幼女、プリンを食す
フィーリア様達が旅立ちになられてから早8日。
先ほど無事に賊を全て始末したとの連絡がありました。普通の馬車なら賊が現れた場所まで20日はかかるはずなのですが驚きの早さです。流石はユニクスが引く馬車という事でしょう。
8日の間私とアン様がやった事と言えば鬱陶しい来客の対応とデスクワークのみ、そろそろ腰が痛くなってきました。
今悩んでる事と言えば税金。住民がほぼ奴隷であるので非常に悩み所です。
奴隷のモノは主人のモノ、つまり全てフィーリア様のモノです。どれだけ稼ごうが全てこの神殿に納められるので税率で言えば常に10割です。ちなみに奴隷達の間で子供が生まれようがそれも主人の所有物となり奴隷と見なされたりします。
ただフィーリア様の没後は恐らく奴隷から解放されるので奴隷達の子供の代から身分はただの民となるでしょう。今は一つ目様の様に外部からきた住民から頂く税が1割だろうが余裕で運営出来ますが、奴隷が解放されれば当然収入が減るので税率を上げるはめになります。だったら最初から不動の税率を決めておいた方が反発も少ないでしょう。
ここまで考えましたが一番の問題は安定して得られる収入が不明だと言うことです。
現在資金が余裕なのはフィーリア様達がアホみたいに稼げるからであって民達のみの収入がサッパリ分からないのです。
なんせ開墾すらしてませんしこの国には店もない。将来は他国との取引すらないですし……やはりまだ税を決めるには早いですかね。
「別に税率とか今すぐ決める必要ないんじゃない?というか何も無いんだし無理があるでしょ」
「私もそう思いました……やはりまずは人材と資金集めからですね。とりあえず衣類関係と鍛冶関係の職人は必須です」
「料理人もお願い」
「フィーリア様はお食事好きなので当然です。最初のウチはこちらが雇う形をとって給金を支払いますが、いずれは国民になって貰いたいものです」
「というかあれね、経営とかした事無い上に知識もそんなに無い私達が簡単にどうこう出来る訳ないのよ。のんびりやりましょう」
まあそりゃそーですね。まずは本で学習してからの方が良いでしょうか?
こんな事なら領地経営についても学んでおけば良かったのですが、サヨ様の威光に頼るばかりの里ではろくな事は教えられなかったでしょうね。
「ですー」
「……」
あれこれ考えてたらいつの間にいらしたのか、私が使用している机に両手を乗せて覗き込むように顔だけ出しているニボシ様が……机が高いので首から下が見えません。とても可愛らしいです。巫女服に身を包んだ全身像を拝みたいです。
「あいつは何時帰ってくるのです?」
「……ニボシ様、その質問は一日に一回はしないといけないのですか?」
たまに帰って来いと言ってたくせにニボシ様は毎日フィーリア様の帰還を待ってる様です。どんだけフィーリア様が好きなのでしょうか。
毎日毎日言われると鬱陶しいと思われるでしょうが、この主人の帰りを待つわんこ状態のニボシ様はとても可愛らしいので逆に毎日来て欲しいです。癒されます。
ですがつい頭を撫でようとしたら物凄い殺気と共に威嚇されたのでやってはいけません。でも撫でたいです。
「あ、そう言えば先ほど何やら用事があるのでもうすぐ帰ると通話符で連絡がありました」
「…………ふーんです」
「お顔がニヤけてます」
そっぽを向いて興味無いフリを装うニボシ様ですが口元がもうバレバレのニヤけ顔です。こんな愛らしい方を引き入れてくれたフィーリア様に感謝ですね。中身は凶悪ですが……
っと、噂をすれば何とやら、部屋の中に転移でお帰りになられたフィーリア様達が現れました。
「ふしゃーっ!」
「ただい……ぬぅ!かかってこんかいっ!」
姿を見るや否やニボシ様がフィーリア様に飛び掛りました。
何故かフィーリア様もニボシ様に飛び掛り揉み合いながら床をゴロゴロと……戯れる美幼女たち……おふ。
「ここは天国ですか?」
「キキョウ……」
おぉっと、アン様に微妙な顔をされてしまいました。引かないで下さい。
「こほん、お帰りなさいませ皆様方」
「はい、ただいまです。急遽戻りましたのでついでに依頼料の半分を渡しておきます」
「ユキ様、旅先で得た依頼料はご自分達でお使い下さいと申しましたのに」
「どうせ使わないのでキキョウさん達で活用して下さい。人材も不足でしょうし」
「……わかりました。有り難く活用させて頂きます」
人材不足なのは本当なので助かります。サヨ様から預かった転移符でフィフス王国の奴隷商館で補充しに行くとしましょう。開墾が先なので男手でいいでしょう。
……あそこで売られていた私が逆に買いに行くというのも不思議な話ですが。
「ところで何故急にお帰りに?」
「そのうち優秀な商人一家がこちらに越してくると思うので報告に」
「それはそれは……是非とも政務に携わって欲しいですね。しかし通話符で済むお話じゃないですか?」
「……キキョウさんには苦労をおかけします」
何故か哀れむ声で言われました。
なにそれこわい。
一体これから私は何をされるのです?
「とりあえず立ちましょうニボシ、貴女の乳は十分堪能したわ。ふかふかで宜しい」
「するなですっ」
「あんたが抱き着いてきたんでしょうに」
じゃれ合いに満足したのかフィーリア様がこちらに歩いてこられます。私もフィーリア様とじゃれ合いたいとか思ってねーですよ?
目の前まで来られると背中のリュックを降ろされ中から一冊のノートを出しこちらに差し出してきました。むぅ、何か嫌な予感がします。
「キキョウ、これを本にしてこの国で販売してちょーだい。目標は100冊よ」
「……マオ様が後ろでしくしく泣いておられますが」
「嬉し泣きね」
嘘くせーです。
見たくはないですが一応中身を読んで見ます。
…………
「これを、100冊、ですか」
「そんな短時間じゃプロローグしか読んでないでしょ。何で皆全部読もうとしないの?たかが数行じゃこの物語の魅力は語れないわ」
「後から、拝見させて頂きます……」
「まあいいわ。別に国内だけじゃなくて他国の来訪者に販売してもいいわよ、増刷も可」
これを、他国にですと?
そんな事をしたらアルカディアじゃなくてシリカディアとか陰で言われてしまいます!何としてもそれは阻止しなければ……
「帰ってこられた用事とやらはこれでしょうか?」
「うん」
「……oh」
フィーリア様のお姿を久しぶりに見れたのは素直に喜ばしい、ですがコレは……
売らなきゃダメなんでしょうか?
今はそれどころじゃないと言い訳して先延ばしにしときましょう。ええ、それがいいです。
「おいお前、用が済んだらすぐまた出るつもりです?」
「ええ、いや……そうね」
「何で我の胸を触るですっ!」
「プリンが食べたい」
「我の質問と全く関係ない答えなのですっ!」
「ぷふー、寂しがりの為に今日はここで過ごして明日出発しましょうか」
やっぱりバレバレですよねぇ、ニボシ様の態度は。
ホシオトシともあろう方が8日会わなかっただけでここまでデレるとは……フィーリア様の魅力恐るべし。
しかし私としても有り難いですね。税についてなど色々と相談させて頂きましょう。
……あと、このノートの扱いについても。
★★★★★★★★★★
「税?」
「そうです」
「いるの?」
「……いるんじゃないでしょうか?」
要るっけ?
税とか貰わなくても余裕だし、むしろ賃金を払う立場なのではなかろうか。
田舎の大家族みたいにそれぞれ自給自足で暮らせばいいのに。欲しいものはご近所さんから物々交換で。
「何だっけ……国を守ってやるからお前らは税を払えとかそんな感じだっけ」
「それだけではなく民達がよりよい生活を出来る様にするのも仕事ですが、まあ大体そんな感じかと」
「魔物が味方なこの国で何から守るのやら。誰も知らない孤島に行けば侵略も無いし」
「……確かに。しかし万が一があるので多少の兵は必要ですけど」
「まあ兵と使用人を養うお金は仕方ないとして、もう各自神殿に寄付するという形にすれば?感謝してるなら金なり作物なり好きなだけくれればいいやーって、真面目で慕われてる奴が後釜に座れば問題ないでしょう」
「ほう、面白いかもしれませんね。家が神殿なのでおあつらえ向きです」
「どのくらい民に慕われているか見える形で表されますね」
え?マジでやるの?
いややってもいいんだけど……どうせ私達の場合は自分達の稼ぎだけで余裕で生活出来るだろうし。
うん、そうだな、それがいい。ウチはウチで有り得ないやり方でやろう。
「ではそういう事で」
「いやぁ、私が修行してた国のある神社を思い出しますねぇ。神主がお賽銭だけで生活してましたよ」
「すでに似たような事をしてる奴がいたのね」
「ええ、もちろん貰うばかりでなくお守り用の御札を作ったり悪霊を退治したりしてましたが」
「まぁ何せもせず施しを受けれるわけないわね」
「施しとは違いますが……ただまぁ財産がたんまり残った場合は次代がぐーたらになりそうなので一代毎に数年生活できる分だけ残して余りは民に分け与える様にしましょう」
初代の私がすでにぐーたらなのはいいのだろうか……それとも案外ぐーたらではないのか。
いや今後素敵な本で儲ける予定だからぐーたらじゃないな、間違いない。
逆にこの国に貢献していると言っても過言ではない。流石私、才能ってこわい。
「話は終わり?なら……ニボシでも愛でるか」
何故か四つん這いで横に控えていたのでとりあえず頭をわしゃわしゃしてみる。
撫でるなですとか言いながら払いのけると思ったが意外なことにされるがままだ。
「何で知らない間にそんなにニボシさんが懐いてるんですか?」
「私に聞かないで」
「四つん這いになればお母さんに撫でられると聞いて」
「言ってないから大人しくプリン作ってなさい」
わざわざ厨房からやってきてすぐに帰っていった。何がしたかったんだあの娘は……
視線を戻すとじーっとこちらを見るニボシが。そんなに見つめるなよ。
しかし懐いたなぁ……どこまでやったら反抗するのだろうか……
頬を撫でても抵抗は無し。
耳を触っても抵抗は無し。
立ち上がらせて胸を触ると――
「だから我の胸を触るなですっ!」
「何でおっぱいはダメなのよっ!」
「当たり前なのですっ!」
「えー、女同士ならいいじゃん」
「我は元々性別はないって言ったですっ」
言ってたっけ……あれだろうか、身体は女だけど心は男寄りとかそんな状態なんだろうか。いや胸を触られて恥ずかしいのは女だけじゃないか、たぶん。
「ウチの変態共は喜んで触らしてくれるのに」
「なんじゃ?お主等ワシの知らぬ所でそんな事しとるのか?」
「いや言われた事ありませんけど……え、触りたいのですか?」
「断る」
「ほらこの通り。ニボシさんは贅沢です」
「何がですっ!?」
もはやニボシがホシオトシだった事を皆忘れてる気がする。
ニボシを中心にワイワイやってる皆を横目にキキョウが纏めていた報告書を読む。
パラパラと読んでいるとあるものを見つけた。
「……フォース王国ねぇ」
人体実験は犯罪者のみを披検体としていた。名目上は新薬開発の為の実験。
すでに各国に知られている通りの情報しか書いてない。
でかい口を叩いた割にペロ帝国は証拠も無しに乗っ取りの為に攻め込んだアホと見なされている様だ。
研究所は私達が潰しちゃったからなー……証拠になりそうな書類ぐらい残しといてやるべきだったか。
生きた証拠であるニーナや被害者であるヨーコは五丁目に居るが、わざわざ生存をバラしに行く必要は無いので黙っている方がいい。
「証拠を全て消滅させたのなら、今頃はホットケーキ共も消されてるでしょうね」
来なくていいのに堂々とあの場所に現れたし。
あのまま何も知らずに珍しいホットケーキの魔物として森に潜んでいれば放置されていただろうに運の無い奴等だ。
失敗作であろうオーガもどき共々森ごと消されてるかもしれないなぁ……
「これは、ああ……奴隷兵達に逐一報告して貰っている件ですね」
「キキョウとしてはどうよ、本当に証拠が一つも無くなったと思う?」
「脅威であるサード帝国が今や全世界の敵ですからね、しかもより厄介な強さを持つライチ様達が敵です。各国も怪しいとは思ってるでしょうがフォース王国側が証拠はないと言っている以上目を瞑っているだけかと」
「フォース王国抜きでライチ達を相手にするのは厳しいと。もしくはフォース王国まで敵に回したくないか……」
「他の要因としてナイン皇国が率先して無実を認めたそうです。それに追従して各国も無罪と認定。もしかしたらナイン皇国は人体実験に関して繋がってた可能性もありますね」
「共犯者だからか、にしてもあのろくでもない国の発言力強すぎ」
「勇者を派遣して魔物や悪魔を討つ国です。大多数の人間には正義の国に見えてる事でしょう……人間が学ぶ教科書を見れば分かります。あそこの崇拝っぷりはもはや洗脳の域に達してますよ」
「そんな国が認めたら弱小な各国は黙るしかないと」
他国の学園ですらナイン皇国は正義なんて学ばされるのだから本国ではどういう教育されているのやら。
その内人間以外は排除だーとか言い出しそう。
「マオの故郷は場所を特定されているのによく未だに無事ね」
「簡単に根絶やしにすれば他国からの支援がないですから」
「そういう事、意地汚さのお陰で無事だっての」
「その他にも亜人なり魔女なり敵は多いのです。悪魔だけを対応出来ないというのもあるでしょう」
「知り合いの種族ばっか。ウチの天敵ね」
こわいこわい。場所がかなり離れている事が救いだ。
流石にこんな小国に大挙して押しかけてくる事はないだろう。とか言ってると来そうだけど。
「ナイン皇国にはお行きになられるので?」
「マオが居るから行かない」
「それが良いでしょうね」
マオが居なかろうが好んで行きたいとは思わないけど。
一般人に聞いたら不自然なくらい悪い話を聞かない様な国だ。気色悪すぎて関わりたくない。
「時にフィーリア様」
「んぁ?」
「どうすればフィーリア様の様にニボシ様の頭を撫でられるのでしょう?」
「撫でたいの?」
「フィーリア様の帰りを待ちわびるニボシ様の表情は至高です。思わず撫でようとしたら威嚇されまして……」
ユキが持ってきたプリンを食べているとそんな事を聞かれた。
件のホシオトシ様は初めて食べるプリンに瞳を輝かせながらですです言っている。撫でたくなる気持ちも分からんでもない。
しかし威嚇するとは獣属性が抜け切れてない奴だ。
「キキョウまで変態になって欲しくないんだけど」
「私は純粋に撫でたいだけです。妹を可愛がる感じです」
うーむ……ニボシは格下相手だと言い方は可愛らしいがツンツンだからな。それでも長い事一緒にいればいずれデレそうではあるが。
ただあの調子ではデレたところでおっぱい触ると怒り狂いそうだけど。
「私以外がおっぱい触ると多分殺されるわよ?」
「誰も胸を触りたいとは申しておりません」
「まあ仲良くなれば撫でるくらい出来るでしょうよ」
「そうですか……餌付けしますかね」
ああ、あれを見れば餌付けくらい簡単だと思うわな。
夢中になりすぎて早く食べ終えてしまったのか、皆が食べているプリンを獲物を狙う目で見ている。
もはや完全に子供だ。
「ですー」
「……ぅ」
ウチのメンバーからは貰えないと察知したのか同席していたミニマムメイドの一人に目を付けた様だ。
顔を見る限り殺してでも奪い取りかねない。
奴隷の子供相手に何やってんだ災厄の象徴は。
「ニボシ、ちょっと来なさ」
「きたですっ」
「うおっ、早っ!」
見かねて呼んだらキキョウの太腿に座っている私の前にすぐさま四つん這いの姿で現れた。
四つん這いになる事だったり意地汚い所を注意しようかと思ったが、何かを期待しているかの如きキラキラした目で見られると注意してやろうと思った怒気が段々萎えてくる。
「確かにこれは凶悪な可愛さだわ」
「共感頂きまして感謝です」
「でも甘やかしてはダメね、持ってる力が強大なだけに我侭娘になられたら困るわ。ウチに居る間はニボシ程の実力者だろうが特別扱いせず生活させる様に」
「それは問題ありません、まあニボシ様は弱者に対して暴力を振るう方には見えませんが」
キキョウには先ほどのニボシの殺意が見えなかったらしい。これはちとマズイ。
我侭娘のまま生活してプリンを貰えずついカッとなって殺したとか死んだ奴が可哀想すぎる。これが他国の来訪者だったりしたら面倒くさくなりそうだし。
「という事でニボシには自分が特別な訳ではないと認識してもらうわ。他人のものを強引に強請るなど浅ましい真似はしない様に」
「……プリン貰えないのですか?」
「用意されたのは一人につき一つ、貴女はもう食べたでしょうが」
「……ですー」
「でもプリンじゃなくてケーキならいいわ」
「甘やかしてますよっ!?」
「はっ!……ニボシ、恐ろしい娘っ!」
危ない危ない……涙目で見上げるロリ巨乳巫女に惑わされる所だった。
また魅了される訳にはいかないので同じロリ巫女であるサヨでも眺めよう。
こちらの様子に興味があったのかプリンをちびちび食べているサヨとバッチリ目が合った。
……
ふっ、萎えた
「もの凄く不愉快な気分になったのですが」
「私はサヨのお陰でとても冷静になれたわ」
「私の扱いの改善を要求します」
「私はサヨのこと好きよ」
「私もです」
ではそういう事で。
しかしどうしたものやら、私達は明日からまた旅に出る訳だしニボシの教育とか出来ない。
ここはキキョウに任せるべきだが、聞く耳持たないだろうなぁ。
そうだ、お願いなら聞くんだからお願いしとけばいいんじゃないか?
「ニボシにお願いがあるの」
「何です?」
「私達が居ない間はキキョウの言う事を聞いて欲しい、あと理由は何であれここに住んでる住民を殺さない様に」
「……お断りなのです。何で我がその塵芥に命令されなきゃいけないのですか」
「後でプリンあげるから」
「仕方ないから聞いてやるです」
そうか……ニボシって残念な娘だったんだ。
プリン一つでお願いを聞いてくれるとは安い災厄だこと。こちらとしては助かるけど。
「まあ後の事はキキョウに任せるわ。無理は言わないけどせめてプリン一つで命を奪う残念な娘にしないでね」
「そうですね、出来れば世の中の一般常識を覚えて頂ける様に最善は尽くします」
宜しい。何かたまたま帰ってきただけなのにニボシの教育論になってたな。
だが危なかった。ニボシの子供っぷりで勘違いしてたが、あれは災厄の象徴。些細な事でカッとなったら何とも思わず殺してしまう凶悪な存在だった。
今まで無害だったのが奇跡とも言える。皆がホシオトシと知っていたから不敬を働かなかったのだと思うが、知らない奴が舐めた態度を取ろうものなら確実にあの世行きだったろう。
「そうだユキ、ニボシにまたプリンを作ってやってちょーだい」
「それは構いませんが、折角なのでイチャつきながら一緒に作りませんか?」
「そうね……イチャつきはしないけど、たまには親として娘の為に働いてあげる。でもケーキも作るように」
「ふふ、ありがとうございます」
ユキに連れられ部屋を後にする。
出る直前に中をちらっと見るとキキョウがニボシの頭を撫でようとして拒否られていた。
自分のプリンを餌に釣ろうとしたみたいだがあえなく撃沈したようだ。
キキョウがニボシの頭を撫でられる日はまだまだ遠そうだなぁ。




