してから窓から視線を外した。



★★★★★★★★★★



「姉さん、事件です」

「メルフィが語尾にですとか付けるのは珍しい、確かに事件ね」

「それは関係ない」


 必要な物を買い漁り、ギルドに出向いて一部の素材を換金し、特に目ぼしい依頼が無いのを見てからもう中継都市に用は無いと発ってから早9日。

 目が覚めたので起きてリビングに向かい、朝の紅茶を楽しんでいるとメルフィがやってきて早々こんなことを言ってきた。

 一緒にいたマオやルリはメルフィの言葉にきょとんとしている。


 どうやらあと数日もすればフィフス王国に到着するらしいのだが、到着前に何か事件が起きたらしい。

 メルフィから全く緊張感が伝わってこないからしょーもない事件だとは思うが。


 リビングにあるテーブルに向かい合い、背筋を伸ばし綺麗な姿勢で座ったメルフィは紙を一枚取り出すと読み上げ始めた。


「今朝未明、アルカディア国からフィフス王国へ向かっているフィーリアさんと家族が乗る馬車が何者かに襲われるという事件が発生しました。現場に駆けつけたユキ姉らによると、襲ってきた男性15人には明確な殺意が見られ、手には毒が付着した凶器など発見された事から殺人未遂事件だと断定されました」

「えらい客観的な報告ね」

「マリアに事件が発生した時の正しい報告の仕方として教えられた」


 またアイツか。奴の事だからこれも異世界から仕入れた知識なのだろう。


 メルフィは再び一枚の紙を取り出す。よく見る符と一緒だが何の符か分からないので聞いてみると通話符だそうだ。


「現場にいるサヨ姉と音声が繋がっているので呼んでみましょう。サヨ姉ー?」

「……」

「……」

「……」

「……どうやら音声トラブルがあったようです」

「そういうのいいから」


 やたらふざけた報告だが内容は笑えたものじゃない。

 笑えないのだがキャラを変えて読み上げてる声がやたら耳に心地よい澄んだ声だった方が驚きである。普段のメルフィは根暗っぽく低めで話すから気付かなかった。

 容姿が良い上に美声まで兼ね備えているとか化け物か我が親戚は。


「殺人未遂って暗殺者でもきた?」

「恐らく。心当たりは?」

「学園の初等部時代から考えると特定は難しいわね」

「心当たり多すぎ」


 でも何年も経ってるんだし時効だろ。

 暗殺者に依頼したのはきっと冒険者になってから恨みを買った人物だと思う。

 ぬぅ、この私もついに命を狙われるほど偉くなってしまったか……


「待てよ、私を狙った訳じゃないかもしれない」

「誘拐ならばそうかもしれぬが、暗殺ならばほぼ主殿じゃとワシは思うのじゃ」


 ぬぅ、何か納得してしまう。

 生意気な大精霊を奇跡すてっきで叩きながら更に考える。雇った人数的に金持ってる奴だと思う。

 それに自分の手を汚さず依頼するとしたらまぁ貴族だろう。


「とりあえずユキ達が情報持ってくるでしょうし待ってましょう」

「それがいい」


 ぴぎゃあぴぎゃあ泣いた所でルリは許してやるとしよう。

 そんなじゃから暗殺されそうになるのじゃとか言ってきたから蹴っといた。






「メルフィさんに聞いたと思いますが、私達を狙った不届き者達から情報を得てきました」

「ご苦労様。その不届き者達とやらは?」

「用済みなので始末しました」


 殺しに来た奴なのだから当然殺す。

 男に容赦ない連中だから生かしておくとは思ってなかったけど。


 暗殺者共が簡単に情報を吐くとは思わなかったユキ達は尋問をすっ飛ばして洗脳して聞きだしたらしい。

 話が早くていいとは思うが、またマリアがセオリーがどうのこうのと文句を言ってたそうだ。


「依頼人はフィフス王国の貴族です。グリーンという街の領主をしているグリューネル伯爵の息子、ガルフ・グリューネルという男が差し向けたそうです」

「全く知らん」

「ジェーン・コースティという貴族の従兄だそうで」

「どちらも聞き覚えないのぉ」

「ジェーンという方は賊に身を落としたという事で殺され、ギルドに首が届けられた方だそうです」


 物凄く知ってた。

 あの考えなしの馬鹿の身内が犯人か。


「ギルド経由でジェーンとやらを殺した私達の事を調べた様です。そしてこの前寄った中継都市で私達の現在地がバレて雇ったアイツ等を向かわせたと」

「まるで私達が悪者みたいだけど、悪くないわよね?」

「当然でしょう。依頼を受けて賊討伐したのです」


 一度でも賊認定される行為をしたからギルドで依頼が出た訳なので当然私達に非は無い。

 それをたかが身内だからと復讐しに来るとは……


「と言いたい所だけど、まぁ私も犯罪者とはいえユキが殺されたりしたら復讐するでしょうね」

「犯罪者ですか……同性で、しかも身内相手の強姦はセーフかと」

「アウトだ馬鹿野郎」

「というか貴女は犯罪者扱いを否定しなさい」


 こんな事を言ってるが私に嫌われたくないって事で実際に行動は起こさない娘だけど。


 それよりも暗殺者を差し向けた馬鹿の事だ。気持ちは分かるとはいえ許すとは言ってない。

 命を狙ってきたんだし最上級の嫌がらせをしてやろう……


「……とりあえずフィフス王国に入って適当な町に入りましょう」

「制裁しないのですか?」

「するわ、ちょうどいいからやってみたかった事を試してみましょう。でもしばらくは放置、また暗殺者が襲ってきても返り討ちにしといて」


 やりたくてもやれなかったというか、どんな影響が出るのか分からなかった事がある。

 誰も彼もが恐れてる様だしきっとえげつない効果がある筈だ。



☆☆☆☆☆☆



 無事フィフス王国の許可証を発行してもらい入国した。

 私達が犯罪者扱いされているかもしれないという懸念はあったが、そこまで手は回ってなかった。


 飛竜に乗るドラゴンライダーが有名なだけあってたまに空を飛竜が通過していく。下から見ると敵なのか竜騎士なのか分かりゃしないな。


 ここに来るまでに暗殺者の襲撃は3回あった。撃退される度に数が増えていくが、問題なく返り討ちに出来ている。まぁ今更人間の暗殺者が来た所でこの娘らが遅れを取る訳がない。

 町中に入ってしまえば流石に目立つ事は出来なくなるとは思うが、復讐に燃える馬鹿な貴族なので何をしでかすかは分からないな。

 なんせジェーンとやらは考えなしに賊になったし。


 入国してからおよそ1日、キキョウに頼んだ本の続刊を執筆していると御者をしていたユキから声がかかった。

 どうやら村が見えてきたので立ち寄るか、それとももっと大きな町へ行くかの判断を尋ねたいとのこと。


「村か、いいわ。しばらくそこに留まりましょう」

「留まるのですか?」

「たまには田舎でのんびりしたいわ」


 自分達の国だって大概田舎だけど。

 名前は知らんけど男爵が治めている600人ほどが暮らす小さな村らしい。小さいだけあってギルドは無い、しかし冒険者が利用する宿屋や飲食店などは数件あるようだ。


 フィフス王国はワンス王国並に犯罪に厳しいという訳ではないが、罰として奴隷落ちする者がいるそうだ。食い逃げ程度なら数日牢で過ごすだけで済むようだが。






「宿屋を手配してきました。馬車は少し離れた位置に空き地があるそうなのでそちらに置く様にとの事です」

「ありがと。宿に泊まるのも久しぶりねぇ」

「大部屋なので全員同じ部屋で寝れますよ」

「馬車を改造してから一人寝ばかりでしたからね。ただまぁあんまり騒がしくならない様にしましょう」


 何日お世話になるかは分からないのでとりあえず一週間の宿泊を予約したようだ。

 部屋に入ったが流石に田舎の宿なので簡素なベッドとテーブルがある程度の内装だ。ベッドに座ってみると板に固めのマットを敷いただけっぽい。


「贅沢な馬車暮らしの後だと何とも言えないねー」

「この安っぽさが良いのよ」

「一息つきませんか?カップを用意しますのでルリさんは紅茶をお願いします」

「うむ」

「サヨさんは何してるんですかぁ?」

「念のため暗殺者が来ても大丈夫な様に結界を張ってます」


 壁にペタペタと符を貼っていたのは結界用だと。

 ペタン子が符をペタペタ貼る、とか考えていたらサヨが急に振り返ってこちらを見てきた。

 ちっ、胸に関しては勘のいい奴め。


「一息ついた所で聞きますが、お母さんがやろうとしてる制裁とは何でしょう?」

「制裁……あぁ、そうね。敵の領地の場所は分かっているのよね?」

「もちろんです」

「なら……」


 窓に近づいて鍵を外して開け放つ。この部屋は2階なのだが、田舎なので高い建物が少なく見晴らしが良い。

 周りを見回し、こちらに視線が向かってないのを確認してから声を出す。


「妖精っている?」


 姿は見えないので居ない可能性もあったがちゃんと居たらしく、呼んだら姿を消して隠れていたのであろう妖精達が姿を現した。


『なーにー?』

『すごい、せかいにあいされてるこだー』

「こんにちわ、とりあえず人に見られない様に中に入ってちょーだい」


 この辺の妖精とは初対面な訳だが、何の問題もなく接触出来た。

 その場に現れた妖精達が部屋に入った所で窓を閉めてテーブルに向かう。硬い椅子なので当然マオの太腿に座る。


「妖精……お姉様がやろうとしてる制裁が何となく分かりました。えげつないですね」

「私はどうなるか知らないから試してみたいもの」

「わたしはお姉ちゃんが何をするのかわかんないのですが」

「すぐには結果は出ないと思うわ。まぁ楽しみにしときなさい」


 どこの国もご機嫌取りに必死な妖精達。

 恩恵は分かる……ウチの国でも土の状態が素晴らしいと一つ目ちゃんが言っていたし。

 私が知りたいのは逆の事だ。


「ねぇ妖精たち」

『なぁにー?』

「あのね、私達の命を狙ってくる奴がいるの。わかる?殺そうとしてくるの、殺されたら私はこの世から居なくなっちゃうの」


 妖精を怒らせてはいけない。

 それがワンス王国に暮らす人間が決して破ってはいけないと言われる掟の一つだ。

 当然学園でも学ぶ、らしいが私はまともに授業を受けてないから知らなかった。


 どれだけ重要かはウチと友好を結ぼうとしてくる輩の多さからも判断出来る。


 そんな妖精達を怒らせてみる。

 ここまで好かれてる私が殺されそうになってると言ったらどうなるか……


『なにそれー!』

『しんじゃうのやだー!』

『ゆるさなーい!』

「……くふ、ふふふふ、良い子達ね」


 こうなるのは想定済みだ。

 精霊は私の味方になる。

 同じ精霊種である妖精も当然そうだろう。


 予想としては土地に被害が出ると思っている。流石に何の恨みも無い町に被害を与えようとは思わない……だから実験などやるつもりは無かったが――


 丁度良い相手が現れた。

 妖精の怒りが招く惨事とやらを精々観察させてもらおう。

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